九百六十話 ドミエルと激戦に魔界九槍卿に鬼神キサラメの抱擁
2022年7月2日 23:46 修正
2022/07/03 13:32 修正
2022/08/25 17:11 修正
<鎖>は消去せず――。
膨大な魔素を内包した巨大眼球目掛け――龍鱗の粒が見え隠れする白炎の霧を見ながら、
<白炎仙手>を実行――。
白炎の霧の中から白炎の手刀の群れが出現し、巨大眼球へ向かう。
巨大眼球は虹彩を不気味に変化させると、
「『神界のスキルだと!? お前は吸血鬼ではないのか――』」
思念と言葉と、目に見えない――。
衝撃波的な魔力波動の攻撃を飛ばしてきた――。
胸が上下に裂けていたキルアスヒの腰ベルトが千切れ、ベルトの箱からアイテムボックスのような小箱が幾つか散った。
と、視界が揺れ、ぐぇ――。
衝撃波ではない?
『閣下――』
俄に<鎖>で扇状の盾を作る。
しかし、防御は間に合わず――。
――重しのような圧力を全身に受けて吹き飛んでいた。
キルアスヒの片腕を穿って壁に刺さっていた<鎖>も強引に打ち消された。
巨大眼球はキルアスヒの上半身を完全に裂く。
が、視界が揺らぎまくり、その巨大眼球の変化を見ていられない。
「「「「な――」」」」
すべての<白炎仙手>が一瞬で消えた。
周囲の<仙魔・暈繝飛動>の霧魔力も消し飛んだ。
王級の《氷命体鋼》の効果も消える。
<精霊珠想>の防御がある左側の頭部と体に<霊血装・ルシヴァル>は大丈夫だが――。
床に片膝を突けながら横回転――。
体が駒になったが如く床の上でぐるぐると回ったところで――不可解な方向から圧力のような打撃を連続的に受けた。
痛い、背中から床に転がされる――。
が、ちょうど良く王牌十字槍ヴェクサードを刺したところまで転がされたから、その王牌十字槍ヴェクサードを掴んで回収した。
が、
「げぇッ――」
と血を吐いた。
光魔ルシヴァルの再生力を上回る内臓に直に来るダメージとか勘弁だ。
そのダメージとほぼ同時に<導想魔手>を俺の真上に生成し盾にする。
しかし生成したばかりの<導想魔手>は消し飛ぶ。
――衝撃波のような波動攻撃の威力を――。
少しでも減退させようと<鎖>――。
と<超能力精神>を用いた。
が、上手く減退出来ず――。
なんなんだ、あの巨大眼球の攻撃は――。
と怒りを見せるように巨大眼球を凝視――。
その巨大眼球は重い衝撃波の魔力波動を放ち続けながら、後部から、視神経か動脈か毛細血管のような触手の群れを下方へ伸ばし、キルアスヒの残りの内臓類と血管と骨に触れて絡ませ、吸収を行う。更に視神経の群れの一部が巨大眼球の下部に戻って集結するや否や、口と顎のようなモノがドッと一気に形成された。
巨大眼球は巨人の頭部へと変化。
首は血管と筋肉繊維と骨と神経のようなモノで固まると余計に太くなった。
続けて、脊髄に肺とキルアスヒの意味がありそうな印が刻まれている心臓、魔印が刻まれている肋骨と内臓類に動脈などが次々に生成された。
ゼロコンマ数秒も経たずに、キルアスヒの下腹部や骨に足、魔剣なども吸収し続けた巨大眼球だったモノは、巨大な人体へ成長を遂げた。
巨大な魔人はキルアスヒのすべてを喰らい尽くす。
皆も衝撃波的な波動攻撃を受けていた。
「――ご主人様、大丈夫ですか?」
ヴィーネは床に片膝や得物を突け姿勢を屈めている。衝撃波的な波動攻撃に抵抗中か。
そのヴィーネは<血魔力>を体から発している。表情は苦しそうだ。
「閣下ァ、守りは私たちにと言いたいですが、この場を死守するだけで精一杯ですぞ!」
「面目ないですが、この強烈な攻撃は……」
魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスは骨の盾から虹の魔力を放出していて無事。
「ん、シュウヤ、さっきから血を吐いてる!」
「おう、俺は大丈夫。ヴィーネとエヴァは?」
「大丈夫ですが、動きが……」
「わたしは金属の盾と<念導力>で防げているから大丈夫!」
「……」
ルシエンヌは頭部ごと体が床に磔にされていた。
表情は見えない。
ヴィーネとルシエンヌを助けに行こうにも、俺の体を覆うような衝撃波と似た波動攻撃を今も受けていて助けに行けない。
が、そのヴィーネの体をエヴァの紫色の魔力が覆い始めた。
「ん、ヴィーネ、もう大丈夫」
「エヴァ、礼を言う!」
「ん」
エヴァは<念導力>でヴィーネを浮かせる。
と、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスの後方に移動させてあげていた。
エヴァとヴィーネは大丈夫そうだ。
キサラはルシエンヌと己を守るようにダモアヌンの魔槍の柄の孔からフィラメントを前方にそよがせながら前進、フィラメントで衝撃波的な波動攻撃の防御に成功している。
籐牌には変化させていない。
そのキサラが、前方に展開させた宙を舞うフィラメント越しに、
「シュウヤ様への波動攻撃は集中して激しいようですが……」
「――あぁ、が、大丈夫。キサラのダモアヌンの魔槍のフィラメントはナイスな判断だ。ルシエンヌを頼む」
「はい! キルアスヒは魔界の強力な存在と契約を交わしていたようですね!」
「そうだな……」
そこで波動攻撃を寄越し続けている巨人となった存在を見る。
巨大眼球はカエルの卵からオタマジャクシが生まれるように分裂を始めた。
分裂した巨大眼球は複数の眼球に変化。
それらが人の双眸の位置に集積。
見た目は蜘蛛の複眼のような印象。
「キルアスヒはわたしが倒したい……」
「今はゼメタスとアドモスの下に退きましょう」
「くっ、はい……」
キサラはそう発言し、<筆頭従者長>らしく<血魔力>を体から発した。
ルシエンヌの片手を引っ張り魔界沸騎士長ゼメタス&アドモスの背後へ移動し、エヴァとヴィーネと合流。
虹色の魔力を放つ骨の盾を掲げて、衝撃波のような波動攻撃を防ぎ続けている魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスを見たルシエンヌは、
「ゼメタス様とアドモス様は凄い……ここからならば、キルアスヒだった怪物に反撃を」
「ん、ルシエンヌさん、今は大人しくして」
「あ、はい」
俺の背後にいる黒豹は――。
吐いた炎を小さい扇状に展開させつつ複数の触手を出し、骨剣で床を刺して衝撃波のような波動攻撃に抵抗するように体を浮かせている。
皆は大丈夫と判断して巨人を再び凝視――。
体を形成し終わっていた。
その巨人は、俺を見て、
「他は一人を除き、高位魔力層の集団。我の<包囲波動>の<ラシャガンバルの魔次元波動>に抵抗しうるのは分かるが、【天凛の月】の黒髪、名はシュウヤと言ったな……お前は違う。我の<ラシャガンバルの魔次元波動>の<集中波動>を受けてどうして耐えられる……左目の高位魔力層の魔法生命体の能力の効果か? しかし、高祖吸血鬼も体は定命の者とそう変わらないはずだが……む? あぁ、なるほど。ハディマルスが反応した神槍ガンジスに、腰のそれは魔軍夜行ノ槍業……チッ、ぬかったか……」
俺の分析をしていた。最後は変化中のハディマルスの肉塊と革の束を凝視している。
それを囲う積層型魔法陣は<ラシャガンバルの魔次元波動>と巨人が喋っていた波動攻撃を防ぎ続けていた。
その巨人は口から波紋のような魔息を吐くと小型の魔法陣を口の周りに生み出す。
「が、ここで仕留めれば同じこと。あの遺産は我の物だ!! ふははは!」
そう叫ぶと、その魔法陣の力を応用しているのか、更に衝撃波的な波動攻撃を強くしてきた。
複数の重いハンマーのような打撃を喰らう。
纏わり付くような重い衝撃波――。
肩の竜頭装甲では防げない。
――重い振動波?
――魔力波動や念導波でもある?
――<超能力精神>のような攻撃か?
<精霊珠想>の防御がない右半身から激しい痛みを感じた。
すると、巨人の複眼の虹彩に記されている魔印と線のようなモノが消えていく。
消えた魔印と線のあった虹彩は腐り萎む。
その虹彩があった所が空洞となって、その空洞から赤黒い水晶が生まれて外へ排出された。
虹彩の一部があった所はまた空洞となるが、新たな虹彩の視神経が生まれ、眼球自体が縮みながらも元の複眼に戻った。
が、またもや虹彩の魔印と線は直ぐに腐って萎む。
再び空洞から赤黒い水晶を外へ排出。
一部は巨人の周囲を巡る。
極一部が巨人の鎧と体の表面に付着。
同様のことが連続すると、複数の複眼は徐々に小さくなった。
巨人は複眼が小さくなって、魔力も失い続けている。
体も動かさないから、<ラシャガンバルの魔次元波動>はリスクがある大技スキルか?
『この魔力量に強烈な魔の神気は、諸侯!?』
魔軍夜行ノ槍業の妙神槍のソー師匠が思念を寄越す。
『己の魂魄を利用した魔力波動攻撃だろう! しかし、魔界セブドラではなく、このセラで放てるとは驚きだ――』
グルド師匠が吼えるような思念を発する。
『単に、巨人の体といい、巨大眼球の触媒となったキルアスヒの心技体が優秀だからであろう。この<ラシャガンバルの魔次元波動>は強力だが、魔力を失い続け、動けていない』
断罪槍のイルヴェーヌ師匠の思念からは涼しさを感じた。
『そうね、キルアスヒは、己の体に極魔宝石や贄・魂魄王玉などを取り込んで、<黒呪強瞑>や<贄・魂強>などで己を強化していた可能性が大』
雷炎槍のシュリ師匠の思念だ。
『……キルアスヒが叫んだ言葉に厖婦とあった』
『あぁ、キルアスヒとやらは、傷場からセラに渡ってきた高貴な魔族だった? もしくは、悪神デサロビアの眷族と言われる魔界セブドラの諸侯の一人、厖婦闇眼ドミエルと独自の魔契約か本契約を結んでいた故の効果であろう』
『そうだな。神や諸侯の眷族の力を秘かに使い、魔人武王ガンジスの弟子ハディマルスを強引に従わせていた可能性が高い』
塔魂魔槍のセイオクス師匠と悪愚槍のトースン師匠と妙神槍のソー師匠がそんな思念会話をしていた。
『……厖婦……厖婦闇眼ドミエルの名は魔界セブドラで聞いた覚えがある。皆が語ったように、キルアスヒが贄・魂魄王玉などの魔神具を己に使い厖婦闇眼ドミエルと契約を結んでいたのなら、ハディマルスをも手下にできる能力を持っていたことにも頷ける。他にも剣譜などを集めていたことにも関係するかもじゃ、とにかく弟子よ、気を付けるのじゃ!』
飛怪槍のグラド師匠がそう思念を寄越してきた。
『弟子、ハディマルスの肉塊と積層型魔法陣は、<ラシャガンバルの魔次元波動>の攻撃を防ぎ続けているから奪われることはないと思うが、あの厖婦の巨人に吸収されるかもしれない。だから、動けるようになったら逸早く、ハディマルスの肉塊が変化しているモノの回収に向かえ! あの戦利品はお前の物なんだからな!』
獄魔槍のグルド師匠が、俺に発破を掛けるような思念を寄越してくれた。
続けて、飛怪槍のグラド師匠が、
『うむ。あれは我ら八槍卿のいずれかの体かもしれぬ!!』
『分かりました』
八槍卿の師匠たちの発言通り――。
積層型魔法陣の中で変化を続けていたハディマルスの肉塊と革の束だった物は、骨の防具を付けた両腕と上半身に変化を遂げる。
更に五角形の駒のような木片が出現。
表と裏には梵字が刻まれている?
『おぉ……あれは、我の体と装備か!?』
『マジか! あれはトースンの体!?』
『間違いない! 我の上半身と骨装具・鬼神二式だ!』
『『『『おぉぉ』』』』
魔軍夜行ノ槍業が震えるように揺れる。
骨の防具の名は、骨装具・鬼神二式か。
鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼と似ていた。
その骨の防具の骨装具・鬼神二式を装備した上半身の周囲を囲う積層型魔法陣は、複眼の巨人が放ち続けている<ラシャガンバルの魔次元波動>の魔力波動攻撃を受けても、びくともしない。
半透明で頑丈な積層型魔法陣の見た目は一種の石碑? 鋼鉄の柱にも見えた。
――あ、塔魂魔槍譜の鋼柱?
女帝槍譜の秘伝書の紙片が入っていた石碑にも似ている?
『閣下、<ラシャガンバルの魔次元波動>とやらの魔力波動攻撃の質が落ちました。<仙丹法・鯰想>を用いますか?』
<性命双修>を意識しつつ――。
『いや、<精霊珠想>だけでいい、先ほどと同じく状況によって左目からの出入りは任せる』
『はい、出入りはお任せください』
左目に宿る常闇の水精霊ヘルメとの思念会話を終えた直後――。
前転を行いながら宙空へ――。
液体ヘルメの防御層<精霊珠想>の位置に気を付けて――。
<鎖>の盾を消す。
代わりに<血鎖の饗宴>を発動――。
血鎖で、巨大な鮫の口を作る。
魔力の波動攻撃<ラシャガンバルの魔次元波動>を――<血鎖の饗宴>の巨大な鮫で喰らうように防げるか試した。
成功――。
「な!? <ラシャガンバルの魔次元波動>を喰らうだと!? キルアスヒの片腕を穿った鎖とは違うスキルか――」
圧を感じた魔力波動攻撃の<ラシャガンバルの魔次元波動>を<血鎖の饗宴>が防ぎ続けているから自然と体が浮いていた。
否、防ぎ続けているのではなく、巨人が喋ったように、<血魔力>の<血鎖の饗宴>の血鎖が、衝撃波と似た波動攻撃の<ラシャガンバルの魔次元波動>を喰っているようだな。
と、背後から、
「ンン――」
俺の背中を小さい黒豹の触手が押さえてくれた。
同時に巨人が放っていた波動攻撃の<ラシャガンバルの魔次元波動>は収まった。
<血鎖の饗宴>を消去。
斜め前方に走り――。
ハディマルスの肉塊が変化した骨の装備を身に付けている上半身と駒が中心に浮かぶ積層型魔法陣へ左手を伸ばす。
指が積層型魔法陣の端に触れ俺の左手が魔法陣の中へ侵入した刹那――積層型魔法陣と骨の装備を装着している上半身と五角形の駒のような木片が、俺の左腕付近を経由しつつ魔軍夜行ノ槍業へと取り込まれた。
その魔軍夜行ノ槍業が閃光を放つ。
視界が暈けた。
刹那、いきなり世界が、魔界セブドラの戦場となった。
――幻影世界か。
無数の二眼二腕の魔族に四眼四腕の魔族たちが森の中で争う。
黄金と漆黒の装束を着た魔族が多い。
隊ごとに色が違うようだ。
開けた場所に陣を張っているところには六眼六腕の魔族たちもいた。
黄金と漆黒の装束を着た魔族が押しているか?
すると、黄緑と漆黒の装束を着た魔族の槍使いが一人で押し返す。
その魔族は二眼二腕だが、五人の魔剣師を倒して森を駆けた。
暗がりの樹の根元を蹴って跳ぶ。
前転しながら次の槍使いに向けて――。
銀色の魔槍を振り下ろす。
三眼の魔族の肩から胸を両断し倒す。
黄緑と漆黒の装束を着た魔族は吼えた。
前進し、黄金と漆黒の装束を着た魔剣師の小隊に突貫。
魔族兵士の一人に近づき――。
鋭い踏み込みから<刺突>を繰り出す。
その魔族兵士の胸に風穴を作り倒す。
そして隣の魔族兵士に石突から伸びた銀の魔刃を振り上げ倒す。
続けざま銀色の魔槍を押し出した柄の打撃で次の魔族を殴り倒し、左右の魔族目掛けて上下斜めに袈裟懸けと逆袈裟斬りを繰り出して倒し、もう一度<刺突>のような突き技を正面から迫った魔族に繰り出して倒す。
流れるような槍捌き。
槍舞か。凄まじい強さの魔族だ。
黄緑と漆黒の装束を着た魔族の髪の毛は黒色で銀色が混じる。
その魔族は顔がぼやけて見えない。
が、速度が速いだけか?
樹を薙ぎ倒す<豪閃>のようなスキルも使っていた。
次は四眼四腕に四つの魔槍か神槍を握る黒髪の魔族と衝突する。
その四眼四腕の槍使いも強い。
否、より強いか。
<魔闘術>系統を強めると一瞬で黄緑と漆黒の装束を着た魔族との間合いを詰めた。
四腕がブレて四つの槍の穂先に紫電が宿る?
見えない突きスキル。
黄緑と漆黒の装束を着た魔族は胸に四つの風穴ができていた。
倒れた黒色と銀色の髪の魔族。
あの動きはハディマルスの槍歩法と似ているが、まさか……。
その黒髪の魔族は四つの槍を迅速に扱いながら、次々と様々な魔族の軍を倒し続けていく。
樹を足場変わりに三角跳びを行って側転機動で中隊の背後を取ると、<霊仙八式槍舞>のような槍舞を繰り出して次々と魔族の兵隊を倒しまくりその中隊を全滅させる。
確実に強者だ……。
風槍流と似た動きもあるが……。
ま、〝<刺突>に始まり<刺突>で終わる〟は槍の基本だからな。
すると、森の奥地で戦っている四剣使いが映る。
あ、狂眼トグマだ。
<縮地>から一瞬で繰り出した四腕による薙ぎ払いで四人の魔族を斬り捨てた。
この幻影は過去の魔界大戦か。
すると、場面が変わって、ここは森の出入り口付近の戦場か。
そこには、飛怪槍のグラド師匠、雷炎槍のシュリ師匠、悪愚槍のトースン師匠、妙神槍のソー師匠、断罪槍のイルヴェーヌ師匠、女帝槍のレプイレス師匠、獄魔槍のグルド師匠、塔魂魔槍のセイオクス師匠だと思われる存在が見えた。
身に付けている装束は他とは異なる。
背後にはルグファントの戦旗を持つ魔族集団がいた。
八人の師匠たちは無論強い。
近寄る魔族、モンスターを含めて、魔軍夜行のような軍を撃破しまくる。
さすがだ。
その八人の師匠たちが個々に回転しながら飛来。
そんな幻影映像となった刹那――。
目の前に神々しい魔力を秘めた鬼の頭部が出現。これも幻影なのか?
と、家紋的な梵字が次々と出現――。
俺の内部に鬼の頭部と梵字が浸透してきた。
同時に目映い光に包まれた。
柔らかいモノに抱かれるような……。
ぱふぱふに包まれる感覚を得た。
すると、
『槍使い、良く耐えた、見事である。さぁ、次はあの生意気な悪神デサロビアの眷属を倒すのだ!』
『あ、はい! 貴女様は……』
『ふふ、妾はライヴァンの世の鬼神キサラメだ。過去、古い鬼神と八槍卿たちに呼ばれておった。光魔ルシヴァルの其方が〝鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼〟を装備し、<悪愚槍・鬼神肺把衝>もよく用いてくれていることは理解している。そして、我を信奉していたトースンの体と骨装具・鬼神二式を取り戻したことは誠に嬉しく思う。更にオーク支族トトクヌの【鬼神の一党】の一族を善くぞ光魔ルシヴァルに受け入れてくれた。あとは、ララーブイン山の奥地にある我と関わりが深い場所を見つけてくれたら嬉しく思う……常に妾は見ておるぞ……』
そこで現実世界に戻る。
ピコーン※<魔軍夜行ノ槍業>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<魔軍夜行ノ理>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<夜行ノ槍業・壱式>※スキル獲得※
ピコーン※<夜行ノ槍業・弐式>※スキル獲得※
ピコーン※<夜行ノ槍業・参式>※スキル獲得※
ピコーン※<夜行ノ槍業・飛車鸞刃>※スキル獲得※
ピコーン※<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>※スキル獲得※
ピコーン※<鬼神キサラメの抱擁>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<キサラメの神紋の系譜>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<鬼神・飛陽戦舞>※スキル獲得※
ピコーン※<鬼神・鳳鳴名鳥>※スキル獲得※
ピコーン※称号:夜行光鬼槍卿を獲得※
ピコーン※称号:魔界九槍卿を獲得※
――おぉ、スキルと恒久スキルに称号までゲット!
スキルも凄いが、魔界九槍卿を獲得とか……鳥肌が立った。
『おぉぉぉ――トースンが体を! 先を越されたが、弟子はやはり最強の『天運』を持つ!』
『……我は体と骨装具・鬼神二式を得た!!』
『使い手、見事だ……我らの悲願……』
魔軍夜行ノ槍業の表紙の装飾に極めて小さいが骨の装備が刻まれた。
将棋の駒のような物も刻まれる。
表と裏には梵字が入っていた。
細かい。
『見事なり。使い手は……胸に虚無宿ることなくアムシャビスの紅光の塔魂魔槍を識り、『勁』と『力』が宿り、反躬自省のまま『八極魔魂秘訣』と『魔拳打一条線』を得るに至っている。更なる『一の槍』を極めて、絶招に繋がるであろう……』
セイオクス師匠の思念は魂に刻まれるような深い感覚だ。
『カカカッ! まだ厖婦闇眼ドミエルが残っているが、一先ずは見事! よもや八大墳墓の破壊の前に我ら八槍卿の体の一部が奪還できるとは思わなんだぞ!』
お爺さんっぽいグラド師匠が喜んでくれるのは嬉しい。
『やはり、使い手は魔城ルグファントの正式な後継者だ。弟子ではあるが、我らの待ち望んだ救世主の魔君主!』
『あぁ、我らの弟子は最強の魔君主となる存在!!!』
『弟子よ、色々と獲得したのではないか?』
『はい、<魔軍夜行ノ槍業>のスキルなどと、称号の魔界九槍卿を獲得しました』
『マジか……』
『『『『新たな魔界九槍卿を祝福しよう!』』』』
師匠たちが思念を連呼するからエコーのようになって響きまくる。
『オレ様の弟子は魔界九槍卿で魔君主かぁ。感慨深い! そして、妙技が似合うはずだから、さっさと見つけてほしいもんだぜ。ということで、西の八大墳墓に行こうか』
『うふふ、妾の体も見つけておくれ……』
『わたしもお願い♪ 使い手は魔君主で、魔界九槍卿とか、わたしたちと同格ってことでしょう? ふふ、萌えて濡れちゃう! わたしの体を回収しても悪戯を許しちゃう! だから早く見つけて♪ あと、愛用していた装備の一つ雷炎槍エフィルマゾルと雷炎槍譜の回収もお願い~♪ 見つけてくれたら特別な雷炎槍の<魔槍技>と特別な魔人武術に<雷炎縮地>なども教えてあげるんだから♪ イヒ』
シュリ師匠の思念は小悪魔的で可愛い。
自然と、
『できれば、雷炎槍関係を見つけたいです』
と鼻の下を伸ばす思念を返していた。
『うふ♪ うん♪』
『おぃぃ、シュリ! 使い手には眷属たちがいるんだぞ?』
『カカカッ、使い手も男じゃからな。仕方ない』
『頭目~弟子の<筆頭従者長>たちはヤヴァいぞ?』
『……ふぉふぉ、グルド、心配しすぎじゃ。弟子も男。男が女を求めるのは極自然の成り行きじゃ。眷属たちもそれは重に理解していると見受けるぞ? それに使い手の弟子は、男の悪愚槍のトースンの体を先に獲得したのだ。であるからして、いずれは、我らの悲願も達成することは確実……慌てるでない』
飛怪槍のグラド師匠の思念はやはりお爺さん的だ。
このグラド師匠の体を最初に取り戻してあげたい。
『それはたしかに……』
『うふふ、さすがの頭目の語り。妾に濃密な触媒をくれている大切な弟子は『魔霊触媒秘訣』を識る男。魔界九槍卿も当たり前。であるから、ふふ、慌てなくとも妾の体や装備などを優先して見つけてくれるはず……ふふふ』
『……レプイレスは放っておけ。妙神槍が先だ』
『ソー、僻むな。弟子の魔君主は妾が惚れた男……』
魔軍夜行ノ槍業の八槍卿の師匠たちの思念はそこでシャットアウト。
肝心の重い波動攻撃の<ラシャガンバルの魔次元波動>を寄越してきていた巨人は、
「……チッ、<ラシャガンバルの魔次元波動>を寄せ付けなかったハディマルスの魂魄と装備を、魔人武王ガンジスの遺産を……クソめが……」
悔しそうな言葉を発すると――。
いつの間にか【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の幹部の射手の体に絡ませていた触手を引く。
触手を射手の体ごと手に戻し、射手の体は巨人の掌の中に吸い込まれた。
巨人ではなく魔人か。
魔人の分厚い右手の掌には、吸引口があるようだ。
更に足下に散らばるキルアスヒだった肉塊をすべて吸い取った。
キルアスヒのアイテムボックスだと思うベルトとポーチは回収していない。
あのいずれかのアイテムボックスの中に……。
ルシエンヌのアイテムボックスがある?
ルシエンヌのアイテムボックスの回収は行いたいが、そのアイテムボックスに露骨な視線を送ると、俺の視線で、俺の狙いが魔人にバレてしまうか。
視線は傾けず、魔人を凝視。
魔人は二腕二足で、首は太い。
その首の見た目は、神経か筋肉繊維のような見た目で、ミミズ的なモノが集結して形成されているようにも見えて気色悪い。
が、上半身と下半身は渋い。
闇の炎を帯びた漆黒の半鎧。
鎧のない胸と脇腹の皮膚も鎧のようなモノ。
鋼索が大量にひしめき合ってアラベスク模様の皮膚鎧が見えていた。胸元が膨らんでいるから女性タイプだとは分かるが、厳つい。
その厳つい魔人が、
「……我の<ラシャガンバルの魔波動>を受けながら影響がないのか。先の閃光を発した十文字槍といい、魔人武王ガンジスが持っていたとされる神槍ガンジス……更に、ハディマルスの魔人武王の遺産を吸い寄せた腰の魔軍夜行ノ槍業に他の魔造書の類いも普通ではない。シュウヤ、オマエは何者か……」
と聞いてきた。フィナプルスの夜会にも気付いたか。
素直に、
「俺の種族は光魔ルシヴァル。その種族の宗主だ。で、お前の名は?」
「……我の名は厖婦闇眼ドミエル」
『やはり……』
「魔界の諸侯か? 悪神デサロビアの眷属?」
「……ほぉ、光魔ルシヴァルの宗主は我を知っている? 魔界セブドラ出身とは思えぬがっ、死ね――」
いきなり口を広げると、口から巨大眼球を吐いてきた。
キルアスヒの胸から出てきた巨大眼球と同じ器官か?
左手に消していた魔槍杖バルドークを召喚――。
右手の神槍ガンジスで<刺突>――。
巨大眼球は自らの前に丸い石板を生み出す。
と、その丸い石板で、神槍ガンジスの<刺突>を防がれた。
巨大眼球と石板は、表面から蛸のような触手を生み出しながら、ぎゅるぎゅると音を発して厖婦闇眼ドミエルの口に退いていく。
巨大眼球の根元は舌が束になっている。
「ガルルゥ――」
唸った相棒は触手を伸ばした。
触手の先端から出た骨剣が退いた巨大眼球の左側に向かう。
が、横から新たに出現した丸い石板で黒豹の触手骨剣は防がれた。
巨大眼球はそのまま厖婦闇眼ドミエルの口の中に戻った。
厖婦闇眼ドミエルは、
「光魔ルシヴァルの宗主、見事な反応だ。お前が使役している黒い魔獣も反応が速い。そして、キルアスヒとハディマルスがあっさりと倒される理由か――」
厖婦闇眼ドミエルは両腕から石杖のような長い礫を飛ばしてきた。
――それらの石杖のような長い礫を魔槍杖バルドークと神槍ガンジスで払い――弾き――斬る。
――長い礫は硬くて、威力がある。
「ご主人様――」
ヴィーネだ。
翡翠の蛇弓から放たれた光線の矢が厖婦闇眼ドミエルに向かう。
光線の矢の速度に合わせて石板が召喚されていた。
石板と光線の矢は衝突、相殺し爆発。
エフェクトに緑色の蛇の幻影がチラッと見えた。
「――チッ、相殺か。これも千魔厖婦眼の魔契約故……キルアスヒもまぁまぁの器であったが、今は受け入れよう――」
そう語る厖婦闇眼ドミエル。
右腕を凝視し、八つの指を拡げて閉じていた。
その腕の周囲に石板が生まれては消える。
指の動きと連動している?
掌には射手の体を吸引していた孔があるし、あの右手は要注意か。
その厖婦闇眼ドミエルは、
「……ダークエルフの雌が持つ魔弓は魔毒の女神ミセアと関係がある魔弓であろう? 光魔ルシヴァルは魔毒の女神ミセアとも通じているのか」
厖婦闇眼ドミエルがそう語る。
その間に、ヴィーネと魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスとアイコンタクト。
キサラは気持ちが逸るルシエンヌを押さえるように廊下に誘導していた。
「――厖婦とやら、余裕はそこまでだ!」
「閣下の敵――」
「我の<包囲波動>の<ラシャガンバルの魔波動>を防いでいた髑髏の魔界騎士か。光魔ルシヴァルの宗主には良い配下が多い! が、我に刃向かうとは不遜、邪魔だ――」
厖婦闇眼ドミエルは、走る魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスに石板を幾つも衝突させる。
ゼメタスとアドモスの進行を止めていた。
槍烏賊の兜と骨の盾で、飛来する石板の飛来を止めている魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスは渋いが、石板はかなりの威力があるようだ。
すると、キサラとヴィーネがゼメタスとアドモスの左右から横に出た。
キサラは、
「炯々なりや、伽藍鳥。ひゅうれいや」
超自然的な声音が響く。
<魔嘔>の魔術だ。
「百鬼道ノ七なりや――伽藍鳥。ひゅうれいや」
「血ノ砂蝉なりや、百鬼血ノ八法。ひゅうれいや」
ダモアヌンの魔槍の穂先を厖婦闇眼ドミエルに向けて、穂先付近から血の鴉を幾つも飛ばす――。
同時に手首に嵌まっている黒数珠から黒い煤のような魔力を爆発させている。
手首を囲う積層型の小円魔法陣は煌びやかだ。
その魔法陣から黒い煤のペリカンと似た鳥を飛ばす。
ペリカンは双眸を光らせる。
と、一斉に血の蝉を吐き出す。
ヴィーネは翡翠の蛇弓から光線の矢を連続的に放った。
厖婦闇眼ドミエルは口から巨大眼球を吐いた。その巨大眼球は石板を自らの前に召喚、血の鴉、ペリカン、血の蝉、光線の矢に、その石板を当てて防いでいく。
その厖婦闇眼ドミエルは、
「くぅ……キルアスヒめが、このような高位魔力層たちに喧嘩を売るとは……が――」
不意を突いたつもりか――。
俺に長い礫を寄越した。
その長い礫を見ながら――。
「相棒、フォローは任せるが、あの厖婦闇眼ドミエルは俺が倒す」
「ンン、にゃ~」
黒豹の鳴き声にはゴロゴロが混じっている。
相棒の愛情を感じながら――。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>を再発動。
<闘気玄装>も強めた。
<仙魔・暈繝飛動>も再発動――。
前傾姿勢で前進――。
『ふふ、周囲の白炎の霧の魔力が、閣下に従っている白銀の龍たちのように見えます!』
ヘルメの思念に頷くように――。
神槍ガンジスの<光穿>で長い礫を貫いた。
そのまま神槍ガンジスを消去。
再召喚して神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを入れ替えながら前進――。
厖婦闇眼ドミエルとの間合いを潰そうと近付くと、厖婦闇眼ドミエルは反応し、ゼロコンマ数秒も経たせず、幾つもの石板を生み出し飛来させてくる。
――<水神の呼び声>を実行。
――<水月血闘法・鴉読>。
――<水月血闘法・水仙>。
――<仙魔・桂馬歩法>も実行――。
俺の周囲を行き交う霧の魔力に床から浮かぶ血の鴉や血の月などが混じるのを感じながら――。
爪先半回転。
またも爪先半回転――。
複数の石板を避けてから――。
魔槍杖バルドークを振るって<龍豪閃>を繰り出した。
一度に複数の石板を嵐雲の穂先で破壊してから厖婦闇眼ドミエルに近付く。
――厖婦闇眼ドミエルは後退。
――接近戦は好まない?
「ちょこまかと素早い!!」
いきなり目の前に巨大な石板を召喚。
押し潰すつもりか、再び左手の神槍ガンジスで<光穿>を繰り出した。
左手で手刀を行うが如く突き出た<光穿>が巨大石板を貫く。
更に横回転――魔槍杖バルドークの<龍豪閃>を繰り出す。
巨大石板を真横に切断し破壊――。
続けて、爪先半回転――。
飛来してきた礫を避けまくる。
血の分身や血の鴉などが、礫を俺の代わりに受けて消えていく。
斜め前方に飛ぶような移動から再び爪先半回転――。
飛来した石板を右足で蹴り落とす。
またもや爪先半回転、左斜め前方に跳びながら飛来した石板を独自垂直蹴りで打ち上げた。
その反動で右に側転を行う機動の空中移動を行う。
そんな俺を追尾し、飛来してくる石板に向け、振り向くと同時に横から振るった魔槍杖バルドークの柄や漏斗雲と似た穂先をぶち当て壊す――。
左足で着地際にまたも爪先半回転――。
顔に迫った礫と石板を避けてから――。
次の大型石板を<血龍仙閃>で派手に切断、石板の残骸が肩の竜頭装甲に衝突。
「ングゥゥィィ!」
食いっぱぐれた石板を追うように肩の竜頭装甲は魔力を放出しながらカチカチと口を動かす。
気にせず、右斜め前方に飛翔するようにダッシュし横移動――。
素早く斜め上に神槍ガンジスを突き出し、方天画戟と似た双月刃で飛来してきた礫を破壊。
そのまま素早く厖婦闇眼ドミエルに振り向き直し――。
俺に対してのみ石板や礫の飛来が止まったから足を止めた。
脇を締めて左手を前に伸ばす。
風槍流の基本歩法『風読み』の一歩前の基礎技術の構えから……。
皆の様子をチラッと見てから厖婦闇眼ドミエルを凝視。
厖婦闇眼ドミエルは驚いたように頭部の表情筋がそれらしく動く。
複眼の幾つかの瞳は、ヴィーネとキサラの攻撃と魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスに対処するため、そちらに向けているが……。
次第に俺を見つめてくる複眼が増えてきた。
その厖婦闇眼ドミエルが、
「なんという機動力……<明星・石嵐>に<石魔大甲殻>がこうもあっさりと……」
そう発言、時間稼ぎか?
すると、周囲の赤黒い水晶が水晶の鎧を着た魔人に変化。
武器も水晶の剣と槍を持つ。
「……ふはは、<明星魔婦厖軍>共、あの黒髪を先に押し潰せ、殲滅だ。次いでに、このフクロラウドの魔塔も占拠し、予定が狂ったが、この【塔烈中立都市セナアプア】で贄を集めるとしよう!!」
「「「「ウヴァァ――」」」」
数十の水晶魔人兵士たちが駆け寄ってくる。
<脳脊魔速>から<紅蓮嵐穿>で一掃するか?
と思考した刹那――。
黒豹が俺を守るように前に出た――。
「――にゃごぉぁぁぁ」
紅蓮の炎が前方に吹き荒れる。
水晶魔人兵士たちは一瞬で消えた。
まさに、『汚物は消毒だぁ』だ。神獣の炎に飲まれた厖婦闇眼ドミエルも無事ではないだろう。
「ぐあぁぁ――」
厖婦闇眼ドミエルは鋼鉄のような体が真っ赤になって溶けながらも、複数の眼球と石板を生み出す。
が、それらは一瞬で爆発――。
背後の部屋の壁も溶けていく。
皆に向けて放たれていた石板や礫の遠距離攻撃も止まる。
が、まだ厖婦闇眼ドミエルは生きている。
『……神獣ロロ様の強烈な炎! ですが……』
『あぁ、まだ生きている』
ヘルメも恐怖するぐらいの炎に耐える厖婦闇眼ドミエルは強い。
とりあえず、相棒に、
「ロロ、ありがとう」
「ンン」
黒豹は、接近戦も想定していたのか口に咥えていた魔雅大剣を触手の一つに持ち直し、
「にゃ」
と可愛く返事しながら足下に戻ってきた。
相棒を抱きしめたくなったが、我慢。
黒豹は俺の背後に移動――。
「ぐぉぉ、その黒き獣は……なんだ……」
「神獣ロロディーヌだ」
「……神獣……」
そう言う厖婦闇眼ドミエルの複眼の一つが腐って落下、散ると魔力が拡がって、その魔力が厖婦闇眼ドミエルに浸透したのか、溶けていた体を再生させた。
更に、石板と礫を目の前に出現させて、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスとヴィーネとキサラに向かわせる。
厖婦闇眼ドミエルの石板と礫の遠距離攻撃の質は高いし、量も多い。
ヴィーネとキサラは後退しながら、魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスの背後に移動。
ゼメタスとアドモスも石板と礫を防ぐことに精一杯で動けていない。
<ラシャガンバルの魔波動>の<集中波動>よりはマシだが。
俺に向けての遠距離攻撃はしてこない。
その厖婦闇眼ドミエルに向け、
「……魔力もだいぶ減ったようだが、攻撃はそれで終わりか? <ラシャガンバルの魔波動>の再発動には時間がかかるんだろう?」
と聞きながら魔槍杖バルドークを向ける。
「だからなんだ。<ラシャガンバルの魔波動>を用いずとも、我が直にお前を仕留めれば良いだけだ!!」
厖婦闇眼ドミエルは怒声を発する。
――接近戦か。
それは望むところ……。
俺を凝視する複数の複眼が煌めく。
と、<黒呪強瞑>系統を強めた厖婦闇眼ドミエルは己の体から魔力を爆発的に放出させる。
腰を沈めるや否や前傾姿勢となって前進――。
右腕を突き出す。
右手の孔から長い石杭を突出させる。
否、石杭の真芯から赤黒い魔剣が突き出てきた。
「――<明星・破軍魔剣槍>」
――受けるつもりはない。
イモイザの第三の腕を意識。
《氷弾》を無数に放ちつつ<仙羅・幻網>を実行――。
「!?」
厖婦闇眼ドミエルの複眼の幾つかが破裂するように燃えると右腕がズレて上向いた。
その赤黒い魔剣を掻い潜るように前進――。
<血魔力>を魔槍杖バルドークに吸わせながら前に出た。
盛大な糧を得た魔槍杖バルドークが喜ぶような音を発したのを聞きながら左足で踏み込む。
厖婦闇眼ドミエルを槍圏内に捉える――。
<闇穿・流転ノ炎渦>を繰り出した。
<闇穿>の魔槍杖バルドークの穂先と柄から闇の炎が螺旋し、伸びる。
その<闇穿>の穂先が厖婦闇眼ドミエルの右腕を捕らえ穿つ。
「げぇ――」
闇属性は効いていないが物理属性も強まっている。
――手応えあり。
厖婦闇眼ドミエルの血を吸い取る魔槍杖バルドークの振動と咆哮が轟いた。
荒々しく吼え立てた魔竜王と似た声質。
更なる糧を得て魔槍杖バルドークが震動を起こす。
猛る魔竜王の雄叫びを連想させるように闇の炎の螺旋回転力が増大。
渦のような流れの魔力も強まった。
その闇の炎の渦の一部は厖婦闇眼ドミエルに吸収されたが、嵐雲の形をした魔槍杖バルドークの穂先が魔竜王の幻影を発して前進、胸の鎧をも貫いた――。
「ぐふぁ――」
厖婦闇眼ドミエルは体をくの字にしながら後退。
厖婦闇眼ドミエルの胸に生えたような魔槍杖バルドークは独自に呼吸するように厖婦闇眼ドミエルの魔力と血を吸い上げていく。
闇の炎の渦は竜魔石からも迸り、龍の如く肘から二の腕へと移り上昇していく。
闇属性は当然効いていないが、威力は十分。
厖婦闇眼ドミエルは複眼のすべての瞳孔がカッと開き、
「<愚烈波動>」
衝撃波か、ヘルメの<精霊珠想>で<愚烈波動>を防ぐ。
が、衝撃は殺せず、少し後退――。
厖婦闇眼ドミエルの胸から抜けた魔槍杖バルドークの穂先は血を蒸発させるような音を発していた。
厖婦闇眼ドミエルの上半身が腐り始めるが、蹌踉けながらも反転機動で、
「ぬぁ――」
と左腕を振るう。
左腕から蛸のような触手と魔剣が飛び出ていた。
右腕を引き、第三の腕に聖槍アロステを召喚。
その聖槍アロステで<攻燕赫穿>――。
赫く燕がアロステの十字矛から出現――。
不知火的な燕は厖婦闇眼ドミエルの左腕の魔剣を弾き、左腕から湧いている蛸のような触手を溶かしながらドミエルの左腕を突き抜けるや脇腹をも貫く。
「ぐぁぁ」
厖婦闇眼ドミエルは悲鳴を発しながら後退。
が、上半身の一部が腐り落ちて散り、魔力となって厖婦闇眼ドミエルに降りかかると、また回復してしまう。
同時に、細かな眼球が体内から溢れて、失った両腕があった箇所から細かな眼球を持つ触腕と触手剣を多数伸ばしてきた。
<血道第一・開門>こと第一関門を意識。
両肩と背から血を放出させる。
<血鎖の饗宴>を発動――。
細かな眼球と触腕と触手剣を貫きまくる血鎖――。
が、触手剣の束が<血鎖の饗宴>の速度を超えて斜め上から飛来。
ヘルメの<精霊珠想>が反応――。
『ヘルメ、任せろ』
神秘世界の液体が左目から少し出ていたが、それが引っ込むのと同時に聖槍アロステを消去しながら<無影歩>を発動。
更に<闘気玄装>を強めて活かす――。
<血鎖の饗宴>を消去しつつ右に移動――。
――<水月血闘法・水仙>も活かす。
厖婦闇眼ドミエルは俺を一瞬見失う。
が、複眼の一つから虹色の光線を放つ。
厖婦闇眼ドミエルは嗤うと、俺の<無影歩>を看破。が、隙は大きい。
厖婦闇眼ドミエルは慌てたように触手槍剣のような攻撃を寄越すが、俺が移動した後の左の床に突き刺さるのみ。
――<無影歩>を解除。
右に出た俺に厖婦闇眼ドミエルの左足が迫る。
――再び<無影歩>――。
俺は魔槍杖バルドークを縦回転させた。
竜魔石に魔力を送り、その竜魔石で床を突く。
魔槍杖バルドークの竜魔石から伸びた隠し剣が伸びて一気に急上昇。
厖婦闇眼ドミエルは連続的なタイミングの狂いを受けて慌てて左右に虹色の光線を繰り出すが、俺は左右ではない。
――お前の頭上だ。
その空中から片腕で支え持った魔槍杖バルドークの握りを強めながら――。
<柔鬼紅刃>を実行。
魔槍杖バルドークの穂先を紅斧刃に変化させる。
続けて<魔闘術の仙極>を発動。
更に<戦神グンダルンの高揚>を発動。
覚えたばかりの<鬼神キサラメの抱擁>も発動。
厖婦闇眼ドミエルを見下ろすように凝視――。
そこから一気に急降下しながら前転――。
魔槍杖バルドークを振り下ろす――。
<血龍仙閃>を発動――。
厖婦闇眼ドミエルは反応、
「上か――」
「――遅い」
<血龍仙閃>の紅斧刃が厖婦闇眼ドミエルの脳天を捉え、一気に頭部から体を両断――。
左右に分かれた厖婦闇眼ドミエル。
隠し剣を消しながら着地――。
厖婦闇眼ドミエルは複眼がぎゅるぎゅると動き、
「ぐぁぁぁ、が、これで倒せたと思うな――」
斬ったばかりの厖婦闇眼ドミエルの体は左右に倒れない。
その体の断面から不気味な触手が出た。
手と手を繋ぐように触手同士がくっ付く。
そのまま合体回復はさせない――。
左手に神槍ガンジスを召喚――。
第三の腕に聖槍アロステを召喚。
<導想魔手>を発動、王牌十字槍ヴェクサードを握らせる。
そして、覚えたばかりの――。
<鬼神・飛陽戦舞>を繰り出した。
ドッという加速から――。
低空飛行の機動のまま魔槍杖バルドークの迅速な薙ぎ払いが厖婦闇眼ドミエルに決まる。
「げぇぁ」
切断面から出ていたエイリアンのような触手も切断――。
二つに分かれていた厖婦闇眼ドミエルの体は浮き上がりながら両断される。
続けて神槍ガンジスと聖槍アロステの突きが厖婦闇眼ドミエルの左右の体に決まった。
<導想魔手>の王牌十字槍ヴェクサードの薙ぎ払いが左右の厖婦闇眼ドミエルの下部に決まり、更に切断――返す魔槍杖バルドークの紅斧刃が細切れとなった厖婦闇眼ドミエルの肉片を捉え切断――。
心臓のようなモノも切断した。
一気に厖婦闇眼ドミエルの臓物が腐って消えた。
<鬼神・飛陽戦舞>は<霊仙八式槍舞>と似た槍舞か。
が、最後に残った血肉が集結。
臓物が新たに生成されていく。
その臓物を見ながら武器を消した。
臓物目掛けて<玄智・八卦練翔>――。
右肘と左拳に右拳と左肘の打撃を臓物にぶち当てた。厖婦闇眼ドミエルの臓物は破裂しながら散る。
その散った魔力が蠢き集結するや否や、今度は心臓が生み出された。
魔印のようなモノが表面に刻まれてある心臓はまだ動いている。
その心臓を白蛇竜小神ゲン様のグローブを着けた右手で掴むと、心臓の表面からじゅあっと焼けるような音が響いた。
厖婦闇眼ドミエルは心臓となったか……。
タフだったが、倒したかな。
これを潰せば厖婦闇眼ドミエルは消滅するだろう。
「ご主人様、その厖婦闇眼ドミエルの心臓を潰さないのですか? あ……」
「閣下、その心臓が厖婦闇眼ドミエルの!!」
「潰しましょう!! また復活してくるかもしれません!」
「ゼメタスとアドモス、まぁ待て。で、ルシエンヌ! そこに転がっているアイテムボックスの中には君の物があると思うから、見てくれ」
「あ、はい、今調べます――」
「――団長!!」
「「「団長にシュウヤ様の勝利!!」」」
「――主、オワッタのか! アァ、ココ通れない!! 上ヲ壊してイイ?」
「壊すな。タルナタムはそこで待機」
「……ワカッタ」
この【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】がいた部屋はかなりぼろぼろだから、もう壊したくない。
そして、廊下側ではなにもなかったようだ。
【剣団ガルオム】の方々と廊下で待機していたミレイヴァルとアクセルマギナとリサナたちも来る。
「シュウヤ様、その心臓はクナに?」
「その線もあったか。戦利品として使えるかもしれないが……これはルシエンヌに潰してもらう予定だ」
「あ、そうですね、それがいい」
「……はい。女を犯すクズ野郎共が多い【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】は根絶やしにしたい」
ヴィーネは女尊男卑のダークエルフ社会で生まれ育ったからな。
そのヴィーネの素直な言葉を聞いたルシエンヌは背をビクッと揺らして調べるのを止めた。
ルシエンヌは直ぐに頭部を振るって、アイテムボックスを探す作業を再開。
エヴァはヴィーネにアイコンタクト。
少し怒ったようなニュアンスだ。
ヴィーネは、
「あ、すまない、つい」
「ううん、わたしも気持ちは同じ」
「うむ」
「わたしもです」
俺もだ。
【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】は胸くそ悪い連中だ。
よってたかってルシエンヌとその団員を……クズの中のクズだろう。
「ん、だからこそ、その心臓をルシエンヌのために残したのね」
「おう」
「ん、シュウヤ、魔界の厖婦闇眼ドミエルはかなり強そうに見えた。シュウヤも血を吐いていたし、凄く辛そうだった……」
「あぁ、正直焦った」
「でも激戦を制した! シュウヤは強い!」
「ありがとう! エヴァもナイスなフォローだ。ヴィーネとキサラも魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスも相棒も良く戦った!」
「「閣下ァァァ」」
熱いゼメタスとアドモスから抱きつかれるような感覚を受けたから、たじろく。
「にゃおお~」
相棒が足に頭部を寄せてきた。
ゴロゴロと鳴きつつ、鼻先を俺が持つ心臓に向けている。
くんくんと、鼻の孔を拡げ窄めて臭いをもっと嗅ぎたそうにしているが、あげたら食べちゃいそうだからな。
すると、
「ありました! 〝輝けるサセルエル〟も!」
ルシエンヌがそう宣言。
〝輝けるサセルエル〟を仕舞うと、取り出した二つの剣を鞘から引き抜く。
その光り輝く二つの剣身を皆に見せるように掲げていた。
「お、では、やはり暗光ヨバサは別に〝輝けるサセルエル〟を持つってことか。そして、その剣は大切な物なんだな。良かった」
「はい! ありがとうございます。これもシュウヤ様のお陰です」
「礼は、この心臓を斬ってからにしてくれ。見た目からして、厖婦闇眼ドミエルではなく、元々のキルアスヒの心臓のはず」
「……はい。こちらに放ってください」
一瞬躊躇するが、まぁ大丈夫か。
「了解――」
まだ鼓動が続く心臓をルシエンヌに放った。
二つの輝く剣を構えたルシエンヌは前進――。
左右の手が握る輝く剣を斜め下から上へと振るい、魔力を放出し始めた蠢く心臓を、
「<渚ノ神聖剣>――」
二つの聖剣で両断。
両断された心臓は爆発し青白いエフェクトを発して散った。心臓が切られた空間に燃えたような線が残ると、地響きが起きる。
その地響きは治まった。
これで、厖婦闇眼ドミエルごと、キルアスヒが倒れたことは確実か。
続きは明日を予定。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。18」発売中。
コミックファイア様からコミック「槍使いと、黒猫。3」発売中




