九百十一話 魔界騎士か? 巨大な鹿モンスターに騎乗した大柄魔族
2022/02/21 19:20 20:18 修正
攻城塔を引っ張るのはバンドアルのような魔獣。投石機ではない。
トロイの木馬のように攻城塔の内部に兵士たちが乗り込んでいるタイプだ。
その兵士たちは肉厚な体格の魔肉ガガと隊長格?
それらの兵士たちの重さで攻城兵器の進行速度は遅い。
あれなら味方の攻撃も集中しやすいだろう。
問題は新手の魔族のほうだ。
その新手ではなく、前にも見た、巨大な鹿モンスターに乗った人物は大物と予測。
騎乗していた存在は今まで見えなかったが、大柄の魔族だ。
その大柄の魔族の肩に乗る小さい骨人形のような魔族がいる。
キストレンスを思い出すが、違う種族だろう。
大柄の魔族のほうは、短いシンメトリーの角に爬虫類のような面だ。
龍人? オークか? クエマのような歯牙が生えている。
ソロボとは違う。顎は小さい龍のような顎で角と同じ色合い。
かなり厳つい。角と同じ素材の顎だから半首のような装備なのか?
だったら龍人なんだろうか。
思わず、美しいイゾルデをチラッと見る。
勿論、美人なイゾルデと巨大な鹿モンスターに騎乗している大柄の魔族は造形が異なる。
その大柄魔族の鎧皮膚にはエメラルド色と金色で幾何学模様が施されていた。
オオクワは魔将と呼ばれていたが、あの大柄魔族も、もろに魔将だ。
ザ・魔人将軍と名付けたくなる。
ベルトの中央には珠が嵌まり、兵符と佩玉がぶら下がる。
古代中国にあったような兵符なら魔界騎士クラスは確実か。
古代中国では、たしか……軍隊を動かすための証明書でもあったはず。
俺が持つ鬼魔砦統帥権を持つ証しの鬼闘印と同じような物。
そして、その大柄魔族を乗せている巨大な鹿モンスターは、ミニ戦車か近未来戦闘車両のようにパイロットを守る機構でも備えているんだろうか。
巨大な鹿モンスターを操る大柄魔族は魔界騎士と仮定して……。
周りにいる新手の魔族たちも怪しい。
赤黒い肌の人型魔族。
あくまでも人型だ。頭部は逆三角形に近い。
額の上半分はシンメトリーの角か触角のような物で、左右の肩の上を通り背中側へ伸びている。頭部の上半分が、デルハウトやビーサの器官的な二つの角か触角だった。
双眸と鼻は見えない。鼻はないようだ。
眼球は角か触角の内側に隠れて見えないだけか?
それとも滅茶苦茶細い眼球か。
上半身は、ほぼ裸に近く、鋼のような筋肉ばかり。
黒い衣服は一見ボロボロだが、切れ端は粘着質か。その切れ端は蠢いて、触れた地面は焦げていた。
黒い衣服は攻撃も可能な衣服ということか。
その左側の新手を凝視していると、右斜め前から飛来してくる複数の魔素を察知した。
魔素はスチールグレイの鋼の槍――。
船の櫂ほどの長さの鋼の角か?
「イゾルデ――」
「分かっている――」
鋼の角の速度はかなり速い。
その鋼の角の先端を見ながら、無名無礼の魔槍を下から振るい上げた。
墨色の炎が迸る蜻蛉切と似た穂先が、その鋼の角の先端を捕らえた。
そのまま無名無礼の魔槍を振り抜き――鋼の角を真っ二つに両断――。
鋼の角だった二つのものが俺の斜め後方の地面に突き刺さった。
震動している無名無礼の魔槍からキィィンッと硬質な音が響く。
左にいるイゾルデも武王龍槍を振るい下げる。
鋼の角を切断するや斜め前に前進し、武王龍槍をかち上げた。
柄の下部で、鋼の角を数個叩き落としながら一歩二歩と前に出るイゾルデは、武王龍槍を縦回転させつつ振り上げて、再び飛来していた鋼の角を撫で切りに切断。
そのイゾルデの姿を見ながら爪先回転を行う。
――周囲と俺たちに向けて鋼の角を発射してきた敵を視認――。
そいつは馬の頭蓋モンスター。
騎兵タイプのモンスターで数は数百。
今も馬の頭蓋のモンスターはのそっと動いて、俺たちに向けて頭蓋を向けてきた。
頭蓋の一部が潜水艦の門扉の如く凹み穴が出現。
その穴の中から鋼の角を射出していた――。
潜水艦の開いた門扉から発射される魚雷に見える。
飛翔してくる鋼の角を凝視。
その鋼の角の速度は先ほどと同じく速いが、対応は可能――。
前進しながら無名無礼の魔槍を振るう――。
最初の鋼の角を切断――。
左足から右足と足を交互に前に出しながら次の二本目に向けて――無名無礼の魔槍をぶち当てた。
二本目の鋼の角の先端を潰し、鋼の角を撓ませ縮ませるように潰し外に弾く。
三本目の鋼の角の位置を掌握察で把握しつつ爪先半回転を実行――。
同時に無名無礼の魔槍を振るった。
感覚で鋼の角の位置を把握したまま、柄で、その鋼の角を捉えて叩き落とす。
四本目と五本目の鋼の角は――。
蜻蛉切と似た穂先で連続的に斜めに斬り落とした。
直ぐに腰を沈めながら呼吸を整えつつ――。
右手で握る無名無礼の魔槍を腰元に引く。
――六本目の鋼の角が迫るタイミングは少し遅い。
その六本目の鋼の角目掛けて――。
腰溜めから<刺突>のモーションを取る。
そして、右腕ごと一つの槍となるように無名無礼の魔槍を前方に打ち出す<水穿>を繰り出した――蜻蛉切と似た穂先から水飛沫が舞う。
澄み渡る輝きの水が穂先から無名無礼の魔槍全体を包む――。
目映い<水穿>の穂先が六本目の鋼の角の先端を穿ち捕らえた。そのまま鋼の角を潰すように鋼の角を裂く。突き出た蜻蛉切と似た穂先から墨色の炎と水蒸気が迸った。
その無名無礼の魔槍を引き目の前で回転させる。
柄に刻まれている『バイ・ベイ』の梵字が輝いていた。
――渋い魔槍だ。
再び、無名無礼の魔槍を引き右脇から背中に石突を通した。
左手を馬の頭蓋モンスターに向けて構える。
風槍流の構えで――飛来する鋼の角を凝視――。
まだまだ飛翔してくる鋼の角――。
七、八、九、十、十一、十ニ……と数えるのも億劫なぐらいの数だ。
それらすべてを破壊しようか!
右手の無名無礼の魔槍を肩に掛け直しつつ左手の掌を差し向ける。
半身の姿勢で、<超能力精神>を実行――。
すべての鋼の角は、グゥァンッと異質な音を立てて俺たちに近付くことなく離れた宙空の位置で震動しながら止まった。鋼の角のロックに成功。
続けて左手の掌を絞るように握り拳を作る――演歌魂!
ではないが、宙空に止まる鋼の角目掛けて<星想潰力魔導>を実行。
鋼の角は凄まじい圧力を外側から受けたように押し潰され、ただの塊と化して地面に落ちた。
鋼の角を発射していた馬の頭蓋モンスターは横に移動。
軽騎兵のような動きで素早い、大本の馬の頭蓋モンスターを倒さないとだめだな。
そして、軽快なモンゴル弓騎兵が駆ける映画や海外ドラマを思い出す。
更に火器を装備する騎乗兵を連想した。
近代ヨーロッパの竜騎兵は有名だ。
そんなことを考えつつ、
「イゾルデ、少し下がれ――」
「はい――」
<白炎仙手>を実行、白炎の霧が周囲に発生。
それらの燃えた霧や煙のような白炎から無数の白炎の貫手が前方に飛び出て鋼の角を迎撃していく。
馬の頭蓋モンスターは数百いるから鋼の角の数は凄まじい。
が、<白炎仙手>ならば楽に対処は可能。
イゾルデを守る白炎のカーテンにも見える。
そのイゾルデは周囲を見回す動きをしてから、
「シュウヤ様、鋼の角を飛ばしてくる連中は我がやろう」
「了解。俺は左の巨大な鹿に乗った大柄魔族を担当しよう」
「あの動く魔塔はどうするのだ」
「余裕があれば薙ぎ倒せ。が、独鈷コユリなどの強者が味方になったから、エンビヤたちと一緒にそろそろ出撃するはずだ。だから、あの攻城兵器は今は無視していい」
「承知した!」
イゾルデは武王龍槍の穂先を向けてくる。
「おう、では後で――」
俺も無名無礼の魔槍をイゾルデの武王龍槍に当てた。
衝突した二つの得物から心地良い金属音が響く。
イゾルデは、
「うむ!」
気合い声の返事だ。
振動する無名無礼の魔槍と武王龍槍からイゾルデの武威を感じ取った。
続きは来週を予定。
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