七百十二話 キサラの処女刃とステータス※
2020/10/11 19:24 修正
2020/10/12 0:01 修正
2020/10/12 20:19 修正
2020/10/16 14:45 修正
2020/10/26 22時29分 修正
「そのルシヴァルの魁石は姫魔鬼武装の一種かな」
「そうです。ルシヴァルの魁石は、闇遊の姫魔鬼メファーラ様を主軸とするようですが、わたしが新しい種族の光魔ルシヴァルの<筆頭従者長>になることで、わたしと黒魔女教団に関係した光神ルロディス様と知記憶の王樹キュルハ様の魔力が融合した証しでもあるようです」
「へぇ、称号とか得たり?」
「はい、髑髏魔人ダモアヌンの儀式、黒魔女教団の儀式を経て、四天魔女として認められた際に獲得した称号の四天魔女が<筆頭従者長>になることで魁ノ光魔魔女に変化を」
魁か、俺の<翻訳即是>では、闇遊の姫魔鬼メファーラ様には鬼の文字がある。
魁にも鬼が混じるし、神々とも関係したキサラらしい新しい光魔ルシヴァルの<筆頭従者長>の象徴かな。
キッシュも祖先の氏族の力を取り戻し蜂式光魔ノ具冠を得ていた。
そして、<血道第二・開門>の<光魔ノ血蜂>も持つ。
「種族進化の結果か。ま、<筆頭従者長>になったばかりだ。本人も分かってないことが多いだろう。少し能力を確認すればいい。と、その前にアイマスクを見せてくれないか」
「はい――」
キサラは黒色のレースが目立つアイマスクを展開した。
角から出た素材らしきモノに炎が宿って見えたが――展開が速すぎて分からなかった。
額の蓬莱飾り風のサークレットの下に装着された、その姫魔鬼武装のアイマスクを構成するレース状の網目模様が変化していた。
基本は黒き輪の向こう側の世界から来訪する未知の怪物たちと戦う種族たちの構図だが……キサラと俺と相棒に光魔ルシヴァルの面々の姿があった。
ヴィーネ、レベッカ、エヴァ、ユイ、ミスティ、ヴェロニカ、キッシュの姿は分かる。
そして、おでこの上辺りの最長部は光神ルロディス様を意味するような太陽のマークに闇遊の姫魔鬼メファーラ様と知記憶の王樹キュルハ様を意味するような髑髏と刀と樹木が絡む絵柄がある。
それぞれレゴブロックよりも小さいが、結構精巧だ。
その編み目を飾る小さいブラックトルマリン的な黒い宝石にも変化がある。
額にできた新しい蓬莱飾り風のサークレットのルシヴァルの魁石とは形も微妙に違う。
宝石の中では黒と血が渦を巻き、宝石の表面を縁取るように血の炎が走る。
「キサラ、アイマスクの展開をありがとう。自由に確認を続けてくれ」
「はい」
キサラは展開したアイマスクを一対の角に収斂し仕舞った。
目元の黒いアイシャドウ的に残った線がお洒落だ。
キサラの蒼い双眸が輝きアイシャドウを活かすように、瞬きのタイミングに合わせるや、小さい角から濡羽色と光魔ルシヴァルの血だと思われる炎的な赤く赫いたモノが出る。
その濡羽色と血の炎的なモノは、キサラのおでこの皮膚の上を走り、細い眉と眉間を隠しつつ双眸の周囲を濡羽色に縁取ると、一瞬赫いてからアイマスクと化した。
姫魔鬼武装のアイマスクだ。
すると、アイマスクは砂漠烏ノ型の兜へと形状が変化する。
キサラは前との感覚の違いを色々と試すように、耳に手を当て、聴覚の違いも感じ取ろうとしていた。
「音の捉え方が変化した? 耳殻に変化はないと思うが、音を分析する脳の処理能力が光魔ルシヴァルの細胞を取り込むことで、パワーアップしているのかもな」
「……はい」
キサラは目を瞑る。
聴覚で何かを得ようとしていた。
「……中耳と内耳の蝸牛、骨半規官、内耳神経の〝聴ニューロン〟に内有毛細胞とか外有毛細胞鼓膜などがヴァンパイアの亜種として人族とは異なる進化を果たしたとか? 踊る細胞も変化しているかも知れない。アクセルマギナ、どう見る?」
「はい、トランスジェニックの観察を行っていましたが、未知の要素が多すぎて、分析しようがありませんでした。興奮性ニューロン及び錐体細胞が大幅に活性化していることは確実。光魔ルシヴァルの宗主であるマスターは、選ばれし銀河騎士ですから当然ですが、遺産高神経のナノメカニカル素子をスムーズに取り込んだように異常なトランスジェニック性能を備えた超高度な高分子生体物質を超えたモノを持つと推測」
「モノってDNA的な遺伝子情報のことか?」
「はい、普通のアレイシステムでは捉えることが不可能な、次元拡張格子を備えた超DNA的な遺伝子情報を持つはずです」
少し、頭から煙が出そうだが、転生時に……。
※エピジェネシス強制展開※
※ヘイフリック限界強制解除完了※
※超力多能性幹細胞展開※
※テロメア総数スキャン完了※
※Tループ及びアポトーシスの停止※
とあった。
超力多能性幹細胞ってのが、俺の超DNA的なモノか?
「よう分からんが、ヴァンパイア系の能力は優秀ってことかな」
「優秀ですが、デイウォーカーですから光魔ルシヴァルのほうが優秀です」
「ま、そうだな。で、キサラ」
「はい」
「処女刃を使う前に、今、小さい家を作る」
「分かりました」
俺は<邪王の樹>を意識。
処女刃を出しつつキサラの背後辺りに――。
邪界ヘルローネの樹木製の簡易的な小屋を作った。
小屋の隣に石灯籠がある。
その小屋の隣には樵道具一式と農具一式に荷車が納まった納屋が前後に並ぶ。
前後の納屋と石灯籠の手前には麻袋が積み重なっている。
猫たちは『水鴉の宿』に集結しているようで一匹もいない。
キサラは修道服を変化させた。
黒を基調とした、スケ感のあるレーストップス風の衣装。
首と肩と二の腕に露出が多い。
スカートはラップ風のフレアスカート。
小さいから分かり難いが、知記憶の王樹キュルハ様と闇遊の姫魔鬼メファーラ様らしき絵柄もある。
ウエストのリボンベルトと繋がる金具は樹が絡まる髑髏の形。
後ろのウエストもきゅっとしまって、きちん感がある。
太股が見え隠れして、槍捌きがやりやすそう。
そのキサラに、
「これが処女刃だ。皆から聞いているだろうが、これで<血道第一・開門>を得る」
「ありがとうございます。では、中に――」
「おう」
キサラは処女刃を受け取るとゆったりとした動作で身を翻す。
背筋と腰のラインが魅力的。
キサラは俺が作った小屋の出入り口を潜って小屋に入る。
俺も<邪王の樹>で作った小屋に入る。
内装はシンプル。
二階はない。床と大きな桶と壁と木窓だけ。
キサラは衣装を裸に近い透け感ありまくりな衣装に変化させている。
エロ格好いいキサラは、大きな桶の中に立ち、
「処女刃ですが、左右のどちらの腕に嵌めれば良いのですか?」
「どっちでもいい」
「はいっ。では、こちらの腕に処女刃を嵌めます」
キサラは処女刃を腕に嵌めた。
痛みを伴う<血道第一・開門>の獲得。
第一関門の血の操作技術を学んでいった。
その間に、俺はステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:覇槍神魔ノ奇想:血魔道ノ理者
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:霊槍印瞑師:白炎の仙手使い:血外魔の魔導師:血獄道の魔術師
筋力33.8→33.9敏捷34→34.7体力29.7魔力37.9→36器用30.5→31精神36.9→35.2運11.5
状態:普通
キサラの<筆頭従者長>化で魔力と精神力が減っている。
成長した分もあったと思うが、それだけ能力値をもっていかれるということか。
人数が増えれば負担が増える?
それとも眷属化を行う種族に難易度があるんだろうか。
次はスキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>:<光条の鎖槍>:<豪閃>:<血液加速>:<始まりの夕闇>:<夕闇の杭>:<血鎖探訪>:<闇の次元血鎖>:<霊呪網鎖>:<水車剣>:<闇の千手掌>:<牙衝>:<精霊珠想>:<水穿>:<水月暗穿>:<仙丹法・鯰想>:<水雅・魔連穿>:<白炎仙手>:<紅蓮嵐穿>:<雷水豪閃>:<魔狂吼閃>:<血穿>:<魔連・神獣槍翔穿>:<ザイムの闇炎>:<霊血装・ルシヴァル>:<血外魔道・暁十字剣>:<血獄魔道・獄空蝉>:<血外魔道・石榴吹雪>:<十二鬼道召喚術>:<蓬茨・一式>:<双豪閃>:<無天・風雅槍>:<飛剣・柊返し>:<魔蜘蛛煉獄者>:<蜘蛛王の微因子>:<血穿・炎狼牙>:<召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>:<死の心臓>:<光穿>:<光穿・雷不>:<塔魂魔突>:<超翼剣・間燕>:<女帝衝城>:<闇穿・流転ノ炎渦>:<光魔ノ秘剣・マルア>:<陰・鳴秘>:<飛剣・血霧渦>:<荒鷹ノ空具>:<悪式・霊禹盤打>new:<星想ノ精神>new:<星想潰力魔導>new:<湖月魔蹴>new:<獄魔破豪>new:<水月血闘法>new:<水月血闘法・鴉読>new:<血想剣>new:<血想剣・魔想明翔剣>new:<攻燕赫穿>new
恒久スキル:<天賦の魔才>:<吸魂>:<不死能力>:<血魔力>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<破邪霊樹ノ尾>:<夢闇祝>:<仙魔術・水黄綬の心得>:<封者刻印>:<超脳・朧水月>:<サラテンの秘術>:<武装魔霊・紅玉環>:<水神の呼び声>:<魔雄ノ飛動>:<光魔の王笏>:<血道第四・開門>:<霊血の泉>:<光魔ノ蓮華蝶>:<無影歩>:<ソレグレン派の系譜>:<吸血王サリナスの系譜>:<血の統率>:<血外魔・序>:<血獄道・序>:<月狼の刻印者>:<シュレゴス・ロードの魔印>:<神剣・三叉法具サラテン>:<魔朧ノ命>:<鎖型・滅印>:<霊珠魔印>:<光神の導き>:<怪蟲槍武術の心得>:<魔人武術の心得>:<超能力精神>:<銀河騎士の絆>:<覚式ノ理>:<旭日鴉の導き>new
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>:<邪王の樹>
まずは、<悪式・霊禹盤打>。
※悪式・霊禹盤打※
※悪式格闘術技術系統:上位亜種掌打※
※<魔人武術の心得>が必須※
※<組手>系と<霊魔>系のスキルが必須※
※振り下ろし攻撃、<組手>以外にもあらゆる戦闘術に合わせることが可能※
<槍組手>の格闘に続いて<悪式・霊禹盤打>の掌打はいい流れだ。
次は<星想ノ精神>。
※星想ノ精神※
※<光闇の奔流>と<超能力精神>に<銀河騎士の絆>が必須※
※黄金比を維持しつつ<超能力精神>の技術が一定のレベルを超えて、星想の波動、星精神の波動の感知及び操作が可能になった証し※
星想の波動か……。
<超能力精神>をより強めて、目標に向けて意識を集中しながらも宇宙と繋がる的な……空間内にある大きな物質から、小さい粒子の糸を動かしたり、纏めたり、千切ったりしながら、目標に影響を与えるイメージだろうか。
その次は<星想潰力魔導>。
※星想潰力魔導※
※<導魔術>と<光闇の奔流>に<超能力精神>、<銀河騎士の絆>が必須※
※星想の魔力波動で物質の圧縮を促す※
※銀河騎士アオロ・トルーマーが得意としていた※
銀河騎士のアオロ・トルーマーさんに感謝だ。
今度は<湖月魔蹴>をチェック。
※湖月魔蹴※
※各種高能力or<魔人武術の心得>が必須※
※<組手>系と<霊魔>系のスキルが必須※
※月を描く機動で振るう足技、使い手の任意のタイミングでキャンセルも可能、他の組手に合わせた連続攻撃も可能※
主に浴びせ蹴りのイメージで使ったが、応用は可能か。
次は<獄魔破豪>だ、チェック――。
※獄魔破豪※
※獄魔流技術系統:上位槍突貫※
※<魔槍技>に分類、槍の形と使い手のシンクロがシンプルなほど<獄魔破豪>の威力が増すだろう。また、使い手の魔技技術系統、魔闘脚系歩法術の差異で威力が増加※
独鈷魔槍と雷式ラ・ドオラは形がシンプルだから、この<魔槍技>に合いそうだ。
そして、<水月血闘法>。
※水月血闘法※
※独自闘気霊装:開祖※
※光魔ルシヴァル独自の闘気霊装に分類※
※<脳魔脊髄革命>と<魔雄ノ飛動>と魔技三種に<超脳・朧水月>、<水神の呼び声>、<月狼ノ刻印者>が必須※
※霊水体水鴉と双月神、神狼、水神、が祝福する場だからこそ<水月血闘法>を獲得できた※
※血を活かした<魔闘術>系技術の闘気霊装が<水月血闘法>※
開祖か。水月拳法的?
<月狼ノ刻印者>か。神狼ハーレイア様との邂逅とアルデル師匠との訓練に、ホワインさんとの闘いも経験として積んだ証明だろうか。水鴉たちを、あの幻狼たちのように扱える?
槍、剣、格闘、魔法、すべてに通じる<魔闘術>系の上位版と思えばいいか。
今度は、<水月血闘法>の<水月血闘法・鴉読>をチェック。
※水月血闘法・鴉読※
※<水月血闘法>技術系統・上位避け技※
※霊水体水鴉の力を活かすように複数の水鴉が使い手を守りつつ分散。使い手の体を加速させつつ、回避性能を向上させる※
回避術だな。
次は<血想剣>。
※血想剣※
※血想剣法:開祖※
※様々な高能力を条件に<血魔力>と<導魔術>に飛剣流、絶剣流の技術が必須※
※<血魔力>と<導魔術>の能力で様々な武器を操作しつつ、使い手も武器を使う※
※使い手の想念を活かす光魔ルシヴァル独自の剣法※
アキレス師匠の<導魔術>などを軸に一瞬でイメージしたが、血を活かした独自の剣法か。
更に、<血想剣・魔想明翔剣>をチェック。
※血想剣法・奥義※
※発動条件に無数の武器が必須。嘗て戦った武芸者の動きを<血魔力>の想念で作りつつ、その<血想剣>の魔力が掴んだ武器類で武芸者や使い手が獲得した剣技を独自昇華させつつ発動させる。瞬く間に七から十以上の斬撃を標的に繰り出す※
この奥義は、俺の戦闘型デバイスがあるからこそ可能な必殺技。
次は<攻燕赫穿>。
※攻燕赫穿※
※戦神流技術系統:中位突き。上位系統は亜種を含めれば数知れず※
※戦神ラマドシュラーが愛用する<刺突>系に連なる戦神槍スキル。槍を加速させつつ赫く燕の火炎魔力を穂先から放出、赫く燕に触れたら爆発。中距離技に分類※
※聖槍ラマドシュラーで<攻燕赫穿>を繰り出すと、威力が上昇。燕に戦神ラマドシュラーの加護がある※
恒久スキルもあったな、<旭日鴉の導き>をチェック。
※旭日鴉の導き※
※水神と光神の加護が必須※
※旭日と同時に神々との交わりで生まれた水鴉でもある太陽神ルメルカンドの御使いが、黄昏の光魔ルシヴァルの体内に常闇の水精霊ヘルメを含めた様々なモノを宿していることに興味を抱く※
※古きルメルカンドの鴉たち、または、力を失った古の精霊たちから誘いを受けやすくなる※
◇◇◇◇
数時間後。
白絹の髪を揺らすキサラ。
その表情が変化。
キサラはふふっと笑ってから――。
桶に溜まったすべての血を綺麗な足に吸い込む。
すらりとした長い足をさっと桶の外に伸ばしつつ俺を魅了するように桶から出たキサラ。
拱手してから、
「――シュウヤ様。やりました! <血道第一・開門>を獲得。略して第一関門」
「おう、第一関門おめでとう。そのスキル名と略語をよく間違える。が、間違えてもちゃんと本人が<血魔力>を使うと意識すれば、使えるから」
「ふふ、はい。しかし、酔うような感覚に近い。血の匂いと、命の根幹に通じるような血の理解……研ぎ澄まされた全感覚……」
キサラは<魔闘術>と<血魔力>の組み合わせを試すように魔力操作を繰り返す。
ダモアヌンの魔槍からフィラメントを出す。
フィラメントの数が増えたように見えた。
直ぐに、そのフィラメントは消える。
キサラ自身の出力が増えれば細かな魔力操作も微妙に変化するかな。
キサラは戸惑うような仕種で鼻を動かして、周囲の匂いを嗅ぐ。
その様子を見ながら、
「<筆頭従者長>と<従者長>は、元々の能力を有したまま全方向に成長する。キサラは四天魔女として様々な経験を得ているから、光魔ルシヴァルの成長力が顕著に出ているのかも知れない。その成長分、デイウォーカーのヴァンパイアの感覚に慣れるのには時間が掛かるかもだ」
「はい」
「成長度と光魔ルシヴァルの血の慣れに、髑髏武人ダモアヌンか髑髏魔人ダモアヌンだったかな。その一族の力が関わるのかは不明だが」
「ダモアヌンは、髑髏武人、髑髏魔人、どちらの名でも呼ばれていました」
「そのダモアヌンさんの絵か、石碑はあったのかな」
「総本山の至る所に石碑がありました。四天魔女が一人、アフラ・ベアズマが管理していた黒魔女教団の〝天魔女流白照闇凝武譜〟。その経典に、髑髏が特徴のダモアヌンたちの簡素な絵が載っていました。他にも、砂漠を行き交う魔獣に不思議な乗り物と黄金都市、犀湖都市など各砂漠都市の古い街並みを模写したような絵も記されてありました」
「〝天魔女流白照闇凝武譜〟とは重要そうな書物。黒魔女教団の教典の一つとか?」
「はい、原典は失われていると思いますが、写しでも貴重です。白照拳と相反する闇擬拳が載る。黒魔女教団では大切な教科書のような書物。その天魔女流白照闇凝譜を書き写す修業もありました……」
キサラは書き写すの部分で、辛い修業を思い出したような表情を浮かべていた。
そのことは聞かず、四天魔女の残り一人の名が気になった。
「四天魔女。ラテファさんに、アフラ・ベアズマさん、キサラと、あと一人は?」
「レミエル・アブルサッチ。天魔女流と砂塵戦槍流の使い手。<方速剣刃槍>の槍スキルを得意とした強者」
「レミエルさんか。ラティファさんと同様に行方知れず?」
「そのはずです」
俺は頷く。
キサラの蒼い双眸を見ながら、
「そのラティファさんの手掛かりである、ラティファさんの師匠のゾカシィさんが所属していた【玲瓏の魔女】の件も気にしていると思うが……あと回しになる」
「シュウヤ様。無理なさらずとも西の件は魔軍夜行ノ槍業のついでで構いません。師姉は師姉……師姉の人生がある。師姉にも理由があるから【玲瓏の魔女】という組織の幹部になったのでしょう」
「分かった。ジュカさんも納得してくれるかな」
「大丈夫ですよ。わたしと同じ。サイデイルに貢献することがシュウヤ様の貢献に繋がることと、理解していますから」
「了解した。アキエ・エニグマの件だが……」
「アキエ・エニグマとの因縁ならお気になさらず。闘いの最中に彼女から手加減を受けたこともありますが、わたしが闘った過去と違い、アキエ・エニグマも変遷した印象を受けました。古い魔術書を集める理由を含めて、アキエ・エニグマにも深い事情があったと見受けました」
俺もそう考えていたが……。
やはり昔のアキエ・エニグマを知るキサラも同様に考えていたか。
俺の心の考えに同意を示すように頷くキサラ。
蒼い瞳は力強い。
「そして、わたしとシュウヤ様の繋がりを見たアキエ・エニグマなりの、戦略もあるかと思いますが、その戦略に嵌まったほうが、シュウヤ様の交渉もスムーズに進むかと判断しました。先の戦いでは、上院評議員議長ネドー一派が持つ多数の空魔法士隊と空戦魔導師を倒してくれましたからね……強かった。更に、シュウヤ様に魔塔ゲルハットを献上する気っぷの良さ……嫉妬と悔しさを覚えましたが、これは私情なのであしからず。そして、空魔法士隊と空戦魔導師を多数屠ったことは、アキエ・エニグマとセナアプアの【魔術総武会】の勢力が、評議員たちに警告を促しつつ【血長耳】と【天凜の月】側に付いた。と堂々と宣言することと同じこと。魔法学院を監督する側でもある【魔術総武会】の組織の幹部が行った、この裏切りにも近い一連の出来事は……セナアプアにおいて大きな節目、重要事項になるはず」
歴史が動いた一夜ってか。
フォド・ワン・ユニオンAFVで派手に逃げたが……。
そう考えると、
「セナアプアの【魔術総武会】の幹部たちと、魔法学院や空魔法士隊を有する評議員たちの間で争いが起きる可能性もあるか」
「はい、監督官的な校長の暗殺、教員、生徒兼空魔法士隊のメンバー、色々と内戦的な問題が重なるかも知れないですね」
「その一連の出来事を予想しての行動だとすると、余計にアキエ・エニグマが強かだと分かる。背後のセナアプアの【魔術総武会】のメンバーも気になるところだ。【玲瓏の魔女】のグループのような強い大魔術師は他にもいるんだろう?」
「セナアプアの【魔術総武会】が主催するパーティには出席したことがないですし、空戦魔導師のように戦う場面も見たことがないので、正直実力は分かりかねますが、大魔術師シオン、大魔術師ダルケル、賢者ゼーレ、などの名は聞いたことがあります。いずれもアキエ・エニグマに劣らず強者でしょう」
「そのセナアプアの【魔術総武会】が俺たちの味方側に回れば、評議員たちも動きが鈍るか」
「はい。だからこそ、アキエ・エニグマのシュウヤ様に対する貸しに繋がる」
血長耳の行動を読んだだけの行動だと思っていたが、大魔術師アキエ・エニグマとは仲良くしたほうが良さそうだ。
「Win-Winか。俺たちが【魔術総武会】の顔役として交渉してきたアキエ・エニグマを活かせば、セナアプアの【魔術総武会】と本格的に敵対せずに済むし、各魔法学院の育成機関でもある空魔法士隊の押さえにも繋がると……強い空戦魔導師と【魔術総武会】に所属する他の大魔術師には、逆効果になる場面もあるとは思うが……それでも、空極的な実力を持つアキエ・エニグマが俺たちの側なら、抑止力になるか」
「はい、互いに利点がある。その抑止力になるアキエ・エニグマは大魔術師。凄腕というレベルではない不老長寿を征く存在。その大魔術師がシュウヤ様と縁を結ぼうとすることには、他にも大きな理由があるような気がします」
キサラの喋りに、アキエ・エニグマがカードマジック的な魔術か魔法を繰り出して遊んでいたことを思い出す。
見ている分には面白いが……。
実際にやりあうとなったら、怖いってもんじゃねぇからな。
「あまり想像できんが、セナアプアに大きな危機が迫っていると、予見しているとか?」
「もしくは、アキエ・エニグマ自身が四面楚歌の状況に陥り、手に負えない状況になると予想していて、そんな状況を打破できる救世主がシュウヤ様だと思っているのかも知れないです」
だからこその先行投資。
貸しか……敵対しないなら敵対せず、穏便にすませたいし、貸しなら喜んで返すつもりだ。
ま、罠とかでない限りの話だが……。
「あるかもな。セナアプアの【魔術総武会】の内部でも俺たち側に付くか、ネドー側に付くか、意見が割れていたとか?」
「はい、あり得ます。他の都市にも【魔術総武会】はありますし、実は大魔術師同士の因縁で、魔法学院同士の争いに発展していた? と予想ができます。そういった関連で、アキエ・エニグマは強力な味方としてシュウヤ様を欲しているのかも知れない……」
センティアの手とかを考えると十分ありえそうだ。
「あり得る……他だと、あのラモンとかいう怪物が暴走しそうで俺に助けてほしいとか? アキエ・エニグマが信奉する神勢力と敵対する神勢力が、俺たちと共通項があるとか? 血長耳が権利を持つエセル界の侵入経路を巡る争いの余波でエセル界に行きたいから血長耳と仲良くしたいとか……相棒ロロディーヌの神秘性に惚れたとか」
俺がそれらの可能性を示唆すると、キサラは沈黙。
思案に沈む。
黒猫の部分には冗談を込めたが、真剣なキサラだ。
「どうした、新しい<筆頭従者長>。アキエ・エニグマとの敵対はないと思うが、そのアキエ・エニグマが不安に思うような存在を考えたら怖くなったか?」
と笑いながら聞いた。
「怖くはないですが、シュウヤ様の広い予測力は機知に富んでいる。ある種の予知能力に近いかと思いまして」
「はは、予知って言うか、一石を投じたことによって生じる予測はある程度はするもんだろう。戦いとは瞬間瞬間の予測の連続だ。無数にある選択肢から、より良い選択肢を普通は選ぶもの……だが、人などの知的生命体は、敢えて不利を選ぶことがある。俺のような存在は特に多い。ま、何事も一つの選択肢として予め考えておけば、スムーズに事を選べるもんだ」
「はい」
「さて、ロターゼにも<筆頭従者長>になったと報告しないとな?」
「勿論です!」
とキサラは姿勢を正そうとしたが、<血魔力>と<魔闘術>のバランスが取れないのか、コケソウになった。
すぐにキサラの体を優しく支えた。
「……元々強い武芸者でもあるキサラだ。カルードも苦労していたことを思い出す。このまま手を貸して歩くか?」
「はい……少し」
キサラは顔を赤く染めた。
そんなキサラの片腕と背中を片手で支えながら、少し歩く。
キサラの体温とおっぱいの感触が凄く心地いい。
鼻の下を伸ばしつつ、空き地に作った邪界ヘルローネの樹木製の小屋を消去。
すると、
「シュウヤ様――」
と、頬にキスをされた。
キサラは恥ずかしそうな表情を浮かべて、さっと身を翻し離れた。
笑みを讃えたキサラ。
「ふふ、不意打ちキスの成功です」
「はは、一本取られた! が、キスなら大歓迎だ!」
俺はキスをねだるように唇を窄める。
が、キサラは浮かせていたダモアヌンの魔槍を操作。
「――早く<筆頭従者長>の能力に慣れたい――あ、難しい――」
キサラはそう語りながら<血魔力>を試す。
床に浮かせたままのダモアヌンの魔槍の孔から出た<血魔力>が輝くフィラメントの線に乗って、そのフィラメントの上を歩いた。
キススルーパスを見事にすかされた俺。
梅干し食べたスッパマン的に唇の形を細くしていた俺だったが、何も語らず元に戻した。相棒やレベッカのツッコミが欲しかった。
血が伝うフィラメントの上を歩くキサラ。
ギター系の音がフィラメントと靴底から響く。
そのまま綱渡りでもするように歩くキサラは、
「……聴覚も、すべてが変わると……メファーラ様から伝わった魔神武術、魔人武術を取り込んだ天魔女功と百鬼道も進化を――」
と喋りつつ、ダモアヌンの魔槍から降りた。
自分の掌を見ては、魔力のうねりを確認している?
手首に黒数珠を出しては、黒鴉を数羽出していた。
<魔謳>の一部も口笛を吹きつつ……。
少し披露。キサラは能力確認を急ぐ。
ダモアヌンの魔槍を仕舞ったキサラは、俺を見て、
「――<分泌吸の匂手>、探索、追跡、誘い……<血魔力>も奥が深い。応用があらゆる面で可能。しかし、ヴィーネ、ユイのような武器に活かせるまでは、難しそうです」
「気が早い。ま、何事も修業だ。一端宿に戻るか、明日はセナアプアだ」
「はい」
続きは来週。
HJノベルス様から書籍版「槍使いと、黒猫。12」最新刊が10月22日に発売予定。
コミックファイア様から漫画版の槍猫1~2巻が発売中。




