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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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六百五十八話 六幻秘夢ノ石幢!

2021/05/06 19:01 修正


「閣下、狭間(ヴェイル)が薄まりました」

 

 ヘルメがそう発言。

 すると、ビアのガスノンドロロクンの剣が反応。

 刃から小さい黒い稲妻が自然と出る。

 更に、祭壇で踊るデボンチッチも急激に枯れるように消失。

 

 湖の表面を独特のプレッシャーのある魔力の霧が這う。


 左手が疼く。

 運命線のような傷を見た。

 <シュレゴス・ロードの魔印>からピンク色の魔力が少し出る。


 蛸足は出ない。


『――主、ここに何かを感じる。【旧神たちの墓場】の感覚に近い。アドルの秘境とは違うが……気を付けろ』

『シュレゴス・ロードの感知か。群生旧神のような存在が下にいると? 旧神の勢力か?』

『分からない。巨大な二つの何か……』


 二つの何かか。

 そのまま血文字連絡。

 リザードマンとの戦いから撤退を指示。


 ヴィーネに――。

 石碑のオベリスクが崩れて、中から蛇人族(ラミア)の赤ん坊が出てきたこと。

 ホルテルマの蛇騎士長の封窯が自動的に開き、その窯の中から魂的な魔力を、蛇人族(ラミア)の赤ん坊が吸い取ったこと。

 湖の底に異質な存在がいることを告げた。

 

『湖面の底の動きも気になりますが……蛇人族(ラミア)の赤ちゃんとは驚きです』

『あぁ、俺も驚いたよ』


 続いてママニの血文字も浮かぶ。

 

『砦の奥には地底へと続く巨大な傾斜があるようです。幅の広い巨大縦穴も幾つかあります。リザードマンの戦力も将軍のような存在と精鋭部隊が登場しました。その精鋭部隊は強い。数名を粉砕しましたが、わたしのアシュラムを弾く戦士もいました。更に魔術師級のリザードマンの精鋭集団は、神獣様の炎を弱める魔法防御を展開しました。ですが、一際強そうな魔術師のリザードマンに対して、アクセルマギナが魔弾を放ち、いい牽制となった瞬間にジョディ様が空中から螺旋突進を敢行し、見事に一閃。その優秀な隊長の魔術師リザードマンを倒し、続けざまに繰り出したサージュの魔刃で、複数のリザードマン魔術師小隊員を迅速に倒してくれました。しかしながら、そのジョディ様に、リザードマンの将軍が繰り出した電光石火の魔槍魔法が飛来。ジョディ様は魔槍魔法を胸元に喰らって、胸元に風穴が……貫通した魔槍魔法はアクセルマギナの放った魔弾で相殺されましたが、ジョディ様の周囲に白蛾が舞い散っていました。そのジョディ様は胸を再生させつつ魔法防御を優先。アクセルマギナは魔弾を将軍に放ち続けて反撃を喰らわせていましたが、すぐに盾持ちリザードマンが壁を形成し、魔弾を防ぐと、軽戦士リザードマンが咆哮しつつ、アクセルマギナと大虎たちに突進。それらはすべて、アクセルマギナの近接格闘とジョディ様の連携斬りで倒していましたが、すぐに、壁の間から将軍リザードマンが放った稲妻魔法で、大虎たちとアクセルマギナは牽制を受けていました。わたしたちにも、リザードマンの魔術師たちから、茨を用いた魔法と、火と雷と氷と土の連続的な魔法が続けざまに飛来。ですので、まだ予断は許さない状況です』


 <光魔ノ蝶徒>のジョディはさすがに滅茶苦茶強い。

 シェイル治療が叶う寸前だからな。

 張り切るのも当然か。

 

 しかし、


『ゼレナード&アドホックにも通じた相棒の炎を弱めるか。ママニは深追いはせず、皆と連携して撤収を急げ』


 俺はヴィーネに向けて、


『今、ママニからの報告を見た。撤退は可能か?』

『お任せを! それよりも滝壺の巨大モンスターが気になります。大鳳竜アビリセンのように環境をかえるほどの巨大な敵となりますと……先ほどの地震といい、わたしたちのほうにも影響が出てきそうです』

『撤退戦に影響が出ると予想はしとこう。集合場所は最初にヴィーネたちが戦っていた柱がある中央か、この洞窟の外に変更しよう』

『はい』

『それと、ジョディにリザードマンへの追撃を無理にしないようにと、指示を出せ。シェイルのことは言わないでもいいが、無理をしそうなら、そのシェイルのことに関する発言をすれば、ジョディならすぐに思考が切り替わるはずだ』

『分かりました。そのジョディは、神獣様と殿として残るようです。そして、沸騎士たちとママニたちが先にご主人様の近くに向かう予定です』

『おう。強い相棒と皆の行動は信頼できる。ヴィーネもリザードマンの将軍っぽい存在に気を付けろよ。んじゃ、あとで会おう』

『はい』


 皆との血文字交換を終える。

 俺はヘルメが胸元で抱く蛇人族(ラミア)の赤ん坊を見ながら、


「坂道は止めだ。上の、俺が飛び下りた地点を目指す」

「ふふ、はい。あ、眠ってしまいました」

「あぁ」


 ヘルメが母のように抱く蛇人族(ラミア)の赤ん坊。

 その赤ちゃんはヘルメの指を咥えながら眠る。


「我の祖先の赤子……可愛いが、眠ったか」


 ビアの言葉に頷く。

 刹那、巨大な魔素を感知。

 

 同時に、


『――器、気を付けろ。下のほうで異質なモノが暴れている』


 と、沙が警戒。

 シュレも感づいていたようだが……。

 墓碑が壊れたことで、湖の下に巣くうモンスターが活性化したか?

 しかし、『前門の虎、後門の狼』じゃないが、『上のリザードマン、下の未知との遭遇』だな。

 

『……滝壺の底か』

『ふむ。善い雰囲気が消えたからのぅ』


 沙がそう思念を寄越す。

 ビアが持つ剣に纏わり付く黒い龍ことガスノンドロロクン様が反応。


 そのガスノンドロロクン様は……。

 何かを主張するように双眸が煌めく。

 と、その黒い龍の頭部がぐるぐると目まぐるしく回る。

 ビアは、八大龍王ガスノンドロロクン様が蜷局を巻く偉大な剣をぶら下げているが……蛇人族(ラミア)の赤子に夢中で、黒い龍の異変に気付いていない。


 しかし、皆が警戒する湖の下か……。

 ダイブして落ちた時に水中を見たが……。

 底は深海のような印象を抱いた。


 もしかして、地底湖とかハイム川に海と繋がっている?


 直後――その足下が揺れに揺れる。

 地震だ。祭壇に亀裂が走った。


 外の湖面も波立った。

 ヘルメとビアに向け、


「ここを出るぞ――」

「はい」

「承知――」


 皆と小さい祭壇から出た直後――。

 背後から盛大に崩壊した音が響く。

 背後の石の祭壇が崩れた音だ。

 

 更に、足下の細い石橋に亀裂が入る。

 ――石橋の崩壊も始まった。


「――見てないで走れ!」

「わ、分かった!」


 ヘルメは赤ん坊を抱いて飛翔中だから平気だ。

 ビアのフォローのために<珠瑠の紐>を下半身から出していた――。

 俺もビアの尻尾を持ち上げるイメージで<導想魔手>を出しつつ細い石橋を駆けた。


 先ほど感じた膜のような結界がなくなっている?

 その瞬間、背後から、突風を受ける。

 

 ――石橋が崩れた音が響く。

 ――石橋の崩壊が、走る俺たちを追うように感じた。

 ――ふぅ、無事に岸に到着。


 ヘルメの抱える蛇人族(ラミア)の赤ん坊は無事。

 すると、背後から強い魔素を感知――。

 振り返ると……。

 石橋と祭壇が消えた位置の水面に巨大な渦が発生。

 崩れた石橋の残骸が濁流となって渦の底に向かう。


 先ほどまで石橋の縁に並んでいた蛇人族(ラミア)の石の像も、その濁流の渦の中だ。

 波打つ像は回転、ん?

 よく見たら像ではないのか?

 他にも面があるし石幢せきどうか?

 色々な姿が刻まれてあるが、魔槍を持つ腕の絵もある。

 気にしていなかったが、石幢には魔力もかなり内包されていた。

 祭壇の結界で、気付けなかった?

 何か気になってきた。

 

 レベッカならきっとこう言うだろう。

 『お宝センサーが疼く。シュウヤ、あれを回収! お宝~~~』と。


 イモリザも同意するように、右肘部位が蠢く。

 腰の魔軍夜行ノ槍業も揺れると、


「ドクンッ」「ドクンッ」「ドクンッ」


 連続した心臓の鼓動音を轟かせる。


『……使い手、一生の願いだ』

『えっと』

『チッ、俺を忘れるなよ。獄魔槍のグルドだぞ。女好きの使い手!』

『……』


 師匠の一人とは思うが、野郎だからなぁ。


『まぁ、待て待て、俺様、いや、俺が願うのはお前だからだぞ! 魔城ルグファントの八怪卿の一人である獄魔槍のグルド様からの直々の願いだ! 八大墳墓の破壊が条件だったが、あの石幢の一面に封じられているある物を取ってくれれば、魔人武王の弟子ラスアレの右腕の秘密を教えてやる。更に、魔人武術の一端を学べるはずだ。魔槍技もな……』

『おぉ、魔人武術と魔槍技を学べるのは嬉しいです。あの石幢は回収するつもりですから、ご安心を。しかし、八大憤墓を破壊しなくても学べてしまっていいのですか?』

『いいんだよ。お前さんは天運、いや、<天賦の魔才>に恵まれているようだからな。それに魔槍技は、一つだけじゃない。豊富にある。八大墳墓を破壊してくれたら、上位魔槍技と連携する魔人武術を教えてやることも可能だ。特殊な訓練場が必要だが、まぁこれは八大墳墓の破壊と関連するから後々だ』

『分かりました』


 よーし、アイテムのもったいないおばけの発動だ!

 <鎖>を射出――。

 沈みそうな石幢に<鎖>を絡ませた。

 <瞑想>から<超能力精神(サイキックマインド)>も意識。

 衝撃波ではないやり方で……。


「ングゥゥィィ、石、オイシイ、ノカ?」

「回収予定だ。魔軍夜行ノ槍業と関係する一面もあるようだから、喰わせないぞ」

『使い手、よくやった! が、その肩の覇王は怖いぞ……』


 と、獄魔槍のグルドさんも怖がるハルホンク。

 魔界出身なら尚のことか。

 

 そして、石幢は、古代中国の唐の時代にありそうな物。

 遣隋使やら遣唐使など、古代日本では空海の時代だったかな。


 そんな貴重そうな歴史観満載の石幢を……。

 これ以上壊さない用に慎重に<鎖>を絡めてっと――。


 <導想魔手>をイメージしつつ<超能力精神(サイキックマインド)>も使って……芸術性の高い石幢の蛇人族(ラミア)像を引き寄せる。

 よーし、巧くいった。

 ――戦闘型デバイスが回収。


『使い手、解放しないのか!』

『あとにしましょう』

『分かった。壊すなよ』

『大丈夫かと』


 瞬く間に石幢はアイコン化。

 獄魔槍のグルドさんが宿る魔軍夜行ノ槍業は静かになった。


 戦闘型デバイスの風防の上に投影されているアイコンは無数にある。

 その中で、石幢は、モリモンの古代秘具の隣に浮かんでいた。


 ドワーフからもらった便利なナイフのようなアイテム。

 このモリモンの古代秘具はまだ試していない。

 そして、竜頭金属甲(ハルホンク)が作る防護服のポケットに仕舞っていたモリモンの古代秘具だったが、ちゃんと戦闘型デバイスに適応。

 アイテムボックスに入った状態で、アイコンとして浮かんでいた。

 

 やはり、アイテムボックスと連動が可能な竜頭金属甲(ハルホンク)は凄まじい。

 神話(ミソロジー)級のアイテムなのは伊達じゃない。


「ングゥゥィィ!」

 

 ハルホンクは俺が心で褒めたことを理解しているのか、勝手に唸った。


「ソノ、プカプカ、イッパイ、アルノ、タベレル?」


 違った、アイテムボックスのアイコンが美味しそうに見えただけか。


 ポケットに入れてあったレーレバの笛やホルカーの欠片なども同じくアイコン化して浮かぶ。

 石幢の名は大きな文字で表示された〝六幻秘夢ノ石幢〟で、複数個ある?

 一つは、石弓雷魔ノ秘碑。

 二つは、乾坤ノ龍剣ノ秘碑。

 三つは、蛇騎士長ルゴ・フェルト・エボビア・スポーローポクロンノ秘碑。

 四つは、獄魔槍譜ノ秘碑。

 五つは、金剛一拳断翔波ノ秘碑。

 六つは、魔槍鳳凰技・滅陣ノ秘碑。

 

 グルド師匠に悪いが、最後の魔槍鳳凰技・滅陣ってのが気になるんだが。

 すると――。

 風防の上に浮かぶガードナーマリオルスの映像が反応。


 ――俺に向け、


『オシゴト、オツカレ、サマ!』

 

 と、機械音声で語るようにチューブが絡む独鈷魔槍を掲げて敬礼してくれた。

 そのガードナーマリオルスのカメラがズームアップする。

 小さいルンバ的な頭部と下の球体胴体が、それぞれ逆方向にくるくると回転していた。


 面白い動作で、可愛い。

 独鈷魔槍で、新しい回収した不思議な石幢を指す。

 獄魔槍譜の碑を突けという意味かな。

 まぁ、それは後々だ。

 そして、簡易AIのアクセルマギナは消えている。

 マスドレッドコアを活かし中。汎用戦闘型としてリザードマンとの戦いと撤退戦に貢献しているはずだ。


 その右腕の戦闘型デバイスの風防から視線を湖面に戻す。

 ――向こう側の壁が湖から発生した霧のせいで見えにくい。


 ヘルメが<珠瑠の紐>の一部を湖のほうに伸ばし、


「閣下、湖の中の巨大な魔素は、墓碑の力で抑えられていた?」

「その可能性が高い。墓碑に赤ん坊だ。過去、蛇騎士長の一族は、赤ん坊を犠牲にして、荒神か呪神か旧神勢力の存在を、この滝壺に封じていたのかもしれない? もしくは……」


 ビアが持つガスノンドロロクンの剣を見る。

 八大龍王に対する生贄?


 剣に巻き付く黒い龍のガスノンドロロクン様。

 黒光りする頭部を、のそのそっと、湖面のすべてを把握するように動かしては……。

 煌めく双眸で、湖に発生した渦と魔力を内包した霧を凝視している。


 その八大龍王ガスノンドロロクンの剣に名を刻むビアは、


「……主と精霊様の推測が本当ならば驚くべき出来事だ! 古い蛇騎士長たちを奉る祭壇と墓が……赤子の力を使った何かを封じるための祭壇だったとは……」


 ビアが湖を見ながらそう語る。

 湖の渦は強まっていく。


 その様子を見ながら、


「ビア。滝壺と墓碑についての慣習か、お伽噺とかないのか?」

「……この滝壺に潜水し、魚モンスターと戦う水中訓練があった。各、蛇牙の月には祖先たちを崇める日がある。蛇騎士の儀式を済ませた者が、龍王様にお祈りをする日も。蛇目の月には、双蛇神の神官が、砂神セプトーンに封じられたとされる双蛇神ジェシアルバ様と双蛇神ジェシスクグス様を奉る日もあったな……戦勝を祝う蛇人の儀なども……懐かしい……リザードマンたちとグルドン帝国めが……我は……」


 ビア……。

 否が応でも、昔を思い出すよな……。


「済まん」


 俺の謝る言葉を聞いたビアはびっくりしたように目を動かして、から、優しげな表情を作ると、


「主の優しさが我を強くする。そして、主たちだから、我は弱音を見せられるのだ」


 いつも気合い充実のビアだが、そう発する言葉の節々に、切なさが籠もっていた。

 その表情は心を打つ……。

 あの三つの胸に飛び込んで、抱きしめてあげたくなった。

 が、今はしない。

 ビアを見ながらあるキーワードを想起しつつ気になることを、


「……双蛇神か……八大龍王といい、神界セウロスの神々を信奉する蛇人族(ラミア)が多かった?」


 と、聞いた。

 ビアは頷く。


「魔毒の女神ミセア様を敬う者たちも多い」


 魔毒の女神ミセア様か。

 そう言えば、蛇を扱っていた。


 そして、その双蛇神……どっかで聞いた覚えがある。

 そのビアは湖の中に沈んで消えた祭壇を見ながら、


「が……墓碑が、実は赤ん坊だった話など知らぬ」


 またビアが悲し気に語る。


 ビアが知らないならヴェハノも知らないか。

 過去に蛇騎士長たちの一族が、赤子を犠牲にしなければ……。

 抑えられない〝何か〟が、この滝壺の底に棲んでいた?


 今も湖の底で蠢く存在を封じるためと推測。

 そのビアが装備する剣に絡む黒い龍に向けて、


「八大龍王ガスノンドロロクン様は、湖の底から溢れ出る巨大な魔素について、何かご存じでしょうか?」


 小さい黒い龍は、ムクッと黒光りする頭部を俺に向けて、


「この反応は、堕ちた八大龍王ではない。他にも堕ちた八大龍王を奉る蛇人族(ラミア)の地はあるにはあるが、元々あった地を移った我と違い……もう滅されているはずだ。だから、セラには我以外に八大龍王や、その末裔はいないだろう……」

「では、滝壺の底、湖の中の反応は……」

「当然、分からぬ。が、我の新しい主の大主よ、巨大な魔素が姿を現したら、我なりに貢献しようぞ。我には<大蛇龍・鑑識>がある」


 そう発言した黒い龍は、律儀に頭を下げてきた。

 新しい主の大主か。

 神様のような格好いい存在に、そんなこと言われると恐縮してしまう。


「……はい。ありがとうございます」


 黒い龍様にお辞儀を返す。

 南無。


「我もがんばろう」

「ビアも頼む」


 ビアは俺の言葉を聞いて、頷くと、口から長い舌をシュルルと伸ばす。

 人族に近い顔で美形なビアだ。 

 そのビアは俺を見て両手を広げ、


「尊敬する偉大な主に尽くす!」


 そう宣言。

 ビアは自らを抱くように三つの胸を触る。

 再び、俺に対してお辞儀をしてくれた。


 身が引き締まる。

 ――俺も胸元に手でハンドマークを作った。


 頭を下げつつラ・ケラーダで対応。

 俺はマークを作った、腕を払いつつ頭を上げ――。


 皆に向けて、


「湖に棲むモンスターも気になるが、幸い、時間はまだまだ掛かると見た。まずは上に向かう」

「承知した」

「はい」

「おう。で、巨大な存在が俺たちに襲い掛かってきたら皆で対処しようか。ヘルメは赤ん坊を優先」

「はい。守り優先です」


 俺の言葉を聞いたヘルメ。

 やや背を反らすような仕草で飛翔――。

 背中からオーラ的な闇色が混ざる水飛沫を散らす――。


 常闇の水精霊ヘルメとしての、厳しい顔色を作ると、


「この子には指一本触れさせません! <珠瑠の紐>を活用します!」


 母性と言うより闇の気配が強まった。

 最近は穏やかなヘルメが多かったが……。

 Sの気が強かった頃のヘルメさんを彷彿とする。


 少し怖いが、頼もしい。

 眠る赤ん坊だが……。

 もし起きたら今のヘルメを見た途端に泣き出したかもな。


 俺は腕を坂道に向け、


「何が起きるか分からないが、坂を上がろう――」


 と、皆を促す。


「うむっ、主、先に行くぞ」


 ビアが先に坂道を上る。

 坂道を上がる前に――。

 湖を見た、湖面を這う魔力の質が上がっている?

 湖の下は巨大な魔素が動き回っているが……。

 ま、今は坂道を上るか――。


 ――坂道はリザードマンの死体が多い。

 壁のように立ち塞がる。

 更に、滝の影響か下の湖の魔力を伴う霧のせいか。

 霞が掛かった坂道となった。

 そんな霧ごとリザードマンの死体を蹴り飛ばす。

 滝壺に横の縁から落とした――。


 んだが、マルアとビアが倒したリザードマンの数は多い。


『器よ、左の壁に魔素の反応があるから注意ぞ』

『了解』


 ――トフィンガの鳴き斧を召喚。

 トフィンガの鳴き斧を振るっては――。

 リザードマンの死体を切断!

 切断した死体を再び左足の甲で蹴り飛ばす。


 ――アーゼンのブーツから蜘蛛の巣と竜の魔の紋様が弾け飛ぶ。


 続いてトフィンガの鳴き斧から――。

 薄緑色の荒ぶる獅子の頭部が出現。


 この荒ぶる獅子の頭部は、幻影に見えて幻影ではない。

 ――トフィンガの鳴き斧独自の武器技だろう。


 ヘルメとの訓練の時にもかなり有効だった。

 その幻影でもあり物理でもある荒ぶる獅子は、複数のリザードマンの死体に喰らい付きつつ縁にリザードマンの死体を運ぶと、そのまま滝壺の空を飛翔するように死体ごと荒ぶる獅子は外に飛び出た。


 宙空で荒ぶる獅子は、宙に溶け込むように消失。

 荒ぶる獅子が噛み付いて牙の孔だらけとなっていたリザードマンの死体は滝壺に落下。

 俺はトフィンガの鳴き斧を仕舞いつつ<血鎖の饗宴>――。

 

 坂道に残るリザードマンの死体をブルドーザーのような血鎖で粉砕。

 ――リザードマンの装備の破片が幾つか散った。 

 俺とビアは死体を処分しつつ坂道を上がると――。


「閣下、魔素が――」


 ヘルメが、俺たちのほうを射している。

 沙が注意してくれていたように、左の壁か。


 魔素の反応はチラホラとあるが……。

 壁自体にも、魔素の反応があるから、掌握察の探知だけだと非常に分かり難い。

 ヘルメの精霊の目があれば……。


 サーモグラフィーで分かるかもだが……。 

 と、思考した直後――。

 

 坂道の前方の壁が破裂し孔ができた。

 ビアは即座に黒い龍が絡む剣を構えて縁側に避難。

 長い尻尾を滝壺側に垂らす。


 ビアを見た瞬間、左の壁の孔からリザードマンが現れた。


「――人族だと? グルドン帝国の兵士か!」

「フシャァァァァ、蛇人族(ラミア)の生き残りだ! 殺せぇぇ」

「……名も無きリザードマンたち。悪いが、すべての文言を聞いている暇はない」


 俺は挑発したわけではないが、リザードマンたちは驚く。


「「――な!?」」

「人族が流暢なリザン語を!?」

「構うなァ、俺に続け!!」


 優秀なリザードマンの射手が魔矢を俺に向けて放つ。

 飛来する魔矢を見るように横移動しつつ右手で――。

 魔矢を掴んでから爪先半回転――。

 その射手に向けて、その魔矢を<投擲>――返してあげた――。

 <投擲>した魔矢はリザードマンの射手の頭部にクリーンヒット。

 

 ヒャッハーな『あべし』となったリザードマンは見ない。

 回転を続けながら右手に神槍ガンジスを召喚。

 ――血魔力<血道第三・開門>――。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>を発動。

 俺は俄に横回転から直角の機動に切り替えて――。

 

 迅速に坂道を駆け抜けつつ――。

 リザードマンの盾持ちとの間合いを詰める。

 

 アーゼンのブーツの底から煙が上がるような踏み込みから――。

 ――<光穿・雷不>を発動。

 やや打ち上がる軌道の<光穿>の神槍ガンジスの方天戟。

 リザードマンの盾の間を抜いて胴体を貫いた。


 空間を刺し貫く八支刀の光が神槍ガンジスの後方に集結――。


 刹那――巨大な光雷の矛(<光穿・雷不>)が出現。

 神々しい光雷の矛(雷不)だ。

 唸るような音を発して坂道の一部を巻き上げるように突進。

 光雷の矛(雷不)は手前の胸を神槍が貫いたリザードマンの頭部を一瞬で溶かす。

 続いて、背後のリザードマンたちの胴体を貫く光雷の矛(雷不)は、そのまま背後の壁の孔を溶かしつつ岩壁をも貫いた。


 ――岩孔の奥に消えた光雷の矛(雷不)

 

 眩い光が岩壁の細かな孔から発生。

 すると、光を漏らす岩壁が振動を起こす。

 内部から凄まじい轟音も響かせてきた。坂道が崩壊してしまう?

 と、一瞬不安を覚えたが、坂は大丈夫だった。


「見事だ、主……」

「閣下の光の必殺技です!」


 ビアは間近で長い舌が絡まって驚いている。

 黒い龍のガスノンドロロクン様は小さくなって震えていた。

 ヘルメは素直に喜びのダンス。


 そのまま宙空で、新・ヘルメ立ちを披露。

 赤ちゃんを大事そうに抱くヘルメ立ちだから、いつもと違うが。


 母性ある、お尻とおっぱいをプルルルンと揺らす。


 素晴らしい精霊様だ。

 アメージングなヘルメ。


 一瞬、その赤ちゃんを抱く姿勢の母性ある姿からモナリザを想起する。

 

 さて、坂を上がるか……溶けた岩の孔は塞がっている。

 リザードマンは壁を破壊できるようだからな、用心しながら進むか。


 しかし――。

 滝壺の湖からの巨大な魔素の反応が強まった。


 湖の底で暴れているだけのモンスターではないらしい。

 吹き抜けの空中に浮かぶヘルメが、その滝壺を見ながら、


「――閣下、今度は湖から、魚の巨大なドラゴンのような……」


 下の湖を見ながら、そんなことを語る。

 何か出現したらしい。坂道を駆けているビアも、


「――ぬぬ? これほどの魔素とは……ギルドの依頼にあるSSの最強ランクか?」


 びびりながら語る。

 そのビアは、蛇腹で器用に坂を叩きつつ登った。

 俺も先を行くビアを追い掛ける。

 坂の階段を二段、三段と、ステップアップするように走りながら、


「――災厄級とか、あるんだったっけ?」

「――うむぅ」


 こちらに振り向きつつ大きく頷くビア。

 一瞬、ビアの首が、日本の妖怪のロクロ首に見えた。

 そのビアは冒険者のBランク。

 高級戦闘奴隷として長く冒険者活動をしていたから詳しい。


 俺も同じ冒険者のBランク。

 そこそこの場数を踏んでいるとは思う。

 が、冒険者ギルドの依頼に関しては、ビアのほうが先輩か。


 ――坂道の上段に差し掛かった辺りで、俺は縁に移動。

 側の宙空に浮かぶヘルメとアイコンタクトしてから、滝壺を覗く――。

 

 俺たちがいた祭壇は沈んで既にない。

 エメラルドグリーンだったが色合いも黒っぽい。


 そんな湖面には、巨大ウナギの頭が見えた。

 巨大ウナギの頭は一つ。

 だが、巨大な魔素は二つ感知できた。


 そのウナギの頭部に渦のマークを模る亀裂がある。


 刹那、その頭部の渦の亀裂が回りつつ開く――。


 頭部はヒトデ状の形の口で、歯牙だらけ。

 中心に巨大な喉ちんこ的な器官と、光沢した触手の群れがある。

 周囲の岩石と滝の急流とリザードマンの屍肉を、その巨大な口で呑み込みつつ、すべてを喰らう。

 すると、バチバチッと魔力の弾ける音が、滝壺内に谺した。

 更に、魔力の波動が巨大ウナギモンスターの周囲から地響きのように伝搬してくる。


 その巨大ウナギモンスターの口が歪な卍を模るように閉じた。

 卍の口と、その口を形成する頭部らしき物を凝視。

 頭部の造形はドラゴンか?

 体長も大きい。下のほうが判別できないが……。

 ウナギとエイリアンとドラゴンが合体した感じか?

 通称、海ドラゴンにしようか。

 その海ドラゴンは黒色に変わった湖を荒らしつつ泳ぐ。

 周囲の滝壺を削っていた。


「海ドラゴンが飛翔してきたら俺が対処する」

「はい」

「我も貢献しよう。我には、ガスノンドロロクンの剣がある!」


 すると、ビアの剣に纏わり付く黒い龍こと、ガスノンドロロクン様が、


「ふむ。得体の知れないモンスター。<大蛇龍・鑑識>では、名はヒューイ・ゾルディック。東邦のサザナミで大暴れし、島と海を荒らした災厄級とな? 属性は水と闇に……むむ? 途中から<大蛇龍・鑑識>を弾いてきおった」

小説版、槍猫14巻が発売中。

漫画版、槍猫2巻が発売中。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 八怪卿所縁の物は様々な場所にあるんですね。見付けれて良かった! [気になる点] 六幻秘夢ノ石幢は、使えばどれか一つが学べるって事なのかな? 魔槍鳳凰技・滅陣ノ秘碑が確かに引かれるなぁ。とは…
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