七百二話 黄昏を地で征き歩く騎士
2021/04/21 21:43 修正
現れた黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスは片膝を地面につけた。
「ゼメタスですぞ!」
「アドモスですぞぉ!」
イモリザの肉肢がピクピクと反応。
『イモリザですぞぉ』と聞こえたような気がした。
大型の黄黒虎と白黒虎も、その沸騎士たちに近寄っていく。
「ニャァ」
「ニャオ」
大虎の二匹は頭部と頬を沸騎士たちの頭蓋骨の兜を磨くように擦り付ける。
そして、兜の表面に大きな鼻を付けては、ふがふがと、沸騎士たちの頭蓋骨の匂いを嗅ぐ。
「……アーレイ殿……荒い息ですな……」
「ヒュレミ殿……頭部は美味くないですぞ」
少し怯えた感じで喋る沸騎士たちが面白い。
黒色と赤色の蒸気が減ったような印象を受けた。
その煙的な蒸気が大虎のアーレイとヒュレミの毛に当たる。
それはドライヤー、いや、巨大送風機が放つような勢いのある強風だった。
アーレイとヒュレミは、強風を受けたように全身の毛がブアアァァァと持ち上がる。
頭部に圧を受けているのか、顔の肉と骨が揺れに揺れて、涎が飛び散った。
アドゥムブラリがピンポン球となった時のように変顔となった。
変顔の二匹は鼻に毛が入ったのかブルッと体を震わせつつクシャミを行う。
稲妻が迸る鼻水を沸騎士たちにぶちゃっとぶち当てていた。
帯電しているクシャミの鼻水を喰らった沸騎士たちは体に電気的な稲妻が走っていたが、あまり動じていない。
そんな調子で激しい挨拶を沸騎士たちに実行する黄黒虎と白黒猫。
その二匹の体には、雷状の魔線が迸っていた。
レッサーパンダは出現していないが、幻獣の効果を得ている証拠だな。
「ンン、ニャゴォ」
「ガルゥゥ」
と、二匹の大虎に熱い抱擁を受けた沸騎士たちは倒れそうになった。
「「ぬぉぉぉ」」
痺れたように怯えながら持ち堪えて、大虎たちの愛情に応えようとがんばるゼメ&アドに助け船を出すわけではないが、
「よう、ゼメタスとアドモス。見ての通り、ヘルメはいないが、ここは水気に溢れた洞穴。俺の背後は水鴉の噴水祭壇だ。その祭壇に溜まる水に含まれている水鴉の魔力を目当てに洞窟の奥からモンスターたちが寄ってくる。その寄ってくる期間は夜明けまで。もう残り数時間ってとこか。で、そのモンスターたちを倒すためにお前たちを呼んだ」
「「ハハッ」」
「ニャア」
「ニャオォ」
ゼメタスとアドモスは魔造虎の黄黒虎と白黒虎に支えられながら起き上がる。
沸騎士たちは俺に敬礼するように、骨盾を掲げた。
大虎の二匹は骨騎士に釣られて前足を上げた。
巨大な肉球判子の代名詞である掌球。
そして、狼爪的な小っこい爪と手根球までちゃんとある。
くっ、大きな肉球が可愛い。
俺が頷くと、沸騎士たちは骨盾を地面に下ろす。
「ニャアァ」
「ニャオォ」
アーレイとヒュレミも片足を下ろした。
沸騎士たちの羽織る星屑のマントが煌めく。
仁王像的で、威風堂々とした姿は立派だ。
そのゼメタスとアドモスは、
「この場に押し寄せるモンスターは、私たちの敵! 閣下の敵は、私たちの敵!」
「閣下に呼ばれたことが嬉しいぞ! 我も閣下の盾と剣になり申す!」
「おう、二人とも頼むぞ。洞窟の幅も広いから無理せず倒せる範囲だけでいい」
「お任せあれ!」
「――がんばりまする!」
「ニャゴォ」
「ニャオォォ」
黒沸騎士と赤沸騎士は互いの骨盾を豪快にぶつけ合う。
黄黒虎と白黒虎はさすがに肉球をくっ付け合わせはしない。
沸騎士たちの姿を見ては、興奮して大虎らしい強烈な歯牙を見せていた。
その際、俺は沸騎士たちと大虎たちから目線を逸らして、洞窟の奥をチラッと見た。
俺たち、いや、背後の噴水祭壇に近寄ってくるだろうモンスター集団とはまだ距離がある。
まだ少し余裕があるから、説明しておくか。
ゼメタスとアドモスに戯れる二匹の大虎を見てから、
「説明しとくぞ。旭日が水鴉の噴水祭壇に射せば、その旭日の効果で不浄な魔力が浄化され、真上のネーブ村に虹が架かる。漁では、大量に魚が採れるようになるとも聞いた。因みに、この洞窟の真上はネーブ村でハイム川の入り江にある。レフテン王国の【王都ファダイク】の南だ。そして、ハイム川を挟んで俺たちがいた【塔烈都市セナアプア】がある三角州が南にある。で、水鴉に選ばれた者は、その水鴉から祝福が得られるとも。そして、俺はどうやら、その水鴉に選ばれて既に祝福を受けていたようだ」
「「なんと!! 祝福を!」」
「おうよ、今さっき大量に地底神セレデルの一派の集団と眷属の手強いモンスターを倒したんだが、その戦闘の際に、スキルをたくさん獲得できたんだ。ってことで、水鴉様と呼ばないと、失礼に当たるかも知れない。だから、この場を得られたことに感謝しようか」
「素晴らしい……水の眷属様たちの影響が強い聖域でもあるのですな!」
「水鴉様の祝福! 閣下が水鴉様に選ばれた理由には、水神アクレシス様から加護を受けていることも関係があるのですな」
ゼメタスとアドモスは興奮したように蒸気を体から発している。
「水鴉様だし、常闇の水精霊ヘルメとも関係があるかもな。ヘルメはこの場にいないし、浄化とあるから、少し違うかも知れないが、ま、ここは水神様と光神様と関係した聖域か神域で、一種の鍛錬の場と考えていいだろう」
「おぉぉ、神々が用意した鍛錬の場とは……私も閣下の修業に貢献が……あぁ、ですが、閣下の修業の場ならば、私たちは……」
「――我も貢献したい……しかし、閣下の大事な修業の場であるならば、我らの存在は邪魔となる」
「ふむぅ、アドモス」
「そうであるな、ゼメタス――分かっているな?」
沸騎士同士で語り合うと、互いの分厚い額をぶつけ合った。
額から魔力粒子が迸る。
その頭蓋骨と一体化している厳つい兜に、罅に亀裂が入った。
ふらついた沸騎士たちは重厚な音を立てて立ち上がる。
互いの骨剣の切っ先を、筋肉鎧的な腹に向け合った。
「待った。勝手に腹を掻っ捌いて魔界に帰るな。俺のことはいいから、噴水祭壇を守ればいい」
「「――合点承知!!」」
黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスは武器を仕舞う。
鎧の胸と脇腹の溝から、赤色と黒色の煙か、蒸気的な魔力を噴出させる。
蒸気機関車を連想するぐらいに、煙か蒸気の勢いが凄まじい。
額の亀裂が自然と修復していく。
そんな機能があったっけ?
「ニャオオ」
「ニャア」
アーレイとヒュレミの大虎二匹が離れるほどの火砕流的な勢いだ。
その蒸気か煙の魔力を体内と星屑のマントに吸い込んで納めた沸騎士たち。
その片方の赤沸騎士アドモスが、荒い魔の息を吐きながら、俺を凝視。
……瞳が燃えて見える。
何かを訴えるかの視線。
正直言うと、この視線は怖い。
怖いが……よく見たら、何か炎の瞳は可愛い? 気のせいか。
気合いの眼差しと分かる。
そのアドモスが、
「閣下の背後に聳え立つ祭壇の周囲には、魔素が大量に蠢いている……他にも祭壇を巡る戦いが?」
「ある」
と背後を見た。
俺とヒューイが大型の骨魔術師と蛇蜘蛛の怪物と戦ったお陰で、噴水祭壇と岩階段の一部が崩れている。
「ここからだと祭壇の左側か。そこで他の地底神セレデルの一派と戦っているのは、波群瓢箪のリサナと仲間のモルセルさんだ」
「承知、地底神の一派……閣下が前に討伐した地底神ロルガのような彼奴ら!」
「では、地底神セレデルも、独立都市フェーンを巡る冒険の際に現れた勢力の神々の一柱?」
「さすがに独立都市フェーンとは距離があるから違うとは思う。んだがなぁ……地底神同士も争いがあるだろうし……共通点は黒き環から出てくる連中ってぐらいか? アムたちが争う魔神帝国の枠なのかも不明だ……魔界セブドラも神々と諸侯が争い合う、または呉越同舟のような展開もあるだろうし、その辺りの予測は難しい」
俺がそう語ると、ゼメタスとアドモスは頷く。
そして、ゼメタスは、
「この地底の戦いでは、蛸の頭をした生物たちに足が大剣のようなモンスターもいました」
「魔界にも似たような敵はいますぞ……」
「ふむぅ、魔公爵アゾリンの小癪な手下ジャックハルども……」
沸騎士たちと争う魔界セブドラの諸侯が一人の魔侯爵アゾリンか。
時々、名が出ることは覚えている。
が、今は、
「おう。魔界セブドラの中にある勢力争いは興味深い。が、今はセラの地下にある噴水祭壇だ。で、黒き環のすべてではないと思うが、その黒き環から出現するであろう魔神帝国の連中の他にも、闇毒の都【地下都市ダウメザラン】のダークエルフの魔導貴族、ドワーフのラングール帝国、はぐれドワーフ集団、ヴィーネと戦った呪神フグを信奉する集団、オーク帝国のオーク。オークは氏族も多いからな。<従者長>となったクエマ&ソロボは極一部。そのオーク帝国が支配する【地下都市グドーン】には地底神キールーを信奉するオークキングと、そのオークキングが率いるオーク氏族の集団がいる。オークキングの氏族は知らんが、将軍とかの地位かもな。それらの集団or軍団が、この水鴉の噴水祭壇の魔力目当てに、襲ってくるかも知れない」
沸騎士たちは鷹揚に頷く。
地獄を行き交うような、魔界騎士たる姿の沸騎士たちは、素直にカッコイイ。
そして、その渋い片方の黒沸騎士ゼメタスが、
「ハイッ! どこの勢力であろうと閣下の戦いに貢献する思いですぞ」
俺も頷いた……。
そして、紅玉環がぷっくりと膨らんで見える単眼球のアドゥムブラリと、右腕の戦闘型デバイスの風防に浮かぶアクセルマギナに、
「この祭壇について、アドゥムブラリとアクセルマギナは何か分かるか?」
「魔力が高いぐらいしか分からん。俺は水鴉に選ばれていないからな」
とアドゥムブラリは答えた。
続いて、右腕の戦闘型デバイスのアクセルマギナは、俺に敬礼を行ってから、
「――他にない魔電磁波、次元魔電波、次元放射線に近い類いの粒子を検知できます。が、詳細は不明です。魔素転換効率が異常に高まっているぐらいしか分かりません」
と報告してくれた。
黙って聞いているゼメタスとアドモスに向けて、
「ま、要は、そこの奥から来る敵をぶっ潰せば、任務完了だ」
「「お任せを」」
「我ら、沸騎士が――」
「おう! 私たち沸騎士が――」
「「閣下の敵を粉砕する!」」
骨剣と骨盾を勢いよくぶつけ合う沸騎士たち。
いつもの行動だが、やはり、この気魂溢れる行動は頼もしいし、自然と元気をもらえる。
俺は気合い溢れる沸騎士たちと可愛いアーレイとヒュレミに向けて、
「アーレイもヒュレミも沸騎士たちと一緒に、モンスターを倒してこい」
「ニャァ」
「ニャオォ」
沸騎士たちは、傍に寄ったアーレイとヒュレミの大虎に乗った。
「閣下、出陣の下知を!」
「下知ヲォォ」
はは、骨剣を掲げて、戦国武者だなぁ。
カッコイイ沸騎士たちに対して、俺は敬礼。
ラ・ケラーダの想いを言葉に込めながら、
「分かった! アーレイとヒュレミに沸騎士たちも狩りを楽しんでこい! ただし、基本は防衛だから、あまり奥に向かうなよ」
「「――ハイ!!」」
「征ってまいりまする!」
「――ヒュレミ殿、共に閣下に貢献しようぞ――」
先に駆けていく大虎ヒュレミに騎乗しているアドモス。
「アドモス、先駆けは許さぬ――まてい!」
少し遅れて大虎アーレイに乗ったゼメタスが洞穴の奥に向かう。
毎回のように先駆けを争う沸騎士たち。
さて……こちらは沸騎士たちに任せるとしよう。
噴水祭壇近くで戦うモルセルさん側に加勢かな――。
踵を返した。
『ジャイアンツ・コーズウェイ』と似た岩階段は崩落中。
水が急流となって滝となっている岩場もあれば、小さい泉と小川を形成する岩場もある。
滝もあるし、これはこれで幻想的で良い雰囲気だ。
壊れていない岩階段を蹴って、跳躍――。
宙空の足下に<導想魔手>を生成し、その<導想魔手>を蹴る。
高々と飛翔するように噴水祭壇の上のほうの、向こう側に宙空から移動した。
荒鷹ヒューイも俺に釣られたか?
頂上にある噴水祭壇の石碑から離れると、飛翔を開始していた。
俺は再び<導想魔手>を蹴って跳びながら――右側のリサナとモルセルさんを確認。
リサナが前線基地と化しつつも連携が見事な戦いの現場だ。
モルセルさんは、水魔槍ネプルフィンドで骨騎士を倒しまくる。
リサナは、蔓が絡む波群瓢箪を斜め前方に放る。
その波群瓢箪を軽々扱うリサナの姿に、一瞬、細身の蛇人族のヴェハノを思い出す。
波群瓢箪はヴェハノが扱う流星錘ではないが、蔓に絡む波群瓢箪が巨大な錘に見える。
ま、リサナが凄いのか。
波群瓢箪と蔓の動きから、巨大なハンマーが付いたハンマーフレイルにも見えた。
その二人に向けて、
「モルセルさんとリサナ。こっち側は沸騎士たちに任せることにした」
「――おう、そのふつきしってのは、仲間か部下か。あ、また召喚したのか? それにしても、奥からの出現が多い」
「――モルセルさん、少し退いてください――」
リサナの発言だ。
モルセルさんは直ぐに周囲を把握しつつ、
「了解――」
モルセルさんは水魔槍ネプルフィンドを振るった。
骨騎士を薙ぎ払ってからタイミング良く退いた。
刹那、笑顔のリサナの体から出た蔓と繋がる波群瓢箪が右側に直進――。
駒のように激しく回転する波群瓢箪は、右側の骨騎士たちを潰し直進――。
雷撃を伴うかのような凄まじい重低音を響かせる波群瓢箪は、そのまま骨騎士たちを潰し続けながら右側に向かった。
壁と激突した波群瓢箪はドガッと壁を粉砕するように、見事に壁に嵌まり込む。
波群瓢箪の威力は激烈だ。
その波群瓢箪を放ったリサナは、片手に絡む蔓を引っ張る素振りを見せつつ小さく跳躍しては、液体が混ざる半透明な片足を振り抜いた。
振るった足から、桃色の斬撃刃を繰り出す蹴り技を披露。
あれは初見だ。スキルなのか?
メルの踵から生えた黒翼的な魔刃にも見えた。
カッコイイ。
リサナは骨騎士に踵落としにも見えた蹴技をヒットさせてから、片手で地面を突いて、回転しながら着地。
と、いきなりまた両足で地面を突いて跳ねては、
「――シュウヤ様! 洞穴の右側の敵はわたしたちにお任せください――」
そう宙空から叫ぶと、岩壁に嵌まった波群瓢箪を瞬時に手元に引き寄せた。
波群瓢箪が嵌まっていた岩壁は大きく窪んでいる。
卵の殻を割ったように、無数の亀裂から割れた岩が下に散乱して水飛沫を発生させていた。
その波群瓢箪を引き寄せているリサナは骨騎士目掛けて下から波群瓢箪を振るい投げた。
波群瓢箪はゴロゴロと縦回転――。
ボーリング場かい――。
波群瓢箪は数体の骨騎士をピンでも吹き飛ばすように倒す。
そして、波群瓢箪は瓢箪か、歪な鋼の鐘的な形だから当然、回転は不規則になって跳ねた。
その跳ねた先の骨騎士たちは、南無。
と、お祈りしたくなるぐらいに、一気にぺしゃんこ。
周囲の骨騎士たちは、変な叫び声を上げているが、逃げようとしない。
あくまでも戦いを望むタイプか。
知能は高くないようだが、戦闘能力は高い。
退かない骨騎士たちを見たリサナは、その波群瓢箪が地面に嵌まって止まった位置にまで前進。
モルセルさんも続く。
二人は連携して、波群瓢箪を壁や盾に利用するつもりか。
モルセルさんは波群瓢箪の周りを回りながら、骨騎士の攻撃を避けた。
すると、リサナがモルセルさんの直ぐ横から突出しつつ左手に持った扇子を袈裟懸けに振るう――。
メイス持ちの骨騎士を真っ二つに両断していた。
モルセルさんも連動。
リサナの背後に回った骨騎士に向けて「リサナ嬢、背後は任せろ!」と叫ぶモルセルさん。
水魔槍ネプルフィンドを<投擲>――。
水魔槍ネプルフィンドは氷の刃の両手剣を持つ骨騎士の下半身を突き抜ける。
下半身が吹き飛んだ骨騎士は倒れた。
無手になったモルセルさん。
チャンスと判断した骨騎士の斬撃を前転しながら避けた。
モルセルさんは前転しつつ地面に突き刺さっていた水魔槍ネプルフィンドを片手に掴むと、膝を付けて着地しながら――リサナが伸ばした蔓を片手で掴む。
と、リサナの力も加わった遠心力で、波群瓢箪の横をぐるっと宙を飛翔するように回ったモルセルさんは、その勢いを水魔槍ネプルフィンドに乗せた<刺突>を、反対側にいた骨騎士の胴体にぶち当てた。
水魔槍ネプルフィンドの穂先が骨騎士を貫く。
同時に螺旋した水色の魔力が水魔槍ネプルフィンドの穂先から柄とモルセルさんの手から腕に肩へと突き抜けていった。
カッコイイ連携だ。
リサナは波群瓢箪の上から跳躍しながら扇子を<投擲>。
水魔槍ネプルフィンドを両手に持ったモルセルさんは、そのリサナをフォローするように<豪閃>的な振るい回しを行う。
二体の骨騎士を薙ぎ払ったモルセルさん。
続けて回し蹴りを隣の大柄の骨騎士に喰らわせて、吹き飛ばす。
モルセルさんの背後の骨騎士を扇子で斬ったリサナは、その扇子を引き戻す。
そして、側転から片手で地面を突いて、斜め上に跳躍しては、伸身宙返り。
また、波群瓢箪の真上に華麗に着地――。
と、俺に向けてポージング。
思わず、拍手した。
暫し、二人の連携無双を見てしまった。
「――俺もこっち側の敵の殲滅に加わるがいいか?」
「勿論です、シュウヤ様。左側には、ごらんの通り、まだ敵が多いです。お願いします!」
リサナが指摘する左側には、うじゃうじゃと骨騎士と骨魔術師がいる。
「おう。シュウヤ、頼む――俺は少し休憩したい」
回し蹴りを見せたモルセルさんは、肩で息をしている。
そりゃそうか、派手な動きだったからな。
それに、モルセルさんもタフで強いが、スキルがあるとはいえ、人族か魚人。
光魔ルシヴァルのような継戦能力はない。
「分かった。左側は任せろ――」
そう発言しつつ神槍ガンジスを持ちつつ宙空を直進――。
――最初の標的は骨騎士。
大柄の骨騎士の頭蓋骨、兜を装着しているが、構わない。
――神槍ガンジスを振り下ろした。
<豪閃>の方天画戟の月刃が、骨騎士の兜と頭蓋骨を両断。
そのまま骨騎士を縦に両断。
神槍ガンジスを振るい回しながら着地するや否や全身の防護服を意識しつつ<血鎖の饗宴>――。
血鎖の群れが唸り声を上げるような勢いで、周囲三百六十度に展開――。
<血鎖の饗宴>の波に飲まれた骨騎士の集団。
瞬く間に、骨騎士の集団は血鎖に貫かれて、蒼白い閃光を伴いながら消えた。
よっしゃ!
血鎖が壊していない、無事な氷の両手剣を数個拾っておく。
剣の腹辺りに氷の意味があるルーン文字が彫られ、薄らと青い魔印が浮いている。
中々カッコイイ武器だ。
柄は鋼っぽいし、マジックアイテムなことは確実。
セナアプアのメンバーか、サイデイルか、ヘカトレイルか、ホルカーバムか、ペルネーテか、各地にいる仲間にプレゼントするのもいいかもな。
両手剣使いといえば……。
ま、肩の竜頭金属甲に喰わせるのも一興か。
そのままフルチン、いや、竜頭金属甲の能力で衣服を整えつつ壁際を走っては、残りの骨騎士の集団の下に向かう。
<水月血闘法>を実行しつつ壁を走った。
シュタタタと、壁を忍者の如く、十数メートルは壁を走っただろうか――。
その岩壁を蹴った三角跳びで――飛来する両手剣を避ける。
両手剣を<投擲>してきた骨騎士。
その骨騎士の周囲にいる骨騎士の集団と白マントの骨魔術師に向けて突貫――。
無手状態の骨騎士は対応できていない。
俺は、体幹を軸として回転する技の<豪閃>で左から神槍ガンジスを振るった。
骨騎士の首に吸い込む方天画戟の矛が、無手の骨騎士の首をスパッと切断――。
右手に持ち替えた神槍ガンジスを、自らの体に巻き込むように螺旋するイメージで横回転しつつの着地際の反動を、そのまま右肩に乗せた<槍組手>『右背攻』を敢行――。
その骨騎士の首なし胴体に、俺の『右背攻』の肩と背中の打撃を喰らわせた。
首なし胴体の骨が散るように、首なし胴体が吹き飛んだ。
その<槍組手>の回転を維持しながら――。
掌握察で察知していた骨騎士の動きを把握しつつ<生活魔法>を実行。
そんな、水の外套を纏うが如くの俺に対して――骨騎士は、氷の両手剣の切っ先を突き出してきた。
その突き技を避けつつ――。
右手に魔剣ビートゥを召喚。
氷の両手剣の軌道を読みつつ――。
<飛剣・柊返し>を実行。
骨騎士の扱う両手剣の軌道を魔剣ビートゥの刃で滑らせるように逸らしてから、魔剣ビートゥの切っ先を持ち上げるように扱い、骨騎士の体を斬る。
続けて魔剣ビートゥを斜め下に――。
斜め上に斬り上げる。
魔剣ビートゥで×から卍を宙に描いた。
骨騎士の体は一瞬で細切れ。
その魔剣ビートゥの<飛剣・柊返し>の軌道に、違う骨騎士が振るった氷の両手剣が衝突した。
キィン、カンッ、ガッと連続して硬質的な音を響かせつつ骨騎士が扱う両手剣を跳ね返した。
直ぐさま前進――。
骨騎士は近寄る俺に対して、両手剣の切っ先を差し向ける。
――俺は横に移動。
その切っ先を避けた。
避けた刹那、視界の横に両手剣の刃があるが気にせず、左手に魔槍グドルルを召喚。
右足で、半歩斜め前に踏み出す踏み込みから――。
オレンジ刃の<牙衝>――。
下段技を繰り出す。
骨騎士の下腹部を、そのオレンジ刃が突き抜けた――。
オレンジ刃から炎が噴き出る。
骨騎士を下半身から燃焼させた。
続けざまのコンボを狙うか――。
魔剣ビートゥを下から振り抜いた。
上半身の骨が燃焼中の骨騎士を赤い剣刃が下から両断。
そのまま<血鎖の饗宴>を発動――。
俺の体のあちこちから迸る血鎖の群れが、他の骨騎士と骨魔術師を貫きまくる。
<血鎖の饗宴>を用いて倒しまくった。
――レベッカが、この場にいたら、
『もう! 最初から血の鎖を使いなさいよ!』
と言ってきそうな勢い。
が、これも修業だ。
そして、大柄の骨魔術師、<血鎖の饗宴>を防いだ鋼の杖と、蛇蜘蛛の形をした銀の冠を備えた存在はいない。
やはり、先ほど倒した大柄の骨魔術師は、地底神セレデルの眷属か。
さて、粗方倒したかな……。
あ、最後に残った骨騎士がいた。
武器を消しては魔槍杖バルドークを右手に召喚――。
その骨騎士は、ポツネンと佇む。
何か切なさがある。
が、悪いな。これも戦いだ。
思いっきり魔力を魔槍杖バルドークに込めてから<投擲>を実行。
――成仏しろ!
と願う訳じゃないが――。
<紅蓮嵐穿>的な魔力が迸る魔槍杖バルドークが骨騎士目掛けて一直線。
ここからだと、魔槍杖バルドークが骨騎士に触れるか触れまいかの距離で、最後に残った骨騎士は蒸発したように消えて見えた。
骨騎士を貫いた魔槍杖バルドークは壁を溶かして直進する。
見えなくなる前に左手を翳した。
――<超能力精神>を実行。
魔槍杖バルドークを左手に引き寄せる。
魔槍杖バルドークはぐわりぐわり回転しながら戻ってくる。
嵐雲の形をした穂先が、宙に紅色の軌跡を描く。
左手で柄をガシッと掴んだ。
螺旋状の穂先、元は紅斧刃。
ハルバードの斧刃としての紅斧刃が、上に湾曲しつつ嵐か、積乱雲か、竜巻か、渦か、を表現しているような禍々しさもある矛……。
ま、紅斧刃の部分も残っているし、ハルバードとしての運用も可能だ。
その嵐雲の形をした穂先を確かめてから――。
魔槍杖バルドークを振るって肩に乗せた。
ふぅっと深呼吸。
と、相棒の丸まった寝姿が脳裏に浮かぶ。
今頃、ニャンモナイト状態で眠っているんだろうか。
一呼吸置くと……。
背後から拍手が響く。
「シュウヤ! すげぇな。瞬殺じゃねぇか」
「はい、格好良かった! やはり、凄く強いです、シュウヤ様は!」
「おう、ありがとう。んじゃ、これを――」
と回復薬ポーションを二つモルセルさんに放る。
「お? っと――」
「ポーションだ。この洞窟の奥にもうモンスターの気配はないが、一応な、疲れただろうし」
「はは、気が利く奴だな! ありがとう」
モルセルさんはポーションの蓋を外して、そのポーションを一気に飲む。
いい飲みっぷりだ。
すると、光る鴉と荒鷹ヒューイが、俺たちの背後の、噴水祭壇から飛来。
光る鴉は俺の周囲を回る。
ヒューイはそのまま天井近くを旋回中。
「水鴉が直に触れようとするとは、珍しい。いや、俺は初めて見る……」
「そうなのか。水鴉……可愛い双眸。ん? 瞳の中のマークが太陽と月? 面白いな」
「カァ、カァァァ」
とその陰陽太極図的な意味がありそうな瞳を輝かせながら水鴉が鳴いた。
「おぃぃ、水鴉が鳴くところは初めてだぞ。シュウヤ、お前は……」
「俺は槍使い。あ、黄昏を地で征き歩く騎士か?」
と笑いながら答えた。
モルセルさんは呆気に取られていたが、笑う。
「ま、そりゃそうだよな。よし、とりあえず噴水祭壇に戻ろうか」
「分かった。しかし、旭日まで、まだ時間はあると思うが」
「……周囲からモンスターの気配が消えたってことだろう。何しろ、今回は俺も初めての経験ばかりで、分からないことだらけだ。ま、これも、水鴉の導きか。水鴉の祝福の儀式、その一環なんだろう」
と、水魔槍ネプルフィンドを肩に乗せたモルセルさん。
親指を噴水祭壇に向けて、「さ、行こうか、黄昏を地で征き歩く騎士のシュウヤ?」と、くいくいっと親指を向けていた。
「了解、リサナも戻ろうか。沸騎士たちも戻ってくるだろうし」
「はい~♪」
続きは来週。
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