八百三十話 隠天魔の聖秘録
2021/08/15 9:38 スプリージオの台詞を少し修正
2021/08/17 13:55 黎明の聖珠仮面台に嵌まる聖魔術師ネヴィルが用いた他の仮面に関するシュウヤの台詞を修正。
掌握察では多数の反応だ。
消えては現れる魔素反応もある。
が、大魔術師スプリージオか?
それともカリィのような助っ人か。
「キサラとユイ、まだペントハウスから出ないでいい。侵入者には俺が対応する」
そう発言。
「うん」
「はい。ガーデンに感じた魔素の歩みは急に遅くなりました」
そう語るキサラに頷いた。
ユイが、
「管理人たちが何かした?」
「たぶんな」
「高位魔力層のご主人様の敵~って集団で襲い掛かっているとか?」
「ん、ありえる」
「え? 冗談で言ったんだけど」
レベッカは半笑い。
アギトナリラ、ナリラフリラたちは小人でデボンチッチ風。歩くカードの玩具的でもある。
雰囲気的にわーわーと群がっても戦力になりそうにない。
「シュウヤ様。念のため浮遊岩で下を見てきます」
「頼む」
「客人的な扱いのカボルもいる。わたしも下を見てくる?」
「ユイは残ってくれ」
「分かった」
「キサラ、一階からの侵入がなければ、すぐに庭園に戻ってこい」
「はい。朝方になれば見回りのザフバンたちが帰ってくると聞いていますから、様子を見ながら戻ります」
「了解」
キサラは頷いた。
エレベーター的に並ぶ浮遊岩がある左側に向かう。
俯瞰で魔塔ゲルハットを見れば、浮遊岩が並ぶのは南側か。
南マハハイム地方の地図を確認している訳ではないから方角は違うのかも知れないが。
キサラはダモアヌンの魔槍を右手に、左手に匕首を召喚しつつ歩いた。
宝物庫から見て視界の左から消える。
すると、机の上でグルーミング大会となっていた動物たちが寄ってきた。
先頭の黒猫のロロディーヌは、
「ンン、にゃ、にゃ、にゃお~ん」
少し長く鳴きつつ首からちょろっと短く出した触手の先端を俺に向ける。
黒豆のような触手と肉球をピクピクと動かしていた。
黒猫は俺のことを異界の軍事貴族の動物たちに説明している?
銀灰猫のメト。
シベリアンハスキーの子犬。
カモシカの子鹿。
の三匹は、少しだけ耳を凹ませる。
恐縮?
俺に対して頭部を少し下げるような仕種を取った。
黒猫は異界の軍事貴族たちと会話ができるのか?
まぁ、神獣だ。
ある程度は、会話がなくとも、表情とジェスチャーと不思議パワーで通じるか。
その動物たちに向けて、
「お前たちはここで待っとけ」
「にゃご」
黒猫は反発するような声を発した。
続けて、
「にゃあァ」
「ワォォン」
「グモゥ」
メトと動物たちは『わたしたちも戦う』といった心持ちか?
メトの鼻のωが可愛い。
「ロロとメトに、シベリアンハスキーとカモシカの異界の軍事貴族たちも付いてくる気か?」
「ンン」
「ンン、にゃあァ」
「ワン!」
「グモゥ、プボゥ、プボゥ」
氈鹿の子鹿の声がポポブム風に変化した。
面白い。
皆、聖魔術師ネヴィルの幻影で見たから戦えることは知っているが……。
「相棒、皆の守りを優先。外で戦いとなっても無理に参加はするな」
「ンン、にゃ――」
黒猫は姿を黒豹に変化させる。
「にゃお」
と再び鳴いた。
納得したかな。
そのロロディーヌは皆を見て、
「にゃご」
と強く鳴いた。
その瞬間、銀灰色の猫のメトとシベリアンハスキーとカモシカの子鹿は静かになった。
従順だ。
子犬のシベリアンハスキーは尻尾が激しく揺れているから、遊びたい?
可愛い子犬ちゃんだ。
撫でてあげたくなったが、振り向いた相棒。
黒豹の相棒は凜々しい。
そして、バルミント以来の母のような面だ。
そのロロディーヌは優雅さを体で表現するように机の上を歩き、机から降りた。
宝物庫の出入り口付近に移動して盛り上がった床の匂いを嗅ぐ。
その盛り上がった部分は山形の扉のトレビンの一部だったと思われる素材だ。
相棒は前足でその床を叩くと、「ンン」と鳴いてから見上げる。
天井の盛り上がった部分か。
黒豹は安全を確認したのか、納得したように正面のユイとレベッカに視線を向けると、二人に頷くような素振りを見せてから、盛り上がった部分を歩いてペントハウスへと出た。銀灰色の毛が美しいメトもトコトコと歩いた。
シベリアンハスキーの子犬とカモシカの子鹿も黒豹ロロディーヌの背後を歩いていく。
その歩く様子は子連れのカルガモに見えた。
緊張感が一気に薄らぐ。
「トレビン、お前を持って外に出るつもりだ」
「わ、分かった」
「安心しろ、素直にスプリージオに返すだけだ」
驚いたトレビンの顔。
人質に利用するとでも思ったのか?
まぁ、初見だからな。
当然か。
驚いているトレビンの表情は意外に豊か。
トレビンは、卵魔人、卵怪人的。
卵の魔道具が元。
単眼球のアドゥムブラリ的といえるか。
そのトレビンは、
「……了解した」
「ヴィーネ、そこの紫色と銀色の箱の鍵開けに挑戦しておいてくれ。開けることができたら、回収の是非は、ミスティとエヴァの判断次第といったところか」
「ん、分かった。一応、アイテムは返すつもりで見とく」
「エヴァとマスターは宝物庫の品を返すつもりなの?」
「状況次第か」
「閣下は、大魔術師アキエ・エニグマの思惑に乗るつもりですね」
「おう、もう最初の時点でな」
「うん。大魔術師スプリージオにとって死ぬほど大切なアイテムなら、魔塔ゲルハットに留まり続けていたはず」
「ん」
「それもそうね」
「閣下、では先に、ディアとビーサが寝ている部屋の前に立っておきます」
「了解」
「ではわたしも、早速――」
ヘルメは宝物庫から出た。
ユイとハイタッチして、左側に向かう。
ヴィーネは俺の前を通り、窓がない不自然なカーテンの下に向かった。
が、カーテンがヴィーネに掛かってきた。
「ヴィーネ!」
ヴィーネはギョッとしたようにガドリセスに手を当てた瞬間、居合抜き――。
カーテンは血飛沫を上げて真っ二つ。
血飛沫は、残りのカーテンと共に、髑髏と血肉を有した戦士の上半身に変化した。
刹那、その首筋にガドリセスの刃を押し当たヴィーネ。
更に赤燐の鞘を前方に突き出し――。
髑髏の頭蓋を穿つや、ガドリセスの刃を素早く引いた。
髑髏戦士の動脈らしき部分をぶった切り、髑髏の戦士の首を刎ねた。
ヴィーネは血飛沫的な魔力を吸収。
「さすがだ」
「ふふ」
ヴィーネは背中越しに頷いた。
微笑む声が頼もしい。
残り僅かに残ったカーテンは壁の中に消えるように収縮して壁の中に戻った。
刹那、壁に魔力が滲み出る。
ヴィーネは、俄にガドリセスの切っ先を壁に向けた。
その壁には、首がない髑髏の戦士が倒れた絵柄が現れる。
「トレビン、あの壁とカーテンも魔道具なのか」
「そうだ。言うのを忘れていたが、見事な剣術だな、珍しいエルフ」
「――わたしに構わず、ご主人様に失礼がないように動け」
「わ、分かった」
ヴィーネは背中越しに厳しい声音で語っていた。
ガドリセスの刃を鞘に仕舞う所作は、洗練されている。
魅了された。
「トレビン、罠があるじゃない!」
レベッカの声にトレビンはびびる。
レベッカは宝物庫の出入り口付近から振り返っていた。
ユイは『いいから』とレベッカの肩に手を当てて、視線と鞘の鐺で庭園側を射す。
レベッカは「あ、うん」と頷きつつ右手に嵌めたジャハールを活かす構えを取る。
左手が握るレムランの竜杖を盾代わりにするような構えだ。
トレビンは俺をチラッと見てから、横顔のレベッカを見て、
「蒼炎を扱うエルフ。本当に忘れていたんだ……」
「ふん」
レベッカはトレビンを含めて俺たちを見ていない。
その間に、レベッカの背後にいたロロディーヌとアイコンタクト。
その黒豹のロロディーヌは「ンン」と鳴いてから異界の軍事貴族たちを見る。
ロシアンブルーと似ている銀灰猫に頭部を寄せて、背後に誘導していた。
そして、シベリアンハスキーの子犬とカモシカの子鹿にも太く長い尻尾を絡ませると、後退。
動物たちを守るロロディーヌの行動は微笑ましい。
「ングゥゥィィ、マリョク、アル……」
「ハルホンク、一先ずは我慢だ」
「ングゥゥィィ」
右肩の竜頭金属甲を見たミスティと視線が合う。
そのミスティは頷いてから鍵開け中のヴィーネの姿を確認。
再び、俺を見て、
「外の連中がスプリージオ関係なら、魔塔ナイトレーンの一件が解決したのかしらね」
「その可能性もあるな、そもそも魔塔ナイトレーンに関与しているのか不明だが」
「うん」
ミスティとハイタッチ。
そのミスティとすれ違う時、
「マスター、金属類があったら……」
「おう。ま、少しぐらいならいいだろ。それにこれらの品を返すとは決めていない」
「うん」
ミスティの返事を聞きながら――。
ポーション類が詰まった箱。
大白金貨と魔宝石が入った小箱。
水晶玉が三つ積み重なっている怪しい魔道具。
蜘蛛の巣が包む分厚い魔法書。
水天模様が美しい水晶玉が真上に浮いている血濡れた魔法書。
キュイズナーの怪しい銅像。
などをアイテムボックスに仕舞う。
そして、
「トレビン、掴むぞ」
「分かった」
トレビンの後頭部を掴んで持ち上げる。
卵の頭部は指の圧で凹む。
アドゥムブラリ的な感触だ。
少し可愛いかも知れない。
重さは軽い。
そのまま宝物庫の出入り口付近に移動。
宝物庫の出入り口付近のレベッカは、まだペントハウスの出入り口の巨大な窓を見ている。
時間帯は深夜を過ぎた辺りか。
外は夜だが、それなりに明るい。
魔塔ゲルハットの屋上には光源が至る所にある。
トレビンを掴む俺の前にいるレベッカとユイを見て、
「外に出ようか。庭園の状況の把握次第だが、基本は背後を頼むことになる」
「うん、任せて、そのトレビンは投げるの?」
トレビンはレベッカの冗談を聞いて、ビクッと体を震わせる。
「了解」
「レベッカ、トレビンは投げるかも知れない」
と、笑いながら壇を蹴って跳躍――。
ペントハウスのソファがある間を越えた。
「ひぃ」
トレビンは俺の跳躍力と機動に驚いたようだ。
構わず円卓のワインを掴む。
まだ残っていたワインを飲みつつ着地。
ワインボトルを持ちながら巨大な窓硝子に近付いた。
ワインボトルを<導想魔手>に移しつつ――。
硝子の地続きの取っ手を握って、その扉を開けた。
一気に外の空気がペントハウス内に流れ込むのを感じながら庭園の外に出た。
複数の魔素の正体はすぐに分かった。
茶髪の大魔術師スプリージオと傭兵風の集団。
「主だ」
卵型の魔道具でもあるトレビンがそう語る。
その大魔術師スプリージオたちは踊っていた。
否、踊って見えたのは、アギトナリラ、ナリラフリラの管理人たちのお陰か。
「離れろ」
「糞、スプリージオ、この魔法生物のことは話に聞いてないぞ」
「離れないぞ、この小人たち」
「え? 消えた。あ、カードなのか?」
「――デボンチッチか!?」
「あぁ、武器が!」
「まて、あぁぁ、体がぁ」
大魔術師スプリージオと侵入者は、管理人たちを振り払おうと躍起になっていた。
小型の飛空艇が数艇、浮遊していた。
あれは気になる。
が、まぁ無理に争う必要はない。
「わたしの予想が的中!」
「うん」
背後のユイとレベッカの言葉に頷く。
背後の二人に、
「管理人たちの数も減っている。目眩ましも、あと数秒ってところか」
「うん。大魔術師スプリージオが戦うつもりなら、【天凜の月】として潰しましょう」
「そうね。戦うとは思えないけど」
レベッカの言葉に同意しつつ――。
無手のまま庭園を駆けた。
「【天凜の月】の盟主か! え、そ、その姿は……」
茶髪の大魔術師スプリージオは俺を見て驚愕。
その大魔術師スプリージオに絡んでいた管理人たちは動きを止める。
パッパッと転移を繰り返しつつ戻ってきた。
侵入者たちの体に纏わり付いていた管理人たちも離れると、振り向きつつ転移。
不思議な機動の転移方法を見てジョディとシェイルを想起した。
その管理人たちは、
「「高位魔力層のご主人様~、侵入者たちです! 皆、強いです!」」
「「第六天霊魂ゲルハットのコアの分身体を呼びますか!?」」
最上階のコアか。
<絶対防衛>としての体はない分身体としての出現が可能ってことか。
が、今はいい。
「アギトナリラ、ナリラフリラたち、今は退け」
「「はい♪」」
管理人たちは一斉に消えた。
茶髪の大魔術師スプリージオは動きを止める。
傭兵たちも動きを止めた。
が、素早い所作で得物を構え直す。
彼らの動きは洗練されている。
体に纏う<魔闘術>と歩法は完全に玄人。
全員が手練れか。
身なりは家紋入りの装束。
仕込み魔杖と魔刀持ちが多い。
靴は、魔靴ジャックポポスのような靴か。
背中には〝エセルジャッジメント魔貝噴射〟的な装備はないと思うが、背嚢ではないだろうし、それっぽい装備を備えた装束だろう。
胸甲と繋がるベルトの剣帯か矢筒かな。
身なりからして、どこかの大商会の雇われ集団か?
暗殺一家【チフホープ家】のような存在か。
闇ギルド連中かな?
茶髪の大魔術師スプリージオが、俺が握るトレビンを見て、
「【天凜の月】の盟主。知っていると思うが名乗らせてもらう。俺はスプリージオ」
「分かっている。俺の名はシュウヤだ。で、夜間の侵入の理由は宝物庫の件だろう?」
と、トレビンを投げた。
「――な!?」
「え?」
トレビンは本当に投げられるとは思わなかったような声を発していた。
そのトレビンを片手で掴むスプリージオ。
傭兵たちは殺気を出して身構えた。
が、吶喊してくる阿呆はいない。
さすがに玄人か。
そう思わせる動きでにじり寄ってくる。
「シュウヤ、この動きの質だと、もっと頭が回る存在が裏にいるかも知れないわよ」
「キサラなら大丈夫よね」
「大丈夫だろう。なにかあったら血文字を寄越すだろ」
「うん」
一歩、二歩、前に出て、
「スプリージオ、トレビンが封じていた扉を開けたことが不思議だったんだろう?」
「あぁ、そうだが……」
「主、シュウヤは……聖魔術師ネヴィルの装備に対応している。異界の軍事貴族たちを復活させた」
「な!?」
「――おい、スプリージオ! 戦わないのか?」
気配を消していた存在が、ぬっと現れる。
「デミラ、戦いはナシだ」
「了解、前金だけか。【天凜の月】の盟主、退かせてもらいたいが……」
「戦う気がないなら退いていい。あ、上の飛空艇は一つもらいたい」
デミラという名のおそらく傭兵長は、大魔術師スプリージオをチラッと見る。
スプリージオは、
「これで契約満了だ――」
金貨が入ったような袋をデミラに投げていた。
「――お? 了解。それじゃ、【天凜の月】の盟主のお望み通り、一つ飛空艇を置いていく。だから退いていいか?」
「デミラさんは、どこの組織の者なんだ?」
「俺たちは【ドジャック傭兵空魔団】。主にホセロドリゲス商会、ドラアフル商会に雇われることが多い」
「ピラタド大商会連合組織の連中か」
俺がそう発言すると、剣呑な雰囲気となる。
「……安心しろ、今は、背後から襲うようなことはしない」
「本当だな」
「おう」
デミラは、仲間に視線を巡らせて、
「承知した。では、タアス。お前はキヌアの二番艇に乗って帰還しろ」
傭兵団の兵士は武器を下ろして、
「え、俺のデラッカーは改造したばかりなんですが……」
「いいから決まりだ」
「は、はい」
兵士のタアスは溜め息を吐いて、仲間たちに視線を巡らせる。
キヌアという名の兵士が片手を上げて、『お前は後ろに乗れ』と上の飛空艇を親指で射していた。
「では【天凜の月】の盟主と大魔術師スプリージオ、俺たちは素直に退かせてもらう。そして、【天凜の月】の盟主、これが小型飛空艇デラッカーの鍵だ――」
とデミラという名のリーダー格は俺に紙のような物を投げてくる。
鍵はカード状か。
鋼の質感のカードを受け取った。
アイテムボックスに仕舞う。
その瞬間、デミラの背中からカチッと金属音が響いた。
ドッと魔力が噴き上がる。
デミラは一瞬で真上。
エセルジャッジメント魔貝噴射のようなアイテムが背中に出現したのか?
魔法の装束か、エセル界の装備の改造もありえるか。
ミスティに渡してあるエセルジャッジメント魔貝噴射とは違う。
噴射口から迸る魔力光はロケットエンジン的でとても綺麗だ。
が、噴射は派手だが、音は静か。
不思議だ――他の【ドジャック傭兵空魔団】の者たちも一斉に飛翔している。
俺に飛空艇を譲ったタアスは仲間の飛空艇に乗っていた。
【ドジャック傭兵空魔団】の皆は撤収。
一つの飛空艇が残る。
スプリージオはトレビンを魔道具に戻すと、
「本当に聖魔術師ネヴィルの仮面を装備……そして、異界の軍事貴族たちを使役したんだな……」
「そうだ。返せと言われても無理かな」
「構わない。伝承の言葉は本当だったようだな」
伝承か。
聖魔術師ネヴィルの伝承は聞きたいかも知れない。
戦闘型デバイスを意識。
大白金貨と魔宝石が入った小箱を手元に出した。その小箱を大魔術師スプリージオに放る。
「それは返しとこう」
「すべて失ったつもりだったが……」
「元々はスプリージオの物だろう。ま、大魔術師アキエ・エニグマが権利書を持っていた時点で、失うリスクはあったと思うが」
「アキエ・エニグマとは争う仲だが、そもそも【魔術総武会】のセナアプア支部が割れるように日常的に争い合う関係ではない」
「シオンをリンチしといてか?」
「あれは……まぁ、そう思われても仕方ない。が、【魔術総武会】の大魔法研究魔塔の一つが、この魔塔だ。皆が利用し利用する関係性の魔塔ゲルハット。それを、いきなり外部の者に、【天凜の月】に譲るとは思わなかった」
「アキエ・エニグマの気持ちの代弁はできないが、その大魔術師たちの関係性に嫌気がさしたか? あるいは、ネドー絡みも関わる?」
俺がそう聞くと、スプリージオの表情に力が入り、頬がピクッと動いてから、
「……あるだろう」
まぁ、皆、何かしら繋がりはあるだろう。
評議員と魔法学院に大商会は繋がりまくる。
「スプリージオがネドー側だったかどうかを聞いているつもりはないから安心しろ」
「……」
「争わないのなら、異界の軍事貴族たちのことで質問がある」
俺がそう聞くと、スプリージオの表情が一瞬緩む。
「……石像たちは本当に動いている?」
「動いている。あとでトレビンに聞いたらいい」
卵型魔道具は形が掌に合うアクセサリーに変わっていた。
どういう仕組みなんだろう。
武装魔霊なんだろうか。
そのトレビンを眺めたスプリージオが、
「そもそも、トレビンがどうして懐いた?」
「さぁ? 魔力を込めたら溶けて卵魔人、卵怪人になった。宝物庫も開いたし、ついでに宝の解説も頼んだんだ」
「溶けた、か……色々と規格外な能力を持つとは知っていたが……」
スプリージオは、俺の腰を見る。
と、前にフィナプルスから傷を受けた腕を上げていた。
「スプリージオ。石像の犬のほうと、カモシカのことを聞きたい。名があったと思うが」
「ある。犬のほうはシルバーフィタンアス。鹿のほうはハウレッツ」
「へぇ、ありがとう」
「猫のほうは……」
「あぁ、異界の軍事貴族フル・メトだろう」
スプリージオは顔色を変えた。
「……【天凜の月】の盟主? 貴方は……あの二十面相の聖魔術師ネヴィルなのか? 生まれ代わりなのか?」
「なんでそうなる……」
そう呟くと、スプリージオは手元に紙片。
否、紙片集を出した。
紙片集を見て、唇を噛む。
そのまま唇から血を流し、唇を震わせつつ、
「……聖魔術師ネヴィルの名は嘗ては有名だったんだ。千年以上前の話だがな」
「嘗てか。その紙片集は?」
「これは隠天陰の聖秘録。聖魔術師ネヴィルの伝承の一部が記されてある」
少し早口だ。
なげやり感がある。
「へぇ、隠天魔の聖秘録?」
「そうだ。〝【光ノ使徒】聖魔術師ネヴィル、死するとも生きる、二十の仮面がそろえし時、光と魔、揃う、逢魔時、黄金の夜の縁となりて閃光と霊珠魔印となる。それは暁の灯火であり暴神ローグンの慧思者、神玉の灯りと光と闇の奔流ヲ、赤肉団と光韻ヲ持つ。【見守る者】が印……仮面に宿り魂が、神呪天ガ……〟とある」
暴神ローグン? ミレイヴァルの……。
「……シュウヤ、それって」
「驚きね」
背後のユイとレベッカはそう発言。
「千年以上前ってことは、ベファリッツ大帝国の頃か?」
「その頃まではある程度知られていたようだ。【岩石都市ヨゴル】があった地域には石碑と祭壇、秘密の盗賊ギルドがあったようだな。【幽魔の門】は認めないようだが……」
「へぇ、古い地名か。聖魔術師ネヴィルは、二十面相と呼ばれていた。他にも仮面があるんだろう?」
「ある。そのことでも不思議なんだ。黎明の聖珠仮面台には二十の仮面は揃えていないだろう?」
「この白銀の仮面と、小豆色と金色の飾りがある仮面、狗尾草の飾りが付いた海松色の仮面など、魔力を内包した仮面が飾られていたが、二十個はなかった」
「……それがどうして……まぁ、伝説の探索はお前に任せようか。聖魔術師ネヴィルの後継者のシュウヤ殿!」
と、スプリージオは紙片集を放った。紙片集を受け取る。
「いいのか?」
そう聞くと、スプリージオは悔しそうな面を浮かべた。
「……いい。それよりも魔塔ナイトレーンの一件はどうするつもりなんだ」
「まだ解決していないのか?」
「まだだ。あそこの連中も一筋縄ではないからな」
「……」
「退かせてもらうぞ」
「まだ聞きたいことがあるんだが」
スプリージオはイラッとした表情を浮かべる。
「……もういいだろう。その仮面を見せつけるな……」
「悪いが少し気に入っている」
「あぁそうだろうよ! フン! 聖魔術師の仮面と白銀の衣装が似合うシュウヤ殿! その仮面で出歩くならば【幽魔の門】には気を付けろよ?」
最後にニヤッと笑う。
スプリージオは腕を翳す。
指輪か? あ、姿が消えた。
魔力も一瞬で消える。
大魔術師スプリージオは撤収したようだ。
「消えちゃった」
「あぁ」
「うん。異界の軍事貴族の白色の子犬ちゃんは、シルバーフィタンアスって名前ね」
「子鹿のほうはハウレッツか」
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