七百七十話 神遺物と回収とセナアプアへの空旅
相棒の頭部を撫でて、耳を引っ張りコミュニケーションを終えた。
立ち上がりつつ――。
笑顔が可愛いヘルメに、
「ヘルメ、霊槍ハヴィスを手に入れた時――」
『神界と魔界の能力を持つ者よ、故あって、王氷墓葎……の一欠片となっていた我は……嬉しく思う……。そして、神魔の力を有する者よ……見事な戦いであった。魔界の気質もあるソナタではあるが……神遺物を操ることができるソナタに、この霊王チリムも愛用した……霊槍ハヴィスを託す』
「と、微かな思念を寄越してきたんだ」
「光る天道虫たちが、霊槍に集結していた時ですね」
ヘルメは俺の挙動に合わせる鬼の仮面をチラッと見る。
鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を凝視している鬼の仮面のナナシ。
ぼあぼあと墨色の魔力を出しては仕舞う。
相棒も気になるようでジッと見ているが、珍しく戯れない。
そのことは指摘せず、
「そうだ」
「では、王氷墓葎の魔法書は、聖戦士の魂の欠片を無数に内包している神遺物と言うことに……」
「べファリッツ大帝国が繁栄していた時期が聖戦士が多かった年代なんだと思うが、聖戦士の連盟者と呼ばれたイギルと名が付く存在は、時代をまたいで複数いたってことだろう。そして、あの戦っていた幽体エルフたちが、たぶんその聖戦士たちなんだと思う」
「はい。光属性の戦士たち。ボン君が釣り上げた〝『イギルの歌』の断章〟と、聖戦士の連盟者でもあるイギル・デスハートの紙片にも通じる。キストリンとキッシュの祖先、一族のハーデルレンデも……サイデイルには異獣ドミネーターもいます」
エブエも似たようなもんだな。
「大柄の魔族のガセイコズの眷属は、霊王チリム、アーソロス・フォルトナー、イギル・フォルトナー、イギル、<光の使徒>と叫んでいた」
「はい、聞いていました。そのガセイコズの眷属は最後に人に近い魔族に変身を、あ、もしかして、王氷墓葎の魔法書には、魔界セブドラの魂の欠片も……」
「そうかも知れないな。<神剣・三叉法具サラテン>たちが指摘していたが、たぶんそうなんだろう」
天道虫が壁に触れて、壁が消えて封印が外れた時、大柄の魔族の幻影が現れた。
その姿は、今倒したばかりの、ガセイコズの眷属の姿と似ていたからな。
その倒したガセイコズの眷属が実体だったってことは……。
ガセイコズの眷属は、数千年か、もっとか? 分からないが……。
ずっと、あの巨大なオベリスクの中に封じていた霊槍ハヴィスを見張っていたのだろうか。
ガモルザク様の封印とも叫んでいたから、ガセイコズ以外にも、複数の諸侯が封じなければいけないほどの神界の槍が霊槍ハヴィスってことかな。
相当な代物。
神槍ガンジスと似たような歴史があるってことかも知れない。
「思えば、狭間が薄い地底湖のある空間です。すべてが繋がります」
「たしかに……」
ヘルメの言葉に頷きつつ地底湖を見る。
小島と石橋といい……本当に幻想的な地底空間だ。
天井の銀光を発している鉱脈も美しい。
あ、あの鉱物、貴重な素材になるかも知れない。
帰る前に一部を回収しとこうか。
崩壊したオベリスク付近から離れて、地底湖を見ていると、ヘルメが、
「王氷墓葎の魔法書にも宿っているだろう精霊ちゃんのような天道虫たちの一部が、霊槍に集結していましたが……」
ヘルメの顔には霊槍ハヴィスをもう一度見たいって書いてある。
頷いた。
戦闘型デバイスの上に霊槍ハヴィスのアイコンが浮かんでいる。
アイコンが既にカッコいい。
ホログラムのアクセルマギナとガードナーマリオルスが、それぞれ霊槍ハヴィスのアイコンをさしていた。
可愛い人工知能たちだと思いつつ――。
ヘルメの要望通り――。
霊槍ハヴィスを取り出した。
微かな金属音と羽根の音――。
そして、霊槍ハヴィスの穂先を凝視――。
光の刃が綺麗だ。
天道虫の羽根の音が微かに響く。
「ヘルメには、この霊槍ハヴィスはどのように見える?」
「光の精霊ちゃんと水の精霊ちゃんが無数に集合しているとは分かりますが、元々の中心にある金属の効果なのか、闇蒼霊手ヴェニューちゃんのような姿は見えません」
「そっか」
なぜか、少し安心。
あの七福神のような格好をした闇蒼霊手ヴェニューたちの付喪神の百鬼夜行的な行進は不思議すぎるからな。
「神槍ガンジスと同じく、神話級は確実」
「禿げの渋い店主もビックリするだろう」
「ふふ、光の精霊ちゃんや水の大眷属たちの一部を内包しているのなら、それに見合う光の必殺技がありそうです」
「光槍技術系統の<光穿・雷不>のような光槍奥義はありそうだな。武器固有って線が濃厚だが」
「はい。しかし、サキアグルの店主は……どれほどの品物を売り物にしていたのでしょう。無名無礼の魔槍は皇級の無属性の魔法書でしたし。レベッカが前に買ったと言っていた大海賊キャットシー・デズモンドが秘宝を隠したという魔法地図も、きっと凄いお宝を隠した地図に違いないと思えます」
「期待はできるが、解読できるスキルがない」
「あ、そうでした」
「が、そう残念がるのは早いぞ?」
と、<導想魔手>を生成。
「えっと?」
「――にゃ?」
相棒は勘違いして、<導想魔手>に前足を乗せた。
「いいお手だ――」
と、アイテムボックスの食材袋からロロディーヌ用の餌を素早く出した。
期待の眼差しが可愛い相棒ちゃんに餌をプレゼント。
<導想魔手>の上に餌をのせると「にゃおぉ~」と鳴きながら、餌にがっついて食べ出した。
「ロロ様の餌が、キャットシーなだけに?」
「違う違う」
笑いつつ、
「ペレランドラとその伝。上院評議員の情報網と伝は伊達ではないはずだ」
「あ、商売網とリツとナミの組織もありますし……そう考えると、ネドー側に勝利した影響は計り知れないことになりそうです」
前にヘルメ自身が予想していた展開もありえるだろうな。
頷きつつ、
「マコトも上界、下界問わず、色々と顔が広いだろう。クナにびびっていたから、何か弱みをクナは握っているかも知れない」
「はい、魔塔ゲルハットの内部は広いですから、マコトを身内に引き込みますか?」
「いや、それはどうだろうか。必ずしも、俺たちと同じ目的や戦略では動いていないだろうからな。俺たちに知られたくないこともあるだろう」
「ふふ、ちゅうようの心意気ですね。閣下らしい言葉です」
「おう。中庸を覚えていたか」
「はい」
「ンンン」
霊槍ハヴィスを仕舞う。
「ロロ、お代わりは今度な――」
――跳躍しつつ宙空に<導想魔手>を作り直す。
相棒は地面の岩場に着地していた。
「閣下、帰還ですか――」
「おう。その前にあそこの鉱脈の一部をもらっとく、崩壊しない程度にな。<神剣・三叉法具サラテン>!」
『ウハハハッ! って、使うのが、おそいんじゃ~』
文句を言いながら、地底湖を楽し気にサーフィンする沙。
俺は右手に召喚した鋼の柄巻を握った。
その鋼の柄巻に素早く魔力を送り、
『沙、楽しんでからでいいから、神々の残骸を見つけたら突き刺さっておけ』
『了解ぞ、器!』
念話の途中でムラサメブレード・改が起動――。
ブゥゥゥゥンッ――。
鋼の柄巻の放射口から青緑色のブレードが放出。
そのまま青緑色のブレードを伴いつつ<導想魔手>の上を滑るように<水車剣>を発動――。
天井で神々しく輝く銀色の鉱脈を斬った。
そして、鋼の柄巻の〝血の水滴〟のボタンを押す。
<飛剣・血霧渦>――。
天井の金属を溶かす勢いで銀光を発する鉱脈を斬り刻んだ。
その細かくした銀光を発しているイリジウム、インジウムと似た金属素材を素早く回収。
俺の知る地球では、インジウム化合物は『特定第2種物質』で危険な部類。
ミスティとエヴァは大丈夫だろうが、どんな金属か分からない。
なんせ狭間が薄い場所の鉱脈だ。
さて、沙は――。
右のほうのデボンチッチの巨石に突き刺さっていた。
よしよし、神々の残骸を見つけたようだ。
「ロロとヘルメ、右に行こう。あの神々の残骸を回収して帰還だ」
「はい!」
「にゃぉぉ」
『グヌヌ――』
<導想魔手>を蹴りつつ宙空で――。
右手のムラサメブレード・改を仕舞う。
デボンチッチの巨石に突き刺さる<神剣・三叉法具サラテン>の神剣を掴む――。
素早く、その<神剣・三叉法具サラテン>の神剣に魔力を送りつつ引き抜いた。
『アン――』
沙の柄巻にはしっとり感がある。
感じているとこ悪いが――。
その恍惚としていそうな<神剣・三叉法具サラテン>を振るい回した。
デボンチッチの化石に弧を描くように<神剣・三叉法具サラテン>を回しデボンチッチの化石を斬った。
素早く神々の残骸を回収――。
「よーし、完了~。皆、帰るぞ」
「にゃ~」
「閣下――」
ヘルメを左目に格納。
同時に相棒の触手が俺の腰に絡まった。
その神獣ロロディーヌは、そのまま地底湖を低空飛行――。
地底湖から水飛沫が上がる――。
神獣ロロディーヌは、凍り付いている蟲鮫系のモンスターを吹き飛ばして、入ってきた洞穴を右折――素早く来た道を戻った。
あっという間に出入り口が見えた。
美瑛のような湖が見える。
夜間でも不思議な光を放っている。
そのまま外に出るや、龍のように上昇――。
凍り付いていた滝を派手に壊しては、急流の滝の水が降りかかった。
「――ヒャッハー!」
「にゃごおおお~」
ま、いっか。
滝行の心意気――。
そのまま上昇したロロディーヌ。
一瞬で、もうバルドーク山の一部が眼下だ。
樹海から続く森という森。
キャンプ地らしきところもある。
蟻や竜と戦う冒険者たちか。
皆、がんばれ――。
「相棒とヘルメ、寄り道はなし。塔烈中立都市セナアプアに帰還しよう。女子たちの買い物はもうとっくに終わっていると思うが」
「ンンン――」
『はい、もう夜です――』
続きは来週。
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