七百二十一話 迫る敵に魔弓ソリアード
2020/11/08 18:27 修正。
『魔塔エセルハードに敵が来るようだ。これから迎撃行動に出る』
速やかに血文字で皆に連絡。
俺の血文字を見た血長耳と金で雇われた関係者は多いが、気にしない。
背後の窓際から、
「――ん、シュウヤ、待って。わたしはここを守る。評議員たちは怖がってる」
「優しいエヴァの傍にいる。シュウヤ、外は任せたから」
「おう」
二人に応えながら振り向きつつヴィーネに視線を向けた。
ヴィーネはエヴァとレベッカと、ハイタッチ。
続けて三人は拳同士を合わせて掌も合わせて微笑み合う。
魅力的すぎる。
そのヴィーネが、
「わたしもガーデンから臨機応変に。血長耳の幹部と一緒に守りに入ります」
「分かった。すべての手の内をここで晒すのはアレだが……最低限の戦力は出しておくとする――」
まずは<光邪ノ使徒>のイモリザ――。
右腕の肘に付着していたイモリザが床に落ちた。
前方の庭に流れる川に肉球パンチを繰り出していた相棒が、イモリザに気付いたのか、戻ってきた。
肉肢のイモリザは瞬く間に黄金芋虫と化す。
その黄金のイモムシのイモちゃんに相棒は近寄った。
「ンン――」
挨拶代わりの肉球パンチではなく、イモちゃんの黄金の粉を吹く孔に優し気な肉球タッチ。
相棒の前足が黄金色に輝いた。
刹那、イモちゃんは浅黒い肌の女の子に変身。
銀髪の形が魔槍杖バルドークを模る。
そのイモリザはニコッと可愛い笑顔を作ると腕を上げて、
「――使者様! 第三の腕こと、槍使いイモリザが見参!」
「おう。すっかり槍使い気分か」
「はい! 使者様の第三の腕の動きをダイレクトに感じてますから!」
元気がいいイモリザだ。
そのイモリザに、
「で、状況は理解していると思うが、外から敵が迫っている状況だ」
「はい!」
「ペントハウス内には評議員も複数いる。傍にいるエヴァとレベッカは、そのペントハウスで皆を守るようだ。ヴィーネはガーデンから臨機応変に動くだろう」
「はい」
「ん、イモちゃんもがんばろう」
エヴァの言葉にシュパッと腕を掲げて敬礼を行うイモリザ。
構わず話を続けた。
「仲間の【白鯨の血長耳】の幹部の一部もガーデンに散った。で、イモリザ。この魔塔を壊す攻撃は禁止だからな。銀髪と爪を伸ばす攻撃には配慮しろ。ここは魔道具に家具も光を帯びる物ばかり。スイッチも押すな。あと、敵に暗殺一家がいる場合は、大砲を備えた大剣腕を持っているかも知れない。その大砲以外にも鋼鉄の礫を連射できる銃という武器を持つ。魔導鎧も硬い。そして、血長耳の老人のガルファさんの指示は俺の指示と思え。魔塔を守ることを優先しろ。最悪の場合……これは暗殺一家か不明だが、巨大な浮遊岩を、この魔塔エセルハードに衝突させようとしてくる敵が現れるかもしれない」
「ご主人様、怖いことを……」
「承知! わたしも<魔骨魚>で空に向かいます。あと、ぎったんばったんを用います! 」
「おう。俺と相棒も飛翔して戦う予定だ。空では警邏中だった<神剣・三叉法具サラテン>たちもいる。沙は念話を寄越してこないが、攻撃を受けたら即座に反撃しろと命令は出してある。だから今頃は戦っている可能性が高い」
「はい、です!」
「なら、沙・羅・貂の攻撃を掻い潜った、この魔塔エセルハードに近寄る敵は、強者!」
「ん……気を付けて」
「……闇ギルドたちか。命を懸けてまでわたしたちを狙うって……」
「それは、まぁ個人の考え、流儀の話になる。俺たちは俺たちでいいんだよ。深く考えるな、レベッカ」
「あ、うん」
微笑むレベッカ。
可愛く素の優しさが現れた笑顔だが、暗さがあった。
男たちの挽歌の気持ちを説明しても、中々に、な……とレベッカの細い体を抱きたくなったが、今のタイミングではない。
続いて、アクセルマギナをガーデンに出す。
戦闘型デバイスから魔力粒子が迸る。
その戦闘型デバイスの真上で幻影の小型のガードナーマリオルスが回っていた。
狭い室内なら、ガードナーマリオルスの防御も役に立つ。
更に、フォド・ワン・ユニオンAFVって手もあるが……。
ま、それは魔塔が、いや、もうあんなことはさせない。
出現したアクセルマギナはアサルトライフル的な銃を構える。
「イエスッ、マイマスター! ナパーム・ザ・キリングナイト!」
掛け声を上げて、儀礼のポーズを繰り返した。
アクセルマギナの体の左側には強化外骨格的なアーマーが多い。
胸のマスドレッドコアは渋い。
素肌に混ざる義手と義足もいい。
黒い繊維質のスカートも魅力的。
汎用戦闘型のアクセルマギナは未来的な特殊部隊の人員だ。
「マスター、わたしはガーデンから射撃を行います」
「おう」
そう応えてから、ヴィーネを見た。
「ヴィーネ、ヒューイと合体すれば空もいけるが……」
「はい、しかしながら……」
ヒューイは、エヴァのことが気に入ったからな。
「ヒューイ、エヴァの傍から離れないのか? エヴァの背中に合体するつもりか?」
「キュゥ」
返事を寄越すが気持ちは分からない。
麻呂った眉毛を輝かせるのみ。
くっ可愛い。
「エヴァは飛翔できるから<荒鷹ノ空具>でレベッカかヴィーネの翼になるほうがいいと思うが……」
エヴァは、魔導車椅子に乗るヒューイに向けて、
「ん、ヒューイちゃん、お空を飛ばないの?」
「キュゥゥ」
ヒューイは翼を大きく拡げてアピールする。
嘴を拡げて餌くれモードって印象だが、金属棒を掴む足から爪の出し入れを繰り返していた。
戦うつもりはあるようだ。
そのまま小さい頭部を左右に動かしては、ペントハウス内を見回す。
ヒューイは皆を守りたい?
「ヒューイ、皆の行動の邪魔をしないように大人しくしているんだぞ」
「キュッ」
「ンン、にゃ」
黒豹もヒューイに向けて指示を出しているような鳴き方だ。
同時にエヴァとレベッカの肩越しから――。
ペントハウス内にいる白絹の髪を持つキサラに視線を向けた。
ブハビとまだ会話中。
「――キサラ、その方との話は後に回せ。外から来る敵に備えろ」
「はい――」
キサラはブハビに拱手。
一礼後、ダモアヌンの魔槍を手に召喚してから走る。
ブハビは【幽魔の門】のセナアプア管轄局局長サーバロアスの下に戻った。
護衛の【百森眼衆】のメンバーのもう一人、雷剣シベリルも強そうだ。
腰に浮いた形で半透明な剣帯に納まる抜き身の剣の回りを電気の筋が行き交う。
八大龍王ガスノンドロロクン様の剣と似た長剣。
ビリビリと電気を受けて痺れそうだが、本人は気にしていない。
雷が迸る長剣は一閃するだけで稲妻が迸りそうだ。
ヴィーネも時折、雷剣シベリルの武器に注目していた。
ヴィーネには雷属性がある。
《雷鎖》的に雷属性を活かした剣スキルを持っていたはずだ。
アキエ・エニグマとシオンの大魔術師組はガルファさんと話をしていた。
軍曹メリチェグは仲間に指示。
評議員たちと護衛にも指示を出していた。
大魔術師組と同様にペントハウスから出るつもりはないようだ。
一方、クリドススは、
「ハーイ、では指示通り、ワタシたちは裏方のセッゾンとゼニガタと合流デス♪」
セッゾンとゼニガタ?
日本風の名を持つ血長耳の兵士は少し気になる。
レレイたちに話をしていた。
他の見知らぬ血長耳の人員も武器を確認。
各々気合いを入れる言葉を吐きながらクリドススに近付いた。
そのクリドススが、
「シュウヤさん、この場は皆さんにお任せです♪ ワタシたちは下に向かいます」
「了解」
クリドススは華麗なステップから、ペントハウス内を移動。
専用カプセル型の小型浮遊岩に乗り込んだ。
クリドススは指先だけの気軽な敬礼を行う。
そのクリドススの姿が一瞬で消えるように急下降。
急降下した小型浮遊岩はやや楕円形。
宇宙船からの脱出ポッドに見えた。
他にもある小型浮遊岩。
表面のボタンとスイッチにチューブからガスが噴き出していた。
血長耳の幹部と兵士が、その小型浮遊岩に乗り込む姿を見ていると……。
小型の神具台を想起した。
実際に、神具台と同じような技術かも知れないな。
すると、魔弓ソリアードと見知らぬ血長耳の幹部が寄ってくる。
「シュウヤ殿、まだ敵との距離があるようですから、わたしも外に出るつもりです」
魔弓ソリアードは自身の足に装着した装備を見せながら語る。
魔靴ジャックポポスを装備中。
俺としては、背中の大弓が気になる。
凄まじい魔力を備えているし、束になった魔矢と魔線で繋がっている。
魔矢を番える動作が速くなるとか、ありそうだ。
渋いソリアードに注目していると、傍にいたエルフの女性の【血長耳】の幹部が、
「初めまして、【天凜の月】の盟主殿。わたしは集魔シャカといいます。わたしも外から魔弾及び風魔法で攻撃します。有名な外界術師ほどではありませんが、無属性による魔法結界も無詠唱でいけますので、簡易的な防御膜をガーデンに張ることも可能です」
「分かった。俺は好きなようにやらせてもらう」
「はい。勿論です……」
小声で語る集魔シャカさんは、急におろおろとしては、俺に手を差し出してきた。
顔は真っ赤だ。
握手か。あまり握手の文化はないと思っていたが、
「あ、あの、手を握ってください」
「いいけど、よろしくシャカさん」
と、シャカさんの手を握る。
「ふふふ」
「そんなに喜ぶなら、何回でも――」
次いでにハグしようとしたら、キサラに腕を引っ張られた。
キサラはシャカさんを睨んでいる。
「はぅ……盟主のシュウヤさんがモテることは分かっていますから……憧れなんです。そして、槍の空極と呼べるシュウヤさんとお話ができて……しかも、触れあうことができた。妹に自慢できます!」
「おう、妹さんは?」
「あ、下です」
「そっか。無理はしないようにって、余計なお世話か」
「ふふ、盟主なのに、わたしのような存在にまで気を配る。素敵です……」
「――シュウヤ様、敵の反応はありません! が、空に行きましょう」
俺の片腕を引っ張るキサラの嫉妬が可愛い。
「あしからず、四天魔女のキサラさんには敵わないと分かっていますから……」
シャカさんは視線を下げて残念そうに語る。
が、直ぐに視線を強める。目尻に魔力の筋が生まれた。
それは長耳にまで筋となって繋がる。
シャカさんは体内の魔力を操作すると両手から魔力を放出。
腰と背中から星型の円盤が三つ浮かぶと、宙空から魔力を集結させて、半透明な刃を出していた。
一気に可愛い姿から渋い魔法戦士風の姿にチェンジする。
準備を整えたソリアードを見たシャカさんも、チラッと俺を見てから、血長耳の伎癢を見せるように、
「――ソリアード、わたしは左側を見る」
「了解。ではシュウヤ殿、月の残骸から、天凜の月に変わった、あの一夜のような活躍を期待しています」
渋いソリアードとシャカさんはペントハウスの出入り口からガーデン内を走る。
俺はキサラと黒豹にアイコンタクト。
「ンン、にゃおおお――」
「ロロ様、行きましょう」
先に走る一匹とキサラ。
俺も続いた。
丹田から始まる<魔闘術>の感覚を順繰りに試すように体全体に巡らせる。
両肩を回して体をほぐしながら駆けた。
ガーデンの遺物と遺物の間の砂利を跳び越える。
魔機械の一部っぽい灯籠を両手で突いて飛び箱を越えるように高く跳躍――。
そのまま屋上のガーデンに流れる小川と走っている相棒とキサラを跳び越えた。
「ンン――」
相棒の喉の音が面白い。
同時にあるイメージを実行――。
<生活魔法>で水を大量に足下から放出しつつ両手から<鎖>を射出――。
『ふふ、閣下のお水ちゃんが一杯です――』
<鎖>は攻撃じゃない。
足下に集結した<鎖>は板となる。
――そう、スケボーだ。
同時に《水流操作》で、そのスケートボードを覆う。
スロープに付いた横の手摺りの上を、その水で滑る<鎖>製のスケボーで滑り降りた――。
スライド系トリックを実行――。
「ヒャッハーッ!」
「ふふ――シュウヤ様が楽しそう、でも速い!」
そう言うキサラも俺の速度に付いてこられるんだから、十分速い。
相棒の触手が、そのキサラがいる背後から迫るのを感知した。
<血魔力>を纏った俺は<魔闘術の心得>を意識しつつ更に加速。
相棒の触手から逃げるようにスケートボードでオシャンティーな庭を走り抜けた。
そのまま宙に飛び出たところで――。
『器! チキチキバンバンを逃がした。済まぬ――』
『器様、空魔法士隊の数は少ないですが、強者が複数。まだ来ます――』
そして、こっちに向かってくる魔素をキャッチ。
同時に、皓々とした残骸の月の夜の先に……。
魔力光を確認。
って、攻撃かよ――。
即座に魔槍杖バルドークを振るって、その魔力光の魔刃を叩っ切る――。
嵐雲の形をした穂先が震動、重っ――。
魔刃は重低音を響かせて二つに分かれて左右に散った。
すると、黒豹のまま姿を大きくした相棒が、
「にゃおおお」
二つに分かれた魔刃に向けて触手骨剣を繰り出す。
重い魔刃は弾かれて遠くの夜空に向かう。
「相棒、待った、魔刃でお手玉は禁止。追い掛けるな、敵がくる」
「ンン――」
「シュウヤ様、魔素が」
「おう」
しかし、チキチキバンバンってのは、あいつか、沸騎士たちを倒したであろう存在。
あの魔塔の崩壊を生きて脱出したってことは、空を飛べる。
魔靴か、飛行術を備えた者。
すると、背後から、
「シュウヤ殿――」
と、魔弓ソリアードが赤い魔矢を射出。
俺の前方の遥か先に赤い魔矢が飛ぶ。
その赤い魔矢と魔刃が、前方で衝突――。
パッと赤茶色の魔力が散った。
ソリアードの飛翔しつつ魔弓を射る姿勢はいい。
弓道っぽさのあるヴィーネとはまた違う。
やはり、自然と大弓に、魔矢が番えられる仕組みか。
魔眼もあるようだ。
煌びやかな魔力粒子が双眸から迸るさまは、精悍なソリアードだから映える。




