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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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611/2027

六百十話 サ・レポン・マレデルの穴

2021/08/31 16:14 修正

 

 戦争中に悪いが、条件を飲んだシャルドネの願いは後回しだ。

 シャルドネの屋敷を出た俺は、即座にカルードとメルにユイへと指示。


「それじゃ、先に行くから」

「頼む」

「――はっ、マイロード、お任せを、ゾスファルトも行くぞ」

「はい!」


 踵を返すユイたちは駆けていく。

 メルも、


「総長、手筈通り港に戻ります」

「分かった」


 メルは、頷くと、マジマーンたちに向けて、


「レイ、マジマーン、ベニーもいいわね」

「了解した。スタムとカフーに、リサもカーフレイヤーの仕入れと荷下ろしは手伝っているはずだ」


 特別無比な銀色の魔導船を操縦できるレイがそう発言。


「分かってる、銀船のほうにも、銀船の役割があるから」

「承知」

「そのチップたちの仕事だが、もう終わっている頃合いだ」


 あの金玉頭のチップさんか。

 海神様の加護は強烈だ。 

 その特徴的な額に、金属の蛇口をつけた姿を想像したら……面白い。


「あ、女侯爵との取り引きを聞いていたように、船荷だけど、セナアプアで売る予定の品だけに変更よ」


 副長のメルがマジマーンに告げる。


「あいよ。さっさと戻って、黒猫号とカーフレイヤーに積んだ品の荷下ろしをしよう」

「銀船に積んだ品は、少ないが、あれも下ろすのか?」

「ううん、そのままで結構よ」


 と、メルがレイに告げると、マジマーンがベニーに向けて、


「ベニーも、手筈通り、分かっているわよね」

「おう、皮肉だが、マジマーン……もう一蓮托生って奴だ」

「……闇を知るあんたの言葉だ。信用しよう」


 互いに争っていたマジマーンとベニー。

 まだ納得していない部分はあるとは思うが……まぁ、状況はどうあれ、もう【天凜の月】のメンバーで、俺たちの仲間となったんだ。

 がんばってもらおうか。


「……そうか。ありがとよ。改めて、副長のトオを含む五名の仲間を代表してだが、よろしく頼む」

「ふふ、あんたは、ちゃんとわたしの仲間に謝ったからね。少なくとも、わたしは許したよ……だからもう、あんたは、わたしの大事な仲間(クルー)だ」

「……大事な、か。ったくよ、マジマーンめ」


 ベニーは視線を逸らすが、瞳を揺らしていることが分かる。


「け、そんな面を見せる前に、大事な仕事があるだろう。しっかりしておくれよ」

「……かっ、手厳しい女だぜ……ぬかりはねぇさ」

「……オセベリア海軍も協力してくれるから容易だと思うけどね。相手も相手だから」

「そこは俺の実力を信用しろ。総長が返してくれた、このセヴェレルスに懸けて仕事は全うする……」


 ベニーに返した魔銃と装備。

 正直、使いたかったが、俺にはビームライフルがあるからな。


 メルたちは右の通りを進む。


「ん、船の拿捕?」

「そうだ。それか近場の船宿に潜んでいるかもしれない【七戒】メンバーの抹殺」

「ご主人様、【七戒】の船の拿捕ができれば、黒猫海賊団はかなりの規模になります」

「ん、海軍?」

「にゃ」


 軍ってより、貿易がメインとなるが、俺は相棒に向けて、


「ロロ海軍のできあがりか」


 と、告げる。


「にゃお~」


 黒猫(ロロ)は元気な声で返事をする。


「ふふ」

「ん、レベッカなら、ここでニャンコのポーズを取って踊りそう」

「ははは、そうだな」


 すると、港のほうに向かっていたメルの踵に黒色の魔力の翼が少しだけ出た。

 黒色の魔力の翼か。


 そのメルはマジマーンに何かを告げて、走り出す。

 更に、天使が持つ翼にも見えるぐらいに急成長する黒翼。


 体がぶれると、メルの姿は見えなくなった。

 ベニーの口笛がアルルカンの把神書のように響く。


 魔人ザープの機動を彷彿させる勢いだ。

 その様子を見てから、


「俺たちも俺たちの仕事をしようか」

「ンン、にゃ~」


 相棒は黒豹に変化。

 走り出すと、先のほうで止まって振り返ってくる。


 紅色と黒色の双眸。

 まん丸な瞳は可愛い。


 そして、触手で気持ちを伝えてこないが、その表情的に『はやく、はやく』、『追いかけっこ』という黒豹(ロロ)の意思を感じた。


「神獣~」


 と、自分を待っていると思ったように、アルルカンの把神書が宙を進む。


「ん、可愛い。ロロちゃん、シュウヤに早く来い? ってアピールしている」

「はは、そうかな? アルルカンを待っているのかも」

「ん、本当、ロロちゃんとアルルカンの把神書が先に行っちゃった。クナ――」

「はい」


 エヴァが金属製の足で先に走る。

 クナを紫魔力で包んであげながら、迅速に、二人は走る。


「シュウヤ様、行きましょう――」


 キサラの白絹のような髪を見てから、


「おう、ルマルディ――」

「はい」


 ルマルディの手を握り一緒に走り出す。

 カルードたちが待つヘカトレイルの貴族街へと、皆で向かった。


 すると、走りながら横に居たヴィーネが、


「――ご主人様、フレドリク伯爵は無視ですか?」

「――今はいい、欲深いとはいえ、戦争で疲弊している大貴族の一人だ。今は、力のあるゼントラーディ伯爵を先に叩く」

「はい――」


 通りから出たところで、


「――ん、血の匂いはあっち」


 先に居たエヴァは足を止めていた。

 商店街から続く大通りを指している。


 貴族街のある方向だ。


 はっきりとした匂いを発するヴァンパイアの縄張り効果のある分泌吸の匂手(フェロモンズタッチ)ではない……が――微かに、こうして、血の匂いをたどれるのも――。


 ヴァンパイア系の光魔ルシヴァルの特権だろう。


「おう」

「ンン――」


 そのエヴァが差している貴族街から走り戻ってきた黒豹ロロディーヌ。

 相棒は俺たちを見ると、後脚を滑らせながらターン。


 また貴族街のほうに向けて、走り出していく。

 ロロディーヌの後脚が躍動。


 尻尾と太股のふさふさな黒毛が揺れていた。


「ふふ」


 と、菊門を目の前で見ることになったキサラが微笑んだ。

 俺も笑いつつ走る。


 大通りを行き交う馬車と商人。

 キャロットオレンジ、カボチャ、ダイコン、キャベツ、イチジク、キュウリを売る八百屋と、壺、ロープ、ナイフ、フォーク、フライパン、針金、フライパン蓋を売る雑貨屋を通り過ぎていく。


 貴族街に到着したところで、カルードとユイが現れる。

 二人の佇まいを見ただけで、超一流の武芸者と相対した気分となった。


 ――あそこか。

 高級店と分かる店も見えた。

 橙色に近い色合いの外観。


 手前の垂れたカーテン屋根は蒼と白の横縞。

 窓もある。お洒落な店の名はサ・レポン・マレデル。


 カルードの足に相棒が黒豹の頭部を衝突させていた。

 後脚で立った黒豹(ロロ)は、カルードを襲うように抱きついている。


 カルードも壁を背中に預けつつ黒豹(ロロ)を抱きしめていた。


 黒豹(ロロ)はカルードの顔をペロペロと舐めていく。

 普段、あまり微動だにしないカルードだったが、あまりの激烈なペロペロ攻撃に、表情を弛緩させる。


 恵比須顔だ。

 ロロディーヌの愛を受けて嬉しいようだな。


 黒豹と戯れる中年おっさんの構図。

 これも、またある種の絵になるな。


 黒豹(ロロ)がカルードから離れてユイの足にも頭部を寄せる。

 ユイは勢いのある突進を受けて倒れそうになっていた。


 カルードは顔を布で拭きながら視線を寄越し、


「神獣様とマイロードに皆さん。既に、ユイと一緒に、建物回りの雑魚は処分しました」


 と、発言。端に荷物がある。

 一見は荷物だが血はない。

 死体は巧妙に偽装されて隠されている。

 通りを行き交う人々も、まったく、気付いていない。


 この辺の仕事に抜かりはないカルードとユイだ。

 ロロディーヌもそれが分かっていて、カルードを褒めるように甘えていたのかな。


「にゃ」


 と、鳴く相棒ちゃんだ。

 俺は、足下に戻った黒豹ロロディーヌの胴体を撫でながら、


「……分かった。で、周囲の護衛は標的が雇った【七戒】のメンバーだったか?」

「いえ、ゼントラーディ伯爵の紋章があった兵士でした」

「そこの隅でゾスファルトが見ている兵士がいるということは、もう色々と、喋ったか」

「はい。他の【七戒】の兵士は、船か港の宿で待機。【七戒】の幹部とアツメルダという名の伯爵の側近は、ゼントラーディ伯爵と一緒に建物の中に居ます」

「そっか。建物の内部の形と、ゼントラーディ伯爵の容姿は聞いたか?」

「一階は仕切りのない食堂。二階は仕切りのある高級な個室部屋。そこに伯爵は居るようです。容姿は金髪で、やや平たい顔の中肉中背。衣装は銀と黒で統一されてかなり派手。魔道具を持っているそうです。綺麗な人族女性も居ると」


 平たい顔族か。

 少し親近感を覚える。


「了解。俺と相棒は<無影歩>で直に侵入――まずは、ヘルメ出ろ」

『はい――』


 左目から出るヘルメ。

 常闇の水精霊ヘルメは俺の頭上に浮かぶ。

 ヘルメは水飛沫を周囲に発した。

 すぐに、俺の背後に回ると「――閣下」と言いながら抱きつく。


 また、離れて、頭上に浮かぶ。

 俺のハルホンク衣装は薄着だ。


 おっぱいの感触を直にくれたヘルメは、優しい。


「ヘルメ、俯瞰の位置で全体の把握を頼む」

「お任せを!」


 微笑むヘルメは飛翔。


「ヴィーネとクナとルマルディの三人は、玄関口から侵入し、一階と二階の窓を見張れ。ユイとキサラの二人は、地下に逃げ道がないか確認しろ。カルードとゾスファルトとエヴァは建物の背後にあるだろう出入り口を押さえつつ、建物の中に侵入だ。兵士は抵抗しないのなら逃がしてやれ」

「「はい」」

「シュウヤ、俺は?」


 アルルカンの把神書が聞いてきたが、


「お前はルマルディと共にいろ、ルマルディ、これを――」


 同極の心格子(ブレスレット)を手渡す。


「あ……」


 と、ルマルディは、ショックを受けたような面を浮かべるが、これは仕方ない。


「戦いに備えてくれ、用心のためだ」

「そうですね、分かりました」


 アルルカンの把神書はルマルディの傍に移動した。

 すると、


『妾たちの出番は!』


 と、サラテンの沙が反応。


『俺には無影歩があるから室内戦にもならんと思うぞ』

『……』

『それに魔槍杖は室内でも扱えるし、名無しの血魔剣と、ムラサメブレードもある。<シュレゴス・ロードの魔印>のほうが可能性は高いか』

『ふん! 妾とて神剣ぞ! ジョン・ドゥかジェン・ドゥの血魔剣や魔印なんぞより、妾を使うべきである!』

『乱戦でない限り、期待はするな』


 ま、秘術でシークレットウェポンだからこその、サラテンだからな。

 そこで、沙との思念会話は終了。

 俺は左の掌の運命線さんに棲むサラテンのアピールを消すように、その左手でジェスチャーをしながら、


「――よーし。ゼントラーディ伯爵様に挨拶しようか。各自、準備はいいか?」


 そう発言しながらクナを注視、続けて、


「派手な魔法で建物の地盤ごと破壊するのはだめだ。一般客に被害がでないよう、軽い破壊、屋根を吹き飛ばすぐらいにしようか。だが、基本は俺がやる」


 と告げる。


「ん、分かった、シュウヤに任せる」

「了解~、地下を見てくる」

「マイロードに従います」

「はい♪ 一応警戒しましょうか」

「シュウヤ様の行動をお待ちしています」


 キサラはユイとカルードの剣にダモアヌンの魔槍の穂先を合わせている。


「――作戦を開始する。相棒、行くぞ――」

「にゃ~」


 跳躍――<鎖>は使わず<導想魔手>を足場に使う――。

 相棒と一緒に屋根に飛び乗った。


 同時に右腕の肘を意識。

 肘に付着していた肉種のイモリザが、屋根にぽとりと落ちる。

 落ちた肉種は黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)からイモリザの姿に変身。


 イモちゃんだ。

 ココアミルク肌で、可愛い。

 銀髪の形を感嘆符に変えていたイモリザに、


「イモリザはここで待機。頭上のヘルメの下知を聞け。派手に暴れるのは禁止」

「はい~♪」


 屋根と繋がった扉がある。

 あそこからだ。


「行こうか」

「――ンン」


 扉を開け、屋根裏に侵入した。

 太陽の光が射し、埃が線上に浮かぶ。


 高級店だが、倉庫だな。


 古びた燭台が置かれた机。

 その机の下に、重なった絵画が並ぶ。

 埃まみれの本とレコードのような魔機械もある。

 紐に繋がる怪しい短剣。

 悪魔の絵柄の版画。

 銅製のミミズク人形。

 爪が武器となっている巨大ミミズクの剥製。

 丸いリンゴの木製パズル、珊瑚のブローチ、サンタクロースの人形、ホラー系のキャベツ人形、大人のおもちゃと間違えそうなブラックジャック……。

 ホラーの名作『シャイニング』に出てきそうな斧と肉切り包丁。


 等が、無造作に並ぶ。少し怖い。

 相棒は気にせず、スイスイと足早に先に行く。


「ロロ、待て」

「ンン」


 と、相棒は扉を発見。

 片足の肉球を、その扉に押し当てていた。


 すると、その扉がジィィ~と音を立て開く。

 更に、壁の骸骨の飾りが動いて、びびってしまった。


 趣味が悪い飾りだ。

 すぐ左下にあった階段を下りていく。

 掌握察を実行――。


「魔素がたくさんある。位置から一つの廊下に連なる作り――<無影歩>」


 気配を殺した俺は、一つ一つ部屋をチェック。

 居た、部屋を守るように立っている兵士たち。


 兵士たちが守る小部屋から魔素の反応がある。

 【七戒】の幹部らしき男は、その兵士たちの隅にいた。


「ブファス、伯爵様はお楽しみに入る」


 小柄な男が話しかけている。


「了解……」

「不満気な面だな、金は出したんだ。指示に従ってもらう」

「分かっているさ、インプの人形マニア」

「……これか? 理由があるんさ。で、俺の名はアツメルダっての、まぁいいさ。樹海の新天地の権益を伯爵様が手に入れたら、お前も大金を手にできるんだ。俺も出世だけでなく……へへ……」

「……汚い面を見せんなよ、チビインプ……」


 不機嫌そうな男の名が【七戒】の幹部ブファスか。

 腰と背中に魔力を宿した長剣を装備している。


 ベニーが持っていた魔銃はない。


 手前のインプと揶揄されている小男がアツメルダだな。

 右手に魔力を宿した人形を持つ。

 サンタクロースの人形?


 ……小声で、黒豹(ロロ)に、


「……相棒、俺がやる」

「ンン」


 即座に、<脳脊魔速>を発動――。

 悪いが死んでもらう――<鎖>で即座にブファスの頭部をヘッドショット。

 続いて、小男のアツメルダの頭部も<鎖>の先端がぶち抜いた。


 <無影歩>を維持したまま前進。

 アツメルダの死体は<脳脊魔速>中なのに、床に落ちた人形の中に吸い込まれていく。


 小男アツメルダの死体を吸収したサンタクロースの人形は一瞬で、消えてしまった。

 不思議な人形は生きている?


 とりあえず、血飛沫と脳漿が散らばる前に、その血を吸い取った。 

 ゼントラーディ伯爵の兵士の意識を速やかに刈り取る。


 寝ていてもらおうか。

 側近が死ねば、普通の伯爵ならびびるだろうし。


 ……部屋の奥にある魔素は二つ。

 女性と伯爵だろう……扉に鍵はない。

 その扉を横にずらして、少し開けた……伯爵の姿を確認。


 派手な衣装。

 まず、間違いなくこいつがゼントラーディ伯爵だ。

 <無影歩>を解除。

 そのまま<脳脊魔速>が終わるのを待つ――。


 終わってから、皆に血文字で伯爵の位置を報告。

 そうして、扉を開けた。


 ゼントラーディ伯爵と思われる金髪の男性が、


「――誰だ?」

「ひぃぃ」


 と、発言しながら、女性を退かして、武器、いや、サンタクロースの人形を取ろうとした。

 俺はそのまま、前進し、机に載った食べ物類を退かすように、足を乗せて、伯爵の手を蹴り飛ばす。


「――こんにちは、貴方が、ゼントラーディ伯爵様ですか?」

「……だったらなんだというのだ」


 カルードの報告通りの、やや平たい顔だ。

 俺は伯爵を睨みつつ、


「……聞いていることに答えてもらおうか。伯爵様」

「……顔を近付けて……そ、そうだ。わ、わたしがゼントラーディだ」

「樹海の新しい地に、お前の権利はない」

「……なぜ、それを知っている」

「その樹海に関わる者だからだ」

「関わる者だと? そんなことは知ったことではない、アツメルダ! ブファス! 大金を出したんだ、仕事をしてもらおう」

「……呼んでも無駄だと思うが」

「お前……アツメルダを殺したのか! あの人形使いが簡単に死ぬわけがないが……何者だ?」


 装備品と肌の入れ墨に魔力を宿している。

 その入れ墨から魔力の糸が宙空へと伸びていた。


 魔力の糸は透明な巨大人形を形成している。

 が、すぐに消えた。


 どういう理屈だ?

 伯爵のネックレスと指輪も魔力を内包して、特殊そうだ。

 精神耐性系の防具かな。

 肝心の魔力の糸を出す入れ墨は、ヤクザかメキシカンマフィア系の印象を抱かせるが……。


 この伯爵様は、裏がありそうだ。


「さぁ、ジョン・ドゥな槍使い。といえば分かるか?」

「……ジョン・ドゥの槍使いだ? ふざけた野郎だ。ヘカトレイルで流行っている槍使いか?」

「そうだよ。それで、ヒノ村から樹海の地へと派兵を決めているのか? もう既に派兵をしたあとか?」

「……第一陣の偵察部隊はもう送っている」

「早い動きだ。今後、大規模な派兵をするんだな? 他の貴族が手に入れる前に」

「当たり前だろう。モンスター勢力が多いベンラックでさえ、素材の宝庫なのだ。あの樹海の奥地にどれほどの財宝、遺跡、素材が眠っていると思っている!」

「……で、伯爵様。樹海の果実から、素直に手をひくつもりはないと?」

「うるさい――」


 と伯爵は懐から出した、お守りのような魔宝石なモノを翳す――


「死ね――」


 魔弾系の礫か――。

 頭部を横にずらすが、頬に切り傷を負う――。


「――いてぇな、おい! せっかく交渉しようとしたのによ」

「この距離で避けるだと……まさ、か――」


 俺は左手を出す――。

 <サラテンの秘術>を意識。


 神剣サラテンが左手の掌から飛び出る――。

 一瞬で、突き出た神剣サラテンは、ゼントラーディ伯爵の額を巻き込むように穿つと、ゼントラーディ伯爵の上半身を吹き飛ばす。同時に、魔糸も人形の幻影も消える。

 羽毛やら、散った材木やら、血肉が、四方八方に吹き飛んだ。

 天井から、乳首に挟まったピアスの、その胸の皮だった部位が落ちてきた。


 その刹那、床に転がっていたサンタクロース人形の双眸が怪しく光る。

 更に、不気味な嗤い声を響かせる……と、その人形は伯爵の下半身の死体を、吸い寄せて消えた。


 またか……。

 指輪とか魔宝石が転がったままだが、回収するのは面倒だ。

 建物のソファも背もたれ部分が吹き飛んでいる。

 壁というか、建物に穴があいて、空に出ていた神剣サラテンが見えた。


 ……穴か。


 人形といい『マルコヴィッチの穴』を見るように覗いてから……。

 名作映画を思い出しつつ、ゼントラーディ伯爵の血飛沫をすべて吸い取る。


『――器よ、いいセンスだ。<鎖>ではなく、使わんとかいって、ちゃんと、妾を使うとは! うははは』

『いいから戻ってこい――』


 神剣サラテンの沙を、左の掌に戻す――。

 そして、右の人差し指を宙空に動かしつつの、血文字で――。


『ゼントラーディ伯爵を潰した。他の兵士は放っておけ、撤収だ――』


 と、指示を送る。


「相棒、外に出るぞ――」

「にゃおおお~」


 廊下に出てからも怪しい人形を探すがない。

 相棒と一緒に屋根裏に戻る。


 ここにあったサンタクロースの人形がない。


 その場で、血文字でキッシュに、今回のことと、風のレドンドとの合同依頼を報告。

 続いて、シャルドネのお願いに関することも報告。


 サーマリア西部にある橋頭堡を自由に使っていい権利。

 代わりに、古都市ムサカの塔雷岩場の近くにある橋頭堡と、その近くにある塔雷岩場の小隊の救出。

 その塔雷岩場には、豹文文明の歴史碑文があり、専門的な仕掛けが施された手つかずの地下遺跡があること……この地下遺跡にミホザの聖櫃(アーク)があるかもしれない。との情報に、その鍵となる〝半透明の髑髏〟をもらったことを告げた。


 このことを聞いたベニーとマジマーンは驚いていた。

 二人に取って聖櫃(アーク)とは、誘い水としての効果は十分だろう。

 セブンフォリア王国と【七戒】にローデリア海と深く関係するミホザの聖櫃(アーク)だからな。

 特にセブンフォリア王国に一矢報いたいベニーにとっては重要だ。


 シャルドネの話し方では、聖櫃(アーク)の確証は取れていないようだったが……。


 そんな内容の血文字を、パッパッパッと、手早く済ませた。


 サ・レポン・マレデルの屋根に出てから、イモリザを回収。


 素早く飛び降りて建物の外に出た。

 相棒も飛び降りながら馬の姿に変身――。


「――閣下、サラテンが飛び出ていましたが、速かったですね」


 そう言いながらヘルメが下りてくる。

 俺とヘルメは馬のロロディーヌに跨がった。


「おう。もう用は済んだ。インプと揶揄されていた小男アツメルダも頭を吹き飛ばしたが、生きているかもしれない。死体を吸収する人形を使っていた」

「……人形使いの小男。不思議ですね」

「あぁ」


 着地したロロディーヌは通りを抜けて駆けていく。


 片手で、血文字を書いていく。


『――皆、サイデイルに帰還する。集合場所は八百屋だ』

『速やかな暗殺、お見事でした』


 ヴィーネと血文字連絡。


 そうして、八百屋に集まった皆。

 その場で、血文字のコミュニケーションを皆と行った。


 細かい詳細はヴィーネに任せる。

 エヴァは主にレベッカ担当。


 アルルカンの把神書がそれを見て、


「ひゅ~、すげぇな」

「うん、触媒は血魔力と分かるけど、魔道具なしに遠距離で連絡が可能ってかなり便利」


 ルマルディがそう発言。

 俺は頷く。クナとキサラも、


「これが、光魔ルシヴァル族の強さでもあります」

「はい、この伝達能力があれば、緻密な作戦を即座に実行可能となりますから」

「血文字だけではないですが……今回の伯爵の圧殺。やはり、何度も言いますが、シュウヤ様ならば、影の支配者の渾名を吹き飛ばし、闇の帝王に君臨できます」


 ミスティと血文字SMSを実行中のエヴァが、


「ん、その影の支配者ってスロザ。スロザも闇のリスト?」

「はい、エヴァちゃん」


 そういえば、クナとスロザは知り合いだったな。


「呪神テンガルン・ブブバに呪われているアイテム鑑定屋のスロザ」

「わたしもお世話になった超一流のアイテム鑑定人。そのスロザが鑑定した優秀なアイテム類は、ペルネーテの闇社会だけでなく、様々な分野で活躍しているはずです。美食会の品にも多いですよ」

「……だからこその影の支配者か」

「はい。わたしでさえ、どんなアイテムが、あの店の奥に眠っているか……だれが、頼んだ品か……想像ができません」


 クナの表情が、微妙に変化する。あまり感情が読み取れないが、スロザは呪われているからな。

 その間にも、血文字乱舞が、連鎖していく。

 この場に居ない、血獣隊と紅虎の嵐にも瞬く間に伝わった。


『主! そのゼントラーディ伯爵とやらが治めている土地はどうなるのだ』


 と、ビアから珍しい質問の血文字がきた。


『それはメル経由の第二王子ファルス殿下がなんとかする』

『なんだ、つまらん、乗り込んで占領すればいいものを!』

『そんな手間がかかるようなことはしねぇ。ゼントラーディ伯爵の偵察部隊が来るようだから、ママニかデルハウトに連絡して対処を頼むぞ』

『我に任せろ!』


 続いて、ママニから、


『ご主人様。フレドリク伯爵とアロサンジュ公爵も同じように?』

『いや、諜報網が優秀なら、もうサイデイルに手を出す馬鹿貴族はいないだろう。今後は、Win-Winを目指すはず。殺した伯爵とアツメルダとかいう小男も死んだと思うが……怪しかったから、裏があるとは思う。ま、今後の問題は、輸送と交易に絡む匪賊系と樹怪王とオークに旧神ゴ・ラードの勢力だ。ってことで、ママニ。ジョディに俺が戻ったら、シャルドネのお願いも実行するから遠回りとなるが……シェイルの魔宝石探しに、東の火山地帯へ向かう。と、伝えてくれ』

『分かりました』

続きは来週。

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コミックファイア様から漫画版「槍使いと、黒猫。」1巻~2巻発売中。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 黒船号とか黒船海賊団とか黒船推しが多いのでいっそ黒船に変更か?とも思いましたがw 誤字報告にて修正入れておきますね。
[良い点] 手早く敵の頭を暗殺してしまうなんてさすがシュウヤさん、サスシュウ。 [気になる点] みんなとの血文字連絡便利ですね。デルハウトとシュヘリアが会話に入ってこな…
[一言] 死体を吸収して消える人形、それが2連続? まず間違いなく蘇生系でしょうねぇ。 どっかで生き返ってるでしょう。 いずれにしろ、シュウヤから宣戦布告はしたわけで、 それでも派兵を続けるなら、滅…
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