八百二十八話 聖魔術師ネヴィルの仮面と水神ノ血封書
2021/08/09 20:29 最後、ちょい追加。
先ほど、登場人物紹介&地図&神々の眷属と仲間たちversion8.Qへとアップデートしました。
スキル一覧&称号の一部資料※(version2.Q)もアップしました。
ヘルメが俺の白銀の仮面を凝視して、
「閣下がよりカッコよく! 白銀の貴公子version!」
ヘルメはそう楽しそうに語る。
水の衣の色合いを明るく変化させた。
ヘルメ立ちならぬ――ヘルメダンスを実行。
軽やかに踊りながら机の真上へと移動するや、水飛沫を発して片手倒立の姿勢となる。
その美しい姿勢からシュッと前転横捻りで姿勢を元に戻した。
細い腕先を机の魔法書の一つに向けて、またポージング――。
傍に近付いていたエヴァが拍手。
レベッカも拍手していた。
その間に、頭部の周りを回る二十四面体をゲット。
「ふふ、この血濡れた魔法書ですが、見ての通り水の気配があります。閣下、気付いてました?」
「<魔装天狗・聖盗>の仮面とパレデスの鏡に夢中で気付かなかった。水神アクレシス様の加護がある水晶玉が吸血神ルグナド様系の書物を封じている?」
「はい、そうかも知れません」
俺が触ったら封印が解かれる可能性があるか。
なら、後回しかな。
「パレデスの鏡を仕舞っとく」
「うん」
「はい」
「ご主人様、今の言葉にトレビンが少し反応しました」
「……」
トレビンはヴィーネの言葉を聞いて、眉のような産毛をひそめる。
宝のパレデスの鏡を奪われることが気に食わない?
トレビンは俺たちを不快そうに見ては、窓のほうをチラッと見ている。
あの面だと、スプリージオが来ることを確信しているような印象だ。
ま、来たとしてもスプリージオは俺たちを見て、少しだが戦っている。
大魔術師アキエ・エニグマと大魔術師シオンのグループと繋がる俺たちと、喧嘩する判断を下すとは思えない。なんらかの強力な助っ人がいるのなら別だが……。
そんなことを考えつつ十八面のパレデスの鏡を戦闘型デバイスに仕舞った。
二十四面体は胸ポケットと思ったが、白銀の仮面から展開した白銀の衣装だ。
パレデスの鏡と同じく二十四面体も戦闘型デバイスに仕舞うとしよう。
戦闘型デバイスの真上に十八面のパレデスの鏡と二十四面体がアイコンとして浮かぶ。
よーし、パレデスの鏡のゲットは大きい。
そのパレデスの鏡のおかげでペルネーテとサイデイルは一瞬だ。
パレデスの鏡の十八面は、クナたちに転移ルームを造ってもらう部屋に置くとしよう。
魔塔ゲルハットに置いたゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡の片方を回収して、旅先での簡易拠点用にとっとくか。
まぁ、転移の選択肢が増えることはいいことだ。
魔塔ゲルハットにはリスクがあるが、【幻瞑暗黒回廊】を有したセンティアの部屋もある。
そして、蜘蛛の巣に囚われている分厚い魔法書を見ながら、
「皆、色々とお宝があるが……まずは、この蜘蛛の巣に絡まっている分厚い魔法書をチェックしようか」
「うん。ありきたりに、蜘蛛系の紋章魔法が覚えられる?」
ミスティがそう発言。
レベッカは指先に蒼炎を灯して、
「蜘蛛の幻獣との契約を兼ねた古代の魔法書かも!」
「表紙は蜘蛛の巣で見えにくい。ベイなんとか」
「……ベイ? 古い文字としか分からないわ……<翻訳即是>で読めるなら古代の魔法書ってこと?」
「一概には言えないが、そうかも知れない」
「シュウヤは前に蜘蛛娘アキを獲得した時デロウビンとの関係で、センビカンセス、ラメラカンセスの蜘蛛王位継承権を獲得していた。それと関係がある?」
二人はそう発言。
エヴァは頷いて、
「ん、シュウヤは<蜘蛛王の微因子>を獲得した。蜘蛛の毒糸を吐けるようになる魔法書?」
「どうだろう。蜘蛛娘アキ的なモノを召喚ってこともありえる……糸繋がりで、ムーが入手して使っている魔界八賢師セデルグオ・セイルが製作したであろう秘術書って線もあるかも知れない」
「マスターの弟子のムーちゃんとは、まだちゃんと話をしてないのよねぇ」
「魔界四九三書とは、また違う印象だし」
レベッカが俺の腰のフィナプルスの夜会と魔軍夜行ノ槍業を見ながら語る。
頷いた。
『沙は皆と同じ意見か?』
『わからぬ、どれも強い魔力を内包している』
「全部保管して、スロザの鑑定屋か、キズユル爺に見てもらう?」
「そうだな。その前に卵魔人、卵怪人のトレビン、こっちに来て宝の解説を頼む」
「……」
トレビンは視線を逸らして耳を見せる。
ふざけているのか?
ヴィーネがすぐに反応。
抜いたガドリセスの切っ先をトレビンに見せていた。
「トレビンというのはお前だろう卵。ガドリセスの鞘で擦って煮るぞ? それともスプリージオが来るまでの時間稼ぎのつもりか?」
ヴィーネが怖い。
トレビンは、ゆで卵にされると思ったのか、
「……そ、そう焦るな、珍しいエルフ……宝の品はすべて把握している。その蜘蛛の巣に囚われている分厚い魔法書は、古代ベイオズマの魔法書。古代の竜言語魔法書だ。見ての通り、ラメラカンセスの呪いが掛かって開けることは不可能。触っても解けることはないだろう」
「へぇ、竜言語魔法とか、高・古代竜のサジハリさんを思い出すけど」
「うん。あ、竜言語魔法ならバルミントにいいかも? 封印もシュウヤなら解けるかも知れないし、サジハリさんなら余裕でしょう。バング婆とかも、こういう呪い的な封印を解くことは得意かも知れない。あと独鈷魔槍もあるし」
「あぁ、たぶんな、解除方法は色々とありそうだ」
「……マジで?」
トレビンは素っ頓狂な声を上げて前に歩く。
肩に乗って大人しくしていた相棒が「ンン」と反応してしまう。
我慢させるように、相棒の目元と頭部を撫でた。
ついでに片耳を引っ張る。
その黒猫はゴロゴロと喉音を響かせてくれた。
レベッカが、
「トレビン、こっちに来て解説しないと、ゆで卵にされて塩を掛けられるわよ?」
「な、なんだと!?」
レベッカが「ふふ」と笑う間に、真に受けたトレビンは後頭部に盥が衝突したようなリアクションを取る。
一々コミカルだ。
ヴィーネ、ユイ、キサラは、そのコミカルさに表情を崩さない。
いや、三人とも微妙に笑いを堪えていた。
が、しっかりとガドリセスと神鬼・霊風の切っ先、ダモアヌンの魔槍の穂先を見せている。
「美味シソウナ、タマゴ小人、魔界セブドラノ者ヲ、コノ魔塔ハ使役ヲ?」
トレビンはミナルザンの言葉を聞いて、理解できたのかは分からないが、更に怯えた。
頭部を震わせると、
「わ、分かった。今そっちに行く――」
と喋りながらトレビンは小走りにこっちに来た。
そして、ミスティの隣に来たトレビン。
そのトレビンに合わせて、ミスティが――。
水天模様の水晶玉が真上に浮く血濡れた魔法書に指を向けた。
「それじゃ、精霊様が反応していた、この水の景色が綺麗で神々しい水晶玉が真上に浮いている血濡れた魔法書のことを教えて」
「せ、精霊様だと……」
「いいから」
「わ、分かった……主が大魔術師ケンダーヴァルの秘密の部屋を開けた際に見つけた。名は水神ノ血封書。主は水神アクレシス様の封印を解こうと【水教団キュレレ】の司祭に見てもらったが封印は解けなかった。そして、この宝物庫の品はどれも触っても平気だ。とくに、その水神ノ血封書は人族系なら体にいいかもな。が、封印が解けて、中身の血濡れた魔法書が露出したら知らないが」
水神ノ血封書か。
その水神アクレシス様の書の解説を聞いて、皆が俺を見る。
「閣下なら、開けることは可能ですね」
「おう。が、開けたあとが問題かな。水神アクレシス様か、水教団キュレレの高位司祭か、水の精霊が、わざわざ封じた書物ということになる」
「うん」
「……」
「お、シュウヤたちは……何者なのだ……」
「わたしは、この魔塔ゲルハットの管理者の眷属の一人。そして、他の物だけど、トレビン、本当に呪いと鍵は掛かっていないのよね」
「蒼炎を纏う金髪エルフ……」
「いいから教えて、トレビン、スプリージオが来たらどうなるか分かる?」
蒼炎が灯る人差し指を凝視したトレビンは数回頷く。
「呪いはないが、そこの紫と銀の箱は鍵が掛かっている」
「小箱は触っても大丈夫よね」
「主が貯めたお金だぞ?」
「あ、うん。さすがに、このお金は大金だから……」
「おう。金はスプリージオが来たら返そうか。が、アイテムはもらう予定だ」
トレビンは特徴的な顔貌のまま俺を見る。
納得はしてないだろう。そのトレビンが、
「……二十面相の聖魔術師としての言葉か」
と語る。
「トレビンは、この白銀の仮面を装着した時にも、二十面相の聖魔術師と語っていたな。この白銀の仮面の名は聖魔術師の仮面なのか?」
「そうだ。弱者を救う聖盗、盗聖などと呼ばれた二十面相の聖魔術師ネヴィル。正式名は、聖魔術師ネヴィルの仮面だ」
へぇ。
「それじゃ次だ。ロシアンブルーの猫の石像が気になる。魔造虎のような暁の時代か、それよりも前の魔道具かな」
「……そ、そうだ……」
「――ンン、にゃ、にゃ、にゃ~」
と、机に下りた黒猫。
ロシアンブルーの猫の石像に、慎重にゆっくりと前足を伸ばしていた。
「アーレイとヒュレミのような兄弟姉妹が増えると思ったのか?」
「にゃおおお」
そうらしい。
早速、ロシアンブルーの猫に手を当てた。
「にゃ」
黒猫も俺の手の甲の上に片足を重ねる。
「一緒に魔力を込めるつもりか?」
「にゃお」
はは、真ん丸いつぶらな瞳が可愛い。
「よし――」
続きは来週!
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