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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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682/2029

六百八十一話 未知の暗殺者

 

 守衛のシバさんは駆け寄ってきた。

 中年男性のシバさんか。

 衣装はエレベーターを守る兵士とは違う。


 ドロシーも駆け寄った。


 俺は足を止めた。

 ヒューイを肩に乗せつつ……。


「ご主人様?」

「シュウヤ様」

「にゃ」

「キュゥ」


「ヴィーネとキサラ、先に挨拶を頼む」


 足下の相棒は尻尾を俺の足に絡める。


「「はい」」


 ヴィーネとキサラはシバさんとドロシーの近くに向かう。


「ん、シュウヤ、高いとこ好き?」

「あぁ、見晴らしが良いから好きだ」


 冗談顔で、手で翼を作るように両手を広げた。

 エヴァは笑みを見せて、


「ん、ここから、ばんじーじゃんぷ?」

「そうだ。いや、ぷゆゆが行うような遊びは、ここではしない」

「ふふ、冗談。でもシュウヤがやるならわたしも遊ぶ」

「エヴァっ子、その、ばんじーじゃんぷ? とは、なにさね」

「高い台からいっきに落ちる遊び」

「……けったいな遊びだねぇ、そんな遊びを教えた覚えはない……」

「ん、先生、わたしはもう子供じゃない」

「それはそうだが……幼い頃を知る手前ね……」


 と、エヴァとクレインは話しながら前を進む。


 周囲を見渡した。

 エレベーター的な浮遊岩がある。

 一階の出入り口と直に繋がる浮遊岩だろう。

 評議員ペレランドラが暮らす階層の上下の階層にも魔素の反応はある。

 守りの人員はシバさんと浮遊岩の前に立つ衛兵の二人。

 衛兵の腰にぶら下がる剣は細い。

 右手には弩。

 弩の矢の束が入った筒が腰にぶら下がる。


 シバさんの背後、階段の先の玄関先からも魔素を感知した。

 魔塔の中には当然、家臣、侍従、お手伝い、シバさんのような守衛に用心棒もいるだろう、評議員ペレランドラ本人も。


 左右に並ぶ魔塔は――。

 ここの魔塔と同じく標高が高い。

 さっきも見たが煌びやかな魔塔と浮遊岩には飛行船が止まっていた。


 煌びやかな魔塔の表面の溝の間を走る魔力の光。


 あの上下を行き交う光は近未来的なタワーって感じだ。

 魔塔のところどころに魔力が宿る古めかしい薫炉もあるからそうでもないか。

 煙を炊く薫炉を備えた太い魔塔と同じ素材で、下から上に百八十度半球状に湾曲しつつ離陸場を形成している。


 その離陸場に停船する小型飛行機の形がカッコイイ。


 あの小型飛行機は、塔烈中立都市セナアプアのエセル界に影響を受けた近辺でしか飛べないんだろうとは思うが……宇宙に出られそうな見た目だ。


 もしかして、あの小型飛行機の所有者は、ハーミットこと、ハートミットの関係者とか?

 それか、ミホザの遺跡で聖櫃(アーク)を収集している大商人が住まう魔塔かも知れないな……。


 第一世代のレアパーツとか。

 古代オーパーツ的な魔道具?


 宇宙()で盗まれたアイテムを追うハートミット艦長は忙しいのか反応を寄越さない。

 忙しいとは思うが……。

 心臓と髑髏のマークがあるバッジを使って宇宙へ通信を試みるか?


 いかん、今は評議員ペレランドラと娘のドロシーの安全を考えるべき。


 しかし、他にも魔塔はあるから、こりゃ……厄介か。

 俺たちが立つ着陸台と似た着陸台もある。

 その着陸台も含めれば、射線はそこら中だ……ドロシーの前後を確認しながら左右の魔塔の窓の位置を把握していく――。

 

 この魔塔には、天凜堂で影翼旅団と戦った時のような建物を独自に覆う特別な結界は施されていない。


 外部の魔塔の窓と屋上の位置から凄腕スナイパーなら、この魔塔に住まう評議員ペレランドラの暗殺は可能と推測……この浮遊台と、ペレランドラのいるだろう室内を狙える位置の窓か……。


 反対側にも同じような魔塔があるはず。

 そちら側にも注意が必要か。

 

「ンン」


 相棒も、黒猫の姿のまま隣近所の高い魔塔を見上げながら鳴いていた。


 その黒猫(ロロ)から視線を外して――。

 狙撃手が、この階層の標的を狙いやすい屋上を把握。


 近隣の魔塔がやはり怪しいか。

 狙撃手以外にも、空戦魔導師なら、空から乱入って形が分かり易いんだが……。

 そう都合よくことは運ばない……。

 腕に自信があるのなら、どの魔塔からも狙えるだろう……。

 距離と空力の把握は、素粒子数と振動数に魔力とスキルも作用するから、俺には、その予測は困難だが……。


 観測手がいればまた違うんだろうが……。

 ま、ある程度の射線なら予想はできる。


「ヒューイ、あとでヴィーネの翼になるのを頼むかもしれない」

「キュ?」


 と、俺の耳朶を軽く突くヒューイちゃん。

 可愛いが、少し痛かった。

 相棒は下のほうを見て、クラッキング音を鳴らしている。

 何か餌のような存在を見つけたようだが、我慢してもらおう。


 戦闘型デバイスの偵察用ドローンを意識――。

 戦闘型デバイスの風防の真上にお立ち台に立つが如く浮かぶアクセルマギナの双眸が煌めく。


 そのアクセルマギナの下にはガードナーマリオルスがいる。


 瞬く間に、戦闘型デバイスの時計のような縁の横の面に厚みが出来ると、窪みもできた。

 その窪みから蜂の形の偵察用ドローンたちが飛翔――。

 瞬時に、それらの偵察用ドローンの視界が俺の視界と重なり合う。

 一瞬混乱する――。

 ――これ、何回も修業しているんだが、慣れない。

 無数にある魔塔の一つ一つに窓がある。


 その窓の中の部屋を調べるのは大変だが……。


 射線的に怪しい窓を重点的に調べようか。

 んだが、ここは素直にアクセルマギナの人工知能を活かす。


「アクセルマギナ、この周囲の魔塔をスキャン。射線を把握しつつ怪しい凄腕スナイパーがいないか調べろ。想定は銀河騎士マスタークラスでいい。怪しい動きがあるなら知らせろ。俺もドローンの操作を共有するが可能だろう?」

「可能ですマスター。――標的は遺産神経(レガシーナーブ)ありのダーク<超能力精神(サイキックマインド)>の使い手として、銀河騎士マスター暗殺者サイバネティックスアルゴリズムパターンを認識中――可能性が高い箇所は……四カ所、そこから調べていく――」


 右腕の戦闘型デバイスから機械音声が響く。

 この辺りの声はザ・人工知能。


 ま、あとでヴィーネとキサラにも頼むか。

 そのヴィーネはイザーローンを飛ばしているが、その金属の鳥のイザーローンと視界を共有しているわけじゃないから融通は利かないはず。


 ま、思い付く限りは挑戦しようか。


 さて――。


 ドロシーと守衛のシバさんは揉めている?

 気になるが――俺は着陸台の端から、外というか、下のほうを漂う雲を眺める黒猫(ロロ)を見て、


「相棒、ここはバンジージャンプを行う台ではないからな?」

「にゃおぉ~」


 と、変な声を出した黒猫(ロロ)は、振り向いて、走り寄ってくる。


「さ、行こう、この仕事が終わったらお魚のブラシで体をマッサージしてやるから」

「ン、にゃ~」


 と、頭部を俺の足に寄せてくる相棒ちゃん。


 その黒猫(ロロ)を連れて先に向かう。


 そこではドロシーを止めるシバさんがいた。

 皆は顔を見合わせている。

 クレインは頬を掻いていた。

 そのクレインと視線が合う。

 クレインはニコッとしつつも視線は鋭い。

 それは、『交渉は任せるよ、評議員ペレランドラを含めてね?』という顔つきだ。


 エヴァは天使の微笑を返してくれた。

 心が弾む。

 すると、


「――急に何を言われますか。おいそれと、見知らぬ者を奥の間に通すわけにはいきません」


 シバさんは厳つい声を発しながらドロシーの胸前に片手を伸ばす。

 ドロシーは、そのシバさんのゴツい太い腕を退かそうとしたが、シバさんは動かず。


「シバ、ここも襲われるかも知れないのです。何度も言いますが、退いてください」


 ドロシーの言葉を聞いてもシバさんは微動だにしない。

 そのシバさんは、俺たちをチラッと見てから、


「護衛長の空戦魔導師ロッソネル様とエインに【武空】の面々はどうしたのですか」


 ドロシーは、その言葉を聞いた直後……。

 悲愴な顔つきに……。


「……皆、死にました。上院評議会議長のネドーの一派が率いる闇ギルドに襲われたのです」

「え? な……」


 驚くシバさんは俺たちを凝視。


「勘違いしないように、背後の男性の名はシュウヤ様。わたしの命の恩人。【天凜の月】の盟主様です。背後の方々も【天凜の月】の幹部様たち」

「命の恩人……」

「シュウヤ様は単独で見ず知らずのわたしを救ってくださり、傭兵商会の【魔塔アッセルバインド】の事務所まで運んでくれたのです」

「お嬢様を救っていただいた武人でもある方でしたか……これは、失言いたしました。皆様方、ご無礼を……」


 と、皆に、謝罪するシバさん。

 クレインが、指先を玄関先に向けつつ、


「気にしてないさ、で、評議員ペレランドラは奥にいるんだね?」

「はい、いますが……」


 シバさんは俺たちを訝しむ。

 腰に備わる長剣の柄に手を置く。


 用心か警告か、いい判断だ。

 クレインはエヴァに対して、『大丈夫そうだねぇ、心配しすぎだったか?』『ん、シュウヤは警戒している。だから、油断しちゃだめ、先生』といったような感じのコミュニケーションを、視線と顔だけで、やりとりしている。

 

 さすがは師匠と弟子だ。


「シバ、わたしの言葉を信用していないのですか? 脅されていると思っているなら勘違いですよ」

「はぁ……はい」

「わたしを護送しようと、皆さんと一緒に、【魔塔アッセルバインド】から外に出ようとした時、再び、闇ギルドの集団から襲撃を受けたのです。【魔塔アッセルバインド】ごと押し潰すつもりのような規模。【ネビュロスの雷】と他にも多数から……敵の用意は周到でした。しかも、シュウヤ様がわたしを救って避難した直後ですよ? 武闘派の行動力だけではない存在が裏にいることは確実。それらの激しい攻撃を、すべて撃退してくださったのは、この【天凜の月】と【魔塔アッセルバインド】の方々なのです……シュウヤ様は無双の槍使い様です」


 ドロシーの言葉に皆、頷く。


「シバさんとやら、こんにちは。わたしの名はクレイン。渾名は、金死銀死さ。そして、槍を持つ女性は最近名が売れた四天魔女キサラ」

「金死銀死と、四天魔女……」


 ニコッと笑みを浮かべるクレインは両手を拡げるジェスチャーを取る。高貴な可憐さを感じた。


 キサラはダモアヌンの魔槍を見せる。


「わたしの渾名を知っているなら、分かるだろう。魔塔アッセルバインドは小さいが、傭兵商会としてなら、ある程度の知名度があるはず。だから、このわたしが証明しよう。この隣の男は有名な槍使い、本物の英雄であると。まかり間違っても敵対してはいけない人物だとね。今もこうして無駄話をしている間に敵の事を想定して対策を打つ男なんて、早々出会えるもんじゃない。だから、さっさと退いておくれよ」

「そうです。ですから、恩人と恩人が率いる組織をここで待機させることはできません」


 焦ったような面を浮かべたシバさん。


「……ペレランドラ様には……まずはお嬢様とわたしがペレランドラ様に」


 そう語ったシバさんを、ドロシーは睨む。

 しかし、シバさんの対応は間違っていない。

 評議員ペレランドラを守る仕事が、彼の仕事。

 どんなことがあろうとも、評議員ペレランドラを守ることが、彼の仕事だ。


 俺たちは初見だ、仕方ない。

 まだ血糊もあるし、ドロシーの前で出したくはなかったが……。


 シバさんに手っ取り早く、この装備を見てもらう。


「シバさん。初めまして、俺の名はシュウヤ。【天凜の月】の代表者です。で、まずは、これを見ていただいたら状況が解るかと――」


 俺は回収していた装備を二人に見せた。

 装備品を見て二人は、目を見張る。


「――ロッソネル様とエイン様、【武空】の……ファルン……ベル君」

「ペレランドラの紋章と【武空】の紋章に、その装備はドロシーお嬢様の……なんという悲劇か、間違いない。分かりました! 急ぎ、ペレランドラ様に」


 シバさんがそう発言した直後、ドロシーは装備を見たまま唖然として……。

 尻を落としてストンと地面に座ってしまった。

 そのドロシーからアンモニア臭が漂った。

 俺は済まないとの心持ちから――。

 すぐに、中級水属性の《水浄化ピュリファイウォーター》を唱える。


 ――綺麗な蒼色の水がドロシーにかかった。

 ドロシーのしっとりと濡れた髪は黄金色に輝いてから瞬く間に乾く。


「魔法使いでもあるのですね。優秀なマジックアイテムをお持ちのようだ……スキルかも知れないですが。さすがはお嬢様を何回も救っている方なだけはある……」

「……ありがとう、シュウヤ様……」

「ん、ドロシー大丈夫?」

「はい」


 エヴァが手を貸してドロシーを立たせていた。

 その様子を厳しい顔色で見ていたシバさんは、俺に視線を寄越し、


「シュウヤ様と【天凜の月】の方々、奥の間に、ご案内します」

「分かった。案内を頼む」


 シバさんは、ドロシーに向けて、


「ドロシー様、歩けますか?」

「大丈夫……よ」


 ドロシーは肩を揺らしつつ、俺が床に置いた血濡れた装備品を回収する。


「お嬢様、わたしが回収しておきますので」

「ううん。わたしがちゃんと、ファルンとベル君の家族に返してあげないと、わたしのせいで……うぅぅ」

「……」


 泣きながらドロシーが拾ったアイテムは……。

 魔法学院の生徒が持っていただろうベルト類と箱。

 中には筆箱やら小物が入っていた。

 鍵とネックレスに腕輪と生徒手帳に金属のハーネスも。

 金属の表面に魔力の文字でファルンとベルの文字が刻まれていた。


 ドロシーが誘拐された際に巻き込まれたのか。

 人質としての価値があるドロシーでさえ殺しの許可を得ていたと、敵の闇ギルドの連中は喋っていたからな。


 俺はヴィーネに視線を向ける。


「ご主人様?」

「レネのような射手の件だ。一応偵察用ドローンで周囲を警戒しているが魔塔は多い。射線を考えればある程度は絞れるが……」


 とはいえ、射線の関係ない重機関銃的なもので狙われた場合は……。

 フォド・ワン・ユニオンAFVを出すか。

 魔塔ごと、装甲車の重さで潰れるかもしれないが……。


 ま、今できることはこれぐらいか。


「それは考えが及びませんでした――」


 イザーローンを操作するヴィーネ。


「ヴィーネ、今いったように魔塔は複数あって対処は難しいかもしれない」

「はい」

「俺が偵察用ドローンで誘導するから、ヴィーネも空から警戒してくれるか?」

「――翡翠の蛇弓(バジュラ)で狙撃手を逆に狙撃か、直に斬り伏せるのですね」

「その通り」


 ヴィーネの笑みに笑顔を向ける。

 俺はヒューイを意識、<荒鷹ノ空具>を展開させた。

 その美しい笑顔のヴィーネの背中に付着した荒鷹ヒューイは瞬く間に翼と化した。

 さっそくヴィーネはその翼を使う。


「では――」


 と、右の魔塔に向けて、飛翔するヴィーネ。

 銀色の長髪が夕暮れのオレンジ色を反射して綺麗だった。


 ヴィーネは飛翔しながらイザーローンを呼び寄せる。

 一瞬、ジョディの姿と重なった。

 ジョディがいれば心強かったが仕方ない。


 俺は一つの偵察用ドローンを操作し、そのドローンでヴィーネを怪しい魔塔に誘導。


 ヴィーネは俺が偵察用ドローンと視界を共有していると知っているからか、偵察用ドローンに向けてウィンクを繰り出す。

 キスをするように唇を窄めてきた。

 ――うくっ、可愛い。


 蠱惑的な瞳なだけに、破壊力抜群だ。


 すると、紫色の魔力が俺の視界を塞ぐ。

 きっとデレた顔を浮かべていたんだろう。


「――ん、暗殺者?」


 そう聞くエヴァは紫色の魔力を発している。

 緑皇鋼(エメラルファイバー)も宙空に展開済み。


「その可能性がある。現状、まだ攻撃を受けてないから考えすぎかも知れないが」

「そうとも言い切れない。わたしたちの事務所を囲う仕事っぷりは、統制の取れた動きだったからねぇ。暗殺者を用意している可能性は非常に高いよ」


 クレインの言葉に頷く。


「そうだな」


 アクセルマギナを出すか?

 が、今は偵察を強めるか。


 そして、ガードナーマリオルスを出す。

 戦闘型デバイスから銀色の粒子が迸る。

 瞬く間に足下にガードナーマリオルスが回転しながら出現。

 小さいルンバ的な頭部は可愛い。

 ガードナーマリオルスは、頭部からパラボラアンテナを出しつつ小さいカメラを俺に向ける。


「ピピピ!」

「よう、ガードナーマリオルス」

「ピピッ!」


 ガードナーマリオルスは、愛用している独鈷魔槍はないが胴体から出たミニチュアのチューブで<刺突>を突くようなモーションを見せる。


「戦いに貢献したいんだな、が、今は防御重視だ」

「ピピッ」

「また、けったいな……」

「聞いていましたが、小さいですね」

「ピッ」


 ガードナーマリオルスはキサラのダモアヌンの魔槍に向けてチューブを伸ばす。


「ん、シュウヤ! これが、がーどなーまりおるす!」

「ピピ?」


 球体の胴体のスピンを弱めたガードナーマリオルスはエヴァを見上げる。

 目としてのカメラをズームアップするようにエヴァに向けていた。


「ん、よろしく」

「ピピピッ」


 と、ガードナーマリオルスはチューブをエヴァの手元に向けていた。


「これを触る?」

「挨拶だ、握ってやれば、ガードナーマリオルスは嬉しいはず」

「ピピッ」

「ん、分かった」


 と、ぎゅっとチューブを握ると、ガードナーマリオルスは嬉しかったのか、頭部に生えているパラボラアンテナの形をミニチュアの傘を畳むように変化させていく。


「ん、まりおちゃん、小さいお盆の形が変わった!」

「ふふ、魔機械のような子犬ちゃんは、面白い芸が可能なのですね~」

「子犬っぽい感じではあるが、たとえるのは難しい」

「ピピッ」

「シュウヤ、この小さいのは、晩酌ができる動く器なのかい?」

「そうだ。って違うがな。俺は偵察用ドローンの視界に集中するから」


 ――アクセルマギナと俺が合同で操作する偵察用ドローンの視界に映る幾つもの大きな窓……。


 大きな窓の室内では、パーティをしているのか、ルーレットとカードを楽しむ方々が見えた。

 違う大きな窓というか、窓を全開にしたベランダで、ハッスルを行うエルフのカップルがいる。

 まったく、夕方だぞ。

 両方とも肩に煌びやかな入れ墨をしている。


 うらやましいんだよ! おっぱいdekasugi!

 ギンギラギンだし、なんちゅう、ハッスルエルフだ。


 と、興奮してしまった。

 その反対側の窓の室内では、なぜか、畳の上で、乱取り稽古を行う武術家の二人がいた。

 黒髪のイケメンの人族と、浅黒い肌のドワーフが、組手で殴り合い。


 拳を受けて、蹴りを放ちつつ、素早く、拳を放つ。

 回転しながら避け、膝蹴りから、足の甲を相手に当てる二段蹴りに、それを腕で払ったドワーフ。


 ……興味深い。


 が、射線が合う場所を優先しよう。

 観測手の存在も<無影歩>を持つような暗殺者グループの一員なら、まず発見は不可能か……。

 ――他の偵察用ドローンに集中、操作したが、やはり慣れない、眩暈がする。

 アクセルマギナに任せた。


 そうして、目の前の視界を重視。


『閣下、わたしも外から見回りをしたほうが……』

『敵に優秀な射手がいた場合、<精霊珠想>のタイミングがあるかもだ』

『そうですね、閣下か、閣下の近くの存在が対象の場合は即決断が重要……』

『おう、頼む』

『はい』


 常闇の水精霊ヘルメとの念話を終えると――。

 ドロシーは他の装備を悲しげに見つめてから、回収を終えたのか、視線を寄越す。


「シュウヤ様、わたしを守っていただいたお礼は、ちゃんと母に用意させますから」

「了解。断ってもアレだから、もらえるもんはもらうとする。が、無理はせず。立場を理解していると思うが、派手なもんは要らない」

「はい、お金目的ではないことは重に理解していますので、ご安心を。ではシバ、残りの仲間たちの装備品の回収を」

「ハッ」


 遺品と貴重な装備を回収するシバさんを残して、先に俺たちは階段を上がる。

 ガードナーマリオルスがキュルキュル音を立てて階段を上がるから、シバさんは驚いていた。


 ドロシーが玄関の扉を開けた。

 玄関から入ると三十畳は超えた広さのホール。


『ヴィーネ、俺たちは魔塔の中に入った、何かあったらすぐに血文字を送る』

『はい。こちらの魔塔の部屋が怪しいです。部屋で不自然に消えたり現れたりする無数の魔素があります。射手がいる可能性が高い』

『了解した。射手をフォローするためのオブザーバーかも知れない。空魔法士隊と空戦魔導師との集団戦も想定しとけ』

『分かりました』


 中心に巨大な柱がある。

 三階ぐらいの高さまである吹き抜け。

 柱の付近に受付台とスタッフルーム。

 客間へと続く通路が左右から覗く。


 受付台には侍女か、お手伝いさんがいる。


 相棒のトコトコ歩きよりも、ガードナーマリオルスの音が気になるのか、ガードナーマリオルスに注目する彼女たち。

 小さいしコマのように回転する丸い胴体だ。

 球体の胴体で這うように移動するルンバ的な頭部を持つ姿は、玩具にも見えるから不思議に思ったり面白がったりするのは当然か。


「エセル界の新しい魔機械かしら?」

「見たことがないわ」


 と、語っていた。


 塔烈中立都市セナアプアには、似たような物があるようだ。


 護衛の冒険者風の方がいる。

 その冒険者風の方が走り寄ってきた。


 片耳がない男性。

 背中に剣を持つ、この男性も用心棒か。

 足にユイと同じ魔靴ジャックポポスを履いている。

 魔力操作もスムーズ。

 魔闘術の巧みな強者。


「マーカス。母は?」

「いつもの奥の間ですが……」

「分かりました、シュウヤ様、こちらに」


 マーカスを素通り。

 そのマーカスは俺たちをチラッと見た。

 片目を瞑りつつ顎髭をポリポリと掻いて飄々としているが、かなりの強者と予想。

 右腕の二の腕に魔印がある。

 腰に、抜き身の魔剣を紐のようなモノで結んでいた。

 二剣流かな、魔剣は柄にトゲトゲしい刃が付いたハンドガードが備わる。


 そのマーカスと互いに会釈してから離れた。


 壁はシンプルだが、高級感がある。

 床は白い素材ですべすべだが、少し弾力がある。

 下の階に響かない素材とか?

 そのまま奥の間に向かう。

 途中の給仕室から現れた使用人たちが一斉に頭を下げてくる。


 ドロシーはその給仕たちに挨拶して先を進む。

 笑顔だが、少し焦った感じだと分かる。


 奥の部屋の扉は開かれていた。

 絨毯からして、内装が変わる。

 その部屋に入った。

 ソファで寛ぎつつティーを飲む方が、立ち上がる。


「お母様!」

「ドロシー、お帰りなさい。あら、今日はお友達を連れていないのかしら? なんて名前だったかしら、最近よく連れてくる……」

「ファルン……」

「そう、ファルンちゃん。……そのファルンちゃんではなく、いっぱいいますね……この方々は……」

「ン、にゃ」


 髪は茶色で、瞳は黒っぽい茶色。

 ドロシーのお母様か。

 評議員ペレランドラさん。

 ドロシーと似ていて、美人さんだ。

 アイムフレンドリーを意識したが――。


 と、評議員ペレランドラが立った奥に巨大な窓がある。

 その巨大な窓の向こう側に、もう一つの高い魔塔があった。


「マスター、前方の魔塔の窓のカーテンの隙間3㎜から覗く極めて高精細な光度を検知。ゲッサー・コルサン型スナイパーの可能性が75%」

「ピピピ――」


 アクセルマギナの機械音が右腕から響いた直後――。

 その魔塔の窓から閃光が――。

 やはり、未知の暗殺者がいたのかよ!


『閣下、わたしが――』

『おう、<精霊珠想>――』


 左目が一瞬で煌びやかな視界となった。

 液体宇宙のような<精霊珠想>が俺の左前方を蒼く侵食。

 ――左手を前に出しつつ前進――。

 閃光は<精霊珠想>のヘルメが見事に防ぐ。

 第二波だ、偵察用ドローンを意識しつつ右手に<光魔ノ秘剣・マルア>のデュラートの秘剣を出す。

 刹那、アクセルマギナとリンクしているのかガードナーマリオルスが超反応。

 丸い体からシリコンの液体チューブを放射状に前方に展開して窓をゴムのようなシリコン金属で塞いでくれた。

 相棒がその塞いだ窓の前で、黒豹と化しながら窓の向こうに向けて吼える。

 部屋の右側を走るキサラを見ながら、<始まりの夕闇(ビギニング・ダスク)>を発動――夕闇の力は前方と黒豹(ロロ)の周囲だけに留める。

 <始まりの夕闇(ビギニング・ダスク)>を、ガードナーマリオルスがチューブの素材を活かして窓を塞いでいる上に展開させた。

 窓の中央は盛り上がって、厳つい鎧戸となっている窓の内から、<始まりの夕闇(ビギニング・ダスク)>を窓の外へと侵食させていく――。

続きは来週を予定。

HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1巻~11巻が発売中。

コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」1巻~2巻が発売中。

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― 新着の感想 ―
[一言] セナアプアでは、エセル界の魔導具や機械がたくさん使われてるので、 シュウヤの魔力探知や殺気察知能力だけでは、索敵も攻撃察知も足りないんですよね。 そこを、アクセルマギナやガードナーマリオルス…
[良い点] 早速遠距離からの暗殺来た!注意していたからこそ、反応出来ましたね。 母娘共々命を救われて此れからどうなるか。先の展開が気になります! [一言] まぁ、シバの立場からしたら仕方ない対応ですね…
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