六百八十話 選ばれし眷属のドラゴンの母
俺はレベッカたちに向けて、
「【魔塔アッセルバインド】と【天凜の月】の新メンバーたちに報告を頼む」
「修理の件も了解。神獣ちゃんもがんばった!」
「ンン――」
神獣の相棒からペロッと、顔を舐められたレベッカ。
「きゃっ」
と可愛い声を出しつつ笑顔を見せるレベッカ。
胸元を拡げてから相棒の頭部を抱くと神獣もレベッカの首に沿うように頭部を優しく寄せた……心が通じ合っていると、よく分かる。
美女と漆黒の馬だけに絵になった。
「ンン」
「ふふ」
黒馬の姿の相棒は、馬のような形の口で、レベッカの項を優しく咥える。
ハミハミとマッサージをしていた。
「あう、くすぐったい」
すると、ドロシーの傍に立つエヴァが、
「ん、トロコンとゼッファ・タンガとキトラも強いけど、今攻めてきた闇ギルド以外にも、【天凜の月】を狙う荒くれ者も増えるかもしれない。気を付けて、ユイとレベッカ」
エヴァの紫色の眼は真剣だ。
レベッカは相棒の首に回していた両手を離してから、エヴァのほうに顔を向ける。
エヴァの眼力は強い。
レベッカも表情を引き締めて頷く。
プラチナブロンドの髪が揺れた。
そして、二の腕に小さい力瘤を作ってみせると、
「うん、評議員と揉めたことを報告する」
そう告げてから、ロロディーヌから離れて、俺に近寄った。
「シュウヤ」
いつものような指先を俺にスパッと向ける感じではない。
「ん?」
「東の旅の詳細はシュウヤから直に話が聞きたい」
しおらしい態度だ。
気持ちは理解できる。
「あぁ、俺もだ。レベッカや皆ともな」
レベッカは顔を赤く染めると、
「うん。そっちもだけど、本当に旅の話も聞きたい」
「ん、わたしも」
「色々とあったからなぁ」
「……本当よ! 宇宙とセラで活躍する女海賊さんの話も興味深いけど、蛇人族の故郷をめちゃくちゃにしたグルドン帝国とリザードマンとの争いに、セシード教団を救って、魔法の虎のコハクちゃんを得ては、ヴェハノさんを助けて仲間にしてビアの赤ちゃんも救って、マルアって不思議な神界出身の魔族を救って眷属化。更に、六幻秘夢ノ石幢を拾って、八槍卿のグルなんとか師匠と会話したとか? そして、旅の目的のアルマンディンを無事入手して……」
そう喋った直後、なんとも言えない表情を作るレベッカ。
エヴァと顔を見合わせて、少し涙ぐむ。
エヴァも瞳を震わせて、
「ん、シェイルの治療の成功、けど……」
「そう……その亜神夫婦。愛憎のために酷いことをしたけれど、シェイルのため、シュウヤとサイデイルに恩を返すため、皆に内緒で自らの命を犠牲にする行為は深い愛情だと思う……亜神夫婦は、本当に楽園を望んでいた亜神様だったんだと、よく分かる……」
たしかに……『身を殺して仁を成す』だな。
「ん、愛憎も分かる。幾星霜と監獄の中に閉じ込められていたゴルゴンチュラは、夫のキゼレグと凄く会いたかったはず。外に出て、混乱して、どうしようもない怒りから、自分の娘にも刃を向けてしまった……だからこそ、もう一度、夫と愛を育てる機会と娘を慈しむ機会をくれたシュウヤと温かいサイデイルの皆に、亜神夫婦なりのお礼をしたかったんだと思う……とても、深い愛……」
エヴァは涙を流しつつ、そう語る。
レベッカも『うん』と力強く頷いてから微笑んで、
「だから、お墓、夫婦の血の花を見に行ってちゃんと挨拶しないと。逸品居で、美味しい料理と野菜とフルーツも、いっぱい食べさせてもらったから、感謝」
「ん、わたしもちゃんと感謝の気持ちを伝えたい」
――そうだな。
ジョディもシェイルも喜ぶだろう。
ヴィーネもユイもキサラも涙ぐみながら……『はい』と言うように静かに頷いていた。
キサラは長くゴルゴンチュラと一緒にいたからな、その気持ちは強いだろう。ヴィーネとユイに背中を擦られている。
レベッカはエヴァの涙をハンカチで拭く。
エヴァも、ふふっと微笑んでから、レベッカの涙を拭いてあげていた。
そのレベッカは、俺を見て、
「そして、本当に、凄いことを平然とやってのけちゃうシュウヤの英雄譚を直に聞きたいんだから! でも、やはり、私的には、フォロニウム火山の火口で入手した……」
お宝好きのレベッカらしい。
あのアイテムかな。
戦闘型デバイスに浮かぶアイコン類を見る。
「ンン、にゃ」
黒馬状態の相棒が反応。
見えていないと思うが……。
相棒的には俺に預けた、あの魚の形をした猫グッズで、体をマッサージしろって感じかな?
その猫グッズの名は、〝トブチャのブラシ〟。
まんまだ。
しかし、その魚の名前は懐かしい。
鮎と似た魚。
ラビさんの手料理を想起する。
ゴルディーバの里の下にあった森林地帯の小川でよく見かけた美味しい魚だ。
そのブラシは出さず。
レベッカのお望みは……。
巨人の骨の手。前と同じく青白い炎を表面から発している。
そして、その骨の手に乗った蒼色の魔宝石だろう。
巨人の骨の手の名は、城隍神レムラン。
同じく青白い炎を発している魔宝石の名が、ナイトオブソブリン。
巨人の骨の手に載った青白い炎が包む魔宝石と、ペルマドンの卵を出す。
「この三つのアイテムか、城隍神レムラン、ナイトオブソブリン、ペルマドンの卵だな」
「ングゥゥィィ」
ハルホンクが反応。
「城隍神レムラン? 巨人の骨の手は見たことがないが……その名は……」
クレインは驚いている。
城隍神レムランを知っているようだ。
ベファリッツ大帝国か、ハイエルフ関係の品か。
『あの時のペルマドンの卵。やはりドラゴンの?』
『たぶん』
「――そう! 城隍神レムランって巨人の骨の手は見た目がゴツすぎてアレだけど、蒼炎が包む魔宝石のナイトオブソブリンは気になっていたの! ペルマドンの卵も!」
お宝好きのレベッカちゃんが興奮しながら指先を伸ばす。
「蒼炎神エアリアルと関係するかもと思ったんだ」
「うん、血文字で聞いてる。わたしのことを考えてくれてるってだけで、凄く嬉しかった」
すると、巨人の骨の手が蠢いた。
蒼い魔宝石を載せたまま、気持ちを伝えてくれたレベッカに向かう。
ペルマドンの卵のほうも自然と俺の掌から離れた。
三つのアイテムはレベッカに向かう。
――なぜ?
巨人の骨の手に乗った蒼い魔宝石とペルマドンの卵は、パカッと割れた。
「「え?」」
皆が驚く。
「ンン、にゃおおぉぉ」
相棒も毛並みをウェーブさせつつ驚く。
ペルマドンの卵は名前からして、分かるが、ナイトオブソブリンって卵だったのかよ。
ナイトオブソブリンから生まれたのは、蒼色と黒色が混ざった小さいドラゴン。
ペルマドンの卵からが、赤色の小さいドラゴン。
蒼色と黒色の小さいドラゴンは「キュオ」と鳴く。
赤色の小さいドラゴンも「キュォ」と鳴いた。
二匹とも体がヒヨコっぽい。
んだが、顎がシャープで、少し渋さもある。
雄か雌か、分からないが、雌っぽい印象だ。
しかし、ナイトオブソブリンとペルマドンの卵が孵るとは……。
二匹のドラゴンはレベッカの指先に口先を突ける。
刹那、レベッカの人差し指に蒼炎が灯った。
レベッカは、頭部を振る。
「その蒼炎は自然に?」
「うん」
レベッカは頷いた。
エヴァも驚いて、
「ん、不思議!」
すると、赤色の小さいドラゴンは、胸の赤色の鱗を一枚剥がす。
蒼色と黒色の小さいドラゴンも同じく蒼色と黒色が混じる鱗を剥がす。
その二匹のドラゴンの剥がした赤色の鱗と蒼色と黒色が混じる鱗は、レベッカの人差し指に宿る蒼炎を吸引しつつ、二つの小さい魔印とルシヴァルの紋章樹を宙に発しながらレベッカの甲に移ると――。
レベッカの甲の表面にドラゴンの二匹の絵とルシヴァルの紋章樹が刻まれる。
レベッカの掌に乗ったままの小さい二匹のドラゴンは、頭部をレベッカに向けて見つめてから、頭を垂れた。
「「おぉ」」
幻想的でもあるし、圧倒的な契約の現場だ。
バルミントの時を思い出す。
バルが卵から生まれた直後はこんな感じだった。
レベッカは「えええ?」と、二匹のドラゴンと自らの手を見ながら驚きの声を上げては、俺を見て、また小さいドラゴンたちを見て、細い手を見て、俺を見て、皆を見て、エヴァを見て、
「このドラちゃんたちと、わたし、契約しちゃった」
「ん、凄い! 選ばれし眷属のドラゴンの母、レベッカ!」
「驚きだな、<筆頭従者長>としての三人作ることが可能な<筆頭従者>を作ったわけではないんだろう?」
「うん。でも、わたしの眷属だと思う」
「素晴らしい! 光魔ルシヴァルとハイエルフの血筋を活かした形なのでしょうか。ドラゴンの使役とは!」
「……ドラゴンの卵が孵るところは、初めて見たヨ♪ びっくりだネ♪」
カリィは髪の毛が逆立ち導魔術を全身から放出している。
俺たちは、バルミント以来か。
相棒は黒豹の姿に戻る。
「ンン」
喉声を鳴らすロロディーヌも気になるようだ。
長い尻尾をピンと立たせて、傘の尾を作る。
レベッカの掌に乗った二匹のドラゴンを見上げていた。
二匹の小さいドラゴンは小さい翼を震動させて、
「キュォ」
「ギュォ」
と鳴いていた。
二匹の小さいドラゴンは翼を広げようとしているようだが、上手く拡げることができないのか?
「キュォ?」
「キュゥ……」
二匹は助けを求めるような声をあげつつレベッカを見る。
二匹とも、双眸はつぶらな緑色と白色と黒色の虹彩。
黒色の大きい瞳が、無垢さを表しているようで、とても、可愛らしい。
レベッカはその二匹のドラゴンに対して頷いた。
ある程度の意思疎通はできている?
「ドラちゃんたち、この蒼炎の魔力を吸いたいのね? いいわよ」
「キュォ」
「キュゥ」
二匹のドラゴンはレベッカの指先に灯った蒼炎を吸うと――同時に小さい胸元から魔力が染み出す。
その染み出た魔力は、瞬く間に、小さいハートマークを模った。
ハートマークの中心にはルシヴァルの紋章樹が描かれてある。
同時に心臓の鼓動の音を響かせつつ――。
そのハートマークが膨らんで窄まる。
と、ハートマークは消えた。
魔力の糧を得た小さいドラゴンたちは翼を拡げる。
そのままミニチュアの翼をばたばたさせると飛翔。
蒼色と黒色のドラゴンの翼は少し透けた。
透けた内部は、毛細血管のような煌びやかな筋が走っている。
その凄まじく細かい毛細血管の中を蒼炎の魔力が稲妻のように迸った。
消えたり出現したりする毛細血管の蒼炎を宿す翼は美しい。
一方、赤色のドラゴンの翼は幾何学模様とルシヴァルの紋章樹の模様が多い。
その模様が点滅。
そして、二匹とも楽しそうな鳴き声を発しつつ宙を飛翔する。
小さい口を拡げた。
ピンク色のちっこい舌が可愛い。
牙はあまりない。
すると、その小さい口から、マッチの火のようなポッとした細い蒼炎を吐いた。
そうしてから、レベッカの肩に止まる。
二匹は、レベッカの長耳を優し気に突いていた。
――面白いなぁ。
二匹のドラゴンの翼は両方とも美しい。
共通しているのは表面に、ルシヴァルの紋章樹的な模様があることか。
その直後――。
もう一つのアイテムが反応。
巨人の骨の手だが、青白い炎で燃えている。
名は城隍神レムラン。
巨人の骨の手は、自ら燃えるように発していた青白い炎を骨の手の中に吸収すると、瞬く間に青白い杖に変化した。
青白い杖か。
「城隍神レムランって魔法の杖?」
「その反応だと、契約って感じではないのか」
「うん――」
城隍神レムランの杖を掴むレベッカ。
その魔法の杖の尖端に巨人の骨の手が出現。
巨人の骨の手の表面には青白い炎が燃えている。
「ん、びっくり。シュウヤの<導想魔手>と同じ? 魔法の棍棒のような物?」
「うん。まだ分からないことが多いけど、わたしには棍棒が合う? 他にもわたしの蒼炎と連動しているし、わたしの魔力も上がった――」
棍棒の部分で、俺を見ながら、笑顔満面のレベッカ。
ツッコミ屋としての言葉か。
100トンハンマーを蒼炎で作っていたからな。
更に、巨人の骨の手は、蛇腹を打ちつつ城隍神レムランの杖の中に吸い込まれた。
すると、
「キュォ」
「キュゥ」
二匹の小さいドラゴンは鳴きながらレベッカの肩から離れて、杖の柄に収斂――。
城隍神レムランの杖の先端に二匹の小さいドラゴンの彫像が出来上がった。
「わ、ドラゴンが杖の中に!」
「二匹のドラゴンを扱えるってことか、城隍神レムランの竜杖?」
「レムランの竜杖のほうがいいのかな? ナイトオブソブリンちゃんと、ペルマドンのドラちゃん……あ、二匹のドラちゃんの名前は正式ではないからね」
レベッカはレムランの竜杖を振る。
すると、クレインが、
「やはり、レベッカ・イブヒンは蒼炎神の血筋だねぇ。前にも話したが、【スィドラ精霊の抜け殻】には気を付けるべき、担ぎ上げられる」
「またそれ? 光魔ルシヴァルの種族なんだし大丈夫だって。由緒あるクレインと違って、わたしには分かりやすいエルフ氏族のマークが頬にないし」
そう笑って話をしたレベッカは――。
レムランの竜杖とグーフォンの魔杖を見比べている。
「わたしも普段、頬のマークは消えているが、【スィドラ精霊の抜け殻】のメンバーは、わたしを感知できた」
そう話をしたクレインの表情は少し厳しい。
頬に指を当てる。
俺はクレインから聞いた過去話を思い出しつつ、
「ベファリッツ大帝国の繁栄の幻影を未だに追う組織か」
「ん、先生の元仲間の組織?」
「そう。国が潰えているのに、未だにエルフを盛り返そうと躍起なエルフ至上主義の集団さ。しかも、その組織の長が持つ石板には、蒼炎神の血筋と目される古代のハイエルフと二匹のドラゴンの絵柄が彫られてあった。レムランの文字もさ。そして、旧ベファリッツ大帝国の旧神街道を守る要衝の一つがレムラン。【スィドラ精霊の抜け殻】の長は、『そこにエルフが多種多様の種族の中で最も優れた種族だと示す偉大なる証拠が眠っているはずなのだ!』と、力強く語っていたねぇ。実際に、レムランには古代エルフの霊廟もある。お伽噺もあった。魔族の流入で変わっているとは思うが、未だに遺跡として霊廟が残っているのなら……」
「ん、レベッカと関わる品があるかも?」
エヴァの言葉にクレインは頷く。
「確かなことは言えないさ。ベファリッツ大帝国の遺跡はいたるところにあるからねぇ。シュウヤがキッシュを助けてサイデイルという地を復興させたが、そこも古代はベファリッツ大帝国の遺跡でもあったと聞く」
「たしかに、ベファリッツ大帝国の名残はいたるところにある。しかし、レムランか……」
「レムラン……聞いたことがありません」
「だろうね。今だと【魔境の大森林】として有名だ。ベファリッツ大帝国が残っていた頃でさえ、あまり有名ではなかった地方さ」
……【魔鏡の大森林】か。
そういえば……罪人エルフ。
いや、罪エルフの爺さんはどうしているだろう。
まだサデュラの森を護っているのだろうか。
サデュラ様とガイア様に罰せられていた。
魔界と繋がる傷場を作った張本人の賢者のエルフ爺さん。
ベファリッツ大帝国に勝利を齎そうとした故の失敗劇だが、あまりにも犠牲者が……。
そして、ベファリッツ大帝国のタカ派の組織【スィドラ精霊の抜け殻】たちにとっては、許せる相手ではないだろうな。
【白鯨の血長耳】もそうかも知れない。
一応、クレインに伝えておくか。
「クレイン、罪エルフって聞いたことあるか?」
「あぁ、エヴァから聞いたさ。シュウヤが神獣様復活のために旅をしたと。魔境の大森林を渡って、サデュラの森の守護者から、必要なサデュラの葉をもらったとね」
「そうだ。サデュラの森の守護者。神々から罰を受けている古代エルフ」
クレインはエヴァをチラッと見てから頷くと、
「故郷の帝都の現状を知る限り、当然恨み憎しみはある。が、今更だよ。ただ血長耳の連中や【スィドラ精霊の抜け殻】の連中と話す機会がある時は……この話題は黙っておいたほうがいいだろうねぇ。ま、最近はわたしたちと血長耳の関係が良好なこともあって、【スィドラ精霊の抜け殻】のメンバーは誰一人姿を見せていないが」
そう喋ると、リズさんも、
「さすがに担ぐことは諦めただろう。或いは、新しいエルフの敵ができたか。その代わり【テーバロンテの償い】が増えてきた」
「そいつらはわたしとの因縁もある古い組織だが、上院評議員ドイガルガが雇ったせいもあるだろうねぇ」
俺は、
「黒装束の集団か。で、サデュラの森の古代エルフの件は、風のレドンドに話をするかも知れない」
「帝都に向けてのマハハイム山脈を抜ける依頼か」
「そうだ。俺たちにも迷宮戦車のような、フォド・ワン・ユニオンAFVがあるから、集団で楽に進むことはできるはず。しかもアイテムボックスに格納できる」
「魔造家的なアイテムと、エヴァたちから聞いてはいたが、随分と便利な馬車を手に入れたんだねぇ」
すると、レベッカが、
「まだ、見てないし気になる」
「うん、血文字でしか聞いてないし、新しい戦車」
ユイもそう発言。
エヴァは、
「ん、ヴィーネと、ミスティとキッシュも、興奮してたからきっと凄い車。キッシュは動く要塞馬車って血文字を寄越した」
先の戦いでも、フォド・ワン・ユニオンAFVを使って銃撃を行えば楽だったかな。
だが、武芸者同士の戦いに装甲車はないだろう。大砲とか、エネルギー源も有限だ。迷宮以外は、他の惑星用ってことで温存かな……相手が戦車とかバズーカ砲的な魔道具を駆使するなら使ったかもしれないが。
「皆、装甲車のことは今度。で、話を、その竜杖に戻すが、レベッカにプレゼントってことで」
「あ、うん、自然に契約しちゃったけど、杖は嬉しい。ありがとう!」
「おう、レベッカが強くなることはいいことだ」
ヴィーネも頷いてから、銀色の虹彩を輝かせて、
「はい、巨人の骨の手、城隍神レムランが、ご主人様の<導想魔手>と同じような運用が可能なものなら、レベッカは飛躍的に戦闘能力が高まるはずです」
と、羨ましそうに語る。
同時にヴィーネの翼となっている荒鷹ヒューイの<荒鷹ノ空具>の翼が動く。
「ありがと、そのヒューイちゃんの翼の飛行は楽しそう。いずれは飛行術を手に入れるとしても、わたしも体験したい。あと、ングゥゥィィちゃん。貴重なアイテムは食べ過ぎないように! それと貂さんの神界の話も興味深かった。可愛い尻尾を見ながら、いつか神界の話を聞きたいかも」
と、テンションが高いレベッカが語る。
そのレベッカは新しい城隍神レムランの竜杖は腰に差していた。
ハイグリアなら、尻尾がバンバン動いていただろうな。
今、ハイグリアは……。
ちゃんとバーナンソー商会を追えているのだろうか。
すると、ユイが、
「うん、エヴァもそうだろうけど、わたしも東の旅の詳細をじっくりと聞きたい」
「カルードの仕事は手伝わなくていいのか?」
「うん、父さんには鴉さんと部下の隻腕のゾスファルトもいる。ポルセンたちも合流してホルカーバムの新しい仕事を気に入っているようだから」
「そっか」
ユイは、俺の右腕の戦闘型デバイスをチラッと見て、
「フォド・ワン・ユニオンAFVも見たい。アクセルマギナちゃんとの挨拶がまだだし、あと、戦闘型デバイスの進化の話で登場した新しい衣装を入手することが可能な『ドラゴ・リリック』の未知のゲームも見たいわね……ま、今は、それどころではないってのも理解しているから、あとで合流しましょう」
そうユイと話をしてから、
「そうだな、委細は血文字で。じゃ、エヴァ、キサラ、クレイン、ヴィーネ、行こうか」
「うん」
「はい」
「ん」
「了解」
「では、シュウヤ様、ロロ様も、こちらです――」
キサラが先に飛翔する。
俺は、
「レンショウとカリィも頼むぞ。リズさんもキャンベルによろしく。カリィとの一戦は今度でいいかな」
「うん、それでいい」
「ボクはいつでもOKだヨ♪ ね、リズちゃん♪」
リズさんに向けて悪態笑顔を繰り出すカリィ。
リズさんは目元に血管が浮かぶと、その血管をヒクヒクさせ青筋を作り顔色を変えた。
「……」
何も言うまい。
「盟主、お任せを」
レンショウは渋い。
するとカリィは両腕が銃にでもなったようなポージングからクルッと一回転。
俺を見ながら、その両腕を使い『バンバン』と両腕で銃でも撃つような動作をする。
そして、悪態笑顔を微妙に変化させた。
表情筋が意外に多彩。
あの手の動きは、俺の<鎖>か。
カリィと戦った時に<鎖>を使ったからな……。
そのカリィは、
「盟主♪ アルフォードと連絡がついたんだ、けど……その件で……お話がしたイ」
「<千里眼>か。ま、のちのちだ」
「がーん」
カリィは頭を抱えた。
アルフォードは、もしかしてサーマリアに捕まったのか?
「カリィ、悪いけど、もう【天凜の月】のメンバーなんだ。その件より【ネビュロスの雷】と【岩刃谷】の連中の生き残りの掃除が先よ?」
「生きていたら尋問だ」
そうリズさんに呟いたのはレンショウ。
そう易々と喋るプロではないと思うが、ま、闇には闇の仕事があるか。
「そうね。気になっていた〝ネビュロス〟の名の由来も聞いてみたいし、総長か盟主の居場所と残存する隊長たちが守っていた縄張りの場所も、喋ってもらうとしましょうか」
ユイがそう発言。
カリィは眉間に指を当ててから、ボサボサの前髪をたくし上げる。
そのまま手で頭部をポリポリと掻く。
硬そうな髪だ。
そのカリィは、
「……♪」
変なポージングのまま、俺たちを見て、悪態笑顔を繰り出す。
目付きが怖い。
リズさんはカリィのポーズは無視。
俺を見てニコッと笑顔を繰り出すと、
「で、シュウヤ殿、会長には、わたしのほうがシュウヤ殿はお気に入りだったと、言っておく」
リズさんはそんな冗談を言う。
カリィは口笛を吹いた。
レンショウはガスマスク状の面頬から魔力粒子を噴き出す。
その皆に向けて、
「リズさんもキャンベルもバッチコーイだ。ということで、あとで――」
黒馬のような姿に再び戻った相棒の触手手綱を掴む。
「なにがバッチコーイよ!」
「ングゥゥィィ、バッチコイ、ゾォイ!」
「ん、ばっちこーい」
「確か、ご主人様はやきゅう、という名のすぽーつでは、応援と連携が大事だと言っておられました。ですから、ばっちこーい?」
可愛らしく首を傾げるヴィーネ。
片腕を斜めにあげながらの発言だ。
その動作は美人な野球部のマネージャーが、メガホンを持ちつつ片腕を上げて、『応援の仕方はこれでいいのですか?』と聞いているような動作に見えた。
おっぱいさんも揺れているから、満足だ。
「ンンン、にゃおにゃ~、にゃお!」
「ふふ、面白い神獣様の声だねぇ」
俺を乗せた神獣ロロディーヌも皆の声に合わせて『ばっちこーい、にゃ!』と鳴くような猫声を発した。
そして、即座に触手で皆を絡めると跳躍――。
膂力ある躍動感から飛翔を開始した。
上院評議員ペレランドラの屋敷の魔塔に向かう。
神獣ロロディーヌは翼を出すと加速――。
瞬く間に一つの浮遊岩を越えた。
ダモアヌンの魔槍を跨ぐキサラを追い抜いた。
魔女スタイルのキサラに魅了される。
「ロロ、速度を落とせ。匂いでペレランドラの屋敷が分かるのかもしれないが、ここは、キサラに任せろ」
「ンン――」
相棒はすぐに速度を落とす。
キサラがウィンクを寄越しつつ先に飛翔。
ダモアヌンの魔槍から煌びやかな魔力粒子が出ていた。
足下から、
「ん、ロロちゃん、このまま行こう~」
相棒の触手が包むエヴァだ。
魔導車椅子に座ったエヴァは少し持ち上がった。
空中ブランコって感じの位置だろうか。
紫色の魔力でドロシーとクレインを包んでいたが、魔力を解放させたエヴァ。
エヴァは、ロロディーヌの触手に二人を預ける。
同時に、ドロシーの頭部の周りを囲う緑皇鋼の分厚い金属を溶かし、その溶かした緑皇鋼を車輪の窪みに吸い寄せていた。
魔導車椅子の車輪も結局はエヴァの金属足。
太股とか背筋を支える金属に変化を遂げるんだから凄まじい。
ヴィーネの体にも相棒の触手が悩ましく絡む。
銀色の長い髪が靡く。
ゴールドタイタンの金糸はラシェーナの腕輪に巻いていた。
相棒の背中を跨ぐ俺の目の前に、そのヴィーネを運んでくるのかと思ったが運ばない。
クレインとドロシーと同様に触手を絡ませるだけのようだ。
そのドロシーだが驚愕した顔つきだ。
黒触手に包まれて、顔だけ露出している。
神獣に抱かれる感覚は初めてだろうし飛翔中だ。
混乱するか、オシッコをちびっているかもしれない。
ま、家まで我慢してもらおうか。
ヴィーネの翼だった<荒鷹ノ空具>は自然と荒鷹ヒューイの姿に戻っていた。
その大鷹となったヒューイは、
「ピュゥ」
と鳴いて加速――。
キサラの隣を飛翔。
ダモアヌンの魔槍を跨いでいるキサラは、ヒューイに気付いて、片手を、その隣を飛翔するヒューイに向ける。ヒューイは片翼を傾けて、キサラの指と触れていた。
――楽しそうだ。
「ンン――」
「こっちです」
眼下の街並みは見ない。
空の気球と空魔法士隊の一隊に浮遊岩を少し見る。
夕暮れの魔塔と浮遊岩の景色はもっと眺めていたいが、加速した。
「エセル大広場が一瞬だ、あの壁のように連なる標高が高い魔塔の街がそうさね」
クレインの言葉通り、摩天楼か。
凄まじい高さの魔塔……。
魔塔の表面には硝子の窓がある。
魔塔は、高層建築物とほぼ同じか。
窓と窓の間の縁と溝には魔力光が行き交う。
幾何学模様を描く魔塔もあれば――。
赤色の魔力で表面を照らす高層建築物の魔塔もある。
商会のマークを描く魔塔が殆どだ。
そして、魔塔の至るところに着陸場が備わっていた。
空魔法士隊と浮遊岩にバルーンの出入り口だろう。
飛行船のような魔機械もあるし、小型戦闘機のような乗り物もある。
あれは興味深い。
その一つの魔塔に向かう。
しかし、エセル大広場って場所は通り過ぎたが凄い広さだった。
そして、角度的に……。
魔塔と魔塔の間から見えるエセル大広場は……。
ニューヨークの『セントラル・パーク』の形と似ていた。
前世でニューヨークは行ったことないが、あとで観光したい。
――キサラは魔塔の下部にあった浮遊岩の台に着地。
俺たちも続いて離着台のような土台に着地。
相棒の触手から解放されたドロシーはエヴァが支える。
そのドロシーが、自分の家の魔塔を見る。
手前の階段付近の大柄の守衛がドロシーを見て、
「お嬢様!!!」
「シバ!」
守衛の名はシバか。
続きは明日を予定。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1巻~11巻発売中。
コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」1巻~2巻発売中。




