七百六十九話 ガセイコズの眷属と激闘と霊槍ハヴィス
2021/04/21 17:39 修正
その巨大オベリスクと大柄の魔族を見据えつつ……。
魔槍杖バルドークの柄を握る右手を下げた。
嵐雲の穂先をやや引かせて、無名無礼の魔槍の柄を握る左手を少し前に出して、大笹穂槍と似た穂先を大柄の魔族に向ける。イモリザの指を意識。指の形態から黄金芋虫になっては素早く第三の腕の起点となりえる右肘に移動して、肉肢に早変わり。そのまま二槍流の構えを取って、大柄の魔族に、
「……連盟者? 知らないな」
俺の言葉を聞いた大柄の魔族は睨みを強める。
逃げていたエルフの天道虫は巨大なオベリスクに入る。
「フォルトナー! アァ! ガモルザク様の封印ヲ!!!」
大柄の魔族の言葉だ。ニュアンスから『しまった』的な印象を受けた。
巨大オベリスクは光を強めた。
光る巨大オベリスクの中にある槍が、オベリスクの表面に浮かび上がってきた。大柄の魔族は、その光景を見て、体を震わせる。鬼のような面に魔力の血管が浮かぶと、
「ヌォォォォォォォ――」
怒りの声を発した大柄の魔族。
顔に浮かんだ魔力の血管がビキビキと音を立てて破裂。
更に、大剣を巨大オベリスクに振るった。
巨大オベリスクと表面に浮かぶ槍は抵抗を示すように、光の天道虫の幻影を発して反応。
槍と巨大オベリスクの表面にルーン文字のような光る魔印が浮かぶと、槍と巨大オベリスクから光の防御膜が発生。その光の防御膜が魔族が振るった大剣を防いだ。
「ヌグォ!? ナンテコトダ、イギルガァ、光ト水ガァァ……我ラ、ガ、封ジタ霊槍……霊槍ハヴィス、ガ……」霊槍ハヴィス? その大柄の魔族は俺に鬼のような面を見せて、
「グアァ、聖戦士! オマエ、霊王チリム! オマエ、イギル! オマエ、アーソロス・フォルトナー! オマエ、イギル・フォルトナー! オマエ、イギル、ノ、クソドモ!! オマエ、<光ノ使徒>!! 滅スル――」と大柄の魔族は混乱したように発狂。
下半身のナメクジから三角形の魔弾を飛ばしてきた。
「閣下――」
「にゃご――」
ヘルメの《水幕》が拡がる。その《水幕》を三角形の魔弾はぶち抜いてきたが素早く<超能力精神>――。
<超能力精神>で三角形の魔弾を潰さない。
捻るように、重い三角形の魔弾を跳ね返す。下半身のナメクジに送り返した。
大柄の魔族のタセットのような防具触手とナメクジの下半身に激しく衝突すると、溶けて風孔が空いた。
孔から白い血が迸る。そこに相棒の炎が大柄の魔族を捕らえた。
「――グアァヌア!?」
神獣ロロディーヌの炎を全身に浴びながらも、体が溶けない大柄の魔族。
自身のアシンメトリーの角を振動させつつ防御魔法を展開しているようだが、それでも相棒の炎を完全に防げてはいないか、燃焼を止めることに成功した大柄の魔族は、巨大オベリスクから離れて、近くの地底湖に着水――地底湖は濁りを強めて渦が発生。
湖面の渦からは蒸発するような音が立つ。
地底湖の水位が下がった直後、巨大オベリスクの光の膜が消えた。巨大オベリスクに罅が入ると巨大オベリスクから外に幽体のエルフたちが外に弾き出されるように放出されては、小さい天道虫に変身し、宙空で力尽きたように消失していく。
その間に高級魔力回復ポーションを飲んでから――。
王級:水属性の《王氷墓葎》を発動――。
大柄の魔族は地底湖から吸い上げた水を目の前に幾重にも放出しつつ後退。大柄魔族を追い掛けるように地底湖の水が瞬く間に凍り付く。逃げる大柄の魔族は体の修復をしたようだが、その体の一部が凍り付くと動きが鈍くなる。その大柄の魔族に《王氷墓葎》の墓石のような氷の塊が派手に衝突した。大柄の魔族の体が破壊される――否、下半身が粉々に砕けたが上半身は無事だった。
頭部のアシンメトリーの角がキラキラと輝きを発している。防御魔法か?
魔法のレジスト効果を高めたか。生きていた。
その大柄の魔族は下半身から白い液体を垂れ流しつつ急上昇すると、下半身が触手の群れと化した。そして一回転。
キショイ触手の下半身を天井に付着させた。
大柄の魔族は逆さまの姿勢となる。
俺を凝視しつつ――。
大剣の切っ先を向けて、
「光ダケデハナイノカ!? コレホドニ、水神アクレシスニ愛サレタ魔法力ヲユウスルトハ……【水教団キュレレ】ノ秘術騎士デモアルノカ?」
あの角といい、タフだな。
<光条の鎖槍>を牽制に使うとして、弱点という弱点もなさそうだ。
心臓部があるなら直に叩くか。
奥義系統で仕留めるとして……。
「どっかで聞いたことがあるが、知らねぇよ。ただの槍の愛好家だ。相棒、ヘルメ、出るぞ――」
「はい、直に叩くのですね」
「にゃごァ」
「おう――」
<光条の鎖槍>――。
同時に<導想魔手>を発動しつつ、小島の岩場を駆けた。
突き出た岩を蹴って跳躍。
大柄の魔族との間合いを斜め下から詰めた。
斜め上に直進していた<光条の鎖槍>は、天井付近から自然落下中の大柄の魔族が振るった大剣で切断された。
ま、通じないだろうとは思っていた――。
大柄の魔族には、まだ推進力がある。
大柄の魔族は旋回しつつハンマーの左腕を振るい回してきた。
ハンマーの左腕の肩の槍を伸ばす。
槍は蛇腹のように弧を描くとしなりつつ、俺に迫る。
が、その槍穂先は止まった。
ヘルメの<珠瑠の花>が、大柄の魔族の体と、そのハンマーの左腕に絡まっていた。
「ありがとうヘルメ――」
「はい」
そこに、
「にゃご!」
神獣ロロディーヌの触手骨剣の連続攻撃が始まった。
無数の触手骨剣が大柄の魔族の右腕が持つ大剣に衝突。
大柄の魔族はアシンメトリーの角から魔力の波動的なモノを放出しつつ右腕の大剣を振るう。
触手骨剣の攻撃を、その波動的な魔力と大剣で凌ぎつつ後退しようとした。
すると、ヘルメが、
「素直に退かせはしません――」
<珠瑠の花>を更に繰り出した。
大柄の魔族の左腕に絡んでいた<珠瑠の花>だったが、大柄の魔族の首と胴体にも絡んだ。
「グヌァ、コノ、ヒモァァァ――」
大柄の魔族の動きを制限することに成功していた。
更に、
「にゃご――」
大きな爪を立てた神獣ロロディーヌが大柄の魔族に突進。
頭突きを行う勢いだ。
そのロロディーヌは、魔族のアシンメトリーの角から出ていた魔力のバリアを噛み千切った。
そのまま大柄の魔族の首下に喰らい付くや首の一部を抉り取る。
「グァァ――」
叫ぶ大柄の魔族。
が、強引に<珠瑠の花>の輝く紐をねじ切った。
ロロディーヌは、その魔族の首と肩を蹴って跳躍し宙空で身を捻る。
そのロロディーヌに向けて大柄の魔族が振るった大剣が迫った。
ロロディーヌは、その大剣に触手骨剣を衝突させて大剣の勢いを削ぐや後脚で大剣を踏み蹴る。
その蹴り上げた反動で見事な宙返りを行うと――。
「にゃごあぁ――」
気合い溢れる鳴き声を発しながら四肢の爪で大柄の魔族の角と顔を何回も切りつける。
猫かきではない<神豹爪斬>とスキルがありそうな、強烈な爪の斬撃が長い角の一角を切断した。相棒の四肢の爪に切られて傷だらけとなった大柄の魔族は、
「――グァ、小癪ナ、巨大猫メガァ――」
と頭部を振るいつつ叫びながら大剣を返すように相棒目掛けて振るい上げた。相棒は大剣の刃を睨み付けながら、尻尾でバランスを取るように後ろ脚を引き上げるように体を後転させて、大剣を蹴り上げて後ろ脚の爪で蹴り上げ、己は跳ねた。宙空で身を捻るロロディーヌは、黒豹の体から無数の魔力粒子を発生させて推進力を得ると右斜めに加速上昇しながら飛翔を続けて大剣の突きと薙ぎ払いを悠々としたタイミングで避けながら大柄の魔族の背中側に回っていた。
その神獣らしい機動力を見せる相棒に、大柄の魔族は粘液状の下半身から触手を伸ばした。相棒は「ンン――」と喉声を鳴らしつつ体から燕の形をした魔力の刃を生み出し、燕が突き抜けるように飛来した触手の群れを真っ二つ。その燕の形をした魔刃を頭部付近で畳ませるように小さくさせて大柄の魔族から離れると地底湖に突入――深く潜ったのか。
姿が見えなくなった。が間欠泉のごとく湖面から飛び上がった。
水飛沫を飛ばしたロロディーヌを追おうとする大柄の魔族だったが、ヘルメの<珠瑠の花>が体に絡まり動けない。――チャンスか。
<導想魔手>を蹴って前進――その大柄の魔族は鋼のような上半身を輝かせて突起物を飛ばす「グハハ」と笑いながら突起物でヘルメの<珠瑠の花>を切断。
「ウヌラ、ガセイコズ様ノ、魔力ト、力ヲ、知ラヌヨウダ!」
その大柄の魔族は大剣を振るうと魔刃をヘルメに飛ばす。
「きゃっ」
ヘルメは低空飛行で魔刃を避けた直後、大柄の魔族は、自らの液体状の下半身の触手を引き裂いた。その裂いた触手から厳つい魔族を数十体生み出した。誕生した厳つい魔族たちは、皆、魔棍を持つ。
幽体のエルフたちと戦っていた幽体の魔族と似ているが若干違う。
その厳つい魔族は魔棍を振るいながら襲い掛かってきた。
近付く厳つい魔族を見据えて<導想魔手>を蹴って真上に上昇しつつ両手の武器と背中の筋肉を意識しながら横回転――<双豪閃>を繰り出した。魔槍杖バルドークと無名無礼の魔槍の穂先が厳つい魔族の首を刎ねた。そこに魔刃が飛来。<導想魔手>を蹴って宙空を移動し、感覚で魔刃を避けると同時に大柄の魔族に向けてヘルメとロロディーヌが攻撃したと感覚で理解した。
<魔闘術の心得>を意識しつつ――。
紅玉環を触り、素早くアドゥムブラリの額にAを刻む。
<ザイムの闇炎>を両手と両足に纏いつつ――。
巨大オベリスクの小島の岩場に着地――。
刹那、厳つい魔族の魔棍が――。
俺の頭部に迫る。上体を反らしつつ、魔槍杖バルドークと無名無礼の魔槍の柄で二つの魔棍を上方へと受け流した。
面頬のルシヴァル宗主専用吸血鬼武装を装備中だったが――。
激しい火花に、熱さを感じた。 同時に身を捻りつつ両手を無手に移行し胸元で拳と掌を合わせ、拱手――無念無想。
その感覚、否、感謝に近い心で両足に魔力を溜めて変形<湖月魔蹴>を繰り出した、腰が独楽のように回る。
しなる両足の甲が二体の魔族の胴体を捕らえると、その胴体を消し潰した。
※ピコーン※<蓬莱無陀蹴>※スキル獲得※
よっしゃ、スキル獲得――。
が、まだまだ迫る厳つい魔族。魔棍の突きを前転で避けつつ――一回転中に右手に召喚した魔槍杖バルドークで<豪閃>を繰り出した。厳つい魔族の背中を魔槍杖バルドークの嵐雲の穂先の<豪閃>が捕らえて切断して倒すと、片膝を岩場に突けて着地。着地際に群がってくる厳つい魔族連中――即座に左手に魔槍グドルルを召喚。左手と左腕に魔力を集める。
更に<血魔力>を左腕から放出しつつ――左腕に蜷局を巻く勢いの<血魔力>。その左手が握る魔槍グドルルを前方に突き出す。
と同時に<女帝衝城>を発動――。
震えた魔軍夜行ノ槍業から漏れた魔線が魔槍グドルルの穂先と繋がる。
魔軍夜行ノ槍業から魔槍を持ったレプイレスさんの幻影が出現した。レプイレスさんは俺の血を吸うと、体を震わせつつ俺を抱くように一体化。
瞬時に血の茨を彷彿する魔槍の群れが前方に迸った――。
薙刀のオレンジの刃の回りにも魔槍が出現。
俺と一体化していた女帝槍レプイレスさんは、俺と魔槍グドルルから離れつつ、血濡れた魔槍の群れと魔槍グドルルのオレンジの刃を従えるように突出していった。
周囲に血の茨を出しつつ厳つい魔族たちを屠りに屠る。
その<女帝衝城>の広範囲に亘る威力の攻撃は小島の右側の岸を抉った。水位が下がっていた地底湖の水も蒸発するように謎の発火。
女帝槍レプイレスさんの幻影は、魔軍夜行ノ槍業に引きつつ、
『――弟子よ、妾を感じさせる素晴らしい<女帝衝城>であった。また妾をつこうておくれ――』
そう思念を寄越すと、魔軍夜行ノ槍業の中に消えた。
――よし、厳つい魔族はすべて屠った。チラッと巨大オベリスクを見る。表面に浮く槍は神槍だろうか。今はまだだ――直ぐに岩場を蹴って宙空に出た。右斜め前の宙空でヘルメとロロディーヌを相手に戦うガセイコズの眷属に近付く。ガセイコズの眷属の体は傷だらけだが、腕が増えている。増えた腕は無手で大きい。腕と大剣とハンマー腕を用いてヘルメと相棒とほぼ互角に戦っていた。そのヘルメと相棒とアイコンタクト。
大柄の魔族のガセイコズの眷属に近付いた。
そのガセイコズの眷属の胸元に魔槍杖バルドークの<闇穿>を放つ。
ガセイコズの眷属は大剣とハンマー腕を振るい<闇穿>に対応。
ガセイコズの眷属は、ヘルメの<珠瑠の花>と相棒の触手骨剣を払いつつ無手の両腕で俺の<闇穿>を受けたが、その両腕を難なく<闇穿>が弾く。
「グァ――」
叫ぶガセイコズの眷属は後退。
続けて無名無礼の魔槍で<刺突>――。
無名無礼の魔槍の<刺突>はハンマーの左腕と衝突。
「ウヌラァァァ――」
ガセイコズの眷属は鬼のような面の双眸から光線を飛ばしてきた。
無名無礼の魔槍を引きつつ――右手の魔槍杖バルドークを消去――。
速やかに横移動。怪光線を避けたが――。
ガセイコズの眷属は加速し上昇――<血液加速>を超えた速度か。上から、
「――<鬼蛾修羅>」
とスキルを発動。
鬼と蛾が混じったような魔力の幻影を纏う大剣を振り下げてきた。
無名無礼の魔槍の柄で、その大剣を受けたが重い攻撃――衝撃波と火炎が混じったような火花を浴びて前髪が焦げて面がヤケタ。そのまま巨大オベリスクが鎮座する付近にまで押されて、片膝を岩場に突けた。
凄まじい攻撃だが、負けられない。<水月血闘法>を強く意識。
周囲に血の鴉が複数出現。
「グハハ、鴉ノ幻術ナゾ、意味ガナイ!!」
「それはどうかな――」
「ングゥゥィィ!」
速やかに立ち上がりつつ――。
竜頭金属甲の息吹が宿る左胸を突き出し、大剣を受けていた無名無礼の魔槍を右斜め上に出す。
ガセイコズの眷属の大剣を押し返すことに成功。
「ムゴォ!」
ガセイコズの眷属は力で押し返されたことに驚く。
が、ハンマーの左腕を振るってくる。
右手に召喚した魔槍杖バルドークを斜め下に差し向ける――。
嵐雲の穂先で地面を刺しつつ、そのハンマーの左腕を柄で受け止めてから、素早く魔槍杖バルドークを掬うようにかち上げた。
左腕のハンマーに体重を乗せていたガセイコズの眷属は仰け反って宙空に移動。
そのガセイコズの眷属の胴体目掛けて――左手が握る無名無礼の魔槍に魔力を込めて<水月暗穿>を実行――。
トレースキックはキャンセル。
屈んだ姿勢から斜め上に跳ぶ。
その機動の無名無礼の魔槍の穂先がガセイコズの眷属の胴体を貫いた。
「グォ」
痛みの声を発したガセイコズの眷属だったが、まだ生きている。
そのガセイコズの眷属は、体を横回転させつつ折れた角を溶かして、溶液を発してきた。
――<血鎖の饗宴>を展開。
血鎖の群れが、ふりかかった溶液を逆に溶かすように喰らう。
血鎖の群れの一部はガセイコズの眷属の胴体に突き刺さり、ガセイコズの眷属の体を貫きまくる。
ガセイコズの眷属は、
「オマエ、吸血神ノ――」
と言いながら体の内部から魔力を爆発させる。
――自爆?
刹那、ガセイコズの眷属は、萎れるように干からびた。
一瞬、<血鎖の饗宴>で倒したのかと思ったが――。
その干からびたような骨と皮の背後に、人族風のガセイコズの眷属が生まれ出ていた。
ガセイコズの眷属の左腕は脱皮したように普通の人族風の腕に変化。
ガセイコズの眷属は大剣を速やかに拾いつつ――。
「<魔霊・ゲェル>」
口から魔力の波動的な、視界が狂うようなモノを発してきた。
逆さの梵字的な紋様と無数の瞳が積層した盛り上がる血濡れた魔法陣が無数に浮かぶ。
防ぐとかいうレベルではない。
切り札か? バチバチと音が響くと、<血鎖の饗宴>の動きが遅くなった。
直ぐに<血鎖の饗宴>を消した。
刹那、人族風のガセイコズの眷属は片頬を上げて勝利を確信したような面を見せると顔が透けた。顔の内部に無数の瞳と牙が生えた顔が見えた。
エイリアンか? ガセイコズの眷属の姿がぶれた。牙が無数に生えた口から「受けよ、神魔ノ者。魔雅大剣放風技――」と叫び、加速か――。
「<魔鬼・刃重衝>――」
大剣とは思えない高速の突き技が迫る。
『羅、力を貸してもらう』
『はい――<瞑道・瞑水>』
更に<脳脊魔速>を発動。
切り札と<瞑道・瞑水>の加速も加わったから、ガセイコズの眷属の動きがよく分かる。
そして、今のガセイコズの眷属は人族に近い魔族の体。
その筋肉と内臓と魔力の巡りは読める。大剣の軌道は瞬時に理解した。
速やかに跳躍しつつ――魔雅大剣放風技<魔鬼・刃重衝>のスキルを避けた。魔雅大剣の上に乗る。
「な!?」
驚くガセイコズの眷属。続けて、両足の力を抜いた。
降下しつつ大剣の刃を両足のアーゼンのブーツで挟む。
同時に腰を捻り回した。
大剣を持つガセイコズの眷属を両足の力で振り回す。
「え――」
思わず両手で握っていた大剣を離したガセイコズの眷属は遠心力で吹き飛ぶ。
吹き飛ぶガセイコズの眷属に<鎖>をぶっ放す。
ガセイコズの眷属の体に突き刺さる<鎖>を収斂。
その反動を活かす――。
俺自身も斜め前に出ながら、瞬時にガセイコズの眷属との間合いを詰めた。
ガセイコズの眷属の心臓部を把握。
続いて、<戦神グンダルンの昂揚>を意識。
――自然と無名無礼の魔槍を握る腕の力が倍増したような感覚を得た。
――体幹も太くなった?
――速度が更に増したか?
無名無礼の魔槍に魔力を盛大に込めた。
右手の甲の真上に、ナナシと関係があると思われる家紋が浮かぶ。
この加速と力を無名無礼の魔槍に乗せる――。
右足の踏み込みから<水穿>を繰り出した。
無名無礼の魔槍から墨汁のような魔力が噴き上がる。
墨色の炎が彩る無名無礼の穂先が、ガセイコズの眷属の胸に刺さった。
蜻蛉切と似た穂先は、そのままガセイコズの眷属の内臓と心臓部のクリスタルを破壊し背中をも突き抜けた。
※ピコーン※<火焔光背>※スキル獲得※
ガセイコズの眷属は口から血を吐いた。
「ぐぅぁ……ガセイコズ様……」
そう呟くとガセイコズの眷属の体が墨色の炎に包まれて燃焼。
魔力粒子も燃えて消えるが、魔力粒子の一部は無数の魔族たちの幽体となる。
ガセイコズの眷属は、取り込んだ幽体たちの能力を得ていたのか。
その幽体の魔族たちは墨色に燃えつつ無名無礼の魔槍の中に吸い込まれた。
「閣下!」
「にゃおぉ」
「強かったが、なんとか倒せた」
『妾もつこうて欲しかったが、槍使いとして、二槍流と魔法の成長を選んだのだな』
『おう。イモリザの第三の腕も使用しなかった。余裕がなかったとも言えるか』
『ふむ! 瞬時瞬時の選択肢には限りがあるからの。そして、強くなるのは嬉しいぞ!』
沙が可愛い反応を示す。
その瞬間、巨大なオベリスクの表面に浮いていた槍が輝くと、巨大なオベリスクは崩壊を始めた。
割れて石として落ちていく巨大なオベリスクから避難するように、天道虫たちが現れていく。天道虫たちは、輝いた槍に乗り移るように槍の表面に付着。巨大なオベリスクは力を失ったようにただの石となった。
同時に光り輝く槍は……浮遊しながら俺の目の前に来た。
『神界と魔界の能力を持つ者よ、故あって、王氷墓葎……の一欠片となっていた我は……嬉しく思う……。そして、神魔の力を有する者よ……見事な戦いであった。魔界の気質もあるソナタではあるが……神遺物を操れるソナタに、この霊王チリムも愛用した……霊槍ハヴィスを託す』
その思念が響くと薄らと光に包まれたエルフの幻影が見えた。
だが、エルフは天道虫たちと一緒に儚く消える。
宙空で浮いている霊槍ハヴィスは悲しげに振動しているが掴んだ。
穂先は幻想的に輝く魔力の粒が集積しているような光の刃。
天道虫の羽音が微かに響いてきた。
「閣下、その槍は神界に伝わる?」
「そうだろう。霊王チリムが愛用していた霊槍ハヴィスって名の槍らしいが……」
「ンン――」
相棒も傍に来た。大きい黒豹の相棒は、ガセイコズの眷属が持っていた魔雅大剣を咥えている。大きい黒豹が装備した武器か。
非常に似合う。渋い相棒は俺の足下に魔雅大剣を落としてくれた。
血の架台に載せたままだった王氷墓葎の魔法書を手元に戻して仕舞う。神遺物ならば貴重品だ。
「にゃ」
相棒は頭部を傾げ速やかに霊槍ハヴィスと魔雅大剣を戦闘型デバイスに仕舞う。続いて<召喚魔槍・無名無礼>を意識すると、燃えるような墨色の魔力を伴う鬼の仮面が出現するや否や、その鬼の仮面へと無名無礼の魔槍は引き込まれて消える。鬼の仮面は漂う。その鬼の仮面は気にせず――拾ってくれた相棒に体を寄せるように片膝を地面に突けた。
相棒の頭部を撫でてあげた。
「ありがとな、相棒もよく戦った」
「ンン、にゃ、にゃぉ~」
頭部を衝突させてくる。
そんな愛くるしい相棒の黒豹を肩と胸で抱きしめた。
心地良いゴロゴロの音が、勝利の音楽に聞こえてくる。
耳たぶに荒い息が掛かってくすぐったいが、まぁ、耳たぶが餃子となっても、今日は許すか。
「ふふ」
続きは来週を予定してます。
が、素早く書けたら、パッと載せるかも知れないです。
そして、19日にHJノベルス様からノベル版「槍使いと、黒猫。14」最新刊発売します。
活動報告に可愛いイラストとミスティの! 興味あるかたは見てください。コメント下されば、健康は健康になります。




