表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
槍使いと、黒猫。  作者: 健康


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

883/2206

八百八十二話 武人イゾルデとの模擬戦に<崑崙・白龍血拳>

2021/12/12 21:40 武王院会議の内容を修正&大規模追加。

2021/12/20 20:49 修正

2022/01/06 22:14 修正


 俺も気合いを込めて、


「おう!」


 <血道第三・開門>――。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>――。

 ――<龍神・魔力纏>を実行。

 イゾルデは警戒を強めるように片方の瞳に魔力を集中させる。

 <龍右眼>の能力の一部か? 先のヤンキー風の院生に対して繰り出していた龍眼の能力とは少し異なるようだ。イゾルデは俺の体を覆う<龍神・魔力纏>を凝視しつつ、


「シュウヤ様の武威が更に……」


 そう呟くと、武王龍槍の穂先を俺に向けたまま左側へとゆらりと移動。

 すると、しなやかに身を反らす仕種を取っては、右側へと素早く戻る。

 その機動は低空飛行を行うような機動。背中に翼が生えているように見えるほどに、龍としての気品さと美しさがあった。

 その美しいイゾルデの体から大量の魔力が放出されている。

 既に小型の龍カチューシャの姿は消えていた。その代わりなのか、武王龍槍を半透明の龍が覆っている。

 小型の龍カチューシャの力を自身に活かせるようなスキルを実行したようだ。

 そして、武王龍槍を覆う、いや、飲み込んでいるような半透明な龍は、武王龍槍を従えているような印象だ。

 穂先と融合?

 しているようにも見える、その龍の頭部が口を広げた。

 咆哮――続いてイゾルデも、


「<武王・白龍牙穿>!!」


 耳を劈くような叫び声。

 武王龍槍から魔力を放出させてくる。

 その魔力は瞬く間に雲が風を孕む勢いで拡がった。

 イゾルデのブレた体が、その雲に隠れる。

 ――半透明の龍との合体技? 

 が、有視界では見えずとも魔察眼では見えている――。

 すると、青龍偃月刀と似た穂先が、その魔力の雲から抜け出た。

 ――イゾルデ本人も、その魔力の雲を吸収しながら抜け出る。

 魔力の雲とは色が異なる霧っぽい魔力を足下から発しては、推進力を得たように加速して俺との間合いを詰め、重心を下げた。


 左足の踏み込みから右手が一本の槍と成るような<刺突>のモーション。

 武王龍槍の刃を寄越す――。

 ――俺は急ぎ無名無礼の魔槍を上げて武王龍槍の刃を柄で受け止めた。

 その武王龍槍の刃と無名無礼の魔槍の柄から不協和音が響く。

 ――刃と柄からも閃光が迸った。更に無名無礼の魔槍の柄に刻まれている梵字の『バイ・ベイ』が煌めいて、その煌めきがイゾルデの体を悩ましく照らす。


 イゾルデは右腕ごと槍と化したような体勢を崩さずに俺を見て、


「――なんという魔槍と防御の槍技術だ! そして、力で押し切れないとは……やはり<龍神・魔力纏>の質が高い証拠!」


 興奮状態のイゾルデは早口だ。

 俺も無名無礼の魔槍の穂先越しに笑みを見せて、


「ま、俺もそれなりに経験は経ている。先ほども言ったが、イゾルデから<龍神闘法>を学ばせてもらおう」


 そう言うとイゾルデは頷く。


 ニヤリとした。


「ふふ。しかし、シュウヤ様、我の技をいつまで受け続けられるか見物だな!」

「こいや!」

「承知! 我の<武王・白龍牙穿>はまだまだこれから!」


 『一の槍』の体勢のまま凄まじい力で押された。


 イゾルデは体は細いが筋力は高い。

 半透明な龍の頭部は武王龍槍を飲み込み武器と一体化しているようにも見える。イゾルデの気概を得ているような印象だ。


 そんな魔力の龍が絡む武王龍槍の穂先は青龍偃月刀と似ているから余計に迫力が感じられた。


 蜀漢の名将の関羽、字は雲長、を想起した。

 すると、その武王龍槍の穂先から衝撃波が発生。


 衝撃波で無名無礼の魔槍から出ていた墨色の魔力が霧散。墨色の魔力はまた出せるから問題ない。

 が、その衝撃波には魔刃が内包されていた。


 魔刃は俺の体を覆う<龍神・魔力纏>の龍の魔力を突き抜けた。


「――痛ッ」


 頬と胸元に切り傷を負う。

 イゾルデは俺が纏う<龍神・魔力纏>を見て、


「一部は<龍神・魔力纏>で防がれたか」


 と発言。


「今のは龍の牙? 風の刃か?」


 そう聞くとイゾルデは頷く。


「両方だ! が、まだまだ! <武王・白龍牙穿>!」


 叫ぶイゾルデ――。

 武王龍槍の穂先から、半透明な龍の頭部が前方に飛び出てきた。


 更に、イゾルデが、


「ガァアヅッロアガァァァァァァ」


 龍言語魔法を繰り出す。


 半透明の龍の頭部は無名無礼の魔槍の柄を通り抜けた。


 龍の頭部による幻影攻撃!?

 否、柄を通り抜けた龍の頭部だけが実体化。

 疾風迅雷の龍の顎を避けることができず、左肩と胸を噛まれた。 

 防護服を歯牙がざっくりと突き抜ける。

 ――ぐあっ、痛い!


 更に武王龍槍の<武王・白龍牙穿>の威力に押されて後方に運ばれた。


 地面に俺の足跡が生成されていく。

 が、両足の魔力を強めて動きを止めた。


 武王龍槍の穂先越しにイゾルデが、


「シュウヤ様は力も強い!」


 と発言。

 無名無礼の魔槍の柄で、イゾルデの武王龍槍を押さえているが……。


 肩と胸は噛まれ続けていて痛い。


 魔力の龍の顎がじゃりじゃりと音を立てて俺の肩と胸を食べている。


 痛すぎる。

 自分の肉の焦げた匂いも鼻をつく。


 目の前のイゾルデは――。

 片腕を伸ばしたまま動いていない。

 肩を上下させた。

 <武王・白龍牙穿>と龍言語魔法の同時使用は消耗が大きいようだ。


 呼吸も荒くなる。


 武王龍槍を握る右腕が少し震え始めた。

 そのゼロコンマ数秒後、イゾルデは右腕を下げる。


 肩の動きと連動するように武王龍槍の穂先が上下。

 呼吸を乱したイゾルデは自身の体を俺に向けたまま後退を続けた。


「「おぉ」」


 背後の院生たちから声が響く。

 俺とイゾルデの派手な戦いだ。

 院生たちから注目を浴びるのは当然か。


 声には構わず――。

 イゾルデを見ながら無名無礼の魔槍の持ち手を短くした。


 そして、肩と胸に噛み付いたままの龍の下の顎に向け――。

 無名無礼の魔槍の柄をぶち当て、その龍の下顎を破壊――。

 肩と胸に刺さっていた下顎の歯牙は一瞬で魔力粒子となって消える。


 続けて<仙玄樹・紅霞月>を発動――。


 体の表面に薄い霧が発生。

 その霧から三つの三日月状の血と樹の魔刃が飛び出た。

 三日月状の血と樹の魔刃は指向性が高い。


 俺の肩と胸に喰らい付いたままの龍の上顎を突き抜ける。

 龍の上顎の破壊に成功――。


 頭上付近で三つの三日月状の血と樹の魔刃が霧状に霧散。

 龍に噛まれた傷痕が酷い。が、一瞬で再生。

 防護服も「ングゥゥィィ!」と肩からポンッと出た竜頭金属甲(ハルホンク)がアピールするように修復は完了。


 その俺の体と竜頭金属甲(ハルホンク)の防護服の表面を<龍神・魔力纏>の半透明な魔力の龍が行き交う。


 <龍神・魔力纏>は凄い。

 色々と身体能力が増していると理解できた。


 退いていたイゾルデは構え直し、


「我もだが、光魔ルシヴァルの回復力は凄い。更に、<龍神・魔力纏>を使いこなしているからこその回復力の向上に身体能力の増加か!」


 少し興奮気味。


「<龍神・魔力纏>は正直まだ自信がない」

「……分かる。我も、時折感じる<血魔力>と<魔闘術>の境目の曖昧さが悩み。この魔力操作は極めて難しい。が、それこそが、我ら光魔ルシヴァルの真髄と読んだぞ」


 イゾルデは凄い。

 さすがは武王龍神様だっただけはある。


 蛇腹機動の指の動きで柄の握りを変化させていく。


 同時に心でラ・ケラーダを送る。

 そして、イゾルデを尊敬するからこそ、その心を揺らそうか……。


「それよりも、先の<武王・白龍牙穿>は魔界セブドラ側が好む<魔槍技>に分類される大技か?」


 細い眉を吊り上げたイゾルデ。


「魔界セブドラ側で喩えるな! 龍人系武術の秘奥義である!」

「へぇ」


 語気を荒めたイゾルデは得物の武王龍槍に魔力を込めた。


 半透明な魔力の龍が柄に螺旋状に絡んでいるから、余計に武王龍槍の迫力が増した。


 イゾルデは自身の<血魔力>を強めながら半身の姿勢のまま横に歩く。

 スタイル抜群の体の表面を<血魔力>と半透明の龍たちが巡っていた。


 あれが<血龍霊装>だろう。


 そのイゾルデが着るコスチュームは、イゾルデによく似合っている。

 乳房が歩きに合わせて揺れていた。

 腰も細いしお尻さんの形も抜群。


 総じて魅惑的。

 同時に威圧感もある。

 イゾルデが醸し出す雰囲気は、まさに武の女神、龍神様だ。


 本当に武王龍神様だったとよく分かる。

 八大龍王ガスノンドロロクン様を知るだけに拝みたくなった。


 そのイゾルデに、


「……光魔武龍イゾルデも<血魔力>を使いこなしているように見える。そして、それは血魔術でブラッドマジック。<血魔力>と呼ばれている魔界セブドラ側の能力だぞ?」


 と発言。


「ハッ、狙いは分かっている。我を苛つかせて我の身魂、<血龍霊装>を崩すつもりであろう?」


 ニヤリとして、


「ばれたか」

「ふはは、当然だ。我を女子と同じく扱うでない!」

「おう、分かっている」


 美人さんだからついな。


「我に先に打たせ、その隙を突く武人の氣概だな?」

「その通り、柄の上で武王龍槍の刃を滑らせながら穂先をイゾルデに落とす狙いだ」

「ふっ、シュウヤ様は戦術語りと氣概からして、偉大な武人だと分かる! ならば先の先で崩す!」


 イゾルデは金色の角を血色に光らせつつ前進――動きが更に加速。

 <血龍霊装>と<龍神闘法>の同時使用か?

 頭部の金色の角から血の稲妻でも放出するつもりか?

 

 ――違った。

 

 武王龍槍の突きスキルか。


 咄嗟に無名無礼の魔槍の柄を上げた。が、イゾルデの槍の動作はフェイク、右下段蹴り――か。


 龍人の筋肉の動きは人族と似ているからな。


 ――無名無礼の魔槍を穂先側と石突側で円を作るように回しつつ穂先側を下げた。


 イゾルデの蹴り足ではなく地面を穿つ。

 同時に<龍神・魔力纏>をさらに強く実行――。


 イゾルデの右下段蹴りが無名無礼の魔槍と衝突する。


「――なに!? 掛かったと思ったのだが」


 ――体が一気に活性化。

 続けて――<魔雄ノ飛動>を意識。

 ――<仙魔・暈繝(うんげん)飛動(ひどう)>を発動。


 無名無礼の魔槍に自身の体重を預けるように体を上げる。

 両手持ちの無名無礼の魔槍に体重を預けながら腰を捻り回す<蓬莱無陀蹴>を繰り出した――。


「攪乱戦術か! 見事な機動――だが!」


 下段蹴りを繰り出していたイゾルデの頭部付近に俺の延髄蹴りの<蓬莱無陀蹴>がカウンターで決まるかと思われた。


 が、そのイゾルデの体がブレながら横回転――。


「フハハ――これは防げまい――」


 一瞬で体の一部が光魔武龍化? 

 龍族としてのイゾルデか――。


 右前腕、左前腕、右肘、左肘などの連続打撃――。

 『散打』の嵐、『デンプシーロール』的な両腕、否、上半身を活かす攻撃乱舞――で俺の<蓬莱無陀蹴>を弾き、避けようのない速度のまま左足を攻撃された。

 打、打、打、ドドド、異質な重低音が威力を物語る。


「――ぐあぁ」


 ――激痛。防護服は散り左足が破裂。砕けた左足の骨と血飛沫が迸る。

 が、左足は一瞬で再生、右手を下げて無名無礼の魔槍の柄を使い防御に移行――。

 しかし、回転乱舞を続けるイゾルデの攻撃は止まらない。


「――ガァアヅッロ!」

「――アガァロッガァ!」


 ユイの<舞斬>を超える。

 龍言語魔法と連動しているイゾルデ。

 上半身の至る所から不規則に出る白銀の刃と、武王龍槍の穂先の<刺突>系統のスキルが幾度となく迫った。


 四眼ルリゼゼ――。

 猫獣人(アンムル)のレーヴェの機動を想起。


 イゾルデは時折乱雑に武器を振るっているように見えるが、急所を的確に狙ってくる。


 魔察眼を更に強めてイゾルデの動きを学ぶ。


 ――が、これはさすがに無理か。


 ――イゾルデの左右の腕から白銀の刃が無数に生えている。


 <血龍霊装>の秘奥義?


 <氷皇・五剣槍烈把>的な大技か――。


 無名無礼の魔槍の柄を踊らせるように扱う。

 しかし、持ち手の指が切断されて数本跳ぶ。

 体、両腕、両足が一瞬で貫かれて斬り刻まれ、痛すぎる。

 無名無礼の魔槍を血飛沫に紛れさせるように消す。


 イゾルデの手数と質の高さは異常――。

 <氷皇アモダルガ使役>を意識。<召喚闘法>を実行だ――。

 氷皇アモダルガの凶暴な獣の意識を乗りこなしてみせよう!


「――氷皇アモダルガ――」


 <霊纏・氷皇装>を意識。ゼロコンマ数秒も掛からず――。

 竜頭金属甲(ハルホンク)の防護服と氷皇アモダルガが合体するや一瞬で《(スノー)命体鋼(・コア・フルボディ)》に似た氷の魔法鎧のような防護服に変化を遂げた。

 同時に<氷皇・五剣槍烈把>を繰り出した――。

 

 刹那、前回と同じく体が痺れる。


「――ゴラァァ」

「ングゥゥィィ!!」


 ――幻影の熊手が俺と重なる。

 <霊纏・氷皇装>と融合した白銀の剣か槍かの五本連なる白銀武装が、イゾルデの上半身から繰り出される白銀の刃と武王龍槍の穂先とぶつかりあった。


 更に、左手に無名無礼の魔槍を召喚し直す。


 <血魔力>を活かすように<氷皇・五剣槍烈把>の合間に<血穿>を混ぜる。


 更に<水月血闘法・水仙>を発動。


「血の分身――」


 独自混合武術を展開。

 <経脈自在>も意識。

 無数の斬撃と<血穿>の突きで、数十合打ち合う。

 更に互角以上にイゾルデの体に傷を作り出していった。


 攻勢を緩めないイゾルデ。

 踵落としから武王龍槍の掬い上げの突き技を繰り出す。


 更に、横回転。

 左上腕二頭筋の鱗か防護服を白銀の剣のような刃に変化させる。


 その白銀の刃を伸ばし、俺を刺そうとしてきた。


 その白銀の刃を<氷皇・五剣槍烈把>の白銀の剣で弾く。


 イゾルデは驚愕、


「――な!? <龍神闘法>と<白銀龍天華法>が通じない!? そして、シュウヤ様の竜頭金属甲(ハルホンク)の頭部が冠をかぶった白熊に!」

「――おう、俺の竜頭金属甲(ハルホンク)は<霊纏・氷皇装>と融合している――」


 驚いているイゾルデだったが――。

 凄まじい連続攻撃は続けている。

 通じないと語っていたが、しっかり通じている。


 イゾルデの<龍神闘法>と<白銀龍天華法>は凄い。

 武王龍槍と<龍神闘法>の槍武術――。


 両腕と両肩と背中の上部から次々に白銀の刃が突出する連続攻撃を<氷皇・五剣槍烈把>で相殺していく。


「――我の<龍神・龍人>系統の秘奥義を悉く――本当に見事な<召喚闘法>だ!」


 イゾルデは俺を褒めてくれるが、更に加速。

 さすがに手数が多い。

 <龍神・龍人>系統の秘奥義、その武術は学びきれない――俺の<霊纏・氷皇装>が削られまくる。 


 ――<水月血闘法・水仙>を再度実行。


「血の分身、否、加速技か!」


 加速する俺に対して――。

 イゾルデは右手に武王龍槍を召喚し直す。

 その青龍偃月刀のような穂先に雷を纏わせる。


 バチバチとした雷鳴が谺するやいなや、イゾルデは消える。

 否、イゾルデは雷鳴を背負うような加速から横へと移動しながら一閃。


 俺の後を追う<水月血闘法・水仙>の分身が斬られて消える。

 イゾルデの足下から土煙が舞う。


 再び、真横に移動する間に、俺の後を追う<水月血闘法・水仙>の血の分身が消える。

 左右への反復横跳び的な機動からの連続斬りか。


 が、突然の直角機動。


 腰を沈めて薙ぎスキル?

 青龍偃月刀のような穂先が光って消えた?

 俺を追うイゾルデは速い。

 無名無礼の魔槍で受けようと、柄を斜めに上げて構えるが、


「――<光魔・龍雷爪槍>」


 うごぁ――大量の血を吐いた。


 <水月血闘法・水仙>が通じず。


 武王龍槍の雷撃のような穂先の一撃が、右胸と右腕の一部を貫いていた。胸をざっくりと失う。人族なら即死だろう。


 ホウシン師匠といい、イゾルデも激強い!


 血の分身が胸元を貫かれた俺に集約。


 無名無礼の魔槍の石突で地面を突きつつ踏ん張ったが――体を失う感覚はアキレス師匠やグランバとの戦い以来だ。


 イゾルデはそんな俺を見て驚く。


「な!? 吹き飛ばない!?」

「光魔ルシヴァルの種族特性と言えばそれまでだが、<仙魔・暈繝(うんげん)飛動(ひどう)>の効果もあるだろう」

「胸を穿たれても立っているシュウヤ様は強い! 我は自信を失うぞ」

「今の一撃を避けられなかった時点で、俺の負けさ」

「負けを認めるとは、面目はいいのか!」

「現に胸元を貫かれている俺だぞ? それに面目なんてもんは塵と同じ。俺に、いや武には必要ない。アキレス師匠もよく言っていた。戦いで大事なのは()く負けることだとな」


 イゾルデは『一の槍』のポーズのまま固まる。

 そして、震えた唇で、


()く負けること……」


 と呟きつつ、イゾルデは俺の胸元を見る。

 再生途中なだけに激しく痛いが、


「……シュウヤ様は痛くないのか?」

「痛い。不死身系とはいえ、結構キツイ」


 イゾルデは双眸が震える。

 正直なのか、泣きそうな顔をするなや。


 まったく、調子が狂う。

 しかし、<光魔・龍雷爪槍>は凄まじい。

 その威力を物語るように――俺の体を覆っていた<仙魔・暈繝(うんげん)飛動(ひどう)>の白銀色の鱗模様も一瞬消し飛んでいた。


 すると、<仙魔奇道の心得>の意味があるような魔印が俺の眼前に生まれる。


「シュウヤ様、額の真上に浮かぶのは?」

「<仙魔奇道の心得>を意味する魔印だろう」


 <仙魔奇道の心得>の魔印から魔線が迸る。

 宙空から新たに子精霊(デボンチッチ)が生まれでるように霧が出現。霧の表面には白銀色の鱗模様が行き交う。


 <仙魔・暈繝(うんげん)飛動(ひどう)>で活力を得た。痛みは自然と中和された。


「訓練を続けようか」


 イゾルデは俺の胸元を貫いている武王龍槍イゾルデを凝視。

 青龍偃月刀のような幅広い穂先が触れている胸の肋骨などが切断と再生を繰り返し異音を響かせている。


 イゾルデに向けて武威を示すように魔力を発した。


「え、あ、はい!」

「この傷は気にするな、気合いを入れろ!」

「承知した――」


 不意打ちを行うように地面を踏み噛む。

 同時に盛大に<血魔力>を込めた左の掌で、右手に移した無名無礼の魔槍に魔力を込めながら叩き、押し出す。


 <龍神・魔力纏>の効果も加わった無名無礼の魔槍は振動し、凄まじい速度で旋回しながらイゾルデに向かう。


 ピコーン※<崑崙・白龍血拳>※スキル獲得※ 


 スキルを得た!

 同時に前進――。

 俺の胸を貫き、斬り、血肉と骨を焦がすような凄まじい痛みを俺に齎していた武王龍槍の刃は俺の右腋から外へと出た。


 その痛む間にも俺の魔力を得ている無名無礼の魔槍がイゾルデに向かう。


 柄からは血を帯びた白銀の龍の幻影が発生してうねる。


 イゾルデは武王龍槍を握った状態の<刺突>のモーション。その武王龍槍を消さずに左腕だけで無名無礼の魔槍を受けてブロックする。


「ぐぇ――」


 イゾルデの左腕が変な形にねじ曲がる。

 イゾルデは引いていた武王龍槍の柄を下げて、無名無礼の魔槍を外に弾こうとした。


 そんなイゾルデの武王龍槍と衝突した無名無礼の魔槍を右手で掴み直すと同時に――<戦神グンダルンの昂揚>を発動。

 不思議な加速感を左腕に得ながら左拳を突き出した。


 ピコーン※<白炎仙拳>※スキル獲得※

 よっしゃ、またスキルを獲得!


「――複数の拳が一つに!?」


 イゾルデには俺が分身を行ったように見えたか。


 俺は水仙系のスキルも獲得済みだからな。


 イゾルデは武王龍槍イゾルデを下げるが間に合わず。

 <白炎仙拳>の左拳を「――ぐあッ」と左腕の一部で受けたが、その腕は潰れて散った。


 イゾルデは武王龍槍を手放す。

 が、直ぐにイゾルデの左腕は再生。


 さすがは光魔武龍イゾルデ。

 白銀の龍の幻影は無名無礼の魔槍から消える。

 腕が回復したイゾルデは側転をしながら武王龍槍を拾うやいなや、踵で地面を強く蹴って前進。

 前傾姿勢で俺との間合いを詰めてきた。近々距離戦が望みか!

 穂先をブレさせるフェイクから、膝蹴りを繰り出すイゾルデ。

 同時に、青龍偃月刀のような穂先を振るい上げてくる――。

 俺は前進――無名無礼の魔槍の石突側で、イゾルデの膝蹴りを受け――逆袈裟軌道の武王龍槍の刃を――柄で叩くように落とす。


 イゾルデは一連の攻撃が防がれることを想定済みだったように、横に移動。

 俺もジリジリとした歩法で――そのイゾルデの動きに合わせた。

 魔力を纏い直すイゾルデに向けて<豪閃>――蜻蛉切のような穂先に幻影の龍が見え隠れ――。


 イゾルデは武王龍槍の柄を少し下げた。

 無名無礼の魔槍の<豪閃>を弾く。


 さすがの防御の槍武術。

 槍武術の流派はなんていうんだろう。


 柄の扱いが神王位のそれを優に超えている。ホウシン師匠よりも上か?


 イゾルデは反撃に武王龍槍を振るう。


「――<龍豪閃>」


 俺も合わせて――。

 無名無礼の魔槍を振るった。


 イゾルデの武王龍槍と無名無礼の魔槍が衝突し合った。


 ピコーン※<龍豪閃>※スキル獲得※


 やった! 

 嬉しいが、続けざまに爪先半回転を行いつつ――<血魔力>と<龍神・魔力纏>の魔力を合わせて纏わせた無名無礼の魔槍を振るった。


 ピコーン※<血龍仙閃>※スキル獲得※


 おぉ――。


 続けて<仙魔・桂馬歩法>――。

 歩法のタイミングを変えつつ無名無礼の魔槍を振るいまくる。


 <龍豪閃>と<豪閃>を連発。

 避けて受けての防戦一方のイゾルデ。


 だったが、イゾルデの視線は余裕。

 そのイゾルデは全身から覇気のような魔力を発して、

「――<マダラ龍ノ円筒槌>」


 と、龍言語魔法も加わった息使いから武王龍槍を素早く振るい回す。


 武王龍槍と小型の龍カチューシャが融合したような槍捌きか――。


 俺の<豪閃>系の連続攻撃を弾きまくるイゾルデは強い!


 時折――。

 光魔武龍イゾルデの能力を示すように、拳と両腕の真上に円筒印章が浮かびつつ、上半身の武装を変化させてきた。


 手甲鉤に装備を変化させる。 

 見た目は弓籠手に近い。


 肘金物がリアルだ。


 そんな拳装備や上半身の鱗系の防具から白銀の刃を繰り出すイゾルデと百~二百合は打ち合った――。


 腕が痺れる。


「シュウヤ様は凄まじい強さだ!」

「――お前も強いぞイゾルデ!」


 興奮した俺は自然と魔力が滾る。

 大眷属の光魔武龍イゾルデは最高の訓練相手か! 自然と魔力が周囲に放出。


 <導魔術>――。

 <仙魔術>――。

 <水月血闘法・水仙>――。

 <仙魔奇道の心得>――。

 <仙魔・暈繝(うんげん)飛動(ひどう)>――。

 が一緒くたになった濃厚な魔力は、一種の覇気を帯びた魔力波動となってイゾルデを襲っていた。


「あん――」


 豊かなバストがぷるるるんッと揺れる。

 イゾルデは体を震わせる。


 ぬあ? 凄いおっぱい!

 俺の魔力波動を直に感じてしまった?


「……シュウヤ様はスケベだ」


 一瞬膝から崩れそうになった直後、イゾルデは前進。男の弱点を突いてきた。


 しまった、胸元を凝視しすぎたッ――。


 近々距離戦を挑むイゾルデは「ふふ――」と笑いながら無名無礼の魔槍を左手で掴む。が、素直にやらせはしない――。


 イゾルデは俺の力を利用。

 自身の得物の武王龍槍を右手の甲で弾き押し出してくる。


 武王龍槍の柄が俺に向かう。

 無名無礼の魔槍を手放しながら、顎に迫る武王龍槍の柄を、右手首から肘に掛けて流すように受けながら左手で武王龍槍の柄を逆に掴む。武王龍槍を引っ張りつつ――。


 邪神シテアトップの腕の動きを想起しながら猿臂の如く腕を伸ばして、イゾルデの顔を手の甲で叩いた。


 ピコーン※<虎邪拳・黒鴨狩>※スキル獲得※


「げぅ――」


 手の甲でイゾルデの鼻が潰れて血が舞った。

 瞬時に鼻が再生するイゾルデに向けて風槍流『右背攻』の右肩打撃を見舞う。


「ぐあ――」


 打撃を喰らったイゾルデは後退するが、素早く武王龍槍で地面を突いて体を支え、立つ。


 俺は前進。

 その動きに呼応するイゾルデは、左拳で俺の胸を貫こうと突き出してきた。


 左拳には円筒印章が浮いていた。更にその拳の手甲鉤から白銀の刃が伸びる。


 その攻撃は読み通り――。

 前傾姿勢で前進を続けて、右手が握る無名無礼の魔槍で<刺突>を繰り出した。


 同時に頭部を横に傾ける。

 白銀の刃が頬と耳の横を通過するのと同時に無名無礼の魔槍の穂先がイゾルデの胴体をとらえ、穿つ。


「げぇ――」


 胴体に風穴ができたイゾルデは吹き飛んだ。


 無名無礼の魔槍を引く。

 蜻蛉切と似た穂先からは墨色の燃えているような魔力が噴出中。


 その燃えている魔力の中から細かな白銀の龍が飛び出ていた。


 雲海を泳ぐ龍たちに見える。


 ピコーン※<龍異仙穿>※スキル獲得※


 イゾルデは片膝を地面に突いて着地。

 肩で息をしていたが、一瞬で呼吸を整えて体を回復させる。


 立ち上がり寄ってくると、拱手よりも先に膝で地面を突く。


「参りました。シュウヤ様の武力は天下無双――改めて、このイゾルデ、敬服いたします……」

「イゾルデ、俺も同じ言葉を贈る」

「はッ」


 イゾルデに手を差し出し、


「立とうか、俺の光魔武龍イゾルデ」

「はい――」


 イゾルデは俺の手を掴み立ち上がる。

 笑顔を見て、笑顔を送る。


 暫し、いい空気の間となった。


「シュウヤ様、院生たちが全体の訓練を終えていたようだ」


 院生たちは訓練を止めて俺たちの見学をしていた。


「視線は色々だが奇妙に映っている?」

「我の強さには驚いたであろうな。そして頭部には角が生えている」

「俺が武魂棍の儀を行った時に見ていた院生もいるようだし、そのうち俺たちのことは知れ渡るだろう」

「ふむ」

「しかし、全体運動の邪魔をしてしまったか」

「運動? 先の院生の動きは、鴻旗仙霊陣の第三陣辺りの訓練だぞ」

「へぇ、院生たちが合同で行う霊陣もあるのか」

「ある。霊魔仙院にあるであろう『鴻旗仙霊陣書』の動きそのものであったぞ」


 そういえば、その奥義書、秘伝書のことはエンビヤが前に教えてくれた。


 さて、武王院会議はまだだろうし、武王院の見学を再開するか。


「んじゃ、訓練は止めてエンビヤたちのところに戻ろう」

「承知」



 ◇◇◇◇


 三日後、なにごともなく八部衆が武王院に集結。


 魔界王子ライラン側も慎重なようだ。

 ウサタカ、現在はヒタゾウだが、そのようなスパイの工作員が武王院に入り込んでいる?


 ホウシン師匠とエンビヤはそのことを心配していたが、こうして、中央の師範宿舎で武王院会議は開催された。


 各院長、師範、筆頭院生が集まる。

 ソウカン師兄とモコ師姐もいる。

 武仙砦に出向いていたであろう、

 他の八部衆の方々もいた。


 その武王院会議の場で、俺とイゾルデのことが正式に発表された。


 更に、水神アクレシス様の、


『〝鬼魔人傷場〟で、この玄樹の珠智鐘と白炎鏡の欠片、冥々ノ享禄を使用してほしいのだ。そうすれば魔界セブドラ側の傷場が消える可能性がある。さすれば玄智の森が仙鼬籬(せんゆり)の森に戻れる可能性がある』


 との言葉をホウシン師匠が語る。

 その場で腰に注連縄を巻く子精霊(デボンチッチ)が幻想的な魔力を宙空に展開したから、皆が驚愕。更に、玄樹の珠智鐘を出すと――鐘が自動的に響いた。


 玄樹の珠智鐘の奇跡を起こす子精霊(デボンチッチ)の存在に皆が唖然。


 そして、


「「「おぉぉ」」」


 武王院会議が響めいた。

 その後は長い会議となる。

 次の日も、その次の日も。


 その間、カソビの街で魔人の騒ぎがあったが、事件はそれだけだった。


 ダンパンの勢力が大人しいことが不自然だと皆が発言。

 武仙砦と各仙境の動きとカソビの街の情勢について【仙影衆】の人員から報告を受けつつ会議を行う。


 ホウシン師匠も【玄智仙境会】の大同盟を発令。

 しかし、会合を行う日取りが中々決まらない。


 各仙境の学院長は皆、別の方向を見ているようだな。


 白王院の学院長ゲンショウは、〝カソビの仙魔杯〟と同じ日にカソビの街で行う会合ならば出席をすると、悠長な意見を伝令兵の言葉で伝えてきた。


 不自然だが、各学院長たちもその意見に傾きつつあるようだ。

 ま、玄智の森の命運が掛かることだから、皆、慎重になるのは当然か。


 そんな会議の中……。

 ウサタカこと、ヒタゾウの名は当然だが、出ない。

 暗黙の了解か。


 俺は途中で抜け出し、カソビの街の見学ツアーをエンビヤと一緒に行いたかった。

 が、そんな発言ができる空気ではない。


 大人しく、聞き役に回った。 


 そうして、〝玄智の森闘技杯〟と〝幻瞑森の強練〟に向けた〝玄智山の四神闘技場〟で戦う予選と、〝轟雷迷宮〟と〝カソビの仙魔杯〟の予選も普通に行われることが決まる。


 イゾルデは出場しないと明言。

 白王院の白炎鏡の欠片は学院長のゲンショウが守るはずとの意見が多いこともあり後回しとなった。

 イゾルデは、


「直に乗り込んで、白王院が持つ白炎鏡の欠片を奪取すれば良い。そうすれば、敵もシュウヤに寄ってくるだろう」


 と大胆な意見。

 さすがにホウシン師匠と院長と師範たちはイゾルデの意見に否定的。

 白王院の様子は正直分からない。

 高飛車で他人を見下す連中が多い印象でしかない。

 だから、白王院絡みの意見は後回しでいいだろう。

 

 それに、同じ仙境、玄智の森を守る立場だ。


 が、ヒタゾウは……。

 ま、今は冥々ノ享禄の探索を優先するべきだろう。

 武王院会議もその流れとなった。

 

 その探索の最初の候補として、カソビの街への潜入は〝玄智の森闘技杯〟と〝幻瞑森の強練〟への出場者が決まり次第となった。


 すると、霊魔仙院長のハマアムさんが、


「八部衆の全員がカソビの街に潜入し、魔界王子ライランの鬼魔人共と協力者のダンパンの諸勢力を駆逐するべきだ」


 と発言。


「うん。暢気に玄智の森闘技杯への出場者を決める予選を戦ってもねぇ」

「武仙砦の総督ウォーライと副総督ドンボイからの伝令でも、玄樹の珠智鐘を持つシュウヤという名の八部衆を、ここに寄越せ。と伝えてきたな」


 そう発言したのは武双仙院長のハルサメさんと武双仙院師範のシガラさん。

 皆、俺を見る。


「武仙砦にはカンバなど、強者の小隊長も多いからリスクを冒す必要はないだろう。それに朱雀の月の初日はすぐだ。玄樹の珠智鐘を持つシュウヤはここにいる。お師匠様も前に語ったように、本格的に動くのは予選が終わってからでも良いのではないか?」

 

 そう発言したのはソウカン師兄。

 他の方々は頷く。


「シュウヤはどうなのだ?」

「はい。もう情報は皆に伝えて共有した……」


 八部衆として筋は通したつもりだ。

 ホウシン師匠を見ると頷いてくれる。

 イゾルデとエンビヤは俺を凝視。


「……この会議の期間に、魔界王子ライラン側の勢力の動きには、あまり変化がなかったようですからね。ですから、予選が終わり次第、俺たちなりに動くつもりです」

「うむ、全面的に協力を約束する」

「わたしもです。シュウヤを信じます」

「俺もだ」

「わたしもよ」


 ソウカン師兄とモコ師姐もそう発言。

 皆は顔を見合わせている。

 ホウシン師匠は、


「皆、黙っている者たちはどうなのだ?」

「……信じるしか」

「そうですね、信じましょう」

「「はい」」


 皆、納得したようだ。


「良い返事じゃ」

「ふふ、お師匠様、当たり前。シュウヤの周囲を飛翔している注連縄を腰に巻くデボンチッチなんて今まで見たことがない」

「はい」

「たしかに」

「玄樹の珠智鐘の音も素敵だし、音と一緒に水滴を周囲に発している。シュウヤはどう考えても水神アクレシス様の御使い様としか思えない」

「「あぁ」」

「そうだな」

「……ふむ」

「そうなのかもしれないな」

「……わしらはわしらでシュウヤのフォローを行おう。シュウヤが動き易い環境をできるだけ整えるべきであろう」

「お師匠様、言いにくいですが、白王院は……」

「白王院のゲンショウについては、歯痒い思いじゃ……ヒタゾウもな……」


 ホウシン師匠がそう発言。

 すると、イゾルデが、


「……フン! 玄智の森や水神アクレシス様の意に反することを行うゲンショウか。師父の師叔であろうとも、やはり潰すべきであろう!」

「イゾルデ、そう興奮するな」

「承知……」

「カカカッ、イゾルデとシュウヤに期待しよう」

「……ゲンショウ師叔も師叔ですよね……北の鬼魔人傷場が塞がるチャンスなのに……」

「であるからこそ、塞がる前に、パイラの仇は絶対に取るつもりじゃ」

 

 一気に静寂の間となる。

 皆の顔色が変わる。

 そりゃそうだろう。

 ヒタゾウ、元ウサタカは、皆の仲間、友を、恋人を殺した相手だ。が、ホウシン師匠やエンビヤに皆の手を汚させるのもな……。

 だから北の鬼魔人傷場を塞ぐ準備が整い次第、八部衆を辞することとなっても、白王院に乗り込むことは考えておこう。


 イゾルデと目があった。

 ヒタゾウ、元ウサタカのことは話をしてある。


 目付きがヤヴァい、『やるならやろう』の眼力だ。


 織田信長の『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』の言葉を思い出す。


 そして、俺には<無影歩>がある。

 <仙魔術>が発達している玄智の森世界では<無影歩>は通じないかもしれないが……。


「すまんの、皆、空気を悪くしてしもうた。纏めると、予選が終わり次第、シュウヤたちは冥々ノ享禄を獲得するため独自に動くことになる! わしらは白炎鏡の欠片の獲得のために全力を尽くそう!」

「「はい」」

「承知致しました!」

「「了解しました」」


 暫し、間が空く。


「我はシュウヤ様と行く」

「わたしもシュウヤと行きます」

「わしもシュウヤと共に動きたいのじゃが、白王院のゲンショウについては、わしが動くべきであろうからな」

「はい、お師匠様の動きに合わせます」

「わたしもよ」

「俺もです」

「武仙砦よりも楽しくなってきた」

「おう」

「カソビだろうと白王院だろうと暴れてやるさ。先祖たちのためにもなる行為なんだからな」

「あぁ、魔界セブドラ側と繋がる傷場がなくなり、神界セウロスに戻れる……俺たちは……」

「はは、気持ちが高ぶるのは分かるが、ギンキ、泣きそうになるなよ」

「トトジ……」


 八部衆の方々がそう語る。


「では、予選が終わり次第、俺とイゾルデとエンビヤはカソビの街に向かいます」

「「承知」」

「「分かりました」」

「ふむ」


 頷いたホウシン師匠は、八部衆の一人に視線を向けて、


「ハナ、禹仙鋼槍の槍使い、老婆コユリの行方じゃが」

「まだ分かりません」

「ふむ……武仙砦の近くの玄智の森の町や村だとは思うのじゃが」

「シュウヤの存在を知ってもらいたいところですが……神出鬼没の方ですから……余り言いたくはないですが、武仙砦に危機が訪れたら現れるはず」


 ハナさんがそう発言。

 ボーイッシュな髪形の女性。

 八部衆の一人。

 二剣を扱うようだ。


「そうじゃな……シュウヤが動く時、敵も動くかもしれん。その時に老婆コユリが武仙砦に現れるかもしれぬ」

「お師匠様、武仙砦に大規模な魔界王子ライランの軍勢が襲来する可能性があると?」

「あるじゃろう。水神アクレシス様とシュウヤの来訪じゃからな」


 皆静まった。

 そこから、カソビの街で活動している仙影衆とも連携を取ることについての話し合いが続く。


 そこで武王院会議は終了。

 会議室を早々に出たのはエンビヤとソウカン師兄とモコ師姐以外の八部衆。

 師範と筆頭院生たちも外に出る。


 ホウシン師匠とエンビヤとイゾルデとソウカン師兄とモコ師姐は外に出ないで、


「予選の戦いを制するのはシュウヤに決まりとして、シュウヤは冥々ノ享禄がカソビの街にあると予想しているのか?」


 ソウカン師兄に頷く。


「それか、武仙砦とカソビの街の中間に位置する幻瞑森のはず……」

「幻瞑森の探索は苦労するわよ」


 モコ師姐がそう発言。


「はい、まぁイゾルデがいますから」

「あ、そうだったわね……」

「我がいれば素早く事が済む。鬼魔人どもは根絶やしにすべきだ」


 当然だが、イゾルデの中での魔界セブドラ側との戦争はまだ終わっていないことがよく分かる。

 モコ師姐は、イゾルデの表情を見て、少し引いていた。

 そのモコ師姐が、


「玄樹の珠智鐘を持つシュウヤが〝玄智の森闘技杯〟で優勝すれば目立つから、魔界王子ライラン側やダンパンの勢力が玄樹の珠智鐘を持つシュウヤに寄ってくる?」

「モコ師姐、それはシュウヤも予想していました」

「うん。水の法異結界の中で、玄樹の珠智鐘を見張ることができるスキルを持つ強者が、魔界王子ライランの眷属だと思うからね」

「はい、切れ者が相手……」


 エンビヤは不安そうだ。


「エンビヤ、冥々ノ享禄と白炎鏡の欠片は俺が必ず手に入れてみせる。安心しろ」

「はい!」


 そこで、皆に、


「ですから、予選には酒と四神の遺跡が楽しみで出場しますが、〝玄智の森闘技杯〟には出場するか分かりません。冥々ノ享禄と白炎鏡の欠片を優先します。イゾルデも理解したな?」

「勿論だ。神界セウロスの仙鼬籬(せんゆり)の森に戻れることが最重要!」


 故郷に戻りたい思いは強いだろう。

 銀龍ドアラスのこともある。

 

 そうして、会議室から外に出た。

 広場で他の院生たちに、俺とイゾルデのことが説明されると、事情を知らない院生たちはざわついた。

 が、武魂棍の儀の噂はもう伝わっているようで、すぐに騒ぎは治まっていた。


 正直、すぐにイゾルデの能力で敵を探すか、ホウシン師匠たちと訓練を続けるかで迷ったが、朱雀の月までは【武仙ノ奥座院】で訓練を行うことになった。


 孟宗竹と孟宗竹の間や孟宗竹と樹の間を格子状に結ぶ細いロープで訓練を行う施設を見ながら――。

 玄智山の【武仙ノ奥座院】に向かう。


 武仙ノ奥座院に到着すると、エンビヤに内部を案内してもらった。


「シュウヤ、こちらです」

「ここで寝泊まりか」

「はい。後ほど夕ご飯の支度を整えますので、では」

「おう、ありがと」


 と、エンビヤは速やかに踵を返す。

 廊下の角を曲がると見えなくなった。


 【武仙ノ奥座院】の部屋は殆どが和室。畳の匂いが良い。

 壁際には雛壇と屏風。手前には壇の高い寝台が並ぶ。


 その寝台を越えた奥には掘りごたつがあった。


 横の壁には小芥子と古風なランプが並ぶ。

 この部屋も、修業蝟集道場もそうだったが、武仙ノ奥座院は座敷童が住んでいそうな雰囲気だ。


「シュウヤ様、我は食事の前に一浴びしてくる」

「了解、俺もあとで行く」

「承知……」


 イゾルデは廊下を歩いていく。

 と、イゾルデの近くを泳ぐ子精霊(デボンチッチ)

 いつもの腰に注連縄を巻いている可愛い子精霊(デボンチッチ)が、平泳ぎでぷよぷよ、ポニョポニョといったように泳ぐ。小さい手で宙を優雅に泳ぐ動作は可愛らしい。

 イゾルデは『ぎょぎょぎょ!?』といったような驚き顔を浮かべていた。

 至近距離で陰陽のマークが宿る金玉を見たのかな。

 面白い顔だ。そのイゾルデが、

「我に付いてくる?」と子精霊(デボンチッチ)に聞いていた。


「……」


 子精霊(デボンチッチ)は応えず泳いでいるだけ。


「ふむ。水神アクレシス様のお力を宿したデボンチッチ……様と呼ぶべきだろうか」


 子精霊(デボンチッチ)は無言のまま壁の中に消えていった。


 不思議だ。


「……」


 イゾルデは周囲を見回した。

 『我はどうしたらいいのだ』的な顔を浮かべるから、 

 俺は『気にするな、風呂に行け』と顎先をクイッと動かして笑みを送っておいた。


 イゾルデは笑顔を見せる。

 頷いて、身を翻して廊下を歩き出した。


 さて――夢の世界でも夢が見られる?

 寝られるのだろうか、寝台にダイブ――。

 と同時にステータス――。


続きは明日を予定。

HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1~17巻発売中。

コミックファイア様からコミック「槍使いと、黒猫。」1~2巻発売中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 本選には出ないかもだが、予選には酒と四神の遺跡を求めて出るとはwそれにカソビの町に行く事になったんですね。悪い鬼魔人も居るが、良い者等も居るって有ったからどうなるか。 [一言] 白王院の白…
[良い点] イゾルデ強!シュウヤも今は使えない技や、使わなかった技有り、修行だからか最近ゲットした技が大半だったとはいえ、イゾルデも使わなかったスキル群有る事考えると、かなり強いですね。流石は大眷属な…
[一言] 戦闘職業2個と称号1個にスキル32個の確認は中々骨が折れそうですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ