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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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九百二十九話 ミトリ・ミトンと、新しいボベルファの担い手

2022/04/12 16:47 酔拳に関する文章を修正

 ボベルファが選んだ者は特別。

 担い手となる資格か。


 ま、それならそれで皆のために利用させてもらおうか。


「ブペペッペッぺ~……ブペ、ペッペッぺ~……」


 再び野太いエコーのきいた鳴き声を響かせる。

 その大厖魔街異獣ボベルファを見ながら、


「ミトリ・ミトン、ボベルファに少しだけ乗らせていただく」

「はい、では新しい担い手候補のシュウヤ――」


 ミトリ・ミトンは杖を回転させる。

 帽子のブリムに手を当て、お辞儀すると、


「ご案内致します、こちらです」


 そう発言してから身を翻す。

 ミトリ・ミトンは体から魔力粒子のようなモノを発した。周囲のスライムと黄緑色の蝶々を消しつつ降下を始める。


 大厖魔街異獣ボベルファは「ブボォォ」と声を発して頭部を下げた。


 降下を始めたミトリ・ミトンは、己の足下に時折半透明な小さい階段的なモノを生み出していた。ミトリ・ミトンは、その半透明な階段的なモノに跳び移る。そのたびに帽子から黄緑色の魔力が溢れ出て風を孕んだローブの裾が少し捲れる。


 可憐だ。

 ミトリ・ミトンが魔法少女に見えてきた。


 その可憐なミトリ・ミトンを見ながら――。

 大厖魔街異獣ボベルファの頭部へと降下して着地。


 これでボベルファに乗ったことになる。

 約束は守った。

 『じゃあな』で離脱は可能だと思うが……。


 ミトリ・ミトンに俺たちを攻撃する意思はないと判断。ディエの情報通りなら結構重要な縁になる可能性もある。このままミトリ・ミトンと大厖魔街異獣ボベルファに付き合うとしよう。


 ミトリ・ミトンは少し前を歩く。

 前方の聳え立つ大きい角と角の間から大きな街の一部が見えた。


 ミトリ・ミトンは大きな角と角の前で足を止めて、杖を掲げる。


 前方の巨大な角と角が呼応するように光ると、


「ブペ、ペッペッぺ~……」


 とまた野太い声が響き渡った。

 面白い音楽風の声を鳴らすボベルファだ。


 ミトリ・ミトンは黄緑色の魔力を体から放出させていく。その横から上向かせた表情を確認――。


 厳かな雰囲気を醸し出すと、小さい唇が動く。



「ライムラン……ドレウアの魔霊の息吹……」


 呪文を唱え始めた。

 そのまま祈禱を行うように、


「……大厖魔街異獣ボベルファの望みに応えし担い手が、今ここに!」


 と杖を振るった。

 その杖とミトリ・ミトンの体から魔線が無数に迸る。

 魔線は聳え立つ大きな角と足下の頭部に付着した。


 次の瞬間、


「ボァァァ」


 汽笛のような魔声が足下から響く。

 同時に足下が震動。地震的な揺れだった。


 ミトリ・ミトンの呪文と魔力の影響を受けたボベルファが頷いた?


 揺れた足下のボベルファの頭部の皮膚は硬い。

 岩場のような印象だ。


 祈禱を終えたミトリ・ミトンは振り向き、


「行きましょう。あの角と角の間が、ボベルファの街の正門になります」


 と発言して、振り向き直し歩き出す。

 そのミトリ・ミトンの背中越しに、前方を凝視。

 尖塔のように聳え立つ角と角の間には魔法の膜が張られている。

 魔法の膜は半透明だから街の上部が見えていた。

 位置的に大厖魔街異獣ボベルファの後頭部かな。

 更に先の背中側に建つだろう赤煉瓦の建物の上部も覗かせている。

 内部の街には階層があり段差があると分かる。

 地面が駱駝のような背の形なら当然か。


 赤煉瓦の他にも岩をくり抜いたような家が多い。

 かなり古い街の印象を受けた。

 遺跡探索のスイッチが入り掛かるほどの見事な古代遺跡で、古い街。


 面白い。前を歩くミトリ・ミトンは角と角の間の正門に近付いて、足を止めた。


 そのミトリ・ミトンに、


「二つの角は門で内部には建物があるんだな」

「はい。〝見通し場〟と〝〝魔霊脳ボベルファの場〟です」


 〝見通し場〟と〝〝魔霊脳ボベルファの場〟?


 角と角の間に展開されていた正門の魔法の薄い膜は震えつつ消えた。

 その様子を見て、微かに頷き納得したようなミトリ・ミトンは、


「ボベルファの街の正面口が開きました。入って直ぐの右の角の内部が〝見通し場〟と〝魔霊脳ボベルファの場〟となります」


 そう発言。細い腕を向けた先は、右側の角のアーチ状の出入り口。

 その角の内部に〝見通し場〟と〝魔霊脳ボベルファの場〟があるようだ。


「へぇ、〝見通し場〟と〝魔霊脳ボベルファの場〟。案内を頼む」

「はい」


 直ぐに右の角の内部に入った。奥行きがあり吹き抜け構造。

 角の内部が塔のように思えてきた。


 周囲を囲う壁の光源が七色に輝く。

 その壁の表面を環と三角の目映いネオンが走る。それらのネオンが個別に動いて形を変化させていく様は、幻想的で非常に美しい。


 先を歩くミトリ・ミトンが羽織るローブがそれらの光源を反射していく。

 魔法少女ミトリ・ミトンが歩みを止めた。

 彼女の斜め前方に魔法陣が出現。やや遅れて、ミトリ・ミトンの前後と右横に机と椅子も出現した。


 机と魔法陣の間に大きい皮が召喚されて浮かんでいる。

 魔獣の皮か? 


 召喚というか、細胞と細胞が集合して繊維が固まって皮が生成される……そう、バイオプリンターが生体組織を一瞬で造り上げたように見えた。


 臓器印刷、細胞の三次元配置によるヒト組織作製。


 俺の知る地球でも、バイオ技術の発展で人工臓器が生成されていた。

 更に、人間その物のコピーも可能。

 その仮定で意識を機械の中に入れるマインドアップロードの実験も盛んだったな……。

 

 DNAハードディスクも発展していた。 

 

 倫理を超えたバイオ技術の発展は、信用できない支配層が人間を支配するために利用する面が多々在った故、ディストピアとなっていることに気付けない者が多数だった。

 

 と、過去のことを想起。

 

 目の前で浮いている大きい魔獣の皮には乱雑に地形が描かれてある。


 〝列強魔軍地図〟と似た地形。

 かなり雑な地図だが、魔界セブドラの周辺地図か。


 魔界セブドラの地図なら〝列強魔軍地図〟のほうが詳細だ。


 隣のボベルファの顔の絵と大厖魔街異獣ボベルファの全体図のほうが詳細かな。

 小さく描かれたボベルファの顔は少し可愛い。

 亀と恐竜の頭部を合わせたような印象だ。


 ミトリ・ミトンは、その皮の一部を差す。


「ここが〝見通し場〟。浮いている皮が大厖魔街異獣ボベルファの皮。魔界セブドラの地図とボベルファの街の地図です。黒い印は大厖魔街異獣ボベルファを意味します。ボベルファが動けば、この黒い印も動く。隣の顔は、今のボベルファの体調を意味します」

「へぇ」


 魔力や精神が作用したGPSで衛星測位システムか。

 衛星は勿論ないだろう。


 が、何かしらの位置測定が可能となるボベルファの生命システムがあるってことだ。


「ではシュウヤ、こちらに」


 見通し場を過ぎて奥に向かう。

 かなり広い。中央は窪んでいるが噴水場を彷彿とさせる壇がある。


 丸い魔法陣が宙に浮いている。


 中央には壇があり、壇の内回りは砂場だった。その砂場の中には座禅草のような植物が生えていた。


 肉穂花序(にくすいかじょ)が美しい。

 俺が知る地球に棲息する達磨草と同じなら花が咲けば臭いはず。


 が、臭い匂いは漂ってこなかった。


 砂場の中心には半透明な蓮の花が浮かぶ。

 その下には座蒲が敷かれた台座があった。


「ここが〝霊脳魔花ボベルファの場〟。大厖魔街異獣ボベルファと意識を共有する場所です」


 面白い名だ。肉穂花序(にくすいかじょ)は脳の松果体や松ぼっくりとも似ている。

 だから意識を共有? 第三の目、『三つ目が通る』は面白かったなぁ。

 松果体の活性化が大事だってことは覚えている。今の俺の光魔ルシヴァルの松果体は……。

 そんなことを考えつつ、


「この〝霊脳魔花ボベルファの場〟は、一種の司令室?使役スキルか魔法で大厖魔街異獣ボベルファのコントロールを行う場所でもある?」

「似たような場所です」

「あの座布団に俺が座れば、儀式が始まる?」

「それは分かりません。大厖魔街異獣ボベルファは気まぐれな面もある。基本は、担い手の心技体に合わせた内容となることが多い」

「時間は掛からないよな?」

「それは分からない。ただ、そんなに時間は掛からないはず」


 今の状態で行うのはリスクが高いが……。

 しかし、今のタイミングでないと無理なような気がする。


「挑戦しよう」

「良かった。お願いします」


 頷いてから肩の竜頭装甲(ハルホンク)を意識。


「軽装スタイルだ」

「ングゥゥィィ」

「え?」


 ミトリ・ミトンは肩の竜頭装甲(ハルホンク)の声に驚く。


 肩の竜頭は消えている。

 普通の肩で防護服も暗緑色に変化しているから、ミトリ・ミトンには分からないだろう。近くで肩をアピールすれば分かると思うが。


 今はこっちだ――。


 表面に装飾古墳のような壁画が刻まれている中央の壇の上に向かった。

 砂場は芸術性が高い枯山水や砂曼荼羅を思わせる。


 壇の上の六芒星や五芒星などが重なったような魔法陣は浮いた状態だ。

 魔法陣は、ただの光源には見えないが……。

 砂場の枯山水を崩すのも悪いような気がする。


 ――縁から中央へ跳躍し、中央の一段高い壇の上に着地。 

 え? 足下の感触が、ぐにょっと柔らかい。


 座蒲と高い壇の一部分が柔らかい粘土のような素材に変化。

 その変化した素材が蛇のように俺の足に絡みついて固まる。


 それらの粘土素材は俺の魔力を吸うと陶器の履き物となった。


「ハルホンク、吸わないで良いからな」


 強引に脱ごうと思えば脱げそうだが……。

 陶器の履き物は脱がない。


 履き物の表面は、周囲と同じ装飾古墳にありそうな模様で古代の壁画っぽい。


 同時に周囲の砂の枯山水が蠢いた。


 枯山水が底なし沼? 

 砂場に生えていた松ぼっくりを内包したような座禅草が沈み込む。


 俺の足が嵌まる陶器の履き物が――その蠢く枯山水の場所にまで移動した。


 俺は沈まないから底なし沼ではないようだ。

 続けて、壇その物が回り出した。

 時計回りに回る壇――。


 陶器の履き物で、回転木馬ではないが、メリーゴーランドかよ。


 同時に砂地の面に水が満ちた。

 壇の中の満ちた水の一部は縁から外に溢れる。

 その水は波を作り出すと、枯山水のような芸術を水流で表現するように丸い形の流れるプールと化した。


 なんか面白い。

 遊園地にあるようなコーヒカップに乗って回るアトラクションを思い出す。


 右から左に移動しているようにも見えるミトリ・ミトンに――。


「これも儀式の一環なんだよな~」


 と回りながら聞いた。


「はい、そのはず……」


 とミトリ・ミトンは言ってから、


「水が溢れるのも、壇が回転するのも初めて見ましたが、大厖魔街異獣ボベルファとの接触は始まっているはず。そのボベルファの魔海のような心と意識を合わせてください。選ばれし民のシュウヤなら担い手に成れるはず!」


 まぁ、やるだけやるさ。


「――了解」


 同時に陶器の履き物が動く。

 ――え?


「動いた!」


 左、右、左上、右上と――。

 足をこのように動かせと陶器の履き物が促している?


 一種の武術の歩法の訓練か?

 ――ぐるぐると回る円の中で武術の歩法訓練を行うとは思いもしなかった。


 ――陶器の足下の震動が強まる時がある。

 俺の動きが遅い?

 または陶器の履き物が促すタイミングに、俺の動きが合っていないという意味かな?


 前進する動きが多い理由かな?

 陶器の履き物の動きは前傾姿勢でスキル獲得を促す?


 <血魔力>の放出を強めて<魔闘術の仙極>を発動。

 <闘気玄装>も強めた。


 すると、陶器の履き物が促す下半身の動きと体その物の動きを誘導するような極めて細い魔線が周囲を漂い始める。


 魔線は頭上の魔法陣からではない。

 足下の噴水のような壇からだ。


 その宙を巡る魔線の動きと陶器の履き物が促す動きに合わせつつ、<仙魔・桂馬歩法>を実行――速度を加速させてさらに動きを合わせる。

 更に<滔天内丹術>と<滔天神働術>を発動――。

 

 ――<魔手太陰肺経>を意識して<霊仙酒槍術>も実行。 

 <経脈自在>が活性化し、俺の光魔ルシヴァルに似合う経脈はできていると思うが、<魔手太陰肺経>はまだ獲得できていない。

 下半身を誘導するような陶器の履き物の動きを正確に真似する。

 左足と右足を交互に素早く前に――。

 前に出し、より引き弾くような前傾姿勢――。

 ――上手くいった。

 次の瞬間――俺の足を固定していた陶器の履き物が外れて散った。


 スキルは得られなかったが、担い手の儀式の一部、初期試験のようなモノを突破?


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)を意識してブーツ系から素足に変化させた。

 足裏と足下の感触は砂と水――気持ち良い風を体に感じた。

 が、周囲はまだ回っている。

 巡る視界に不思議そうに俺を眺めているミトリ・ミトンが映る。


 大豊御酒の影響の<滔天仙正理大綱>、<四神相応>、<滔天神働術>、<霊仙酒槍術>には酔拳っぽい動きもあるからな――。

 酔八仙拳を彷彿とする動きは〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟や仙王の隠韻洞の彫像などにあった。八仙の酒に酔う姿を模した象形拳と似た武術が存在している可能性は高い。


 いつもは<槍組手>中心だから普段とは異なるが――。

 宙を巡る魔線の動きが急激に少なくなってきた。


 この大厖魔街異獣ボベルファの担い手になるための試験的な儀式が終わりかけている?


 ――『静』と『動』を意識。

 姿勢を正しながら両手それぞれで陰陽魚を描く。

 同時に<玄智・陰陽流槌>を実行――。

 肘の打撃を繰り出した直後――。


 メリーゴーランドのように回っていた動きが止まった。

 担い手の試験に合格?

 水流の流れは遅くなったが、水は引かない。

 足の感覚は少し冷たい砂利。酔った感覚もあったが、光魔ルシヴァルの三半規管は優秀だ。

 すぐに体調は元通り。すると壇の中心が真新しくなった。

 その中央の一段高い壇に向かい、片足から乗せて上がる。

 座布団が新しくなっていた。色合いは血色に水色。


 その新しい座布団の上で座禅を組むとして――。


 神々に礼をするように両手を合わせてお辞儀。

 胡坐で座り、禅の心を安定・統一させる修行を行う。


 右足を左足の上に置く。そこから左足を右足の上に置いた。


 ――結跏趺坐(けっかふざ)を実行。


 座禅を行う。すると頭上で浮いたままだった魔法陣が降下。


 周囲の沈んでいた座禅草が持ち上がって魔法陣と重なり合体。

 座禅草を起因とする波紋のような魔力波動が周囲に拡がった。

 水が少し引く。

 ほぼ同時に、浅い水の底の砂の座禅草が急成長。


 続け様に支柱根のような植物がどんどんと伸びてくる。

 植物が増えて一気にジャングル化。


 マングローブ畑かって勢いで拡がる。


 が、あくまでも植物の拡がりは、回転していたメリーゴーランドと化していた中央部のみだろう。 

 そして、視界は緑一色……蔓や葉ばかりとなった。


 落ち着こうとした矢先だっただけに少し混乱。

 大厖魔街異獣ボベルファの使役は大変なようだ。


 すると、細い蔓か魔力の糸のようなモノが遠慮気味に俺の頭部にピタピタと付着。冷えピタのような感覚で懐かしさを覚える。


 相棒の触手を思い出す。

 早く黒猫(ロロ)を抱きしめたい。


『ブペペッペッぺ~……』


 と不思議な思念が響く。

 同時に底知れない……なにか……。

 大厖魔街異獣ボベルファの精神のようなモノを感じた。


 すると植物たちが一気に消える。

 前方に残ったのは一本の大きい座禅草。


 その肉穂花序(にくすいかじょ)から魔宝石のような物が生まれ出た。


 松ぼっくりと似た肉穂花序(にくすいかじょ)から魔宝石が飛来。


 その松ぼっくりの形をした魔法石を掴むと魔宝石が輝く。


 ピコーン※<魔街異獣の担い手>※恒久スキル獲得※


 おぉ、スキルを獲得!

 すると、最後に残っていた肉穂花序(にくすいかじょ)を失った座禅草が枯れた。泉のようになっている砂の模様だけが周囲に残る。


 外で見ていたミトリ・ミトンは拍手。

 その彼女に向けて魔宝石を掲げつつ近付いた。


「――これでボベルファの担い手となった。スキルも得た」

「はい! おめでとうございます!」

「君と同じ立場?」

「基本はそうですが、シュウヤなりの担い手です。その本契約のクリスタルを使用すれば、この大厖魔街異獣ボベルファはシュウヤの近くまで向かいます。更に、そのクリスタルを持ちつつ頭部の角に触れていれば、ボベルファとの感覚共有が強まって、ボベルファを手足のように動かせるようになります。ですから、今回のように急に加速することはありえないのです、非常に焦りました……」


 だから最初、苛立っていたのか。


「そうだったか。焦らせてごめん。それで、仲間たちの近くにボベルファは移動できるのかな? 神々の争いがどんなことになっているか不明だが……」

「はい、直ぐにでも可能。シュウヤにもできます」

「分かった。角は……」

「ここは角の内部。どこでも触れば大丈夫です」

「分かったが――」


 壁を触ると「ブボォォ」と微かな鳴き声が響く。移動を開始したのか、少し揺れる。が、微かな揺れしか感じない。


 続けて、足下から銀色のスライム状の生物が現れた。

 それらのスライムが、ディスプレイとなって大厖魔街異獣ボベルファが見ているだろう前方の視界を映す。


 もう仲間たちに近付いていた。


「外の皆に会ってくる。ここへの誘導は頼めるか?」

「はい、大丈夫。でもシュウヤも可能ですよ。指示を出せば一瞬で街の防御膜が消えます。もう消えていますが。後、この会話もボベルファは理解しているので、もう下のシュウヤの仲間の魔族たちに、ブッティちゃんたちが近付いています」

「ブッティちゃんとは、そこの銀色の外の景色を映しているスライムのことか?」

「あ、はい。青蜜胃無(スライム)とは異なりますが、似たような形状の魔法生物ですね」

「そうだ、仲間の鬼魔人と仙妖魔には姿は見せないほうが良い。攻撃すると思う」

「大丈夫、近付いただけです」

「それじゃ、外に行こうか。皆に説明をしたい。それから、俺は魔界セブドラを一時離れることになる」

「え、は、はい」


 ミトリ・ミトンは寂しそうな表情を浮かべていた。

 ずっとこの街で一人だったとか?

 さきほどチラッと街を窺ったが、無人のような印象だった。


「行こう、皆に君を紹介したい」

「え、はい!」


 嬉しそうに表情を変化させた。

 このあたりの表情の変化は少女っぽい。

 ミトリ・ミトンと一緒に角と角の間のボベルファの街の正門を潜った。

 すると、足下の硬い鱗が立派な道となる。

 道はボベルファの街の奥にまで続いていた。

 同時にその道の左右に消火栓のような岩が生えた。


 それは消火栓ではなく小さい街灯。明るい光を発していた。

 更に、ボベルファの街から銀色のスライム状の生物が現れる。

 先ほど見た『ブッティちゃん』の軍団か。


 その銀色のスライムはぴょんぴょんと跳ねながら、歩く俺たちに近寄る。

 ミトリ・ミトンが、


「ブッティちゃん、今からシュウヤの仲間たちを、ここに一気に運ぶので、協力してね?」

「ブブッブゥ」

「「ブブッブゥ」」


 と変わった鳴き声を発した銀色のスライムたちは可愛い。


「んじゃ、普通に外に向かうか」

「あ、はい――」


 走る俺たちを追い掛けてくるブッティ軍団。

 <導想魔手>を足場に利用して跳躍――。

 俺の機動についてくるミトリ・ミトン――。

 彼女の戦闘能力はかなり高いと予想。が、今は神々と神々の眷属が戦う戦場が近いから急ぐ。チラッと北を見ると、眷属たちの数は激減している。

 悪夢の女神ヴァーミナ様、魔毒の女神ミセア様、吸血神ルグナド様、闇神リヴォグラフだけで戦い続けていた。


 もう本来の目的を忘れているかの如く。

 足下の地形が変化して亀裂があちこちに発生している。

 魔界王子ライランの勢力もうかつに手をだせる雰囲気ではないと思うが、どうなることやらだ。


 少し恐怖を覚えながら、皆がいる場所まで直進――。

 ミトリ・ミトンも一緒に飛翔する。


「皆!」

「あぁ! シュウヤ様!」

「戻られた!」

「大厖魔街異獣ボベルファが近付いてきましたが……」

「あぁ、使役した。これが証拠――」


 本契約のクリスタルを見せると、クリスタルが濃密な魔力を発した。ドクドクッと律動。

 このクリスタル、心臓の意味でもあるのか?

 そういえば、ヘルメと本契約した時……。


「「「「ええええ!」」」」


 皆、当然驚く。


「皆、驚いているところ悪いが、大厖魔街異獣ボベルファに乗ってくれ。ボベルファも、鬼魔人と仙妖魔を乗せてくれ」

「ブペペッペッぺ~……ブペ、ペッペッぺ~……」


 大厖魔街異獣ボベルファは野太いエコーのきいた鳴き声を響かせる。


「ひぃ」

「うひゃ」

「おおぉ」

「本当に使役を」

「「「あぁぁ」」」


 と、攻城兵器ごと内部の鬼魔人兵士の集団が銀色のブッティちゃんに喰われたように内包されて空中浮遊したと思ったら、もう大厖魔街異獣ボベルファの背中の街の何処かに消えていた。


「……凄いですが、あの銀色のスライムは……」

「あぁ、ブッティちゃんだ。で、俺の隣にいる女性がミトリ・ミトン。大厖魔街異獣ボベルファの担い手だ。先ほど仲良くなった。北のグルガンヌ地方まで、皆を送ってくれると約束した」

「はい、皆さんを送ります。各自の足下にいるブッティちゃんを触ってくだされば、ブッティちゃんが自動で運んでくれるので、皆さん、触りましょう」

「おぉ、では先に――」

「あ、ヘイバトが」

「本当に銀色のスライムに包まれて運ばれていく」

「良し、皆、鬼魔人傷場から撤退する。皆も急げ」

「「……」」」


 魔将オオクワとディエにザンクワは銀色のスライムのブッティちゃんを触ろうとしない。皆に笑顔を送りつつ、


「……さよならは言わない。この鬼闘印が君たちの下に俺を導くだろう。だから、この鬼闘印に会える日が必ずくると思え! じゃあな」

「「「はい!」」」


 そうして、皆と別れた。


 あ、魔皇シーフォと祠のことを聞くのを忘れてた。

 ま、いっか。


続きは来週を予定。

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コミックファイア様からコミック「槍使いと、黒猫。」1~2巻発売中。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボベルファになつかれるだけでなく操作資格まで手に入れるとは。何故か住民も居ないみたいですし、グルガンヌ地方に居着いてくれたら嬉しいですね。 [気になる点] ミトリは何故一人だったのか。 …
[一言] 玄智の森編?も終盤ですねー なんかあっという間だった気もするけど、リアル時間半年ほどで内容も濃密。 不思議とアキレス師匠との出会い~ヘカトレイルまでの旅を思い出しましたw←
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