六百九十五話 水鴉の宿とロロの裸踊り
エヴァたちがウィッグを付けていると、
「にゃ」
黒猫がエヴァに近付いていく。
「ん、ロロちゃんも付けたいの?」
「にゃお~」
「ん、分かった」
エヴァは相棒の耳と耳の間の薄毛に一房のウィッグを付ける。
頭部に吸い付いた感のあるウィッグ。
モヒカン的な髪型の出来上がり。
「にゃ、にゃ、にゃお~」
立派なモヒカンのサルジンとは違う。
一房だけの可愛いモヒカンだ。
一瞬自慢そうな表情を見せた黒猫だったが……。
気に入らないらしい――頭部を左右に揺らして、
「ンンン」
喉声を鳴らしながら前足で頭部を洗うように掻いた。
ウィッグの根元に爪を当てて梳く。
そのまま頭部に吸い付いたウィッグの毛を派手に散らした。
頭部を揺らす黒猫は、
「ンン――にゃ、ンンン――」
変な鳴き声を発しつつウィッグを振るい落とすように走り出す。
廊下を走っていって見えなくなった。
「ふふ、ロロ様の慌てた姿はチャーミングです」
「ん、可愛い。けど、新しい毛の感触にびっくりしたのかな?」
「ロロは鼻先に葉が吸着したことがあったからなぁ。その微妙な感触を思い出したのかも知れない」
昔を思い出しつつ語るとキサラは微笑む。
胸元に手を当てて、
「双月神様と神狼ハーレイア様との出会い。そして、月狼環ノ槍と関係した情緒に溢れる偉大なお話ですね……」
と、恍惚的な表情を浮かべて語る。
キサラは修道服をベースにした黒色のノースリーブ衣装だ。
その鎖骨が魅力的なキサラを見ながら、
「そうだ。神々と月狼環ノ槍。ホワインさんとの戦いでは、彼女の片眼に神狼ハーレイア様の環を……」
偉大な射手との戦いを思い出しつつ呟いた。
その結果、<月狼の刻印者>のスキルも獲得した。
当初は『ホワインさんに呪いを与えてしまった』と嘆いていたが……呪いではなかった。
そして、神狼ハーレイア様は、あの時……。
『ふふふふ、構わない。そして、古代狼族ではないが、我の気に入った女の片眼に、力を授けることに協力してくれたことにも感謝しよう』
と、語っていた。
ヴィーネも、
「月狼環ノ槍の環の数は八つ。その環の一つはホワインの片目。地下祭壇の魔法陣の周囲にも八つの狼の像があったと聞きました」
そう語る。
キサラとエヴァは頷いた。
宿の主人は興味深そうに俺たちの話を聞いていた。
棚に鎮座する鴉の石像が輝く。
胸元の<光の授印>的なマークが一瞬輝いた?
気のせいかな。
「ん、シュウヤが戦ったホワインさんは神狼ハーレイア様の刻印を受けた。新しい眷属ということ?」
俺は『そうだ』という意志を込めて頷いた。
そして、皆に向けて、
「祭壇にあった狼の像は八つ。ホワインさんの他に、七人の神狼ハーレイア様の眷属が誕生するということでしょうか」
キサラが語る。その眷属たちより、青龍偃月刀と似た月狼環ノ槍を思い出す。
……槍の名があるが薙刀、大刀に部類される武器だろう。
左手を前に出す、風槍流の構えからの『風払い』と『片手風車』or『片羽根回し』をよく使った。『案山子引き』or『案山子回し』にも応用が可能な風槍流は奥が深い。
棟にある環は、じゃらじゃらと五月蠅かったが、いい思い出だ。
と俺は、その月狼環ノ槍の環と神狼ハーレイア様の眷属たちのことを考えながら、
「どうだろうか……月狼環ノ槍の棟に嵌まっていた七つの環はその狼の像に入った。本体の月狼環ノ槍も、まだ地下に嵌まったままだろうから、世に出る眷属は一人だけかも知れない。ただ、神姫ハイグリアのこともあるからな。どうなるか分からない。ま、神のみぞ知るってことだろ」
「ん、キサラさんも言っていたけど、神話的で凄く素敵」
「はい。古代狼族さんたちの謳も凄かった。と、シュウヤ様は語っておいででした」
「神々に導かれるご主人様と神獣ロロディーヌ様」
最後の言葉は聡明なヴィーネだ。顎の下に指を当てて思考を始めた。
銀色の瞳は鴉の石像を捉えている。その立ち姿は頗る魅力的だ。
すると、エヴァが、
「ん、狼月都市ハーレイアでも色々とあった。ツラヌキ団を救って、ソレグレン派の吸血鬼たちもシュウヤの眷属に」
と語ると、キサラも、
「はい、バーレンティンを筆頭に吸血鬼の元墓掘り人たちは優秀です。サイデイルを防衛する働きも素晴らしい。ハイグリアが師団長クラスと語った、樹怪王の鹿のような頭部を持つ剣士、剣師と呼べる実力者をあっさりと倒していました」
「元墓掘り人たち。皆が皆<血魔力>のスキルを持つ」
「ソレグレン派の元墓掘り人たちは蝙蝠に変身が可能。現在もサイデイルの遊撃隊として活躍中。魔導貴族ならば暗部の長に抜擢されるでしょう」
ヴィーネの言葉に頷いた。
そして、相棒が走った廊下の先からシウの声が響く。
その廊下には、ウィッグの毛が散乱中だ。
「エヴァ、ごめんな。ウィッグの毛がボロボロだ。せっかく付けたのに」
「大丈夫。いっぱいあるし、元々モンスターの毛で使い捨て」
「そっか、ならいいんだ。よし、俺たちも部屋に戻ろう」
「ん――」
「はい、では先に」
エヴァとヴィーネとキサラはウィッグを付け合いながら廊下に出た。
俺は鴉の石像から離れたヒューイを見ながら、
「ヒューイはどうする? 外で遊びたいなら遊んでいいぞ。朝、玄関で集合とするか?」
「キュイ」
ヒューイは右肩に乗る。
今は外で遊ぶつもりはないようだ。
そのままヒューイを肩に乗せて受付にいる宿の主人に頭を下げた。
「キュッ!」
と、鳴く荒鷹ヒューイ。
宿の主人は、ヒューイの行動に目を見開く。
お爺さんとお婆さん。
そのお爺さんは、
「ふぉふぉ、鷹と猫を使役する魔獣使い様! 部屋は廊下の先ですよ。ごゆるりと」
そう発言してから頭を下げる。
お婆さんはロッキングチェアに座りつつ手元で針子の作業中。
そのお婆さんが、
「可愛く凜々しい不思議な鷹ちゃんですねぇ。ふふ、そして、水鴉が反応を示している。皆様に御利益があらんことを……」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、光神と水神に血と魔の坊や……ふふ。この『水鴉の宿』でゆっくりと休んでくださいね」
光神と水神に血と魔の坊や?
と、お婆さんは鋭い眼光を寄越すが、知らんぷりをしながらお裁縫を続ける。
俺はそのお婆さんに「では」と、挨拶してから広間を出た。
短い廊下には三つの部屋があった。
手前の部屋はペグワースさんたちの部屋。
部屋の前の廊下に手を振るシウがいた。
「英雄様、こっち~!」
「――シウ、奥の間に眠るクレイン殿がいるのだぞ。大声を出すでない」
ペグワースさんの父親的な注意声が廊下に響く。
廊下で手を振っていたシウ。
ペグワースさんの声が響いてきた部屋を見て、
「あ、うん。ごめんなさい」
と、喋る。
俺は、その謝るシウに近寄りながら、
「シウ、明日はペグワースさんたちと石像を見るんだろ?」
「そうなの。この村には古い神々の像がいっぱいあって楽しい!」
シウは元気よく語ると、腰紐と繋がった小さい鑿を掲げた。
「そっか。シウもペグワースさんを見倣って魔金細工の職人を目指しているんだな」
「うん。魔金細工も魔石像も魔筆も魔大工も全部!」
「はは、全部か」
「そう!」
シウが自慢気に掲げた小さい鑿から魔力が滲み出る。
シウの心根に反応したかのような生きた反応だ。
代々の職人が使っていた魔道具の一種なのかな。
目標を持ちがんばろうとする姿勢は素晴らしい。
シウを尊敬しながら、
「物造りの道か。シウならできる。きっと成し遂げられるさ、応援しよう」
「ありがとう!」
「おうよ」
「英雄様は明日、ギルドで依頼を受けて神殿の地下に挑むって聞いた」
「その予定だ」
「……ペレランドラ様たちの護衛はいいの?」
確かに……今は空魔法士隊や空戦魔導師の空からの追跡はないが、何事にも絶対はない。
「そうだなぁ、何事にも用心は必要か。アクセルマギナか波群瓢箪のリサナか、誰か他にもペレランドラ親子と一緒に残ってもらうかな」
「あ! 空飛ぶ戦車の操縦をしていた、魔機械の女性の人?」
「そうだ」
戦闘型デバイスの風防からアクセルマギナの姿が投影。
そのアクセルマギナは微かな音楽をバックに敬礼していた。
……毎回だが、BGMのセンスがいい。
シウは、頭部を傾けつつ、俺の戦闘型デバイスを注視する。
小さい紺碧の眼が可愛い。
その双眸が眉と一緒に上向く。
「音楽? あ、操縦桿も格好良かった!」
と、鑿の商売道具で、運転する素振りを見せるシウ。
パイロットとして装甲車を操縦していたアクセルマギナだ。
子供なら注目するのも頷ける。
いや、これは子供も大人も関係ないか。
フォド・ワン・ユニオンAFVの仕組みは知れば知るほどわくわくする。
ナノマシンと生バイオシステムのあるアクセルマギナはフォド・ワン・ユニオンAFVと融合するし、ガードナーマリオルスも関係する。
キャノン砲と連動するボールタレット。
胴体の横に備わる機銃の位置も移動する。
俺の右目にあるサイバネティックス系の技術が使われているカレウドスコープとも連動する特殊スコープもあるようだ。
射出機の下に格納される立体地図を映す作戦机。
インパネが重なるダッシュボードの上には『ドラゴ・リリック』が嵌まる空間もある。
高感度エニチュードワイヤーシステムだけではない。
フォド・ワン・ユニオンAFVの内部は未知数な部分が多いから面白い。
フォド・ワン・プリズムバッチとも連動するかも知れない。
アクセルマギナは、この徽章的なバッチについて『ボタンを押した場合はフォド・ワン・XーETAオービタルファイターの近くに転移する可能性があります』と語っていたし、エヴァが少し話をしたが、転移すると思うから、このバッチには、まだ魔力を込めないが……。
俺がそう思考する間にも、シウは、人工知能として敬礼を行うアクセルマギナを凝視。
ミニチュア人形っぽいがホログラムのアクセルマギナだ。
不思議に見えるのは当然。
塔烈中立都市セナアプアでは、エセル界の魔機械がある程度流通しているとはいえ……。
セナアプアの出来事しか知らない子供だろうしな。
下界には巨大な港があるから違うかも知れないが……。
そのシウが、
「魔道具に住むアクセルマギナさんは精霊様?」
「人工知能だが、ま、似たような……魔法生命体でも通じるか」
「――シウ、英雄様もお休みの時間だ。邪魔はせず部屋に戻りなさい」
ペグワースさんの声が部屋から響く。
「分かった! 英雄様、おやすみなさい」
「おう、お休み」
シウは、ニコッと笑顔を見せる。
俺が頷くと頷きを返してから、部屋に戻った。
その部屋の中からドッとした笑い声が響く。
部屋で何をしているんだ?
俺は廊下を少し歩いてペグワースさん一行が休む部屋に向かった。
扉はない。
アーチ状の縁に手を当てつつ出入り口から部屋を覗いた。
ペグワースさんたちだけで、相棒の姿はない。
黒猫は廊下の奥の部屋か。
そのままペグワースさんたちが寝泊まりする部屋を観察。
三つの寝台と四方に柱。
奥に大きな木の窓。
外は夜と分かる。
部屋の中央には、花瓶と皿が載った小さい机。
紙風船的な光源の魔道具がぷかぷかと浮かぶ。
香具も兼ねているようだ。
紙風船の中には、蛍のような虫が住み着いている?
提灯花火的な変わった光で明滅が続く。
床はオリエント風のラグと茣蓙だ。
部屋は崖から出た懸け造りの構造だから広い。
床を支える柱も太いし、木組みの技術は高いから安定している。
ネーブ村の大工レベルは異常に高い?
それとも過去から残る遺跡のような平屋だったりして……。
ペグワース組合の方々はあまり気にしていない。
せっせと、小さい机を隅に退かしていた。
そして、広い空間を確保すると、一人のドワーフの職人が、大きいアイテムボックス的な袋から茣蓙を出す。その茣蓙を皆が持って、ペグワースさんが皆を厳しい目付きで見てから、皆と呼吸を合わせて「「いち、に、さーん」」と掛け声を合わせつつ床に拡げた。
その茣蓙の上に、粘土と木材の素材を出し始めた職人の方々。
鑿などの道具も取り出す。
鼻歌を奏でながら、それらの粘土と木材を削っては叩く。
トントンカンカンと仏像的な像の原型を作り出していた。
シウもペグワースさんの隣で遅れて参加。
眠るんじゃないのか?
そう考えながら観察を続けた。
どうやら像的なミニチュア人形を作ることが眠る前の儀式っぽい。
【魔金細工組合ペグワース】独自の文化か。
単に寝る前に行う職人としてのノルマ?
ザガ&ボンも含めてドワーフには氏族が多い。
その氏族に伝わる儀式の一環かな。
口ずさむ歌のリズムに乗って、手に持った道具で木彫り像と粘土の像を造り合う。
その造ったばかりの像を批評しあっていた。
シウは造った像をペグワースさんに見せる。
と、ペグワースさんからシウは頭部を『よしよし』と撫でられていた。
喜んだシウ。
その造ったばかりの像を懐に抱いて寝台で眠る。
ペグワースさんはシウが眠ったことを見て微笑む。
心が温まったところで部屋から離れた。
板の間の廊下を歩いてエヴァたちの部屋に向かう。
モッヒーと化した相棒はこちらの部屋か、奥の部屋の扉は開いているから、そのまま入った。
手前の寝台にエヴァがいる、アイテムボックスから荷物を出していた。
そのエヴァが振り返り、
「ん、ここの部屋は自然といい匂いがする」
「あぁ、お香の匂いと似ている」
ペグワースさんたちが泊まっていた部屋より大きい。
四方の角の古い柱にあったのは魚と鳥の造形だった。
古寺にあるような木材なんだろうか。
壁と古い柱にお香がすり込まれてあるのかな。
光源はペグワースさんたちの部屋と同じで、紙風船的な魔道具。
畳があるような床は板の間。
その寝台の一つで黒猫が跳躍をくり返していた。
悪戯娘の黒猫だ。
すると、魔導車椅子を操作したエヴァが、その黒猫に近寄る。
エヴァは下着の薄着に着替え終えていた。
エヴァは黒猫に向けて、
「ウィッグが気に入らなかった?」
と聞くと遊んでいた黒猫は「にゃお~」と鳴いて答えた。
ニュアンス的に『そんなことにゃい』と言ったところだろう。
黒猫は跳躍器具の遊びを止めた。
自分の尻尾を追い掛けるようにくるりと横回転を行ってから鼻先をエヴァに向ける。
「ふふ」
エヴァは微笑む。
その相棒の頭部には数本のちょび髭的な長い毛が残っていた。
長い毛が口元に垂れると、その垂れた長い毛を噛む黒猫。
その垂れたウィッグの毛は短くなって散った。
もうウィッグは少しだけだが、そのウィッグの長い毛が揺れる。
エヴァは、その相棒と顔を合わせた。
表情だけのコミュニケーションを行う。
ニコニコと頭部を傾け合う二人は、可愛い。
そのエヴァは体から紫魔力を放出――。
紫色の<念導力>は寝台の上に散らばった毛を一纏め。
一纏めにしたウィッグだった毛を塊にしては、アイテムボックスに回収。
黒猫はエヴァの扱う<念動力>の紫魔力に向けて猫パンチを繰り出す。
「ん、ロロちゃん、ジッとして」
エヴァの注意を聞いて大人しくなった黒猫。
空振った猫パンチを止めてエジプト座りで落ち着いた。
エヴァは「いいこ」と発言しながら、その黒猫の鼻先に人差し指を当てる。
レベッカがよくやる行動だ。
相棒はエヴァの人差し指を寄り目で凝視。
そして、ペロッと指を舐めてから、その指で頬を擦り出す。
一方、ヴィーネとキサラはペレランドラ親子とリツさんとナミさんと会話中。
塔烈中立都市セナアプアで流行る下着と髪飾りの会話だった。
その女子たちはナミさんが用意した鏡を使いながら下着とアクセサリーの付け合いを始める。
ナミさんは、元々部屋にあった銅鏡を調べていた。
リツさんは鬢盥から髪形が記された布紙を展開しつつ髪飾りと髪薬を勧める。
そのまま皆で和気藹々と着替えを始めていた。
圧倒的な女子の空間だ。
正直、魅力的な女性ばかりだから目のやり場に困る。
俺は無言で踵を返した。
普通に外に出てヒューイと一緒に夜風に当たるか。
出入り口に向かう。
「シュウヤさん、気にせずに――」
「英雄のシュウヤさんなんだから、この新しい見せる下着に、興味をもって見てくれると嬉しいわ」
「そうよ、振り返ってくださいな。シュウヤさんには、プレゼントも用意していますし」
「プレゼント?」
と、振り返る。
グラマーなナミさんは大きい銅鏡をアイテムボックスから取り出していた。
魔力を内包した銅鏡だと思うが……。
鏡の内側は灰色の霧に覆われている。
魔力探知が追いつかないほど魔力の動きが目まぐるしい。
「はい。シュウヤさんが気に入るような夢を幾つかご用意しようかと」
「夢をプレゼントか。気に入るといっても、夢にどんな効能があるんだろう。心理面の改善とか?」
ナミさんはおっぱいカウンセラー的な能力者でもある?
予知夢とかはないだろうし。
「心理面の改善を促す夢もあります。オーガズムを生むセックスの効能を上げることも……うふ♪ ですが、プレゼントしようとしている夢は、そのような普通の夢ではありません。魔力、精神、筋力が増す効果の夢、眠った才能を開花する夢、スキルの獲得を促す夢、リスクがありますが、新しいスキル自体を獲得する夢もあります」
「おお、夢でスキル獲得とか初めて聞いたよ。凄いな……しかし、そのスキル獲得が可能な夢って高額? リスクも気になる」
「めちゃくちゃ高いですね。リスクはありますが、わたしも【夢取りタンモール】に所属した魔法使い。ある程度の夢なら扱えます」
そのナミさんの言葉に、ペレランドラが、
「はい。わたしの悪夢を祓ったようにナミは魔法ギルドなら一級魔術師になれるほどに卓越した魔法技術を持ちます」
「ふふ、その通り」
ナミさんの妖艶な笑顔にドキッとした。
すると、ドロシーが、
「あの、わたしは恥ずかしい」
と、至極当然な反応を寄越して鏡の背後に隠れる。
俺も「あ、すまん」と謝りつつ背中を向けた。
「い、いえ、もう大丈夫です」
ドロシーが発言したから振り向く、恥ずかしそうに瞳が揺らぐ。
すると、大胆な衣装を着たリツさんが、
「シュウヤさん、こちらに来てくださいな。髪形を見ながら、肩揉みマッサージを致します。ふふ。この新しい下着も見てほしいです」
見せブラか。シンプルだが綺麗な下着だ。
ナミさんのほうが胸は大きいが、はっきりいって関係ないからな。
女性のおっぱいは、すべてが神懸かっている。魅力的な二人。
二人ともスタイルが良いってのもあるか。身長はヴィーネより、やや低いぐらいかな。
「リツとやら! あまり胸元を強調しないように」
ヴィーネが腕を翳してリツさんの視線を隠す。
「そうですね、ナミさんの提案は頗る素晴らしいですが、怪しい方向に持っていく可能性が大。おっぱいが危険です」
キサラも十分おっぱいが危険だと思うが。
エヴァはヴィーネとキサラの反応に笑っていた。
ペレランドラ親子とリツさんとナミさんは、チラチラと視線を寄越してくる。
その度にドキッとしてしまう。皆、魅力的すぎる。
背丈の高い衝立はない。小さい間切り板があるだけ。
そして、ナミさんが出した鏡は気になった。
「スキル獲得の夢は興味深い。受け取りたい。だが、それは今度でいいか?」
「はい、命の恩人ですから、いつ何時でも」
ナミさんは微笑む。隣の大胆衣裳のリツさんもいいな。
……さて、紳士を貫いて何事もないように振る舞った。
クレインはどこだと……いた。エヴァの師匠でもあるクレインは左手前の寝台で眠り中。
ぐーすかぐーすかと熟睡中で一向に起きる気配はない。
横の小さい机には魔力が入った酒瓶があったが、この魔酒の効果か?
しかし、結構な騒ぎ中だが、あんたは大物か――その通りで大物だったクレイン・フェンロン。
庶子とはいえ元ベファリッツ大帝国皇帝の血筋だ。
頬には、普段隠れている火の鳥が浮かんでいた。朱華と深紅の火の鳥は美しい。
他のエルフ氏族マークとは異なる、見るからに高貴な印。
クレインは普段、あの頬のマークは見せていない。必殺技を放つ瞬間、火の鳥の印が現れていたことは覚えているが、もしかして、皇帝の血筋特有の睡眠効果だったりする? 氏族の証明を表す証拠らしいが……。
ダークエルフのヴィーネにも銀色の蝶々の印がある。
エルフ特有か<銀蝶の踊武>というエクストラスキルの所以だと思っていたが……。
そもそも、ヴィーネはどうしてエクストラスキルを得た?
たまたま生まれ持っていたからと、何事も断定はできないが……。
もしかすると、もしかするのか? 魔導貴族のアズマイル家には秘密があったとか?
だからこその魔毒の女神ミセア様の恩寵? 地下都市フェーンで魔神帝国の連中に囚われていたダークエルフのミグス。
地下都市ダウメザランに送ったミグスの頬にはマークはなかったはず。
同じダークエルフで過去にラシュウとして生きたバーレンティンにもなかった。
連弩風の魔印を扱っていたが、あれは直接頬に浮かぶタイプではないから違う。
そのヴィーネは銀仮面を外している。すると、俺の肩で落ち着いていたヒューイが、もぞもぞと動いた。
ヒューイの足先の爪が弛緩し強まる。
「キュ~」
「ヒューイ待った」
部屋の中を飛翔しようとした荒鷹ヒューイを止める。
「ヒューイは窓際で待機だ。今、窓を開けるから」
「キュ!」
嘴から覗かせる牙が可愛いヒューイ。荒鷹ヒューイと一緒に部屋の右奥に向かった。
茶色のカーテンを横にずらして木の窓を開ける。
窓は大きいから気分爽快だ、朝方の景色もいいはずだ。
そして、いい風だ――前髪が揺れに揺れる。
浜風的で、空気が美味しい――。
「キュ」
風を感じたヒューイ。
自然と俺の肩から離れて窓の縁に降りた。
宿に来る前の坂から見える光景も良かったが、ここからの眺めも抜群だな。
家々の微かな明かりが蛍の群れに見えた。
その下のほうにいい感じの空き地を発見。訓練ができそう。
腰の魔軍夜行ノ槍業が揺らめく。八人の師匠たちがそれぞれアピールするように魔軍夜行ノ槍業の表層が蠢く。
魔界の八怪卿、八槍卿と様々に呼ばれていた師匠の一人が強く魔力を発していると分かる。
獄魔槍のグルド師匠だろうと、
「キュッ」
荒鷹ヒューイも眼下を見て鳴く。
翼を広げる仕草が可愛い。
「いつでも空を飛んでいいからな」
「キュ」
「飛翔した場合だが、モンスターに気を付けるんだぞ」
「キュゥ~」
嘴を拡げて『わかった』と返事を寄越す仕種が可愛い。
そのヒューイの額にある∴のマーク付近の眉毛をマッサージ。
すると、左手の<シュレゴス・ロードの魔印>が反応。
が、直ぐに反応は消えた。
やはり、シュレも親のような気分なんだろうか。
俺は竜頭金属甲を意識して寝間着風にチェンジ。
そのまま暫し夜景を楽しんでから――少し横になるかと部屋を見渡す。
空いている寝台は右手前だ、クレインの隣。その寝台に腰を落とし、横になった。
――枕の布の感触が気持ちいい。麻的で、ざらつきがいい!
枕の匂いを嗅ぐように枕に突っ伏す――すると、枕に相棒の体重を感じ取った。
黒猫が乗ってきたな。が、わざと反応しない。そのまま放置。
相棒がわざとらしく俺の後頭部付近を歩き回る。
枕に顔を埋めたまま、無視。周囲から笑い声が洩れた。
「ンン」
相棒は俺の様子が気になるのか、俺の耳の匂いをふがふがと嗅いでは鼻息を寄越す。
続いて、後頭部を肉球でタッチ。わざと無視して死んだふりを続けた。
「にゃ、にゃ、にゃおおお~」
と、相棒は俺を心配したのか前足で連続的に叩いてきた。
前足の肉球の感触が気持ちいい。
俺はガバッと振り向いて、その両前足をゲット!
黒猫を抱きしめたった。
薄毛のお腹に息を吹きかけるように、腹にキスを繰り返す。
相棒の匂いはエヴァの匂いとお香の匂いが混じっていた。
宿の木材に体を擦り当てていたようだな。
「にゃ、にゃぉぉ~」
鳴き声はびっくりした感があったが後脚はだらりと下がって全身が弛緩中。
黒猫は嫌がるそぶりは見せない。ごろごろと、喉音を鳴らす。
可愛い相棒ちゃんだ。
「ん、シュウヤとロロちゃんの様子を見ているだけで幸せな気分になる」
「はい……」
「ですね、寝台ではよくある光景ですが、毎回心が温まります」
エヴァとキサラとヴィーネがそう語った。
俺もそんな気分だ。
相棒の右足を握りつつ、エヴァたちに、その片足で手を振る。
「ふふ」
エヴァの天使の微笑を見て、癒やされた。
そして、俺は黒猫の頭部にキスをしながら、両前足の肉球をマッサージ。
猫マイスター気分だ。
シュアッと相棒にウルトラマン的なポーズを取らせたり、押っ広げた股間に肉球を当てたりしては、大事なところを隠す。そして、素早く片方の前足を上げて、大事なところを出して「ご開帳!」と発言。
そして、すぐに反対の片足で菊門を隠す。
二人三脚的に両手を交互に動かした――。
その腕に桶はないが、相棒の体で裸踊り的な遊びを繰り返した。
リズムに乗った黒猫も「にゃ♪」「にゃ♪」と片足を上げる度に鳴く。
「ははは」
と、ヴィーネが珍しく腹を抱えて大きな声で笑ってくれた。
――皆、大いに笑った。
俺に両前足を持たれたままの相棒は――。
ぐたーっと『もっとマッサージしろにゃ』気分なのか、なすがままだ。
ゴロゴロと喉音を鳴らしていた。
すると、笑いながら片目から涙を流していたドロシーが、
「……ふふ。ほんとおかしい! 芸人ですか? でも、温かい笑いです。わたしたち、逃げてきたのに、塔烈中立都市セナアプアの生活がもう過去になった。凄く癒やされます……ありがとう」
ドロシーの言葉には様々な想いが込められていると分かる。
母のペレランドラも、
「本当に……シュウヤさんはお強いと分かりますが、ざっくばらんで素敵な英雄様……」
「お母様。顔に耳まで赤く染めて……英雄様には沢山の彼女さんたちがいるんですよ?」
「ドロシー、マージュだって女。あまり野暮なことは言わないの」
「そうよ。たくあん、いえ、沢山いるからこそ、チャンスがあるの」
リツさんのたくあんで、少し笑う。
俺は黒猫とのまったり遊びを止めた。
相棒を寝台に残して、窓に向かう。
「にゃ」
縁から外を眺めていた荒鷹ヒューイが飛び去った――。
夜間だが、餌を見つけたか?
相棒が「ンン――」と喉声を発して、寝台の上で仁王立ち。
瞳孔は散大しているが、ミーアキャット的で、面白い立ち姿だ。
荒鷹ヒューイが飛んだ先を見ているのか?
俺は、その黒猫を含めた皆に向けて右腕を掲げた。
アイテムボックスを意識して、風防の上に展開されるアイテムの一つを大きく表示。
それは、六幻秘夢ノ石幢。
「ちょい訓練するかも知れないが、このアイテムを使った修業を行う。だから先に休んでてくれ。明日の朝一にクレインが起きたら冒険者ギルドに行こう。依頼を受けたら神殿の地下に直行だ」
「ん、分かった」
「はい」
キサラとヴィーネは俺の供をしたいような表情だが。
俺のお守りより、今はペレランドラ親子だ。
二人とアイコンタクト。
二人は阿吽の呼吸で、ペレランドラ親子を見ては頷き合う。
「んじゃ、頼む」
「にゃお」
「相棒は、まぁ自由に過ごせ」
「にゃ~」
と、片足を上げて肉球の判子を寄越す。
その相棒はくるっと回ってから、エヴァの寝台に跳び移る。
ゴロニャンコ。
背中が痒いわけじゃないと思うが、腹を晒しては、背中を左右に揺らす。
まったく、むちむちとした腹を晒しおって!
その様子を見て笑いながら縁から飛んだ――。
夜風を浴びながらバンジージャンプはしない。
<導想魔手>を蹴って、蛍の夜空を駆け抜ける。
――先ほど見かけた空き地に直行――。
いつもの<導想魔手>ではなく――。
<超能力精神>をクッション代わりに発動。
そのまま着地を敢行――が、衝撃は上手く殺せなかった。
制動が少し狂って片膝で地面を突く――。
が、すぐに立ち上がりつつ周囲を見る。
左右に林と古民家、正面に畑と水車と案山子が点在。
農具が格納された小屋もある。そこには野良猫が数匹いた。
月明かりに怪しげな瞳を反射させている。
その猫ちゃんたちに挨拶してから――さて――。
アイテムボックスから六幻秘夢ノ石幢を取り出した。
腰の魔軍夜行ノ槍業が揺らめいた。




