九百七十一話 大魔獣を使役したテイマーと戦い
大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を周囲で旋回させながら、魔槍杖バルドークを右手に召喚――柄を肩に乗せつつ、
「――すまんがレザライサ、面白い。いや、そうではなくて、移動の時は俺が安心するから、相棒の触手に捕まっていてくれ。だから相棒よ。移動時や緊急時は、今のようにレザライサのことを頼むぞ」
黒豹は頭部を上げ、
「にゃごぉぉ」
と鳴いてドヤ顔を繰り出す。
その顔をレザライサに向けて、ピンクの舌でペロペロとレザライサの顔を舐めていた。
「守る気持ちは、わ、分かったから、な、舐めるなぁ」
レザライサはそう言うが、頬が朱色だ。
嬉しいんだろうな。
「相棒、離してやれ。お前が必要な相手がこちらを見ている」
耳をピクピクッと動かした黒猫は、
「ンン、にゃ」
と鳴いて、触手が絡むレザライサを俺の横に運び触手を解く。
「ふぅ……」
「大丈夫か?」
レザライサは俺をキッと睨む。
総長としての目付きで怖い。
が、すぐに『仕方ない』といった笑顔を見せてから視線を中央に向け、
「あぁ、それより、オーガ系か熊系か、センシバルか……不明な大魔獣を使役している黒ローブを着た魔剣師テイマーが寄ってきたぞ……」
「ゴリラと熊が融合したような大魔獣……二足歩行か。頭部に半透明な巻き角が生えているから魔界セブドラからの召喚獣かな」
「【テーバロンテの償い】か【闇の教団ハデス】ならば【血銀昆虫の街】の連中か」
レザライサはそう言うと、己の戦闘装束を少し変化させた。同時に右手に魔剣ルギヌンフを召喚し、拡げた左の掌を柄巻に当て、剣先を斜め下に伸ばした構えを見せる。
防御を兼ねた構えかな。捻るような袈裟斬りを浴びせて、その刃に相手を巻きこんで一気に相手の体を刈り取る姿が直ぐに思い浮かんだ。
「ンン」
黒豹の喉声で直ぐに現実を見る。俺とレザライサの前に立つ黒豹は大きな黒猫になった。直後、ローブを着た魔剣師テイマーが、前進を強め、
「ジュバヴェア、あの槍使いと黒猫に血長耳の盟主は標的の一つ。潰すぞ」
「ガルァァ、ババギドス、喰イタイ……」
「あぁ? ……ババギドスの霊体は先ほど喰ったばかりだろうが」
「ガルァァ――」
ジュバヴェアという名のゴリラと熊が融合したような大魔獣が、ローブを着た魔剣師テイマーに殴り掛かった。
ローブを着た魔剣師は魔剣を上げる。
ジュバヴェアの爪の攻撃を防ぐ。
魔剣師が上げた魔剣は、魔力のエネルギーが螺旋状に連なったムラサメブレード・改と似たエネルギー系の武器だった。
「反抗?」
「好都合、相棒とレザライサ、俺があいつと戦おう。背後を頼む」
「ンン――」
「神獣は不満そうだが? まぁ了解した」
相棒はジュバヴェアの肉質が美味そうに見えたんだろうな。
相棒には悪いが――。
<水神の呼び声>を発動――水神アクレシス様の気配を感じながら前傾姿勢で前進。
ジュバヴェアも前進。
四肢を持つ大魔獣のジュバヴェアは筋骨隆隆で、雄偉そのもの。
ローブを着た魔剣師は後退した。
退く動きは自然――。
今殴り掛かったのは、俺とハルホンク的な、ジュバヴェアと魔剣師のいつものパターンだったのか?
ならば<血液加速>の速度を活かしつつ――。
槍圏内に入らず――。
《氷竜列》――。
龍の頭部が前方に現れる。
と、瞬く間に多頭を持つ巨大な氷竜に変化。
その氷竜は螺旋回転しながら直進し、ジュバヴェアに向かった。
ジュバヴェアの半透明な角から氷の粒が大量に発生――。
その大量の氷の粒と《氷竜列》の巨大な氷竜が衝突――大爆発したように凄まじい猛吹雪が吹き荒れた。
一瞬でジュバヴェアの上半身が凍り付く。
凍った頭部と肩の一部が崩壊していた。
「げぇぁ……」
背後の魔剣師は生きている。
魔剣のエネルギーを扇状に展開し、防御層を目の前に作って《氷竜列》を防いでいたようだ。
が、体の一部は凍り付いている。
すかさず――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と共に前進――。
右手の武器を神槍ガンジスに変更し、ジュバヴェア目掛け跳躍――。
方天画戟と似た穂先を前方に突き出すジャンピング<刺突>――。
その瞬間――<星槍・無天双極>を繰り出した。
<刺突>途中の神槍ガンジスの斜め前方に銀色に輝く十文字槍が出現した。
前と少し異なる位置に十文字槍の召喚は可能――。
十文字槍は螺旋回転しながら直進――。
ゼロコンマ数秒の間に神槍ガンジスの穂先を越えた銀色に輝く十文字槍は――。
十字の閃光を放ってジュバヴェアの残っていた体と、その背後にいた魔剣師の魔力防御層を貫くように破壊し、穿つ。十字架の閃光を発している<星槍・無天双極>は魔剣師の体を突き抜けながら、中央部に向かう。と、中央部にいた黒髪の大魔術師が放った小型魔法陣の結界網と衝突して斜めの方角に跳ね返り、閃光を発して、巨大な魔力の花弁を歪に咲かせて消えてしまった。
<星槍・無天双極>に干渉してきた黒髪の大魔術師は、俺を一瞬睨み付けてきたが、トフカの魔法の杭が背後から飛来するのを察知したのか――。
跳躍して魔法の杭を避けながら、トフカに向け、炎の矢か炎の槍のような魔法を飛ばしていく。
炎の魔力で炎の矢を生成? 両手の動きが弓を放つようなモーションだった。
「見事な結界術を生成した、あの黒髪も凄まじいが、槍使い、お前もお前だ。異名を氷槍の大魔術師に変えたほうがいいのではないか?」
「いまさらだ。槍使いでいい」
「にゃお~」
レザライサと相棒との会話の直後――。
中央から飛来してきた魔矢を皆で処理した。
すると、関係者席から、
「……よくもリグ様を……バルミュグ様の敵めが!」
漆黒のローブを着た集団の一部が叫ぶが、攻撃はしてこなかった。
今は無視だな。すると、レザライサが魔剣ルギヌンフを振るって床を叩く。
その床を叩いた魔剣ルギヌンフの幅広の刃からぐにょっと音がなるような動きで喰い刃の化け物が関係者席に向かった。
金網の上に生成されている透明な膜を喰い破った喰い刃の化け物は、その関係者席の手前の床と衝突。
喰い刃の化け物は一瞬で収縮して、魔剣ルギヌンフに戻っていた。
関係者席の手前の床は大きな鮫に噛まれて抉り取られたような痕が残っていた。
凄いな、魔剣ルギヌンフとレザライサは。関係者席にいたテーバロンテの一味は硬直して動けない。
レザライサは魔剣ルギヌンフを肩に当てながら、その関係者席を睨みつけ、
「――槍使い、あいつらはわたしたちが対処するから気にするな」
「了解」




