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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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九十二話 見猿、聞か猿、言わ猿

2021/02/05 16:16 修正

 次の日――。

 いつものように起きた。


 朝一番からフローラルな良い香りが鼻を擽る。

 しかし、このベッド、柔らかくて寝心地が良かったなぁ。

 正直、眠気があればもっと眠りたかったりする。


 上半身を起こして、テント内を見た。

 他のベッドには不用心にもアウローラ姫が寝ている。

 エルメスとクロエの寝姿も見えた。


 まだ、二人共に寝息を立てている。

 余計なお世話だが……この姫様、今後も大丈夫だろうか。


 寝る前にも思ったが、いくら俺が命の恩人だったとしてもまだ出会ったばかりだ。

 寝る場所を共にするのは信用しすぎなような気がする。

 そんな姫様たちを起こさないように、そっとベッドから立ち上がる。


 黒猫(ロロ)も起きた。

 起こしちゃったかな?

 足の付近で寝ていたのか、ぬくっと小顔を上げた。


 ベッドからさっと降りて黒猫(ロロ)と一緒にテントから出た。

 外はまだ薄暗い。日の出はもうすぐかな。

 すると、両脇にいる兵士と副官サヒアが頭を下げてくる。


「あ、ども」


 自然と挨拶して丁寧に頭を下げていた。

 パブロフの犬じゃないが、条件反射。


 副官のサヒアは細い目をより細くして、頭を下げていた。

 もう一人の兵士はぎょっとした表情を浮かべている。


 そんな驚くことか?

 俺は王族の客? 

 となる立場なのだろうけど、一応は無名な冒険者だぞ……。

 気まずい。テントを離れ偵察を兼ねながら街道を歩いていく。


 街道の幅は二十メートル強はあるかな?

 モンスターの気配はない。

 ここで顔を洗うか。

 生活魔法の水を発生させて顔を洗っていく。


 おっ、前より水が勢い良く放出される。


 一気にドバッと出た。

 水神アクレシスの加護を得たからかな?

 まぁ、攻撃に使えるほどの勢いじゃないから微妙なんだが……。


 顔を洗い、木ブラシで歯を磨く。


 綺麗さっぱりとした。

 さて、夜明けまでには、まだまだ時間がある。

 いつものように、訓練をやっちゃいますか。


 一応、魔族の急襲に備えて掌握察を意識――。


「ロロ、訓練するから、自由に遊んでこい」

「にゃ」


 黒猫(ロロ)は馬車の上へ飛び上がり、くるりと体を回してはでれんと寝転がった。


 はは、相変わらず、高いとこが好きだな。

 頭はこっち側へ向けているから、槍の訓練の見学をするみたいだ。

 そんな黒猫(ロロ)を見ながら、楽しく訓練を開始した。


 魔槍杖を右手、魔剣を左手、交互に持ち手を変えながら、突き、薙ぎ、かち上げ、袈裟斬り、逆袈裟斬り、垂直斬り上げ、斬り下げといった動きを繰り返す。


 そんな調子で訓練を続けていると、周りがうるさくなってきた。

 どうやら、馬車上でじゃれるように槍の動きを追う黒猫の姿に兵士たちが萌えてしまったようだ。

 兵士たちは乾燥肉を黒猫(ロロ)にあげたり、俺の訓練の様子を見たりしながら携帯食を食べていた。

 視線は気になるが、構わずに続けていく。

 そして、日の出と共に訓練を終わらせると、見学していた兵士たちが拍手してきた。

 酒は飲んでいなかったが、何人かの兵士はまだ、パンやら肉を口へ運んでいる。

 俺もついでにパンをアイテムボックスから取り出しては一口、二口、と胃の中へ放り込んだ。

 その中には騎士団長のエルメスと副官のサヒアがいる。

 エルメスとサヒアは俺の視線に気付くと、手を叩きながら近付いてきた。


「――さすがだ。素晴らしい動きです。淀みの無い洗練された槍捌き。あれだけの魔族を屠るのも頷ける……」

「そうですね。団長の言う通りだ。我々、護衛騎士百花団も精進しなくては」


 そんな真顔で褒められると、正直、照れる。


「……はは、槍には自信がありますから」

「頼もしいかぎりです。聖都まではまだ三日はありますからね。今後も期待しています」


 馬車で【聖都サザムンド】まで三日の距離。

 まだ結構離れているらしい。


「三日ですか、あ、そろそろ出発ですか?」

「はい。もう馬車には姫様とクロエは乗っていますから、軽く食事は済みましたのですぐにでも出発は可能です」


 待たせちゃったのか? 

 そういえば聖都が囲まれてる可能性が……。

 呑気に訓練を行ってしまっていた。


「……すみません。時間をとらせてしまって」


 軽く謝った。


「大丈夫ですよ。姫様が馬車に乗ったのは、今さっきのことですから」

「そうですか。今、行きます――」


 馬車上でまどろむ黒猫(ロロ)を連れ小走りで馬車の中へ入る。

 席に座ると姫様が話しかけてきた。

 姫様の口端にはパンにつけるブルーベリージャムが微かに残っている。

 さっき報告があった通り、姫はアイテムボックスを持っているから軽く朝食を済ませたのだろう。


「シュウヤ様。訓練をなさっていたとか」

「はい」

「兵士たちが口々に語っていました。紫と紅き流閃が漂う斧槍の動き。目で追えない槍の動きが凄すぎると、それに剣も扱うとか……あれだけの魔族を屠る技術。わたしも見学したかったです」

「そんな見せびらかすモノではないですから」

「ふふ、わたしはシュウヤ様の槍捌きをもっと見たいのです。いつか見学させてくださいね」


 訓練をそんなに見たいのか?


「わかりました。姫様がお暇な時間にでも、言ってくだされば」

「はいっ、楽しみにしています」


 そんな会話を続けていると、馬車はもう進みだしていた。


「姫様【聖都】に近付くほど、魔族が出没する可能性が高いです。数が少なければ、このまま馬車で強行突破します。多ければ、副官と百花団を残し、わたしとシュウヤ殿にクロエの三人で魔族を排除しながら進もうと考えています」

「わかりました。エルメス、クロエ、シュウヤ様。お願いします」

「はい」

「勿論です、姫」

「お任せを」


 エルメスとクロエは慇懃な態度で頭を少し下げる。

 俺もその態度を真似て答えた。



 聖都まで、一直線といったように馬車は進む。

 実際は曲がりくねった街道もあるので速度は落としていたが……。


 おっ、魔素の気配だ。

 数は多くない。


 その時、馭者の叫ぶ声が響いた。


「右辺の森にグリズベル、レッサーデーモンを視認しました。数は少ないです」

「無視だ。魔族も様子見だろう。進め」


 エルメスが言っていた通り魔族たちは襲ってこなかった。

 この日の魔族たちの接触はそれだけに終わる。


 次の日には違う種類の魔族が出た。


「マッカーヤの魔族を視認しました。数は少ないです」

「チッ、B+の強敵……数が少ないのなら無視だ。このまま馬車を進めろ」


 途中、疎らに魔族の姿を森の中で見かけるだけで街道で鉢合わせすることなく進むことができた。


 しかし、三日目になると、街道に犇めくように魔族たちが現れ始める。


 その度に俺と黒猫(ロロ)が出陣。

 街道掃除をするように魔族を討ち払っていく。


 途中から倒す成果を競うようにエルメスとクロエも魔族退治に参加を始めていた。


 この二人、中々の強さ。連携しながら確実に屠っていく。

 お陰で、素早く魔族退治は完了することになる。


 四日目の昼過ぎに【聖都サザムンド】の城壁が見えてきた。

 だが、ここで馬車は完全に止まる。


 馭者が怯えて声を震わせていた。


「エ、エルメス様っ、魔族、魔族があんなに……城壁へ向けて攻撃が行われています」

「……やはり【聖都】が囲まれているようだ」


 また、俺たちの出番か。


「それじゃ、また、その辺にいる魔族たちを掃除するよ」

「しかし……今回はさすがに数が多い」


 エルメスさんは団長で経験もあるとは思うが動揺しているのだろう。

 まぁ、無理もない。

 【聖都】が、大勢の魔族たちに攻撃されているんだから。


「エルメスさん。この四日間。俺とロロの戦いを見ていたはずです」

「はい、確かに……ですが、この数は……」


 おっ、心配してくれるらしい。

 頬がちょいと赤みがかってる。


 騎士たる顔は失せて、女の顔を魅せていた。


 安心させてやろう。


「……大丈夫ですよ。確かに魔族の数は多い。ですが、魔竜王や竜種たちの大群に比べたら、易しい敵ですから」

「竜の大群、そのような経験を……分かりました。では、わたしは護衛騎士団長として副官サヒアと共に姫様の守りを固めます」


 エルメスさんは竜の姿を想像したのか、一瞬笑顔を見せると、クロエと姫様の様子を見ながら話していた。

 クロエさんも杖を片手にエルメスさんの言葉を聞くと頷いている。


「わたしも魔術師長として、ここで姫は守ります。シュウヤ殿は存分に前方で暴れてください。後、必要ないかもしれませんが一応注意事項だけを報告しときます。マッカーヤと呼ばれる魔族はB+です。魔物に指示できる知能もありますし、剣や魔法を巧みに使うランクにとらわれない強敵と思ってください」


 剣と魔法ね。覚えとこ。


「ありがとう。情報はありがたい。クロエさんも気を付けてください。姫様を頼みます」

「はい。勿論です」


 クロエさんは短く返事すると、姫様が前のめりの姿勢で俺を見る。


 馬車の中なので、顔が近い。

 碧色の瞳がうるうるしてる。小さい唇が動いた。


「――シュウヤ様もですよ? わたしも姉のように戦えれば良いのですが、わたしには回復魔法しかありません。ですから、ここでご無事をお祈りしています……御武運をっ」


 姫様は真剣だ。

 その思いに応える。

 顔が近い姫様からずれるように下がり、そこで膝を馬車の底板へ付けてから真摯に気持ちを込めて頭を下げた。


 最初で最後の臣下の礼を行うように。


「はい。お任せを。依頼は必ず全う致します。では――」


 立ち上がり笑顔を浮かべてから馬車を出る。

 歩きながら聖都の城壁へ攻撃している魔族たちを見た。


 数はどれくらいだろう。百か二百は軽く超えてくるか……。

 街道を占拠するようにグリズベルの弓部隊が整列している。

 グリズベルの小隊の前にはレッサーデーモンとグリズベルの近接部隊の群衆が列なっていた。


 グリズベルの弓部隊は掛け声を発しつつ聖都の城壁の上にいる兵士たちへ向けて矢を放っている。


『ヘルメ出ろ』

『はいっ』


 左目から液体ヘルメがスパイラル放出。

 地面に膝をついた状態で現れた。


「状況は分かっているな?」

「はっ」


 ヘルメはその場で立ち上がると、右手に氷剣を生成、左手に闇靄を漂わせる。

 全身の黝と蒼の葉っぱの皮膚を靡かせるようにウェーブさせては人型タイプの状態で街道の左辺へ走る。

 常闇の水精霊ヘルメは走りながら左手を振るい、多数のグリズベルの視界を闇雲で奪い混乱させた。更には狙いを付けた混乱しているグリズベルの尻穴へ氷剣を突き刺している。


「ハハハハハハハッ、生意気なお尻ですっ! 閣下のご威光によりっ、平伏しなさいっ!」


 笑っていた……ヘルメ。少し怖い。


 だが、笑ってはいられない。俺も気張る。

 グリズベルの群れに睨みを利かせた状態で外套を払い、真横へ伸ばした右手に魔槍杖を出現させた。

 そして、肩から地面に降りた黒猫(ロロ)を見る。


 黒猫(ロロ)もヘルメの姿に驚いていたようで、黒毛を逆立てながらヘルメの動きを見ていた。


「ロロ、俺たちも行くぞ。手当たりしだい魔族たちを狩る」

「にゃ――」


 相棒は黒豹と化す。

 後ろ脚で地面を蹴り、黒豹らしい力強い四肢の躍動を見せては爪跡を残し、土煙を上げながら右辺へ向かう。

 黒猫(ロロ)はヘルメとは違う、右の森林にいる魔族たちを殺るらしい。


 俺はヘルメが戦う街道に群がる魔族たちを狙おうか。

 魔槍の紅斧を水平に寝かせてから、魔族たちのもとへ駆け寄っていく。

 弓矢を射ち続けているグリズベルの弓部隊。

 走りながら魔槍を扇状へ振るい薙ぎ払う。


 紅き流閃の薙ぎ払いにより、グリズベルの胴体を輪切りにする。

 弓を持つ上半身と下半身の馬に分かれ、青い臓物と血が周りに飛び散った。


 間髪容れずに魔族の群衆へ向けて――<鎖>を射出する。

 最高速度で出す鎖の初速はもう常人では捉えられないほど速い。

 鎖はパイルバンカーのように手前にいたグリズベルの背中を貫くと、骨、肉、臓器を破壊しながら突き進み、他のグリズベルやレッサーデーモンたちも同時に貫いていく。


 血濡れた鎖は何十の骸を貫いた状態で、真っ直ぐに固定された。

 連なった魔族の骸たちは団子のようにも見える。


 魔族の死骸で作る団子な十兄弟。

 このまま、肉団子を利用してやろう。

 ジャイアントスイングの如く。

 ――鎖で大円を描くように肉団子たちを振り回す。


 近接や弓部隊の魔族たちを吹き飛ばしながら、魔族たちで犇めき合っていた空間を無理矢理にこじ開けた。


 そこからは俺の独擅場と化す。


 目が回るぐらいに三百六十度振り回した鎖を消すと、貫かれていた数十の骸が一斉に周りへ飛び落ちていく。

 そのまま、魔槍杖をくるりと回転させ正眼に構え持った。


「糞魔族! 掛かってこいっ!!」


 言葉は通じないだろうが、大声で挑発する。

 敵が槍の圏内に入るのを待った。


 挑発(叫び)に誘われたか判別できないが、近くにいたグリズベルの小隊が唸り声をあげて次々と円の中心にいる俺へ群がってくる。


 ――グリズベルが魔槍の圏内に入った。


 間合いに入ればどんな物でも、悪・即・斬だ。


 紅矛が――グリズベルの胸を突き

 紅斧刃が――グリズベルの胴体を薙ぎ払い

 竜魔石が――グリズベルの金玉を潰す


 魔槍と共に俺もステップを踏んで宙を舞う。

 瞬時に三体のグリズベルを屠った。


 だが、まだまだ敵の数は多い。


 魔槍を下段からのゴルフスイングをするように弧を描きながらの斬り上げを行い、敵の胴体と足を切り離す。

 背中に迫った長剣の袈裟斬りも、柳の葉が舞うようにひらりと爪先を軸とした半回転の回避行動で躱しながら、反撃の返し突きを伸ばしてはグリズべルの胴体を紅矛で串刺しにした。


「ひぎゃぁぁぁぁぁ」

「なんだ、あの槍はっ! 燃えているぞっ」

「おら、魔界へ帰りてぇぇ」

「おいらもだっ、逃げるぞ、うああ、そっちは葉っぱ女が暴れているっ、気を付けろっ」


 魔族らしくない恐怖が入り交じった苦悶の声が周囲に伝染していく。

 逃げるグリズベルたちの方角で、暴れている常闇の水精霊ヘルメの動きが見えた。


 ヘルメは囲まれると瞬時に身体を液体と化して物理攻撃を避けている。

 彼女は地面をスライム状態でぬめり動きながら、無数の氷礫を放ち数体のグリズベルの足へ氷礫を衝突させ地面へダウンさせていた。

 更に、液体状態であるヘルメは地に倒れたグリズベルの口の中へ侵入。

 グリズベルは苦悶の表情を浮かべている……溺れさせたのか、脳に侵入したのか、分からないが死に至らしめていた。


 死んだグリズベルの口から放出したヘルメは瞬時に人型へ変身。

 ヘルメは睫毛が長い瞳を散大させると、頭から手を回し唇に手を当て悩ましく身体を捻りながら独特のポーズ(ジョジョ立ち)を取り、小さい唇を動かす。


「アハハハハハッ、下等魔族ぅ、まずい血だけど閣下のために貰い受けましたよ!」


 恍惚の表情を浮かべては、そんなことを叫んでいた。


 戦場だが、一人、いや、女精霊が目立っている。


 グリズベルたちは逃げ惑うが、俺にまだ立ち向かってくるやつもいた。

 そこで<鎖の因子(左手の手首)>から鎖を放出。

 偽槍へ変化させて、左手にその鎖製の偽槍を持ち、右手に魔槍杖を持った。


 我流・二槍流の誕生だ。

 早速、近付くグリズベルの胸板へ疑似槍で<刺突>を放つ。

 最初はすんなりケーキに入刀するような手応えだったが、途中でつまる。

 これはしょうがない。

 鎖の先端(ピュアドロップ)は紅矛よりも鋭いが、所詮は即席イメージで作り上げた偽槍。先端以外は凸凹しているし、太い鉄棒みたいな感じだからな。

 ま、これはこれで――跳躍しながら左から迫ったグリズベルの頭へ疑似槍を振り下げる。西瓜(頭蓋)割りには使える。

 殴れば威力はあるし、フェイントにも役に立つ。

 右手に持った魔槍と交互に疑似槍を振り回しては次々とグリズベルの肉塊彫刻を作り出していく。


「怯むなっ! こいつと葉っぱ女だけだぞっ」

「うおぉぉぉぉ」


 魔族の言葉は理解できるので、あんなことを言っている。

 小隊長クラスの魔族を視認した。

 こいつらは普通にやるか。疑似槍を消し、いつもの風槍流の所作を取り構える。

 今度はレッサーデーモンたちだ。


 グリズベルの群れを一飲みした俺に、レッサーデーモン共が三百六十度。俺を中心に逃げ場がないように囲い出す。


 戦争の定理でもある。

 数の論理(ランチェスターの法則)で押し潰すようだ。


 だが、動きはバラバラなので魔族にはそんなもの(戦争知識)は無いのかもしれない。

 俺を討ち取ろうと三又槍が前方、扇の方向から四つ迫ってくる。

 しかし、魔槍杖を正眼に構えた状態で、俺は動かない。


 まだまだ、ぎりぎりで待つ――ここだ!


 三又槍が伸びきったタイミングで四つの三又槍の穂先を、魔槍杖の紅斧一薙ぎで打ち上げ、上方へ三又槍を跳ね上げた。

 レッサーデーモンたちはバランスを大きく崩し胴体を晒す。


 ――その隙を逃すわけもなく。


 魔槍杖を左へ円を意識するように回転させながら後端にある竜魔石へ魔力を込め隠し剣(氷の爪)を発生させる。

 氷の両手剣は伸びに伸びて後ろにいたレッサーデーモンを突き刺しながら、氷の両手剣が生えた魔槍杖を左から右へと強引に大きく百八十度の半円を描くように振りぬいた。


 レッサーデーモンたちの胴体を輪切りにする。


 下半身だけとなったレッサーデーモンの胴体からは火山が爆発したように血が溢れ出す。

 俺にも大量に返り血が掛かるが、そんなことは構わない。

 魔槍杖を振り回し、狂瀾怒濤(きょうらんどとう)の勢いでこの場を制圧していく。


 三十から五十は殺っただろうか。

 もっとか。気付けば、地面に大量の骸が転がり夥しい量の血池ができていた。

 そこで、魔槍の後端に生えた隠し剣(氷の爪)を消失させる。

 ヘルメは左の森へ移動したのか消えていた。


 かなり倒したと一呼吸……置いた時、火炎玉が飛翔してくるのが視界に映る。


 ――急だな。

 ――避けるのではなく、潰す。


 魔槍杖の穂先――紅斧刃で迫る火炎玉を両断してやった。


「――ほぅ、我が火炎を斬るとは、人族にしてはやるようだ」


 そう話しながら近付いてくる魔族。

 目が暗い真鍮色。全身から赤毛がぼうぼうに伸びている。

 右手には長剣を持ち、左手が肩口まで火炎の渦が蛇のように渦巻いていた。


 人型より、猿系、斉天大聖だな。

 こいつは、ここらを率いていたボスのようだ。


「魔族のマッカーヤとかいう奴か?」

「そうだ。我が種族名である」

「マッカーヤの猿か。来いよ。多少は歯応えありそうだ」


 魔槍杖を右肩に回し置く。

 左手を伸ばして、ちょちょいっと指で誘う。


「人族風情が、無礼(なめ)たまねをっ!」


 別になめちゃいねぇよ。

 マッカーヤは赤髪の毛が逆立ち、吶喊してきた。


 悪いけど速攻で終わらすっ――<鎖>を射出。


 狙いはマッカーヤの足。

 鎖は前屈み状態で突撃してくるマッカーヤの足を貫く。

 足を絡めて転倒させた。


 マッカーヤは見事な勢いで地面と衝突(キス)


「グァッ、な、なん――」


 マッカーヤは両手を使い起き上がろうとする。

 だが、倒れているマッカーヤへ向け魔脚で前進。

 間合いを潰す。猿なんぞにこれ以上口を開かせるつもりはない。

 見猿、聞か猿、言わ猿。

 日光東照宮を思い出しながら、再度、魔槍杖の後方部、石突の部位である竜魔石へ魔力を込め氷の両手剣サイズの隠し剣(氷の爪)を生成し、そのまま魔槍杖を下げて猿の眉間へ隠し剣(氷の爪)を突き刺した。

 眉間を刺し貫かれた赤猿は歌舞伎役者のように寄り目を作り、口から真っ赤な長い舌をだらりと出しては動きを止める。


 赤猿は物言わぬ猿となり死んでいた。

 その瞬間、周囲にいた魔族全てが一心不乱に退いていく。


 まさに、総崩れ。

 聖都の壁上にいた弓兵たちは大声で歓声を上げている。


「……呆気ない幕切れ。ま、勝ったからいいか」

「ンン、にゃにゃっ」


 ん、黒猫(ロロ)だ。

 また捕らえた獲物を自慢するように帰ってきた。


 と言うか、いったい、何匹殺したんだ? 

 触手骨剣の先には数十のグリズベルにレッサーデーモンの骸がぶら下がっていた。


 すげぇ、俺より倒した数が多いんじゃ……。

 触手の扱いは相変わらずに器用だ。

 死体がぎゅうぎゅう詰めになって焼き鳥でも焼くように詰め込んでいるし……。


「ロロ、凄いな……頑張った。その重そうな獲物は下ろしていいぞ」

「ンンン、にゃにゃぁ」


 黒猫(ロロ)は触手を収斂させて獲物を振り落とす。

 そのまま体をぶるぶると震わせて、返り血を吹き飛ばしてきた。


 毎回だが、あんさんは犬かいっと突っ込みを入れたくなる。


 というか、俺も返り血を浴びちゃったなぁ。

 生活魔法の水で落とすか。


 そこにヘルメが戻ってきた。


「閣下っ、左の敵をすべて死滅させました」

「おう、少し見てたが凄かったな」

「ははっ、閣下のお役に立てて光栄です」

「それじゃ、汚れを落とすか……」

「閣下、お待ちください。わたしが水となり閣下の全身を包めば汚れを落とすこともできますし、血を分離させ吸収させることもできます。吸収した血はその場で直接吸って頂くことも、わたしが閣下の目に戻り、そこから閣下の体内へ流すこともできます。更にわたしの体内に血をストックさせておくことも可能です」


 おお、そんなことが可能なのか。


「良いねそれ、便利だ」

「はい」

「それじゃ早速、全身に付着してる血を吸収。汚れは洗浄して」

「畏まりました」


 ヘルメは瞬時に液体化。

 液体がぐにょりと持ち上がり宙を漂うと、丸みを帯びて水球体へ姿を変化させる。

 その水球が弾けると、俺の全身へシャワーのように降りかかった。

 髪、顔、鎧、の表面に付着した水は蠢き透明な水膜となって、外套から古竜のスケイルメイル表面、身体の全てを包む。


 その包まれた瞬間、汚れが消えていた。

 もう綺麗になっているし、水膜は薄いが不思議だ。

 これがヘルメなんだろうけど。

 掃除が終わると、体のあちこちから水が浮き出てきた。

 それら水分が目の前に集合し、一つの水球を形成。水球から足が生えて蒼葉の胴体が出来てヘルメが形作られ片膝を地面に付けたポーズで現れる。


 一瞬のコンマ何秒の間だが、その奇妙な動きからシュワちゃんの敵だった液体金属サイボーグ(T1000)の姿を思い出した。


「速いな」

「はい。閣下、血を吸いますか?」

「あぁ貰っとく」

「はい、ではっ――」


 っと、ヘルメは少し体を浮かせながら俺に抱きつき口付けしてきた。


 ここから吸え? お? 血が口の中に注がれてくる。


 ヘルメの柔らかい身体を抱きしめ小さい唇を堪能しながら血を飲み込んでいく。

 う~ん。エロいかも。

 だが、不思議と股間がたぎることはなかった。

 今は戦場だ。気が高ぶり勃起とかする変態(カリィ)じゃない。

 そんなことを考えながら濃厚なキスを味わう。

 血が無くなると、ちゅぱっと卑猥な音を立ててヘルメは離れていく。


「閣下……美味しかったですか?」

「満足した。またいつか頼むかも」

「はい。喜んでお任せください」


 ヘルメは黝色と蒼が混ざる綺麗な髪を靡かせて、妖艶な笑みを魅せる。


「それじゃ、目に戻ってこい」

「ハイッ――」

「シュウヤ様~、シュウヤ様~」


 ヘルメが俺の目に戻ると、アウローラ姫の声が届く。

 姫様は馬車から顔を出して手を振っていた。


 姫様を乗せた馬車は、散々に殺しまくった俺が言うのも何だが、無惨にも魔族の死体を踏み越えてくる。


「姫様。大丈夫でしたか?」

「それはこちらの台詞です。それより何があったのです?」

「はい、マッカーヤという種族の赤猿魔族を倒したら、一斉に他の魔族たちが退いていきまして……」

「わぁ、凄い。凄いです。指揮官の魔族を倒したのですね」

「姫、魔族は退きましたが、まだ何があるかわかりません。急ぎ、聖都に入りましょう」


 エルメスさんの声が馬車の中から聞こえた。


「そ、そうですね。シュウヤ様も乗ってください」

「いいんですか?」

「当たり前です。“英雄”なのですから。ささ馬車へ乗ってください。すぐにお父様が居る聖都の城にいきましょう」


 英雄か、柄じゃない、甘言だな……。

 美しい物に懲りよと唐辛子(クナショック)が脳裏に過る。


「では、お言葉に甘えて……」


 眉に唾をつけるように考えたが、結局は美人さんに甘える俺であった。


 姫様を乗せた馬車は魔族の骸を轢きながら壁の城門に到着。

 馭者が第三王女でありアウローラ姫であると高らかに宣言している。


「公務からのお帰りだ。さっさと門を開けろっ」


 数十分、待たされると……門が開いた。


 馬車は門を潜り、聖都の都市へ入っていく。


 兵士たちが待ち構えていた。

 馭者がさっきと同様に叫ぶと兵士たちは喝采して道が開かれる。


 兵士たちが屯していた大通りを馬車は進んでいく。

 次第に兵士たちの姿は見えなくなる。

 街並みが見えてきたので、身を乗り出す形で馬車横にある木枠から顔を出す。


 へぇ、綺麗な街だ。


 これが聖都の町並み。

 森が繁っていた街道通りとは一変している。


 白い石畳の道が一直線、両サイドには並木通りが整えられていた。

 石畳の両脇には黄土煉瓦や石造りで造られている家が多い。

 この街並みに、思わずフィレンツェの情景を想起する。


 そして、街並みの向こう、通りの先に見えたのは、白き大きな王城だった。

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