六百四十三話 フォロニウム火山の火口
ツアンを黄金芋虫に戻す。
黄金芋虫の意識はイモリザとなったのか「ピュイピュイ♪」と鳴きながら、右肘ではなく耳朶に付着してしまった。
まぁいいや――壁の端にある螺旋階段を上がりながら<鎖>を斜め上の壁に向けて射出――壁に刺さった<鎖>を手首に収斂。
ギュィーンといった調子で<鎖>を手首に引き込む反動を利用して一気に<鎖>の先端が刺さっている壁に体を運ぶ。
このターザン機動は、毎度だが、一種のアトラクションみたいで楽しい。
そこから壁につけた足を離して足下に<導想魔手>を生成――。
その歪な魔力の手の<導想魔手>を蹴って垂直にジャンプ――二段、三段、四段とトリプル連続ジャンプ――。
ハイジャンプブーツで跳躍したように縦穴を上がった。
――『メトロイド』は面白かった。
「選ばれし銀河騎士! 素晴らしい跳躍力です」
「おう、アクセルマギナも可愛いぞ」
照れたアクセルマギナの顔が可愛かった。
ただ、右腕に浮かぶ人工知能なんだよな。
すると、アクセルマギナの周囲に無数のアイテム類が実体化。
球体のガードナーマリオルスが独鈷魔槍を細いチューブで掴んで突いては引き戻して<刺突>の練習をしている。面白い。
その中で更に、面白そうなアイテムを発見。
将棋盤のホログラム投影装置の上に多種多様のフィギュアが並ぶ。
モンスター将棋か?
人もいるからリアルなボードゲームかな。
「――それは?」
「キルベイン・ウォーカーが愛用した『ドラゴ・リリック』のゲームセットです!」
「へぇ、宇宙にもあるリアルなボードゲームかな。RPG、アクション、戦略、とかある?」
「はい、無数にあります」
「電脳を合わせると怖いゲームとかある?」
「怖い? 脳内時間を操作すれば永遠にプレイできます」
「永遠とか、電脳世界に囚われて現実世界に戻れないとか、ヤヴァいだろう」
「ヤヴァい。スラング認識しました。宇宙を漂流するしかない場合、自律的に分散もこなすプラットフォームがある惑星か宇宙船orコロニーまで、ヤヴァいほど役に立つ可能性も。それにインプラタブルデバイスと体内発電を有したインプラント型のデバイスもあれば生存は永遠です。更に、エピジェネティクスに用いるゴーストシューター魔機械があれば意識を保ったまま非ニュートン流体の肉体を形成しつつバイオ技術の発展も続けることが可能。勿論、性能の差が顕著となります。元々の生身の脳とDNAとRNAの塩基配列を超えた魂としての根幹が重要視されることに」
途中から、理解不能。
俺の口癖を覚えてしまうと、ヤヴァいを連発するAIになってしまうかもしれない。
だからヤヴァいは、できるだけ控えるか。
そのことは告げずに、
「理解できないから分かりやすく」
「脳幹の基軸に専用メモリがあれば大概は平気です」
大概か。意識がどうなるのかとか、量子世界に脳内の意識だけ飛んで肉体がなくなるとか、俺の次元宇宙の地球科学も内へ内へと進む可能性もあったからな。
そのことは告げず、
「……そっか。その煙突風の円形の箱は?」
「銀河騎士専用エンハンサー。クルベス級スター・マクマルソー簡易偏向シールド発生装置。ガードナーマリオルスorフォド・ワン・XーETAオービタルファイターorグラナード級重巡洋戦艦に装着が可能」
「へぇ、シールドか」
ガードナーマリオルスのホログラムも頷くようにくるくると回って可愛い。
独鈷魔槍に球体がぶつかって転んでは電気を発していたが、大丈夫か?
「はい」
「その二十四面体風のクリスタルは?」
「フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタル」
「長い名だが、どんな効果がある?」
「星系の範囲内にいる銀河騎士の資質と特殊マインドを持つ者たちに反応を示すアイテム。そして、銀河騎士マスター評議会から秘密裏にカレウド博士に託されたスーパーアイテムでもあります!」
「……さりげなく重要度が高いアイテムのようだが、大魔石をアクセルマギナに納めていないし、報酬欄にそのような名前はなかった。そのフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルは最初から出せる状態だったのか?」
「分かりません。再起動した際には認識していました。一度壊れてメモリが損傷し、ガードナーマリオルスがわたしを修理した結果、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが出現したと推測します」
「そういうことか。一度壊れて直るところを見ているから、理解はできる」
「ありがとうございます。そのフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルを使いますか?」
「いや、今はいいや。そのマスクと通信装置っぽい魔機械は?」
「銀河騎士専用簡易ブリーザーorコムリンク。ブリーザーのほうはメタンor酸の海でも耐えることができる銀河騎士専用装備。ハイナード・ハイペリオン社を超えた性能を持ちます!」
「へぇ」
そこで、斜め上に階段が見えた。
その階段に飛び移る――。
「フォド・ワン・プリズムバッチも使って、オービタルファイターのところに転移が可能かどうか試したいが、あとにする」
「はい」
階段を上がって小屋の中に戻った。
六腕のカイと似た人形を拾って、アクセルマギナに放り込む。
刹那――。
アクセルマギナの足下にいるガードナーマリオルスがその人形を拾う。
自分の円の形をした盤の上に乗せていた。可愛い。
ホログラフィックだが、モーター音が響くからリアルだ。
近未来のゲームを体感しているようで面白い。
眩しさを感じながら、小屋の外に出る。
ヘルメがすぐに俺の魔素を察知。
水飛沫を発生させながら舞い降りてくる。
「――耳朶、閣下! お帰りなさい」
「お、おう、ただいま」
イモリザの耳朶を指摘したヘルメを抱きしめた。
おっぱいの感触を楽しんでいると、ママニとビアとジョディも寄ってくる。
ビアが「主! こい!」と、三つの胸を自慢するように両腕を広げていたが、スルー。
済まんな、ビア。
小屋の周囲はリザードマンの死体で山積みだった。
そして、その皆に背嚢の中にあった手帳の紙片を見せながら、
「その小屋の中でこれを手に入れたんだ。で、地下に突入。魔界王子ハードソロウの眷属の餌場だった……」
ハートミットの活躍と地下の戦いの詳細を語った。
そして、ヴィーネから血文字があったことも報告。
「神獣様は新しい家族を!」
「まだ神虎については分からない。で、ママニ。アルベルトから聞いていた件が、ここで繋がったな」
「はい、偶然とはいえ驚きですね。フジク連邦では、昔から聖獣と聖獣を扱う者が誕生しやすいコンラッド村として有名でしたが、神虎の力を宿すとされる一族の話は、お伽噺の類かと思っていました」
「教団セシードの名は?」
「セシードの部族名があるとは、過去に聞いたことがありましたが……」
「そっか。王虎スキルとか、虎獣人の部族の帰依に関することは前に聞いたな」
ママニは頷く。
ビアは蛇の舌をシュルルと音を立てて伸ばしていた。
その二人から視線を逸らして、重なるリザードマンの死体越しに精霊の泉と石碑を見る。
女帝槍レプイレスの石碑。
女帝魔槍譜の秘伝書があった石碑だ。
「……今いる環境を見れば予想はつくが、このフジク連邦は秘境が多い?」
と、ママニに向けて発言。
ママニは頷く。
「はい、北側は特に。わたしの前の部族ラーマニも貴重な種族でしたが、知らないことは多々あります」
「北側というとマハハイム山脈側か」
「そうですね。マハハイム山脈に沿う形で、南西から北東にかけての高原地帯。昔から蛇人族とリザードマンが支配する地域で秘境と謎が多かったのです。あ、ご主人様が樹海の内部に発見した神具台も何処かにあるかもしれません」
「あるかもな。アキレス師匠たちが暮らすゴルディーバの里にも神具台はあった」
「我は知らぬ」
ビアの言葉に頷く。
帰依のこともあるから、ラーマニも貴重な種族って言葉が気になった。
「部族の帰依があるということは、虎獣人同士で争いがあったり?」
そう質問すると、ママニは、
「はい、恥ずかしながらグルドン戦役が拡大する前のフジク連邦も一枚岩ではなかったのです。部族の帰依の話を知っておられるように、部族同士の争いも激しかった……」
「帰依で部族の力が得られるのなら、同じ虎獣人とはいえ身内同士の争いが生まれるのは仕方がない」
「我らはリザードマンと争っていた」
どこの世界も欲深いやつらは多い。
しかし、豹獣人、獅子獣人、鼬獣人もフジク連邦が故郷のはず。
小柄獣人は南マハハイム地方に故郷があるようだから、この東マハハイム地方が故郷ってわけじゃないようだが。
そういった様々な種族があるからこそ……。
獣人に差別的な政策を取るグルドン帝国が有利だったのかもしれない。
ママニの顔色を見ながら、
「……フジク連邦は虎獣人だけではないから、それが、すべてではないと思うが、人族のグルドン帝国の侵攻を受ける原因の一つか」
「はい」
ママニの表情は暗い。
掘り下げるのは止すか。
ラーマニからピレに変わった部族の話には興味があるが……。
火口のことを素直に聞くとしよう。
「ママニとビア。ここはフサイガの森を越えたフォルニウム山とフォロニウム山の兄弟山の範疇だと思うが……火口はどこにある?」
「ここからでは把握は難しいです。煙の方角と温度が上がる方角でしょうか。空高くから見れば目印と言いますか、特徴を持った地形がまだ残っているのならば、火口は見つかるはず。ただ、空には……」
「空のモンスター云々は俺たちで対処しよう。正直、標高が高いから危険は危険だが、俺たちなら大丈夫なはずだ。で、その目印とは?」
「はい。破壊されたと聞いた蛇人族の形をした巨大石像です」
「……ぐぬぅ、思い出すのも不快だが……大蛇人族の石像は破壊された! リザードマンの首領の一人ボファザの仕業だ!」
ママニの報告を聞いたビアが叫ぶ。
リザードマンに故郷を破壊されたんだったな。
俺はジョディと話をしているヘルメに向けて、
「んじゃ、ヘルメ、左目に戻ってこい」
「――はい」
ジョディとハイタッチをしたヘルメは、俺の左目に突進。
瞬く間に体が液体と化しながら虹色の飛沫を周囲に飛ばして、俺の左目に入る。
――刹那のスパイラル軌道が美しい。
左目に入ったヘルメが視界に登場。
美しい笑みを浮かべつつのヘルメ立ち。
おっぱいを震わせつつ消えた。
「皆、空から行こう。ジョディ、皆を頼む」
「はい――」
ジョディは<光魔の銀糸>を皆に絡ませると、一気に飛翔。
俺は<導想魔手>を蹴って宙を進む。
飛翔すること数分――。
「――見えました。あの首と武器が破壊された石像!」
<光魔の銀糸>にぶら下がっていたママニが腕を伸ばし、指摘する。
石像は見事に破壊されているが、蛇人族の故郷だった地域が近くにあるのか。
破壊された石像の背後に火山から出た煙があった。
しかし、空にはモンスターが大量だ。
「あの左の手前がフォロニウム火山かと。右の奥がフォルニウム火山!」
「モンスターが多そうで危険だが……」
「あなたさま、あの石像の向こう側に行きましょう! わたしが、いえ、わたしたちがモンスターを処分しますので」
「故郷に近づいて……懐かしいが、我は気に食わんぞ! 蛇人族族の姥蛇ジィルの秘宝を捨てるとは!」
「秘宝だろうが、捨てる」
ビアの種族的には当然なのかもしれないし、嬉しいことなのかもしれないが……。
永遠の若さとか強さを得る代わりに、巨大な乳房三つと女性器を得ては、その獲得した女性器に、オークとゴブリンの一物を百年間も突っ込まれ続けるうえに、その乳房から麻薬酒とかを作る呪いとか……嫌すぎる。
「ビア、あれは火口に捨てる」
「うぬぅ、主の目は本気か。分かった」
「ビア、ご主人様は、ビアのこともちゃんと好いているからこその対応ですよ?」
「分かっている!」
<光魔の銀糸>が絡むビアは両腕を広げた。
三つのおっぱいを見せて『抱きついてこい』と意思を示す。
俺は頷いて、笑顔で応えてあげた。
「なら、行きましょう。ジョディさん、このまま前進を頼みます――」
と、<光魔の銀糸>が体に絡むママニが発言。
ママニはアシュラムをガーゴイル系のモンスターに放り投げて倒していた。
「はい♪ ふふふふ~。飛びますよ♪」
強そうなモンスターが多くて、正直怖いが――。
先頭に立つジョディはアルマンディンの魔宝石を得ているお陰か、機嫌がいい。
群がるモンスターをサージュで次々と切り伏せていく。
しかし、あの大きな鎌の技術は言わずもがな――。
<光魔の銀糸>に絡むママニとビアが宙空でスムーズに戦っていた。
――ジョディは人形使いの戦闘職業もあるのかな?
と、右のほうから、アメーバを纏う大きな鳥モンスターが飛翔してきやがった。
「あの鳥は俺が倒す。ジョディたちは前進―――」
「はい」
「主、我は――」
「分かりました!」
俺はアメーバ状の粘液を体に纏う大きな妖鳥ハーピー目掛けて――。
《凍刃乱網》。
水の魔法陣から凍った刃が滲み出る。
凍った刃は縦と横に重なって、氷の画一化した巨大な網目模様を形成。
その氷の網がアメーバを纏う大きな妖鳥ハーピーを捕らえる。
一瞬で、アメーバを纏う大きな妖鳥ハーピーは細切れと化した。
続いて出現した狸と似た動物モンスター。
ドレイクとソニックバーンとワイバーンの群れ。
三つ首を生やした三つ頭のダイダロス。
そして、巨大な闇虫。
中型のドレイクを処分していく。
ドラゴン系のモンスターはできるだけ避けよう――。
山沿いを低空飛行で上がった。
しかし、ジョディの<光魔の銀糸>にぶら下がるママニとビアは面白い姿――。
「ちょい待った。ここらで<分泌吸の匂手>を行おう」
「はい」
「承知」
俺とママニとビアが<分泌吸の匂手>を実行。
濃厚なルシヴァルの血が空中に散る――。
これで、相棒に乗ったヴィーネも分かるだろう。
ま、相棒ならどんなに離れても、俺の匂いを辿ってくれるか。
そんな思いを抱きながら――。
白色の蛾を周囲に放つジョディを見る。
白銀の翼のように白色の細かな蛾が散っていく後ろ姿は綺麗で可憐だ。
「ジョディ、前進」
「はい」
ジョディの<光魔の銀糸>にぶら下がるママニとビアも前進。
ビアは標高が上がるたびに胴体が膨れているようにも見えたが、気のせいか?
俺の知る地球でも気圧の変化で袋が膨れるとかあったが……。
ビアの腹の空気圧が膨張しているとか?
すると、ママニが、
「ご主人様、もう近いです!」
と叫ぶ。
樹木もあるが、岩山も多い。
惑星セラの森林限界は、俺の知る森林限界とは違う。
地球と環境が似ているから、錯覚してしまうが、標高で変わる気温も気圧も沸点もすべてが異なるはず。
俺の知る宇宙物理とは、異なると認識しないとな。
自分の物差しは常に変化が求められる。
――凝り固まった思考は捨てないと。
と、青空と山脈の一部を見ながら火山地帯を進むと、黒々とした地形が増えてきた。
遠い右側の山の形状はドーム状に盛り上がっていた。
その向こう側には、何かがある気配を感じる。
手前のほうにも魔素がちらほらとあるが……。
「おおおお、我の故郷はあそこだ! あの向こう側である!」
「ここからではまだ遠いが、ドーム状の向こう側か」
「そうである!」
ビアは大興奮。
そのビアに絡む<光魔の銀糸>を操作しているジョディが、その<光魔の銀糸>に引っ張られて体勢を崩しては、ひっくり返っての一回転。
可憐なパンティを見せてくれたから、好しとしよう。
しかし、凹凸だらけのドームか。
火山の影響か戦争の影響か……。
「……ドーム状の向こう側がビアの、蛇人族の故郷……」
すると、温度が上がった――。
巨大な蛇人族の石像の造形が把握できる位置にきた。
巨大な石像には、頭部と片腕がない。
蛇人族の特徴的な図太い胴体は穴だらけ。
同時に、巨大な石像の欠けた間から火口の一部が覗く。
盛り上がって黒く変色した岩石が壁のように点在。
表面は凹凸が激しい。
恐竜の化石らしき物がある。
黒く変色した凹凸した岩の壁にも、石象と同じく穴があるから、その穴の奥から赤い点々が見え隠れする。
奥の溶岩からして火口は一つではないようだ。
硫黄の臭いも強まった。
『閣下……』
『火口は怖いよな、出なくていいぞ』
『はい』
視界に浮かぶ小さいヘルメはいつもより小さい。
常闇の水精霊として存在が弱まった感がある。
下を把握――。
巨大な石像の真下の小さい祭壇の前では戦いが起きていた。
一人の蛇人族とリザードマンの中隊だ。
リザードマンは奥のほうにもいるから、もっと数は多いかな。
「――ご主人様」
「あなた様?」
「あの蛇人族は!」
ビアは知っている?
こりゃ助けるべきか。
その前に、大仏様的な福耳と化したイモリザを意識して『普通の右肘に戻れ』と指示。
「――ピュイ♪」




