八十八話 水神アクレシスの恩恵
あ、待てよ。清水の次はサデュラの葉だ。
サデュラの葉がある目的の場所はずっと東の大森林。
よって、この辺りの地図が欲しい。
ここに地図が売っているか、聞いてみよう。
「ねね。ここに、この辺りの地図、【ヘスリファート】を含めた隣国とかの位置が分かる地図はある?」
「ありますです。金貨一枚です。ほとんどが高級な羊皮紙代となりますです。詳細な地図は極秘になりますので、非常に簡易的なモノになりますですが、よろしいです?」
高いね。
まぁ、金ならあるしいいか。
「いいよ」
「少々、お待ちくださいです……これです」
受付嬢が後ろにあった棚から一枚の羊皮紙を取り出す。
本当に簡易な手書きの地図だった。
おおまかな山地、川や道と森、北東の位置に【宗都ヘスリファ】と小さく書かれてある。真東に【アーカムネリス聖王国】、真南に【ゴルディクス大砂漠】と【アーメフ教主国】と書かれてあるだけ。
ぼったくり価格の金を払い、地図を貰っていく。
「ありがと。それじゃ、また何処かで」
受付嬢へ笑顔を向けてから別れる。
地図を折り胸ベルトに仕舞ってからギルドを後にした。
地図もゲットしたし、神殿で清水を貰いにいきますか。
◇◇◇◇
神殿前にある階段を上り神殿に入る。
混雑している廊下を進み吹き抜けエリアの神殿の本堂に出ると、こないだより混雑していた理由が分かった。
アクレシス神像の、頭上にある両手に支えられていた水瓶から勢い良く清水が滝のように放出されていたからだ。
清水は神像の体にもぶつかりながら落ちているので水飛沫が周りに飛び散り、清らかな空気が神殿内を包むように満ちていた。
それらの心地の良い水音が合唱団とはまた違う自然の音を奏でている。
瑞々しい神聖なる空気が漂い、キラキラと神像の周りが煌めいて輝いては、初めて見たときには無かった魔素が放出されていた。
そして、視界にある者たちが映る。
それは子精霊。子精霊たちが大量に発生していた。
いつみても不思議。どれも微妙に形が違う。
水瓶の周りを子精霊たちは楽し気に歩く。小さい軍隊が行進しているかのようにテクテクと足を揃えて歩いていた。
水音の跳ねる音で子精霊の歌は聞こえないが……像のあちこちで独特な踊りを披露している子精霊も居れば、ぷかぷかと平泳ぎを行うように宙を泳いでいる子精霊もいる。
不思議すぎる。
だけど、壮麗、荘厳な雰囲気も感じさせた。
そこで騒がしい神像の足元へ視線を移す。
床は僅かな傾斜があり清水が床下にある小さな穴へ誘導される形となっているようで、清水が流れて溜まり浅い泉のように変化を遂げていた。
そこには、ざわざわ、わーわー、と沢山の人々が手に大瓶やら壺やら金属の洗面器を持ち群がっている。
皆、一生懸命にそれらの道具へ清水を掬っては口へ運び飲んでいた。
更には違う木製の容器へ清水を容れる作業を行っている者もいる。
黒猫も泉へ飛び出していく。
泉に群がる人々が遊んでいるように見えたのか混ざりたくなったらしい。
黒猫は泉を覗き込み、片足を清水の泉の中へ浸し、濡らした片足を口元へ戻しては濡れた肉球をペロペロと舌を使い舐めて清水を飲んでいた。
そして、薄い水面に猫パンチをしたり、水飛沫に体当たりをしたり、しまいにはウォータースライダーをするように床を滑って遊び出している。
そんな可愛らしい黒猫の姿を見ながら、俺も群衆に混ざり魔法瓶の中へ清水を容れていく。
すぐに魔法瓶は清水で満杯になった。
よしぃぃ、これで素材の一つをゲット。魔法瓶を片手に掲げ持つ。
“アクレシスの清水”を手に入れたぞぉっ。
つい、某国民的RPGのレベルアップ音を口ずさむ。
果たしてどんな味なのか期待しながら飲んでみる。
魔法瓶を口へ運ぶ。
――んおぉ、こりゃすごい。水だが、水じゃないような。
喉ごしが透き通るような心地よさ。
清廉な心で満たされていく感じ。体に染みていく、美味しい。
腰に手を当てて風呂上がりの牛乳飲みスタイルで清水をごくごくっと飲んでいると、最初に説明してくれた神官長さんに話しかけられた。
「――清水の味はどうですか?」
「えぇ、なんというか、心が癒される味といいますか。美味しいです」
俺は目をキラキラさせているに違いない。ウマシ、この水。
「そうでしょう、そうでしょう。ですが、本当にそれだけですか?」
神官長さんは、ソワソワしている。
何かを期待しているらしい。
「貴方は蛇竜ヘスプを討伐すると、仰っていましたね。そして、本当に蛇竜ヘスプが討伐されました。もしや、蛇竜ヘスプを倒してくれた冒険者の方々の一人なのですかな?」
神官長は福の神が宿ったような顔を浮かべて語る。
清水を飲んで、すぐに何かしらの効果があるんだろうか?
でも、神官長さんは本当に嬉しそうだ。
満面のニコニコ顔。
「……そうですよ。俺と相棒が倒したんです」
神官長さんはそれを聞くなり鞠躬の態度に変わる。
「おおお、やはりそうでしたか。これは失礼を、この度は本当にありがとうございました。水神アクレシス様も大変お慶びでございます」
神官さんの変化に戸惑うが、神様が慶び?
「喜び?」
「はい。わたしは神官長キュレレと名乗っております。神官長独自のスキルにより水神アクレシス様のお力を少し感じることができるのです」
ほぅ、そりゃすごい。
だが、俺は元は日本人。
無宗教に近い。仏教とか神社とかはそれとなく信じているけど。
転生しといて、アレだが、あんまり神様と言われても実感が湧かないな……。
「……神様の力ですか?」
「はい。貴方様がこの神殿に入られた瞬間から、神気が溢れ、神像の波動音が強まったのでございます。このようなことは滅多にないのです。水神アクレシス様による祝福があるかと思われましたが……」
「祝福?」
「そうです。清水を飲まれたはず。もしや、水神アクレシス様を信じていないのですか?」
そりゃ、百パー信じているかと言われたら……信じていないけどさ。
「えぇっと、神官長さんの前で、アレ、なんですが、ハイ、あまり信じていません」
素直に話す。
「そうですか。残念です。ですが、遅くはないです。少しでも信仰心を持たれたら祝福が得られるかも知れませんよ? 本当にこんなことは滅多にないのですから……」
明らかに態度が横柄になった。
そりゃ、ま、神官長だもんな。
「分かりました。心を入れ替えて……」
信仰かぁ。柄じゃないが少しは信じてみるか。
自分なりのお祈りポーズを取る。
――水神アクレシス様。
――この度はどうも。清水を頂きました。美味しかったです。
――清水をありがとうございます。少し信じてみます。
※ピコーン※称号:水神アクレシスの加護※を獲得※
※称号:超越者※と※水神アクレシスの加護※が統合サレ変化します※
わお、祈った瞬間にコレか。
神様からコントのツッコミのような素早さで、称号をゲットしちゃった。
更に、神像から俺へ向けて光が放たれる。
なんだ? 放たれた光の中には、虹色の光を帯びた半透明な仗のような武具が浮かんでいた。
なっ、半透明な仗のような武具が俺の体へ突入してくる。
避けようがないほどの速度だった。
――力が染み渡る。
※称号:水神ノ超仗者※を獲得※
※ピコーン※<水の即仗>※恒久スキル獲得※
わぉ、今度はスキルかよ。
「こりゃ――」
ん?
「――きゃぁっ」
「んお?」
女の声? 俺の尻が濡れてる?
外套の内部に衝撃が……外套を捲って見ると……。
俺はこの時、何が起こったのかさっぱり分からなかった。
突然、俺の尻から、女が生まれたのだ。
羞恥心? いや、これはそんな生易しいもんじゃねぇ。
外套を着ていたとはいえ、神殿で、神官の目の前で、しかも、公衆の面前で、尻から成人の女性を産み落としてしまったんだぞ?
俺はいったいどうなっちまったんだ?
助けを求めるように黒猫を見る。
黒猫もびっくり、混乱。
触手を真上へ伸ばして奇天烈な顔を浮かべては毛を逆立てていた。
称号やスキル獲得のことはぶっ飛んでいた。
尻を掘られた覚えはないが、産んじまった女をちゃんと見る。
ん? 淡い蒼色の髪に蒼色の葉の肌だ。こりゃ人族じゃない。
俺は人間じゃない子を……なわけねぇだろ!
自分自身へ<鎖>を打ち込む勢いでツッコミを入れた瞬間、脳裏に映像が浮かぶ。
あっ、あぁぁ、思い出したっ!!
この女、湖にいたあんときの女精霊っ!
名前は確かヘルメだったっけか?
その刹那――。
『――定命の者よ。我は水神アクレシス。蛇竜ヘスプ退治をよく果たしてくれた。改めて礼を言おう。――だが、そんなことは些細なことだ。我の眷族である小さき命をソナタの体に宿してくれていたことに感謝する』
声が脳内に響く。
「宿していた?」
『――そうだ。我がこのように直接意思を伝えるのは数千年ぶりのことだ。なので、感謝の意思が上手く伝われば良いのだが』
ひょっとして、
「神様?」
『――我は水神アクレシス』
やはり、神様が俺の脳へ直接語りかけていた。
俺の言葉に神官長がギョッとした顔を浮かべる。
『――本来であれば、定命の者にこのようなことはしない。だが、ソナタの傍にいる、その小さき水精霊はソナタの魔素を吸収して生き永らえていた。――その身を以って我が眷族を救うソナタに感謝の念を送ると共に、我の力の一部を進呈したのだ。だが、ソナタは最初、我を受け入れてくれなんだ……』
神官長の顔が怖いので、脳内会話に切り替える。
それは済まなかったな。
でも、これでスキルを得た理由がわかった。
俺は頭がオカシクなったわけでも、女を産んだわけでもなかったんだ。
よかった……。
でも、この女性、いや、水精霊は俺の体の外に出ちゃったんだけど、平気なのかな?
『――大丈夫だ。我が力に触れ水精霊本来の力を取り戻しておる』
それなら良かった。
神様と話す機会なんてそうそうないから聞きたいことがあるのですが良いですか?
『――良いぞ。ただし、こうした神託は聖域の神殿とて、それなりに力を消費する。だから、そんなに多くの時間はとれぬが、遠慮なく語るがいい』
分かりました。手短に話します。
この清水とサデュラの葉で“枯れたホルカーの大樹”を再生させようと行動しているのですが、本当に大樹は再生するのですか?
『――ほぅほぅ、それは殊勝な心がけだ。再生するとも。随分と神々に好まれる行為をしているのだな。もしや、ソナタは“セウロスに至る道”でも探しているのか?』
セウロスに至る道? なんです? 芭蕉な奥の細道的な?
『――いやいや、解らぬのならいいのだ。眷族を復活させるのならガイア、サデュラも大変喜ぶであろう』
おお、もし、復活させたなら玄樹の光酒珠か智慧の方樹を貰えますか?
『――ハハハハ、豪気な定命の者よ。それはサデュラとガイアによく相談するのだな。それでは、我はここまでだ。然らばだ。定命の者よ――』
あっ、気配が失われていく。
荘厳な雰囲気を醸し出していた神気が神殿内から一瞬にして完全に消えた。
まだ聞きたいことがあったんだけどな。
近くにいた神官長はきょろきょろと神殿内を見回している。
様子が変わったことがわかるらしい。
「水神アクレシス様の気配がなくなりました。貴方はさっき、神と仰っていましたよね? それに、この女性は……人族に似ていますが皮膚が蒼色の葉? もしや、水神アクレシス様に関わる事柄ですか?」
神官さんは蒼い人型である水精霊を凝視している。
ヘルメは小さい湖の精霊だったけど、今は違うのかな。
それより、ここだと周囲の目がある。
適当に誤魔化して場所を変えるか。
その前に、大切な素材であるこれを仕舞わないと……。
アクレシスの清水を汲み直して魔法瓶を満杯にしてからアイテムボックスの中へ仕舞い、精霊を見つめている神官長へ話しかけた。
「……いや、神官様。この子は知り合いの遠い地域に住む、違う種族の女の子です。水神アクレシス様とは関係ないですよ」
「そ、そうですか……」
神官さんは表情を変えて訝しむが納得してくれたようだ。
「ヘルメ、久しぶり」
「は、はい。ご主人様とお呼びしても?」
うひょ、いきなりか。そうなるのか?
「とりあえず、ここじゃ目立つから外へ行こう。神官様、またの機会に」
「あ、はい。またいつでも神殿にいらしてください」
「――はい。では、ロロッ、帰るぞ」
「にゃお」
精霊ヘルメと手を繋ぎ、足早に廊下を抜け神殿を出てUの字階段を降りていく。
黒猫もちゃんと後ろから走ってついてくる。
そのまま神殿近くにある建物の陰に精霊ヘルメを連れ込んだ。
「……それで、ヘルメ。俺をご主人様と呼ぶのはどういうことだ?」
「はい。わたしは永らくご主人様の魔素を吸い細々と生き長らえてきました。それだけでなく、血の味、魂の味、すべてを細々と頂戴しておりました。ですので、身も心も染まってしまったのです。……どうか『本契約』をして頂き、御側に……ご主人様に仕えさせて頂きたいのであります」
彼女は蒼色の葉皮膚でできた悩ましい裸体をくねくねと動かして恥ずかしそうに答えている。
「にゃ」
「ロロディーヌ様。いつも感じておりました。初めてご尊顔を拝見します。素敵なお顔ですわ」
「にゃ、にゃぁん」
黒猫は褒められると嬉しかったのかヘルメの肩に飛び付いて顔をぺろっと舐めて、また俺の方に戻ってきた。
「まぁ、ロロ様。可愛い口付けありがとうございます」
ロロがあんなことをするのは珍しい。
「……ヘルメ、本契約とは?」
「はい。本契約とは正式に〝お名前〟をつけて頂き、ご主人様の魔素と融合して新たなる精霊となることでございます。そして、ご主人様のお体に仮契約の時よりも濃い、わたしの精霊としての〝シンボルマーク〟がつくことになります」
「名前か。それは置いといて、俺には仮契約のシンボルマークが前々からあったのか?」
「えぇ、はい」
もしかして、ヘルメが尻から現れたのは……。
「それは、もしかして尻にか?」
「そ、そうです」
「なんでまた、そんなとこに……」
「それはその……初めてご主人様と結ばれた時に、キュウトな、お尻が気に入りまして……勝手に潜り込んじゃいました」
あの時か……。
精霊とはいえ……。
めちゃくちゃにヤった覚えがある……。
「そ、そか。それと、どんなことができるんだ?」
そう言った瞬間、ヘルメの蒼色の体がドロッと溶けるように地面に落ちる。
地面には水溜まりができていた。その水がスライムが這うように移動して液体となったヘルメは俺の足の装備のグリーブを伝い、防具の隙間から防具の内部へ侵入してきた。
そして、足から尻に伝い、尻と同化したらしい。
なるほど……。
暫くしてから、防具の隙間から蒼色の液体が漏れ出てくる。
蒼色の液体は地面に移るとそこから滑らかに上方へ伸びてヘルメの外観、女性の姿に変化していく。
どういうわけか分からないが、ヘルメが通ったところの外套や鎧は全く濡れていないうえに綺麗になっていた。
「この通りでございます。他にも水流操作、炎系統の魔法に抵抗できる水幕、水に閉じ込める水牢、水系攻撃魔法の水刃、氷剣、氷礫、氷槍が“詠唱なし”で使用可能です。これは現時点での基本性能です。更に、本契約によって様々に変化すると思われます」
見た目通りに水と氷の魔法が使えるってことか。
詠唱なしは凄いな。
「……それは凄い。ヘルメは精霊なんだな。 今はもう本来の力を取り戻しているんだろう?」
人型のヘルメは感謝を表すような仕草を取る。
「はい。ご主人様のお陰でございます。わたしは水神アクレシス様の理に触れ、水の精霊として昇華を果たしました」
「良かった。俺は知らない間だったが役に立っていたのなら、嬉しい。それにしても、さすがは水神アクレシス様だな」
「はい。しがない外れ精霊にとって、眷族の頂点の神は雲の上の存在なのです」
ヘルメは神様を思う、尊敬の想いからか胸に手を当てては若干、目を瞑る。
「それで、契約するとして、俺の尻に隠れるのは、なんか嫌だな。シンボルマークの場所を変えることはできるか?」
「はい。どこにでも“大きさ”も何回でも自由に変えられます」
「ほぅ。それならいいや。よし、名前を決めるとして、同じ名前のヘルメじゃだめなの?」
「ご主人様が気に入った名前でしたら、何でもいいですよ」
「それなら、ヘルメに決まりだ。本契約をしよう」
「はい――」
ヘルメの蒼い目が蒼く輝き、微笑を浮かべる。
全身の蒼葉の皮膚が逆立ち漣のようにウェーブを起こしていく。
そのまま、一歩、二歩と歩き近寄ってくる。
妖艶な姿の全身からは魔力が溢れていた。
その姿に――思い出す。
湖で初めて出会ったときを……。
ヘルメは細い腕を俺の胸へ伸ばしてくる。
蒼い指が古竜の鱗鎧に触れた瞬間――その蒼い指が透明になり、その指先から一気にヘルメの体全体が液体へと変化。
その液体となったヘルメは鎧鱗の表面に浸透し広がるように沈み込んでいった。
すぐにヘルメの液体が、俺の体に染み込んでくるのが分かる。
不思議だ。体内に精霊がいると感じられる。
精霊の魔素、魔力が胸の中で吸収され、俺の魔力と混じり融合していくのが分かった。
う、ぐおっ、いきなりか。
……沸騎士たちのときを超えるぐらいに魔力が持っていかれる。
※ピコーン※<精霊使役>※恒久スキル獲得※
スキルを獲得すると同時に体内でヘルメが動くのが分かった。
動いている感覚が右肩から右腕へ移った瞬間、右腕から液体が染み出し、液体のヘルメが宙へ弧を描いて放出される。
放出された液体は宙に留まり中では黒い球体と水晶体のような物が二つゆらゆらと小さい円を作るように揺れ動いていた。
揺れ動いた蒼黒い球体は女性の体へ変化してゆく。
更に、胸の位置のあばら骨が孔雀の羽のように左右へ開くと、蠢いていた水晶体がその開かれた胸の中へ沈み込み胸の中に取り込まれた。
孔雀の羽のようなあばら骨は蛇腹が動くように波打ち胸は閉じられる。
そして、最終的に……凄く良い女になっとるがな。
思わず、へんな訛り言葉で反応しちゃった。
髪は蒼と黒が混ざった色合いの長髪で可愛らしい水滴マークの髪飾りがある。
特徴的なキューティクルに光沢を持った長い睫毛も蒼色。
大きい瞳は黝色で鼻は少し高く細顎を持つ美人さんだ。
大きい双丘から細いくびれが続き大きい尻がある。
……一流モデルのよう。スタイル抜群。
全体的に闇の色が色濃く、そこに蒼色が混ざった皮膚の葉が生き物のように靡いていた。
黝、紺に近い難しい色合いと言えばいいか。
色も体型もよりグラマーに変化したけど、基本〝葉っぱ〟な皮膚を持つ姿なのは変わらないようだ。
「……水と闇の新しき眷族。〝常闇の水精霊ヘルメ〟ここに誕生いたしました」
常闇の水精霊ヘルメか。声質が若干低くなった?
ここまで変わるものなのか?
「常闇の水精霊ヘルメか。姿と声が変わったけど、大丈夫か?」
「はい。至って平穏で御座います、閣下」
閣下とか、口調も変化している。
何か沸騎士たちを思い出す。
あいつら、最近呼び出してないけど魔界で元気にしているのだろうか。
それより今はヘルメだ。常闇ということは、闇属性。
「……闇と水の精霊ということでいいのかな? すると、闇系の魔法も使えたり?」
「はい。閣下との本契約により、わたしの魔素と閣下の魔力が融合したので、新たな属性を得たようです」
「どんなのかやってみて」
「はいっ――」
ヘルメが振り向いた先に、突如、筆で書いたような墨色の闇雲がぷかぷかと発生。
闇雲が発生している真下の地面には闇靄が生成される。
よく見ると、靄の中には魔法陣が浮かぶ。
その魔法陣から闇色の杭刃が生えた。
竹が生えるようにシャシャッと音を立てて幾つも飛び出る。
「闇の系統はこの二種類だけです、やはり、水のが得意ですね」
「詠唱がなくスムーズに放てるのはいいな」
「ありがとうございます」
「それで新たなマークとは、俺の体の……どの部分に付けるんだ?」
「閣下が決めてください。いつでも自由に変更できますので」
「そっか。なら、俺の目はどう?」
「はい。では――」
ヘルメは液体になって放物線を描き、左目へ飛び込んできた。
「何も変わらないな」
『閣下』
ぬお、デフォルメされたヘルメだ。
AR機能のように視界に浮かんでいる?
「これは……」
『閣下の眼の中にわたしが存在しているのです』
不思議だ。
「ヘルメの存在が立体的な小さいCGアニメキャラなのは何でだろう」
『閣下? その言葉の意味がわかりません』
デフォルメキャラなので、素振りが可愛い。
「俺がそう見えているだけか。記憶から読み取ったのかと思った」
『……ご記憶を読む? そんなことはできません。わたしは閣下に使役されているのですから、この身を使い閣下の力になることはできますが、その反対のことなどできるわけもなく、あくまでも現状は閣下の目、閣下の体に格納させていただく状態です』
へぇ……。
『たぶんですが、閣下自身が、わたしの魔素をそう感じ見えているだけなのでしょう。しかし、わたしも、小さい姿を取っていると自覚はしております。これが、ご記憶を読むことに繋がるのでしたら、どうか、お尻に住まわせてください』
いや、尻は嫌だ。
今のままでいい。
「それと、今、脳に直接響いてヘルメの声が聞こえてくるんだが、これは俺の体内に宿っている時だけなのかな?」
『はい。そうです』
遠距離通話ができるわけじゃないのか。
「それじゃ、俺の力になるとは、なんだ?」
『はい。閣下にアドバイスができますし、閣下の魔力が消費されますが、わたしの目である精霊の眼の一部が使えるようになります。使用すれば、視界の範囲内で熱探査が可能となるはずです』
熱探査……サーモグラフィーか。
蛇が持つピット器官じゃん。
「おぉ、マジか。魔力消費はどれぐらいだ?」
『わたしだと氷槍一回分です。閣下では極少量なはず』
「へぇ、それはどうすれば使える?」
『視界にあるわたしを意識して掴まえ、視ると意識すれば同調が開始され魔力がわたしに注がれます』
「そうか。やってみよう」
視界に映るヘルメをマウスでクリックするように掴まえた。
そして、視る――。
ヘルメは視界から消えた。
『アッ――アンッ、アァァァァァ、ウフゥ』
うへ、悩ましい喘ぎ声を出してるし。
だけど、左の視界がサーモグラフィーのように色彩が変わった。
温度が高いほどオレンジや赤になり、低いほど、緑や青になると……。
熱探知。これが精霊の眼か。
「……なるほど」
『はひぃぃぃぃ、ウフン、気持ち、いいで、す。んぅ』
「その声は止めてくれ」
『は、はぃぃ』
「なぜ、そんな声を出す?」
『こ、これはぁぁ、閣下の魔力のせいですぅぅ』
俺の魔力が好きなのか。
「精霊の眼を使う度に、それを聞かされるのは嫌だ。今後は抑えてくれ」
『ヒィィ、ァン。わ、わかりました。努力、しますぅん』
「視界から消えたが、視界に映る時と映らない時との違いは?」
『閣下が魔力をわたしに注げば、わたしは視界から消えます。後、命令してくだされば現れたり消えたりできます』
わかった。
とりあえずそこで精霊の目で視るのを止める。
「なるほど。それと、俺はヘルメのように脳内だけに響く言葉、念話みたいなことはできるのかな?」
『できます。わたしを意識して、念じてくださればそうなります』
意識してか、念じてヘルメに話しかけてみよう。
『ヘルメ、聞こえるか?』
『はい』
『これが念話か、素晴らしい。だが、ヘルメが目から離れていたら、念話はできないのか?』
『はい。わたしが離れたらできませんが、成長、進化を果たしたら……いずれは遠距離からも念話的なことが可能になるかもしれません』
成長か。今すぐは無理と。
そう都合良くはいかないか。
『わかった。気長に待つ』
『はっ』
よし。
「ヘルメ、外へ出ていいぞ」
『はいっ――』
自分の目から放出されていく液体を間近で見るのは何か変だ。
「閣下。今後とも良しなに……」
さっきの悶えた声はどこへいったのやら平然と片膝を地面につけて頭を下げている。
ヘルメの皮膚は全身が滑らかそうな蒼と黒が混ざった葉。
液体になれるんだし、これ、自由に弄れないのかな?
「……あぁ、よろしくな。疑問があるんだけど、その姿は自由に変えられるの?」
「基本の容姿はこのままですが、葉の皮膚の一部を変色させて人族が着るような衣服に変装はできます」
「ほぅ、それをやってみて」
「はい――」
すると、黝色の葉っぱだったのが、人族の女性が着るような平凡な革服へと変わっていた。
髪、瞳は黝と蒼色だが、首筋、顔の皮膚は薄い青色だ。
これなら大丈夫だな。
「いいぞ。普段、外に出るときはそうやって変化をつけておいてね」
「わかりました」
「それじゃ、泊まっている宿屋へ戻る」
「はい」
「にゃ」
一旦、ヘルメには左目に戻ってもらい宿へと戻ることにした。




