八百二十二話 地下のコア魔霊魂トールン
2021/07/26 21:30 修正
2021/07/27 20:37 修正
2021/07/28 15:11 修正
血文字で皆に結果を簡単に説明。
すると、ミナルザンは部隊章を拾っていた。
キサラが、
「シュウヤ様」
と発言。
蒼い双眸は洞窟的異空間でもあるグンガグルの間から覗く部屋を見る。
「分かった」
キサラは頷いてから、「では」と先に戻った。
キサラは大魔術師ミユ・アケンザが造り上げた魔改造部屋の中を見て、『ここは安全です』という意味があるように頷いていた。
キサラが戻った一見普通の魔改造部屋と、このグンガグルの間との間にはもう結界的なモノはない。
ミナルザンに、
「大魔術師ケンダーヴァルの罠に嵌まったと語ったが、この魔改造部屋のグンガグルの間が罠の名前でいいんだな? 魔塔ゲルハットと繋がった洞窟的異空間に見えるが」
「ソウダ」
「ここも魔塔ゲルハットの範疇なのか?」
「スマヌガ、ソノ魔塔ゲルハットガワカラヌ。一瞬デ、我ラハ、ココニ閉ジ込メラレタノダカラナ」
「では、魔賢長ズゥガを中心に、このグンガグルの間からの脱出の作戦は何通りか考えられていたんだな」
俺がそう聞くと、ミナルザンは蛸と烏賊が融合したような顔をピクリと反応させた。口元の髭的な触手が蠢き、
「……ソウダ」
「大魔術師ケンダーヴァルは時空属性持ち、強力な時空魔法の使い手か」
「ウム。魔賢長ズゥガモ、『ケンダーヴァルノ時空魔法ト、古ノ大魔造書ニ捕ラワレタ』ト、最初ニ語ッテイタ。最初ニ交渉ヲ優先サセテ、悔ヤンデイタノダ」
交渉を優先か。機先を制することは重要だ。
大魔術師ケンダーヴァルは、魔賢長ズゥガが扱う秘宝リギョホルンがそれほど欲しかったということかな。
大魔術師ケンダーヴァルの行動理由が分からないが……。
もし、ゼレナードのような存在なら、危ない存在だ。
大魔術師ミユ・アケンザのことも、今度、大魔術師アキエ・エニグマたちに聞いておかないとな……大魔術師ケイ・マドールでもいいかな。
ヴィーネとアイコンタクトしつつ、ミナルザンを連れてグンガグルの間の外に出た。
大魔術師ミユ・アケンザが造ったらしい一見普通の魔改造部屋。
机の上にあった手記はキサラが回収しようとしたが、俺が回収したんだったな。
右腕の手首に嵌まる戦闘型デバイスの真上にアイコンの一つとして浮かんでいる。
名前は『※大魔術師ミ※手記※※※』と、表紙に複数のタイトルらしき文字が書かれてあったからバグっている?
キサラは魔塔ゲルハットの廊下の先だ。
「ココガ……」
部屋を見ているミナルザンは体が震える。
上半身は人型だ、腹の鎧は裂けている。
新技<雷式・血雷穿>の傷跡が生々しい。
その腹を含めた皮膚に見え隠れする吸盤の模様が変化していた。
「ヴィーネとキサラ、ミナルザンと先に進め」
「はい」
「ミナルザン、言葉は分からないと思いますが、こちらに」
ヴィーネは礼儀正しく御辞儀してから、頭を上げて、腕で廊下の先を差す。
「ススムノダナ、ダークエルフ、光魔ルシヴァルノヴィーネ。少シ皮膚ガ光沢シテイル。位ノタカソウナ魔導貴族ノダークエルフトワカルゾ……」
「もぎゅもぎゅと言われても分からないが、さっさと歩け」
ヴィーネはミナルザンの触手の動きと黄色の瞳の視線が気に食わなかったようだ。
ヴィーネの胸元は魅力的だから仕方ない。
少し困ったような面のヴィーネと視線が合う。
『大丈夫だ』と笑顔を送って顎先で移動を促す。
ヴィーネは頷いて、ミナルザンと一緒に廊下に出た。
三人の移動を見ながら、血文字の続きを行う。
ミスティ、ユイ、エヴァ、レベッカ、カルード、キッシュ、メル、ヴェロニカ、ママニ、フー、サラ、ルシェル、ベリーズなどと血文字メッセージを交換しながら――。
<分泌吸の匂手>の匂いを確認しつつ、ミナルザンの吸盤が廊下の床にくっ付く卑猥な音をBGMに、歩いて進んだ。
一緒に歩くミナルザンから地下世界のことを聞きつつ――。
俺たちの近況を話していった。
【幻瞑暗黒回廊】のことを聞いたら、足が縮んで背が低くなった。
改めてキュイズナーの挙動に驚いた。
そして、<分泌吸の匂手>を頼りに、浮遊岩がある通路を進んでいたが……。
天井、床、壁の模様が近未来風に一気にチェンジ。
足下の床と壁の中を電気的な魔力が流れている。
天井と床は分厚い硝子。
一気に探索スイッチオン。
「シュウヤ様、通路の右側の壁から魔線が奥へと集約していますが、魔線の数が前と違います」
「はい、もう地下のコアは近いです。前と通路の明るさが変化しているのは、ご主人様の行動を魔塔ゲルハットのコアが把握しているのでしょうか」
「管理人たちの幻影も現れては消えています。そうなのでしょう」
キサラとヴィーネがそう発言。
「俺に合わせてか、少し調べよう。皆は、ディアに合わせて風呂に入ったらしい。そのまま寝るようだな」
「ふふ、では、わたしたちはご主人様と一緒ですね」
とヴィーネは俺の左手をゲット。
じんわりと汗を掻いた掌からヴィーネの気持ちは理解した。
「嬉しい、シュウヤ様を独占できます」
キサラは先ほどのキスの続きをしたいようだ。
しかし、ミナルザンがいるからな。
そのミナルザンが、
「……魔塔ゲルハット、異界カ……否、【幻瞑暗黒回廊】ガ近イカラ……」
「びびるな、ミナルザン」
「ワ、ワカッタ」
「きゃ」
前方を歩くキサラが悲鳴。
足下の硝子から魔線が電弧放電を起こしたように宙を走る。
「キサラ、大丈夫か?」
「大丈夫です。試作型魔白滅皇高炉の地下工房にもあった魔線の動きです」
「あぁ、火花だらけに見えるが、幻想的でもある」
「はい」
「やはり、地下のコアがご主人様を歓迎しているようだ」
と先を進む。右側に鋼の扉が見えた。
周囲と比べて魔素を感じない。
特殊な鋼か。
皆で、その鋼の扉がある通路を進む。
すると、半透明な魔女っ子が床から浮き上がった。
続けて、アギトナリラとナリラフリラの管理人たちが出現。
皆、御辞儀してきた。
一方、魔女っ子は、ふらりとした幽霊的な機動で、右側の鋼の扉の内部に吸収されるように消えた。
「「高位魔力層のご主人様♪」」
「管理人たち、右側の扉が地下のコアの魔霊魂トールンがある地下部屋だな?」
「「はい」」
すると、戦闘型デバイスの上に浮かぶアクセルマギナが、
「マスター、共振型メタマテリアル素材が豊富な鋼です。1階のシャッター装置を備えた魔機械よりも、メタマテリアル電波吸収体が強い。縁の穴には、トーラスエネルギーのような魔力防御システムもあります」
「リバースエンジニアリング的に第一世代のレアパーツの素材が使われているとか前に言ってたな」
「はい。オールドセラミックスの技術を融合させたフェノール樹脂的な素材も混じっている鋼。未知の高密度魔鋼の……古いですが、オーセンティックな鋼の扉と推測します」
アクセルマギナがそう分析してくれた。
「サキホドモ驚イタガ、シュウヤノ右腕ニハ、幻獣ガ棲ムノダナ……」
蛸の吸盤が拡がり窄む。
ミナルザンの感情と直結しているようだ。
表情筋よりもこちらのほうが感情を読み取りやすい。
ヘルメと相棒を見たら驚くだろうな。
そんな隻眼キュイズナーのミナルザンから視線を鋼の扉に移す。
鋼の表面を触りつつ、
「表面も綺麗だ。縁のすべてが黒曜石的な鋼か石か? ダマスカス加工の波紋のような模様の鋼に取っ手が黄金と銀色とは、センティアの部屋の扉っぽい」
と言いながら触っていると、その鋼の表面がパカッと割れた。
鋼の一部が湾曲。表面にチョークの粉が造る幻影が出現。
文字が、
『高位魔力層のご主人様、この『メリス魔板』に手を当ててください。すぐに扉が開きます』
と出た。皆に向けて、
「ここに俺が手を当てたら、扉が開くようだ。地下のコアのルームを覗いて行こうか。が、すぐに上に戻る。覗くだけだ」
「「はい」」
その湾曲して出た鋼の表面に手を合わせた。
刹那、鋼の扉が開く。
放電的な魔線が凄まじい。
地下部屋が見えたが、そんなに広くない。
ケージングコロケーションされた部屋の中央に、漆黒の直方体。
オベリスク、地下サーバー的。
ディオニューソスの建築家が造り上げた直方体にも見える。
漆黒の直方体の内部に女性? あれが……。
更に、マクロコスモスとミクロコスモスのような半透明な幻影が直方体の前後に見え隠れ。
その回りで踊る管理人たち。
「あれが、地下のコア魔霊魂トールンか」
「はい……しかし」
「前と違う部屋に思えるぐらいの魔力線と魔力量です」
キサラとヴィーネは驚いている。
宙を行き交う魔線の数が凄まじい。
部屋の内部に入るのを躊躇するぐらいだ。
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