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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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六百十二話 セナアプアとベニーの真実

 

 一瞬、岩と塔が無数に浮かぶ辺りから、急激な魔素の反応を感じたが――。

 皆、素早く港に降り立った。

 

 相棒は、黒猫の姿に戻ると俺の肩に乗って耳朶を叩き出す――。

 俺は気にせず、着地――。


 その足場は桟橋で船着き場。

 耳朶がパンチングマシーンと化しているが……。


 構わず魔力の動きは――と、周囲を見回す。

 上? 灯台付近に鴉か――。


 んお? 


 不自然な魔力の塊? 珠か。

 

 その珠から鴉の群れがドヴァッと湧き出ると、灯台の天辺にローブ姿の者が降り立った。その者の周囲には魔法の槍のようなモノが幾つかプカプカと浮く。


 半透明の巨大な爪もあった。


 その巨大な爪が蠢くから、奥の異空間から、巨大な爪を持つ何者かが、こちらの側の空間に侵入を試みているようにも見える。


 不気味に動く巨大な爪の向こう側にも黒い影的なモノが見えたが……。


 異質だ。Bogeyman的なものか?

 シュミハザー系か?


 更に、爪先が鉤爪に変化した。

 干渉する空間を鉤爪で無理にこじ開けようとしている。


 が、鴉が、その爪先を啄ばみ、邪魔をする。


 そんな鴉を操作しているだろう、ローブ姿の者を注視するか。


 そのローブ姿の者の肩には、黒猫がいる。

 相棒のパクリかよ。


 その黒猫(ロロ)も気付いたのか、俺の、耳たぶを叩くのを止めた。


「ンン、にゃ」

「黒猫ロロディーヌのパクリらしい」

「にゃ? にゃご」


 炎を吹く前の、気合い声を鳴らす相棒のロロディーヌ。

 が、ローブ姿の肩にいる黒猫は実は黒猫ではないのかも知れない。


 足に靴下を履いた可愛い白黒のぶち的な、縞々ちゃんかな。

 と、靴下のような可愛い足の猫を期待して、その魔術師の肩を凝視!

 が、黒猫だということしか判別はつかない。


 ビームライフルを出して、スコープでズームすれば、足の縞々があるか見えるかもしれないが、ここじゃ出さない。


 そんなことを考えながら、


「ロロ、パクリが、気に入らないなら燃やすか?」

「にゃごぉ~」


 と、宙に肉球パンチを繰り出す。

 やや怒った感じだが、可愛い仕草のみだ。


 そして、魔術師の周囲に浮かぶ魔法の槍は、光が個々に反射して、すこぶる綺麗だが……。

 頭部はローブの頭巾で分かり難い。

 手にカードのような物を持っている。


 優秀な空戦魔導師は多くいると、ルマルディは語っていた。


 そして、空極のルマルディの助言では、空の監視網は低空にはないとのことだったが。

 すると、キサラが、焦った表情を浮かべて、


「――シュウヤ様、気をつけてください。あの者はアキエ・エニグマかと」

「え? いきなりの超大物とか」


 輪廻秘賢書とキサラが持つ百鬼道を巡り、過去に激戦を繰り広げていた。

 あの魔術総部会の魔女か。


「過去話によると、大魔術師。だが、キサラに気付いていない? 気付いているとしても、接触するつもりはないようだぞ」

「そのようですね……」

「ん、ロロちゃんと、わたしたちが居るから?」

「はい、ご主人様の存在が大きいかと。血長耳との関係とルマルディさんも居ますから」


 ヴィーネの言葉にキサラが頷きつつ、


「当時のわたしと今のわたしでは、魔力量も能力も違っています。色々と失っている面もあるので、気付いていないでしょう」

「そっか」


 ホフマンに、な……。


「アキエ・エニグマの性格は、目的のためなら容赦なく動きますが、冷静沈着です」

「……では、尚のこと隠れず姿を晒す。ご主人様に対しての、何かしらの意図を感じます」


 ヴィーネは本当に鋭い。

 確かに、優秀な大魔術師なら隠れたまま観察もできるはずだ。

 俺だったら、隠れて見ている。

 冷静な者が、わざわざ、姿を晒す意図か。


 やはり交渉か。わたしはここにいる。という。

 話ができるなら話をしてもいいが、別に用はない。


「ま、ナチスの暗号機の名前のやつに用はねぇし、無視だ。メルたちと会ってから塔雷岩場に向かう」

「はい……」


 キサラは不安そうだが、ヴィーネの推測が正解だ。

 先制攻撃をしてこない時点で、な。

 すると、灯台の天辺付近に鴉が集結。

 鳩、カモメ、鷹、とんび、海鳥たちを襲うように鴉が舞う。


 と、俺たちを観察していた大魔術師アキエ・エニグマは忽然と姿を消した。


「消えたか」

「うん、見事な魔法技術。僕の魔眼も通じなかった。傍に浮いていた魔法槍、以外にも、空間を裂くような大きい爪の幻影的か不明な召喚生物があったけどね……それも消えた。生物なら僕の能力で……」


 ラファエルはブツブツと語る。

 

「アキエ・エニグマは召喚も得意と聞いた。<幻襲爪>の類いの魔法か、異界のモンスターだろう」


 アルルカンの把神書がそう語る。

 すると、船乗りたちが桟橋に集まってきた。


 黒猫海賊団の連中だ。

 衣装に渋い黒猫マークがある。

 格好いい。その衣装が似合う渋い中年の船乗りが、仲間たちに向けて、


「おぃ~、やっぱり!」


 そう叫ぶと……。


「総長様だ!」

「「「――総長!!」」

「お偉い様たちだぁ!」

「あの方が、わたしたちのリーダー……」

「かっこいい……」


 女性もいる。


「うん。サーマリアに多い顔ね。いい男ぉ~」

「副長が話していた通り、黒髪が似合う男だ」

「だな、衣服が聞いていたのと違うが、あの槍使いだ!」

「おうおう! 間違いねぇ。得物は見たことのない十字架の槍か?」


 と、アイテムボックスから出していた王牌十字槍ヴェクサードを指摘する船乗りのAさんだ。

 船乗りのBさんは興奮。

 隣の船乗りCさんのぼさぼさな頭部を叩きまくっている。


 そのまた隣の船乗りDさんが、


「腰の不思議な白銀の植物ベルトに、骸骨の柄の血の剣が気になるが……」


 そう発言すると髭を蓄えている船乗りAさんが、皆を落ち着かせるように両腕を動かす仕草を取った。


「皆、落ち着けや、総長は魔法使いでもあるようだからな……」

「おい、肩の黒猫……」

「ん? 黒猫……」


 と、Aさんは仲間の指摘を受けて、振り返ると、俺の肩の相棒を凝視。


「おおおおおお!」

「「――肩の黒猫様は!!」」

「我らの、旗!」

「ロロディーヌ様だぁぁぁぁぁ」

「マークの!」

「わあぁぁぁぁぁ」

「我らの黒猫様の……ロロディーヌさまぁぁぁぁ」

「にゃぁぁ?」


 黒猫(ロロ)は船乗りたちのテンションを受けて、珍しく動揺を示す。

 びびったのか、頭巾の中に隠れた。


「……我らの象徴が隠れてしまった!」

「だが、見ることができてよかった」

「おう、海神セピトーン様へのお祈りが通じた!」

「わたしも最高幹部の方々と、黒猫様が、見たかったんだ……」


 船乗りのEさんは、ブルトンの帽子が似合う女性。

 つばが上向いているブルトン帽子の似合うEさんは、俺を見てくれていた。

 微笑みを返すと、Eさんはソバカスの頬を斑に朱に染める。


 可愛い船乗りの女性だ。


「シュウヤ、早速口説かないように」

「笑みを意識して見ちゃだめなのか」

「うん、今からそうなった! シュウヤは女性を見ただけで口説いたことになる」


 レベッカさんは、いつもの調子だ。

 細い腰に片手を当て、もう片方の腕を伸ばし、その人差し指で、俺を指している。


「いやだ、見る!」

「もう! エヴァも言ってやって!」

「ん、シュウヤの自由――」

「ええーーとか言いながら、シュウヤの頭部を押さえているじゃないの! 独占して!」

「ふふ」

「はは、エヴァの両手は柔らかいな」

「ん」

「ちょっと、エヴァ、何目を瞑ってキスをせがんでいるの!」

「はは、二人とも、騒いでないで、皆が集まっているんだ」


 すると、船乗りのFさんが、


「美女に囲まれた総長! 爆発しろか?」

「まったく羨ましい……」

「そうねぇ、幹部さんたちは、美人さんが多い」

「「美人すぎるだろう!!」」

「おぃ! 新入り共、嫉妬はだめだ、娼館にいったばかりだろうが」


 と、以前、俺が助けた『クック船長』もとい、ゲットーだ。


「そうだ! 見るのもダメだ! 副長に言いつけるぞ!」


 魚人ロックもいた。


「あぁ、だが、総長の大切な方々か……」

「聞いていたが、これほどの美しい方々とは……」

「……うん、おら、はじめてだ……」

「天秤を持つ女性は、衣装が蝶々のようで美しい」


 まぁジョディは蝶だしな。


「……銀髪のダークエルフ様……黒髪の女性たちも総じて美しい」

「おぃぃ、視線を向けただけで、総長に殺されるという噂があるんだ。凝視しちゃ……」


 なんだそりゃ。

 メル、船乗りたちに、俺のことをどんな風に語っているんだ。


「無理だ……総長の女たち。あの細い指を持つブロンド髪の美女……」

「蒼炎を扱う金髪女性か。美しい魔法使いと聞いていたが、その通りだ」

「グラマーな金髪の魔法使いは……」


 グラマーとの言葉を聞いたレベッカは、眉をピクリと動かしていた。

 指摘はしない。


「ほぁ、美人さんだ。しかし、浮いているのは、魔法書?」

「珍しいが……まさか、あの、炎邪宝珠を奪った?」

「いやいや【アルルカンの使い手】は空戦魔導師だ。わざわざ下界の船なんて利用しないだろう」

「だいたい総長と接点がない」

「総長はこのセナアプアに来るのは、初めてと聞く」

「それもそうか。上でドンパチがあった頃、色々とここに、落ちてきたと聞いた」

「しらねぇが、血肉やらもな……凄かったらしいぞ」


 そう語る船乗りAとBとC。

 ルマルディはエヴァの背後で、目立たないようにしている。

 エヴァの紫色の魔力が展開されているのもあるが、この黒猫海賊団の皆はルマルディと気付いていない。

 ルマルディを追う空戦魔導師や魔法使いが、わざわざ、そのルマルディ本人が本拠地に戻ってくるとは思わないはず。

 本当の灯台もあるし、灯台下暗しだ。


「おい、あの方は、噂の四天魔女か……」

「白色の髪に、おっぱい……」

「女神さまだ。女神さまがぁぁ降臨されたぁぁ」

「おらぁ、ここで死んでもいい」

「あぁ……むっしゅ、むらむらだ」

「……おいらもだ。むずむず、むらむら、ぼっききだ」

「んだな。むっしゅ、むらむらぁ」

「おいぃ、おれこそが、むっしゅむらむら状態だぞ!」


 確かに、そこここにむらがっているが……。

 あそこの船乗り三人組は、面白い。


 AとBとCではなく、羆と鯱が合わさったかぶりモノが妙に似合う三人組。


 むらむらのトリオは、衣装が他の船乗りたちと微妙に違う。

 煤竹色の羽織に鮫の牙を備えた斧を腰にぶら下げている。

 足は人族と同じだが、踵と爪先は、河鹿蛙ときたもんだ。


 長身と短身の、魚人と人族のハーフのトリオ。

 そんな船乗りを含めて皆が興奮している。


 エヴァ、レベッカ、ヴィーネ、ユイ、ヘルメ、キサラ、ルマルディ、エマサッドを見ればそうなるか。

 キサラは恥ずかしいのか、姫魔鬼武装を展開。

 砂漠鴉ノ型で頭部を隠すと、ダモアヌンの魔槍の柄を使って胸元を隠す。

 キサラの衣装は黒色のノースリーブだからな。

 鎖骨も綺麗で、くびれた腰で、スタイル抜群だ。


「本当に、美女の楽園ってのはあるんだな」

「……ちょっと、わたしがいながらって……幹部様たち綺麗よね……ま、負けた」

「……水飛沫が出ている方は、水神様?」

「これまたお美しい……」


 そんな黒猫海賊団の船乗りたちの背後から、


「ちょっと! 皆、興奮しすぎ。総長たちが通れないでしょう、退いて」


 と、メルの声を聞いた船乗りたちは即座に、左右へと分かれ道を空けた。

 その海を割ったモーゼのように登場したのは【天凜の月】の副長メル。

 と、もう二人エルフがいた。

 【血長耳】のメリチェグさんは分かる。

 だが、もう一人のお爺さんエルフは知らない。

 メリチェグと目が合うと、彼は胸元に手を当て、軍隊式のポーズを取る。


「シュウヤ様、お久しぶりです。塔烈都市、いや、塔烈中立都市セナアプアの下界都市の港にようこそいらっしゃいました」


 と、挨拶してから頭を下げてきた。

 俺も、ラ・ケラーダでハンドマークを胸元に作る。

 そして、丁寧さを意識して、


「メリチェグさん、ひさしぶりです」


 挨拶してから礼をした。


「シュウヤ様もお元気そうで。わたしはメリチェグで構いません」

「分かった。メリチェグ、俺も気軽に読んでくれて構わない」

「はい。レドンドの依頼を受けたことは、魔通貝越しに聞いています」

「そっか。聞いていると思うが、ヘカトレイルでは支部長のクリドススにも会った。迷宮戦車を引っ張る大魔獣デスパニと、そのデスパニを操る魔獣使いソーニャとパパルにも」

「……ソーニャとパパル。懐かしい」

「あの迷宮戦車は素晴らしい移動基地ですね」

「それを聞いたら作ったパパスも喜ぶでしょう」


 パパスというあの迷宮戦車を作ったエルフがいるのか。


「パパスという方は」

「はい、古参のエルフの一人。幹部ではないですが、血長耳を支えている重要なメンバーです」

「そうでしたか。そちらの方は?」


 俺がそう聞くと……。

 メリチェグがお爺さんエルフを紹介しようとした。

 そのお爺さんエルフが、素早く腕を伸ばし、メリチェグを止めた。


「――わしが直に挨拶させていただく」


 メリチェグは「ハッ」と、声を上げて頭を下げていた。

 お偉いさんか? あれ?

 メリチェグは副長のような存在だと思ったが。

 他に、副長よりも上の存在が血長耳には、あるのか?


 その爺さんが、


「初めまして、シュウヤ殿。わしはホテルキシリアの世話人の、ガルファと申す者」

「こちらこそ初めまして」

「ふむ、シュウヤ殿。今日は――何用でセナアプアに?」


 ガルファ爺さんは自然体だ。

 俺を見てから常闇の水精霊ヘルメも見て目を細めた。


 ゆっくりと頷いて、微笑む。

 印象から好々爺。

 だが、凄まじい魔力操作の技術を持つことは、分かる。

 アキレス師匠を一瞬思い出した。

 ラビウス爺の姿やら猫獣人(アンムル)のネモ会長も想起した。


 そして、俺とヘルメ以外、このガルファ爺さんの持つ雰囲気を感じ取ったのか、自然と間合いを取る。

 頭巾に隠れた黒猫(ロロ)は寝返りをうった。


 その可愛い背中の体重を感じながら、ガルファ爺さんに、


「……今回は立ち寄っただけです」

「ほぉ……総長に用事ですかな?」

「今回はないです。レザライサに来い。と、前に言われていましたが、今は東で急ぎの件があるので」


 俺がそう言うと、ガルファさんは、急に和やかな表情を浮かべる。


「急ぎの東。戦争か。あい分かった。シュウヤ殿。今後ともセナアプアを利用するなら、ホテルキシリアを自由に使ってくださって結構ですぞ。上界に向かう専用の浮遊岩も自由に使ってくだされ――」


 と、腕を指す方向に――。

 宙に浮かぶ巨大な岩が垂直に移動する装置が複数あった。

 

 岩のエレベーターか。

 

 複数の岩のエレベーターは、巨大な浮遊した岩の大陸に続く。

 それぞれの岩のエレベーターは、専用のポータルを備えた場所にゴンドラリフト的な動きで上昇しては下降している。


 ケーブルカー的なモノも岩の大陸にはあるようだ。

 乗っている魔法学院の生徒さんらしき姿が見える。

 この塔烈都市にもペルネーテと同じく魔法学院は存在するようだからな。魔法ギルドが絡むか不明だが、空魔法士隊とか空戦魔導師を育成するための、評議員が運営する機関の一部だとは思うが……。

 

 その大陸のような岩場ポータルの先には高い塔が幾つもあった。


 まさに、塔烈都市セナアプア。


「……凄い都市と、乗り物です」


 俺の感想を聞いたメリチェグさんが、


「手前の血長耳のマークが付いた浮遊岩なら、余計な税金も取られずに済みます」

「ありがとうございます、今度乗らせていただきます」

「……実にいい笑顔を持つ男だ。芳しい武の雰囲気も持つ。噂通りの男のようだ………」


 視線を鋭くするガルファ爺さん。

 このプレッシャー……懐かしい。

 ガルファ爺さんはエルフだが……。

 アキレス師匠との特訓と修練道の激しい訓練を想起する。

 ……杭刃がついた木人。目隠しして傷だらけになったな。

 爪先回転を失敗して、下に落ちまくった。

 あの重心を生かす訓練は、回避技だけじゃない、あらゆることに通じる根幹だった。

 お陰で、<超脳魔軽・感覚>を覚えたし……。

 エクストラスキルの<脳魔脊髄革命>から派生した<超脳・朧水月>も覚えることができた。


 アキレス師匠に、感謝。

 いや、すべてに感謝だ。


 師匠に話をするように、


「……ガルファさんも、魔闘術が巧みで貫禄もありますし、佇まいから感銘を受けました。血長耳の実力者とお見受けします」

「……わしはもう引退した身ですぞ」

「そうなのですか?」

「……カカカッ! さすがに隠せなんだ。素晴らしい魔察眼をお持ちのようですな……大魔術師のアキエも、屑な評議員共も、素直に手がだせぬわけだな――」


 と、話をしたガルファ爺さんは急にかしこまった態度を取った。

 ベファリッツ大帝国の軍隊式なのか、古いエルフのしきたりなのか、分からない。

 俺はどんな態度を取ればいいんだ。


 不安になる。

 そのガルファ爺さんが、


「……うむ! シュウヤ殿……これからも血長耳とレザライサを、強く、切に……お頼み申す……」


 気持ちを込めた挨拶だ。

 血長耳とレザライサを心配しているお爺さんか。


「――はい、こちらこその思いが強いです」


 素直にラ・ケラーダのポーズ。

 すぐに、強い尊敬の意味を込めて、拱手の礼をする。


「……感心する。実に清々しい」

「……ありがとうございます」


 ニコッと笑顔を繰り出すガルファ爺。


「では、シュウヤ殿。用事の邪魔をした。これにて失礼する。軍曹、退くぞ」


 と、華麗にターン。

 背後を見せているが、まったく、隙がない。

 あの爺さん、何者だろう。

 もしかして、ベファリッツ大帝国の長老的……いや、ベファリッツ大帝国を支配していた皇帝の子孫とかだったりして。

 メリチェグは、


「――ハッ。では、わたしも。シュウヤさんとメル殿、失礼します」

「レザライサによろしく」

「はい――」


 メリチェグもガルファさんのあとを追う。

 素早い所作で港を去る二人。

 回りに居た血長耳の兵士たちも姿を現しては、去った。


 俺はメルに向け、


「メル、今のお爺さん、ガルファさんってお偉いさんだと分かるが」

「盟友レザライサ様のお父様です」

「「え?」」


 皆、驚いた。


「マジ?」

「はい」


 お、お父さん……か。

 だから、レザライサのことを……。


「正式名は、ガルファ・フォル・ロススタイン。ホテルキシリアの経営者でもありますが、この下界とか下層と呼ばれるセナアプアの港街の裏社会を仕切る大物です」

「……道理で」

「ん、魔力操作は凄かった」

「はい、わたしを見てもまったく、動じていませんでしたね」


 常闇の水精霊ヘルメの衣装は普通の人族風で、一見は気付かない。

 だが、ある程度の実力者なら、ヘルメが凄まじい魔力を秘めた存在だと気付いて、驚いた反応を示すことが普通だからな。だが、ガルファ爺さんは、路傍の石でも見ているように、優しげで、何か意味のあるような深い眼差しを向けていた。


「……白鯨の血長耳の元隊長さん。ってことよね」

「そうなる」


 ……ガルファさんは、アキレス師匠より年上かも。


「血長耳の盟主とは会わず?」

「メル、盟主はまだ戻ってないんだろ?」

「はい、ファスを連れてエセル界に進出中のようです」

「忙しいか。ならいい。で、ラファエルとエマサッド、ベニーはそこに居るぞ。話がしたかったんだろう?」


 ラファエルとエマサッドが前に出る。

 ベニーは気まずそうな表情を浮かべて、ラファエルとエマサッドを見てから、俺に、


「総長、戦争に向かうようだが、俺たちの出番か?」


 と、腰の魔銃を見せるように両腕を動かす。

 俺は、


「いや、違う」


 そう発言しながら、顎を船に向けてクイッと動かし「甲板の上に行こうか」とベニーを誘導する。


 ベニーは頷く。

 だが、不可解そうな表情を浮かべていた。


 刹那、メルは俺にアイコンタクト。

 俺は頷く。

 ベニーの件を知るメルだ。


 副長としての顔付きで、船乗りたちに、


「さぁ、総長たちの言葉を聞いたでしょう。わたしたちはわたしたちの仕事がある。皆、さっさと動いて! ゲットーとロック? マジマーンとレイも準備は?」

「ほいさ~」

「俺のほうはもう仕入れは終わってる。ペルネーテに戻って、鱗人(カラムニアン)の……」

「ゼッタとミスティ」

「その二人に、荷物を渡せばいいんだな」

「うん、よろしく♪」

「分かった。じゃ、先に出る。総長、俺たちは先に出てよろしいですか?」

「構わない。詳しくは知らないが、メルたちが必要としているようだし、がんばってくれ」

「了解」


 レイは踵を返す。

 俺たちも素早くカーフレイヤーの甲板に向かった。

 特徴的な頭部を持つチップに挨拶して、マジマーンに暫く船を借りると、告げた。


 俺は皆と一緒に、甲板に居るラファエルとエマサッドとベニーに近寄る。

 そのラファエルが、


「……ベニーの出身を聞いて真実を知った。僕は我慢できない」


 そう発言。

 ベニーは片方の眉を上げて不愉快そうな面を作ると、不満を俺に訴えるように見る。

 まぁ、今は納得しろという視線をベニーに向けた。


 ベニーはため息をついて、エマサッドにも視線を移し、ゆっくりとラファエルに視線を戻す。


「……で、俺が聖櫃(アーク)を集める理由か? エマサッドもか?」

「はい」

「そうでもあるけど、君のことだよ」

「……俺だぁ? セブンフォリア王家のトロイア家からブロアザム家の三女の追跡。元軍罰特殊群の五番隊隊長のエマサッドの追跡と拉致の依頼はあった。トロイア家はブロアザム家の体面を潰す絶好の機会だと思っているようだな。デロウビンの回収もそうだろう。で、これで満足か?」

「いや、満足しない」

「やっぱり……そうだった」


 エマサッドは頷く。

 ラファエルは納得してないようだ。

 友を殺したことが気に食わないってことではないようだが……。


「……何をしたら満足なんだ? はばき骸の壊滅だったらすまないな、昔のことであまり覚えていない」

「……覚えていないだと! だが、いいさ、君の真実を知ったからね」

「……副長?」


 と、ベニーはメルを責めるように見る。

 メルは沈黙。


「……トロイア家の庶子だったんだろ」

「……チッ」

「兄弟たちから虐待を受け続け……トロイア家が持っていた聖櫃(アーク)に体を蝕まれ未知の魔力欠乏症になりながらも、あれほどの強さを手に入れた。だが、魔薬中毒者に」


 ラファエルの言葉を聞いたベニーは表情を暗くした。

 ベニーは、視線を強めて、ラファエルというか、皆を見ながら、


「そうだ。馬鹿にしろよ……俺はクビか? 魔薬中毒者だからな、薬をやらねぇと、満足にセヴェレルスを扱えねぇ、屑が、俺だ……だが、強くなるしかなかったんだ。禁忌に手を染めて、力を、手に入れるしかなかったんだよ!! 分かるか? 実の父親と、その親族たちに毎日虐待される気持ちがよ! しかもだ、俺の母と姉に妹が……力を手に入れたってのに……それが逆に枷となった。家族が、そのトロイアの連中に殺された……妹と妻と子供が幽閉されてしまったんだ」

「聞いたよ。だから暗殺チームを率いて【七戒】に所属していたとね……トロイア家の命令に従うしかない状況だったとも…………僕は、ベニーのことを何も知らなかった……汚れ仕事をする屑野郎としか、見てなかったんだ……」

「……は、当然だろうが」


 強がるベニーだが、皆、沈黙。

 そんな空気の中、エマサッドが口火を切る。


「金集めに必死だったことも、デロウビン回収とわたしの追跡依頼も、マジマーンさんを襲った理由も……妹と奥さんと娘を助けるための行動だったと」


 ラファエルも続いた。


「うん。すべては、トロイア家に自分を信用させるため」

「……だからこそ、聖櫃(アーク)の回収は必要だった」


 二人の言葉に頷くベニー。


「……そうだ。利用できるものはなんでも利用する」


 と、ベニーは俺とマジマーンを見ながら語る。


「だから、クナの闇のリストの会合に出た理由も分かった。シュウヤが持つ【天凜の月】の傘下になったことも分かる。デロウビンが、蜘蛛娘アキとなった以上、セブンフォリア王家の秘宝回収の大きな依頼が消えたことになるし、更に、シュウヤの実力は直に戦って知っているからね。大国オセベリア王国のファルス殿下と仲がいいし、戦争で結果を残しているのに、満足しない野心のある女侯爵シャルドネまでにも通じている。大海賊やサーマリアを経由したローデリア王国の銀船の回収依頼もシュウヤに繋がる。戦争中で手が出せそうにもない、聖櫃(アーク)の回収を、スムーズにできるのも、またシュウヤ……。すべてがすべてシュウヤに結びつく」


 そう。メルから話を聞いた時は唖然としたが、


「あぁ、その通りだ。だからこそ、総長と副長に命を預けた……」

「でもさ、そんなシュウヤに、家族を助けてくれと、トロイア王家に復讐してくれと懇願していない」


 ラファエルの問いにベニーは動揺しながら頭部を振る。

 ベニーは俺を見て、泣きそうな面を浮かべた。


「……言える状況じゃねぇ」

「シュウヤたちが、【七戒】の幹部を殺し、君の部下を殺したことが気に食わないのかい?」

「ちげぇ。トオは生きているし、【七戒】の幹部を殺すことは、俺にとっては好都合だ」

「そうか、それを聞けて理解した」


 ラファエルは納得したようだ。

 ベニーにとっては、妹さんと奥さんに娘の命がかかっている状況だ。


 そのラファエルも泣きそうだ。


「……だが、南のセブンフォリア王国の軍罰連中は、どこに隠れているか分からねぇ。だが、今、できることはやったつもりだ。そして、総長だからできた見事な暗殺だと聞いた。あの屑な強敵でもあったブファスをぶっ殺してくれて感謝している」

「別にお前のためにやったわけじゃねぇ」

「分かってるさ」

「だが、仲間となったお前のためになったのなら、多少は屑な俺も救われるか」


  俺の言葉を否定するように頭部を振っていたエヴァが、


「ん、南のセブンフォリア王家のトロイア家の監視網も北のオセベリア王国では離れて届かない?」

「だからこそ、ベニーの行動を間近で知る者を殺せば、正確な情報もトロイア家に伝わりにくくなるってことね」


 エヴァとレベッカがそう発言。

 そして、ベニーは涙を流して、


「あぁ」


 と、頷いた。

 ラファエルも泣いていた。


「……無辜な存在でも目的のために容赦なく殺す屑野郎だったけど……」


 ラファエルは泣きながら、そう語る。

 俺を見ていた。

 ラファエルが何を言いたいかは分かる。


「……そうだな、ベニーにも悪には悪の理由がある」

「……うん」


 俺はベニーに視線を移し、


「……だからこそ、南とは地政学も違う環境の中、俺がどんな作戦を用いる性格の野郎か把握しようと、しているんだろう?」

「……」


 ベニーは涙を流しながら、頷く。

 俺も頷きながら、


「俺に家族を助けてくれと懇願しなかった理由は、その墜ちたプライドと、本当に俺が、セブンフォリア王家の強者が多いトロイア家を潰せるのか? 自分の家族を救えるのか? と考えていたんだろう? 違うか?」

「チッ、そうだよ……その通りだ……」

「ファルス殿下の信頼を得ようと必死だったのも、トロイア家の監視網がベニーの行動に気付いた時のための、言い訳の保険に使えるからな」


 俺の言葉を聞いたベニーは体を震わせた。


「……おい、それは喋ってねぇぞ。はぁ……何もかもが上かよ。つくづく思うぜ……どうして、この世は理不尽ばかりで、不公平が常なんだろうな。弱者は這い上がることが許されねぇのか? 俺は疲れたぜ――」


 ベニーは、魔銃セヴェレルスに手を掛け首にあてがいやがった。

 ――間に合うか?


「馬鹿野郎――」


 <脳脊魔速>――。

 ベニーとの間合いを潰す。

 ベニーは速度を加速させるスキルを使ったようだ。

 魔銃セヴェレルスの引き金を引くベニー。

 ――が、その魔銃をなんとか、爪先で蹴り飛ばすことに成功!

 ベニーの顎を掠めた杭のような魔弾は、天に向かう。

 セヴェレルスはラファエルの足下に転がっていく。

 俺は急ぎ、ベニーの両腕を押さえ、革布でベニーの口を開けるように舌をかみ切らないよう押さえた。


 そして、切り札の時間が過ぎる。

 ふざけやがって、てめぇ……とベニーを睨む。


「……お前が家族を救うんだろうが! 魔薬でラリってんのか?」

「……」


 ベニーは口をもごもごと動かす。

 うなだれて、涙を流し続けた。

 セブンフォリア王家の監視網が優秀だと確信している?

 自分の任務が失敗したことが監視網に気付かれて、家族が処刑されたと、思い込んでいるのかもしれない……もし、本当に家族が全員死んでいるのなら、死なせてやるべきなのかもしれない、が、今はまだ死ぬ時じゃない。


「……暫く大人しくしとけよ」

「……」

「マジマーンとメル、ベニーを暫く見とけ。ラファエルとエマサッドも傍に居てくれるか?」

「はい」

「うん。シュウヤ、ごめん……」


 と、セヴェレルスを俺に渡そうと差し出す。


「ラファエルが謝ることじゃない。そして、それは、お前が、ベニーに渡せると判断できた時に渡してやってくれるか?」

「僕が……分かったよ」

「頼む」


 俺は縛っているベニーをメルに預けた。

 マジマーンは何か言いたげだ。


「総長……」

「なんだ? 自殺をさせておけか?」

「いや……」


 マジマーンは言葉に詰まった。


「聞かなかったことにする。皆、魔薬の件だが、中毒から抜ける魔道具的な物はあるか?」

「ん、持ってないけど聞いたことある」

「わたしも聞いたことあるだけ」

「あります。ただ、ここにはありません。ペルネーテの本部に」

「そっか、ひとまずは頼む。俺たちもやることがあるからな」

「はい。シャルドネの依頼とシェイルの魔宝石探しに、レドンドさんとの依頼もありますから」


 ベニーは船長室に運ばれていく。


「ん、シュウヤ、ベニーの気持ちを読んだ?」

「予測に過ぎないが、図星だったようだ。聖櫃(アーク)のために、オセベリア王国の内部に潜入していた。と監視網に言い訳が可能だ。この地方でベニーの活動を知っている【七戒】の幹部たちが倒れたことも、ベニーにとっては好都合となる」

「……説得力のあるベニーの心理分析です」

「うん、メルからの情報だけでベニーの心理をくみ取って、そこまで深く分析できるなんて……シュウヤの槍武術の強さの根源を見た気がする……」

「ん、訓練と実践躬行の賜」

「戦いとは、瞬時瞬時の判断力が凄く問われるから、シュウヤの予測する能力が増していくのも分かる」


 レベッカに、エヴァとユイがそう発言。

 戦いはゼロコンマ数秒の判断力が物を言うからな。

 だからこその<脳魔脊髄革命>なんだが。


「……たまたまの予測が当たったにすぎない」

「それでも、よ。シュウヤの話し方だと、その予測の他にも、幾つもの枝分かれする先があることを、事前に、予見しながら話をしているようにも思えるから……」


 ユイが<ベイカラの瞳>を発動しながら聞いてくる。


「……実際、そうだろう。時間は常に一方通行だが、今、相棒の背中を撫でる未来もあれば、ラファエルにグーパンチを浴びせる未来もあったと思うし、レベッカの乳首さんに、人差し指を当てる未来とか? 自由に選ぶことは可能。ま、そんなことは、今、ここではしないが」

「ちょっと? 変な目でわたしの胸を見て、やらしいんだから! そして、へんなことの、たとえに使わないでよ」

「にゃ~」

「すまん……しかし、ベニーの家族が生きているといいが」

「うん、同情しちゃう。でもシュウヤはベニーの家族を助けるつもりで仲間に引き入れたんでしょう? 今も命を救ったし」

「そうだ。とは強く言えない。たんに、目の前で死なれたくないからだ」

「うん……」


 暫し、空気が流れた。


「よう、よう! そんな、しみったれた空気を出してやがると、俺が吹き飛ばすぞ! これから黒きなんたらと、アイとかいう足なし女を救うんだろうが!」

「アルルカンの把神書……」

「すみません、アルルカンが空気を読まず……」

「いや、ありがとう把神書。お前のような馬鹿ん書は必要だ――」


 と、アルルカンの把神書を掴む。


「ぐあぁ。おい、俺にはそんな趣味はねぇ」

「なにが趣味だ、相棒にわたすんだ」

「うへぇぇぇ」

「にゃぁ」


 と、アルルカンの把神書は、肩に居た黒猫(ロロ)の両前足に抱かれた。


「ふふ」

「はは」

「もう、面白い魔術書ね! でも、ありがと」

「お、おう……神獣の爪が痛いんだが?」

「ふふ、気にしない!」

「ん、シュウヤ、この船で、戦争の地に向かうの?」

「いや、相棒、アルルカンの把神書を離してやってくれ。巨大化も頼む」

「にゃお~」


 と、瞬く間に、宙に向かう相棒は、巨大な姿に変身。

 触手を俺とジョディ以外の皆に絡めると、即座に背中に運びつつ、飛翔していく神獣ロロディーヌ。


「コラ、俺を離してねぇ~」


 アルルカンの把神書は触手に掴まれたままだ。

 俺はジョディと視線を合わせて、ハイタッチ。


「――あなた様」

「おう、ジョディ、行こうか!」

「はい!」


続きは来週です。

HJノベルス様から小説版「槍使いと、黒猫。」1から10巻まで発売中。

小説版槍猫11巻が2020年6月発売予定。

コミックファイア様から漫画版「槍使いと、黒猫。」1巻発売中。

漫画版槍猫2巻が2020年6月発売予定。

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[良い点] まとめ読み~ [気になる点] セリフで本文が埋められて地の文が少ない傾向 設定とキャラ会話を駆け足で詰め込んだ感がして勿体無いっス・・・ [一言] 複数あるタスクのうち、次の目標は死蝶人コ…
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