八十九話 膝に矢を受けてしまって※
2021/02/05 17:28 修正
部屋に戻ると、いつものように黒猫が寝台へ走った。
さて、確認するか。
部屋の入り口に立ったままスキルの確認――。
ステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:水神ノ超仗者new
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:魔槍闇士:鎖使い
筋力20.1→20.2敏捷20.8→21.1体力19.1→19.3魔力24.4→24.9器用19.4精神24.7→25.1運11.2
状態:平穏
スキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<魔獣騎乗>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>
恒久スキル:<真祖の力>:<天賦の魔才>:<光闇の奔流>:<吸魂>:<不死能力>:<暗者適合>:<血魔力>:<眷族の宗主>:<超脳魔軽・感覚>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<水の即仗>new:<精霊使役>new
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>
まずは称号の水神ノ超仗者をタッチ。
※水神ノ超仗者※
超越者が水神の加護を得た者。
水系魔法の効果アップ。全ての成長補正+。
効果アップか。<水の即仗>と合わせれば効果倍増だな。
今度、水の紋章魔法か言語魔法の魔法書を手に入れたいとこだが……。
次は一応わかっているが、恒久スキルの<水の即仗>をチェック。
※水の即仗※
水神アクレシスの仗であり加護の象徴。
魔力、精神の能力を引き上げ、水系統魔法のみ無詠唱を可能とし魔法陣の簡略化を促し、即座に魔法を発動させる。
詠唱なしか。
実際にはまだ水系統は覚えていないが、闇の言語魔法の詠唱から考えるに無詠唱の効果は抜群だろう。
魔法陣も簡略化されるらしいし、かなり使えると予想できる。
さすがは水神様。
さて、確認はここまでにして……。
装備品のメンテナンスするか。
歩きながら胸ベルトを外し寝台の下に置いた。
外套を脱ぎながら左目に宿るヘルメに念話する。
『もう、出てきていいぞ』
『はっ』
左目からにゅるっと水が弧線を描いて放出されるのは慣れそうもないな。
「ヘルメ、寝台で寝るなり、楽にしていいぞ。俺は防具のメンテナンスをやるから」
「閣下、手伝います」
「いや、今日は自分でやりたい」
「わかりました」
ヘルメは慇懃な態度で頭を下げると、床下に胡座な体勢で座り蒼い瞳を閉じて瞑想を始めていた。そして、胡座姿勢のまま下半身を液体化。
何故か、宙に浮き出している。
……修行ですか?
と、突っ込みを入れたくなるが、黙って脱いだ綺麗な外套をマネキンへ掛けといた。
続いて腕防具の留め金を外し床へ置いて点検を行っていく。
この竜を象った腕防具はいつ見ても良い。
あまり汚れてないが一個ずつ手に取り丁寧に拭いていく。
……一通り拭き終わり、防具一式を綺麗に仕上げた。
うむ。紫の光沢が素晴らしい。
ピカピカ具合に満足してから、寝台上で横になった。
――この寝台は固めだ。
ごろりと寝返りを行う。
また、何回もごろりごろりと転がり遊んでいたら、俺の行動に興味をもった黒猫が目の前に顔を寄せてきた。
そして、ペロリと鼻先を舐めてくる。
「くすぐったい」
「にゃにゃぁ」
鳴きながら触手を俺の頬へ当ててくる。
『転がる』『遊ぶ』『一緒』『腹減った』『遊ぶ』『転がる』
俺と一緒に寝転がって遊びたいのか?
面白い奴だ。でも、腹減ったも混ざっているから、食事にいくか。
「ヘルメ、瞑想しているとこ悪いが、俺たちは食事にいこうと思う。お前はどうする?」
「わたしには人族が食べるようなものは必要ありません。わたしの食事は閣下の魔力ですので。ですから、ここで待っています」
「わかった。それじゃ、ヘルメはここで待機。ロロ、行くぞ」
念のため鎧と外套はアイテムボックスの中へ入れておく。
ラフな格好で黒猫を連れ部屋を出た。
廊下から食堂に向かい歩いていると、良い匂いが鼻腔を通る。
賑やかな音も耳に届き、音に誘われるように食堂に入った。
客で一杯じゃないか。繁盛しているね。
宿泊客だけでなく、食事だけが目当ての客もいるようだ。
カウンター席も埋まり丸いテーブルも空いているところがないぐらいに人が座り、談笑し、和気藹々と料理を楽しんで食べている。
女将やお手伝いの従業員が忙しそうに食事の配膳を行っていた。
「おっ、蛇竜退治のシュウヤじゃねぇか」
そう気軽に話しかけてきたのは同じ依頼を受けていた冒険者。
前衛の生き残り。確か、名前はザジだったか?
「同じ宿だったのか」
「そのようだ。それより食事は頼んだか?」
「いや、これからだ」
戦士の男はニカッと笑う。黄色い歯を見せ爽快な笑顔だ。
「そうかそうか。まぁ、そこに座れよ」
丁度良い。丸いテーブルにはザジ一人だけだった。
お邪魔させてもらおう。
「わかった」
「おい――、女将っ。この凄腕のあんちゃんに今日の食事を頼むっ」
伽羅色の肌を持つ女将へ大声で催促してくれた。
「――はいはい、今運びますからね」
「あ、別の皿でロロの分もお願いします」
「にゃ」
黒猫は丸机に飛び乗ると、後ろ脚で器用に立つ。両前足を胸に揃えながら前足を上げて下げての餌を“クレクレ”と前足で可愛くアピールしていた。
く、こいつ……何処で覚えたかわからねぇが、カワイイ技を身に付けてやがる。
「まっ、元気で可愛い猫だねぇ。わかったよ。特大のお魚を用意してやるからね。待ってな――」
女将は黒猫の催促する動きに感心したのか、肘を上げては胸を突き出すように張り切って、カウンター奥にある厨房へと向かう。
「だ、そうだぞ。よかったな?」
「ンン、にゃ」
黒猫は満足そうに鳴くと、俺の肩に戻ってきた。
「そりゃ、使い魔かい?」
冒険者のザジは黒猫の行動が気になったらしい。
「そうだよ。似たようなもんだ」
「頭が良さそうな黒猫だ。ひょっとして、蛇竜退治にも貢献したのか?」
「あぁ、貢献したな」
「にゃっ」
黒猫は片足を上げてぽんっと肩を叩く。
「こいつも、当然だ。と、言っているぞ」
「ははは、そりゃすまんな黒猫殿。だが、お前ほどの実力者が何故に、こんな【ヘスリファート】の片田舎で冒険者をやっているんだ?」
「いやぁ、色々な理由があってね」
ザジは俺の言葉に何かを感じたのか、少し間を空ける。
「……そうか。深くは聞くまい。お互いに理由は様々だよな。俺もこんな片田舎で冒険者をしているのだから……しかしな、聞いてくれ。俺はお前に感謝しているんだ」
感謝? 蛇竜を倒したことかな?
「感謝?」
「……蛇竜を倒したシュウヤの強さを目の前で見て、な。ふと、昔憧れていた感覚を思い出したんだ」
俺を見てか……。
「昔?」
「あぁ、昔の俺は……南の【ゴルディクス大砂漠】を越えマハハイム山脈を越えた先にある、【オセベリア王国】にある迷宮都市を目指すぐらいには強さがあったんだ。だが、膝に矢を受けてしまってな?」
ザジは自分の膝を見せて、ぽん、ぽんと傷跡が残る箇所を叩く。
今、“膝に矢を受けてしまってな”と言ったか?
その言葉をこの世界でも聞くとはなぁ。
あんたは何処の衛兵だよ。
とは言わない。懐かしい思い出は脳裏に仕舞っておく。
「……この傷を受けた時にすぐに治療ができなかったのが悪かったのだろう。遅れてかけてもらった回復魔法もちゃちな魔法だったらしく、中途半端に膝が再生されちまったんだ。それ以来、膝の動きが鈍くなってな……だから、膝のためにここの清水を飲み続けているのさ。それが長年続き、いつの間にか、ここの宿に定住というわけだ」
回復魔法やポーションでも、完全に癒せない場合もあるんだ……。
「……なるほど。療養を兼ねて冒険者をしているというワケか。しかし、迷宮都市の名はかなり有名なのか?」
「そりゃそうさ。魔石、武器、防具だけじゃなく、新品魔道具や珍品魔導具、倒したモンスターから採れる魔石や迷宮から産出される鉱物や宝箱から採れるマジックアイテムで一攫千金だからな」
色々と想像が膨らむねぇ……。
「ま、迷宮都市だけをいうなら、南の大国【オセベリア王国】だけじゃないんだけどな。その西にある【ラザフォード帝国】にも一つある。この宗教国家にも【シャンドラの大迷宮】という迷宮がある。東の【アーカムネリス聖王国】にも一つ。北の【ロロリッザ王国】内にも一つ存在していると云われている」
少し聞いたことがあるような気がするが、
国に関してはそんなに詳しくは知らなかった。
「ほぅ、この国にも……【シャンドラの大迷宮】とは、また仰々しい名前の迷宮だ」
「そうだ。だが、その入り口は教皇庁遺跡発掘局により封鎖されている。入れるのは国の教皇軍に所属する者、教会騎士の高級貴族、それか、一部の高ランク冒険者だけに限定されているんだ。【オセベリア王国】と【ラザフォード帝国】のように少額の金さえ払えば全ての冒険者たちが迷宮に入れるわけじゃない。まぁ、これは【迷宮都市ペルネーテ】と【迷宮都市サザーデルリ】が“特別”とも言えるかもな? 他国の迷宮都市は大体が規制を厳しくして一部の者が独占している」
教皇庁遺跡発掘局とは初耳だ。
しかし、金さえ払えば入れる。という、その話を聞く限り【オセベリア】と【ラザフォード】はもしかして自由で良い国?
何か目的があって開放しているのだろうけど……。
でも、ここの国にも迷宮が存在していたのは知らなかった。
「……そういうことか。その【シャンドラの大迷宮】はどこにあるんだ?」
「この国の【宗都ヘスリファ】にあるぞ」
そりゃ無理だ。
「なるほど」
「まさか“シャンドラの秘宝”が目当てか? 宗都に行く気なのか?」
秘宝という、言葉はある種、人を惹き付ける魔力があるよね、うん。
けど、宗都だろ?
魔族殲滅機関に狙われるのは明白だ。行かない。
「……いやいや、行かないよ。ただ、聞いただけだ」
そこに宿の女将が食事を運んできたので、旨そうな匂いに釣られた俺とザジは食事に集中し口数はお互いに減っていく。
運ばれた料理は焼き魚とパンに汁物だ。
焼き魚の横には黄緑色の大根おろしに似た野菜を磨り潰したようなタレが存在していた。
焼き魚は和風に近い料理。
醤油とご飯が欲しくなる組み合わせだ。
汁物の熱いスープは薄い塩味。
中身はおふに似たふわふわな物とワカメのような緑野菜が豊富に入っている。
パンはいつも通り堅いので、その熱い汁物にパンを付けて口へ運び食べていく。
汁の味はまぁまぁといったところ。
魚の方が旨かった。塩味だけど、シンプルで上品な味わい。
淡水魚の鮎のような感じ。白身はスプーンで掬えるほど柔らかく、口に含むと大きな身でもふんわりと優しい触感、塩味と魚本来の甘味が合わさり旨い。
黄緑色のおろしタレも旨かった。
ライムのような酸味とセロリのような風味、後から玉葱の甘さも感じられた。
なんか上手く例えられないけど不思議な味。
そのタレと白身が合わさって二度に渡って魚の美味しさを堪能。
あぁ、ご飯があれば……。
最初は醤油があればと思ったけど、タレが旨いのでごはんのが重要。
ま、無いものねだりをしてもな。
ロロにも別皿が用意され魚をむしゃむしゃと食べていた。
骨までバリバリと音を立てて食っている。
喉につっかえなきゃいいけど……。
そんな黒猫を見ながら、心配するが杞憂だった。
皿に用意された魚をあっという間に平らげ、満足そうに顔を手で洗う動作を繰り返している。
俺も白身の魚を全部食い、ちょっとした満足感に浸っていた。
ふぅ、食った食った。
最後はコレを飲む。常温の麦酒。
なので、一手間を加えて少し氷を追加っと。
キンキンに冷やして、冷えたゴブレットを口へ運び、ごくごくっと喉ごし爽やかに飲んでいた。
俺が飲んでいる様子を見ていたザジが羨ましそうに喉を震わせ口を開く。
「おおぉい。たっく、氷かよ? 旨そうに飲みやがって」
「はは、ザジのゴブレットにも入れるか?」
「おっ、いいのか?」
「いいぞ、すぐに――」
生活魔法により氷の生成などお手の物。
「おぉ、確かにゴブレットの中に氷が。酒の友に水属性の友ってな? ありがとうな」
そんな諺は知らないが、ザジは笑顔を向ける。
「オウヨ。互いに旨い酒を飲もうじゃないか」
彼は早速、氷に口をつけながら飲んでいる。
良い飲みっぷり。麦酒をおかわりしていた。
楽しそうに飲むなぁ……この人。
俺も釣られるように一気に冷えたビールを胃の中へ運ぶ。
暫く飲み合うと、ザジは背伸びをして立ち上がった。
「――氷ありがとな、俺は部屋に戻る。食うもんは食ったし、後は寝るだけだ。じゃあ、またどこかでな?」
「おう」
ザジは豪快に膨らんだ腹を叩きながら、冒険者同士の様式美的な言葉を言って、部屋に戻っていく。
さて、俺も戻るか。
黒猫はまだ、頭を掻くようにペロペロと足を舐めている。
「ロロ、戻るぞ」
「にゃ」
黒猫は肩に上ってくる。
口から少し魚の臭さが漂ってきた。
女将に礼を言っとこ。
丸いテーブル席から立ち上がり女将に料理について適当にお世辞を述べてから部屋に戻った。
部屋に戻ると、常闇の水精霊ヘルメが瞑想をしていた。
しかも、不思議な水飛沫を周囲に発生させている。
彼女は俺が戻ったのが分かると、不思議な瞑想をやめて片膝を床へつけて、頭を下げてきた。
「ヘルメ、その瞑想は意味があるのか?」
「はい。瞑想は幸せを感じるのです」
「瞑想に?」
「はい、閣下の中に納まっている状態に近い感覚を得られるうえに魔力操作が上達するのです」
「なるほど……他に幸せなことはある?」
「植物に水を撒くことです」
不思議、人族ではなく精霊だもんな。
「そうか、わかった。それじゃ、俺の中に居てくれ」
「はいっ」
ヘルメは瞬時に水状態になるとニュルリと伸びて、左目に納まった。
さて、歯を磨いて風呂に入ってリフレッシュするか。
木製のブラシで歯を磨き風呂に入った。
風呂で黒猫を洗い俺も洗ってまったりと過ごす。
皮布で全身を拭き素っ裸で寝台上に大の字になり浅い眠りにつく。
暗い朝方に目が覚めた。
また、小さいブラシを持ち、ベランダへ向かう。
生活魔法の水を垂れ流しながら顔を適当に洗いつつ軽く歯を磨いた。
歯磨き粉が欲しいが、少しの塩で我慢だ。
口の中をすすいで吐いて部屋に戻り、マネキンの足下に置いた紫防具の一つ一つを丁寧に装着していく。
紫防具はピッカピカだ。昨日、防具の品を拭いたからな。
魔竜王バルドークの暗い紫色の鱗と骨がふんだんに用いられてあるから見た目も渋くカッコイイ。
外套も纏った。後は、この肩に掛ける胸ベルト。
ベルトに引っ掛けるポーション入れの簡易鉄箱に短剣もチェック。
胸ベルトを装着する前に古竜の短剣がちゃんとベルトに収まっているか確認してから金具をつけて、胸ベルトを装着した。
黒猫も起きてくる。
「今日は長時間、空だと思う。東へ直進するぞ」
「にゃ? ンン」
最後の黒猫が鳴いた小さい喉声の意味は、了解という意味か?
気にせずに雑な地図を見る。
東北に【宗都ヘスリファ】があり、ずっと東にはヘスリファートの国境を越えて【アーカムネリス聖王国】がある。俺の目的地である【旧ベファリッツ大帝国】があった地域は【アーカムネリス聖王国】の更に東の先に広がる大森林地帯だ。そこの何処かに“サデュラの森”があるとか。
枯れたホルカーの大樹復活のための素材。
その一つの素材、水神アクレシスの清水は手に入れた。
次はサデュラの葉。
だが、他にも目的がある。
【ベルガット】が紹介してくれる。という契約であり、夏の季節二日目に大商会の幹部と会うという約束だ。
今日は春の季節の六十二日目だから、その約束の日にちまで、三十日。
日にちはまだまだ余裕があるので、大丈夫だろう。
なので、このまま、ホルカーの大樹復活の素材を集めちゃうか。
まずは、鏡を使って南東にある【ベルトザム】に出る。
「……それじゃ、一旦、【ベルトザムの村】へ戻ることにする。ヘルメとロロ。鏡を使うぞ」
『はいっ』
「にゃ」
胸ベルトから二十四面体を取り出す。
掌でころころと転がして球体を弄る。
――三番目。三番目の記号をなぞり、ゲートを起動させた。
光に縁取られたゲート魔法が出現。
『これがゲート魔法……初めて視認します』
『そうか、ヘルメは初めて見るのか』
いつも尻だったからな。
『これを潜って移動をするんだ』
『はい。どきどきします』
いくぞ――潜る。
あっという間にベルトザムの教会に戻ってきた。
――よし。
掌握察で周囲の魔素を確認。気配はなし。
『あっという間でした』
『その通り、瞬間的だからね』
んじゃ、この教会から出よっか。
部屋を出て階段を上り教会の建物から外へ飛び出し、<導想魔手>と<鎖>を使い、空を駆け上がっていく。
上空の高い位置で、鎖椅子に座り景色を堪能しながら方向を見定めていく。
北東にあるこの国の【宗都】には向かわない。
ベルトザムからだと北になるのか。
東へ直進だ。直接、大森林へ辿り着けば良いけど……。
でも【宗都】にあるという【シャンドラの大迷宮】と教会の大聖堂はいつか見たいと思える名前なんだよな。
だけど、教皇やら神聖教会……不安要素。前に俺を襲ってきたヴァンパイアハンターの巣窟みたいな場所だと想像できる。
なので、観光は我慢。諦めてサデュラの葉を優先だ。
<導想魔手>と<鎖>椅子で移動を開始する。
――空に映る雲。
あまり高度は高くないので、風が気持ちいい。
綺麗な蒼穹の空を鎖の集合体が突き進む。
鉄板のような椅子に座り移動している、俺。
端から見たら完全に怪しい。
シュール過ぎて、宇宙人確定だ。
……フライングヒューマノイドが空を行く。
◇◇◇◇
そんな調子で、夕方になるまでぶっ続けて空を進んでいた。
延々と鎖椅子に座りながら、空中を<鎖>と<導想魔手>で移動していった。
ふぅ――。
朝からなので、少し腹が減った。
数時間ぐらい経ったのか? なので数百キロは移動したのかな。
だからこの辺りはもう【アーカムネリス聖王国】とやらの領域のはずだ。
下には森林に囲まれた街道がある。
降りて少し、飯を食うか。
<鎖>を消し<導想魔手>を足場に利用、空中をタッ、タッ、タッ、と、跳躍するように降下していく。
丁度良い大きい樹木から生える太枝があったので、そこの枝上に降り立った。
「ロロ、ここは眺めがいい。飯にするぞ。今、食事を出してやるから」
黒猫へ話し掛けながら、太枝の端に両足を垂らす。
森の中に続く街道らしき蛇道をおかずに食事を食べよう。
「にゃぁにゃ」
太い枝なので、鍋を置いても大丈夫。
背曩から魔法瓶も出しておく。
鍋料理からは良い感じに湯気が出ている。
黒猫は鍋に頭を突っ込み、汁を啜り肉や野菜をむしゃむしゃと食べていた。
俺も食べよっと。いただきますっ。
汁を木製のスプーンで掬い口へ運ぶ
うま~、あつあつ。ほくほく。
野菜も汁が染みこんで、美味しい。
おっ、底に当たりの肉ぅ。ま、もとから肉が入っているんだけど。
この鍋料理は【ヘカトレイル】の市場で買っておいた物だ。
アイテムボックスに入れた当時と同じ、出来立てほやほや。
大量にストックしといて正解だな。
冷たいのも飲んでおこう。
魔法瓶に入ったじゃりじゃりと冷たい血氷ジュースも食べるように飲んでいく。
補給完了。
お? なんだろ……。
飯を食い終わった時、街道の先から黒煙が昇っているのが見えた。