八百八十一話 武王院の見学と――
俺とイゾルデは武王院の学び舎を外から見学。
教室内で静かに授業と自習を行う男女の院生たち。廊下を走り回るような『ヤンキー烈風隊』はいない。年齢は中高生ぐらいから大人まで様々。
日本の寺子屋的だ。
え? 少数の子供がいた。
武王院の制服だし、子供の院生もいたのか。
驚きを覚える。
「立派な建物だ。そして、子供の数が少ないのはなぜだ! 武王院は落ちぶれたのか!」
イゾルデが怒る。
「落ち着け。ここに子供がいて授業を受けていることは俺も知らなかった。院生の世代はほぼ大人だと思っていた。最低でも高校生ぐらいの世代だとな」
「こうこうせい?」
「大人になりかけの世代といえば分かるか」
「なるほど、花の十代であるな。那由他の昔には、我にもその頃があった」
龍神、龍人の花の十代……。
なぜか『はいからさんが通る』を思い出す。
が、まったく違うだろう。
「花の十代って定命の種族に多い言葉だと思うが、龍神族にも似たような言葉があるんだな」
「龍族でいい、勿論あるぞ。曾祖父の言葉に〝龍としての生命の樹は無数の枝分かれなのじゃ〟というものがあり、幼い時に共に一生過ごそうと約束しても、結局は、新しく隣り合う友たちのために古い枝とは分かれていくものだと教えてくれた」
「哲学もありそうな言葉だな」
「……『十五の教え』のすべてを聞きたいか?」
長くなりそうだから、
「遠慮しとく」
「な……ふん」
なんで不機嫌になる。
聞いて欲しかったか。
悪いな……とは言わず……。
上空を飛ぶ注連縄を腰に巻く子精霊の姿をチラッと見上げてから、武王院の学び舎の見学を続けた。
玄智の森の仙武人には、各仙境に入学して、仙剣者や仙槍者になりたい者が沢山いるといったようなことをホウシン師匠は語っていたから、選りすぐりの集団なんだと思っていた。
あの幼い子供たちは特別かな。
子供たちは皆、体に魔力を纏いつつ、竹簡、木簡に筆で字を書いていた。子供たちと教師役の師範が俺たちに気付いた。
双眸に魔力を溜めている。
魔眼のような神眼、否、仙眼のような能力を発動したようだ。
手前の目付きが悪い子供が俺たちに魔力の波動のようなモノを繰り出してきた。
教室の木材の壁を越えてきた魔力の波動は攻撃的。
だが、武王院の院生からだ。
避けることもできたが、あえてそのまま放置した。
「……三神山で修業を行った我に対して<玄智眼>に<玄智魔覚>を使う生意気なガキが! 生意気な! しめるか――」
イゾルデは魔力を放出。
片方の眼球に魔力が集中。
「それは<龍右眼>か?」
「そうだ」
その間に、イゾルデの体から出た覇気のような魔力が空気の層を凍らせながら教室の木材を侵食。
子どもの院生が双眸から繰り出した魔力の波動が消し飛んだ。
<玄智魔覚>を発動したであろう子どもの院生は驚愕。
イゾルデの魔力波動は、そのまま教室の内部に侵食。
「――待て、俺たちは制服を着てない。俺たちを知らない武王院の院生からしたら、俺たちは怪しい部外者でしかない。そして、角の生えた院生はいるか?」
俺がそう言った刹那――。
イゾルデの蒼眼と体から漏れ出ていた魔力は霧散した。
「――承知。我の角は珍しいようだ。もう龍族は珍しい存在か」
「そうなんだろう」
俺の言葉を聞くとイゾルデは頷く。
原初の頃には龍族は多かったか。イゾルデは悲しそうな表情を浮かべて、
「ドアラスたちの骨があった原初の頃とは違う……」
「あ、すまん」
「いい。龍族の生き残りは我だけなのかもしれん……」
……イゾルデのためにも……。
玄智の森と神界セウロスは繋げないとな。
仙鼬籬の森なら龍族もたくさんいるはず。
そうなると<神剣・三叉法具サラテン>のことが気になるが……まぁ、それはそれ。
「……シュウヤ様、そんな顔をするな」
「ん? どんな顔だ?」
と、笑みを見せる。
「こんな顔かもな?」
目元に手の甲を置いて泣いたふりをするイゾルデ。
と、直ぐに笑顔を作る。
その表情と仕種のコミカルさに笑う。
「はは。なにがこんな顔だよ」
「ふふ」
たわいもない会話だが、イゾルデが眷属だとよく分かる会話だ。
光魔武龍イゾルデとの絆を感じながら、
「……さて、ホウシン師匠たちの連絡はまだ時間がかかりそうだし、院生たちが訓練を行う校庭の端っこで模擬戦といこうか?」
「おぉ、それは嬉しい申し出だ」
「おうよ、<血龍霊装>と<龍神闘法>を学ばせてもらおうか」
「<血龍霊装>は我の種族だからこそのスキルだ。シュウヤ様でも無理であろう」
「そっか。が、<龍神・魔力纏>は獲得済み。<龍神闘法>なら学べそうだ」
「ほぅ……<龍神・魔力纏>を……我の力を利用できるということか」
「そうなる。<光魔武龍イゾルデ使役>を獲得した時、同時に獲得したスキルだ――」
顎先をクイッと校庭に向けつつ走り出す。
イゾルデも「――なるほど」と言って背後から付いてきた。
校庭の中央では武王院の院生たちが師範の行動を真似るように武術の型を繰り返していた。
えっさっさ的な運動を思い出す。
えっ――さっさ――。
えっさっさ――。
えっさ、えっさ、えっさっさ――。
えっ――さっさ――。
えっさを連呼しながら一カ所に集まる全体運動。
なんかカッコいい。
俺たちはそんな訓練を見ながら、
「さて――」
「ふむ――」
武王龍槍イゾルデを手元に召喚するイゾルデ。
青龍偃月刀のような穂先を見せるような構えを取った。
俺も無名無礼の魔槍を召喚し、左足を前に出しつつ風槍流『案山子通し』を実行して、爪先半回転――。
無名無礼の魔槍をくるりと回して、無名無礼の魔槍の柄を右腕と脇と背中で押さえた。
そのまま左手の掌をイゾルデに向ける。
挑発するようなことはしない。素直に、親指と人差し指の間にイゾルデの姿勢を捉える。
オーラのような魔力を発しているイゾルデ。
確実に強者。
「ふふ、シュウヤ様の武威を感じる……」
「俺もだ」
そう告げると、イゾルデの素肌に鳥肌が立っていることが分かった。
武者震いか。
そのイゾルデは双眸と体から独特の別の魔力を発して、
「――いざ尋常に勝負!」
イゾルデは掛け声を発して前進を開始。
――最初から全開か?
イゾルデの体から放出された凄まじい質の魔力が鬼瓦に見えてくる。
が、あえて、待ち姿勢。
風槍流の基本構えで応えよう。
迫るイゾルデを見ながら、後の先――を意識――。
続きは今週を予定。
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