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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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674/2028

六百七十三話 天凜の月の新メンバー

 黒豹ロロディーヌが頭部を上げる。

 相棒は、空から周囲を警戒しているエヴァを見ている?


 相棒は背筋を反らしつつ、


「にゃおおお~」


 鼻先を震わせるような勝利の鳴き声を発した。

 その声を聞いたエヴァが、


「ん、分かった」


 相棒に返事をしてから紫魔力を薄めると降りてきた。


「ンン、にゃ」


 相棒から抱きつかれているエヴァ。


「あう、ロロちゃん、興奮してる?」

「ンン、にゃお」


 頬をペロッと舐められているエヴァはくすぐったいといった表情を浮かべてから笑っていた。

 一方、俺たちが倒したチンピラ集団には、一人生き残りがいた。


 ヴィーネから尋問を受けている。

 エヴァは抱きしめていた相棒を離して「ん、わたしも――」と、男の傍に近付いた。


「うはぁぁ、うぅん、ぁう、俺たちは雇われただけだ、助けてくれ」


 男の言葉は悲鳴的だが、顔は笑っている。

 その男の手を触ったエヴァは頷いた。


 男が喋った情報は大したことがない。

 男は、その情報の証拠にと、金貨と銀貨が詰まった袋を見せる。


「ん、男が喋ったことは本当。雇い主が違うことも、前と同じ」


 そう語ったエヴァは男から手を離す。

 その男からアンモニア臭が漂ったが、構わず、


「もう戦う気はないよな?」

「はいぃぃぃ」


 俺はヴィーネに向けて、


「なら、離してやれ」

「はい」


 ヴィーネは男を睨む。

 ラシェーナの腕輪が輝く。

 男を拘束していた闇の精霊(ハンドマッド)を解放させた。

 同時に闇の精霊(ハンドマッド)の一部を自身の手首に引き寄せた。


 そのままヴィーネは左手が握る鞘の鯉口を持ち上げた。

 右手が握るガドリセスの剣を内に返す。

 剣の峰に付着した血が宙に飛ぶが、素早く、その血を体内に吸収。

 

 男は血の動きと剣を見て、びびったらしい。

 さらにじゅあっと股間からオシッコを漏らす。


 冷然としたヴィーネはガドリセスの剣を再び振るう。


「ご主人様の情けだ。今後は真っ当に生きろ。そして、さっさと退け――」

「ひぃぃ」


 ヴィーネは自らの左手の甲にガドリセスの剣を乗せた。

 甲の上に敷いた闇の精霊(ハンドマッド)を剣の峰の潤滑油とするように――。

 手の甲と剣の間から火花を発生させつつガドリセスの剣を鞘に納めた。


 キンッと鍔と鎺から音が響く。

 アズマイル流剣法の剣を仕舞う所作だ。

 ユイの居合い系と少し違う剣術だと分かる。


 戦闘型デバイスの風防に映るガードナーマリオルスも反応。

 丸い胴体が、キュルキュルと回転音を響かせながらヴィーネに向けたカメラをズームアップしていた。

 立体映像だから録画はできていないが……。

 ガードナーマリオルスなりに、ヴィーネの所作に選ばれし(フォド・ワン)銀河騎士(・ガトランス)の剣術に通じるモノを感じたのかもしれない。


 解放された男は、


「俺だって……くそ……」


 と呟くと、地べたを這って移動していく。


「ひゃぁぁ~」


 え?

 マンホール風の穴に落ちてしまった。


「あ……」

「ん、せっかく逃がしてあげたのに」


 昇り降りできる縦穴かと思ったが、穴は滑らか。

 穴の表面にあるのは、雷文模様だ。

 そんな模様の深い縦穴には梯子もあったが、下のほうには、血が付着。

 

 底のほうには、青空らしき小さい点がある……。

 男は内壁に衝突して、そのまま落ちたか。


 この浮遊岩は大陸的な感覚だが……。

 上空の高い場所に浮いている巨大浮遊岩の一つなんだと……改めて実感。


 強気だったヴィーネだったが、底を見て、長耳を萎ませていた。

 顔色は青ざめている。

 

「助けようがない」

「……はい」

「で、今のチンピラは、ユイから血文字で報告があった連中と同じかな?」

 

 皆に問う。

 ユイから、やや遅れてエヴァに視線を送る。


 エヴァの紫色の瞳から……。

 『調査をがんばった』といった気持ちはなんとなく伝わってきた。


「うん」

「ん、今の男たちも、三人の商人を経由していた」

「その報告は、血文字で聞いているが、この際だ、もう一度頼む」


 <紫心魔功パープルマインド・フェイズ>は相手に触れば心を読める。


「ん、読んだ情報と照らし合わせるように【天凜の月】の新メンバーのゼッファ・タンガとキトラとトロコンに【魔塔アッセルバインド】の皆と【白鯨の血長耳】のソリアードさんとレレイさんにも協力してもらって、依頼主のあとを追った」

「そう。商会と闇ギルドの手先の拠点ばかりだった」

「ん、血長耳と繋がる錬金術師のマコトさん。その知り合いの店にも協力してもらったけど、ダミー商会ばかりで、やっと見つけたと思ったら……」


 その語尾のタイミングで顔色を悪くするエヴァ。


「エヴァ、あれはわたしが言う」

「ん……」

「宿り月の位置を教えたと目される【幽魔の門】の下っ端の頭部が切断されていたの」

「そのあと、情報を追跡したけど分かったのは、ローブ姿の人物から金を受け取ったことだけ。その時点で追跡は止めた」

「正解だ、工作員同士の兼ね合いもあるだろう」

「うん。魔法学院でも一見は学生だけど、実はスパイだったってこともある。商会に紛れたスパイも多い。ハニートラップも多いとか。評議員、オセベリア、サーマリア、レフテンといった国々の軍務に関わる貴族か関係者に嫁がせたり、愛人をしたりして、機密情報を得るとかね。その一端が露見しても工作員だから、首を切られるだけ。この都市は中立だからって面もあるけど、そういう方面で儲けているホテルも多い」

「……わたしたちも関係しているから、なんとも言えないわ」

「ん、闇は深い」


 諜者か。どこの世も同じか。

 俺の知る日本でも、安全保障の重要な迎撃システムの機密情報が盗まれる事件は起きていた。

 

「〝中立〟の名が際立つな。スパイを取り締まる法律的な機関はセナアプアには?」

「一応、ある。評議員連盟の組織にいくつかね。でも【幽魔の門】の勢力が強いから」

「ん、その点、血長耳の優秀さが分かる。メルが褒めていた第二王子も」

「うん」

「はい」


 俺は上界の街並みを見ながら、


「それで、どっちなんだ? 【魔塔アッセルバインド】の事務所と俺たちの拠点は」


 近くの建物の屋根で回る風車の上、空には、アドバルーンが見えた。

 〝プリミエル大商会〟、〝テンテンデューティー〟、〝君と彼女にゲンキハツラツ、テンテンデューティ〟

 そんな宣伝文句が……。

 あのプリミエル大商会は、このセナアプアでも有名なのか。


 気球からは魔力が漂う。

 浮遊岩で構成する塔烈中立都市セナアプア独自のエセル界に近いからこそ可能な技術だろうか。


 一方、地面はアステカ文明風のデザインが多い。

 時の襞を経た模様の傷にも見える。


 大地のような巨大な浮遊岩が集結している上界か。


 すると、エヴァが、


「ん、シュウヤ、評議員ヒューゴ・クアレスマの勢力が強い場所を通った先」

「ルマルディの元上司のグループか」

「ん、そう。先に行くね――」

「ンン、にゃ~」


 相棒とエヴァは先に進む。


「クレイン先生とリズさんたちがいるアッセルバインドの事務所より、わたしたちの新事務所のほうが近いから」

「了解」

「それと、繁華街では、今戦ったように、何が起きるか分からないから」

「治安は期待できないか」

「うん。けど、発展はしている」


 アンバランス。

 ま、何事にも一長一短はあるか。


「キサラが戦った【魔術総武会】のアキエ・エニグマのこともある」


 キサラは目角を立て、


「すぐにでもシュウヤ様にちょっかいを出すかと思いましたが……」

「キサラも強い。大魔術師が力を消費した可能性もある。または、不測な事態が起きたか。魔術総武会にも、敵はいるだろう」

「それは……はい」


 キサラの頷きに続いてユイも、


「その他の敵繋がりで、【闇の枢軸会議】の【闇の八巨星】には【八本指】、またの名を【八指】がいる。いつ襲撃があるか……」

「隻眼の凄腕も交ざっていた、今さっきのこともあるからな」

「あ、少し焦ったわよ、魔闘術の巧みだった短剣使いね」

「……俺の剣術も改めて良くなっていると、実感できた」

「そうね。塔雷岩場ほどとは言わないけど、この塔烈〝中立〟都市セナアプアでは、闇の戦いがそこら中で起きている」


 中立が、伏魔殿、魔窟に聞こえてくる。

 三カ国に囲まれた三角洲という島国的な位置。

 平和で、リゼッチドロウズボウルと言うスポーツもあるし、華々しい一面もあると分かっているだけに、ま、表裏一体か。

 

 光があれば闇がある。

 刹那、心が温かくなった。

 <銀河騎士の絆>が反応。


『……ふむ。<光闇の奔流>のいい黄金比(バランス)じゃ』


 灰銀色の魔力粒子を纏ったアオロ・トルーマーさんの幻影……。

 一瞬見えたが消えた。


 皆には幻影は見えていない。

 ユイに向けて、


「……ヘカトレイルやペルネーテの生活に慣れてしまった面もある」

「サイデイルは戦場も多かったと思うけど、ムーちゃんを鍛えることに夢中だったでしょ」

「そうだな、皆のお陰でもあるが、平和な面もあった」

「ふふ、聞いた。けど、気合いを入れないと!」

「おうよ」

「でもさ、敵の【八本指】と呼ばれる暗殺者たち。クレイン先生は一人と遭遇して倒したことがあるって言っていたから、実は数がかなり少なくなっていたりして?」


 レベッカがそう語る。


「代わりの凄腕はいるだろう。八人を雇い直せば、【八本指】の出来上がり?」

「う……そう考えると果てがないわね」


 その二人に、


「宿の名は、ペルネーテと同じ宿り月だっけ?」

「そう」

「うん、【月の残骸】の名残?」


 レベッカの言葉に頷きつつ、


「だろうな」

「では、シュウヤ様、速度を上げて歩きましょう」

「おう」

 

 キサラと一緒に、先を歩くエヴァの背中を追う。


「ん、ロロちゃん、わたしの指がふやけちゃう」


 姿が見えないと思ったら黒猫(ロロ)はエヴァの太股の上に乗っていたようだ。

 そのエヴァは魔導車椅子状態。


 風雅な趣のある通りを、スイスイといった機動で軽やかに前進する。


「きゅ」


 荒鷹ヒューイの小さい声を耳元で聞く。

 横を歩くレベッカが、肩にいるヒューイに近付きつつ、


「シュウヤが、『ヒューイの額には、まろっぽい眉毛があって、めっちゃ可愛いんだ』と、いってたけど、本当にマークが可愛いヒューイちゃんよね。わたしのことは聞いている?」

「……キュ?」


 嘴をレベッカに向けた荒鷹さん。

 頭部を傾げて、翼の片方を拡げた。


 綺麗な大羽の自慢だろうか。

 意味は分からない。

 すると、その拡げた片方の翼から一枚の羽根が落ちた。


 桃色の魔力が包む羽根はレベッカに向かう。


「羽根?」

「きゅ」

「わっ」


 桃色の魔力漂う羽根はレベッカの耳の上に自然と装着。

 鷹の羽根の髪飾りとなる。


「ふふ、ありがと、ヒューイちゃん」


 レベッカ以外にも羽根から作った髪飾りをプレゼントするヒューイ。

 <荒鷹ノ空具>も使用する。

 皆の翼となってもらいながら先を進む。



 ヴィーネとキサラの翼として活躍するヒューイを見ながら数十分、宿り月に到着。


 ヒューイは低空飛行から加速して、上昇。

 宿り月の屋根に乗った。

 

 そのヒューイの鷹の足が止まる屋根のマークには丸いオブジェがあった。

 太陽のカレンダーらしき形。


 宿り月の外観もアステカ文明風の建築だ。

 玉飾りの一つに、嘴を当てて、突くヒューイ。


 どことなくその飾りの全体像には、戦闘型デバイスと似た雰囲気があった。


 元々は別の施設だったのかな。

 玄関も横に広い。

 檜の板の間で、ここから見える範囲の内装の色合いは灰色と白色。

 宿屋ってよりは、洒落たバーって感じの印象。


「ヒューイ、門番を頼む」

「きゅ~」

「ン、にゃ」


 ヒューイの下にある玄関を潜って、皆で宿屋に入った。


「エヴァ様たちだ!」

「ユイ様!」

 

 皆が入ると、従業員たちは一斉に挨拶してきた。

 手前が受付。

 天秤が金貨と銅貨の重さで傾く。


 その天秤を載せた台の向こうに立つ、綺麗な二人の受付嬢も【天凜の月】が雇った人材か。

 厨房からも声が響く。

 奥から顔を覗かせる人族とエルフの料理人。 


「お帰りなさいませ~」


 更に、【天凜の月】が雇い入れた新しい人材が並ぶ。

 黒猫海賊団の連中もいる。


「盟主様たちのお帰りだ! 者共、整列!」

「「おう」」


 と、反応に困る対応をされた。


「楽にしてくれ、仕事をしてくれると助かる」

「「はい」」


 魔道具の明かりが射す中央では二人組の吟遊詩人が演奏中。

 光源は近未来的で調色が掛かる。


 吟遊詩人の一人は大柄のセンシバル。

 巨大なホラ貝と弦楽器が合わさったような不思議な楽器を奏でる。

 しかも、魔闘術だけでなく導魔術も同時に使って空中に浮かせた弦楽器を弾く。

 

 もう一人の相方は人族と魚人のハーフか。

 楽器は笛。

 魔力を内包した笛だ。

 

 俺たちが入ってきたことを知った二人組の吟遊詩人は、曲調を変化させた。

 中世風からダイナミックな曲調に。


 このコンビ、強い武人の気配もある。

 ヴィーネが俺に視線を寄越す。


「ご主人様、あの二人が新しい用心棒でしょうか」

「だろうな」


 そう会話していると、ユイ、エヴァ、レベッカ、キサラは、ふふっと笑う。

 キサラが耳元で、


「シュウヤ様、あのコンビには【狂騒のカプリッチオ】という渾名があります」


 曰くのありそうな名だ。

 反対側の耳元で、ユイが、


「センシバルがゼッファ・タンガ。人族のほうがキトラって名よ。嵐海ミフォスから流れついた吟遊詩人たちらしい」


 と、指摘。

 続いて、エヴァが、


「ん、黒猫号の船長オットーと顔なじみとか聞いた」

「うん、わたしとキサラさんが一緒だった」

「闇ギルドの仕事の時でしょう?」


 と、レベッカがキサラに聞く。

 そのキサラが、


「はい、メルさんたちのお手伝いの流れで、レフテンとサーマリアを繋ぐ海運マフィアを潰した際に、その敵側の酒場で暴れていた【狂騒のカプリッチオ】の二人組を助けたんです。そして、ユイさんとわたしが交渉を行いました。最初は断られましたが、吟遊詩人&用心棒として【狂騒のカプリッチオ】のゼッファ・タンガ&キトラを雇うことに成功。勿論、対価のお金はかなり支払っています。副長のメルさんが事前に用意したお金が役に立ちました」


 と、吟遊詩人でもあって、凄腕用心棒でもある【狂騒のカプリッチオ】のコンビのことを教えてくれた。キサラの喋りに合わせて重低音が響くから面白かった。


「そうだったのか」

「聞いていなかった……」


 ヴィーネはショックを受けた。

 そのヴィーネがメルたちと血文字で結構やりとりしていることは知っている。

 ま、ユイも、わざわざ報告する必要はないと判断したんだろう。

 ユイは、俺たちがセナアプアに来る流れだと、血文字で知っていた。

 レベッカ、エヴァ、キサラが、雇い入れた【狂騒のカプリッチオ】についての情報を教えると思ったのかも知れない。【魔塔アッセルバインド】と同盟を組んだこともある。


 そんなことを考えつつ――。

 食堂から響く【狂騒のカプリッチオ】の演奏を聞いていく。


 シャナはがんばっているかな。

 ペルネーテに戻ったら話をしてみよう。

 ゴルディクス大砂漠に向けての資金は、まだまだ足らないだろうし、まだ仕事を続けているはず。


 扇風機の魔道具から出た風が食堂を流れた。

 天井にぶら下がる月と風鈴的な飾りも揺れる。


 いい雰囲気だ。


 無垢の机と椅子も並ぶ。

 そこで食事を楽しむ客もいた。


 エルフと人族にドワーフ。

 小柄獣人(ノイルランナー)鼬獣人(グリリ)もいる。

 

 その鼬獣人(グリリ)が振り向いた。


 鼬獣人(グリリ)の双眸は燻べ色。

 鼻筋は高い。

 顔には、茶色の毛が多い。

 口元には白髭。


「ユイさん! そのお方が……」

「そうよ」


 ユイは頷いていた。

 俺は、そのユイに、この鼬獣人(グリリ)の方は……?


 と、アイコンタクトで聞いた。


「メルが事前にセナアプアで新しく雇っていた用心棒の一人よ。名はトロコン。ホテルキシリアの世話人と揉めて、生きている。だから実績は十分。実際、この辺りの縄張りは、彼女とゼッファ・タンガ&キトラのお陰でチンピラも少ない」

「はい、ユイさん、ありがとう」


 拱手で応えるトロコンさん。

 衣服は和風と中華を合わせたような印象だ。


 そのトロコンさんは、俺に対して「盟主様――」と発言しつつ頭を下げた。

 頭を上げると、素早い所作で拱手。


 そのトロコンさんは目を輝かせながら、


「――武器は、このように魔刀を扱います。宿り月の用心棒を代表して、この地域の縄張りを守るつもりです。今後ともよろしくお願い致します」

「ンンン――」


 相棒は喉声を発して挨拶しながらトロコンさんの背後に向かう。

 鼬獣人(グリリ)のふさふさな尻尾が気になるのか。


 鼬と言えば……。

 貂だが、左手の掌の中に棲む貂は反応しない。


 俺はトロコンさんに向けて拱手。


「よろしく、トロコンさん」

「はい!」


 トロコンさんは、背筋を伸ばした。

 そのトロコンさんの背後で動く相棒が視界にチラついたが、無視。


 トロコンさんが自ら見せた武器。

 ユイと同じ刀系の武器。


 業物だろう。

 鼬獣人(グリリ)小柄獣人(ノイルランナー)より大きいが、小柄の部類に入る種族だと思う。


 そのトロコンさんは、俺を凝視。

 相棒に、お尻の臭いを嗅がれて尻尾を動かしては、顔色を変化させているトロコンさんでもある。


「……ぁぅ。黒猫様に、槍使いの盟主様……」

「ん? トロコンさん?」

「盟主様……わたしに〝さん〟は不要です。シュウヤ様! はぅ!」


 鼻先が尻尾というかお尻の溝に直結した相棒のふがふがが、強まったようだ。

 鼬獣人(グリリ)だから、同じ獣だと思ったのだろう。


「相棒、戻ってこい」

「にゃ~」


 鼻先から、ぷあーんと、なんとも言えない匂いが漂ってきそう。

 が、満足したような顔付きの黒猫(ロロ)さんだ。


 トコトコと、俺の足下に戻ってくる。

 

 黒猫(ロロ)は俺の脛に頭部を衝突させつつ胴体も寄せてきた。

 長い尻尾で、足をくすぐるように膝裏に絡ませる。


 俺は『転けちゃうだろっ』と、視線を相棒に向けた。

 が、体を擦ることに夢中な黒猫(ロロ)を見て、仕方ないかと思い、その耳を引っ張りたくなったが、自重してトロコンさんに笑顔を送る。


「可愛い猫ちゃんです」

「そうだな」


 そのトロコンさんから視線を外して、受付を越えた右を見る。

 宿泊用の部屋が続く廊下の先。 

 厠といった設備はちゃんとしている。

 そのトイレから厳つい顔のドワーフが出てきた。


 そのドワーフの耳の形が少し変だ。

 氏族ごとに違うのかな。

 手を布で拭いている。

 

 ちゃんと手洗いと、うがいを済ませていた。

 口元の髭は濡れている。

 右端に階段があった。

 ドワーフは食堂に向かうと、酒を飲む仲間たちと談笑。


 南マハハイム地方の都市は、衛生的な文化レベルが高い。

 んだが、あくまでも都市の一部。 

 

 ゴルディーバの里からの旅路には衛生環境が酷いところもあった。

 レフテン王国のファダイク近郊は酷かったなぁ。

 

 宰相ザムデのせいで王女ネレイスカリが誘拐される事件も起きていたし仕方がないか。

 レフテン王国内の王党派、機密局と貴族同士の争いを利用していただろう、八頭輝の一角、【ノクターの誓い】の勢力。その【ノクターの誓い】が、縄張りを持つ地域で、ポポブムに乗って俺と相棒は旅を続けていた。


 そのノクターの誓いがあるように……。

 レフテン王国では魔界の神々(セブドラホスト)の信奉が強い?

 東亜寺院の勢力も強いと聞くから違うか。


 たんに、あの地方の内戦が激しい&魔族の血筋が多いってだけだろう。

 

 ホルカーバムにも、十層地獄の王トトグディウスを信奉する【血印の使徒】が多い。

 神格落ちした欲望の王魔トドグ・ゴグの兄。


 ……トドグかトトグ、どっちなんだろう。

 ま、地方によって発音は微妙に異なるか。


 すると、宿屋を利用する客たちが、皆を見て、


「……蒼炎使い、紫の魔女に魔槍のキサラも一緒か……二日ぶりに幹部勢揃いだな」

「嬉しいぜ……美人ばかりで癒やされる」

「あら、わたしたちでは、不満なの?」

「ミッス、お前はお前で気に入ってる」

「おうよ、そういうわけじゃねぇさ」

「そうだ。ミッスに、プリンちゃんがいるからがんばれるって一面もあるが、憧れは必要だ……それに俺たちだって、一応は戦力だ」

「うむ! この聖域はトロコンだけに任せておけねぇ……」

「そうだ! 成長して、いつか刀剣秘話に載る!」

「はは、あの伝説の刀剣秘話か。しかし、ここの宿屋は、【天凜の月】の事務所で、美人な幹部たちは強い。俺たちが出張る必要はないぞ? 宿の料金も高いし……長居は無理そうだ」

「あぁ? んなことは分かってるさ……俺の幸福は満ちたりてるんだ」

「ふふ、可愛いとこがあるのね」

「ミッス、そう言うなって……見ているだけで……」

「そうだとも。この距離から、あの蒼い瞳を見ているだけでな……」

「うん、わたしも分かる、お菓子と紅茶と化粧品もくれるし」

「美味しい入れ方とか、変な地図を見せて、〝イノセントアームズ〟の自慢をしてくるけど、面白いわよね」

「うんうん」

「俺はエヴァさんがいい。あの優しい瞳……」

「んだんだ。おらぁ、ここで初めて知った、生きる意味を……」

「俺はキサラさんだな……助けてくれた」

「おう、あの魔槍はすげぇよ、しかも色っぽいし……」

「むっしゅだな?」

「あぁ、むっしゅ、むらむらだ……」

「ふぉふぉ、はりきるのぅ」

「爺さんは黙っとけ」

「……もう、やらしい」

「そういうプリンちゃんだって……」

「ふん、わたしは商売だし、当然でしょう」

「ふぉふぉ、プリンちゃんはわたしを触ってほしいと言っとるのだ」

「エロ爺さんは黙っとけ」

「だいたい、なんで宿り月に爺さんがいるんだよ」

「トロコンが助けてくれたのじゃ」

「そうかい……」

「……それよりも、勇気が奮い立つな!」

「あぁ、毎日の上界、下界の仕事で命を張れるのも、美人な幹部たちがいるからだ」

「ギンタマ、よく言った! だからこそ、小遣いを、喜んでミッスたち、この宿り月に捧げる!」

「おうよ、俺もだ」

「そうね、ありがと」

「サービスしちゃう!」

「「あぁ、やった」」


 そんな客と従業員たちからの皆に対する視線には愛がある。


 客と従業員たちは新しい美徳を得ての活力を眷属たちから得ているのだという熱い眼差しだ。


 眼差しの中心は、主にレベッカさんだが。 

 しかし、この宿屋の連中からしたら、レベッカたちは一種のアイドルか?


 キサラに助けられたというし、レベッカも、何か彼らの活動を助けるようなことをしたんだろう。


 同じ【天凜の月】に関わるから、当たり前だが。


 レベッカは微妙な面で頬をぽりぽりと掻いていた。

 エヴァは気にせず、俺を見て天使の微笑を浮かべてくれた。


「……雰囲気はよさそうだ。さて、【魔塔アッセルバインド】の事務所に行こう」

「うん、トロコンさん、わたしたちはこれで」

「はい」

「にゃ~」


 外に出たところで、「ぴゅ~」と鷹の声が響く。

 俺の竜頭金属甲(ハルホンク)の上に着地した荒鷹ヒューイ。


「ん、こっち――」

「行きましょう」

「おう」

「ンン――」


 ヒューイを肩に乗せて先を進むユイたちを追った。

 途中で肩から離れたヒューイ。


 一気に高く飛翔する。


『――ヒューイ、ここは空魔法士隊が多い。交通路があるかもしれないから、傍を飛行してくれ』

「ピュゥゥ~」


 甲高い鷹らしい声で返事を寄越すと旋回。

 気球に突進しかけていたから、良かった。


「荒鷹ちゃん~」

「――ん、戻ってきた」


 走るエヴァたちもヒューイを心配してくれていたようだ。

 低空飛行のまま俺たちの傍を飛行するヒューイ。


「――イザーローンのように、ここに来ますか――」


 ヴィーネさんだ。

 豊かな胸を自慢するように、胸を張る。

 胸ベルトの懐から金属の箱を見せていた。


 ミスティと合作のイザーローンを仕舞う箱。

 箱というか巣箱。

 ミニチュアの餌箱も付いて細かい。


「きゅ」


 ヒューイは短く返事をしつつ飛行を続けている。


 ――黒豹(ロロ)も速度を出す。

 純粋な黒豹としての膂力だ。

 ――ストライドが長い。


 力強さと、しなやかさを合わせ持つ神獣ロロディーヌの走り。


 黒女王ロロディーヌは美しい。 

 周囲を行き交う人々も自然と、漆黒の獣が華麗に走る姿に、注目していた。


 眷属たちをあっという間に抜かす。

 姿が見えなくなった。

 

「ロロ様、速い!」

 

 と、笑うヴィーネ。

 ユイも、


「後ろ脚が可愛い! けど、速いロロちゃん!」

「ん、ロロちゃん、匂いで先生の場所が分かる?」

「あ、そっか」


 と、黒女王ロロディーヌが出たであろう通りに俺たちも出た。


 相棒が後脚を滑らせつつ角を曲がって見えなくなった。 

 んだが、すぐに戻ってその場でぐるりと回ると、違う方向にターン。


 神獣ロロディーヌとして皆が、褒めていたが……。


 慌てて町中を走る姿は面白い。

 姿は黒豹で迫力もあるが、滑って、転びそうになるところは、ネコそのもの。


 また戻ってきた相棒は、俺たちの姿を確認した。

 角の壁際で、前足で地面を突いて急ストップ。


 長い尻尾で地面を叩くと、後脚を巻くような姿勢となる。

 エジプト座りだ。


 縦長の瞳孔。

 神秘さと悪魔っぽさを合わせ持つ黒豹としての姿だ。


 一瞬――。

 古代エジプトで崇拝された女神バステトの像を想起した。


 黒豹(ロロ)は立ち上がると、角を曲がって消えた。

 

「――ん、やっぱりロロちゃんは嗅覚と勘が鋭い。あの先に、先生たちの事務所がある」

「へぇ」


 あの角を曲がった先が【魔塔アッセルバインド】の事務所か。

 ――周囲の建物は魔塔が多い。

 メカニズムがありそうな灯台の魔塔。

 濃密な魔力を内包して、暗い夜気が息づく魔塔。

 同時に、薬の匂いが強まる。

 煌びやかな魔塔の中で女性の悲鳴が聞こえた。

 その塔からは魔力の波動が外に出ていた。


「悲鳴だと?」

「ん、事件?」

「この辺りは物騒な面もある――」

「皆、先に行っててくれ。俺は悲鳴のところに向かう」

「分かった」

「シュウヤ様、わたしも」

「大丈夫だ。先に【魔塔アッセルバインド】の事務所に。相棒も先に行ったままだ、すぐに戻る」

「はい」


 と、俺は跳躍。

 足下に<導想魔手>を発動。

 宙空で、その魔力の歪な手を蹴って、二段、三段と飛翔する。

 同時に、口笛で荒鷹ヒューイを呼ぶ。


「――キュィ、キュ!」


続きは明日を予定。

HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。11」2020年6月22日に発売。

コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。2」2020年6月27日に発売。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新メンバーも中々優秀そう。今は只の雇われでも、徐々に居心地が良くなって、正式に加入するだろうなぁ。 [一言] まぁシュウヤなら、女性の悲鳴が聴こえたら首を突っ込むよなぁ。問題にならなけれは…
感想一覧
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