九百三十三話 眷属たちにプレゼント
2022/04/25 14:30 エヴァとミスティの金属絡みを修正
レベッカが、
「ロンベルジュに戻って魔法学院の怪しい上級顧問サケルナートを潰して、スロザの店でアイテムの鑑定?」
「ちょっと待って、ペルネーテに戻るのは良いけど、元魔侯爵アドゥムブラリに、〝列強魔軍地図〟に触れさせて魔力と思念を送ってもらわないの?」
「あぁ、後で良い。ロンベルジュだが、サケルナートを問い詰めて素直に喋るかどうかだな」
背後の貴族審議会などが気になるが、絡んできたらあしらえば良いか。
「艦長、話に割り込むが、そのペルネーテとやらへの移動には、漆黒の悪魔、小型飛空戦船ラングバドルは使わないのか?」
キスマリが聞いてきた。
「キスマリの故郷の北に向かう際は、小型飛空戦船ラングバドルを使う予定だ。あの運転は非常に楽しかった」
「ふふ、気持ちは分かる。で、その場合、魔境の大森林の傷場はスルーして北方に向かうの?」
「まだまだ先の話で仮定だが、そうなるだろう。魔境の大森林から魔界セブドラに向かう場合はキスマリの故郷からの帰り。一気に南下して魔境の大森林に向かおうか。順番は逆になるかもだが、宗教国家ヘスリファートとゴルディクス大砂漠にも向かうからな」
途中からキサラを見ながら語る。
キサラは頷いていた。
「ん、シュウヤがいない時、皆で小型飛空艇ゼルヴァを試した」
「買い物に利用できるから便利」
「うん、気晴らしには最高かも」
「はい、わたしもダモアヌンの魔槍を使わず、小型飛空艇ゼルヴァの運転を楽しみました」
「飛翔だけならゼクスに乗ればいいんだけど、あの駆動感が楽しいのよねぇ」
「うんうん、エセル大広場の空中散歩とか楽しい」
「魔塔と魔塔が並んでいるからかなり便利、縄張りを行き来するのにも使えるし、馬車とかもう使えないかも……」
バイク機動で飛ぶのは気持ち良いからなぁ。
気持ちは分かる。
しかし、セナアプア以外では小型飛空艇などを使用している所は皆無。メンテナンスを含めた運用は【塔烈中立都市セナアプア】だからこそ可能ってことだな。
大気と魔力層の違いで飛翔が困難とかありそうだ。
モンスターが近寄ってくるのもあるかな。
樹海に異世界地球から転移してきた飛行機も無残だった。
さて、先に皆に回収していたアイテムをプレゼントするか。
レベッカ用の武器候補がないが、まぁ仕方ない。
「ディアと合流する前に、玄智の森で回収したアイテムを渡しておく。それとも鑑定に回してからのほうが良いかな?」
「ん、大丈夫!」
「金属なら鑑定は要らない、もらっとく~。鑑定する時に出せば良いし」
「それもそうだな」
「嬉しい! けど、使うか分からない……」
「分かってる」
「うん。神鬼・霊風は強力で愛用しているからね、シュウヤと皆でがんばって得た大切な思い入れのある武器だから」
ユイの気持ちは嬉しい。
魔刀アゼロス&ヴァサージも大切だと思うが、神鬼・霊風ばかり使ってくれている。
ヴィーネは、
「はい、わたしもガドリセスが主力です。が、受け取ります」
「おう。要らない場合は俺が使うor他の皆に回すとしよう。では、エヴァには一対の棒をプレゼント!」
肩の竜頭装甲を意識。
袖口から一対の棒を取り出して、エヴァに手渡した。
両手で受け取ったエヴァは胸元で一対の棒を押さえるように抱きかかえた。
新衣裳の胸元が、一対の棒で凹んでいた。
隠れ巨乳さんに敬礼――。
「ん、ありがとう!」
エヴァは礼を言うと、抱いていた一対の棒を両手に持つ。
取っ手も出現。やはりトンファーだったか。
先端部は八角棒手裏剣と似た造り。
全体的に見れば、仗と棒。ま、トンファーだな。
エヴァは細い両腕を上げて、トンファーの切っ先付近を眼前に合わせるようにクロスさせる。
そこから身を翻す挙動で華麗なターン。
バレエのフェッテの動きを彷彿する。
可憐だが、仄かな健気さがあるんだよなぁ。
そして、常闇の水精霊ヘルメ的な機動だ。
エヴァは左右の細い腕を広げつつ一対のトンファーを真横に振るってから、そのトンファーで乙とXの字を宙に描くように振るった。
両腕の動きを緩めながら深呼吸するように構え直す。
様になるエヴァの動きは素敵だ。
<血魔力>をトンファーに通していた。
すると、トンファーの先端の八角錐と八角の面に日本刀の刃を思わせる刃が生えた。鮫の背鰭を彷彿する刃。
その一対のトンファーから発せられている魔力の色合いはほんのりとした赤色で、<血魔力>とは微妙に異なる。
更に八角の面に生えた輝く刃の真上に銀色の魔力の刃が浮く。
銀色の魔力の刃の内部と外側には極めて小さい龍の幻影が行き交っていた。
渋い……。
「ん、素敵……シュウヤ、ありがとう……この武器は凄いと思う。鑑定が楽しみ!」
「良かった。回収したかいがある」
エヴァは満面の笑みを浮かべてくれた。
そのエヴァは、
「――ん!」
魔導車椅子を分解しつつ空中を移動してきた。
抱きついてきたから、エヴァを持ち上げるように抱き返す。
「ん、ふふ」
エヴァの呼吸と息吹から、エヴァの微笑を耳に感じた。
それよりも体重が乗った巨乳の感触が気持ち良い。
そのエヴァを降ろす前に……。
足は大丈夫かな? と見ると、もうエヴァの骨の足は金属の足に変化していた。
「ん、優しいシュウヤ、足は大丈夫だから」
「あぁ」
笑顔を送りながらエヴァを降ろしたところで、
「ん――」
エヴァから頬にキスを受けた。
そのエヴァは、
「ありがとう。ヌベファ金剛トンファーを仕舞う」
ヌベファ金剛トンファーをアイテムボックスに仕舞いながら離れた。
「おう。次は、この長剣をヴィーネに」
「ありがとうございます――」
ヴィーネは抜き身の長剣の柄巻を右手で掴むと、その右腕を脇に引くように長剣を引くと同時に<血魔力>を長剣に込めた。
長剣が<血魔力>に染まる。
と、剣身から銀と赤の閃光が迸る。
一瞬で厚みが増して幅が拡がり、両手剣と化した。
剣身の刃は波を打つ。
フランベルジュと似た大剣か。
ガードの鍔と刀区の金属は漆黒。
剣身の樋には銀色の葉脈のような魔力が拡がっていた。
魔法剣的だが、鋼だ。
剣は全体的に銀色の魔力で覆われているから、ムラサメブレード・改っぽい。
その剣身の縁から銀色の龍のような粒子が仄かに散っていた。
「両手剣に変化とは、驚きです。あ、片手半剣でもある?」
「うん。ツヴァイへンダー、クレイモア、段平のグレートソードと似ている。あ、二人とも魔力の粒子が龍だから、龍に関係する武器を得たのかしら」
「重そうに見えるが、軽い?」
「はい! 軽い――」
とヴィーネは二歩後退しながらフランベルジュを振るう。
横に<血魔力>の軌跡が生まれた。
更に血の残滓のようなモノが軌跡を塗りつぶすように周囲に散る。
美しい剣線。
そのまま腰を捻り回るヴィーネはフランベルジュを振るう。
舞う銀色の髪と合う。銀色の髪が少しフランベルジュの刃に触れたのか、切れていた。が、すぐに元通り。
正直、ヴィーネの方が美しい。
肩に大剣の刃を預けたヴィーネは、
「ご主人様、二剣流として運用するか、ガドリセスは使わず両手剣としてこれを使うかもです!」
「おう。二剣流も扱えるヴィーネだ、運用は任せよう。透魔大竜ゲンジーダの胃袋があるから選択肢が増えるのは良いことだな」
「はい。軽く扱えますが、大剣に見合う重さがあるので、今までと違う接近戦が展開できればと思います」
頷いた。
あの武器ならゼクスとの正面からの接近戦も可能かもしれない。
次は魔刀を取り出して、ユイに手渡した。
革巻柄の柄巻を見たユイは頷いて、
「ありがとう! 早速――」
魔刀を抜いて、刀身に<血魔力>を送っていた。
刀身から赤い魔力が迸るのと同時に梵字が幾つか浮いて点滅を繰り返した。一度見ているが、これも渋い!
源流・勇ノ太刀より刃は長くないからユイと合うはず。
「うん、魔獣の革の握り手は良い感触――」
素早い所作で、逆袈裟から袈裟斬りを披露。
正眼から上段へ、そこから真っ向斬り、ユイの表情は明るい。ユイは鍔と柄を見て数回頷いて、
「使えるかも、ヴァサージに近いけど、質はこっちのほうが上のような感じがある……だからシュウヤに悪いけど、もらうわね」
「おう。俺は槍使いだし気にするな。俺も、同じ黄金遊郭で、凍った茨の魔力を有した魔槍を入手しているんだ」
「あ、そうなんだ。分かった」
「後は、ミスティとエヴァに黄金遊郭の金属と水の法異結界への地下通路を隠していた銀製っぽい扉の金属をあげよう。ハルホンク、吸収した金属を吐いてくれ」
肩の竜頭装甲を意識。
ポンッと音が鳴るように右肩に竜の装甲が出現。
「ングゥゥィィ――」
防護服の節々から青白い炎が放出。
回収した黄金遊郭の屋上の金属の塊と白銀の金属の塊を吐いたハルホンク。
その二つの金属の塊を二人に手渡した。
二人は、
「嬉しい、マスターありがとう!」
「ん、保管する!」
「エヴァ、最初はわたしが溶かすから」
「ん」
ミスティは早速、黄金遊郭の床素材の塊と白銀の塊を溶かして一部をインゴット化。
精錬した二つのインゴットを溶けた硝子か飴細工のように柔らかくした刹那、金属の棒に造り変えた。
その金属の棒をエヴァに手渡していた。
「え。わ、もう武器に!」
「うん。これぐらいなら下の試作型魔白滅皇高炉を使わずとも楽勝よ。二つの素材を溶かして足の素材に合うか確認したら?」
「ん!」
エヴァは金属の棒を振るってから、その棒を浮かせる。
更に、「ん、まずはこっち……」そう呟くと――。
黄金遊郭の屋上の床素材だった金属と白銀の金属の塊が溶けた。
その二つの液体金属は瞬く間に紫色の魔力が覆う。
二つの液体金属は、思念があるスライムのように宙空を漂う。
面白い。
「その棒も溶かして良いから」
「ん」
エヴァは浮かせていた二つの液体金属を更に細かく分離させる。
ミスティにもらった金属の棒を溶かし、一つの分離した液体金属に混ぜた。更に、混ぜていない黄金遊郭の屋上素材の液体金属の一部と水の法異結界を隠していた扉の白銀の液体金属の一部を混ぜる。
陰陽を描くような数種類の液体金属。
宙空で錬金術のマジックでも見ている気分となる。
二人はそれらの分離した魔力が微妙に異なる液体金属を見て頷いた。
金属博士っぽいミスティは、
「なるほど、それぞれ異なるけど、精錬すれば」
「ん、白銀のほうは魔力を弾く?」
「うん」
と二人は会話しつつ目を合わせていた。
「ん――」
そのエヴァは、己の金属の足の一部の金属を溶かし、骨の足の一部を露出させる。
その金属の足だった液体金属の一部と、溶かしていた黄金遊郭の金属素材だけを宙空で混ぜていた。
その混ざる金属からキィィンッと不思議な金切り音が響く。
と、塊のまま床に落ちた。
熱そうだが、エヴァが触ると、凍ったように霜が、その混ざった金属の表面に走り出す。
エヴァの指と掌も少し凍り付いたように見えたが、
「ん、手でこれだから、黄金のほうとの相性は悪くない。下の試作型魔白滅皇高炉で精錬すれば、もっと魔力が高まったり、魔力を絶縁したり、柔らかくなる部分と硬くなる部分が調べられると思う。それと、足だとまた微妙に異なると思う」
「了解、その辺りは得意だから、任せて」
ミスティは前に鬼蟲とレムハットの古金貨を融合させた素材をエヴァの金属の足に合わせていたからな。しかし、二人とも金属を玩具のように扱っているし、凄い。
ミスティは前にも思ったが、鋼の武器や防具を生成しまくって武術家を目指せば……。
否、ミスティはミスティだからな。何事も本人のやる気次第。
「さて、レベッカ。すまんが、杖などはなかったから――」
「あぅ――」
とレベッカを抱く。
驚いていたレベッカだったが、「ふふ、まったく、プレゼントなんてどうでも良いのに――」と俺を強く抱き返す。
「そうなのか?」
「うん、こうして気を使って抱きしめてくれる優しさが堪らない――」
と蒼炎を体から発したレベッカに羽交い締めされる勢いで抱きしめ返された。
レベッカの弱点は突かず。
金色の髪と項にレベッカの好むシトラスの香りを楽しむ。
が、悪戯心で、長耳に息を吹きかけた。
「ぁんっ」
と右肩が上がって体がビクッとしたレベッカ。
そのレベッカから離れた。
顔を朱色に染めているレベッカは俺をキッと睨むが、直ぐに微笑む。
「もう! 離れなくて良いのに!」
「はは」
「ふふ」
「なんか、少し羨ましい空気感なんだけど……」
「はい……」
ミスティとキサラがそう発言。
「そうか?」
「って、耳によらんでよろしい!」
「はは」
とキサラを見ると、
「あ、わたしも大丈夫です。どうせなら、お胸に……」
「キサラ、それはわたしが担当しますので」
「いえ、わたしです」
「二人とも争うな。外に行こうか」
「はい」
「にゃお~」
「キスマリ、俺たちは幻瞑暗黒回廊を使う」
「分かった。小型飛空戦船ラングバドルと魔塔ゲルハットはわたしが守ろう」
「おう」
「盟主、わたしは魔道具類を片付けてから上か下にいます」
「了解した。ゲンガサたちと合流するのか?」
「いえ、ペグワースたちかアグアリッツの手伝いをします。それか、飛行術の訓練を行いたいと」
「あ、言うのを忘れてた。ビロユアン・ラソルダッカが、飛行術の魔法書を沢山入手したから」
「ん、ごめん、シュウヤ」
「うん、忘れてた」
「その猫好きのビロユアンは?」
「たぶん、ペグワースたちと一緒か、下のアグアリッツの店で御酒を飲んでるはず」
「飛行術は皆、読んだのか?」
「まだ、魔靴ジャックポポスがあるから後回しにしてる」
「わたしは読みました」
「ん、わたしも」
「わたしも読んだ。使えるけど、少し訓練が必要なの」
「ん、飛行術は簡単だった」
「エヴァは元々飛べるからね……」
「ユイも読んどいたほうが良いんじゃ?」
「うん」
「んじゃ、下に行こうか。相棒、行くぞ」
「にゃ~」
相棒を肩に乗せて、先に廊下に出た。
「にゃァ」
「ワン!」
シルバーフィタンアスが俺たちを追い抜く。
その姿を見ながら浮遊岩の前にきたところで、ふと――。
〝黒呪咒剣仙譜〟を思い出した。
後で良いか。
バルコニーに出た。
続きは明日も予定。短いかもです。
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コミックファイア様からコミック「槍使いと、黒猫。」1~2巻発売中。




