六百八十六話 大魔術師アキエ・エニグマ
<導想魔手>を足場にしつつ、
「ヴィーネ、沙・羅・貂たちと下のフォド・ワン・ユニオンAFVに戻って、周囲の安全を確保」
「はい。では、お先に――」
ヴィーネはハイム川に向けて降下。
さすがは聡明な<筆頭従者長>。
ヒューイの翼を使いこなしている。
「器よ、妾は<さいきっくまいんど>で活躍した!」
沙の言葉に頷く。
助けた方々は、羅の網的な能力と貂の尻尾に囚われ中にも見えるが。
とにかく、
「沙・羅・貂。あの崩壊する魔塔の中で無辜の人々をよく救ってくれた。皆からも礼を受けていると思うが、俺からも礼を言おう。俺も救われたよ。ありがとう<神剣・三叉法具サラテン>」
「うぬぬ、器のマジ顔とな、本気で照れる……そしてそして、妾に対する礼ならば、わかっておると思うが……」
「褥とかいう敷物の用意だろ? 変わった趣味だが、まぁ用意する努力はしようか」
「なぁにぃぃぃ、ふん、わざとらしくボケよってからに! であるからして、とっておきのパワフル魂級の爆破的なえっちんぐ褥を希望する!」
「まだ先だと思うが、努力はしようか」
「器様に貢献できて嬉しい限り」
「はい。器様、イターシャも喜んでいます」
沙のテンションとは違い羅と貂はお淑やかだ。
そして、管狐のような白鼬のイターシャは、貂の首に巻き付いていた。
その白鼬のイターシャは、俺を見ながら、
「はい~、サラテュンさまと、大主さまに貢献できまちた!」
俺は頷いて、救出した方々を見てから、
「おうよ、がんばったんだな。よし、その救出した方々の安全確保が先だ。下のフォド・ワン・ユニオンAFVの内部に案内を。中に入りきれないならば装甲車の上部に乗せて、アクセルマギナにも相談してからヴィーネとエヴァと連携。基本は守りを意識しつつ北の安全圏に移動」
「分かった! 戦車船をぶち抜くのだな」
「おい」
「冗談が通じぬ器じゃの。皆、下に向かうのじゃ! ハハハ――」
「【仙ノ大王川】……」
「貂、川ではなく、あの戦車船ぞ?」
「はい――」
「シュウヤ様の器様、この方々の命は、この羅が、御守りいたします」
「頼む」
「はい!」
ヴィーネたちに続いて沙・羅・貂も下降する。
俺はキサラを見てから、
「俺たちは、あのアキエ・エニグマを迎えるとしようか。彼女の目的は俺だろうしな」
「はい。シュウヤ様に接触しようとチャンスを窺っていたのかも知れないです」
「キサラとアキエ・エニグマの戦闘時の会話を聞くと、ありえる」
「ンン」
神獣ロロディーヌは喉声を響かせる。
相棒も大魔術師アキエ・エニグマが気になるようだな。
まだ、距離があるが……。
斜め上のアキエ・エニグマを凝視。
アキエ・エニグマの姿は三角帽子と黒色と紫色のローブ姿。
半透明な杖を持つ。
いかにもな魔法使いの容姿だ。
そして、大きな鴉と鴉の群れを従えている。
武器は、半透明な長杖。
長柄系のマジックウェポンを右手に持つ。
その半透明の長杖を消して、やや遅れて帽子も消す。
一方、レーザーキャノン砲的な大魔法を喰らった空魔法士隊。
その大半は焼け焦げながら墜落中だ。
まだ生きて無事な者も多い。
他の隊長か空戦魔導師か、リーダー格が皆に指示を出す。
動き始める空魔法士隊、一糸乱れぬ空中機動。
さきほど戦った空魔法士隊の小隊とは、また違う動き。
緊急時の戦術もあるとは思うが、小隊ごとに個性があるように見える。
火傷の治療を施している小隊はトリアージタッグを施しつつ撤退を開始。
回復専門の空魔法士隊を率いる女性の看護師風の空戦魔導師は忙しい。
その空戦魔導師はルマルディと似て、強者だと思うが、回復を優先して退いた。
最後、チラッと俺を見たような気がした。
気のせいか?
そして、無事な空魔法士隊は、隊列を組み直す。
小隊は一つのグループで五人から八人か。
八角形、六角形、四角形、並列、十字、それぞれの隊列にも意味があるようだ。
そのような個性のある陣形を整えた空魔法士隊は、一気呵成に様々な属性魔法を放つ。
それらの魔法は戦闘機が放つ大量のサイドワインダーミサイルに見えた。
アキエ・エニグマは、その斜め下から飛来する魔法群を見据えた。
そのまま左腕を掲げて腕先に魔法陣を生成。その生成したばかりの魔法陣から雷魔法の稲妻が絡む鎖を誕生させる。が、その雷魔法の稲妻が絡む鎖は、一瞬で、生成したばかりの魔法陣ごと彼女の体と周囲の空間へと浸透するように消えた。
同時に、はだけたローブから紙吹雪を発生させる。
いや、紙吹雪ではなく、カードか札か?
周囲を舞う札。キサラのような<飛式>だろうか。
「あれは魔導札……」
キサラがそう呟く。
すると、相棒が、
「にゃ~」
見るのに飽きたような感じの鳴き声で、俺の片足に尻尾を絡ませる。
俺は気にせず、戦うアキエ・エニグマを凝視。
そのアキエ・エニグマは、更に、一つの魔導札を左手の掌に出現させて、指で挟む。
他の周囲を回る魔導札より一回り大きい。
『閣下、あの大きい魔導札だけ、魔力が膨大です』
『あぁ』
ヘルメが指摘するように、指に持つ魔導札には、膨大な魔力が内包されていた。
大きさもだが、周囲を漂う魔導札とは、違う魔導札か。
魔導札の絵柄は不明だ。
一方、アキエ・エニグマの周囲の鴉の群れと、無数の小さい魔導札は魔線で繋がる。
魔導札と魔線が繋がる鴉の群れは魔法の迎撃に向かった。
圧倒的な勢いでアキエ・エニグマに近付く攻撃魔法と、その迎撃に出た鴉と魔導札が宙空で衝突。
――夜空に無数の火花が散った。
幾つもの爆発した音が轟く。
魔法と相殺した鴉と魔導札は夜空を彩る星々の煌めきのように輝いては消失したが、その輝きごと、衝突した魔法のエネルギーを吸収する鴉と魔導札の群れもあった。
アキエ・エニグマを覆うほどの凄まじい攻撃魔法は、アキエ・エニグマに近付くことなく、すべてが消失。
迎撃に成功か。戦果を見たアキエ・エニグマは満足したのか、微笑んだ。
そのアキエ・エニグマは魔力が宿る両手を泳がせてから、両手の指でハンドサインを作る。
遠く離れた位置で漂う魔法攻撃の迎撃に成功した鴉の群れと魔導札が蠢いた。
無数にあった鴉と魔導札は、刹那の間に、一枚の魔導札へと収斂し、集約。
その一枚の魔導札はブーメラン軌道でアキエ・エニグマの下に戻る。
アキエ・エニグマはおどけた仕種を見せつつ――。
無手のほうの手で、その戻った一枚の魔導札を掴んだ。
刹那、アキエ・エニグマの右手が持つ、一回り大きい魔導札が分裂し、増殖。
アキエ・エニグマの目の前で、増殖した大きい魔導札が両手の間を凄まじい勢いで行き交う。手品師が行うようなシャッフルか。
右手が持っていた小さい魔導札はアキエ・エニグマの周囲を回転。
その両手の間を行き交う大きい魔導札の宙空シャッフルの中へと、周囲を回る小さい一枚の魔導札が吸い込まれると、大きい魔導札のシャッフルは終了。
再び一回り大きい一枚の魔導札に戻った。
その一回り大きい魔導札の表裏からコイン的な魔印が浮かぶと、パッと、その魔導札が消える。
アキエ・エニグマは魔導札マジックを披露した気分なのか――。
ヘルメ立ちのような独特のポージングを繰り出してから、右の掌に出現させたミミズを、背後の巨大鴉にプレゼント。
そして、華麗に横回転して飛翔しつつ身を反らす仕種から動きを止める。
と、斜め下の空魔法士隊の実力を見定めるような所作。
ローブの一部を肌に吸着させながら防護服を替えた。
スタイルの良さをアピールするように悩ましい仕種から俺たちをチラッと見ては、額に手を当てながら再び斜め下の空魔法士隊を凝視。
額に当てた手を落としてから、人差し指と中指を揃えて、その指先を振るう。
指先で、空魔法士隊に挨拶でも送るような仕種を繰り返した。
おどけた仕種だが、圧倒的な強者感を醸し出す。
大魔術師のアキエ・エニグマか。
【玲瓏の魔女】の集団を想起した。
西の帝国領の【象神都市レジーピック】で遭遇した、あの集団。
【魔術総部会】か。魔法基本大全には……。
□□□□
【魔術総武会】は広く各地にまたがる魔法ギルドを運営している優秀な魔術師たちの集まりでもある。
しかし、残念ながら一枚岩といった集団ではない。各地域、各国家ごとに魔法ギルドの指針が違うのが現実だ。魔術師が故の自由さなのかプライドなのか、分からないが……中には、国家に所属し貴族という枠の中で野望に満ちた生活をする者も存在する。優れた冒険者となって各地を放浪している魔術師たちも数多く存在するだろう。なので、魔術総武会の名目は、王や権力者に対する盾の傘になっているかは、甚だ疑問なのだ。
□□□□
と、載っていた。
集団個人問わず、規範はない。
アキエ・エニグマが個人で活動しているのなら……。
【玲瓏の魔女】とはまったく異なる行動規範かも知れない。
敵対する空魔法士隊は陣形を組み直している。
空戦魔導師のリーダー格は俺たちをチラッと見る。
が、すぐにアキエ・エニグマに視線を向けていた。
評議会の連中は、俺たちを追跡していたはずだが、アキエ・エニグマと戦うことに集中するようだ。
俺はアキエ・エニグマを見ながら、
「もう消えたが、さっきの魔導札は俺がクナとルマルディに預けた、魔導札・雷神ラ・ドオラと同じ?」
「魔導札は魔導札ですが、違う名と絵柄のはずです」
キサラは、俺の腰にある魔軍夜行ノ槍業とフィナプルスの夜会をチラッと見た。
「フィナプルスの夜会が心配か?」
「はい、魔界四九三書ですから、アキエ・エニグマなら狙うはず」
「ま、戦うとなったらがんばるさ。あのアキエ・エニグマの使役する巨大鴉は強そうだ。あの巨大鴉にダモアヌンの魔槍の<刺突>系の技を喰らわせても倒せなかったんだろう?」
「はい、無数の鴉に分裂し元通り。ロターゼとはまったく異なる幻獣。一度見たと思いますが、他にも、万古獣ラモンという名の異質な怪物か幻獣を従えています」
俺は『あぁ、あれか』と下界に立ち寄った際に見たアキエ・エニグマの姿を思い出す。
その時にラファエルとアルルカンの把神書がアキエ・エニグマを分析しながら会話していたことを思い出す。
「……シュウヤ様らしい表情。しかし、魔術総部会のライバルたちが多い中で、輪廻秘賢書を勝ち取った大魔術師アキエ・エニグマ。霧の魔術師と同様に強者の一人。警戒が必要です」
ワクワク感が、顔に出ていたか。
キサラは注意してくれた。
そのキサラは不安なのか、腰の百鬼道を指で触っている。
そのキサラと腰の魔界四九三書の百鬼道を見ながら、
「……アキエ・エニグマは、キサラの百鬼道を未だに狙っているのか?」
「最初はそう思っていました。しかし、セナアプアで戦った時には、この魔界四九三書の百鬼道に、それほど興味を示さなかった。単にダモアヌンの魔槍と<槍組手>を警戒しただけかも知れませんが」
キサラには天魔女功と連動する<透纏>を用いた格闘戦もある。
「過去にキサラと戦ったことのあるアキエ・エニグマなら近々距離戦を避けるか」
キサラは頷く。
そのキサラは砂漠鴉ノ型を解除。
アイマスク状態にも戻さず姫魔鬼武装を、頭部の髪の毛で見えない角の中に収斂。
そして、わざと<透纏>を発動してくれた。
目尻から頬にかけての蚯蚓腫れが皮膚に浮き上がる。
体の経脈を巡る秘孔の魔点穴。
その秘孔を貫手で貫かれたら、アキエ・エニグマも魔力操作が狂うだろう。
「はい、<白照拳>系の秘奥技術集でもある<白魔伝秘孔指>等を、アキエ・エニグマの素の体のどこかに当てることができれば……しかし、それは、非常に難しく、あまり現実的ではない」
「分かる」
意志のある大魔術師だ。
素の体を無防備に晒す場合は、その大概がフェイクだろう。
「現在ならば、近々距離戦も簡単に往なされてしまうかも知れません……」
自信なさげに語るキサラ。
アイマスクに戻した姫魔鬼武装を、砂漠鴉ノ型のコンドルのような兜に展開。
その砂漠鴉ノ型から覗かせる蒼い瞳は鋭い。
頷き合ってから、俺たちは再び、アキエ・エニグマを見る。
アキエ・エニグマの飛翔速度は速い。
空魔法士隊が繰り出す魔法攻撃を避けに避けて、緩急のある速度だけで、空魔法士隊を翻弄。
更にアキエ・エニグマは鴉の礫で飛来する魔法を正確に潰しつつ銀色の魔刃を飛ばし反撃を行った。
その反撃を跳ね返す黒髪の空戦魔導師も、また強者か。
黒髪の空戦魔導師は両手に持った短杖から金色の魔刃を飛翔させる。
あの短杖は、俺が倒した空戦魔導師も持っていた。
短杖の柄から出ている光刃的なブレードはカッコイイ。
アキエ・エニグマは連続的に飛来する金色の魔刃の乱舞に対処できず。
傷を負うと、転移魔法で雲に逃げて、金色の魔刃を避けた。
黒髪の空戦魔導師は続けざまに金色の魔刃を、その逃げた雲に飛ばし、雲ごと、アキエ・エニグマを狙う。
夜間の雲の間から爆発音、金色の魔刃を喰らったかに見えたアキエ・エニグマだったが、雲の間から光が射すと、一気に反転しながら雲の中から出現――速度を出して加速しながら黒髪の空戦魔導師目掛けて銀色の魔刃を放つ。
その反撃に出たアキエ・エニグマを待っていたかのように、示し合わせていた各空魔法士隊が連動しつつ巨大な紋章魔法を繰り出した。
さすがにアキエ・エニグマも動きを急に止めて防御する姿勢、否――背後に浮遊する巨大鴉が、その飛来する巨大紋章魔法を吸い込んで一飲み――。
巨大鴉は魔法を餌にできるのか。
「あの鴉の群れと巨大鴉には、わたしも弄ばれました」
そのアキエ・エニグマの使役する巨大鴉が、また動く。
幻獣の巨大鴉が両翼を拡げて、孔雀的な羽ばたきを行った。
その見事な翼から羽根が散ると、その羽根は瞬く間に魔刃となって四方に展開。
魔刃は宙空を湾曲しながら、空魔法士隊に向かう。
が、その羽根の魔刃は、空魔法士隊が放った魔法で相殺。
更に、空魔法士隊は、巨大鴉とアキエ・エニグマに対して、《火球》や《連氷蛇矢》的な魔法を繰り出した。
空魔法士隊にも優秀な面々が多い。
アキエ・エニグマは即座に右の空に転移――。
自身に飛来した魔法を湾曲した空間の中に誘導する。
一瞬、その湾曲した空間の中に巨大な爪が見えた。
更に左側の空に転移するや否や――。
片腕を翳す。
その片腕に稲妻を帯びた鎖が絡むと、その稲妻が絡む指先で宙空に魔法陣を描く。
その魔法陣の形は、初見で、未知なるモノ。
三角形と四角形に小さい四角形が無数にある。
六芒星も重なって見たことのない魔法陣となった。
湾曲した空間は、その魔法陣が出ると逃げるように渦を起こして消失。
魔法陣から魔線が乱雑に飛び出ては、稲妻の意味があるかのような魔印もある。
その魔印が目立つ未知の魔法陣から雷光を伴う太い魔線が幾重にも八方に迸ると、雷光の群れは、空魔法士隊に向かった。
紋章魔法の一種か?
《凍刃乱網》とは違うが、雷属性の紋章魔法だろう。
雷光を帯びた凄まじい轟音が宙空を劈く。
『凄まじい魔法……』
「定かではないですが、規模は皇級か神級でしょうか」
「俺も分からんが、左目で待機中のヘルメは凄まじい魔法と形容したから、凄い魔法なんだろう」
見ている俺たちにも――稲妻の魔力粒子が混じった衝撃波が突き抜ける。
頬の一部と耳が痺れた。
傷を受けているわけではないが、<霊血装・ルシヴァル>のガスマスク状の吸血鬼武装から魔力粒子が多く散った。
「ガルルルゥ」
相棒もレア声で吼えているが、質の高い魔法に驚いているニュアンスだ。
先ほどのキャノン砲的な強烈な魔法とは、また違うが、今の雷属性の紋章魔法も凄まじい威力がある。
皇級規模の魔法であることは確実か。
空魔法士隊の一隊は雷光を防げず、一瞬で炭化。
そんな幾重にも重なる凄まじい雷光を防ぐ優秀な空魔法士隊もいた。
しかし、魔力消費が大きい丸い防御魔法陣だったようで、点滅すると、その防御魔法陣は消滅。
その魔法陣を形成していた空魔法士隊は各自バラバラな動きで逃げるように飛翔。
アキエ・エニグマは逃げる空魔法士隊の面々はとくに追わないようだ。
そのアキエ・エニグマは左手に大杖を召喚。
その大杖から火球を次々に生み出す。
火球の表面にはプロミネンスのような炎が行き交う。
レベッカの蒼炎弾的な火球か。雷属性も混じっている。
その雷火球的な火球魔法は、まだ生きて反撃を試みようとしていた空魔法士隊に向かった。
空魔法士隊の一隊が発動した巨大な魔法盾に、その火球が衝突するや否や、巨大な魔法盾は貫かれて散る。
火球はそのまま下の空魔法士隊の数人を押し潰した。
直後、火球が爆発――。
爆風に巻き込まれた空魔法士隊、助けようと近付いていた救急系の空魔法士隊の面々は無残にも火達磨となって墜落していった――。
巨大な魔法盾を生成した空魔法士隊の一隊の陣形は崩れた。
他の生き残りの空魔法士隊は、各自、撤退を始めている。
その撤退を開始する空魔法士隊の様子を涼しげに見るアキエ・エニグマは両手を無手に戻しつつ――。
斜め下にいる俺たちを見てから急降下――。
彼女の背後の巨大鴉も一緒に下降。
巨大鴉は黒いグリフォンにも見えるから迫力があった。
すると、下降するアキエ・エニグマの体に、巨大鴉から出た魔線が絡む。
一見は空中ブランコにも見えるが――。
飛行速度を上げたようだ。
『閣下、敵を倒してくれた大魔術師ですが、味方でしょうか、それとも……』
『今は味方だと思いたい』
『戦うのならば、挟み撃ちの用意を!』
『それは戦いの中の選択肢の一つ。今は、相棒もいるから素直に交渉&防御重視といこうか』
『はい、貴女のお尻ちゃんと握手! その友愛精神ですね』
『あはは、ヘルメらしい表現だ』
『ふふ、フレンドリー&<精霊珠想>ってことです』
『おうよ!』
面白く笑顔にさせてくれる常闇の水精霊ヘルメとの念話を一瞬で終わらせてから、
「黒豹とキサラも準備を」
「ンンン――」
黒豹は俺から離れる。
ロロディーヌは旋回しつつアキエ・エニグマの後方に回る。
「はい」
キサラは魔女槍ことダモアヌンの魔槍を掲げた。
柄の窪みに指を押し当てる。
ダモアヌンの魔槍の穂先から髑髏魔力が迸った。
穂先から出るカラカラと嗤うような音は不気味だ。
キサラは、その闇遊の姫魔鬼メファーラの魔力を放出した、ダモアヌンの魔槍から手を離した。
キサラは下の宙空を両手で突く。
両手の数珠が光ると数珠は溶けながら足下の宙空を黒色に染めるように魔法陣を生成した。
そして、足下の魔法陣を光らせながら、
「……炯々なりや、伽藍鳥。ひゅうれいや」
キサラは超自然的な声音で<魔謳>を発動。
そのままダモアヌンの魔槍を握り直すと、「飛魔式、ひゅうれいや……」と、違う<魔謳>も発動。
<魔倶飛式>と<飛式>を使うようだ。
<魔倶飛式>のジュウべェとチカタはキサラの周囲を飛翔する他の紙人形たちに指示を跳ばす。
加速と防御の効果もある<飛式>の魔術。
あの紙人形たちのほうは、ムーの教育にも使っていた魔術。
続いて、キサラは、
「百鬼道ノ七なりや――ひゅれいや、伽藍鳥、ひゅうれいや」
再び、<魔謳>を披露。
<魔謳>の発音と合う黒い煤の魔法陣からペリカン的な黒鳥の成体たちが、ぬっと現れた。
黒鳥たちはホバリング。
訓練の時に見せていた魔術の黒鳥だ。
俺たちに近寄ってきたアキエ・エニグマは離れた相棒とキサラの魔術を見て動きを止めた。
当然だが様子見か。が、直ぐにローブをはためかせつつ前進。
アキエ・エニグマは、声が聞こえる距離で止まってから笑顔を見せる。
足下から魔力と小型魔法陣を発してホバーリング。
帽子は消えているから揺れている黒髪がはっきりと見えた。
魔眼の双眸の色合いは、紺碧と茶色。
鼻筋はそんなに高くない。
すると、一陣の風がきたように黒髪がふわりと浮いた。
長髪が靡くと、その髪の中に巨大鴉を吸収させる。
代わりに肩の上に、黒と白が混じった猫が出現。
「ニャアォ」
片足を上げて挨拶。
肉球を判子のように見せびらかす。
可愛い……。
アキエ・エニグマも肩の猫と同じく、俺に一礼した。
そのアキエ・エニグマは魔槍杖バルドークをチラッと見てから、
「こんばんは、槍使いさん?」
「はい、こんばんは。アキエ・エニグマさんですね」
「その通り。それで、あの子が黒猫、いや、黒豹ちゃんね……で、四天魔女か」
アキエ・エニグマは飛行中の黒豹とキサラを睨む。
キサラも睨みを返した。
「ニャ」
肩の猫も、俺に語りかけるように鳴いた。
足の色合いが、猫用の靴下を穿いているような縞模様。
ロロディーヌとまではいかないが、可愛い猫ちゃんだ……。
が、首飾りといい、体に内包した魔力量が尋常じゃない。
気になる首輪の中心は、銀色の魔宝石。
あれは白猫と同じか?
緑封印石の魔宝石と同じ部類のマジックアイテムかも知れない。
と、猫の可愛さに魅了されていると、アキエ・エニグマは「ふふ」と笑う。
彼女の声は可愛らしい感じだが、クナっぽさを感じる。
俺に対しての視線は穏和な感じだ。
特に戦う様子は見せない。
まずは、倒してくれた空魔法士隊のことを指摘するか。
「空魔法士隊を急襲し撃退してくれたことには、礼を言います」
「いいのよ、ペイオーグもいなかったし。それより――」
と、肩の猫を消しつつ加速したアキエ・エニグマ。
俺はすぐに<魔闘術>を実行。魔力を全身に纏う。
そのまま丹田を中心に体内魔力を活性化させつつ――。
<血道第三・開門>を意識――。
<血液加速>――。
続きは明日、短いかも知れない。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1~11巻発売中。
コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」1~2巻発売中。




