六百三十四話 異邦人の槍使い
「ニャア」
「ニャオ」
足下にきた黄黒猫と白黒猫が甘えてきた。
俺はヴィーネの肩を持ちつつ体を離す。
銀仮面と綺麗な銀色の髪に触れないようにしながら――。
ヴィーネのおでこに優しいキス――。
ヴィーネの頬が朱色になった。
珍しいデコキッスだ。
少し照れたか。
ヴィーネの上目遣いは普段の蠱惑的な視線とは違う。
少女的な新鮮さを帯びた視線だ。
素直に可愛い。
「ご主人様……」
火照ったヴィーネはカリームの襟元をはだけさせる。
鎖骨の一部と豊かな胸の谷間を晒す。
朱色を基調とした防具で、そのすべての乳房は見えないが……。
この見えそうで見えない胸元は、すこぶる魅惑的だ。
その豊かな胸の下にあるヴィーネの心臓は高鳴っていると分かる。
切ない鼓動を感じた。
同時に汗と女特有のむあんとした、フェロモンが匂った。
青白い肌の表面に、うっすらと、朱色の化粧を施したような斑点がポツポツと生まれ出る。興奮したヴィーネさんだ。
俺を見る瞳はエロい。
エッチぃことを期待しているようだ。
正直、抱きたい。
んだが、我慢だ――。
「あぅ」
と、ヴィーネの手を握ってから少し距離を取る――。
ヴィーネは体を震わせて、なんとか体勢を整えた。
震えた太股と、じりじりとした熱のある内股の動きが……。
また厭らしくて、俺は胸が締め付けられた。
同時に股間に血が集結したが……。
これまた我慢しつつ、
「ジョディはあっちだ」
「にゃお~」
すぐに相棒が鳴きながら歩き出す。
黄黒猫と白黒猫も続いた。
ジョディの背中が森の中に消えていく。
その途中で三匹は振り返る。『行かないのかにゃ?』といった視線だろう。
「……はい」
ヴィーネは俺の手を握ってくる。
少しでも温もりがほしいらしい。
そんなヴィーネに想いを伝えるように――。
ヴィーネの手を強く握ってあげた。
「……」
ヴィーネは、とろんとした目となった。
俺は微笑みながらヴィーネから視線を逸らす。
――傍で待機していたママニとビアにアイコンタクト。
顎先をクイッと動かして『進むぞ』と意思表示。
ママニとビアは、俺たちに『ここでハッスルをやんの?』的な視線を寄越していたが指摘はしなかった。
俺たちも先を進む。
「ピピピー」
と、足場の悪い地面でも難なく進むガードナーマリオルス。
一応、機械というか魔機械と呼ぶべきマシーンに、
「ガードナーマリオルス、これから戦いとなる可能性がある」
「ピピッピピッピッ」
平たいルンバのような頭部に備わるカメラの先端が伸びて、レンズが点滅。
胴体の球体が反対に動く仕草が妙に可愛い。
俺は戦闘型デバイスに浮かぶアクセルマギナに向け、
「このガードナーマリオルスを仕舞えるか?」
「はい、即座に――」
「ピピッ――」
音を立てたガードナーマリオルス。
可愛らしいミニチュアの円盤頭部。
ルンバ的な掃除機を彷彿する、その小さい円盤頭部に備わる隙間の孔類から、ジェットでも噴き出る勢いで、灰銀色の魔力粒子が放出――。
ガードナーマリオルスは瞬く間に塵となってアクセルマギナの中に吸い込まれた。
塵は金属粒子なのだろうか。
ナノレベルの金属操作は高度過ぎて想像ができない。
完全に魔法かスキルだろ、これ。
ミスティとエヴァの力を間近で見ているから、当たり前の感覚だが。
魔力を帯びた金属粒子が空間の中に存在するであろう引き合う魔力or神の魔法力〝式識〟と一定の周波数で、共鳴&連動することが鍵となっているんだろうと、勝手に推測。
同時に音楽が鳴る。
戦闘型デバイスからだ。
最初はテクノ?
戦闘ミュージック系かと思ったが……。
重低音が混じって緩やかなリズムにも変化する。
――気分が高揚する音楽だなぁ。
イモリザもそんな気分らしい。
右肘に備わる肉肢が自然と踊る。
『この音楽は、不思議と迫力がありますね』
『あぁ』
小型のヘルメに同意。
あの音楽にそっくりとは言えない。
そんな気持ちを共有しつつ歩きながら――。
視界を共有し続けている偵察用ドローンの操作に集中。
ドローンには自動操縦機能もある。
自然と障害物を避けてくれるから比較的楽だが――。
この妙な感覚には、まだ不慣れな視界だ。
時折、有視界が、ぶれて少し酔う。
頭部を振るった。
「あ、ご主人様――」
ヴィーネの手が俺の額から頬を優しくなぞる。
指の腹で、アタッチメントと皮膚の境目を掘り起こすようななぞり方だ。
優しいが、少し興奮を覚えてしまう。
「――大丈夫。まだ遺産高神経の扱いが完全ではないらしい」
と、発言しつつ遺産高神経に記してあった脳幹にダメージがあるといった情報を思い出す。
少し酔うのは副作用?
まぁ、リスクがあるからこその進化だ。
「はい……」
ヴィーネは心配そうな表情を寄越す。
俺は微笑んでから、顎先をクイッと動かして『進むぞ』と意思を示す。
ヴィーネも微笑みを返してくれた。
フサイガの森の視界を把握。
変わった形の茸を採取するヴィーネ。
ビアはそのヴィーネの横で周囲を警戒。
蛇人族で分厚い胴体だが、盾の上にシャドウストライクを乗せた構えは格好いい。
ママニはアシュラムを抱えつつ、そのヴィーネとは反対側を向いている。
変な形の花が咲く魔力を帯びた太い樹木があちこちにある。
俺が話した、魔境の大森林に棲息していた、喋っていた魔族を喰らう樹木のことを想像しているのかもしれない。
俺も歩きつつ……。
偵察用ドローンの周囲と上空からの映像を把握――。
フサイガの森は起伏が多い。
ホルカーバムの東の泥濘みが多かった地域と少し似たところもあるが、フサイガの森というように、樹木と根も多いから地面は固く歩きやすい。
しかし、茂ったシダのような葉が邪魔だ。
若干、サイデイル付近の隘路を想起する。
すると、一つ、二つの偵察用ドローンが捉え続けている兎人族と虎獣人の人数が増えた。
兎人族と虎獣人は他にも仲間がいたようだ。
中隊規模となった。
蝶のモンスターの数が減った。
グルドン帝国の軍勢と蝶のモンスターと戦うために、散開戦術を展開していた?
集結した兎人族と虎獣人の中隊は部隊を前後に展開しつつ退く。
撤退戦の代表的な戦術の繰り引きか。
ママニから聞いていたが……。
やはり戦術レベルは相当なもんだ。
俺は皆に向けて、偵察用ドローンの情報を、
「俺たちが向かっている先で、戦っている兎人族と虎獣人の混合部隊の人数が増えた。蝶のモンスターの数が減ったからか、グルドン帝国の兵士の囲いを突破したグループがいたようだ」
「おお、我も参加する!」
「にゃお~」
「善戦とは、優秀な傭兵集団のようですね」
「グルドン帝国の支配領域で戦闘を続けている傭兵たちでしょうから、かなりの強者揃いと予想できます」
と、皆の言葉に頷きながら、「助けるにもしても、もう少し見るか、ジョディの反応もまだ鈍いようだしな」と発言した。
「はい、こっちのようです」
そう語るジョディの背中を見つつ歩き続けた。
兎人族と虎獣人の混合部隊の視界を意識。
兎人族と虎獣人は坂道を下る。
が一人だけ坂の上に残った虎獣人がいた。
退路確保のための殿役か。
盾&片手剣使いの虎獣人。
その大柄な虎獣人に迫るグルドン帝国の兵士たち。
凄まじい矢が飛来する。
虎獣人は盾で矢を防ぎきった。
そして、横の壁に体を擦るように矢を折りつつ――。
近付いてきた兵士の長剣を左手に持った盾で弾く。
その盾をひっくり返すように、兵士の顎をアッパーカット。
兵士を転倒させてから、その仰け反った兵士の股間を蹴り飛ばす虎獣人。
続いての兵士の長剣が繰り出した袈裟斬りを――。
自らの細い剣の峰で、下に受け流しつつ、その剣の切っ先で、兵士の籠手ごと腕を斬った。その腕を切った兵士に向けて中段蹴りを喰らわせて吹き飛ばす。
盾&片手剣使いは兵士たちの障害物を作り出した。
更に、右から迫った兵士の剣を細い長剣で往なす。
反撃のリポストで、その兵士の喉を刺す――。
続けて、盾を振るう虎獣人。
左から迫った兵士の頭を盾で破壊。
それらの倒れた兵士たちを盾と障害物として利用しつつ戦う、盾&片手剣使いの虎獣人は強い。
――沸騎士のような活躍で退路を守り続けていた。
グルドン帝国の兵士たちは、その殿の盾&片手剣使いの虎獣人に足止めを喰らった形だ。
その虎獣人の右腕には腕章のようなモノがあった。
優秀な傭兵集団のマークだろうか。
偵察用ドローンを強く意識。
ズームアップできた。
三日月に水滴がたくさんついたマーク。
傭兵集団コンサッドテンの皆を思い出した。
すると、そのグルドン帝国の兵士たちの中から強そうな兵士が登場。
帽子をかぶったグルドン帝国の兵士長か?
短槍と十手のような武器を持つ兵士長は、何かを、その虎獣人に語りかけた。
そして、短槍の穂先を虎獣人に見せるように前傾姿勢となった刹那――。
その大柄の盾&片手剣使いの虎獣人に突貫――。
兵士長は魔闘術系技術も巧み。
間合いを零とした直後――。
対峙する盾&片手剣の虎獣人の虚を突くように――兵士長の右腕が、そう、短槍の穂先がぶれた。
分裂した穂先が虎獣人の細い剣と盾を弾く。
兵士長は右手の短槍で、中距離戦を制す形か。
偵察用ドローン越しだから、魔闘術の技術の詳細は分からない。
魔力操作は互いに互角と推測。
やや兵士長のほうが強い?
短槍も魔力を内包していると思うが……。
あの左手の十手のほうが強力だろう。
最低でも伝説級か。
あ、兵士長の拳と十手が虎獣人の右腕を削った。兵士長は格闘で接近戦も制したか。
兵士長は盾&片手剣を使う虎獣人を押し込む。
あの十手は、やはり、かなり珍しい武器だ。
柄から鋼鉄の枝のようなものが無数に伸びている。
その枝の先は湾曲して動く?
鷹の爪先のような感じだ。
その鷹の爪のような十手の柄で、盾の上部を引っ掛けて、その盾を無理やり腕から引き剥がす。
――虎獣人の胴体に隙を作った瞬間――。
その虎獣人の胸に……。
兵士長の短槍の<刺突>か。
分厚い鎧ごと短槍の穂先は、盾&片手剣使いの虎獣人の背中を突き抜けた。
盾&片手剣使いの虎獣人は血を吐いて倒れる。
グルドン帝国の兵士たちの士気が上がったようだ。
兵士たちは、活躍した兵士長を讃えるような言葉を投げかけながら――その兵士長を追い越して、坂道を怒濤の如く下り出す。
道幅が狭い坂道は兵士たちで埋まる。
一方、坂の下を逃げる兎人族と虎獣人たち。
その途中、兎人族のリーダー格が足を止めた。
兎人族のリーダー格は翻した。
逃げる時間を稼いだってのに、何やってんだ。
見た目は僧侶だが、もしや、あのリーダー格は強いのか?
坂の上から迫り来るグルドン帝国の兵士たちを迎え撃とうとしている?
素直に坂道が続いているのなら逃げる状況だと思うが……。
その時。
武者鎧を着た大刀を使う虎獣人が前に出た。
僧侶姿の兎人族を守るつもりか。
武者鎧が似合う虎獣人は、ハンカイのような叫び声を上げたようだ。
坂の上に向けて足を向けた。
武者の虎獣人は――走り出す。
背後の法衣を着た兎人族と虎獣人が叫ぶ。
その吶喊した武者の虎獣人に向けて『行くな――』と叫んでいることは分かった。
リーダー格の僧侶は、その武者を追いかける。
しかし、仲間の兎人族たちが、走り出したその法衣が似合う兎人族と虎獣人を押さえた。
強引に坂下に逃げるようにと、説得しているようだ。
説得を受けた兎人族のリーダー格。
泣きながら残りの者たちに指示を出して、体を翻す。
兎人族と虎獣人の一隊は坂の下に退いた。
――偵察用ドローンを操作。
坂を駆ける大刀使いの虎獣人を注視。
坂の上で活躍した虎獣人と同様に体は頑丈だ。腕章に三日月に水滴がたくさんついたマークがある。
矢を体に喰らいながらも大刀を振るい抜く――。
近寄ってきたグルドン帝国の長剣使いを、瞬く間に――一人、二人と連続的に斬り伏せる。
三人目は強敵だったのか太股に切り傷を喰らうが、柄頭を眉間に衝突させて、相手の首を自らの歯牙で噛みきってぶち殺していた。すげぇ……。
そして、虎獣人は咆哮を発した。
――血飛沫が飛ぶ。
ママニっぽい。
坂の下の戦いは不利な状況だが、その大刀を扱う虎獣人には関係がない。
大刀を扱う動きも、しなやかだ。
飛剣流か絶剣流は確実に学んでいる。
岩壁に背と脇腹をわざとぶつけて、体に刺さった矢を折りつつ血濡れた腕章で太股を結ぶ。
その瞬間を狙った兵士に向けて長剣を振るう――。
強烈にグルドン帝国の兵士の頭をかち割った。
すげぇな。
そんな大刀使いの虎獣人は続けざまに袈裟斬りから逆袈裟斬りをくり返す。
五人、六人とグルドン帝国の兵士を屠りつつ坂の上に到達――。
咆哮しながら体が大きくなった虎獣人。
特異体だろうか。
たった一人で戦いを盛り返した形となった。
虎獣人の小隊は百人斬りでも行えるような人材が豊富にいるようだ。
そんな大刀使いの虎獣人の登場に、しびれを切らしたグルドン帝国の兵士たち。
隊長クラスと推測できる兵士長が登場。
さっきの盾&片手剣の虎獣人を倒した奴だ。
その兵士長は帽子を深々と被って顔が窺い知れない。
マントは短い。
身軽そうな防護服。
他のグルドン帝国の兵士とは違う衣。
胸元の軍のマークに六つの腕がある。
その腕の中の一つから半透明の腕のような形の紋様が浮かんでいた。
武器は短槍と十手だ。
さっきと同じく柄から枝のようなモノが放射状に伸びていた。
兵士長が、武者系の大刀使いの虎獣人の前に出る。
短槍と十手を扱う兵士長と虎獣人の大刀使いが激突した。
即座に、虎獣人は十手の武器の特性を見抜く――。
片手持ちに移行した大刀の柄を捻った。
螺旋機動の大刀の峰で、兵士長が扱う十手の柄を引っ掛けた。
その引っ掛けた十手を持つ腕を左に引っ張る。
兵士長は体が左に移動していく。
体勢が崩れた兵士長は、体を捻りつつの短槍で反撃、はせず――。
その短槍で地面を突いて体を支えながらの――。
下段蹴りを――大刀使いの虎獣人に繰り出した。
大刀使いの虎獣人は移動も速い。
兵士長の蹴りを横に回りながら避ける――。
と、同時に背中を晒すように拳を振るう――。
裏拳だ――ママニの扱う虎拳流か。
その裏拳を短槍の柄で受け止めた兵士長。
しかし、虎獣人の裏拳の甲が輝く。
輝いた甲から衝撃波が出た――。
短槍と十手を扱う兵士長は、その衝撃波をもろに喰らう。
背後に吹き飛んだ。
背後で一騎打ちを見守っていたグルドン帝国の兵士たちと衝突する兵士長。
あの大刀を扱う虎獣人は強い。
地底神ロルガに傷を与えた太刀を扱っていた【雀虎】のリナベル・ピュイズナーを思い出す。
――暫し、その名も知らぬ大刀使いの虎獣人が活躍する。
傷が増えていく。
が、本当に百人斬りを実行しそうだな。
あ……。
張飛の長坂の戦いにあったような行動は……。
長続きはしなかった。
強かった、その大刀を扱う虎獣人も多勢に無勢では……。
常闇の水精霊ヘルメの<珠瑠の紐>のような紐の攻撃を全身に喰らい、動きが鈍ったところを、左右からの槍衾――。
続いて、バックスタブを背中に喰らった大刀使いの虎獣人は絶命。
どんな強者も、複数の強者相手ではキツイ。
スタミナも有限だしな……。
背後を突かれたらお終いだ。
活躍した虎獣人を踏み潰すように、坂の下へとグルドン帝国の兵士たちが押し寄せていく。
しかし、逃げ続けている兎人族と虎獣人の部隊は殿戦術が徹底されている。
次々と仲間を逃がそうと――。
強そうな武者虎獣人が坂の上に突出。
武者の虎獣人は、崖の下に逃げる僧侶たちの時間を少しでも稼ぐようにグルドン帝国の兵士を仕留めつつ死んでいく。
その武者虎獣人の一人一人は鬼気迫る表情だ。
不思議と引き寄せられる……。
槍衾を受けて腕章ごと体が血塗れとなっても、尚、虎獣人たちは笑う。
ここを死地と心得たような表情か……。
隣を歩くヴィーネを強くハグ。
「ぁん、ご主人様?」
「あぁ、済まん――」
と、離した。
ヴィーネは『どうしたのですか?』とでも言うように、顔を傾けて、ふふっと微笑んでから、
「偵察用ドローンから情報を?」
と、聞いてきた。
「そうだ」
俺はヴィーネから視線を皆に向ける。
「皆、ジョディも一旦、戻ってくれ――」
「――はい、あなた様――」
ジョディは迅速な機動で戻ってくれた。
大きな鎌の刃と柄に、銀色と紫色の液体と、鱗粉状のネバネバの粘液が大量にこびりついている。
先のほうでモンスターが出たようだ。
そのジョディを含めて皆に、
「偵察用ドローンの映像を見ていたが、救いたいと思える虎獣人たちがいた。彼らを救出しよう」
「はい」
「心得ました」
「了解しました」
「主、グルドン帝国はどっちだ!」
血気盛んなビアは茂る森を勝手に進む。
魔闘術を全開にしつつ――。
「待て、ビア。方角は同じだが、予め作戦を伝えておく。俺とヴィーネと相棒が先に出る。ママニとビアはジョディと連携。敵となるグルドン帝国の兵士たちを処分しながらアルマンディンの反応を優先。魔宝石を見つけたら、ママニかビアは俺に血文字で連絡を寄越せ。で、バラバラとなった場合は、ジョディ……」
そうだった、ジョディは血文字が使えない。
<光魔ノ蝶徒>の眷属ではあるが……。
「魔力の探知で俺やヴィーネの位置は把握できると思うが、ジョディ、別の手段で俺に魔宝石があったことを知らせることは可能か?」
「はい、この帽子を」
ジョディは俺に烏帽子を差し出す。
「<光魔ノ蝶徒>となってもわたしの体の一部として機能する防具、光魔トップルの鳥帽子です」
「この帽子を俺がかぶる?」
「いえ、あなた様の近くに浮遊し続けます。わたしが呼ぶときに鳥帽子が自動的に方向を指します」
その光魔トップルの烏帽子が俺の近くで浮遊する。
蛾の形をした白色か銀色の粒子が、その烏帽子から放出していく。
「了解した。なら、はぐれても平気か。で、ママニとビア」
「はい」
「主!」
「お前たちはジョディを補佐。必要がないかもだが、<分泌吸の匂手>を駆使しても構わない」
「「承知」」
ジョディは<光魔の銀糸>を発動。
血を帯びた白い蛾で構成された糸の群れが地面を這いながら、ビアとママニの足下に向かう。
「何事にも絶対はない。グルドン帝国はかなりの領域を支配している巨大な国家だ。軍隊もかなりの数を展開しているはず。だから無理はするな、殲滅も狙うな。俺たちは正義の味方じゃないんだからな。第三勢力のモンスター勢力と同じだということを正しく認識しろ。そして、俺たちの狙いは、アルマンディンただ一つ」
「「「はッ」」」
さて、
「相棒、黄黒猫と白黒猫も準備はいいか?」
「にゃお~」
「ニャア~」
「ニャオ~」
そう鳴くと、瞬く間に駆けていく三匹。
三匹と一匹は野獣性を取り戻すように姿を大きくした。
巨大黒豹のロロディーヌ、黄黒虎のアーレイ、白黒虎のヒュレミ、朧気なレッサーパンダ。
朧気なレッサーパンダは……。
白黒虎のヒュレミの背中に乗った。
雷属性と分かるバチバチと音を発していそうな魔力を放出している。
が、見た目は小熊だ。
そして、バンザイポーズはすこぶる可愛い。
一瞬、ぷゆゆの機動を想起する。
相棒の黒豹はいつもより大きい。
二匹と一匹の幻獣の親分的な感覚なのか?
「よし、俺たちも」
「はい」
俺はヴィーネを抱き寄せつつ――。
<血液加速>。
前進――。
ヴィーネは俺の胸元にキスしてきた、くすぐったい。
「主たちは速いぞ!」
「ビア、ご主人様が――」
と、ママニがビアに対して、俺の行動指針を説明している。
そんな言葉の一部が背後から聞こえたが――。
展開していた偵察用ドローンを回収。
黒豹を跳び越えて、足場の<導想魔手>を蹴る。
「ンン――」
「ニャオ」
「ニャア」
悔しそうな相棒の声が下のほうから響く――。
飛翔するジョディの速度を超えた俺は――。
坂を下るグルドン帝国の連中を視界に捉えた。
「ご主人様、下が――」
「あぁ」
抱きつくヴィーネと一緒に――。
兎人族と虎獣人の小隊の位置も把握――。
偵察用ドローンで見た頃から人数は極端に減っていた。
広間のような空洞に逃げ込んだようだ。
いや、奥に進んでいない?
もしや行き止まりなのか?
だとしたら、急ぐ――。
まずは、あの手前のグルドン帝国の兵士――。
刹那、坂の上にいたグルドン帝国の兵士たちに気付かれた。
複数の魔法が飛来してくる。
対応が早い。
氷弾、火球、雷撃――。
俺は即座に<導想魔手>を蹴った――。
飛来する攻撃を避けつつ――。
左手に魔槍杖バルドークを召喚――。
更に、両手首から<鎖>を繰り出す――。
「ご主人様、わたしも――」
ヴィーネは俺から離れた。
宙空で飛翔するように翡翠の蛇弓を構えると、瞬く間に光線の矢を繰り出す。
坂上の兵士たちをヘッドショット。
さすがヴィーネ――。
慣性で落ちていくヴィーネを片手で抱く――。
「あ、ありがとうございます」
「おう、ご褒美だ――」
ダークエルフらしい唇を一瞬、奪う――。
「――あぅ」
すぐに<鎖>を意識し直す――。
<鎖>の狙いは、下の兎人族と虎獣人を襲おうとしている重装歩兵軍団の兵士。
坂の上に群がるグルドン帝国の魔術師部隊は無視だ。
同時に<霊血装・ルシヴァル>も出す――。
「血が綺麗です……」
「ヴィーネ、キスしといて、あれだが、下は戦場だ」
「はい」
同時に首と顔の下半分を面頬の防具が覆う。
そのルシヴァル特有の防具から血の粒子が散った。
俺の周囲に血の粒子が漂う。
その血の中に極めて小さいルッシーの姿も見えた。
極小ルッシーは親指でグッジョブポーズを繰り出す。
目が点になった。
同時に、闇蒼霊手ヴェニューたちかよ。と、ツッコミを入れたくなったがしない。
俺もヘルメの摩訶不思議な体内のことに対して、とやかく言えないな――。
そんな血の視界の中――。
下を直進した二つの<鎖>はグルドン帝国の兵士の背中を貫く――梵字を発している<鎖>は少し眩い。
「――新手だ!」
グルドン帝国の兵士たちは優秀な者が多い。
その<鎖>を切断しようと長剣と槍と斧を振り下ろしていく。
同時に矢とスクロールに杖から繰り出された飛び道具が俺に迫った。
<導想魔手>を蹴って避けつつ旋回――。
攻撃を受けている<鎖>が振動する。
んだが、<鎖>に攻撃したところでな。
精神に侵食するような攻撃か、粘液か、魔法の力でないと、<鎖>は止められないはず――。
その貫いた兵士の肉体を利用する――。
兵士を釣るように梵字が表面に浮かぶ<鎖>を操作。
「ご主人様、坂の上に行きます――」
「了解――」
飛び降りたヴィーネ――。
翡翠の蛇弓をふるい下げている。
俺は踊り場風の広間に直進――。
兵士の体に<鎖>を絡ませつつ、その兵士を手前に引く。
他のグルドン帝国の兵士たちに衝突させた。
一気に複数の兵士たちを巻き込んだ。
坂の端から何十人もの重装歩兵を崖の下に落としていく。
よっしゃ――。
重い身なりの兵士たちは次々と落下していった。
兎人族と虎獣人の集団と、グルドン帝国の兵士たちとの間に、大きな空間を作ることに成功。
このまま<鎖型・滅印>を用いてもいいが――。
守るべき存在がいるから派手にはいかない――。
二つの<鎖>を消去。
ヴィーネが坂の上の兵士たちの頭部を溶かす。
翡翠の蛇弓の光の弦は凄まじい。
そして、ヴィーネは華麗に兵士たちの頭部を踏み潰すように跳躍をくり返し、坂を上がっていく。
と、あまり見ていられない。
俺の近くの兵士たちが、
「――鎖の攻撃が消えたぞ、チャンスだ」
「魔力切れだ」
「狙え――」
「「おう!!!」」
「「上だ――上を狙え――」」
すぐに複数の射手による矢が飛来する。
俺は足場の<導想魔手>を蹴りながら――。
飛翔しつつ飛来する矢を避ける――。
――凄い数の矢だ。
魔力が籠もった矢もある。
光線の矢もあるし、翡翠の蛇弓のような特殊な武器か、スキル持ちの射手もいるのか?
ロビンフッドのような細身の射手が高台付近にいる。
派手な帽子をかぶり、狐目か。
嫌なプレッシャーだ。
『閣下、あの射手は、魔力の増減が異質、かなり強者かと――』
『あぁ、他にもウヨウヨいるな――』
<鎖型・滅印>を使うか迷ったが――。
――<サラテンの秘術>を意識した。
<神剣・三叉法具サラテン>、出ろ。
『サラテン出番だ――』
左手から飛び出た神剣サラテンは瞬く間に沙を生み出す。
沙は真新しい神剣を握りつつの宙空ステップから、横回転――。
華麗な天女姿は煌びやか。
繊細そうな乙女にしか見えない。
彼女が握る進化した神剣サラテンも美しく神々しい。
沙の美しさといい、元々は神界セウロスの品とよく分かる。
――と、矢を避けながら観察。
――そんな神剣を握る沙の見た目は仙女系美人さんだ。
――ひらひらしたスカートが揺れて――。
見事な、神界らしい神々しい紐パンティさんが見えた。
『ウハハ――』
が、内実はハイテンションガールか。
『狙いは分かっているな――』
『――器よ、妾を誰と心得る!』
『紐パン好きの、おてんば娘?』
『なぁぁぁにぃぃぃぃ――』
文句を言うように反転した沙。
突然、女子高生がキレたような面を浮かべて――。
俺の方向に飛んできた。
お淑やかな乙女さんなら喜んで受け止めるが――。
そんな沙をあっさりと避けつつ――。
――<導想魔手>を蹴る。
『――ふん! いけずな器!』
『いいから、ヴィーネと共に、坂の上の敵を頼むぞ』
『分かっておる。妾は、あの異質な射手を狙うのだろう。<御剣導技>』
沙が真面目だ。
俺は念話ではなく心で、頼むと告げてから――。
そのサラテンの沙をおいて――。
一気に急降下――。
<血魔力>も意識。
<シュレゴス・ロードの魔印>も意識。
『――シュレゴス・ロードも出ろ――』
『主、感謝する――』
左手から血が滲む。
同時に掌の魔印から蛸の足の形をした半透明の魔力が噴き出た。
その蛸足の魔力ことシュレゴス・ロードは魔槍杖バルドークを瞬く間に包む。
――魔槍杖バルドークは唸る声を発した。
それは『キニクワネェ』的な印象。
同時に魔槍杖からバチバチとした音が響き火花が散った。
俺は、紫色の柄の握り手を強めると――。
魔槍杖バルドークは恐怖を感じたらしい。
振動しては震えた。
続けて、苦笑い的なカラカラとした嗤い声を響かせつつ静まる。
気にせず、沈黙していた常闇の水精霊ヘルメに、
『ヘルメはヴィーネと沙のフォローだ――』
『はい――』
左目から出た常闇の水精霊ヘルメ。
俺はその機動を見ず――。
――大腰筋を意識。
目の前に迫った重装歩兵の頭部に向けて――。
魔印効果を得た魔槍杖バルドークを振り下ろす。
ピンク色の靄が掛かったような嵐雲の矛が――。
重装歩兵の頭部を捉えた――。
「――あひゃ!?」
天辺が割れた状態で、寄り目となった重装歩兵。
そのまま重装歩兵の体を両断する魔槍杖――。
硬そうな鎧だったが、あまり感触がなかった。
そのまま地面を裂いた魔槍杖バルドークの穂先から魔力が迸る――。
体が二つに分かれた重装歩兵のほうは、桃色の魔力に包まれながら溶ける。
地面に付着した桃色魔力は、ぐつぐつ音を立て、半透明の蛸の足に変化。
が、すぐに蛸の足はパッと散る。
桃色の魔力粒子となりつつ魔槍杖バルドークに纏わり付いていく。
その桃色の魔力粒子を弾くように魔槍杖バルドークから嵐の魔力が吹き荒れた。
嫌いだが受け入れるってイメージだろうか。
面白いな魔槍杖バルドーク!
不気味な声で返事を寄越す魔槍杖バルドーク。
俺の気持ちが通じたようだ。
リサナのような桃色粒子は、<シュレゴス・ロードの魔印>の効果と魔槍杖バルドークの効果が組み合わさった凶悪な力か。
「な!?」
「魔槍使い?」
今の光景に、周囲の兵士たちは驚愕。
刹那――床の地面を蹴った――。
横だ。足刀で重装歩兵の胴体を狙う。
が、長盾は魔力を備えた強力な防具だった。
俺の蹴りを受け止める。
が、俺は体を逆側に捻りつつの――。
裏拳を放つ要領の聖槍アロステを振るう<豪閃>を発動――盾と衝突したアロステの十字矛は長盾をあっさり裂きつつ吹き飛ばすと――そのまま重装歩兵の腹もぶち抜いた。
「ぎゃぁぁ」
「こなくそが!」
視界に迫る敵の槍使い。
もう一度――。
風槍流のステップの『風軍』から爪先半回転――。
槍の攻撃を避けつつ魔槍杖バルドークの<豪閃>を振るう――。
グルトン帝国の槍使いの胴体を吹き飛ばす。
刹那――。
複数のクロスボウの矢が迫る。
即座に、俺の左半身を守るように――。
左腕と魔槍杖から出た半透明な蛸足の魔力の中から隆起した無数の歯牙たちが、そのクロスボウの矢に絡みついて食べてくれた。
「なんだ? 幻獣? 奇妙なモノを使役する手練れの魔槍使いだ! 用心しろ――」
「どちらにせよ、見た目は人族!」
「獣人、亜人に与する裏切り者が――」
細身の兵士が切っ先を俺の胸元に伸ばしてきた――。
その剣身の上をなぞるように――。
<刺突>の聖槍アロステを伸ばす――。
兵士の腕をアロステの十字矛が穿った。
その腕は防具ごと破裂するように散る。
悲鳴も上げさせず――。
その兵士の胸元に魔槍杖バルドークの<刺突>をプレゼント――。
紅色の嵐雲の矛が兵士の胸に風穴を作り出す。
「ひぁぁぁぁあああ」
「なんだ、あの魔槍はぁぁぁぁ」
「血を吸い取るだと!? 人族じゃねぇ、怪物だぁぁ」
「退くな、吸血鬼だろうと無敵じゃねぇ――」
「上にも新手が出た――」
「まじかよ……亜人に手を貸す魔人か?」
「……退くな、後続は詰まってる!」
「前に出るしかねぇ……」
兵士たちはそれぞれに喋るが、大半は恐慌した。
一応、俺が守る立場だが……。
背後の兎人族と虎獣人たちも黙りだ。
たぶん、恐慌状態かな。
すまんが、我慢してくれるとありがたい。
当たり前だが、突然の闖入者が、俺。
しかも、今の俺の見た目は……。
<霊血装・ルシヴァル>状態だしな。
レンショウのガスマスクを超えた見た目だ。
俺は気に入っているが……。
相棒も嫌いなようだし……。
そんな面持ちで――両手から武器を消す。
<シュレゴス・ロードの魔印>も意識して消す。
右手にムラサメブレード・改を召喚。
――左手に血魔剣を召喚。
「武器が変わった?」
「……槍に剣に魔法とはな……」
「ただの吸血鬼ではない? 教団セシードの連中が呼び出した切り札か!」
「伝説のドドライマル、ゴーモックの連中以外に、怪物の伏兵を雇う余力があろうとは……」
「だが、見た目は人族だぞ?」
「東亜寺院に連なる傭兵かもしれない」
「……構うな……兎人族のラシュマルと神虎の力を宿すとされる一族の生き残りは、あそこにいる……」
ラシュマルと、神虎? 背後の僧侶たちの名か?
神獣や聖獣に神虎の力を宿す一族……。
あ、神虎って……。
アルベルトがそんなことを言ってたな。
すると、大柄の重装歩兵の一人が、斧の穂先を向けてきた。
いや、俺の背後か。
兎人族と虎獣人たちか。
「おう。そうだ……もう逃げ道はない。俺たちにはチャンスだ」
「あいつらを殺せば、糞うぜぇゴーモックの連中の支援も終わる。金もたんまりだ」
「……だな、魔人だろうと吸血鬼だろうと、数は少ない」
「……倒せば出世は、かたい」
俺は、その喋る兵士たちに向けて、
「俺は見てのとおり吸血鬼の亜種。遙か西の土地から来た異邦人の槍使いさ。ま、剣も使うが……戦うなら、それなりに覚悟をしてもらおう」
と、警告を発した。
同時にムラサメブレード・改の穂先を差し向ける――。
ブゥゥゥンと音が響く。
左手の血魔剣に<血魔力>を通す。
骨の十字の柄から赤いプラズマ的な血が迸る。
丹田に魔力を集中。
キサラから習い途中の魔闘術系技術<魔手太陰肺経>を意識――。
次に<瞑想>も実行。
続いて<導魔術の心得>と<仙魔術・水黄綬の心得>を意識する――。
「……赤と青緑の魔剣か」
「この軍勢に対して……覚悟だと」
「舐められたもんだぜ……」
「だが、今の戦闘技術に、自信のある言葉は、さきの虎獣人以上の能力を持つ魔人の傭兵かもしれないぞ……師団長と百人兵長に連絡したほうが……」
「待ってられるかよ! しゃらくせぇぇ、俺はいくぜ――」
一人の兵士が勇気を出して俺に向かってきた。
後続も続くようだ。
俺に群がってくるグルドン帝国の兵士たち。
さて、早速新しく覚えた――。
<超能力精神>を使う――。
明日も短いかもしれませんが更新したいです。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1~10巻が発売中。
コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」1巻が発売中。




