六十五話 新武器防具、俺、紫騎士に成る
2021/07/27 23:39 ザガとボンの台詞追加。&魔槍杖バルドークや魔竜王の鎧など修正。
今日はドワーフ兄弟の店に行く。
十日が過ぎたし、そろそろ武具が出来上がっているはずだ。
魔竜王の素材、古代竜の素材から作られる武具。
どんな武具になるのか、楽しみだ。
全裸待機状態といえる。
借りていた銀色に輝くハルバードを出現させて黒猫を肩に呼びよせ安宿を出た。
細かい通りが沢山ある横丁を通る。
そんな一角を過ぎた時――お? 魔素だ。
背後から一定の間隔で付いてくる気配を感じた。
この魔素の動きからして……手練れと予想できる。
俺が歩く速度を変えても、背後の気配は付かず離れずの距離を保ったまま。
最近は掌握察が洗練されてきたので、敏感に感じることが出来ていた。
また闇ギルドか? それとも侯爵の間諜か?
はたまた、ヴァンパイアハンターとか?
ま、普通の密偵ならこのまま放って置くか。
楽しみな品が待っている店に急ごう。
そうして、いつもの角を曲がりドワーフの店に近づくと、ボンが走って出迎えてくれた。
「エンチャッントッ」
「ン、にゃぁっ」
黒猫もなんとも言えない声を出す。
肩から飛び降り、ボンへ挨拶するように走っていく。
また、メルヘンな世界に……。
しかし、ボンはいつも俺が近付いてくるのを、予め分かっているかのように出迎えてくれる。
もしかして、掌握察みたいな気配察知ができるとか?
黒猫と遊ぶ顔からは想像できないが、まさかねぇ?
ありえるか。
ボンがこの間、使用していたエンチャント魔法は凄かった。
目が光り、魔力も普段と違って小さい体の内側からマグマが噴き出すように、濃厚な魔力が迸っていた。
そんなボンに関することを考えながら、店の前へ進む。
すると、店の前に一台の馬車が停まっていた。
鎧馬付きの豪華な荷馬車。
鍛冶の素材や重そうな工具をドワーフ兄弟の店から荷馬車へ運んでいる男たちがいる。
彼らの風采は皮服だけだから、下男か。
ザガとボンは引っ越し?
「ボン、ロロ、店の中へ向かうぞ」
「にゃっ」
「エンチャントッ」
店内は新しい工具箱やら魔法陣が刻まれた木材に、鍛冶の材料がところ狭しと積み重なって散乱していた。
やはり引っ越し作業中のようだ。
散らかった店内の奥にある扉が開く。
そこからザガが歩いてきた。
「よう、シュウヤ。頼まれた品物は、もう全部用意してあるぞ」
「おぉ、ザガ。見せてよ」
……楽しみだ。
「わかった。その期待した顔を抑えて、少し待っとけ。ボンッ、ロロとじゃれあってないで、手伝えっ」
「エンチャッ」
おっ? 言葉が途中で止まった。
エンチャントの微妙な言い回しの違いがあるようだな。
ボン君はトコトコと走ってザガの後ろをついていく。
待っていると、ザガとボンが荷物を胸に抱えて戻ってきた。
色々な品物が大きな机の上に置かれていく。
その様子に興味を持ったのか、足元にいた黒猫が動き出す。
興味シンシンといったように顔を上げる。
匂いを嗅ぐように小鼻を上下に動かしては……二人のドワーフの後をトコトコと歩いてついていく。
しまいには新しい品物を見て、相棒なりに調べるつもりか。
机の上に跳び乗った。
机に並ぶ新品に鼻を近付けて、ふがふがと、匂いを嗅ぐ。
今度は、片足を伸ばして肉球で触ろうとしている。
「ロロ、まだ触っちゃだめだ」
一応、注意。
黒猫は俺の顔色を窺いながら、
「ンン」
と、喉声を鳴らすと、片足を引っ込めていた。
両足を揃えて、人形のようにエジプト座りで待機。
興味はあるが、我慢するようだ。
それにしても、これが、新しい槍かよ。
……ハルバード系の槍斧杖。
まさに魔竜王から作られた装備とわかる代物だ。
全体的に紫で彩られて美しい。
先端と後端、どちらも武器になると物が付いていた。
斧のような平たい巨刃、先端には尖った矛がある。
巨斧刃は紅色に輝き魔力を放っていた。
鋭そうな尖った矛も紅色だが、先端部位は若干黒光りしていた。
重そうではある。
この矛と斧のコンビを見ると三国志に登場する槍武器の戟を思い出す。
猛将の典韋が扱った戟は、重さ十八キロあったらしいからな。
紅色の矛と紅色の斧刃の穂先を支える螻蛄首、太刀打に紫色の長い金属の柄。
その柄の中央部には持ち手のグリップが付いていた。
グリップは黒皮だ。モンスターの皮だろうか。
それに着脱可能な引っ掛けられる小さいハーネス金具まで付いてある。
ちゃんと考えられた作りだ。
杖の後端、石突は少し変わっていた。
長方形の蒼い巨水晶、クリスタルがある。
紫色の鱗金属が樹脂の歯茎のように蒼い巨水晶の四隅を囲っていた。
蒼と紫のコントラストが美しい。
四隅を囲まれた真ん中にある蒼い竜魔石の塊は先端部分が飛び出す形となり、出っ張り部分がより蒼く輝きを放っている。
この部分だけ見ると水晶を囲う杖やメイスにも見えるから不思議だ。
そして、穂先の紅色の斧刃より、この蒼い巨塊水晶の奥底からは魔力が感じられた。
「……すげぇ、凄いよ、ザガ、この槍」
「……名前は魔槍杖バルドークとでもつけるか?」
「あぁ、良い! 名前はそれでいこう」
俺は声を高めて、即答。
早速、魔槍杖バルドークを持ってみるか。
借りていた銀色のゼリウム製ハルバードを床に置き、少しドキドキしながら机上にある魔槍杖バルドークへ手を伸ばし、紫色の柄を掴む。
あ、これ、不思議だが握った瞬間から、俺には分かった。
これが、俺の主力武器だと。
魔槍杖を上下に振る。
感触を確かめた。
――重さ、バランス、すべてが素晴らしい。
黒猫も魔槍杖バルドークの動きに釣られるように顔を縦に動かす。
魔槍杖バルドークの動きを追っていた。
「――良い感触だ。先端である鋭そうな紅矛に、横に大きく突出した紅色の巨刃。螻蛄首から口金の太刀打。紫色の長い金属棒の柄。グリップもいい。そして、後端の石突。蒼色の巨水晶。どれもが、素晴らしい」
「よかったよかった。気に入ってくれたか」
ザガは俺が喜ぶ顔をみて、満足そうに笑顔を浮かべていた。
へへ、凄い武器だ。
自然と笑みが浮かんでくる。
「――そりゃぁ、気に入るさ。魔竜王の素材にザガとボンの作品でもあるからな」
「がはは、そう持ち上げるな」
俺もザガに釣られて笑う。
そのまま魔槍杖を動かして、紅斧刃の巨刃を窓から差す光に当て、刀の波紋のような模様を眺めていく。
「……この紅色の巨刃も鋭そう」
「うむ。見ての通り、その巨刃は紅鶏冠の部分を使っている。衝撃を与えれば火属性の斬撃を産み出すだろう。だが、なんといっても一番凶悪なのは、魔杖の後端にある長方形の蒼い竜魔石の塊だ」
ザガは鋭い目付きで、後端を指差して説明してくれた。
「これか」
確かに、蒼い。巨水晶。
「そうだ。その水晶のような竜魔石の塊は魔力を込めれば、魔宝石や竜眼を超える水属性の魔法を放てる。だが、その魔法よりも凄いのが、水晶塊の硬度であり柔軟性だ。その塊をメイスとして使った方が、より“凶悪な武器”になるだろうな」
ふむふむ。ザガは凶悪というが、見た目は綺麗な塊だ。
「それから魔力を通した時点で汚れも落ちるし、刃のメンテナンスが不要になる。更に、ボンのエンチャントで耐久度アップが重ねてあるから手入れの心配はしなくて良いだろう」
おおおお、何、その便利機能。
ヨイよ、ヨイヨイ。聞いただけでテンション上がるね。
「……わぉ、いいねぇ。すげぇ楽しみだ。どんな感じになるか試したいな」
「まてまて、そう早まるな。それに、鎧や外套に小物を見なくていいのか?」
ザガは俺の反応が嬉しいようで、ニヤついて話してくる。
「ッ、エンチャント……」
何故かボン君がくりくりした目を輝かせながら〝まぁ、落ち着けや、若造〟といったように頷きながら手をポンポンっと俺の腰に当てていた。
なんか、ボン君から独特の雰囲気で諭されている気分だ。
ま、気にしないが、
「……そうだな、見て装着したい。まずはこの紫色のスケイルメイルと特徴的な竜の意匠が目立つリアブレイス。小手に腕甲も良い感じだ。紫の大腿甲もしっかりとした作り。脛甲と合体した紫靴の幅もぴったりだ。これはグリーブか。薄灰色の外套も渋くて素晴らしい」
そうして、俺は今着ているボロボロな鎧を脱ぐ。
長らく世話になったキュイスに腕甲を外して新たな品を装着。
「おぉ、似合ってるぞ、どこぞの紫模様の騎士だな」
「エンチャンット」
俺、紫騎士に成ったらしい。
腰回りもフィット。流石はザガとボンだ。
一度、鎧将蟻の素材で鎧を作ってもらったから、鍛冶師としての腕は疑っていなかったが、改めて彼らが凄い職人なのだと再認識した。
実に見事な造りだ。
鱗の継ぎ接ぎや胸板の曲線が維持された胴体には古竜の骨も随所に組みつぎ加工が施されている。
「ザガ、この素材の合わせた包み蟻組みつぎのような大工系技術は」
「シュウヤ、見ただけで技術を語るとは、そうだ。大工の<木工>系も多少使える。<仕口>などな。同時に他にも<鍛冶・槌極>。主軸に<鑿・砕極>など……わしが使える最高の技術を込めた。だから、防御力が倍増する造りとなっている」
「おぉ」
「エンチャッ、エンチャント!」
スケイルメイルというよりはアーマー系だろうか。
左胸には、光沢を帯びた黒紫色と銀白色で縁取られた斧槍と紫竜の絵が小さく描かれてあった。
裏地も魔竜王の素材が使われている。
柔らかい肉皮かな、ゴムのような感触で着心地がよい。
左手首の位置も注文通り穴が空いているし、両手の紫の手甲の大きさも幅はピッタリだ。いや、少し隙間があるか。
しかも、指貫きグローブも備わる。
広げて握っても違和感なし。
こりゃ、燃えたろ? と、ポーズを取りたくなるな。
右腕甲だけのシンプルな作り。
右手首から肩にかけては、肌を晒す形となるが……まぁ、これはアクセントとして受け入れよう。
一方で、左腕の鱗防具は少し特徴的だった。
鎖を放出する手首の穴は竜の口のように形成されて牙の装飾が施されている。
腕部には竜の胴体が力強く伸びて左肩を覆うように紫竜の尻尾が巻いていた。
立体造形の作りだ。
それも見た目重視ではなく、リアブレイスやヴァンブレイスのような、ちゃんとした可動域も考えられてある防具に加工されているんだから驚き。
十日あまりでこんな物を仕上げるなんて、才能ありすぎだろう。
腰には幅広の紐皮で吊られた剣帯を付け、腰回りに馴染むように感触を確かめながら調節していった。
脚の部位も着ていく。紫色の鋼が重なり段差がついたキュイス。
これにも紫鱗がふんだんに使用されてある。
足先も、硬そうな甲付きグリーブを履いていく。
「魔竜王の鱗や骨をふんだんに使ってあるから強度は抜群だ。後、この外套にベルトも着てみるがいい」
「わかった」
外套は灰色だが、若干紫色に光が反射しているのが分かる。
胸の位置には十字架と本のようなシンボルマークが黒光りする糸で刺繍してあった。
灰色外套を着ていく。襞を伸ばし滑らかな生地に指を走らせる。
隅のほうをわざと引っ張り試してみた。
外套の布は見かけによらず丈夫そうで触り心地もよい。
それに内部は何故か涼しく感じた。
頭巾も首後ろの背中にあり、灰紫の薄い縞模様の頭巾が頭に被せられるようになっている。
紫で統一された品々を背から体を包むように灰色外套が全てを隠す。
そして、最後に胸ベルトだ。
真新しい外套の右肩から胸前へ回す。
斜めにベルトを装着した。
胸元の位置にはナイフを入れられる収納があり、四角の小袋も多数ある。
このポケットには小物が色々と入りそう。
背中側にも軽い背嚢代わりになる袋閉じと、武器を装着できる金具もついていた。
これで見た目は完全なベテラン冒険者といった感じだろうか。
「ふむ。人の世話にならない有能そうな旅人に見えるな?」
「エンチャントッ」
「にゃぁん」
黒猫も誉めているのか分からない声を発し、机から降りると、俺の紫グリーブの足へ頭を擦りにきた。
新品なので、匂い付けか?
そんなロロを見てると、ザガが口を開いた。
「その外套の素材である特注布は、銀ヴォルクの粘液から特殊銀糸を抽出した素材らしい。その特殊糸から高度な裁縫技術で手間暇掛けて作られた逸品だ。物理耐性や魔法耐性が上がるとされている。それと、その中、涼しいだろ?」
そう、スースーする。
「確かに、涼しい。これは魔法?」
「正解だ。風と水の防護魔法が掛かっている。その胸にある黒刺繍が関係しているのだ。それは知恵の神の紋章で祝福の印。元はイリアス神の聖遺骸布を模した物らしいが、ま、レプリカだろうと風と水の加護が掛かっているので、羽織る者には効果は絶大だ。そんな代物の外套に古竜の鱗を粉末状にした物を何層にも貼って重ねるようにボンの特別なエンチャントが施されている。手触りは布だが、確実にどんな魔鉱物系の鎧より防御度は上だな」
ほぁぁ、すげぇ。
銀ヴォルクが何なのか知らないが良さそうな製品には違いはあるまい。
それに涼しい魔法付きという至れり尽くせり。
「……いやぁ、感動だ。鎧を着ているのに“涼しさ”を感じるとは、良いねぇ」
「だろうだろう。その外套が実は一番値段を含めて防御が高い。大商会から仕入れたんだが、満足したようで俺も嬉しい」
「勿論だよ。大満足さ」
「それと、その外套だが、移動や攻撃に邪魔と思ったらちゃんと、胸前の外套部位が開いて布を背中内部へ回せるからな。その分、開けた前方の防御は落ちるが」
なるほど、柔らかいゴムレールじゃないが、布を畳むように移動する。
ゴムとか使用されてないはずだが、巧妙な作りだ。
布革と刺繍だけでここまで仕上げられるとは。
この製品を作った職人も凄腕だ。
「最後に、ここに並ぶのが古竜の蒼眼と、ばらした古代竜の鱗、数百枚だ。歯牙の一部は材料を削るのに使ったのを短剣として再利用。長牙はシンプルなロングソードにしてある。小さい牙は複数あったが全部長さが違う短剣にした。古竜の髭も少し売ったが残っている。後は肉、舌、口蓋垂、頬骨、顎骨、耳、鱗の一部を売った金が全部で、大白金貨十三枚に白金貨十枚だ」
うひょっ、大白金貨かよ。
しかも、白金貨百枚で一枚の価値がある大白金貨。
それが十三枚っ、すげぇすげぇよ。
こんな金額になるのに、グリフォン隊の隊長セシリーは報酬を蹴ったのか。
金よりも名誉、軍務を選ぶ英雄たる軍人だった。
だとしたら、晩餐会の時に見せた、あの辛い表情にも納得がいく。
報酬について侯爵に歯向かうほどのプライドだ。
本人が納得していないのに魔竜王討伐者として言われ続けるのは辛いんだろうな。しかし、
「……すごい金額だ」
「まあな、舌、耳、顎骨がまぁまぁの価格で売れた。が、一番高く売れたのは古竜の髭だ。これは普通の市場には出回らない代物だそうだ。地下オークション級と言っていたぞ。特殊中の特殊とか。知り合いの大商会に所属する幹部がそう話していた。大幅に相場が下がっての値段だそうだ」
大商会幹部? 先ほどから大商会とワードが出ているが……。
ザガは結構な知り合いがいるんだな。
まぁ、これほどの品を作る職人だ……。
実は結構なコネクションがあるのだろう。
「……驚きだ。が、何から何まで、ありがとう」
「いやいや、貴賤のないシュウヤのような客を持てて、俺は嬉しいんだ」
ザガが、珍しくはにかむ。
「そうか、しかし、大金だな……」
「ふむ。だが、大商会が扱う一流どころの冒険者はもっと稼いでるだろうよ。ま、シュウヤが金持ちになったのは変わらんけどな? 何しろ、まだ売っていない鱗や牙がこの数だ」
そう言われ、牙や鱗に金貨を見ていった。
「……あまり実感が湧かないがそうらしい。ザガとボン、ありがとう。良い装備に素材まで売ってもらって」
「……何度も礼を言うな。俺たちの方こそ礼が言いたいくらいだ。このような古代竜の素材なんて、あの【迷宮都市ペルネーテ】でも中々、御目にかかれない代物だ。それを一介の鍛冶師であるわしらのようなドワーフ兄弟に弄らせてくれたのだ。シュウヤ、ありがとうな。それに……俺たちもかなり儲けさせてもらったんだぞ?」
「はは、ならば、お互いに得したってことだな」
お互いに笑顔で笑う。
「あぁ、また何かあったらお願いしたいぐらいだ」
「エンチャントッ」
ボンは『そうだぞッ』って言わんばかりにサムズアップしている。
俺も笑顔でボンにサムズアップを返しておいた。
そして、アイテムボックスの中へ古竜の鱗、牙、金貨を入れ仕舞いながら店の表に止まっていた馬車のことを思い出す。
「……そういや、表に馬車があったがどっかいくのか?」
「あぁ知り合いのクランがいる【迷宮都市ペルネーテ】に引っ越そうかと思ってな。シュウヤのお陰で資金はたんまりとある。【ペルネーテ】ならば仕事も増えるだろう。だが、一番の理由はもっと刺激が欲しくなったのが大きい。古代竜の素材は俺とボンの心に響いた。だから、もっと俺たちを“わくわく”させる素材が出回る【迷宮都市ペルネーテ】で、一旗揚げようと思ってな?」
そうかぁ……。
オラ、ワクワクしてきたぞ。の、孫悟空的な、わくわくは重要だよな。
職人だし当然だ。
「新たな船出か。おめでとう。それで、ペルネーテには、すぐに旅立つ予定なのか?」
「あぁ、積み込み作業が終わり次第だ。まだ少し時間がかかる予定である。だからシュウヤのことを待っていた」
「エンチャントッ」
ボン君も元気よく答えている。
「そうだったか。……もしかしたら、俺もいつか迷宮都市ペルネーテに行くかもしれない」
「ほぅ、やはりな。お前さんが店にきたら割引をしてやるぞ」
「はは、その時は宜しく頼むよ。ザガとボンならきっと成功するだろうし、楽しみにしてるさ」
「ガッハッハッハ、期待しとけ」
ザガは髭を揺らし快活な笑顔を見せる。
「それじゃ、俺はいくよ。ロロ、出るぞ」
「おう、またな」
「エンチャッン、エンチャット」
ザガは軽く腕を上げ、ボンは両腕を激しく交互させていた。
バイバイ、サヨナラと言っているのはわかる。
俺も軽く腕を振ってからドワーフの店を後にした。
さて、新しい武器防具を手に入れたし……。
ポポブムでの旅を再開するか?
それとも三番目のゲートを使い初の現地民と接触するか?
まずは宿屋に戻ってから決めよう。
そんな感じでこれからの行先を決めながら、路地を通っていると、また背後に気配を感じた。
尾行は続く。
俺は気にせず宿に急いだ。
宿に戻るまで、ずっと背後に、ついてくる魔素の感覚があった。
一定の距離を保ったままで、何にも接触はしてこない。
さすがに宿の中に入ると、背後にあった気配は消えたが……。
ま、気にせずに、やることやっておこう。
このバルドークの魔槍杖をアイテムボックスの中へ入れておく。
いつでも瞬時に召喚できるように登録しとかないと。
まずは一枚の銅貨を取り出して、格納をタッチ。
まずは魔槍杖をアイテムボックスの中に入れた。
次に人型のマークをぽちっとな。
いつものように、四角いウィンドウの中に四つ目のディフォルメされた宇宙人キャラが表示されている。
左手の部分には魔剣ビートゥが表示され、右手は__空欄表示。
その空欄表示__にタッチすると、アイテムボックスの中に入れたバルドークの魔槍杖が表示された。
さっそく、右手の空欄表示__にバルドークの魔槍杖を登録。
右手に魔槍杖バルドークを装備しますか? Y/N
勿論、Yを選択。
ウィンドウを消して、魔槍杖を呼ぶ。
――瞬時に召喚され、右手に魔槍杖が収まった。
これで完璧。一旦、武器は消す。
さて、【ホルカーバム】へ向かうか、ゲート先を調べるか。
銅貨でコイントス。表がホルカーバム。裏なら、ゲート。
指でコインを軽く弾き――空中に浮かぶコインを掴む。
掌を開けると、コインは裏だった。
なので、ゲート先に決定。
教会の地下部屋に住んでいた女性、現地民と初めての接触を試みよう。
ホルカーバムへの旅は後回しだ。
トラペゾヘドロンを取り出す。
三の面にある幾何学模様の記号をなぞり、ゲートを起動させた。
ゲート先に映る光景は、また女性が着替えてる場面に遭遇してしまう。
女性は鏡の光に気付くと、慌てて着替え途中の汚い袖なし服を胸に当て、こぶりなおっぱいを隠す。
彼女は衣服を整え髪の毛を直しながら、鏡に近付き膝を折る。
そのまま、目を瞑り両手を胸前で組み、お祈りを始めてしまった。
驚かせちゃうと思うが……。
鏡を潜って、向こう側に行ってみようか。




