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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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九十一話 ついでながらの護衛依頼

2021/02/05 15:58 修正

2021/02/05 18:10 修正

 馬車の中で姫様と護衛騎士団団長と仲良く会話を続けながら森に挟まれた街道を進んでいた。


「なるほど。シュウヤ様はその〝サデュラの森〟と呼ばれる場所に行きたいのですね」

「そうです。場所を知っていますか?」

「噂でしか聞いたことはないですが、【魔境の大森林】の遥か南東に存在するとか。マハハイム山脈の麓まではいきませんが、山沿いの広い広い森林地帯にそのような名前が付いていたと、聞いたことがあります」


 こりゃいい情報。

 護衛騎士団団長なだけはある。


「噂でもありがたい。エルメスさん、他にそういう情報を知っていますか?」

「いや、過去に十字軍で進軍したが、廃墟となっているはずの【皇都キシリア】さえ見られなかったからな……クロエ、護衛隊魔術師長のクロエなら何か知っているかもしれないが、はたして……」


 十字軍か。


「クロエさんですか。その方は安静にしている?」

「そうだ」

「体調がよくなり次第、クロエに聞いてみるといいでしょう」

「はい。そうしてみます」


 そこで、団長エルメスは馬車の木窓へ視線を移す。

 夕暮れの淡い闇を見ながら、


「――そろそろ日が陰ってきましたね」


 と、姫様を伺いながら語っていた。


「そうですね。少し、不安です……」


 姫は護衛騎士団団長の言葉を聞いて同意しながら、顔色を悪くしていた。

 さっきの襲撃のことを思い出しているのだろう。

 姫とは言え、彼女の護衛依頼だ。顧客(美人)の不安を拭ってやるのも仕事(男の見栄)


「アウローラ姫、護衛騎士団団長であるエルメスさんも居ますし、たとえ、モンスターが襲ってきても俺がなんとかしますよ」

「ンン、にゃにゃ」


 俺の見栄(かっこつけ)な声に合わせて、頭巾の中で寝ていたはずの黒猫(ロロ)が鳴き声を出していた。


「ふふ、猫ちゃんの声が聞こえてきました」


 姫さんはちょこんと顔を横へずらして、俺の背中を見て話している。


「わたしもいるニャ的なことを言ってるつもりなのでしょう」

「可愛らしいです。姿が見られないのが残念ですが……」

「あ、頭巾から出しましょうか?」

「いえいえ、寝かせてあげといてください」


 手をふりふりして、にっこりと笑顔を見せる姫様。

 動作がいちいち……可愛い。こりゃ、モテるだろうな。


「……いいんですか? わかりました」


 背の頭巾を動かそうとしたが止めた。

 やがて、完全に日が沈み夜になると、馭者は馬車の速度を緩めていた。

 後方に続いている馬車や馬に乗った兵士たちも同様に徐行になっている。


 夜間ぶっ続けで馬を走らせるわけにはいかないか。


 一応、警戒、掌握察を繰り返す。


「姫様、そろそろ野営の準備をします――」


 エルメスさんが木枠の取っ手を押さえながら姫へ話していた。


「わかったわ。できるだけ見通しの良いところで止めてください」

「カルロス、聞いていたな」

「へいっ」


 姫様の言葉に頷いたエルメスさんは馭者の兵士へ指示を出していた。

 馭者は指示された通りに街道の端へと馬車を寄せていく。


 野営の準備で忙しくなる前に、少し疑問に思ったことを聞いてみる。


「……ところで姫様たちは、どうしてここの街道を通っていたのですか?」

「それは隣国である【宗教国家ヘスリファート】からの帰り道でしたので」

「なるほど」

「はい。使者としての公務を終えての帰り道でした。教皇猊下、ノスタリウス三世様に親書をお渡しし、無事に会談を終えて【聖都】に帰る途中だったのです。わたしは第三王女ですが【聖王国】の親善大使でもあるので」


 教皇……【宗教国家ヘスリファート】の頂点だよな。

 姫様たちは外交使節団か。


「会談とは重要な、ん――」


 そこで、外に動いてる魔素の反応あり。

 兵士たちじゃない。更に外からだ。


「どうかしましたか?」


 話を途中で止めた俺に姫は怪訝そうに見る。


「モンスターか盗賊か、わからないですが、近寄ってくる気配があります」

「――何ですとっ」

「――まぁ」


 騎士団団長エルメスとアウローラ姫は驚いていた。


「エルメスさんはここで姫様を。俺は外で迎撃してきます。ロロ起きろ、仕事だ。出るぞ」

「にゃお」

「……わたしも一旦、外へ出よう」


 エルメスさんの言葉に、頷いてから黒猫(ロロ)を連れて馬車の外へ出た。


 周囲の兵士たちは野営の準備をしている。

 まだ誰も気付いていないらしい。


 俺が指示を出そうとしたが、エルメスが横から手を出してきた。

 兵士たちにはエルメスさんが指示を飛ばすらしい。


 当たり前か。


「おいっ、サヒアッ、周囲からモンスターが近付いてくる。警戒態勢を取れ」

「ハッ――、お前たち、団長の言葉を聞いただろう? 守備隊形を取れっ」

「はい!」

「お任せをっ」


 兵士たちは副官であるサヒアの指示に従い円陣で馬車を囲い出す。


 モンスターとみられる魔素の反応は左の森と街道の向かう側の森林地帯からも近付いてくる。

 俺たちを囲うように動いているようだ。


「ロロ、左の森を任せた。自由に狩りを楽しんでこい。俺は右へいく」

「ン、にゃ」


 黒猫(ロロ)は肩から飛び降りると、振り向かずに森の中へ消えていく。


 ヘルメ、目を借りるぞ。


 ディフォルメされたヘルメが視界に現れる。

 ヘルメを捉えて、イメージでヘルメを掴むと彼女は消えた。


『はい』


 精霊の目を発動させた。


『アンッ』


 喘ぎ声はだいぶ抑えたようだな。


『ハ、ハイィ』


 ……ヘルメの変な声は無視。

 精霊の目である熱センサーで周囲を確認。


 右の街道を見ていく。

 街道に現れたのは……。

 このシルエットからして、モンスターだな。


 掌握察、<夜目>、精霊の目でしっかりと見た。


 反応がぽつぽつと増えていく。


 精霊の目は凄いな、明るさで敵の恰好が丸わかりだ。

 モンスターは角を二本生やし手足が長い。

 手には武器を持っているようだ。

 あくまでもシルエットだが、典型的な悪魔の姿を想像させた。


 よし、やりますか。右手に魔槍杖を出現させる。

 その前に一応、エルメスさんや周りの兵士たちに話しておこう。


「モンスターが現れたようです。俺が右側に打って出ますから、皆さんは姫様の守りを優先してください」


 護衛騎士団の団長であるエルメスは厳しい表情を作り、


「了解した――皆もいいな?」


 周りにいる兵士たちに話しかける。

 副官サヒアと兵士たちは一斉に姿勢を正し、


「「はっ――」」


 と返事をしてきた。

 兵士たちは気合いが入っている。


 そのやる気ある気概に感心。

 俺も頷くとすぐに行動へ移った。


 地面を蹴り右の街道に向かう。

 <夜目>と精霊の目で視認する。


 夜間でもモンスターの姿がはっきりと分かる。


 シルエット通り。身長は三メートルはあるか。

 耳の上から黒々とした二つの反った長い角が目立つ。

 髪は湿った感じの黒い羊の毛のようだ。

 目玉は大きく、逆三角形の羊顔をしている。


 顎には羊髭を生やす。

 頬はゲッソリと皺があり、不気味だ。

 

 手足が想像以上に長い。

 両手持ちで長槍を持っている。

 そのザ・悪魔といった感じ者たちの前で止まった。


 殺る前に少し、話してみるか。


「話ができるか? こっちにくるなら攻撃する」

「ガァゴ? (人族か?)ガァゴゴルべ? (こいつ馬鹿か?)ギャハハハ。ヅゴジデ、ヅゴジデ、バッ、オヅゴジデルッ(殺せ、殺せ、皆、すべて殺すのだっ)」


 ケンタウロス擬きとは違う言語を話していた。

 今後は、キモい言語は省略したい。


 なまじ、理解できてしまうのが嫌すぎる。

 嗤っている悪魔のモンスターは槍を構えると突撃してきた。


 三又穂先が迫る。

 農民が一揆の時に使うようなフォーク型の武器だ。

 

 範囲が広い嫌な矛。

 が、突きの速度が遅い。


 こんなのは食らわんよ――。


 魔槍杖を上から下に動かした。

 紅斧刃が、三又槍の穂先と衝突。

 そのまま、魔槍杖を斜め前に傾けた。

 力を意識――。 

 互いの武器から擦れた金属の擦れる音が耳障りだ。

 が、このまま悪魔が持つ三又槍を地面へと押さえていく。


「グキキキッ、フガァッ」


 羊顔の悪魔は必死に三又槍を動かそうとする。

 が、魔槍杖の先端である紅斧刃は微動だにしない。


 このモンスター、臭そうな息を出している。

 すぐに、終わらせてやろう。


 三又の槍を押さえながら素早く体を前回転。

 同時に、三又槍を押さえていた魔槍杖もコンパクトに縦回転させた。

 魔槍杖の穂先の紅斧刃が――。

 悪魔の眉間を捉えた。

 紅斧刃は悪魔の眉間を割るように頭蓋の中に沈み込んだ。

 悪魔の羊頭を真っ二つ。そのまま紅斧刃は胸半ばまでを切断――。


 じゅあっと血が焦げる音が響く。

 赤黒い血が、裂いた頭部と胸の断面から噴出――。 

 悪魔が三又槍を握る力など、あるわけもない。


 握った腕も力なくぶらりとなった。

 三又槍も地に落ちていく。


「糞ガァ、かこめ、かこめぇぇぇ」


 他の悪魔たちが叫ぶ。

 仲間意識があるらしい。

 あっさりと仲間が殺されたせいか憤慨したようだ。


 左右にいる悪魔たちが三又の長槍を、俺の脇腹と首を狙う。


 左から武器が先か。

 紅斧刃が埋まった悪魔の死体を蹴る。

 魔槍杖を素早く引き抜きながら魔槍杖の柄を右腋に固定――。

 右腕で魔槍杖の紫の金属棒をしっかりと固定してから――。

 踵を軸とした、横の回転を実行。

 左から迫った三又穂先の攻撃を、くるりと、回って避けた。


 そして、その回転と同時に悪魔の懐に潜らせていた紅斧刃が悪魔の横っ腹を裂いた。

 臓腑を撒き散らした悪魔。

 苦しげに何かを語りながら地面に倒れていく。


 今度は右から三又槍が二つ。

 前方からも三又槍が迫る。

 前方の悪魔には<鎖>を射出――。


 直進した<鎖>は悪魔の胸に風穴を作る。

 難なく倒す。

 即座に、横移動。

 手前の悪魔が繰り出した三又槍を避けた直後――。

 左回し蹴りを悪魔の胴体へ喰らわせ吹き飛ばす。

 俺の胸を狙う、もう一匹の悪魔が出した、三又の突槍には――。


 左手に持ち替えた魔槍杖の穂先を使う。

 斜め前に出した紅矛の穂先で、三又の刃を受け持った。


 相手の三又槍を左手一本にもった魔槍杖で押さえる形。

 そこから強引に、魔槍杖で月を描くようにぐるっと左腕を動かした。


「ぐぐ、力がある!」


 と、語る悪魔を無視。

 悪魔は三又槍を握る力を強めているのか、震えていた。

 

 そのタイミングを読む。

 いいところで――。

 魔槍杖を握る力をワザと抜く――。


 相手の三又槍を外させた。


 悪魔が「ギアァ?」と疑問声を発し、三又槍が一瞬浮く。

 しかし、悪魔は逆にチャンスだと思ったのか――。


 三又槍の穂先を俺の胸へ向け直して攻撃してくる。


 胸に迫る三又の矛。


 ――誘いに乗った。


 魔脚を使う。

 地面を蹴り跳ねた。

 そのまま体を捻り回る――。

 空中でくるりと回りつつ、迫った三又の矛を宙で避けつつ着地――。

 続けて悪魔へと、体をぶつけるように魔槍杖の穂先を悪魔の腹へとぶっ刺した。

 紅矛と紅斧刃から、ジュッと鈍い音が立つ――。

 悪魔の腹に紅矛が深く沈む。

 更に、そこから捻り引く。

 紅斧刃をミキサーのように回転させた。

 悪魔の腹を引き裂くように倒す――。


 その場で魔槍杖に付着した血を払い、正眼に構え直した。

 今の動きに圧倒されたのか、悪魔たちはむやみに突っ込んでくることはなくなった。


 距離を取ったのなら、俺も別の手段で対抗するだけだ。

 魔槍杖を瞬時に消す。そして、左手を翳し、<鎖>を射出。

 だが、直進させずに鉄槌ハンマーに変化させた。


 その鎖により作られたハンマーを持つのではなく。

 <投擲>してやる。


 目の前に居る羊悪魔は、突然現れた巨大ハンマーな飛び道具に反応ができない。

 羊頭の角頭へハンマーが直撃して、頭がひしゃげ首がひん曲がり、頭が逆さまになっていた悪魔は地面に沈む。


 よっしゃ。成功。


 鉄槌巨大ハンマーと化した<鎖>だが、あくまでも<鎖>。

 左手から生える<鎖>を垂らし、左手をぐるぐると回して、鉄槌ハンマーを振り回す。


 モーニングスターを進化させた感じだろうか。

 目の前の悪魔を沈めると、調子に乗って楽しくなってきた。


 左腕を伸ばしては、<鎖>を右手で持ち、踊るように体と鉄槌ハンマーを動かして羊悪魔たちへハンマーをぶつけていく。

 誰が見てるわけでもないが、かっこつけながらポーズを決めたり無駄に回転したりして、鎖ハンマーを扱っていた。


 獲物を追うハンター化した鎖製巨大ハンマーは血が滴り真っ赤になっている。


 頭を潰し胴体を凹ませ腕や足を潰しては、悪魔を屠っていく。

 悪魔たちはそんな鎖ハンマーに脅威を覚えたのか更に距離を取り離れようとした。


 だが、<鎖>の射程は長い。

 俺も踊るように前進しているので距離は離れなかった。


 しかし、モーニングスターなんて武器は今の今まで使ったことがないわけで……それは当然の如く。拙く、単純な動きしかできない。


 次第に悪魔たちはハンマー対策を取ってきた。


 悪魔は三又槍の穂先でハンマーを防ぎ出す。

 ついには、複数の三又槍にハンマーが絡まってしまい封じられてしまった。


 だが、そんなことは予想済み。ニヤッと笑いを浮かべる。

 すぐにハンマーと化していた<鎖>を消失させた。


 悪魔は三又槍に力を入れて鎖ハンマーを押さえていたので、急に鎖ハンマーが消えたことにより三又槍と一緒に体勢が前方へつんのめり倒れかかる。

 その隙に、素早く<鎖>を再射出した。

 今度はハンマーなどの遊びはしない。その体勢を崩した悪魔の胴体を<鎖>の先端は貫いていた。


「ひぃぃぃぃっ」

「なんだこいつはぁぁぁ」


 悪魔たちの表情は最初に見せていたモノとはまるで違っていた。


「ヒャァァッ」

「退け、退け、退くのだっ」

「にげろおおおぉおぉぉ!」


 悪魔たちはぐちゃぐちゃとキモい言語を連発していく。

 見た目からくる不気味な顔とは違い、口々に怯えた声を発して、完全に混乱の坩堝となっていた。

 馬車周りに到達していた悪魔たちも兵士と戦うのを止めて逃げていく。兵士たちは少々の怪我を負っただけで犠牲者が出ている気配はなかった。


「魔族が撤退していくぞぉぉぉ、勝鬨だぁぁぁ」


 副官のサヒアが叫ぶ。


「おぉぉぉ」


 兵士たちは喜びの声を上げていた。

 そこに黒猫(ロロ)も戻ってくる。


「ン、にゃにゃ~ん」


 触手骨剣には二体の悪魔がぶらさがっていた。

 また、つぶらな瞳で“褒めて”“褒めて”光線を出してくる。


「よくやったぞ。ロロ。それはそこに下ろしておきなさい」

「ンン、にゃ」


 黒猫(ロロ)は獲物を地面に下ろすと、触手を伸ばしてきた。

 俺の頬に触手が触れると、気持ちを伝えてくる。


 『狩り』『狩り』『楽しい』『一緒』『遊ぶ』


「そかそか。狩りは楽しかったようだな」


 そこに魔法の明かりと共にアウローラ姫がエルメスさんと副官サヒアを伴って近付いてきた。


 眩しいので<夜目>と同時に精霊の目を解除。


『ヘルメの目と<夜目>があれば、深夜でも余裕だな』

『閣下のお役に立てて光栄です』

『あぁ。また頼むぞ』

『はい』


「――シュウヤ様。お怪我はありませんか? 大丈夫ですか?」


 姫様は心配そうな顔で俺を見る。

 同時に常闇の水精霊ヘルメを視界から消す。


「はい。大丈夫ですよ」


 エルメスも話しかけてきた。


「さすがです、シュウヤ殿。グリズベルを倒しきるだけはあります。こうも簡単にレッサーデーモンを倒しきるとは」


 騎士団団長のエルメスさんは感嘆の表情を出している。


「こいつらは魔族でしたっけ?」

「そうです。この特徴的な二本角。レッサーデーモンですね。こうなると、さっきのグリズベルの襲撃も納得がいきます。前線は破られたと考えるのが妥当です。姫様、【聖都】は囲まれている可能性があります」


 エルメスさんは姫に振り向き真剣な顔を向けて話していた。


「なんてことでしょう……わたしが国を出ている間にこんなことになって……あ、まさか、前線に出ているシュアネお姉さまは敗北したと?」


 姫様は声を震わせ動揺を見せる。

 シュアネというお姉さんがいるのか。

 アウローラ姫と似ているのかな?


「どうでしょうか。二剣の戦姫と呼ばれるシュアネ様が負ける姿は想像できませんが……前線の砦に籠るか大森林に出撃しているか【聖都】に撤退したのでしょう」

「それもそうですね」

「はい。動静を知るためにも我々は急ぎ【聖都】まで戻りましょう。と言っても夜間はクロエがいない時には危険です。なので朝になりしだい、出発予定ということで……それと、シュウヤ殿には引き続きアウローラ姫様の護衛をお願いしたい」


 なんか大変なことになってるな。


「……わかっています」

「シュウヤ様、ありがとう」


 姫様の細っこい手で、俺の手を握られてしまった。


 碧色の瞳で見つめられると参るなぁ。

 唇も小さく可愛い。カワイスギル。


 いかんいかん。ここは紳士に対応しよう。


「……任せてください。可愛い姫様は俺が守りますよ」

「まぁ、可愛いだなんて……」

「ゴホンッ、シュウヤ殿。姫にはあまり近付かないでもらおうか?」


 エルメスさんが怒っちゃった。

 ん~、でも、エルメスさんの顔も良いんだよな。

 経験豊富な戦士であり騎士という雰囲気だけど、キリッとした青目が凛々しさをアピールしている。


「……あ、あぁ、わかってる。エルメスさんを困らせるつもりは無いんだ。ごめん」

「シュウヤ様が謝る必要ないですよ。エルメスも心配しすぎです」


 姫様は姫様で頬を膨らませて、ぷんすかぷんぷんと、怒ってる。


「にゃにゃ?」


 黒猫(ロロ)だ。

 どうしたにゃ? という感じで、上を見上げながら声を出している。


「あ、ロロちゃんっ、大変です。血が付いてますっ」

「姫様。大丈夫です。これは返り血ですから」


 ふきふきと姫様は自分の綺麗な布ハンカチでロロの体を拭きだしていた。


「そのようですね。でも、綺麗綺麗にしておきましょう」

「姫、そのようなことは、召し使いか、わたしに言い付けてください」

「いえ、エルメス。だめです。これは、わたしが猫ちゃんを“触りたくて”やっていることなのですから」


 黒猫(ロロ)は撫でられて嬉しいようだ。

 ごろごろ音を立てている。


「だめです。姫の服が汚れてしまいます――」


 エルメスが黒猫(ロロ)を抱き締めるように取り上げていた。


「あぁ、もうっ、エルメスの意地悪」


 というか、騎士と姫様の二人で何してんだろうか。

 黒猫(ロロ)もしょうがないニャ的な髭が下がった小顔を浮かべてはエルメスにお腹を持たれていた。


「すみません。俺がやりますので……」

「あ、それはそうですね。では……」


 エルメスから黒猫(ロロ)を受けとると、赤ちゃんを抱っこするように持つ。

 <生活魔法>で水をチョロチョロと出しつつ、皮布で腹や背中を拭いてあげた。


「……姫、野営の準備が調うまで、一旦、馬車に戻りましょう。サヒア準備に取りかかれ――」

「ハッ――」


 副官のサヒアは白髭を揺らし、キビキビとした動作で指示を受けていた。


「そ、そうですね」


 姫様は羨ましそうに、俺に拭かれている黒猫(ロロ)の姿を見ながら馬車に戻っていく。


 俺も黒猫(ロロ)の体を綺麗にしてあげてから、馬車へ戻った。


 わお、いきなりテント?

 戻ると、もう姫様が寝るであろう野営場所が完成していた。


 馬車の隣に設置された立派な幕付きテント。


「シュウヤ様もお入りになって」


 姫様は含み笑いを見せて誘ってきた。


「はい」


 うは、こりゃどういう……。


 テントの中には天蓋付きベッドが四つあり、箪笥に水瓶まである。

 香を炊いているのか、香煙が縷々と立つ。

 煙と共に花の香りが漂ってきた。


「にゃぁ」


 あっ、ロロがベッドに飛び出していっちゃった。


「すみません。ロロが……」

「いえいえ、ロロちゃんの好きにさせてあげてください。あっ、あんなにジャンプして、面白いです、飛び跳ねていますっ」

「はぁ、すみません。しかし、このテントは……」

「驚きました?」


 笑っている姫様。


「ええ、これは?」

「これは高級なマジックアイテムの一つですね。魔造家(マジックテント)、またの名をマジックミニチュアハウスといって、元は、このクリスタルの中に入っているのです」


 姫様が腰袋から見せてくれたのは、きらびやかに輝くクリスタルの集まりだった。


 綺麗だなぁ。こんなマジックアイテムがあるんだ。

 クリスタルの中に家のような物が見える。


 形は全然違うがお土産屋さんに置いてあるスノーボールに入った小さい家みたいだ。

 使わずにコレクション的な家の内装にセットして眺めるのも面白そうだ。


「……すごいですね。このようなアイテムは初めて見ますよ」

「ふふ、これを初めて見た方は、皆、びっくりなさりますね」

「はい。小さいクリスタルにこんな大きいテントが入っているなんて……」

「そうですよね。わたしも最初見たときは驚きました。なんでも時空属性持ちだけでなく、その中から選りすぐりの先天的な特殊スキルがないと作れない品物らしいです。まさに神に選ばれし職人さんによる逸品です」


 時空属性持ちで、なおかつ、先天的な特殊スキルでの製作か。

 空間を圧縮して作られているんだとは思うが、途方もない技術が必要そうだな。


「……元に戻す場合はどうするんです?」

「簡単ですよ。ベッド横にある、水晶に持ち主が触り『収納』と言えばすぐにクリスタルへと戻ります。逆に触りながら『展開』と言えば、クリスタルからこの魔造家(マジックテント)へ変わります」


 そこに天幕の入り口からエルメスさんが現れた。


「姫様、クロエが目を覚ましました。指示通りにこちらへ運ばせています」

「わかったわ。ベッドの一つに寝かせてあげて」

「はい」


 女魔術師が担架のような物に乗せられて運ばれてくる。

 彼女は頭を上げて、姫様に話しかけた。


「姫、このような高級なテントには……」

「クロエ、何を言っているのです。今は安静にするのが一番です。大事な家臣なのですから。そこのベッドに寝ていなさい」


 女魔術師はクロエさんか……この女性も綺麗だ。

 赤みがかった金髪に横長の錦目。

 左目尻に黶があり鼻梁が長く鼻が高い。


「姫。ありがとうございます……」


 クロエさんはベッドの一つに横になった。

 そして、目が合う。


「貴方が……姫様たちを救ってくださった?」

「シュウヤという名の冒険者でCランクです」

「そうですか。冒険者……わたしはクロエ・リフ・ティグリです。礼を言います」


 クロエさんは起き上がろうとしていた。

 名前からして貴族か?


「はい。あ、無理をなさらずに」

「いや、毒はもう消えて傷も塞がっているので、大丈夫です。それに、貴族として意地がありますから」


 クロエさんはそう語ると上半身を起こして、俺を錦色の瞳で見つめてくる。


 錦色の瞳には魔力が宿っていた。

 ほぅ、俺の全身をチェックしているようだ。

 俺も魔察眼でクロエを観察した。


 おぉ、淀みのない魔力操作だ。魔力を目に集中させている。

 目には濃密な魔力が集まって、小さい魔法陣らしきものが形成されていた。

 さすがに魔術師と言われるだけはあるようだ。


『閣下。この人族、左目のわたしを見ました。閣下の左目にあるマークに気づいたようです』


 ヘルメに気付いたのか。

 この左目のマークは俺自身も鏡で確認したわけじゃないからな。


『そんなに分かりやすく左目は変わっているのか?』

『常人では判別がつかないはずです。ですが、魔力が見える方ならある程度は分かるかもしれません』


 そういうことか。


「……これは……シュウヤ殿。あれだけの魔族を簡単に(たお)す理由はあるようですね」


 やはり、ヘルメが言っていた通りか。

 俺の魔力操作の一部分が見えているようだな。


「クロエ? シュウヤ様には【聖都】までの護衛をお願いしました」

「……はい。姫様。その方が確実でしょう」


 ついでだ。サデュラの森について聞いてみるか。


「クロエさん。聞きたいことがあるのですが……」

「何です?」

「【魔境の大森林】の東にサデュラの森があるそうですが、何かサデュラの森について知っていることはありますか?」

「サデュラの森ですか。場所はしりませんが、昔、家にあるエルフが残したという文献にそんな言葉があったことを覚えています。大森林のどこかに植物の神サデュラが祝福した森があると。小さな泉があり、大地の神ガイアが祝福した丘に綺麗な葉を宿す大樹があるのだとか。エルフたちは、そのガイアの丘にある大樹を長年に渡り愛したらしいです。エルフの恋人たちがそこで一夜を過ごすと子宝に恵まれるという伝説もあったようですね」


 へぇ、小さな泉にガイアの丘か。

 それに、綺麗な葉を宿す大樹。


 当初の目的通り東へ向かい、泉にある丘を探せばサデュラの葉が見つかりそうだな。


「なるほど。良い情報が聞けました。クロエさん、ありがとう」

「いえ、でも、なんでまた、そんな情報を?」

「シュウヤ殿は東に広がる【魔境の大森林】を目指すらしい。サデュラの森を探しているんだとか」


 俺がいう前にエルメスさんがクロエさんに説明してくれた。


「なっ、ばかな。魔族たちの巣に飛び込むつもりなのですか?」


 クロエさんは驚いている。


「はい。その予定です」


 姫様は俺の言葉を聞くと、すたすたと歩いて目の前に来た。


「――シュウヤ様、本当に【魔境の大森林】は危険なんですよ? やはり、わたしは反対です。それに、恩人を危険な場所に行かせたくないです」


 姫様は腑に落ちない、というように語る。

 しかし、そう言われてもな……。


「姫様。すみません。反対されても行きます。ですが、死ぬつもりはありません。腕には自信がありますから、大丈夫ですよ」

「シュウヤ様が強いのはわかりますが……」


 姫様は助けを呼ぶように視線をエルメスさんに向ける。


「シュウヤ殿、姫様が心配しておられる。それに、わたしの、この傷も魔境の大森林で受けたモノ……ここは思い止まってくれないか?」


 エルメスさんは話の途中で頬にある長い傷を触りながら話していた。


「少し前に【魔境の大森林】へ進軍した十字軍に参加していたと話されていましたが……」

「えぇ、はい。十字軍の討伐隊に参加したことがあります。部隊は半壊して撤退しました。この顔の傷跡は……その時に対決した、ランクA++魔族グベシャラによって付けられたのです」


 そんなモンスターがいるのか。


「なるほど。危険なのはよく分かりました。しかし、俺は行かなきゃならない」


 姫様は俺の目を見て、仕方がないと言ったように溜め息を吐く。


「……分かりました。説得は無理そうですね。ですが、シュウヤ様? 聖都についたらお礼をしますので【魔境の大森林】に行くのは暫くお待ちくださいね?」


 少しの間なら美人な姫様と過ごすのも良いかもしれない。


「はい。少しの間なら」

「よかった……」

「――姫様。この際です。シュウヤ殿は貴重な人材です。是非とも、わが陣営に加わって頂くべきかと……」


 陣営?

 クロエさんがそんなことを言ってる。


「クロエッ、先走るな。確かにシュウヤ殿は強い、わたしも同意見だ。だが、まだ姫様の立場を説明していない」

「エルメス? 何をぐずぐずしているのですか。シュウヤ殿は聖都に来られるのでしょう? もし、大司教やイエリ派に先を越されたらどうするのです? 他の貴族、大貴族がシュウヤ殿の力をみたら、争奪戦になるのは目に見えています。それに、わたしが見るに、シュウヤ殿の強さはキングメイカーと言っても過言ではないと判断できます」


 なんで、一目見ただけでそこまで思考が加速するんだ?

 しかもキングメイカーとか、第三王女であるアウローラは実は王位を狙ってるのかよ。


 クロエは……謀将的な人物なのか。


「な、そこまでの人物というのか?」


 エルメスさんとクロエさんの会話は暫く続くようだ。


「えぇ、わたしの()を見ても、動じずに観察を続けていましたし、魔力操作も一流どころか魔術師のわたしを超えた人知が及ばぬ範囲。それに【魔境の大森林】に一人で行くという自信あふれる言葉に……確信しました……この方が居れば、戦姫の影響力を削り、アウローラ姫様の影響を増すことが可能でしょう」


 目を見ても動じずだと?

 確かに彼女の目には小さい魔法陣が浮かんでいたが。 


『ヘルメ、解る? クロエさんの目に何かあるのか?』

『神の加護や恩寵、或いはスキル的な魔眼の持ち主なのかもしれません。あの人族は閣下の至高たる御方としての偉大さを一瞬で見抜きました。閣下の新しい部下にお勧めします』


 ヘルメがそんなことをアドバイスしてくれた。


「そ、そうか。クロエがそこまでいうのなら……」


 そのまま、エルメスさんは俺を見つめてくる。


「主の前で差し出がましいが、シュウヤ殿――お願いだ。どうか、一時とは言わずに、【聖王国】の下、いや、姫様の下で働いてくれないだろうか」


 えっと……。

 政局に利用され政争に巻き込まれるのはごめんだ。


 エルメスさんは俺の目の前にきて頭を何回も下げだした。

 そこに、姫様の鋭い声が響く。


「エルメスもクロエも何を言っているのです? 今さっき、少しの間だけとシュウヤ様はおっしゃいました。それにお話が急過ぎますっ」

「しかし……」

「これは、姫様のためでもあるのです」


 ……エルメスさんとクロエさんはどうしても俺を姫側の部下にしたいようだ。

 ちゃんと断りと説明を加えとこう。


「少し宜しいですか? 正直、誰々派とかは興味ないですから、あなた方に付いていくにしても、どんな報酬だろうと、長居をするつもりは無いです。俺は冒険者。本来の依頼があります。それにエルメスさんも最初に仰ったはずです。護衛依頼(・・・・)と。俺はあくまでも東へ向かう。その、ついでながらの依頼として受けただけですから」

「そ、それは確かに……」


 空気が悪くなるのも、嫌なので多少のジョークと本音を交えながら話していく。


「正直言いますと、姫様が綺麗で可愛いからついていくってのもあります」

「――シュウヤ様っ、本当ですか?」


 下心丸出しなジョークの言葉を聞いて、姫様は小躍りするようにジャンプして、嬉しそうに反応している。


「えぇ、はい」


 姫様の元気な一面に面くらいながらも頷いた。


「ありがとう。その言葉だけで嬉しいです。エルメスとクロエも、これで、分かったでしょう? 今後はシュウヤ様が困ることは言わないようにしてくださいね」

「はい、姫様のご命令とあらば」

「……了解しました」


 エルメスさんとクロエさんは渋々納得したようだ。


「では、食事の時まで軽くクロエは休んでいてください。わたしたちも休みます。シュウヤ様もそのベッドを使いお休みになられてくださいね」


 その後……。

 俺は独自に食事がありますから。と話しながらアイテムボックスを見せることになり、皆を驚かせてしまった。

 だが、姫様がわたしもアイテムボックスのポーチを持っていますよ。と言ったので、改めて、王族は違うなと思うことになる。


 そして、テント内で三人の女性と同じ空間で休むことになった。


 着替え中はテントの外に出る。

 少し覗きたい気持ちはあるが。

 我慢した。いざ、寝るとなると……当然寝付けない。


 姫様も姫様だな。いくら助けたからといって、俺は聖人じゃないのに。

 俺の股間はモッコスを興す男。爆発してもしらねぇぞ。

 ま、そんな気概はない。

 周囲に違うアンテナを張りながらも、眠くなるまで目を瞑るとする。

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[良い点] 周囲に違うアンテナを張りながらも、眠くなるまで目を瞑るとする。 危険な土地にいるんだから普通のアンテナは張っておくべきだし、お前が建てているのは違うテントだろうと思いました
[気になる点] 前話にて 「……想定外だったんですね」 「はい。そうです。魔術師長であるクロエも怪我を負ってしまい、わたしたちは全滅寸前でした。本当に、シュウヤ様がいてくださって良かった……」  …
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