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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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647/2028

六百四十六話 魔竜王の蒼眼と目玉の怪獣

『前にイリアスの外套を喰った時か』

『ングゥゥィ、神界ノモノ、ハ、マズイ、ノ、多イ、腹ヲ壊ス、ゾォイ』


 ハルホンクに腹があるのか疑問だが。

 すると、


「ンン――」


 また黒豹のロロディーヌだ。

 触手と片足を神虎セシードの箱に寄越す――。

 俺は素早く神虎の箱を持つ腕を右に回して、相棒の悪戯を避けた。 

 避けた俺にムカついたのか『――にゃろめ!』と言わんばかりに俺の脛へとフック気味の肉球パンチを当ててくる――黒豹の相棒なだけに、そのパンチには肉球の重さがあったが、脛だけに膝かっくんはしない。


 サンドバッグと化した脛に痛みを覚えつつ、


「――相棒、神虎の箱の気になる中身は少し待て、ハルホンクにアイテムを喰わせる」

「にゃ~」


 俺の声を聞いた黒豹(ロロ)は猫パンチをストップする。

 そのままストンと横座り。

 聞き分けのいい黒豹(ロロ)さんだ。

 

 しかし――なんとも言えない黒豹(ロロ)の可愛い姿。

 浴に人間でいう『お姉さん座り』で待機する黒豹(ロロ)

 

 腹の薄毛が包む桃色の乳首ちゃんをポロリとさせているがな!

 神獣の印も可愛い。

 

 黒豹(ロロ)の横座りを見たジョディが、


「ロロ様のリラックスした姿勢を見ると、癒やされて安心しますね」


 感慨にふけるように語る。

 俺も『そうだな』と、すぐに同意した。

 戻ってきた相棒の姿を見て、嬉しかったというより、ほっとした安堵感を得た。

 

 可愛い黒豹(ロロ)が傍にいるだけで、嬉しいし、心が安らぐ。

 ――感謝だ。相棒はまん丸な目を優しく瞑ろうとしてくれた。

 気持ちは通じたかな。

 警戒していたママニも振り向いて黒豹(ロロ)を見ながら微笑んでいた。

 

 ママニは虎獣人(ラゼール)

 『グスコーブドリの伝記』に登場するような種族だ。

 あれは火山の技術者の崇高な物語だったが……。

 

 ママニも崇高、と、毛が豊富だ。

 その分、感情の判断はし難い。

 だが、女性らしい穏和な表情を浮かべていると分かる。


 そんなママニが持つ大型円盤武器(アシュラム)は格好いい。

 まさに崇高なキャプテン・ママニ。


 ビアもヴィーネも、優し気な表情を浮かべて相棒の姿を見る。

 皆も俺と共通する思いのようだ。


 俺は、そのヴィーネに、


「ヴィーネ、この神虎セシードの箱を一時的にもっといて」

「はい」


 神虎セシードの箱を受け取ったヴィーネ。

 そのヴィーネが、ジョディに渡しておいた赤心臓を見て、


「ジョディ、それがアルマンディンなのですね」

「はい♪ 巨大な魔樹を倒して手に入れました。シェイルの治療に使える赤心臓のアルマンディンです」

「喜ぶのは早いですが、改めて、おめでとう」

「ふふ、はい!」


 ジョディの笑みを見て、ヴィーネも嬉しそうだ。

 そのヴィーネは視線を少し厳しくすると、


「あとはご主人様のお力に頼りましょう。しかし、ジョディとママニにビア。これほどのリザードマンの数と熱さ……この奥には……」

「はい。ここは火口付近ですが、あちこちに窪んだ地形と道と洞穴があるように、まだリザードマンは奥にいるでしょう。ですが<筆頭従者長(選ばれし眷属)>のヴィーネと神獣ロロ様も戻られた。シュウヤ様もいますし、今のわたしたちなら、リザードマンの大軍だろうと対処は可能!」


 ジョディの気迫ある言葉だ。

 アルマンディンを懐に仕舞うジョディ。

 <光魔ノ蝶徒>としての力を示すように、白色の蛾が周囲に散る。


 ヴィーネは鷹揚に頷く。

 そして、


「うむ、そうだな――」


 素の感情を出して答えてから微笑む。


 すると、そのヴィーネとジョディは前進――。

 間合いを零とした二人は片方の腕を出し合い――。


 掌を合わせてのハイタッチ――。

 恋人が握るように指と指を合わせて握り合った二人。

 ガシッと、肘と肘を合わせて、宙空で腕相撲でもするように、美しい笑顔を比べ合うように、美女と美女がキスでもするように、顔を近づけてから、


「――ふふ」

「――はは」


 と、笑いながら横回転。

 二人は、白色の貴婦人の施設に侵入する戦いでは、ユイたちと活躍したからな。


 ジョディは少し離れながら舞う。

 回転を追えたヴィーネは特別な金色の糸が結ぶポニーテールの銀髪を揺らしつつ――。

 俺を見た。

 

 いつ見ても、その可憐に微笑む仕草はすこぶる魅力的だ。

 すると、ビアが、


「お帰り様だ! 美しい<筆頭従者長(選ばれし眷属)>のヴィーネ!」

「はい、ただいまです、頼りになる<従者長>ビア! その剣が……」

「うむ! よくぞ聞いてくれた<筆頭従者長(選ばれし眷属)>! これが、主が持つことを許可してくれた大蛇龍ガスノンドロロクンの剣である!」


 足拍子、もとい、腹拍子がいいビアは、大蛇龍ガスノンドロロクンの剣を掲げる。

 略して八大龍王の剣の、柄頭から黒い龍が出現。

 体から極めて小さい範囲だが黒い稲妻的な魔力を発している――。

 その稲妻のような黒い魔力を凝視すると、知的な変形菌が枝状に拡大されて見えるから圧巻だ。


 あの細かなミクロの魔力網は独自なネットワークが形成されているのだろうか。

 生体コンピューター的に、効率のいい魔力回路の研究に役に立つとかありそう。


 そんな魔力を発生させている黒い龍こと大蛇龍ガスノンドロロクン様は、剣身を巻くように蜷局を巻いて切っ先を舐めるように舌を出す。

 そして、剣身に刃文のような古代文字が浮かぶ。

 

 大蛇龍ガスノンドロロクンの剣か。

 見た目は異常にかっこいい。

 少し羨ましいと、思いつつ、神々しい剣に対して――。


 俺は自然と柏手を二回打ち――。

 ――八大龍王のガスノンドロロクン様を拝んだ。


『妾と違う……』


 沙が呟くが反応はしない。


 すると八大龍王のガスノンドロロクン様は、のっそりとした動きをしつつ……。

 頭部をヴィーネに向けて、律儀に頭を下げた。

 礼儀正しい龍王様だ。

 俺たちを『定命』と呼ぶ神様の一種だと思うが、こういう神様は大好きだ。


 自然とお祈りを強くする。

 そのガスノンドロロクン様は無言。


 すると、略して八大龍王の剣を持つ自慢気なビアが、


「隣が、我の子分のヴェハノである」


 と、細身の蛇人族(ラミア)のヴェハノを紹介。

 そのヴェハノはすぐに、


「よろしくお願いします!」


 と、ヴィーネに頭を下げた。これまた礼儀正しい。

 そんな彼女の腰ベルトと繋がる流星錘の鉄球が揺れる。

 忍者服のような黒装束は破れたままだ。

 刹那、ヴィーネが反応。

 

 アイテムボックスからポンチョ系のマントを取り出して、


「これを」


 と、ヴェハノに差し出していた。


「あ、いいのですか?」

「はい、破れた衣服を覆えます。防御力は確かなので長く使えるでしょう」

「ありがとうございます――」


 ヴェハノは、すぐに迷彩色のポンチョを着た。

 

 普段は冷徹とした雰囲気を醸し出すヴィーネさんだが、優しい一面も持つ。

 ヴェハノの身を確認したヴィーネは『よし』と頷いてから、ビアを見て、


「ヴェハノとビア。黒い龍を宿す剣を得るとは凄い。――そして」


 ヴェハノを凝視。

 ヴィーネの視線からプレッシャーを感じたのか、ビクッと身体を反応させたヴェハノ。


「はい!」

「ヴェハノ。わたしの名はヴィーネ。元ダークエルフです。そして、ご主人様が、最初に選んでくれた<筆頭従者長(選ばれし眷属)>であります」


 これまた礼儀正しくヴィーネは名乗った。

 素の感情のままのほうがヴィーネらしいとは思うが、今回は秘書スタイルだった。


「はい! <筆頭従者長(選ばれし眷属)>様。わたしを救ってくれたシュウヤ様には、たくさんの眷属がいるのでしょうか?」


 ヴィーネは頷く。

 俺の感情を読み取ったように微笑むと、


「そうだ! しかし、蛇人族(ラミア)には細身もいるのだな? 文献には書いていなかった。ビアからも、そのような蛇人族(ラミア)がいることは聞いていない」


 ダークエルフとしての素の感情のまま、発言していた。

 チラッと俺に視線を向けていたから、顔色から俺の気持ちを読んだか?


 ……時々、ヴィーネはエヴァ並みのエスパーを発揮するから怖い。

 なんども身体を重ねているからかな……。

 すると、ビアが、


「当たり前であろう。我はヴェハノ区のことを聞かれていない。親戚のことなら皆に話をしたこともあったが」

「そうでした。失言です」


 そう答えつつ微笑むヴィーネ。

 

 刹那、視界の端の小さいヘルメが、


『ふふ、ヴィーネは良い子ですね、最初の頃とは雲泥の差です』


 優しい表情のヘルメちゃんだ。

 同時に熱さで参ったような面を浮かべては衣服が少し萎んでいる。

 少し心配だ。

 魔力を送ると、『アァン』と喘ぎ声を寄越して衣服に艶が戻る。 

 

 しかし、このヘルメの念話を聞いて……。

 昔、ヴィーネと風呂に入った時を思い出す。

 あの頃、風呂の桶になみなみと入った水面を揺らして、ヴィーネの反応を見ては、怒ったヘルメ。


 あの時のヘルメの表情と今のヘルメの表情とは、雲泥の差だ。

 とは念話では伝えない。


 ヴィーネは微笑みを浮かべつつ……。

 ヴェハノの装備と仕草に態度を魔察眼で観察していた。


 んじゃ、ハルホンクにシャドウストライクを喰わせるとして……。

 もう一度ビアに、


「――ビア。再度聞くが、ハルホンクにシャドウストライクを食べさせていいか?」

「勿論だ! 我は構わない。ハルホンクが食べれば主の新たな力の糧となろう! 我もそのほうが嬉しい」

「分かった」


 ビアとヴィーネも頷く。

 ジョディも頷きつつ、サージュをママニが警戒したほうに向けてから、


「――あなたさま、わたしも賛成です。そして、ヴィーネ、空旅は……」

「……はい」


 ジョディとヴィーネの美しい会話が始まった。

 ハルホンクにシャドウストライクを喰わせるつもりだったが、彼女たちの話は興味深い。


 魔煙草を口に咥えつつ<ザイムの闇炎>を出す。

 アドゥムブラリを発動。

 指環の表面がぷっくり膨れた。


 いつもの目玉の怪獣的な、クレイアニメ風の姿だ。 

 アドゥムブラリの可愛い額に指の腹でAの文字を素早く刻む――。

 

 指先に出た闇炎で魔煙草を吹かす。


「主、まったりタイムの時しか俺を使わない気か?」

「そんなことはないが……」


 と、健康にいい煙を吐く。


「まぁ、いいさ。俺の主は肩の力を抜いてぶらぶらして過ごす。その何気ない時が凄く大事なことだと知っている。後悔しかない時間を作ろうとするより、今という安らぎを仲間と楽しもうと、共有しようとする漢だ。協力するぜ……」

「あぁ……」

 

 俺の短い返事と顔を見た目玉の怪獣は笑う。

 魔侯爵アドゥムブラリか。


 お前の辛い過去は知っている。

 だから、短い言葉しか返せなかった。

 主と言ってくれているが、不甲斐ない。


 魔界に無事進むことができたなら、お前の……。

 と、少し悲しくなったから、


「アドゥよ、額に新しい特別なマークを刻んでやろう」

「おぉ? 急になんだ」

「それは――」


 アドゥムブラリの額に肉球マークを刻んだ。

 すると、アドゥムブラリはぷっくらと肉球の形に変化。


「――ぬぬおあぁぁぁぁぁ」

「ふはははは」

「そ、それは――」


 ヴィーネが笑い顔を我慢しているが、我慢できてない。


「ぶはぁぁ」

「ふふ、可愛い」


 ビアが吹いて笑う。

 ヴェハノも微笑む。


「にゃおおおお」


 相棒も興奮。

 皆がアドゥムブラリの変化を見て、笑った。

 単眼のアドゥムブラリも照れくさそうな表情を作ると「主、ありがとな」と小声で呟いていた。


 そうしてから、ヴィーネたちの会話を聞いていく。


 教団セシードを送った先の【レンビヤの谷】。

 樹海と似た隘路と森にある谷間だったようだ。


 相棒との空旅も色々とあったらしい。

 巨大猿のモンスターと中型ゴブリンを倒すことに夢中になったり……。

 見たことのない果実を発見するや否や神獣の機動で森と畑に突入してはセシード教団の方々を恐怖させながら果実を食べまくってはクシャミが止まらなくなった相棒を見て狼狽してしまったりと……。

 

 色々と数時間の旅だったが大変だったようだ。


 ……見たかった。


 そんな空旅のあと、ドドイライマル将軍一派の奮闘が続くフジク連邦最後の拠点に到着して……。

 ヴィーネはドドライマル将軍の部下ヴェシュット隊長とゴーモックの隊商の一族カベルさんから、グルドン帝国に敗れて西に落ち延びた獣人勢力は一枚岩ではないといった情報と、周囲の街と村の山道と森の道にモンスターが無数に棲息する地域も教わったようだ。


 『ゴーモック商隊を利用したオセベリア、レフテン、サーマリアの各都市へと安全に避難ができているグループは多く存在しているが……西は西で裏切りもある。だから部族たちは散り散りになるしかない状況なのだ。そして、東からグルドン帝国の列強が迫っている……』


 ヴィーネはヴィシュット隊長の物真似をするように語る。

 が、裏切りの部分で、ママニの背中がピクリと動いた。

 

 ママニの背中の毛が一瞬逆立つ。

 ヴィーネの喋りが虎獣人(ラゼール)に似ていただけではないだろう。

 

 ママニの過去。

 今は深くは聞かない。


 更に、グルドン帝国と敵対するレジスタンスの存在が東のグルトン帝国が支配する各都市に潜んでいるとも。 

 東にゴーモック商隊を通じた秘密路もあるとか。

 その秘密路は専用の地図アイテムと連動した魔道具が必須とかで詳細は秘密だった。当たり前か。

 フジク連邦にとってセシード教団の教えと僧侶たちの存在は重要なことなんだろうが、俺たちは部外者だ。

 重要なフジク連邦の機密情報を伝える理由がない。


 マハハイム山脈に近い高原地帯に住まうゴルディーバの里に関する情報は出なかった。


 俺が暮らしたアキレス師匠の家族が暮らす里以外にも、複数のゴルディーバ族が暮らす地域があるはずなんだが。

 その数は少ないようだ。

 アキレス師匠曰く【修練道】で行う〝ゴルディーバの祭り〟が、四年に一度あると聞いたが。


 そのゴルディーバの祭りには参加したい。

 いや、参加というより、見たいか。

 レファも少しは大きくなっただろうしなぁ。


 一緒に天然の遊具で遊んだ。

 滝壺のような場所に落ちた時は、本当に楽しかった。

 槍使いとして、冒険者になると叫んでいたレファ……。


 俺にとっては大事な妹のレファだ。

 会いたいな。

 元気にしているといいが。


 フジク連邦の獣人たちが逃れた西も西で柵は無数にある。

 テラメイ王国の一部の東の飛び地を支配するエルフ氏族。

 レフテン王国とサーマリア王国の人族。

 オセベリアと同じく獣人に差別はないが、実力が物を言うのは変わらない。

 更に、サーマリア王国の貴族同士と群島諸国サザナミの貴族と関係した【焔灯台】を含めた無数の闇勢力が陸運と海運を巡って、鎬を削る戦いがあるシジマ街。


 ……そのシジマ街は……。

 昔のユイとカルードが、暗殺を含めた仕事の多くをこなしていた街。カルードの奥さんとなった鴉さんも盗賊ギルド【ロゼンの戒】で活動していた街。


 モガ&ネームスが活動していた街でもある。

 【焔灯台】に所属していたダブルフェイスもそうだ。

 魔短剣といった異名があったダブルフェイス。


 現在、俺たちの仲間でサイデイルに住んで色々と協力してもらっている。ツラヌキ団のメンバーと仲がいいと聞いたが。


 そして、エルザとアリスを追うバーナンソー商会と繋がるヒミカ・ダンゾウが率いる【死の踊り子】もシジマ街を拠点とする組織だ。その【死の踊り子】はサイデイルで活動中のエルザとアリスを追う組織の一つ。

 【死の踊り子】はバーナンソー商会と繋がる組織。

 同時にモガ&ネームスと繋がりのあるヒミカ・ダンゾウ。

 ヒミカ・ダンゾウと聞いて、ユイは眉を曇らせていたが……。

 

 いつかは、俺もシジマ街に行くべきか?


 そのバーナンソー商会は狼月都市ハーレイアに入り込めた幻獣ハンターとも繋がる。

 ハイグリアは調査しているようだが……。

 どうなっていることやら。


 ハイム川と繋がる城塞都市ヘカトレイルの定期船を利用して各都市を移動しているのだろうか?

 樹海のイメージと自由奔放な拳のイメージが強すぎて、あまり船旅のイメージが湧かない。

 が、あの快活な神姫様だ。なんだかんだ言って旅を楽しみながら、悪の商会を潰しつつ、黒幕の存在が集まっているだろう塔烈都市に辿り着いていることだろう。


 傭兵商会でもあるヘヴィル商会は各地に渡って活躍しているから……そう簡単には、いかないだろうとは思うが。


 ヘヴィル商会とバーナンソー商会の大本は、軍産複合体のピザード大商会だ。

 そのピサード大商会を持つのはドイガルガ上院評議員。

 その上院と下院の評議員のバックには【闇の枢軸会議】と【テーバロンテの償い】がある。

 中核は【闇の八巨星】で【八本指】という八人の凄腕の暗殺者を好んで使うようだ。


 そういった組織と繋がった上院と下院の評議員が多いってことだろう。

 その評議員たちも戦力は並ではない。

 魔法士隊や空戦魔導師を無数に抱えている。

 中でも優秀な空戦魔導師の空極という渾名は、ルマルディだけの渾名ではないようだからな。

 

 そして、キサラと因縁がある【魔術総部会】の大魔術師(アークメイジ)であるアキエ・エニグマもいた。魔導札を造ったらしい人物でもある。黒猫の札は運が上がるとか、レース会場で聞いたことは覚えている。黒猫(ロロ)のことだろうか。魔導札と相棒を結びつけるのは考えすぎか。

 アキエは日本人っぽいがエニグマの名は、第二次世界大戦でナチス・ドイツが用いたローター式暗号機と同じだから複雑に考えてしまう。

 そんな大魔術師(アークメイジ)の一人が鴉を纏いつつ、セナアプアの下界の港にある灯台の上に、俺に挨拶でもするように登場したことは、いまだに忘れることはない。

 

 そういった連中が棲む塔烈都市セナアプア。

 アルルカンの把神書を持ったルマルディが逃走するしかなかった場が、塔烈都市セナアプアだ。


 だからこそ塔列〝中立〟都市セナアプアか。

 中立は一見いい言葉かもしれないが……。

 あらゆる意味で恐怖を生み出す権力者共には、都合(・・)のいい言葉なんだと、熟々、強く認識した。

 

 盟友でもある【白鯨の血長耳】の総長レザライサが、塔烈都市セナアプアを魔窟と評していた。

 次元界の一つのエセル界の権益を牛耳る、あのレザライサたちが完全に駆逐できない者たちが、セナアプアの中で暗躍しているんだから、まさに魔窟だ。

 

 ルマルディの言葉と【魔塔アッセルバインド】のクレインとリズさんの言葉を聞くと寒気が走る。

 

 エヴァたちと一緒に魔塔アッセルバインド組が戻ったセナアプアは、まさにその心臓部……。

 ダモアヌンの魔槍やら百鬼道を扱える四天魔女のキサラとユイとエヴァに、そのエヴァの師匠のクレイン先生がいて、あのカリィとレンショウが仲間になったとはいえ……。


 心配だ。


 そんなことを一瞬で思考するうちにも、会話が続く二人。


 そのヴィーネとジョディの会話は、どことなく言葉の節々に貴族染みた品があった。

 <筆頭従者長>と<光魔ノ蝶徒>だからだろう。

 美人さんの二人が醸し出す雰囲気。

 銀色の髪のヴィーネ。

 ジョディも銀色に近いが髪色は白色っぽい。


 血と白色の蛾が彼女たちを彩る。

 ヴィーネはエクストラスキルの<銀蝶の踊武>を発動させてはいない。

 が、ジョディは元々死蝶人だしな。


 蝶のエクストラスキルを持つヴィーネとは相性がいい。


 一方、蛇人族(ラミア)のヴェハノも、皆と同じく興味深げに話を聞いていた。

 そして、美しいヴィーネと凜々しい相棒の姿を見比べるように、交互に視線を移す。


 気持ちは分かる。

 珍しいダークエルフと、まず見たことのない巨大な神獣だ。

 しかも、ロロは巨大な姿から黒豹に変身した。


 ま、今は驚いといてもらおうか。


 刹那、話を聞きつつも、周囲を窺っていたママニが、


「ご主人様――火口がある隘路の道の向こう側に、まだリザードマンがいるようです」


 と、報告。

 俺は吸い終わった魔煙草をハルホンクに喰わせてから、


「――了解、たしかに魔素がちらほらとあるな……」


 隠蔽型もいる?

 リザードマンの斥候か。


「――逃走したリザードマンが、他のリザードマンの軍団と合流したのかもしれません」


 ママニの報告に続いてヴィーネが、


「ありえますね。ミホザの地下遺跡では、グルドン帝国と関わる宗教集団と魔界王子ハードソロウとの争いがあったようですし、リザードマンが占領している蛇人族(ラミア)の故郷といい、このマハハイム山脈に連なる【フォルニウム火山】と【フォロニウム火山】の火口付近には、強い魔力が得られる秘境のような場所が多いのかもしれません」


 そう発言。

 左目の棲むヘルメも、


『はい。故郷と似た雰囲気もあった泉。あの泉には、いつもより不思議な精霊ちゃんたちが多かった』

 

 そう思念を伝えてきた。

 

 だろうな。

 樹海にだって沢山の泉はあったが、ヘルメが踊りつつ水精霊系を自身に吸収するなんてことは一度もなかった。

 

 女帝槍レプイレスの石碑もそうだ。

 

 ドミドーン博士が発見した石版とかあったから、実は、樹海のどこかに、魔軍夜行ノ槍業に関わる石碑があるかもしれないが……だとしたら灯台下暗し。


 そして、ミホザの地下遺跡を巣にしていたハードソロウの眷属。

 デボンチッチも湧いた大蛇龍ガスノンドロロクンの剣が刺さっていた泉は蛇人族(ラミア)から信仰されていた八大龍王の泉でもあったわけだ。


 だから、この火口付近には、セウロスに至る道と呼ばれる秘境が多いのかもしれない。

 

 思えば……。

 自然が豊かなゴルディーバの里もそうだ。

 アキレス師匠と修業を行なった際に訪れた巨大な樹木。

 そこには無数のデボンチッチたちが棲んでいた。


 デボンチッチの大合唱は忘れることはない。

 

 だからこそ、魔界にも通じやすい狭間(ヴェイル)が薄いとか濃いとか、色々とあるだろう。


「……相変わらず鋭いヴィーネだ。蛇人族(ラミア)の故郷と通じて龍脈的なモノはあるだろうとは思ってたところだ」

「龍脈? ロロ様との空旅では、巨大な竜の存在を確認しました」

「ンン、にゃお」


 相棒もヴィーネの言葉に同意するように鳴いていた。


「竜か。獰猛な古代竜の可能性はある。なんせここは火口だ。巨大な火竜とか想像しちゃうな。んだが、当面はリザードマンだろう。この巨大な蛇人族(ラミア)の像がある火口付近で起きた戦いは、もう周囲のリザードマンには知られたはずだ」

「では、火口の地形の把握を兼ねて……威力偵察を行いたいと思いますが」


 <従者長>ママニの顔はわたしも活躍する!

 という気概に満ちた顔だ。

 俺は頷いて、


「分かった、ママニの判断に任せる」

「はい、お任せを――」


 喜び勇むようにママニは肩を怒らせると、リザードマンの反応が示す方向へと歩き出す。

 隘路は巨大な石像の下側に続く。

 左のほうか、それとも火口に沿う形で曲がりながら……。

 右の奥へと続く細道とかあるのかもしれない。


 ママニの速度が上がる。

 虎獣人(ラゼール)らしい身のこなし。

 忍者染みた走り方に変化するのを把握してから――。

 

 片手にシャドウストライクを持って、


「んじゃ、ハルホンク、魔煙草の次だ。お望みの、ほら――」

「ングゥゥィィ……ゾォイ」


 竜頭の口部位らしきところへ、シャドウストライクの刃を当てる。

 と、そのシャドウストライクの分厚い刃がポコッと音を立ててハルホンクの口の中に吸い込まれた。


 竜頭金属甲(ハルホンク)の片目のブルーアイが輝く。

 それは――魔竜王の蒼眼だ。


 土耳古玉のような夏を感じさせる空色の眼。 

 

 その魔竜王が復活したように、ギラリと虹彩が蠢く。

 一瞬、魔女サジハリの言葉が甦る。


 ……〝性格は獰猛で勇猛貪欲〟そのモノだろう。


 そんな魔竜王を超えたハルホンクとしての意識が宿った魔力溢れる魔眼。

 色合いがすこぶる綺麗なだけになんとも言えない。


 刹那、竜頭金属甲(ハルホンク)の口からシャドウストライクの刃が飛び出た。

 ビックリしたが、そのシャドウストライクの刃をむしゃむしゃと食べるように、口の中に引っ込めるハルホンク。


「――ウマイィ、ゾォイ」

「満足したのならよかった」

「ングゥゥィィ」


 またシャドウストライクの刃を竜頭金属甲(ハルホンク)は出すが、そのシャドウストライクは瞬時に消える。


「ングゥゥィィ。モットォ、ウマィィノ、喰ワセロォ、ゾォイ」

「懐かしい。よし、これでも喰っとけ――」


 飾りの竜鷲勲章を口に放り込んだ。


「ングゥゥィィ、アジ、ナイ」

「ははっ、飾りだからな。しかし、服の表面にその竜鷲勲章を出すことは可能になっただろ?」

「カノウ、ゾォイ!」


 左胸の防護服の布が盛り上がる。


「あ、新しい模様が!」


 ジョディは驚いて口を手で塞ぐ。


 ポコッとバッジのような竜鷲勲章が出現した。

 少し縁の模様が可愛く変化したような気がするが、気にしない。


「よし、魔竜王装備と同じことが可能。アクセルマギナとも連動できるし、ハルホンクは、やはり便利だ」

「ングゥゥィィ、モットォォ、ウマィィ、ノ、喰ワセロォ、ゾォイ」


 ハルホンクの声が響くと、アクセルマギナが点滅。


「……ピピピ……」

続きは明日。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらずハルホンクは食いしん坊だなぁ (ただし好き嫌い有り、でも出された物はちゃんと食べる) もういっその事、谷底だか火山に捨てようとしてる例のブツを上げたらいいのでは、 きっとハルちゃん…
[一言] どんなのを食わせるのか楽しみです!明日も楽しみに待ってますー
[気になる点] ハルホンクに他に何を食べさせるのかな? 楽しみです。 前回のタイトルが643話になっています。
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