七百四十九話 ラガジメタルの腕
2021/02/07 21:52 後半、遺跡の部分を修正。
2021/02/08 20:46 修正
2021/02/10 18:15 修正
2021/02/11 15:41 修正
2021/04/14 20:38 修正
エヴァの吐息が煩悩を刺激する。
「ん、シュウヤの顎と耳の新装備と頰のカレウドスコープの金属素子が細い管のようなモノで繋がっている」
「気付かなかった」
「ん、この距離でないと分からないぐらい細い線――」
エヴァは、その頰の線にキスしてきた。
可愛すぎる。
んだが、エヴァの体が密着状態。
股間が反応してしまうがな!
「銀河騎士専用簡易ブリーザーはカレウドスコープと連動しているってことかな」
「ん、シュウヤ……」
エヴァは分かっていて抱きしめを強めてくれた。
ここで、えっちなことをおっぱじめる気は、な、いや、あるが、照れる。
誤魔化すように――。
「エヴァの髪飾りはレベッカとお揃いだな」
と発言。
妖艶な雰囲気を出していたエヴァは一転して幼げな印象の顔に戻る。
嬉しそうなエヴァっ子顔だ。
そんな可愛らしい笑顔を見せるエヴァは数回頷いて、
「ん! お気に入り。前にレベッカが買ってくれた」
「よく似合ってる」
「ん、ありがと――」
エヴァは俺の胸元に顔を寄せた。
「シュウヤ……心が温かい」
背中に回した両手の力が強まって少し痛かったが、気持ちがよく伝わって嬉しかった。
すると、背後から、
「あぁぁぁ……まったくもう! こっちまで魅了される恋人ムードってどういうこと! ま、行きは堪能したし? だから帰りは譲る! でもね、なんかイライラするんだけど!」
不満そうなレベッカの声が響いた。
その、なんとも言えない怒っているようで怒っていないひょうきんな怒り方が、絶妙で面白い。
エヴァも、背後のレベッカのほうを見て、
「ふふ」
と笑っていた。
エヴァも俺と同じ気持ちらしい。
そんなエヴァの横顔の頰にキス――。
「ん――」
エヴァが直ぐに振り向いて、見上げてきたが応えず――。
「シュウヤ――」
熱いお返しのキスを頰に受けた。
そんなエヴァの唇を奪いたかったが、背後のレベッカの悲鳴が聞こえたから止めておいた。
狭い場所を進むと出口が近付いてきた。
その先にキサラがいた。
鴉と紙人形を用いながらダモアヌンの魔槍を振るって稽古中。
ダモアヌンの魔槍を蹴っては、掌底から左肘の打撃に体勢を屈めて回転しながらの裏拳のフェイクに、後ろ回し蹴りを実行して、制動もなく、前方にパンチを繰り出した手にダモアヌンの魔槍を引き寄せていた。
血の鴉の<血魔力>をダモアヌンの魔槍に絡ませての引き寄せか。
<超能力精神>か<導魔術>系の技術を参考にした独自の技術かな。
成長著しいキサラは血色と黒色のアイマスクの形状を変化させていた。
<筆頭従者長>として姫魔鬼武装も進化していると分かる。
そのキサラは俺に気付いた。
そして、<荒鷹ノ空具>の翼を得ているヴィーネは? と、直ぐに掌握察を実行――ヴィーネの魔素の反応は上か。
いた――飛翔中か。
赤く長いブーツ。
魅惑的な太股は黒スパッツ。
紅色を基調とした衣装。
そして、外套はフォド・ワン・カリーム・ユニフォーム。
白銀色のヒューイの翼を活かしつつのホバーリング中だった。
素直にカッコいい。
そして、美しい。
肩口に金属鳥のイザーローンも一緒だった。
そのイザーローンは、ヴィーネと一緒に飛んでいるからか嬉しそうに見える。
ヴィーネがミスティと一緒に造った金属鳥のイザーローン。
ヴィーネの特殊な眷属と言えるのか?
ヴィーネは岩肌から露出した鉱石類を削っては調べていた。
綺麗な魔宝石とビー玉のような石を採取中。それらの宝石か石をポケットにしまったヴィーネは急降下――。
「ご主人様! おかえりなさいませ――」
「シュウヤ様! 異星人女性を仲間にしたと!」
「おう」
ヴィーネは着地。
キサラはその隣だ。
「血文字で聞きましたが、その方が……」
「そうだ。新しい仲間の銀河戦士の超戦士ビーサだ」
前に出たビーサ。
頭を下げてから胸元に手を当てる。
軍隊式の挨拶。
宇宙海賊フルカブルカ式と言ったほうがいいのかな。
種族ファネルファガル式の部族に伝わる礼の仕方なのかも知れない。
そのビーサはニコッと笑みを作ってから、
「よろしくお願いします。わたしの種族はファネルファガル。名はビーサ・ファガルと言います」
と挨拶。
ビーサは、顔だけを見れば、エルフ系の美人さんに近い。
後頭部は異星人。
素早く胸元に手を当てたヴィーネとキサラも礼をしてから、
「こちらこそ、よろしくお願いします。わたしの名はヴィーネ」
「はい、よろしくお願いします。わたしの名はキサラ」
「お二人とも、シュウヤと同じ種族の光魔ルシヴァルなのですね。そして、シュウヤの<筆頭従者長>たちと聞いています。宗主のシュウヤの血を色濃く受け継ぐ優秀な戦士たちであると」
「はい、ありがとうございます。わたしは、ついこの間、<筆頭従者長>になったばかりです」
「理解が早い。わたしは最初の<筆頭従者長>だ。そして、フォド・ワン・カリーム・ユニフォームをご主人様に頂いている! だから、選ばれし銀河戦士の超戦士であるということだ!」
ヴィーネは俺があげた外套を自慢気に見せる。
ビーサは頷いていた。
そのビーサが着ている外套は防護服と一体化した未来的な衣装。
パーカーとポンチョが合わさったような部分がある。
皆に向けて、
「皆、初対面で悪いがビーサとは歩きながら話をしてくれ。あと、他の眷属たちにも血文字で連絡しよう。烈戒の浮遊岩の上に向かうぞ」
「「はい」」
◇◇◇◇
ユイ、キッシュ、カルード、フー、ルシェル、ヴェロニカ、サラ、メル、ママニ、サザー、ブッチ、ベリーズ、ベネットと連続的に血文字メッセージのコミュニケーションを行った。
――浮いた血文字に相棒が悪戯してくるから――。
相棒から逃げるように血文字連絡網を実行――。
魔人ソルフェナトスと戦った場所に向かう。
皆はそれぞれビーサのことを含めて血文字で他の眷属たちと意見交換中。
すると、坂道の踊り場でヴィーネがビーサに、
「得物は、その鋼の柄巻と似た武器だな」
「はい、名はラービアンソード――」
鋼の柄巻の放射口から青緑色のブレードが迸る。
皆、足を停めて、そのムラサメブレード・改と似たブレードを眺めた。
「……おぉ、ご主人様のブレードと似ている。青緑色と白銀色が混じった美しく光る刀……」
「ラービアンソードは、わたしの種族ファネルファガルの族長たちが使用していた武器なのです」
「族長たちか。素晴らしいぞ。歴史を持った一族に誇りのある武器なのだな!」
「はい!」
「ご主人様のムラサメブレード・改を傍で見ているから、そのラービアンソードが威力の高い魔刃を有していると分かるぞ」
ヴィーネは興奮気味だ。
同時に尊敬の眼差しを向けている。
女性の強者だと嬉しいようだな。
元ダークエルフのヴィーネらしい。
「ふふ、その通り、一時は斬れないモノはないと思っていた時期がありました。それほどに強力な斬撃を生み出します」
ビーサの言葉に頷いたヴィーネ。
腰の赤燐の柄が目立つガドリセスに手を掛ける。
「ビーサの剣術の腕が窺い知れる。そして、わたしも、古代邪竜ガドリセスの剣と仕込み魔杖を使う――」
そう語るとヴィーネは素早い所作で鞘からガドリセスを抜いた。右腕を差し出すようにガドリセスの剣身や柄などをビーサに見せる。
ビーサは頷いて、
「剣身に魔力が内包されています……金属の持ち手と柄のクリーチャーの意匠は精巧です。そして、赤い鱗が目立つ鞘も武器となるのですね。その鞘は使い手の魔力を吸収しているように見えます」
「その通り。ペルネーテの魔宝地図の宝箱から獲得したのだ。伝説級の武器で貴重なアイテム。そして、わたしの剣術では一剣、二剣が扱える。弓にも自信がある。魔法も可能だ」
ヴィーネは自信の溢れる表情で語った。
ビーサは感心したように、ヴィーネの装備を見る。
そのビーサが、
「弓と魔法までも扱えるとはオールマイティーな戦士がヴィーネなのですね。わたしはシャーマンが扱うような攻撃魔法は使えない。しかし、遠距離はカシュレッド銃などの大概の魔銃を扱うことが可能です。そして、<魔感知>と<エレニウムワード>のスキルを持ちます。ですので、認証コードもそれなりに破ることができる」
俺もだが、皆、疑問顔を浮かべた。
ヴィーネが、
「その最後の<エレニウムワード>とは?」
「ナノマシンなどのコンピューター類の汎用性ハッキングスキルの一つです」
ビーサは片目の虹彩を動かした。
先ほどもカメラのレンズのように動かしていたな。
AR機能を備えた義眼か?
単に魔眼か?
異星人らしく、両方を兼ねた特別な視覚器官?
ヴィーネはアクセルマギナをチラッと見てから、
「アクセルマギナのような能力が使えるのだな」
と語る。
ビーサは、
「高級なAIマギナシリーズが備えた攻防一体型バロスルク的な高い能力はないです。勿論、思考能力もない。先ほど言った簡易的な能力だけです」
「一般的なハッキングができるツールか」
「そうですね。眼球の表面に付ける簡易的な装備。バイオラージ・AR・アイレンズです」
ビーサはそう語ると――。
自身の目に人差し指を伸ばす。
顔を前に出した。
「興味深い」
静かに語るヴィーネ。
ビーサの片方の眼球を凝視。
「膜の周囲に小さいイカのような脚が貼り付いているようにも見えるが、痛くないのか?」
「はい、大丈夫です。薄い膜ではありますが、魔機械の一種です」
俺は素早くカレウドスコープで確認。
確かに網膜だけだ。
少し心配だったが、蟲もなし。
邪神ニクルスの蟲とか勘弁だからな。
「……それが魔機械……ご主人様の戦闘型デバイスと同様に技術が高いと分かる。ミスティも興味を持ちそうだ。あ、細かな魔線と魔法陣も見えた。魔力が作用している……これがご主人様が仰っていたナノマシンの技術……」
「そうです」
「薄い眼球用の魔道具とは……不思議ですね」
キサラも観察を強めていた。
「ふむ。ところで、宇宙にも飛剣流のような剣法があるようだが……」
「飛剣流? わたしはラービアンソードを軸とするファガル二剣流、サッジ三剣流、などを学んでいます」
そのままヴィーネと剣と遠距離攻撃の話題で盛り上がる。
そして、キサラも、
「戦闘スタイルは一剣と二剣が使えるのですね。しかし、三剣流ですか? ユイのように口に咥えて?」
確かに、ビーサの腕は普通の人族の腕。
戦神教団的な闘法か、秘術か。
種族独自の魔法と呪術の<導想魔手>的な能力か?
ビーサは微笑む。
皆、ビーサの装備に注目した。
衣装はカリームのポンチョ系の外套の下は防護服の上着。
漆黒のインナーが目立つ。
ガトランスフォームと似て洗練された戦闘服だ。
「口に咥えるとは古部族ラーメシャルルと似た剣法があるのですね! それはそれで面白い。ですが、違います。実は――」
すると、ビーサは肩口から、魔機械の腕を伸ばした。
おおお、第三の腕とは驚き。
「――わ! 魔機械の腕!」
レベッカが興奮。
『新しい腕が!』
『奇怪な腕のシークレットウェポンか!』
ヘルメと沙も驚いた。
「にゃご?」
相棒は驚いて転倒。
背中が痒いだけか。
いや、魔機械の腕が、猫じゃらしに見えたようだ。
寝っ転がりつつ魔機械の腕目掛けて左前足で猫フック。
戯れようとしているが ビーサの魔機械の腕に猫フックは当たらない。
クリームパン的な肉球ちゃんが可愛い。
ビーサは相棒の行動を見て、微笑んでいた。
そして、チラッと俺を見て、
「アイテムボックスもあります」
そう語るや魔機械に魔力を通す。
カーボン系の筋肉繊維が煌めくや、前腕部分が僅かに伸びた。
更に装甲が窪むと、表面が左右に開いた。
チタン系の腕骨が露出。
腕骨に絡むカーボン系の筋肉繊維と血管のような魔線は魔力の流れが激しい。
すると、そのチタン系の腕骨の中心部から根元が太い鋼の杭が伸びた。
先端は細まった杭刃で鋭そう。
仕込み刀のようにも使える武器か。
アイテムボックスには見えないが。
シークレットウェポン?
その魔機械の第三の腕の手と指はアクセルマギナより太い。
鋼鉄の拳の攻撃は強力そう。
鋼鉄の掌と指を用いたアイアンクローのような攻撃も強力だろう。
ゴリラアーム的に、鋼の掌と鋼鉄の指に杭刃を使えば、ドアを強引にぶちやぶることもできるし、絶壁をよじ登ることもできそうだ。
ラービアンソードの鋼の柄巻を握ることもできるか。
「第三の魔機械の腕による攻撃も可能か。その前腕部分の杭刃はパイルバンカーの武器かな。アイテムボックスはどこなんだろう」
笑顔のビーサは、
「勿論、杭刃による攻撃は可能です。しかしながら、魔電磁甲のパイルバンカーではありません」
そう言うと、杭刃から薄暗いウィンドウが下に伸びた。
「その薄暗いウィンドウがアイテムボックスか」
「はい」
ビーサは薄暗いウィンドウの中にコインを入れる。
コインを取り込んだ薄暗いウィンドウ――。
薄暗いウィンドウは杭刃の中に収斂された。
杭刃の鋼の棒も縮みつつカチャッと僅かな金属音を鳴らして魔機械の前腕部分に格納された。
「ん、シュウヤのイモちゃんの腕とは違う!」
「ピピピッ」
「だから三剣流なのね」
「はい」
「ジャッジドレッド社製のラージカルアームと推測しますが、未知の金属製ですね。脳波と連動する優秀なマニピュレーターを備えている」
アクセルマギナはそう語る。
ビーサはアクセルマギナの言葉を聞いて不思議そうな表情を浮かべていた。
「マニピュレーターも有していますが、はい。ジャッジドレッド社製ではないです。これは古のラガジメタル魔鋼の腕。惑星サブランドに暮らす種族ベルゼンの武器商人アマル・ゲルバンからエレニウムストーンとP78エレ銃との交換で手に入れた思い出の品です」
「武器商人……」
「はい、そのアマル・ゲルバンは、ヘリオン第三惑星の監獄惑星から離脱に成功した強者でもある」
「その武器商人が暮らしていた惑星サブランドってのは、ビーサの故郷の星ではないんだよな?」
「そうです。ラロル星系から近いです」
そう発言したビーサは皆を見て、
「そして、この魔機械の腕を晒した行為は、皆様に対しての信頼の意思の表れだと思ってください」
「魔機械の第三の腕は奥の手?」
「はい。戦いでもあまり使用しない」
「思い出と語ったし、大切な物でもあるってことかな」
ビーサは、少し間を空けた。
「はい。古のラガジメタル魔鋼で造られた魔機械の腕。そのラガジメタルの腕をわたしとボシェが一緒に魔神経を仕込んでカスタマイズして造り上げたスペシャルな逸品。わたしたちはラガジメタルの腕と呼んでいました」
ビーサは暗い顔になった。
が、俺の瞳を見て、笑みを見せる。
同時に魔機械の第三の腕を操作。
自身の両腕と合わせて敬礼を行いつつ、
「ナ・パーム・ド・フォド・ガトランス!」
と何処かで聞いた挨拶を行う。
思い出した。クリームパンは最高に美味しいの暗号、いや、ハートミットがやっていた挨拶だ。
そんなビーサと不思議と縁を感じた。
……<銀河騎士の絆>か。
ビーサから不思議な縁を感じつつ、
「それはナ・パーム統合軍惑星同盟の軍隊式の挨拶か」
「はい」
「俺も応えよう――」
拱手の礼をしてから、ラ・ケラーダの挨拶を実行。
「ふふ」
「そんな嬉しそうな顔を見せられると照れる」
ビーサは頰を朱に染めると、
「……尊敬するシュウヤの魔力を、わたしの体内に感じたので……」
と語る。
恥ずかしそうな表情を浮かべてから、魔機械の第三の腕を背中側に戻していた。
「……やはり」
「ん、こうなる」
「そうですね……仕方ないです」
「……<筆頭従者長>としてがんばります! と言う事で、話を変えますが、ビーサさん。銀河戦士の超戦士として宇宙海賊フルカブルカの船員であり幹部であったようですね。同時に特別な宇宙船の操縦を任されていたと、得意だとも血文字で聞きました」
とキサラが聞いていた。
「はい、宇宙船の操縦なら得意です。ドパルアーニューシステムも使えます」
興味深いが、外を目指す。
「話の途中で悪いが、歩こうか」
「「はい」」
すると、相棒が俺の足に頭部をぶつけてから、先に坂道を駆けていく。
「ンン――」
――俺も続いた。
「相棒、競争か?」
「ンンン、にゃおぉ」
鳴き声は俺を挑発するようなニュアンスだ。
よーし、と、その相棒と競争するように坂道を上がった。
魔人の像が並ぶエリアに到達――。
床が琥珀で鏡のような硝子が重なった壁もある。
壁というか空間が奥にあるんだろうか。
魔人の像を見たビーサは警戒。
相棒のロロディーヌは、点滅する床が楽しいようで、踊るような歩き方に変化。
面白い機動の黒猫さんだ。
俺はビーサの警戒を解くように、
「ビーサ、魔人の像はモンスターに見えるが、大丈夫なはずだ」
「はい、これが先ほど話をされていた魔界セブドラの種族たちなのですね」
「ほんの一部だと思う。魔人っていっても色々と種族が分かれているからな」
「そのようです。しかし……」
と、視線が泳いでいた。
あぁ、魔人の像のリアルな一物さんか。
そんな状況はアクセルマギナとガードナーマリオルス以外は同じなようで、色々とビーサに質問しつつ足早に魔人の像が並ぶエリアを抜けた。
時折、アクセルマギナとガードナーマリオルスがフォローしていた。
ガードナーマリオルスはフォローになっていないが――。
そのまま琥珀の床の上に樹の枝がひしめいている空間に戻ってきた。
――天井がない烈戒の浮遊岩の上層部だ。
左に恐竜や貝殻などの地層が見える壁伝いに上へと向かう坂がある。
どこかに金塊がありそうな、埋蔵金の番組を作れそうな場所。
しかし、冗談ではなく、恐竜の骨のようなモノが露出した層もあるし、天然原子炉のような色合いの鉱床も見えている。金とか銀の塊があるんじゃないか? と思えてくる。
そして、魔族、魔人たちの襲来があったが、魔人ソルフェナトスとの交渉という名のタイマン勝負を制して、烈戒の浮遊岩の乱を鎮めたから、この烈戒の浮遊岩の権利は、俺たちのモノなんだろうか……その辺のことも、ガルファさんかメリチェグに相談したいところだ。
それに【白鯨の血長耳】の総長のレザライサが帰還したら、なんて言うだろう。
と、考えつつ少し歩いた。
あの坂の上で、魔人ソルフェナトスと、その前には他の魔族たちとも戦った。
俺の先をトコトコと歩いていた相棒は、外の空気を味わうように頭部を上向かせている。その相棒に向けて、
「相棒、大きくなってくれ」
「にゃおお~」
瞬時に、相棒は大きくなった。
「え!!!」
ビーサの声だ。巨大な黒豹の姿は初見だから、当然か。
そのビーサは、銀河戦士の超戦士らしく、魔力を体に纏った。
続いて後頭部の長細い器官が、更に長細く伸びつつ背中側で髪の毛の房のように靡いた。
器官の細まった先端部から、可愛らしい形の魔力を放出させていた。
魔力の形は可愛い。が、その長細い器官を有したビーサの仕種と、器官の先端から放出されている魔力の仕組みが渋くて、カッコいい。
傭兵って感じの防護服の衣装とも似合う。
いいねぇ、銀河戦士の超戦士ビーサ・ファガルか。
さて、
「アクセルマギナとガードナーマリオルス、戦闘型デバイスに戻れ」
「はい」
「ピピピッ」
一瞬で、アクセルマギナとガードナーマリオルスは灰銀色の魔力粒子に変化。
その灰銀色の魔力粒子は戦闘型デバイスが吸収。
巨大な黒豹バージョンの相棒に、
「ロロ、この烈戒の浮遊岩の場所は覚えているよな?」
「にゃ~」
神獣の大きい頭部が近付いた。
――風が凄い。
前髪がボアッと持ち上がった。
そして、声は猫だが、大きな黒豹の頭部だから迫力がある。
「……ひぃぁぁ」
ビーサは更に驚いて転けていた。
同時に、未来的な防護服が連動している?
ビーサの口に装着されていた小型ブリーザーの点滅が強まる。
瞬時に面頰の防具に変わった。
防具の素材は不明だが、銀色の金属っぽい素材の防具が、美しい下顎骨のEラインを縁取る。
更に、首と耳の一部を覆った。
顎当てっぽさもある。
全体的に、武者魔族や日本の戦国武将の『烈勢面』の面頰と少しだけ似ていた。
俺の銀河騎士専用簡易ブリーザーも両頰の一部と両耳を塞ぐ防具に変化中。
ビーサのブリーザーも変化が可能なようだ。
フォド・ワンが付くフーク・カレウド博士が作った俺の装備と違い、銀河戦士の超戦士専用装備ってことはないと思うから、ファネルファガル用か、武器商人から手に入れて、改造した装備かな。
その転倒しているビーサの体に神獣の触手が絡まる。
と、一瞬で、ビーサはその神獣の背中に運ばれていた。
皆はもう後頭部付近だ。
俺に触手が来るが、神獣を焚きつけるように――。
逃げた――。
「――ははは、相棒、先に行くぞ――」
「にゃごぉ~」
「ん、ロロちゃん、シュウヤをやっつけて!」
なんでやっつけるんだ――。
と、<導想魔手>を蹴って高く飛翔――。
烈戒の浮遊岩と相棒から逃げるように宙を駆けた。
<血液加速>で加速して、相棒の触手を避けた――。
他の浮遊岩をも避けつつ――。
ユイに向けて、血文字を実行。
『ユイ、今、烈戒の浮遊岩を出たとこだ。血長耳から連絡は?』
『まだ』
『了解。なら、待ち合わせはナシで、【天凛の月】の事務所に戻るか』
『うん。市場の買い物とか魔塔ゲルハットとか楽しみにしてたんだけど。あ、血長耳の兵士が来た』
錬金術師と連絡が取れたか、速いな――。
っと――隙を突かれた、相棒の触手に捕まった――。
うは――。
相棒の巨大な舌にべろっと舐められた――。
「あはは、ナイス~、ロロちゃん! シュウヤを釣り上げた~」
相棒の頭部に立つレベッカだ。
腰に両手を置いて勝ち誇っているし。
すると、神獣ロロディーヌが歯牙を晒しつつ――。
「にゃおおおぉぉぉぉ~」
と、大声、暴風雨、もとい、盛大な息を吐いた。
魔息の部類だ。風速何十メートルか分からんが、そんな勢いの風を喰らう。
当然、髪の毛が逆立ってぐちゃぐちゃだ――。
が、興奮した神獣の大きな顔をドアップで見るのは面白い。
さて――。
続きは来週を予定。
HJノベルス様から書籍版「槍使いと、黒猫。」1~13巻発売中。
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