七百五十五話 魔術総武会の【武式・魔四腕団】
2021/02/28 20:48 鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼などの戦闘シーンを少し追加。
2021/03/02 19:40 修正
2021/03/02 21:06 修正
2021/03/03 18:50 修正
魔塔ゲルハットの右側は硝子面で、湾曲して盛り上がっている。
その硝子面に旭日が射して幾何学模様の反射光を宙に発散していた。
目映いプリズム光だ。
ソーラーパワーか、太陽光発電とかありそう。
そんな眩しい反射光を発している硝子面の色合いは紺碧色と群青色を基調としている。
硝子面は石油を水に流したような光彩の環を幾つも表面に走らせていた。
キラキラとした非常に美しい色合い。
魔法の結界的な意味がある?
「わぁ~」
「綺麗ですねぇ」
「あぁ」
魔塔ゲルハットの中間層は、湾曲した巨大硝子を活かした吹き抜けなんだろうか。
そんな硝子面の中心には溝があった。
あの溝を中心に、硝子が左右にズラせる仕組みでもあるのかな?
左右に硝子がズレて、魔塔ゲルハットの中から大砲的な物が外に飛び出てきたら、驚く自信がある。
またはロケット発射台的な鋼が魔塔ゲルハットから外に突き出るとか?
合体ロボの腕部分だったらどうしよう。
単なる空気の取り入れ口とかかも知れないが……見ただけでワクワクがとまらん。
ここからだと上下を行き交う浮遊岩は見えない。
魔塔ゲルハットの中にエレベーターとしての浮遊岩があるんだろうか。
浮遊岩ってよりは、神具台的な魔機械のエレベーターが設置済みかな。
「ん、凄く綺麗!」
「うん、あれが魔塔ゲルハット。ここからだと屋上は高すぎて見えないけど、期待は高まるわね」
「はい、さすがは【魔術総武会】の大魔術師アキエ・エニグマが所有していた魔塔ゲルハット。ここからでも立派な魔塔と分かります」
皆の言葉に同意だ。
他の眷属たちも感嘆の言葉が尽きない。
側面だけで感動させるとは魔塔ゲルハット、やりおる。
アドゥムブラリとイモリザも、叫ぶようにはしゃいだ。
「主! さすがは未来の大神聖ルシヴァル帝国皇帝だな。凄まじい拠点と分かるぜぇ。魔界セブドラにないことが残念ではあるが! ま、それは追々か。で、あの魔塔ゲルハットを空から見たいんだが、浮きながら見てきていいか?」
既に浮いているアドゥムブラリがそう聞いてきた。
ヘルメの影響を受けすぎだ。
「ふふ、アドゥムブラリ、元魔侯爵なだけはあるようですね!」
「ヘルメ、水を掛けないでいい、今は普通に見ようか。中庭は剣呑な雰囲気だし、あの鋼鉄馬車の連中が気になる」
ヘルメの水飛沫を浴びたアドゥムブラリ。
てるてる坊主、もとい、頭部が光る。
そして、背中の翼をバタバタさせて、
「――ふむ、結界を案じているのか。分かった」
「結界もありそうだな。ま、大丈夫だとは思うが、出入り口がな……」
浮いた鋼鉄馬車には結構な魔素を持つ方々が乗っているし……。
人集りも明らかに普通ではない。
「にゃ~」
「黒猫! 後頭部を借りるぞ」
「にゃご」
やや怒った感のある声を発した相棒だったが、アドゥムブラリはその黒猫の後頭部に着地した。
黒猫は受け入れたようだ。
アドゥムブラリを避けなかった。
しかし、黒猫の後頭部に居座る単眼球体。
シュールだ。
「黒猫ロロディーヌ! いい座り心地である!」
「にゃぉ~」
偉そうなことを言っているアドゥムブラリだが、単眼球を無数の触手で弄られまくって遊ばれていた。
背中の一対の翼が、強引に伸ばされては縮まされている。
面白い。
更に、
「ろろでぃーぬさまぁ~」
白鼬のイターシャも黒猫の体にくっ付いていた。
「ピュゥ」
ヒューイも黒猫の頭上だ。
ホバーリング中。
レベッカは、その黒猫の一行を見て、
「ふふ、楽しそうね」
「あぁ、相棒も仲間が増えた気分で楽しいんだろう」
「うん。それで、普通に歩いて門まで?」
「そのつもりだ」
「でも、なんか雰囲気が……【魔術総武会】の方々が揉めている気配があるけど」
「ん、【魔術総武会】の魔術師たちと、腕が四本ある方々も、左右の浮いている鋼鉄馬車から降りてきた」
エヴァが言うように浮いた鋼鉄馬車から降りてきた連中がいた。
引く馬は鉄鎧を身に着けているし、蹄に魔力がある。
そして、セナアプア支部の【魔術総武会】の幹部らしき者たちか。
皆、強者。
その中で異彩を放つ存在が二人。
小さい老人の魔術師。
濃密な魔素を内包した小さい杖を右手に持つ。
魔法の本も浮かせて、その魔法の本と魔線で繋がるアドゥムブラリ系の背に翼を生やした眷属を三匹従えていた。
更に、その小さい老人の魔術師は斜め下に頂点を持った円錐形の魔道具に乗っていた。
もう一人は漆黒衣装の女性の魔術師。
髪の毛は暗紅色でシルクハットを被ったマジシャン系の燕尾服か。
手には長い魔杖を持つ。
あのマジシャンが持つような魔杖は、仕込み魔杖ではないな。
レベッカのグーフォンの魔杖や<従者長>のフーが持つバストラルの頬系か。
強そうな魔術師は他にもいたが、その部下か兵士らしい存在も、魔塔ゲルハットの出入り口に並んでいる。
その連中は頭巾を被る。
仮面防具で素肌は見えない。
黒色の革鎧。
四本腕から魔人系と分かる。
左右の上腕には魔剣と魔杖。
左右の下腕にはメイスと魔杖を持つ。
黒色のスカート系から魔術師とも分かる。
「ご主人様。四本腕の兵士は強そうに見えます。そして、中庭で揉めている魔術師は、緊急幹部会の時にいた【魔術総武会】の大魔術師シオンでしょうか」
「たぶんな」
「他の幹部らしき存在も魔素の内包量が凄まじい者ばかり……」
ヴィーネの言葉に反応したように、ダモアヌンの魔槍を召喚しているキサラが、
「あの老人は、大魔術師ダルケル・ロケロンア。近くの長い魔杖を持つ女性魔術師も大魔術師の類かと。中庭には、大魔術師シオンと賢者ゼーレ・スフォインもいます。四本腕を持つ魔人風の兵士のような存在は……【武式・魔四腕団】でしょうか。強い警戒が必要かと……そして、肝心の大魔術師アキエ・エニグマがいないことも気になります。罠でしょうか」
そう発言しつつ周囲を見回していた。
ビーサが、
「シュウヤ、あの集団は敵なのですか?」
「いや、まだ分からない」
「ビーサ、このセナアプアの勢力も複雑なのよ。あの連中は【魔術総武会】のセナアプア支部の幹部と兵士。で、中庭で揉めている大魔術師シオンは、一応、わたしたち側の味方と呼べる存在だと思う」
レベッカが説明してくれたが。
ビーサは困惑気味だ。
そんなビーサにアドゥムブラリたちを乗せた相棒が寄って、「にゃ」と鳴いては肉球パンチを喰らわせていた。
ヴィーネ、ユイ、エヴァ、ミレイヴァル、マルアは正面を見たままだ。
ヘルメは浮いている。
ヴィーネが、
「……四本腕の存在は傀儡兵的な魔人か、猫獣人と似た種族でしょうか。それとも……錬金術師から魔手術を受けた者たちか……」
「その全員が手練れね。地下の魔神帝国の怪物たちとの戦いを思い出す」
ユイは神鬼・霊風を片手に持つ。
三刀流はまだ使う気配がないから、兵士たちを最大限に警戒はしていないと分かる。
「ん、【魔術総武会】の兵士だとしても、やけに多い。内輪揉め?」
「ヴィーネの言ったような魔手術か改造を受けた兵士だとしたら、先ほども言いましたが、【魔術総武会】が組織したとされる【武式・魔四腕団】か【武闘改魔甲団】かも知れません」
「使者様ァ! 敵なら、ぎったんばったんで倒します!」
「デュラート・シュウヤ様、いつでもあちきを使ってください。ご命令を」
マルアは黒髪の長さをチェンジしていた。
可愛い。
更に、聖槍シャルマッハを出したミレイヴァルが前に出た。
「――陛下、ここはわたしが」
ミレイヴァルが俺たちを守るとか。
「ングゥゥィィ」
右肩の竜頭金属甲もアピール。
俺は寝ていても平気だな――。
そんな思いで、皆の前に出ては、最前線のミレイヴァルの肩を叩いた。
「ミレイヴァル、一緒に正門前に進もう。皆は、ちょい遅れてついてこい」
「「はい」」
「ハッ! 光魔破迅団団長ミレイヴァルが共に!」
なんか役職名が長くなっている。
そう言えば、エセル大広場でトトリーナ花鳥の弁当を食べている時、ヘルメたちがミレイヴァルを囲んでいた。皆、キッシュのこともあってか、真剣にヘルメの言葉を聞いていたなぁ。
お尻ちゃんが時々交じる会話だったから、面白い会話にしか見えなかった。
その際に、ミレイヴァルの役職をヘルメが勝手に決めたようだ。
俺は、単にエセル大広場の人工芝か本当の芝かを調べるつもりだったんだが、いつの間にか、相棒と一緒に胸が焦げるような陸上水泳を、その芝生で楽しんでいた。
「うん、でも、魔塔ゲルハットの権利書はシュウヤが持つんだし、大丈夫だとは思うんだけど」
背後から心配そうな声で喋るレベッカ。
俺は片腕を上げて、
「ま、なんとかなるだろ。が、戦いになる準備はしておいたほうがいいだろう」
「うん」
キサラが警戒したように、相手は【魔術総武会】の強者たち。
油断はできない。
親衛隊っぽい雰囲気を醸し出す四本腕の魔人風の兵士もいる。
肝心の【魔術総武会】セナアプア支部の中で、俺を推したであろう存在のアキエ・エニグマがいないことも気になる。
ま、何事もアイムフレンドリーだ――。
トトリーナ花鳥の『調合魔塔肉詰め合わせ野菜サンド』を頬張った。
ミレイヴァルに、そのサンドイッチを一個渡そうとしたが、ミレイヴァルは、前方の連中を睨んだまま槍歩法中。
ミレイヴァルは気付かなかった。
背後からキサラの声で、「シュウヤ様、わたしが……」と聞こえたが、
「ンン――」
下の相棒に取られた。
ま、いいや――。
『トトリーナハーブアイスティー』をがぶ飲み。
ふぅ――。
そのままミレイヴァルとアドゥムブラリを後頭部に乗せた黒猫と一緒に鉄馬車が並ぶ間を歩いて進んだ。
皆も背後から付いてくる。
すると、仮面防具を被る四本腕の連中が俺たちを囲んできた。
「――何者か!」
「あ、どうも、こんにちは。名はシュウヤです。今日は良い天気ですね」
四本腕の連中は頭部を傾げる。
「シュウヤ?」
「ここがどこか分かっているのか!」
「はい、魔塔ゲルハットでは?」
「略称では正解ではある」
「では、正式名はなんでしょうか」
「【魔術総武会】の大魔法研究魔塔の一つ。正式名は【第六天魔塔ゲルハット】である!」
第六天魔塔ゲルハット。
第六天魔王なら覚えている。
比叡山を焼き討ちした織田信長もそんな風に呼ばれていたな。
「そんな名前がある魔塔を……」
一度礼をしてから、前に出た。
が、仮面を被る四本腕の方々は退かない。
「待て、ここから先は【魔術総武会】の領域である。部外者はチカヅクナ――」
薙刀系の武器を出してきた。
その隣の四本腕の方が、落ち着けと、武器を出した仲間を押さえてから、俺たちを見て、
「研究施設に素材を納品にきた冒険者集団だろう? ならば、さっさと退け、中庭とこの状況から、尋常な状況ではないことが分かるであろうに」
たしかに揉めている状況は分かる。
手っ取り早く権利書とアキエ・エニグマの名を出すか?
とりあえず、
「あなた方は、魔術総武会のどんな集団なのでしょう」
「【武式・魔四腕団】だ」
「そうですか。【武式・魔四腕団】の隊長さんは居ますでしょうか。大魔術師アキエ・エニグマから、魔塔ゲルハットの権利書をもらったのですが」
「「なにぃぃぃぃ」」
「!? な、なんだと! お、お前が!!」
「ひぃぁぁぁぁ」
仮面越しで顔は分からないが、リアクションが面白い。
「者共、であえぇぇぇえ――」
「「我らの大敵ぞ!!!」」
四本腕の方々から殺気が溢れた。
「なんでそうなる」
「陛下――」
ミレイヴァルと黒豹と化した相棒が俺の横に出た。
「にゃご」
「なんだぁ――こいつら傀儡兵的な魔人か?」
「さぁな、って……」
――え?
思わず二度見。
エコー的に渋い声を響かせるアドゥムブラリは黒豹の立派な兜となっていた。
赫いた燕と壺ヤナグイのマークが随所にあるが、派手な狛犬っぽい。
兜の中央の飾りにはアドゥムブラリの単眼球があるし、口もあるが、渋い形だ。
……魔術総武会の連中よりも、今日、一番驚いたんだが……。
が、驚いてはいられない。
「――裏切り者のアキエ・エニグマの仲間だぁぁぁ」
「裏切り者? アキエ・エニグマがいない理由か」
「皆、アキエ・エニグマの仲間がここにもいたぞ!」
「待て、仲間っていうか」
「問答無用――」
「引っ捕らえろ――」
と、魔法の網のような物が迫った。
――血魔力<血道第三・開門>。
<血液加速>を発動。
左手の手首から出した<鎖>で、その魔法の網を<鎖>でぶち抜いた。
左右の魔法の網は相棒とミレイヴァルがそれぞれ裂いた。
右手に神槍ガンジスを召喚しながら四本腕の兵士に向けて前進――。
更に竜頭金属甲を意識。
「――ングゥゥィィ」
暗緑色のインナーの七分袖に、ミスランの法衣と魔竜王素材の一部を身に纏う。
同時に召喚した鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を試す。
鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の胸甲――。
鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の腰当――。
鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼の手甲――。
魔法の網を放り投げてきた仮面防具の兵士は反応が遅い。
四本腕が僅かに動く間に間合いを詰めた。
左足の踏み込みから神槍ガンジスの<牙衝>を繰り出す。
続きは来週を予定。
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