八百五十二話 夢魔ガショバ・デアドと激闘
2021/10/06 23:17 戦闘を色々と修正
怪人ヴェクサードさんは、
「――ぬぁ!? 使い手、何かの封印を解いてしまったようだ――」
そう発言。
「「ええ!?」」
皆、俺もだが、驚いた。
散った遺物は蠢きながら輝きを放つと夜のような闇の大樹となった。
夜の大樹の一部は人型に変化を遂げる。
が、人型はあくまで一部のみ。
樹木の一部は闇の煌めきを強めると怪物と魔獣の頭部に変化した。
変化が目まぐるしい怪物、魔獣モンスター。
夜の大樹を基本とするが……。
夢魔だから悪夢の女神ヴァーミナ様と関係がある?
が、首の<夢闇祝>の傷には反応がない。
夜の大樹と地続きの怪物の頭部は、王牌十字槍ヴェクサードの真上に出現中の怪人ヴェクサードさんを凝視しつつ口を醜く広げた。
その口から闇の魔力の波動を吐く。
闇の波動は目で追えない速度で周囲に広がった。
いつの間にか俺の身を突き抜けていた闇の波動――。
プレッシャーが強い。バチバチと音が響く。
ヘルメも反応できないとは――。
夜王の傘セイヴァルトが展開していた水の膜が消えた。
まだ闇の波動と触れていないように思えたが、夜王の傘セイヴァルトが展開していた戦闘職業の一つ、<水瞑の魔印師>のカードが展開していた<水瞑・光冠ノ纓印>の水の防御魔法が内側から崩壊して消えた。
そして、闇の波動によりダメージを受けたか、塔烈中立都市セナアプアの効力か、怪人ヴェクサードさんは消えかかる。
「使い手、すまぬが戻るぞ――」
そう喋ると怪人ヴェクサードさんはセナアプアの影響と闇の怪物の頭部の攻撃に巻きこまれまいと王牌十字槍ヴェクサードの中に引っ込む。
夜の大樹と繋がる人型は、怪物の頭部を体に引き寄せて右腕と融合させた。
人型は甲冑装備を展開。
見た目は人型だが、ゴツい甲冑怪物となった。
その怪物が口を拡げる。
口内が三百六十度お盆のように拡がった。
鮫の歯牙のような牙がビッシリと生え揃っている。
「「ひぃぃぃぃ」」
闇の波動の影響もあってかドロシーの悲鳴が響く。
【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】の面々の悲鳴も交じっていた。
眷属と相棒以外は精神が削られたか。
混沌と化した。
闇の波動の影響、闇の波動は夢魔世界?
その一部が周囲に展開した?
ある意味、人型怪物のテリトリーと化した?
夜の大樹と地続きの人型怪物は神クラスってことか?
「皆、警戒、相棒とメト! ドロシーを頼む――」
「にゃご――」
「にゃァ――」
俺たちの動きを見た夜の大樹と地続きの人型怪物が、
「……アブ・ソルンの一人と祖先と認識……何時ぞやの借りを返させてもらおうか――」
そう発言。
拡げた樹の口がギュルッと音を響かせると、その口から闇の波動を吐いた。
闇の波動は波の機動で周囲に拡がるや、下から湧いた管理人たちと衝突。
管理人たちは一瞬で骨のような形となる。
可愛いデボンチッチのような存在たちを! 少しイラッとした。
範囲攻撃は厄介だ。
『閣下――』
『おう、<精霊珠想>――』
左目の視界が常闇の水精霊のヘルメゾーンと化す。
<血想槍>を意識。ヘルメのコバルトブルー系の神秘的な水世界を泳ぐように王牌十字槍ヴェクサードを浮かせつつ右腕の戦闘型デバイスを意識。
戦闘型デバイスの真上に浮かぶアクセルマギナとガードナーマリオルスのホログラムは敬礼中。
中級魔力回復ポーションを出現させた。
素早く、その中級魔力回復ポーションの蓋を噛みきって飲み干す。
「近接が無理なメンバーは退け――」
「「はい」」
空き瓶を捨てながら<血道第三・開門>を意識。
<血液加速>を発動。
――血の加速を体に感じつつ――。
頭上から落下してきた夜王の傘セイヴァルトを掴む。
その夜王の傘セイヴァルトで<夜王鴉旗槍ウィセス>を発動した。
開いた夜王の傘セイヴァルトの生地から大量の<夜王鴉旗槍ウィセス>の鴉が飛び立つ。
その羽ばたく鴉の一部は銀色の槍穂先と化す――。
それらの鳩と銀色の槍穂先は闇の波動を切り裂くように宙を行き交った。
<夜王鴉旗槍ウィセス>の鴉と銀色の槍穂先で――。
闇の波動、闇の魔力の波のようなモノを打ち消し続けた。
が、闇の波動の一部が魔獣の頭部に変化。
その魔獣の頭部が<夜王鴉旗槍ウィセス>を襲撃する形で衝突を繰り返す。<夜王鴉旗槍ウィセス>の鴉と銀色の槍穂先は闇の波動と魔獣の頭部に負けじと、夜王の名を示すように迫る魔獣の頭部を貫き闇の波動を裂きまくる。
鴉と銀色の槍穂先は勝利する場面が多い。
が、いかんせん闇の波動は波のようなモノ。
それでいて闇の波動の至る所から魔獣の頭部が出現を繰り返す。
<夜王鴉旗槍ウィセス>の鴉と銀色の槍穂先は相殺された。
再び、俺に闇の波動と魔獣の頭部が迫る。
開いた漆黒の長柄傘を傾ける。
生地と露先の飾り越しに周囲の闇の波動を観察しつつ少し退いた。
闇の波動は二つの性質か。
一つは幻影の精神攻撃。
二つは怪物と魔獣の頭部を実体化させて、その怪物と魔獣の頭部の口で標的を喰らう。
夜の大樹と地続きの人型による範囲攻撃系と認識。
夜王の傘セイヴァルトの傘で闇の波動と魔獣の頭部は受けず――。
出しても相殺される<夜王鴉旗槍ウィセス>を終了させた。
夜王の傘セイヴァルトの柄の魔印に指を合わせた。
柄に魔力を送りつつ漆黒の長柄傘を閉じた。
夜王の傘セイヴァルトは漆黒の槍に早変わり。
略して夜王の槍だ――。
脳幹辺りで『カァ』と鴉の思念が響く。
<生活魔法>を意識――。
足下に水を撒いた。
アーゼンのブーツの底の水の気配に感謝しつつ――。
爪先回転を実行。
横回転中に夜王の傘セイヴァルトを握る腕に力を込めつつ、その腕ごとすっぱ抜く勢いで夜王の槍こと夜王の傘セイヴァルトを盛大に振るった。
――<豪閃>の銀色の穂先が闇の波動の魔力の波の一部を払い斬る。
そのまま回転機動を維持。左の視界が煌めく。
そう、<精霊珠想>のヘルメの液体世界だ。
ヘルメは神秘的な液体世界から水の手を無数に出現させた。
しゅるしゅると前方に伸びた水の手が、闇の波動と怪物と魔獣を掴むと引き込んで自らの神秘世界の体に取り込む。
ヘルメの魔力が増す。
夢魔の怪物の魔力で腹が壊れるとかはなく、同時に俺自身が活力を得た。
『ヘルメ、ありがとう』
<精霊珠想>の一部がハート型に変化。
可愛い反応を示す<精霊珠想>のヘルメだ。
その間に皆の機動を見る――。
黒虎ロロディーヌと白銀虎メトをチラッと見た。
さすが相棒と異界の軍事貴族だ――。
相棒はドロシーを背中に乗せて空に移動していた。
白銀虎のメトはエヴァの傍で奮闘中。
キサラがダモアヌンの魔槍で連続的に闇の波動を突く。
更に、ダモアヌンの魔槍を振るい闇の波動から誕生したばかりの魔獣の頭部を叩き斬る。
更に、ビーサが剣を振るって闇の波動を斬ったところで、再び、俺の前に迫った闇の波動を凝視。
その闇の波動は煌めきながら魔獣の頭部に変化。
変化する瞬間はかなり不気味だ――。
その魔獣の頭部を、頭頂部から夜王の傘セイヴァルトで叩き斬った。
ぶう゛ぁっ――。
頭頂部が窪んで分断された魔獣の頭部から異質な音と風が生み出される。
続けて闇の波動が迫った。
再び<豪閃>――。
夜王の傘セイヴァルトを振るい闇の波動を斬った。
――その斬った感触は滑った感が強い。
しかし、連続して叩き斬り切断ができたように――。
闇の波動は物理攻撃で対処が可能。
斬ってすぐの残り滓の魔力粒子から魔獣の頭部が生まれるが、
構わねぇ、魔獣の頭部を右足で蹴り上げた。
――感触は確実。
「――ぶう゛ぁ」
蹴った魔獣の頭部は異質な声をあげて爆発。
神槍ガンジスを左手に召喚。
――爪先を意識して一回転。魔獣の頭部が口を拡げて迫る。
口の中には歯牙が生えていた。
魔獣の頭部ごと歯牙をぶっ潰そう。
神槍ガンジスと夜王の傘セイヴァルトを活かす。
方天画戟と似た双月の穂先と銀色の穂先――。
二つの矛の<双豪閃>が歯牙と魔獣の頭部を連続的に捕らえて、叩き斬る。
俺は小型台風かってぐらいな勢いでぐわりぐわりと回る。
両腕が持つ神槍ガンジスと夜王の傘セイヴァルトのぶん回しの<双豪閃>の効果で、闇の波動の範囲が縮小した。
闇の波動を繰り出した夜の大樹と地続きの人型は体が震える。
精神的な部分が多いと思ったが、闇の波動は夜の大樹と地続きの人型の体でもあるんだろうか。
そう分析しつつ回転中に皆の様子を再び見る。
「ご主人様、こちらは平気です」
「師匠、大本の怪物を!」
「ん、わたしたちは大丈夫」
「「はい――」」
ヴィーネは<銀蝶の踊武>を発動中。
同時に、翡翠の蛇弓の光の弦で闇の波動と魔獣の頭部を切断していたのか、周囲に闇の木漏れ日のような淡い光が生まれていた。
渋い。
そして、ユイが魅せる。
神鬼・霊風で闇の波動を瞬時に斬る。
魔獣の頭部も刹那の間に分断。
突き、袈裟斬り、逆袈裟斬りのフローグマン剣術をゼロコンマ数秒の間に行い前進を続けた。
俺の眼前と同じく――。
切られて消える闇の波動もある――。
ユイが神鬼・霊風で突き動作を行うタイミングに合わせるように神槍ガンジスで目の前の魔獣の頭部を<刺突>で穿った。
その神槍ガンジスを引くと同時に白銀の柄に魔力を送る。
神槍ガンジスの柄が振動。
方天画戟と似た穂先の下に備わる槍纓が伸びて四方八方を貫く刃と化した。
その槍纓の刃で闇の波動を斬りに斬りまくる。
周囲の闇の波動と魔獣の頭部は散りに散りまくった。
一気に少なくなった。が、まだ数というか波は多い。
波、いや、魔力の濃霧?
精神攻撃と怪物と魔獣の頭部を生み出せる闇の波動は、俺の<始まりの夕闇>的な攻撃とも呼べるのか?
半歩退きつつ、またユイたちを見る。
ユイは神鬼・霊風を振るい魔獣の頭部を真っ二つ。
更にユイは口に神鬼・霊風の柄巻を咥えた。
両手でヴァサージとアゼロスを握る。
ユイは三刀流に移行――。
右手、左手をクロスしては、その両手を上下に払う。
×印を魔獣の頭部に幾つも描く。
と、魔獣の頭部を幾つも霧散させた。
三刀流の剣術を見せるユイは俺に片目を見せるように咥えた神鬼・霊風の刃を縦に振るい上げた。
首筋が美しい。
そのままユイは螺旋機動で上昇した。
自らの周囲に三つの刃でタイフーンでも造るように上昇斬りを行う。
すげぇ。
一回り大きい魔獣の頭部を幾つも分断させてから、下で闇の波動を蹴散らしていたクレインの横に着地。
さすがだ――。
ユイとクレインの機動を見ながら――。
眼前に迫った闇の波動を夜王の傘セイヴァルトの<血穿>で穿った。
血の影響を受けた闇の波動は連続的に燃えて消えた。
と夜の大樹と地続きの人型の怪物が闇の波動を吐きつつ、
「――我の夢魔を超えて干渉……光属性の<血魔力>を有した吸血鬼の力を持つアブ・ソルンか」
と聞いてくる。
「随分と共通語が達者だが、お前はなんだ?」
「我はガショバ・デアド」
「ガショバ・デアド? 夢魔世界の神か怪物か?」
「そうだ。我は夢魔世界の一部と分かる」
人型の怪物は自身の体と繋がっていた夜の大樹を人型の体内に取り込むと、人型の怪物の背後に夜の景色と大樹の幻影がマントの如く出現した。
あの景色、どこかで見た覚えがある。
その間にも心象世界攻撃のような闇の波動攻撃は続いていた。
「ユイ、背中を預けるさね」
「うん」
「皆、ユイとクレインのフォローは任せた――」
「はい、お任せを――」
「任せて」
エヴァは白い金属を操作。
白皇鋼か。
その白皇鋼で簡易的なブロックを皆の前に造り上げていた。
レベッカはユイの横に出た。
前に出たレベッカは蒼炎を幾つも周囲に放つ。
神鬼・霊風を持つユイに迫る闇の波動を、蒼炎弾で衝突させて相殺している。
闇の波動と蒼炎弾が衝突を繰り返す。
と闇の波動の上側が怪しく折れ曲がる。
波のようなモノが折れる?
波のようなモノは削れつつ火花が散った。
ガショバ・デアドは頭部を震わせた。
鮫の歯牙のようなモノが上下する。
そして、
「我の<夢魔・ドウガン>が悉く燃え散るか……」
皆のがんばりが聞いたのか、ガショバ・デアドがそう発言。
ガショバ・デアドは周囲の闇の波動を人型の体内に引き込む。
樹皮の手で闇の波動を取り込む動きから、不気味なガショバ・デアドの甲冑が変化した。
黒色に銀色が混じった甲冑。
そして、俺が〝闇の波動〟と呼ぶ精神攻撃と怪物と魔獣の頭部を生んだ攻撃スキルの名は<夢魔・ドウガン>か。
<夢魔・ドウガン>は周囲を侵食する勢いだったし、スキルではなく、種族特性的なモノかも知れないな。
そう分析すると、
「――左目が異質な槍使いが大本か!」
と拡がった口から闇色の樹が俺に迫る。
その闇色の樹に対して<精霊珠想>の常闇の水精霊ヘルメを意識しつつヘルメに魔力を送る。
そして、<仙丹法・鯰想>を発動。
液体か樹液か形容しがたい流体ヘルメは、ナマズの形に変化した。
<仙丹法・鯰想>のナマズは口を拡げつつ前進。
闇色の樹を飲み込む。
「な!?」
驚くガショバ・デアドを見ながら二槍流を意識した。
頭上からイモリザが降りてくるのを把握。
「ヘルメ、出ろ。ガショバ・デアドを牽制しつつ皆を守れ」
俺の言葉を聞いたヘルメは左目から離れた。
<仙丹法・鯰想>のナマズと化していたヘルメの液体は宙空で瞬時に女体と化した。
――美しい水の女神。
とでも呼ぶべき常闇の水精霊ヘルメは両手から水を放出。
その水は盛大な《水癒》と《水幕》となって周囲に展開された。
水を浴びたイモリザが着地。
「使者様♪」
「ちょうどいいところにきた。敵はガショバ・デアド。夢魔の怪物か、神クラス。で、倒すつもりだ」
「はい――」
前進したイモリザは銀色の髪の毛を大剣に変化させた。
その大剣と黒い爪でガショバ・デアドが出した樹の枝と怪物の頭部を貫いた。
「きゅぴーん斬り♪ きまったぁぁ!」
「イモリザ、あまり前に出るな」
「はい♪」
その僅かの間に【夢取りタンモール】と【髪結い床・幽銀門】の面々が魔塔ゲルハットの内部に退いたことを確認。
直後、ガショバ・デアドに向けて前進。
<導想魔手>を出しつつ<光条の鎖槍>を三発発動。
続けて両手から<鎖>を出す。
ガショバ・デアドは頭部の鮫牙を無数に放出。
放射線を描いた鮫牙と衝突した<導想魔手>と<光条の鎖槍>は散る。
強引に打ち消されるとはショック。
が、<鎖>は打ち消せず――。
ガショバ・デアドの防具が目立つ両腕を穿った。
「グアァァァァ」
そのままガショバ・デアドの体に絡めた<鎖>を引っ張りつつ跳躍――。
「皆、待っていろ」
「閣下――」
そう言いながら<脳脊魔速>を発動。
――切り札だが構わない。
宙空で<導想魔手>を発動――。
上へ上へと飛翔を重ねた。
夜風が気持ちいいが、ガショバ・デアドは強敵だ。
気合いを入れる。
その間にも<鎖>を打ち消そうと藻掻くガショバ・デアド。
俺の<脳脊魔速>に対応しているということだ。
暴れるガショバ・デアドを引っ張りつつ上空高くへと移動を繰り返した。
そして、塔烈中立都市セナアプアの真上に到着。
真下の銀色の光はかなり小さい。
夜景と分かるが、あまり把握できない。
そして、高度が高いから空気は薄い。
強大な力を持つドラゴン系のモンスターを遠くに感知。
あまり高高度な空間に長居はしない。
相棒は下だしな。
すると、「ヌァァァ」と声を発したガショバ・デアドは、全身から粘り気のある闇色の波動を放ち、<鎖>をその闇色の波動で腐らせるように消してきた。
<脳脊魔速>は終了した。
そのガショバ・デアドは俺を見て、
「我を空に誘導か。一人で倒すつもりか?」
「さぁな?」
俺の言葉を聞いて態度を見たガショバ・デアド。
頭部を人の顔に変化。
同時に両手を魔剣のようなモノに変化させて、
「ほざくな! 定命の猿がァァ」
――吶喊。
<鎖>を消すほどの能力を有しているが、案外気が短いか。
そのガショバ・デアドを凝視しつつ――。
<始まりの夕闇>を発動。
俺の周囲の半径数十メートルが闇に染まった。
ガショバ・デアドはその場で魔剣を振るう。
混乱中か? フェイクか?
混乱して見えるガショバ・デアド目掛けて<夕闇の杭>を発動。
続けて<光条の鎖槍>を発動。
ガショバ・デアドはただ混乱したわけではなかった。
<始まりの夕闇>と<夕闇の杭>と<光条の鎖槍>を無双の如く斬る。
魔刃を四方八方に飛ばしているが、隙ができた。
左手で握る神槍ガンジスの穂先越しに魔剣を振るいまくるガショバ・デアドを凝視。
そして、<魔闘術の心得>を強めた。
更に<血想槍>で浮かぶ夜王の傘セイヴァルト、追加で召喚した聖槍ラマドシュラー、魔槍杖バルドーク、魔槍レーフェル、霊槍ハヴィス、王牌十字槍ヴェクサード、聖槍アロステ、雷式ラ・ドオラ、独鈷魔槍などを把握しつつ<導想魔手>を蹴った。
<血液加速>の加速を活かす――。
前傾姿勢でガショバ・デアド目掛けて突進。
血の世界と呼ぶべき<血魔力>が操作する魔槍杖バルドーク、魔槍レーフェル、聖槍ラマドシュラーで、飛来する魔刃を切断。
続けざまに飛来してくる魔刃のすべてを<血想槍>の無数の槍で処分――。
ガショバ・デアドは依然と下の空域で魔剣を振り回し、魔刃を放出しまくっている。
そのガショバ・デアドの甲冑胴体目掛けて――。
「な!?」
<刺突>のモーションから――。
驚くガショバ・デアドに<闇の千手掌>をいきなり発動。
千手観音像と似た、無数の千手の掌と化した闇杭がガショバ・デアドを横殴り――。
「うげぇあ!?」
掌底のような巨大な闇杭の多連撃に反応できず。
巨大な掌底アタックの<闇の千手掌>を喰らったガショバ・デアドの甲冑に亀裂が入る。
ガショバ・デアドの頭部が窪む。
その吹き飛んだガショバ・デアドを<始まりの夕闇>が侵食するように闇が包む。
夜空だが、夜空に思えない闇が拡がる。
それほど濃厚な<始まりの夕闇>だ。
同時に二槍で風槍流の構えを取る。
神槍ガンジスに魔力を込めた。
そして、<闇の次元血鎖>を発動。
闇の世界から紅蓮の<闇の次元血鎖>の群れが出現。
<始まりの夕闇>ごと紅蓮の<闇の次元血鎖>がガショバ・デアドの体を切り裂いた。
体が切り裂かれていくガショバ・デアドの近くに移動。
「グアァァァ……が、我は――」
裂けたガショバ・デアドの体から煌めく塵が発生。
塵はゼラチンのようなモノとなって、ガショバ・デアドの体を模る。
が、想定済みだ――。
新たなガショバ・デアドの体目掛けて――。
――神槍ガンジスの<光穿・雷不>を繰り出した。
突きの<光穿>がガショバ・デアドの胴体を穿つ。
「アヒャ――」
変な悲鳴が響く。
同時に俺の胸元の光の十字型のマークが閃光を放った。
続けざまに雷鳴が周囲に響いた。
神槍ガンジスの斜め上に巨大な光雷の矛が出現するや否や、雷鳴を一点に集約させた光雷の矛が直進――。
神々しい<光穿・雷不>がガショバ・デアドの体を見事に穿った。
「ヒャァァァァァ」
ガショバ・デアドは断末魔の悲鳴を叫ぶ。
最期に魔力粒子を発して、その魔力粒子を掴むようにガショバ・デアドの本体は蒸発するように消えた。
残った魔力粒子は夜の樹の光景を見せるや――。
ぐにょりぐにょりとゼラチンのようなモノに変化して形を変え続けていた。
最終的に大きな勾玉に変化。
『見事だ。妾を使うかと思ったが』
『おう――』
沙に念話を返しつつ――。
その大きな勾玉を掴む。
『そのアイテムは夢魔に関するアイテムか。異界の神のような存在は消えたと思うが……』
『ま、大丈夫だろ』
『ふむ』
その大きな勾玉は魔力を放出している。
なにかのメッセージを送るような魔力の放出具合を見ながら降下していく。
放出具合にはリズムがあった。
-・・-・-・-・・-・・--・--・--・
モールス信号?
同時に大きな勾玉は塔烈中立都市セナアプアの夜景の銀光を浴びて、丘と洞穴のような場所が勾玉の真上にゆらゆらと蜃気楼の如く浮かぶ。
その蜃気楼から薄い魔線が空に移動していた。
道標の地図か。
隠天魔の聖秘録と聖魔術師ネヴィルの仮面の反応と似ている。
隠天魔の聖秘録は、残りの聖魔術師ネヴィルの仮面の位置を示す魔線を周囲に放っていた。
勾玉が映していた丘と洞穴のような場所は消える。
すると、下から、頭部にドロシーを乗せたロロディーヌが近付いてきた。
「相棒、ドロシーを守ってくれてありがとな」
「にゃお~」
「シュウヤ様こそ。わたしたちを守ってくれてありがとうございます」
「おう、下に戻ろう」
「はい!」
小型飛空戦船ラングバドル、ペントハウスと温室にアーレイとヒュレミと遊ぶディアの姿を見ながら庭園を通り過ぎた。
管理人たちが宙を泳いでいるのを把握。
良かった、消えたのが多かったからな。
安堵しつつ魔塔ゲルハットのバルコニーに戻る。
「閣下!」
「「シュウヤ!」」
「「盟主!」」
「倒してきた。そして、これを入手――」
ギンガサに放った。
ギンガサは慌てて大きな勾玉を受け取る。
大きな勾玉を見て、
「あぁぁ」
と声を漏らした。
圧倒的に早い展開だ。
仕方なし、ナミ、ペイジ、サーモ、マベベ、パトクは唖然、皆も驚いている。
眷属以外は皆、茫然自失。
夜王の傘セイヴァルトを掴みつつ――。
他の槍ごと<血想槍>を消去。
夜王の傘セイヴァルトを肩に乗せた。
すると、
『器、少し前に<羅仙瞑道百妙技>を獲得したのか?』
『いや、獲得していない』
『羅の影響を受けた<水瞑の魔印師>の能力を個別に活かせる夜王の傘セイヴァルトの<光魔ノ奇想札>が優秀ということか』
沙も夜王の傘セイヴァルトには感心しているようだ。
『怪夜魔族の王専用は伊達じゃないな』
『ふむぅ。今の戦いといい、魔界セブドラと神界セウロスの武具を扱える光魔ルシヴァルの種族は妾の予想を超えておる……神魔ノ半身と呼ぶベき種族が光魔ルシヴァルぞ』
今の戦いと夜王の傘セイヴァルトの効果に、沙は興奮気味だ。
王牌十字槍ヴェクサードにはあまり興味がない?
そのことは伝えず、
『神魔と言えば神魔石がある。沙の指摘は、あながち間違っていないかもな』
地下オークションで落札した神魔石のことを告げた。
『魔軍夜行ノ槍業の八人が怯える神界セウロスの宝具か。『神淵残巻』や『神仙燕書』などの奥義を学べるかも知れんのに、好奇心旺盛な器は神槍ガンジスと絡めて使おうとせぬ。なぜ使わん。いつ使うのだ?』
ヒュプリノパスの尾も含めて、いつかは聞いてくるとは思っていたが。
『まだだ。神槍ガンジスは相手の武器破壊が可能な優秀な武器。あまり弄りたくない』
『手数の心配だけか? 器のことだ、何か予感があるのだろう』
鋭いな。
『ま、やることが単純に多いってこともある』
『ふむ』
そこで沈黙した沙。
沙なりに考えることがあるのか。
<神剣・三叉法具サラテン>の沙も、テンションが高い時は凄まじいじゃじゃ馬と化すが、真面目な場合はとことん真面目だからな。
ヘルメも似ているかも知れない。
と考えていると、ギンガサが近付いてきた。
「盟主、これを」
「ギンガサ、その大きな勾玉はお前の物だろう。地図でもあるようだしな」
「いいのですか? 夢魔の遺物に封印されていた神のような怪物を倒したのは盟主ですぞ」
「いいさ。【夢取りタンモール】の研究に活かしてくれ」
「……なんという欲のなさ……我らの盟主は……あ、ありがとうございます」
ギンガサは泣いていた。
マベベ、パトクのお爺さんたちも泣き始めると、
「「ありがとうございます」」
参ったな。
戦いよりも、今のほうが心にくる。
アキレス師匠と爺ちゃんを思い出すじゃないか。
……。
気を取り直して、
「道標だが、ヴェクサードさんが翻訳した言葉と連動しているんだろう?」
「はい、タンモールの遺跡でしょう」
「見たことはある?」
「いえ、知りません。皆は?」
まだ驚きが消えていないナミ、ペイジ、サーモ、マベベ、パトクは微かに頭部を左右に振る。
その表情と仕種は『地図の場所は知らない』だろう。
「ならば秘境を目指して探索か。そのまま【夢取りタンモール】に役立ててくれ」
「はい!」
「しかし、凄い日となった。一夜にして【夢取りタンモール】の歴史が変わるとは……」
サーモの言葉だ。
【夢取りタンモール】の面々は頷き合う。
一瞬、笑顔を向けるが、すぐに厳しさを意識した。
そして、
「これは皆にも言えることだが、俺は束縛はしない。〝来る者拒まず去る者追わず〟の精神だ。ただし、俺たちに関わる者たちと敵対すれば容赦はしない」
相棒が黒虎に変身。
そのロロディーヌが頭部を上げて、
「にゃごおお~」
と咆哮。
口から少し炎を吐いて、皆を威嚇した。
眷属以外の面々は身を退いて驚愕。
相棒が吐いた炎は小さいが強烈だからな。
そして、少し間が空いた。
<筆頭従者長>の皆は微笑む。
ペレランドラの隣に移動していたドロシーも俺に笑顔を向ける。
すると、驚いていた【夢取りタンモール】と【髪結い床・幽銀門】の皆が少し前に出た。
胸元に手を当てて、軍隊式の敬礼。
「「はい!」」
いい返事だ。
俺は頷いて、
「ま、堅いことを抜かした俺だが、基本はアイムフレンドリー。そして、パムカレとギンガサの仁義を信じる。ナミ、ペイジ、サーモ、マベベ、パトクの【夢取りタンモール】と、リツ、アジン、ヒムタア、ジョー、ウビナンの【髪結い床・幽銀門】の仁義と正義の心を信じよう」
またシーンとした。
が、皆、すぐに気合い溢れる表情となる。
「「承知致しました」」
「「分かりました!」」
「「イエス、マイロード!」」
「「盟主、心得ました」」
「感動的な言葉……惚れてしまうわ」
「……わたしも……」
ヒムタアとアジンと目が合う。
「……ぁ」
「ふふ」
二人の可愛い声は魅力的。
ヴィーネたちから冷ややかな視線が俺ではなく、そのヒムタアたちに突き刺さる。
構わず、頷いてから、
「ギンガサ、タンモールの遺跡の探索についてだが、この魔塔ゲルハットは後々転移陣が拡充予定でもある。俺も転移アイテムは豊富に持つ。最上階にある小型飛空戦船ラングバドルは見えているから知っていると思うが、飛空戦船がある。だから、タンモールの遺跡の探索に付き合えると思うぞ」
「盟主、嬉しい誘いですが、暫くは【天凛の月】の活動を援助します。わたしたちと関連した者と場所を狙う敵組織の存在もありますし、【天凛の月】の敵も多いと聞いていますから」
場所か。セナアプアにも【夢取りタンモール】の拠点はあるんだったな。
「それもそっか」
「はい。そして、【天凛の月】の活動の援助ですが、ご都合が合えば、その途方もない旅に参加したく存じます。また全員がわたしの考えで動くわけではないので、盟主に付いていくメンバーもいると思います」
「了解した」
少し間を空けてから、
「今の続きだが、あの小型飛空戦船ラングバドルで、旅を行うつもりだ。その旅の主な目的は、バベル卍聖櫃に関わるオベリスクや古代遺跡の探索となる。聖櫃探知のコインもあるからな。キスマリもその関係で重要なクルーとなる」
「ふふ、艦長! 我は付いていく!」
気合い溢れる声は勿論、キスマリ。
キスマリは片膝で床を突く。
「ンン――」
そのキスマリに黒虎ロロディーヌの相棒と銀灰猫が近寄る。
「神獣様……」
相棒はキスマリに頭部を擦りつけて、銀灰猫はキスマリの足に頭部から胴体を当てていた。
銀灰猫はまた前転。
背中をキスマリの足の甲にぶつけていた。
「あ――」
と声を発したキスマリは超反応。
片手でサッと銀灰猫の体を掬っていた。
キスマリの四腕の動きは素早い。
その長細い片腕の手に乗る銀灰猫は子猫の大きさだ。
銀灰猫のお陰で、キスマリの掌が大きく見えた。
その銀灰猫はジッとキスマリを見る。
よちよち歩きでキスマリの掌の上を回ると、頭部を上げた。
四眼のキスマリを凝視して、
「にゃ」
と挨拶。
「ふふ、メト、可愛い」
キスマリも可愛い。
「わぁ~」
「うふふ」
「ん、可愛い~」
「はい!」
「メトちゃん、わたしの掌にも乗って~」
レベッカ、エヴァ、キサラ、ヴィーネなどの<筆頭従者長>たちが興奮。
その様子を見て、暫し和む。
【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】の面々も笑顔だ。
いい仲間を得た。
その仲間たち、パムカレ、ギンガサ、ナミ、ペイジ、サーモ、マベベ、パトク、リツ、アジン、ヒムタア、ジョー、ウビナンを順繰りに見た。
そして、【夢取りタンモール】の長のギンガサに、
「東の海にも聖櫃関連は豊富。ローデリア王国とも繋がる。マジマーンとベニーと宇宙のハーミットとも会話を行うつもりだ」
「東の海も……なるほど、だから我の」
「おう。徒歩よりは、タンモールの遺跡を巡ることも容易だろう」
「はい。その際は、盟主の言葉に甘えさせて頂きたい!」
「喜んで」
すると、
「ふふ、英雄の盟主様?」
と、ナミの言葉が響く。
「ん?」
「もう! そんな顔も素敵なんだから♪」
と、目が合うナミさんの巨乳が揺れる。
さんざん暴れた煩悩だが、また息を吹き返す勢いだ。
「盟主のシュウヤ様? 前にお約束したスキルを提供できる夢のプレゼントがあることをお忘れになってません?」
「そうだった。夢で強化が可能だった」
「ふふ、そうです。寝台に行きましょう。施術を行います」
「了解」
ナミさんの施術にワクワクだ。
続きは、来週を予定。
HJノベルス様から小説「槍使いと、黒猫。16」が今月発売!
シュウヤの無双! 結構弄ってますので、16巻だけでも楽しめるかと。
そして、活動報告に16巻の表紙を載せたので興味があったら見て下さい。
漫画版「槍使いと、黒猫。」1~2巻発売中。




