八百四話 魔剣・月華忌憚と黄金の冒険者カード
2021/06/18 22:46 修正
2021/06/19 8:18 修正
2021/06/23 13:59 修正
2021/06/30 17:52 修正
「ングゥゥィィ――」
竜頭金属甲は肩の中に引っ込んだ。
『――器よ。知恵の焔は心地が良い! 同時に神界セウロスの匂いが強まった』
と沙が念話を寄越してきた。
竜頭金属甲が引っ込む理由か。
『知恵の焔とは、黄金の冒険者カードと関係したギルドマスターの<聖刻星印・ギルド長>の儀式の効果が続いているのか』
『大本は、器の神意力を有した<光魔の王笏>のスキルぞ! 元々の種族から<筆頭従者長>へと進化を促すのじゃからな! 神々の因果律を超える行為である。そして、この空中都市は<魔鯛>のようなモノが覆う場所じゃ。たとえ【幻瞑暗黒回廊】が見えていたとしても、式識の息吹が弱いことに変わりはない。であるからして、知恵の焔の効果は限定的であろう』
<神剣・三叉法具サラテン>の沙が説明してくれた。
さすがは神界セウロスから落ちてきただけはある。
神々の残骸を集めるだけが能ではない。
『その言い方だと【幻瞑暗黒回廊】は神界セウロスに通じている?』
『分からん、知っていたら既に伝えている』
『【幻瞑暗黒回廊】は、魔毒の女神ミセア様の眷属のキュルレンスさんが出てきたように、魔界のほうが近いとか?』
『それも分からぬ。【幻瞑暗黒回廊】は、次元世界の傷場が無数に集積しているような不可解な狭間の回廊じゃ』
『そんな不可解な【幻瞑暗黒回廊】を巡る旅では液体世界があった。そして、異世界を内包した巨大な深海魚、巨大な牛のようなモノが液体世界を泳いでいたが、アレをどう思う?』
『魚人たちが暮らしていた異世界か。まったくもって分からぬ。器が前に語った『みちとのそうぐう』と『ふぃふぃす・えれめんと』であるのじゃ!』
思わず笑う。
『要するに不思議で分からないんだな』
『うむ!』
『閣下、焔は怖くないです。でも、外には出ません!』
『おう。ヘルメは左目から見といてくれ、あとで出てもらうかもだが』
『はい』
刹那の間に念話を終えた。
怒濤の勢いで血が迸る。
瞬く間に、俺を基点とする半径数メートルぐらいが光魔ルシヴァルの血の海と化した。
血の波頭は、大きなドーナッツの環を形成するように俺の周囲を巡る。
視界は血に染まるが、鮮明だ。
そして、まだ、血の拡大はしない。
不思議そうに智恵の焔を見ているキッカさんに、一応聞くか。
血を操作――。
口の前方に空気の通る穴を作る。
同時に、
「キッカさん、俺と黄金の冒険者カードを射す智恵の焔とは……」
「<聖刻星印・ギルド長>の儀式の際に出た知恵の焔も強かったですから、神界セウロスの神々が光魔ルシヴァルの宗主のシュウヤ殿に、何かを伝えようとしているのかも知れないです。思念的なモノはありますか?」
「ありません」
キッカさんは不思議そうに頭部を傾けた。
すると、
「冒険者カードの輝きは、わたしたちだけ?」
レベッカが皆に聞いている。
「はい、わたしたち【ギルド請負人】の冒険者カードは輝いていない」
「あ、皆様に神界セウロスの神々から罰が?」
エミアさんがそう発言。
罰か、知恵の焔を受けているからか?
それはないだろうと――。
攪拌される水の如く回る血の流れを遅くした。
黄金の冒険者カードの動きもゆっくりとなる。
その周りを巡る血の流れは……。
パレデスの鏡から外れて俺の頭部付近を回る二十四面体的だった。
そして、
「智恵の焔を引き寄せる黄金のギルドカードにも驚きだが、シュウヤ殿の出血量も多い」
「……キッカの第三関門、いや、<血道第三・開門>だったか。月華忌憚の剣技の際に放出する血の量を超えている……」
「シュウヤ殿は平気なようだが……そして、<聖刻星印・ギルド長>の儀式は何度も行いましたが、皆様の黄金の冒険者カードと、その体に智恵の焔が当たって宿る現象は初めて見ます」
「ギルマスの<聖刻星印・ギルド長>の効果と関係があるんだろうか……もしや」
ドミタスさんは何かを知っている?
それ以外の方は初めて見たようだ。
しかし、スキルの獲得もないし、神々からの思念もない。
が、智恵の焔の効果で体が温かい。
そして、沙も伝えてきたように、ここは塔烈中立都市セナアプアだからな。
そんな思考と皆の言葉が周囲に響く間にも――。
血のトーラスの外の縁にはフォースフィールドでもあるのか、閉曲線の壁でもあるかのように血が衝突を繰り返しては、閉曲線の中に螺旋でも描くように俺のほうへと返ってきた。
そんなドーナッツ状の血の世界を巡るのは俺の黄金の冒険者カード。
その黄金の冒険者カードは智恵の焔を吸収しては輝きを強めていた。
が、キッカさんを<筆頭従者長>に迎えるための<光魔の王笏>の中断はしない。
その、俺の血をまだ受けていないキッカさんが、
「皆、安心しろ。シュウヤ殿にも語ったが、先ほどの<聖刻星印・ギルド長>の影響もあるはずだ。そして、この知恵の焔のような現象は秩序の神オリミール様と知恵の神イリアス様の恩寵の一種だろう」
仲間たちに向けてそう発言。
【ギルド請負人】の方々は、
「分かった。冒険者カードの変化なら分かるが、シュウヤ殿たちに智恵の焔が降り注ぐのは初めて見る現象だからな、つい……」
「了解した」
「大丈夫そうね」
「……」
白髪のドミタスさんは無言のままだ。
厳しい顔付きで、エジプト座りの黒猫と見つめ合っている。
エジプト座りの黒猫の周りを智恵の焔が囲っているからだろう。
そんな黒猫さんだが、智恵の焔に気付いているはずだが、ドミタスさんに頭部を向けたままだ。
ドミタスさんに向けて、瞼を閉じて開くコミュニケーションを行っているようだ。
ドミタスのおっさんは動じていない。
猫が行う、瞼をゆっくり閉じてゆっくり開くといった親愛を意味するコミュニケーション方法は、知らないだろうからな。
ま、あれはあれで面白い。
すると、レベッカが、
「ギルドの方々、安心して。わたしは知恵の焔を浴びても平気。皆も同じよね?」
「ん、大丈夫」
「はい。温かくぽかぽかです。スキルの獲得は今のところありません」
「ふふ、ヴィーネの笑顔が綺麗です。そして、この知恵の焔? はスキルの獲得がなくとも、キッカさんが語ったように、一種の神々の恩寵なのでしょう」
「はい、光魔ルシヴァルのわたしたちのことを歓迎しているような気もします」
「しかし、光魔ルシヴァルの<筆頭従者長>を誕生させる儀式に干渉するような智恵の焔、この冒険者カードとわたしたちの体に降り注ぐ神意力は、初めて見る現象ですから不安を覚えます」
「わたしは不安はない。あ、キサラ、ダモアヌンの魔槍が?」
「はい、ダモアヌンの魔槍が少し怖がるように震えてしまって……」
「初めて見る現象! 穂先の形が縮んでる?」
「ん、キサラ、大丈夫?」
「羨ましい……」
目を細めたレベッカはキサラの胸を目で指摘。
同時に皆がキサラの胸を注視。
キサラは恥ずかしそうに片手で胸を隠す。
その仕種が色っぽいキサラが、
「姫魔鬼武装は光魔ルシヴァルとして進化していますから大丈夫です」
「ん!」
「……へぇ」
レベッカはエヴァ、ヴィーネ、ビーサ、ミスティと見て、表情を暗くしていた。
『閣下、キサラのおっぱいが凄い!』
俺の言葉を奪うなヘルメさん。
とは思念で伝えない。
『あぁ、ダイナミクス・グレート・ワッフルラブ・オッパイ』
『閣下、オッパイクロマティではないのですね』
『はは、おうよ』
そんなフザケタ念話の中、気を取り直していたレベッカが、
「――ゼクスの光の剣が黄金の冒険者カードと同じように輝いてる!」
鋭い言葉を放つ。
一瞬、ビクッと反応してしまったがな。
「ん、聖十字金属の光剣の切れ味が増す?」
「そうかも――」
ミスティは素早く羽根ペンを腰から引き抜く。その所作で、ユイの居合い術を想起した。
メモ用紙的な羊皮紙にゼクスの変化と俺たちのことを書きまくっていると分かる。
さて、血を操作するかと思ったところで、
血の世界を連れるように歩いた。半径数メートルの血の空間も付いてくる。
その血の中を漂流していた黄金の冒険者カードも当然一緒だ。
俺の体を温めていた知恵の焔を吸収し続けていた黄金の冒険者カードが輝きを強めると知恵の焔は消えた。智恵の焔を吸収した黄金の冒険者カードが気になる。
――が、血の海の中を潜航するように――。
爪先回転と爪先半回転を行ってキッカさんに近付いた。
キッカさんは瞬き。
「凄い武術の歩法! 先ほどの<刺突>といい、わたしたちを救った時の自らを魔槍使いだと仰っていた意味を理解しました。風槍流が大本なのですね」
さすがは冒険者ギルドマスター。
それでいて、ヴァンパイアハーフ。
永く生きた武人でもある。一瞬で、俺の歩法を見抜いた。
自然と武術を知るキッカ・マヨハルトさんの実力を確かめたくなった。
「シュウヤ殿の視線が凄みを帯びたが……なにか気になることでも?」
そう語るキッカさんに、まだ、俺の血の吸収はさせない。
再び血を操作して空気の通る穴を造る。
「あぁ、手合わせしたくなった。が、それは今度。で、キッカさん。念のため、俺の血に触れてみてくれ」
「はい――」
キッカさんは前方から迫る俺の血に手を伸ばして指が血に触れる。
キッカさんの手と腕を這う俺の血はすぐに消えた。
いや、キッカさんが俺の血を吸い取ったのか。
キッカさんは恍惚とした表情へと変化。
目尻と頬にかけて無数の血管が浮かんでいた。犬歯も伸びていた。
吸血鬼顔だ。
同時に、俺の血を吸い取った指先を――。
自らの唇に当てて体を震わせていた。
「――アァ、凄い。シュウヤ殿の濃厚な<血魔力>を感じてしまった……」
「血の拒否反応はないようだな?」
「――ぁん! こ、声だけで……もっと、わたしに、血をお分けください……ァァ」
違った意味で心配になった。
が、色っぽいキッカさんに、
「続けるぞ――」
と言うと、キッカさんは体を震わせる。
その一瞬で光魔ルシヴァルの大量の血がキッカさんを飲み込んだ。
キッカさんは背筋を伸ばして、全身をビクッビクッと連続的に震わせる。
そして、体が一気に弛緩。
が、すぐに体が硬直して、意識を取り戻すキッカさんは、とろんとした目付きで、妖艶さを醸し出して俺を見つめてくる。双眸は充血中だ。
が、すぐに瞳は黒さを取り戻す。
その黒い眼で俺を凝視するキッカさん。
<魅了の魔眼>が強まった印象を受けた。
――刹那。
視界が歪んで反転。
ぐわりぐわりと酔う――。
不可思議な感覚を受けた。
魔眼の影響ってわけではないと思うが――。
すると――。
なんだ? 小さい、子供の視界か?
続いて、大人の男性の魔剣師らしき存在が片腕を犠牲にして女性を守る場面が映る。
切断されて宙に舞う片腕を気にしない男性の魔剣師。
体に<血魔力>を纏うと速やかに前進を行う。
<血液加速>系だろう。
鋭い踏み込みから血の滴る魔剣を振るった。
――あの高度な剣技は分からない。
が、武器は魔剣・月華忌憚だと分かる。
男性の手を斬った相手の首を刎ねていた。
子供は「うあぁぁぁぁ」と泣きながら、敵を倒した男性と傍にいる女性のもとに寄る。
男性は笑顔を浮かべる。
そして、宙に浮かばせていた鞘の中に魔剣・月華忌憚をさっと納めていた。
同時に自身の切断されていた片腕を引き寄せる。
切断面と、その片腕をくっ付けていた。
子供の視界は、その魔剣師の男性の衣服の布模様だ。
背中に武骨な手の感触があった。
強い男性が、その子供と女性を抱きしめたと分かる。
子供の温かい心が伝わってきた。
これはキッカさんの幼い頃か。
その刹那、視界が変わる。
成長したキッカさんの視界かな。
――腕が四本、猫獣人の魔剣師との戦いか。互いに斬られて傷だらけ、が、一瞬で傷は回復。
猫獣人にも吸血鬼がいるのか。
キッカさんが何かを叫び、吶喊。
凄まじい気迫。
が、キッカさんは半身を斬られてしまう。
吹き飛んで倒れる。
負けたのか?
視界は薄暗くなって、違う場面となった。
段々と視界が狭まる。
同時に、ヴァンパイアハーフとして永く生きたキッカさんの経験が走馬灯のように血の視界に浮かぶと、空間ごと意識を背後へと何かに引き戻されるような不可思議な感覚を受けた刹那――。
視界は元通り。
この感覚には慣れそうもない。
そして、キッカさんは朧気な表情のままだ。
俺の血を取り込むたびに、体が震えて、恍惚的な表情となっていた。
あ、キッカさんも俺の記憶を見ていたのだろうか。
そのキッカさんの小さい唇が震えると、
『シュウヤ殿……』
そんな切なそうなキッカさんの念話が響いてきた。
刹那、キッカさんの黒色と血色の瞳に力が戻る。
今の現象は互いの<血魔力>の相乗効果か。
今まで浮いているような体勢だったキッカさんは体の感覚を掴んだのか血の中で立ち泳ぎを始めていた。
が、俄に慌てふためく。
<血魔力>を放出した。
そのキッカさんの口元から空気の泡が漏れる。
まだ慣れないようだな。
苦しそうだ。
キッカさんを安心させようと『大丈夫ですか』という意味を込めて唇を動かした。
キッカさんは目を見開く。
胸元に両手を当てて落ち着いた素振りを見せる。
次第に落ち着いたのか。
笑みを浮かべてくれた。
華がある仕種のキッカさん。
魅了されると、キッカさんの剣帯の金具が外れた。
鞘ごと魔剣・月華忌憚が血の世界へと漂流を始めると、血の渦を鞘の周りに幾つも作り、銀色と銅色の鞘が強い光を帯びた。
柄の黒い龍の模様も煌めく。
その月華忌憚を納めている鞘から幻影の極彩色のアマリリスのような血の華が出現しては消えた。
鞘が綺麗な月華忌憚はキッカさんと俺の<血魔力>を吸収している?
キッカさんは驚いて空気の泡を連続的に吐いた。
月華忌憚はキッカさんの周囲を右回り。
黄金の冒険者カードは左回り。
魔剣と黄金の冒険者カードは恒星を回る衛星のように見えた。
その月華忌憚は、自動的に鞘から抜けると、血の滴る剣身の地がパカッと分かれた。
その分かれた剣と剣の間には無数の太い筋肉組織がある。更に柄に近い側に眼球があった。
月華忌憚は生きた魔剣なのか?
剣と剣を結ぶ筋肉組織と眼球が、俺とキッカさんの<血魔力>を吸収するごとに、心臓の鼓動を響かせつつ呼吸的に蠢いた。
すると、目玉が閉じる。
歯茎的な筋肉組織は収斂。
割れたような剣と剣の間は一瞬で閉じられた。
剣身から血が滴る元の月華忌憚に戻り、鞘に納まる。
魔剣・月華忌憚が進化した?
今の光景は皆も見ている。
当然、血の世界の外から、
「……魔剣・月華忌憚が!」
「キッカ! 魔剣に眼球があったけど、大丈夫なの!?」
「実は生きている魔剣が月華忌憚だったの?」
「あんな動きは初めて見ます……」
「……」
【ギルド請負人】たちも驚いているが、キッカさんも唖然としていた。
「魔剣のことは置いといて、両方とも苦しそうだ。<筆頭従者長>化にはリスクが?」
冒険者ギルドの面々は不安がる。
すると、ヴィーネが、
「――皆さん、ご安心を。魔剣と眷属化の現象に興味があるのは分かりますが、もう<筆頭従者長>の血の儀式は始まっているのです。ご主人様とキッカさんから、少し距離を取りましょう」
そう発言。
エミアさん、サンさん、ハカさん、ドミタスさんは視線を巡らせる。
血の海の中にいるキッカさんを凝視。
すると、鎧がボロボロのハカさんが、
「しかし……キッカは凄く苦しそうだ」
「はい。シュウヤ殿も時折笑顔を見せているが、痛みを我慢するような表情を浮かべていることもある。本当に、あの血の激流の中にいる二人は……大丈夫なのか?」
と発言すると、キッカさんは、
『大丈夫だ!』
と力強い表情を浮かべて、腕を下から上に振るう。
ヴィーネの指示に従えと仲間に指示を出す。
ギルドの面々は、
「「はい」」
と返事をしてから数歩後退、その後退の仕方が切ない。
ギルマスのキッカ・マヨハルトさんが【ギルド請負人】たちにとっていかに大切な存在なのか理解できる。
同時に責任を感じた。
そして、仲間たちの体に降り注いでいた知恵の焔は、俺と同じように各自が持つ黄金の冒険者カードに集約したようだ。
皆の体から知恵の焔は消えていた。
その代わり、皆の冒険者カードは輝きを強めていた。
更に黄金の冒険者カードから魔法の文字が浮かぶ。
が、蛍火の如く消えた。
消えた魔法の文字は魔印?
神印かも知れない。
レベッカは黄金の冒険者カードを不思議そうに見る。
隣のエヴァと視線を合わせて、互いに頷いた。
エヴァは見上げて、
「ん、智恵の焔は消えちゃった」
「うん。空から降りてきた知恵の焔と連動していたようね」
「そのようです。黄金の冒険者カードに新しいマークが刻まれました」
「あ、本当です!」
「凄い、一瞬でこんな芸術家が何年もかけて施したような模様を……<魔金細工師>でも不可能よ。でも、知恵の焔ってことは、この冒険者カードは秩序の神オリミール様だけのものかと思ったけど、知恵の神イリアス様も関係があるってことよね」
「智恵の神イリアス様は、知恵が高い生物ならば、どんな存在であろうとも愛でると聞いたことがあります。それにしても、表と裏、どれも複雑な模様です……」
「わたしのカードにも!」
「うん。ディアの銀色の冒険者カードには、ルシヴァルの紋章樹はないけど、センティアの手のようなマークがある。シュウヤとの繋がりを示すのかな」
「はい、お兄様との繋がり……」
ディアは嬉しそうだ。
すると、
「新しい黄金の冒険者カードはランクはAのままだけど、薄らとΩの魔法の文字もある。意味は、秩序の神オリミール様と知恵の神イリアス様?」
レベッカが依然と輝きを放つ黄金の冒険者カードを掲げる。
エミアさんたちに見せていた。
驚いているエミアさんたち。
「……先ほどと同じく、未知の現象です」
「はい、黄金の冒険者カードの模様の変化とは……知らないぞ」
「<筆頭従者長>化と連動した神々が起こしたレアな神意現象か……」
「なら、一種の冒険者カードの進化?」
「凄い……ギルド史に残る。秩序の神オリミール様が、聖ギルド連盟の聖刻印バスターのような存在として認知した? 新しいランクの誕生?」
「それはどうだろう。聖ギルド連盟の秘鍵書や聖刻星印の書にも書いていないと思う」
「……賢者ソーシス様が、ギルドカードの進化について仰っていたような気がする」
「「え?」」
ドミタスさんの発言を聞いた皆が驚いていた。
エヴァたちは、
「ん、カードの上のほうにあるマークはルシヴァルの紋章樹?」
「わたしのマークは……」
するとレベッカが、
「シュウヤ、この際だから、皆さんに光魔ルシヴァルのことを喋っていい?」
と聞いてきたから、頷いて、親指でOKサインを送る。
レベッカも頷いて、親指で『バッチグー』。親指の真上に蒼炎で描いた親指が浮いている。
綺麗だ。
同時に、蒼炎を全身に纏っていた。
そのレベッカは神妙な顔付きで、
「冒険者ギルドの皆さん。シュウヤ、ううん、わたしたちの宗主様は眷属を作る時、大量の血と精神力と魔力を失うの。同時に、内臓と体のすべてに、わたしたちが想像もできないぐらいの激痛が走る……」
「ん、眷属となるキッカさんも、シュウヤの血を吸収しているから、体中が痛いはず。ヴァンパイアハーフだから違うかも知れないけど、カットマギーも痛かったようだから、たぶん痛いはず。あと<筆頭従者長>だから、痛みは強まると思う」
レベッカとエヴァが説明してくれた。
神妙な表情の皆は頷いた。
冒険者ギルドの【ギルド請負人】たちは、
「そうなのですね……皆さんも同じ経験を」
「はい」
「エヴァの言う通り、<筆頭従者長>ですから」
キサラの言葉に自然と頷いた。
「種族の進化だからね、ま、痛いってもんじゃなかったけど、今は――」
ミスティはメモ用紙に文字を書きまくっている。
<筆頭従者長>の眷属化と神界セウロスの神々の干渉は興味深いか。
すると、ヴィーネが<血魔力>を体から放出。俺とアイコンタクトしてから、皆に向けて、
「皆、キッカの<筆頭従者長>化は終わっていないのだ。今は見守りましょう!」
「「了解」」
さて、キッカさんに集中だ。
キッカさんの心臓の位置は、もう閃光を放っている。
その胸を中心にして全身に光の筋が発生していた。衣服を着たままだが、不思議とX線で見ているようにキッカさんの全身は透けている。
同時に<血魔力>を強めた。
脳幹が不思議と熱くなる。
キッカさんに<血魔力>を送り込む。
と、陽が射した。
血の海とキッカさんの体の部位を不思議な色合いで照らす。
俺の<血魔力>を凄まじい勢いで吸収しているキッカさんの体から光の渦が発生。
闇の血と光の血が混ざり合う。
まさに<光闇の奔流>。
その血の海の中を悠々と泳ぐ血妖精ルッシーと鴉たち。
やや遅れて戦旗のような布切れが発生していた。
その戦旗の上でもルッシーは踊る。
水鴉もいた。
あ、鴉の一部は夜王の傘セイヴァルトの生地の表面にある模様と同じか。
漆黒の槍にも変化が可能な<夜王鴉旗槍ウィセス>の鴉たちかな。
更に、宙を行き交う黄金の冒険者カードと魔剣・月華忌憚が激しく交差。
バチバチと火花が散る。
神界セウロスと魔界セブドラの代理戦争?
鞘から魔剣・月華忌憚の剣身が抜けた。
魔剣・月華忌憚は黄金の冒険者カードを斬ろうとするように向かう。
が、黄金の冒険者カードが閃光を放つ。
閃光を受けた魔剣・月華忌憚は跳ねて後退。
魔剣・月華忌憚は怒ったように地が裂けつつ筋肉組織が弾けると、剣が割れた。
先ほどと同じく刃が分割したようにも見える。
刃と刃の間に点在する筋肉は無数。
大腿四頭筋か、大腿二頭筋か。
そんな筋肉に挟まれる形で存在する眼球は、俺とキッカさんを凝視。
『うぬらの<血魔力>はブラッドマジックとしてたらふく受け取ったが、その神界セウロスのアイテムは気に食わヌ……』
まさか、思念を伝えてくるとは。
キッカさんは表情が虚ろで、魔剣・月華忌憚に答えられる状況ではない。
続きは明日を予定。
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