六百八十八話 相棒のDHAとエヴァの温もり
日の光か。
眩しい、フェニムルの紐腕輪が輝いて見える。
「シュウヤ様、この証書は本物。そして、朝ですね……」
「あぁ……」
と、キサラから魔法袋を返された。
その魔法袋は戦闘型デバイスに仕舞わず腰にぶら下げる。
そして、まだ上院評議会に勝利したわけではないが……この陽の光を浴びると……。
神々に勝利を祝ってもらっている気分となった。
当然、セナアプアにも旭日の明かりは平等に当たる。
魔塔の群れに反射する陽の光。
夜明けのセナアプアも、また美しい。
「塔烈中立都市セナアプア。朝も夜も非常に美しい都市ですが……」
「そうだな、外と中では偉く違う」
陽を浴びたキサラも美しい。
白絹のような髪はなんとも言えない。
そろそろ眷属化の話を展開したいが、まだゆっくりとできそうもない。
相棒も回収しないと――ハイム川を見る。
昏いハイム川にも旭日が当たる。
群青色と翠緑色に近い色合いのハイム川に陽の彩りが加わると、蒼くもあり、水色っぽさもある透き通ったハイム川となった。
……非常に美しい川だ。
三角州のセナアプアの北側特有の現象かも知れない。
黒豹ロロディーヌは煌めくハイム川を無邪気に泳ぐ。
その泳ぐ姿は可愛らしい。
両前足を上下にせっせと動かす猫掻きを行いつつ一対の触手を左右に同時に拡げて器用に泳ぐ――時折、カワウソかラッコ的に体を伸ばして、ゆったりと体を弛緩させながら川面に浮いていた。
今も、まったり状態。
川の揺らぎを体感しているのか、ラッコ状態になった。
陽を腹に浴びる相棒。
まったく……。
腹を押っ広げて、ピンク色の乳首さんが見えているぞ。
自由さ溢れる愛しい神獣様だな。
それにしても気持ち良さそうだ。
俺も何も考えず、泳ぎたいな。
が……。
相棒のなんとも言えない姿を見ていた笑顔満面のキサラを見て、
「あのまったり遊んでいる黒豹を回収してから戻る。下に行こう」
「はい」
と、笑うキサラと一緒に<導想魔手>を足場にして下に向かった。
まったりモードの相棒は、俺たちが降りてきたことを察知――。
背中付近から出した触手を振り下げて川面を何度も叩く。
わざと水飛沫を俺たちに跳ばす。
「ンン――」
『ふふ、虹です』
拡散した水飛沫によって虹が生まれた。
視界に浮かぶ七色の陽を浴びるように踊る小型ヘルメも嬉しそうだ。
楽しげな相棒は「ンン、にゃ」と鳴きながらラッコ的な動きで体を回転させた。
再び「ンン、にゃ、にゃ~」と鳴いては、また猫掻きを行いつつ泳ぎ出す。
相棒的に、どうやら俺たちに泳ぎを見てほしいらしい。
キサラと一緒にハイム川スレスレを飛行しながら――必死に泳ぎを披露する相棒を追い掛けた。
「ロロ、ストップ。そっちの方角はサーマリア方面だぞ」
「ンン、にゃ」
「あとでも泳げる。今は一端皆のところに戻ろう」
俺の声を聞いた相棒は両耳をピクピクッと動かして泳ぐのを止めた。
「ンン――」
が、ハイム川に潜った。
その深く潜ったであろうロロディーヌは直ぐに急浮上。
ザバッと音を立てて水面から出て、胴体から翼を生やしたロロディーヌ。
飛翔を開始してくれた。
大きな魚を咥えている。
魔力を内包した大きな魚だ。
横腹から出ている無数の触手の先にも、大きな魚が突き刺さっていた。
それらの大きな魚の見た目は、目白鮫。
そして、旋回中に体を犬のようにぶるぶると震わせた相棒。
水飛沫を周囲に飛ばす。
器用に大きな魚は落としていない。
同時に、その大きな魚の一部を喰らうと、
「にゃお~」
と鳴きつつ、触手に刺さった大きな魚を俺とキサラに寄越してきた。
「ロロ、この魚を俺たち用に捕まえてくれていたのか?」
「ンン」
囓った大きな魚をハイム川に投げ捨てる。
ま、料理の素材になるから、魔力を内包した目白鮫的な魚を受け取るか。
アイテムボックスに触手に刺さっていた目白鮫的な魚を放り込む。
「ロロ様、わたしはさすがに直に食べる勇気は……」
「にゃお」
そう鳴いた黒豹は触手を振るって目白鮫を捨てる。
そのまま俺のほうに直進してきた。
ヒューイが迫る姿と重なった。
相棒の姿は黒豹だから迫力がある。
その相棒は翼と触手を体内に仕舞いつつ黒猫の姿に縮む。
が、すぐに首から一対の触手を左右に拡げた。
その触手の先端を膨らませる。
エアバッグ風の凧代わりか?
セナアプアにあった気球を見てアイディアを得たのか?
黒猫は、触手の凧で、風の抵抗を利用し速度を落とす。
と、その凧触手を首下に収斂させつつ、俺の右肩に着地――。
面白い機動。
そして、見事な着地だ。
子猫の足に踏まれる形の、足下の竜頭金属甲が、
「ングゥゥィィ、シンジュウ! マリョク、サカナ、ウマカッタ?」
「ン、にゃお?」
黒猫はそう鳴きながら肉球パンチを足下の魔竜王の蒼眼に当てている。
ハルホンクは、その蒼眼をギョロッと動かした。
すると、相棒は珍しく、嘔吐し出す。
苦しげな顔だ。
「にゃ、げぁぁ、ぁげあぁ、げぁが、ばぁ――」
と、先の目白鮫ではない、魔液的なモノを竜頭金属甲にぶっかける。それは、同時に俺の肩だ。
キサラは驚いて黒猫を凝視。
「まぁ! ロロ様、お腹をくだされたのでしょうか!? 吐くのは初めて見ます!」
「おいぃ~」
と、びびった俺は悲鳴をあげた。
「にゃ~」
一転して、相棒はドヤ顔だ。
いや、スッキリ顔か?
「俺も、吐くのはひさしぶりに見たが……」
「ングゥゥィィ! マリョク、アル! ウマイゾォイ!」
と、魚の残骸を喰らった竜頭金属甲は喜んでいた。
相棒が吐いた目白鮫の残骸的な魔液を一瞬で吸い取る。
竜頭金属甲は艶がよくなった気がした。
これはあれか、魔力がふんだんに含まれたDHA効果とかがあるのか?
血栓・動脈硬化の予防で健康によさそうだ。
少し魚臭くなったが、ま、いいか。
黒猫は構わず、ペロペロと竜頭金属甲の魔竜王の蒼眼を舐めだした。
後処理をするつもりか、また自分が吐いた魚を食べたくなったのかは不明だが……。
「ングゥゥィィ、ペロペロ、キンシ!」
ハルホンクは舐められる度に魔竜王の蒼眼をぎゅるぎゅる回転させる。
蒼眼が回転する度に「ピカピカ、ヒカル、ハルホンク、キモチイイ!」と叫び出した。
面白いが、瞼の裏の金属が見えて少し怖かった。
そして、そんな竜頭金属甲との遊びを、飽きたのか、終えた相棒。
ドヤ顔をキサラに向ける。
と、触手で俺の頸と耳朶をくすぐってきやがった。
悪戯する黒猫を見たキサラが、
「少し心配しましたよ?」
「にゃ~」
「ふふ、シュウヤ様が大好きなのですね?」
嬉しそうな表情で応える黒猫さんだ。
黒猫は、俺の悪戯を止めると、キサラにも触手を伸ばす。
「あ、魚は好きですが、あ、わたしもです。はい、柔らかいとは思いますが。あ、は、はい。ありがとうございます、ロロ様……」
相棒はキサラに気持ちを伝えたようだ。
満足そうに髭を動かした黒猫はキサラから触手を離す。
首から出した、小さい一対の触手。
その触手で空を飛ぶ仕草、いや、平泳ぎを行う仕種を表現した。
『ふふ、可愛い触手ちゃんです~』
ヴェニューを引き連れた小型ヘルメも同じように平泳ぎ。
その黒猫の触手の先端は御豆的。
黒飴っぽい触手だ。
その黒飴っぽい触手の裏側にもちゃんと肉球はある。
そして、両前足の裏にある肉球とは少し違う柔らかさを持つ。
だから、あの柔らかさを一揉み体感すると、くせに、なるんだよなぁ――。
と、その相棒の頭部を撫でてから――。
キサラを見て、
「――さて、戻ろうか。助けた方々が気になる」
「はい」
黒猫を肩に乗せたまま<導想魔手>を蹴った。
ハイム川の水面を駆ける。
皆が待つフォド・ワン・ユニオンAFVは、まだ先だ。
<鎖>と小型オービタルは使わない――。
「ンン――」
肩の相棒は、まだ泳ぎたい気分なのか、小さい触手で平泳ぎ。
その小さい触手が首に衝突。
くすぐったいが、我慢した。
フォド・ワン・ユニオンAFVのエネルギーの帆を確認。
俺たちのほうに向くレーザーパルス180㎜キャノン砲。
その砲塔が左に動いて角度が変わる。
ボールタレットの横にガードナーマリオルスの頭部がちょこんと出ていた。
小っこいアンテナを回転させているガードナーマリオルスが可愛い。
しかし、対空兵器を用意していたか。
大魔術師アキエ・エニグマと空魔法士隊の衝突がなかったら、あの対空兵器が火を噴いていたかもな。
そして、そんな大砲と対空兵器の動きを観察する沙・羅・貂の仙女風の三人娘。
ヴィーネは助けたドワーフと会話していた。
そのヴィーネの翼と化していたはずの荒鷹ヒューイがいないと思ったが、斜め上の空でヴィーネの金属鳥のイザーローンと一緒に飛翔していた。
偵察モードかな。
そして、救出した方々の数は十人に満たなかったはず。
無事にフォド・ワン・ユニオンAFVの中に入ったようだ。
しかし、沙・羅・貂が着る羽衣が強く煌めいているから目立つ目立つ。
すると、エヴァの血文字が浮かぶ。
『シュウヤお帰り。助けた人々はペレランドラ親子と一緒。でも、上に乗っているドワーフさんは頑固。危険だから中に入ってください。って言っても、ドワーフさんは〝英雄たちが戦っているのに暢気に隠れてはいられない〟って言って中に入ってくれなかった』
『了解、いかにもドワーフらしい。ま、今、挨拶する――』
『ん』
エヴァとの血文字を終えながら船のフォド・ワン・ユニオンAFVに近付いた。
俺たちのほうを振り向いたヴィーネと沙・羅・貂が早速、
「――ご主人様! お帰りなさいませ!」
「――器、ドワーフの彫り師から、妾の像をもらったぞ!」
キャノン砲の近く、沙の足下には、豪華な敷物がある。
自分で褥を用意か。
その仙女風の沙は、明るい表情のまま神剣を見せびらかすような仕種を取る。
神剣を印籠代わり、水戸黄門の格さん気分か?
しかし、ドワーフからもらった、沙の像?
どこにあるんだ?
と、疑問に思った瞬間――。
その神剣の柄頭にぶら下がった人形を把握した。
柄頭から垂れた魔糸と同じく半透明な人形だった。
あの魔力の人形を助けたドワーフから頂いたのか。
しかも、神剣に装着できる部類のアイテム?
すると、その自慢気な沙は、炎のような見た目の魔力を全身から噴出。
「<御剣・速太刀>――」
スキルを発動。
美しい所作で神剣を振るった。
半透明な沙の像が発した魔力エネルギーは魔糸から神剣に伝わると、像は消える。
半透明な像の効果で、神剣の刃紋に魔印が浮かんでは消えた。
「<神剣・三叉法具サラテン>がパワーアップか?」
「そうなのだ」
人形は消えたが、人形を作ったであろう、彫り師のドワーフを見る。
顎髭をたっぷりと生やす。
盛り上がった顎髭は揉み上げと繋がっている。
口と胸元の装備は髭で覆われて見えない。
腰ベルトに、特別そうな鑿が数十本ぶらさがっていた。
アイテムボックスらしい小さい箱もある。
すべて、マジックアイテムだろう。
エセル界の品と分かる魔機械っぽいアイテムもある。
戦闘型デバイスの風防の上に浮かぶアイテム類と似たアイテムもあった。
銀河騎士専用簡易ブリーザーorコムリンクだったかな。
そして、ハンカイとザガよりは背が短い。
ボンとヒッピア・モリモンと同じぐらいか。
沙に続いて、羅と貂も自らの神剣の刃を沙の伸ばした神剣の刃に合わせつつ、
「器様、よくぞご無事で! わたしも、もらいました!」
「わたしもです」
ヴィーネは首を左右に振る。
沙・羅・貂だけ、もらったのか。
すると、貂が、
「追跡者が皆無。あの尋常ではない数の追っ手を器様は、すべて倒された! 凄い!」
貂の言い方は大袈裟だな。
と、笑みを意識しつつ頷きながら――。
フォド・ワン・ユニオンAFVの上部に着地。
まずはドワーフに、
「魔力の人形を沙・羅・貂がもらったようで、ありがとう」
「英雄よ、何を言う。わしらは救われた。この戦船の中には、わしらを救った他にも、ペレランドラ親子もいると聞いた。無数の命を救ったのだ……本当にありがとう。そして、もう礼として捧げられる〝栄光の霊透樹〟はないが……代わりに、わしの全財産である、この道具を、英雄に捧げたい……」
ドワーフは、腰ベルトを外して、彫り師の道具を俺に渡そうとしてくる。
「それは大事な商売道具のはず。受け取れません」
「なんと!」
「貴方も俺の立場なら同じように動いたはず。ですから気にせず。礼ならば、その沙・羅・貂が頂いた、栄光の霊透樹の魔力像で十分ですよ。そして、まだ安全とは言えない状況。今は一旦、下のフォド・ワン・ユニオンAFVの中に、戦船の中に入ってください。あ、俺の名はシュウヤです」
ドワーフは俺の言葉を聞くと、涙ぐむ。
涙を拭うと、双眸は鋼のように厳しくなった。
「……シュウヤ殿。まさに英雄の言葉だ。わしの名はぺグワース。魔金彫師ペグワースだ」
「ペグワースさん。よろしく」
「こちらこそ、よろしく頼む。そして、英雄殿の言葉に従う。が、わしを救ってくれた礼は、しかと受け取ってもらうぞ」
「はい、では、商売道具以外なら……」
ペグワースさんは、俺の言葉を聞くと、一気に笑顔となる。
が、黒茶色の瞳に覇気的な迫力が増したように、ザガ的な迫力が増した。
そのペグワースさんは、
「分かった。その美しい神の娘たちに捧げた栄光の霊透樹と同じ物はもう二度と造れないが……魔金彫師と魔金細工の職人として、わしにできうる限りの最高の仕事を、英雄殿に捧げよう! これは生き残った【魔金細工組合ペグワース】の皆も同じ気持ちのはずだ!」
【魔金細工組合ペグワース】?
他の助かった人々は同じ組合の方ってことかな。
他の助けた人々を見てみないと分からないが。
そして、ペグワースさんの職人としての心意気か。
俺は恐縮しながらも、笑顔を意識。
「分かりました。十分すぎるような気もしますが、新しい友として、納得しておきます」
「ふ……」
友と聞いて嬉しかったのか、ペグワースさんも笑みを見せる。
俺も頷いた。
皆も笑顔だ。
その尻尾が可愛い貂と、ヴィーネたちに向けて、
「さて、皆、先の話の続きだが、キサラと相棒と協力して空魔法士隊と空戦魔導師を倒したことは倒した。が、ヴィーネたちを追跡してきた大規模な空魔法士隊と空戦魔導師とは、俺たちは戦っていないんだ。その追跡者の大軍の大半は、大魔術師アキエ・エニグマが倒してくれた。助けられたんだ」
と、素直に報告。
「大魔術師の介入があったのですか!」
ヴィーネが驚く。
「ン、にゃ」
肩の黒猫がヴィーネの言葉に応えた。
片足を上げて、肉球判子を見せる。
ヴィーネは肉球判子を凝視して、一瞬、表情が弛緩するが、すぐに視線を強めた。
「おうよ。で、そのアキエ・エニグマとも戦った。しかし、アキエ・エニグマは俺を試すつもりだったようだ」
「試す戦いとはいえ、アキエ・エニグマの繰り出した分身魔術は凄かった。魔法か、スキルか、幻獣の力か、はたまた斑雪の猫の能力かも知れませんが……無数のアキエ・エニグマがわたしたちに襲い掛かってきたのです」
キサラがそう切実に話をした。
ヴィーネは表情を強張らせて頷く。
一緒に戦いたかったと分かる面だが、上手く誤魔化そうとしている。
あの辺りの僅かな表情の変化も可愛い。
「アキエ・エニグマと……」
と、呟くヴィーネ。
「にゃお~」
肩の黒猫もキサラの言葉に同意するようなニュアンスで鳴き声を出す。
あんさん、途中から魚を追っただろう?
と、相棒に視線を向けるが、相棒は尻尾で俺の頬を叩く。
見上げてくるドワーフのぺグワースさんが黒猫を凝視。
相棒は感情豊かな子猫の黒猫だからな。
珍しいだろうし、見たことがないだろう。
巨大な神獣の姿になれば、腰を抜かしてしまうかも知れない。
「はい、ロロ様とわたしも、その大魔術師アキエ・エニグマの分身と戦った。その分身は倒すと鴉の死骸となって消えましたが、鴉礫の飛び道具は本物。接近戦の分体が持っていた銀色の魔刃を出す短杖も、このように本物でした――」
アキエ・エニグマが持っていた短杖を奪っていたキサラ。
その短杖に魔力を通す。
杖のはばき金から銀色の魔刃が伸びる。
正直、かなりカッコイイ武器だ。
仕込み魔杖の武器。
はばき金具の放射口の色合いは金色に粒々のルビーが鏤められてある。
刀にあるような柄模様も、錨酢漿の魔印が施されている。
もしかして、高級品?
アキエ・エニグマは、めちゃくちゃ金持ちなのか。
俺に魔塔ゲルハットと白金貨とポーションもプレゼントしてくれた。
「まぁ! わたしの誉れある〝神刀鳴狐〟と似ています」
と、妖狐的な無数の尻尾を持つ貂が、手元に、貂が<神剣・三叉法具サラテン>として使う神剣とは、違う脇差しの刀を召喚。
これまた綺麗な刀身に刃文だ。
仙王鼬族の貂には二刀流としての技術もあるのか。
「貂、その刀が、神刀鳴狐か」
「はい。嘗ては、アーゼン朝に関わる剣精霊の一つだったと聞き及んでいます」
貂の首に巻き付く白鼬のイターシャが同意するように尻尾を動かしていた。
「へぇ」
その貂からキサラが持つ仕込み魔杖を見て、
「キサラ、それを回収していたのか」
「はい。シュウヤ様は剣術も学んで実践されている。わたしも聖なる暗闇がありますし、ジュカ姉、他の十七高手の受け売りもありますが、黒魔女教団の剣術を披露しようかと」
「良い心がけだ」
「ありがとうございます」
「――キサラ、羨ましいぞ!」
ヴィーネが素の感情で告白。
やや怒った感があるが、ダークエルフらしい表情だ。
「ふふ――もう一つありますが?」
キサラは怒ったヴィーネに、その仕込み魔杖を投げた。
「え?」
仕込み魔杖を受け取ったヴィーネは驚いて、あたふた。
お手玉的にヴィーネの手元で跳ねた仕込み魔杖。
その浮かんだ仕込み魔杖をヴィーネは掴む。
にこりと微笑むヴィーネは綺麗だ。
そして、仕込み魔杖に魔力を通すと、銀刃が伸びた。
銀刃を銀色の虹彩がジッと舐めるように見る。
ムラサメブレード・改と血魔剣とは違って、ブゥゥンという光刃的な音は聞こえない。
俺的には、そこが残念だ。
「キサラ、これをわたしに……」
「はい」
「ありがとうキサラ……わたしは……怒って済まない」
「大丈夫。ヴィーネさんの気持ちは重に分かりますから――」
微笑むキサラとヴィーネ。
「ふふ――」
美人同士のハイタッチ。
そのまま恋人握りで握手を行う二人は……怪しく見つめ合う。
キスでもしそうな勢いだ。
互いのおっぱいも同じように揺れている。
モデルのような二人が並ぶと絵になるな……。
握手していた二人は離れた。
ヴィーネは、腰に仕込み魔杖を差すと、俺に視線を向けて、
「ご主人様らしく大魔術師から戦闘術を学ぼうとしたのですね。では戦ったアキエ・エニグマは生きている?」
「そうだ。セナアプアに帰った。そのアキエ・エニグマから帰る前に評議宿とかの説明と、礼として、これをもらった――」
アキエ・エニグマからもらった魔法袋をヴィーネに投げた。
魔法袋を受け取ったヴィーネは袋を開けて覗く。
「証書と白金貨複数枚に、ポーション」
「その証書は、上界にある魔塔ゲルハットの支配権の証書らしい」
「ええ!? 魔塔、塔烈中立都市セナアプアのですよね……」
また驚いたヴィーネ。
その眉と額と頬の表情筋をピクピクと動かしていたヴィーネは、キサラに意見を求めるように視線を向けた。
「おぉ……魔塔を、ならば……」
ペグワースさんも驚いていた。
キサラもヴィーネと視線を合わせて頷くと、そのヴィーネが持つ魔法袋を見て、
「確認しました。まず間違いなく本物かと。評議員ペレランドラが目覚めたら見てもらいましょう」
「……本物ならば凄い価値だ」
キサラの言葉を聞いたヴィーネは素の感情を出しながら、魔法袋をもう一度覗く。
「はい。過去、敵対していた時と変わらない性格でしたが、シュウヤ様とは本格的に争いたくないという気持ちの表れかと。その品を予め準備し、慎重に接触する時を見計らっていた」
キサラの言葉にヴィーネは神妙な顔つきで頷く。
たしかに、自分の実力を俺に見せる形でもあるし、俺の力を見る機会でもある。
それでいて、俺に貸しを作った形でもあるし、結構策士か。
「あぁ、上界の魔塔には、計り知れない価値がある……それを、あっさりとご主人様に捧げたのだからな……たぶんそうなのだろう。大魔術師アキエ・エニグマを擁するセナアプアの【魔術総武会】の者たちは一大組織でもある評議会と敵対してでも、ご主人様と敵対したくない……いや、これは早計か。現時点では、【天凜の月】と利害の絡む【白鯨の血長耳】と敵対したくないという考えか」
そう分析したヴィーネの言葉を聞いたキサラは頷いてから、
「そして、塔烈中立都市セナアプアの魔術総武会がアキエ・エニグマを通して、【天凜の月】の盟主、総長でもあるシュウヤ様と個人的な渡りを作りたかった。でしょうか」
ヴィーネとキサラはそう分析しあうと頷いた。
沙・羅・貂は笑顔だ。
「器よ、あの巨大な魔塔の一つをゲットしたということか」
「それは素晴らしい。魔塔は色々とあって綺麗でした……かの【藤ノ三法具院】のような天空都市にお家をゲット……」
「【天無烈塔】の遺跡群とも似ていましたよ。その魔塔の新しい拠点ですが、器様が時々話をされている二十四面体の十二面の先が気になります」
ごもっとも。
二十四面体は、前々からの楽しみでもある。
俺は笑いながら羅に対して、頷いた。
瞳が特殊な羅も、微笑みを返してくれる。
「……空島の鏡か。ま、それは後々だ。今回は得したってことでエヴァとクレインにも報告しようか。フォド・ワン・ユニオンAFVの中に入るぞ」
すると『ん、話は全部聞いてた。ペレランドラ親子も起きて話を聞いている』と、エヴァの血文字が浮かぶ。
続いて「今、開けます――」と右腕の戦闘型デバイスから、アクセルマギナの音声が響く。
ガルウィングドアの機動でフォド・ワン・ユニオンAFVの後部が開いた。
エネルギーの帆もそれに合わせて形が変化。
エネルギーの帆の形が、すげぇカッコイイ。
そして、俺の右腕の戦闘型デバイスは、アクセルマギナと連動していることを忘れていた。
下でフォド・ワン・ユニオンAFVを操縦しているアクセルマギナが、皆に、ここでの会話を聞かせていたようだ。
戦闘中にもBGMを流して、俺とヘルメの気分をあげてくれるし……。
最高の人工知能のアクセルマギナだ。
その開いたドアを、チラッと見てから沙・羅・貂を見て、
「三人は戻ってくれ」
「「はい――」」
羅と貂は即座に神剣の姿に戻る。
神剣は浮かびながら、沙に近付いた。
沙はまだ大人びた仙女スタイル。
その沙はジッと俺を見てから、足下の敷物を見る。
「……ここに褥を敷いたが……」
「沙、戻れ」
「ふん、器め――」
キッとした表情を見せた沙は、瞬く間に神剣の姿に戻る。
沙は、羅と貂の神剣と合体。
三人の幻影は大人びた姿から収縮しつつ少女の姿になると、<神剣・三叉法具サラテン>となって神々しい光を放つ。
「おぉ……神娘たちサラテン様……」
と、ペグワースさんは<神剣・三叉法具サラテン>にお祈りを始める。
お祈りしているところ悪いが、<神剣・三叉法具サラテン>を操作。
その<神剣・三叉法具サラテン>を左手の掌に格納――。
サラテンを格納した際、<シュレゴス・ロードの魔印>からピンク色の蛸足魔力が迸った。
気にせず、「ペグワースさん、戦船に入ります。評議員ペレランドラは起きているようですよ」
「そのようですな」
「にゃお」
気を利かせたのか、相棒が黒豹のまま触手を出す。
その触手でペグワースを掴む。
その刹那、空からぴゅーっとヒューイの甲高い鷹の鳴き声が響く。
「ヒューイ!」
ヴィーネも振り向く。
が、荒鷹ヒューイはヴィーネの背中に戻らず。
俺の竜頭金属甲を鷲づかみ。
「――ングゥゥィィ、イタイ、ゾォイ!」
「チキチキ!」
と、不満そうだが、ちゃんと、俺の肩に止まるヒューイ。
すると、黒豹がペグワースを連れて、
「ンン――」
「あわわわ――」
跳躍していた。
そのまま空を飛ぶように宙空で旋回してから、フォド・ワン・ユニオンAFVの内部に戻った。
俺もキサラとヴィーネと一緒に<導想魔手>を足場にしながらフォド・ワン・ユニオンAFVの内部に戻った。
射出機付近にエヴァがいた。
クレインも傍にいる。
そのクレインは、天井からホバーチェアに乗ったガードナーマリオルスが降りてきたのを見て、不思議に思ったのか、その浮かぶホバーチェアを拳で小突いていた。
小突かれたガードナーマリオルスは、くるくると頭部を回した。
「ピピピッ」
と音を発すると――。
録画していたのか、俺とヴィーネとキサラの会話の映像をクレインに向けて投影する。
「きゃぁ」
と、レアなクレインの声が響いた。
突如、視界に立体映像をくらって、びっくりしたようだ。
可愛い悲鳴だった。
その刹那、
「ん、シュウヤ!」
そのエヴァが宙から突進――。
抱きついてきた。
――やっこい感触だ。
肩にいたヒューイがびっくりして宙に浮かぶ。
すると、黒猫の触手に捕まっていた。
ばたばたと抵抗するヒューイには悪いが……。
俺はエヴァと抱き合う――。
「ん、シュウヤ、がんばった。魔塔のご褒美も得た」
「おう」
エヴァはそう言うが、正直、旭日云々や魔塔ゲルハットより……。
このエヴァの温もりのほうが、何よりのご褒美だ。
「ん、でも、魚くさい」
「う、すまん」
ヘルメに掃除してもらうか。
続きは明日。短い予定です。
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