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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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六百三話 フィナプルスの夜会からの帰還

 頭部の左右に生えた巻き角は天を差す。

 衣服は魔女風のローブ。一対の白翼で華麗に天翔る姿は、まさに天使。

 しかし、角と骨杖だから悪魔か魔女風でもある。

 その魔女が五人に増えた。いや、背後に重なっていただけか。

 更に、十字の裂け目からモンスターが出現。 

 この海の岸に来るまでに、何度も見かけた奇怪モンスター軍団だ。

 ムカデとイソギンチャクの姿をしたモンスター。

 リャイシャイの病変を治療した際に出てきたモノとは違う。

 その奇怪モンスター軍団は、ダッチロール的に飛翔する魔女たちを追う。

 モンスターと魔女たちの戦いが空中で始まった。

 大量のムカデ系モンスターは口盤を拡げ口内らしきモノを晒すと、


「「ギュァァァァァ」」


 咆哮を発した。無数の蛇と似た触手の群れを逃げた魔女たちに繰り出す。

 魔女たちは背中の大きな翼を羽ばたかせ加速。

 宙返りから滑空機動に移行――。

 巧みな飛翔で触手を避けた。

 魔女の背中の翼から出た魔力の粒子が軌跡を作る。

 魔女たちは骨杖と手足から魔力の刃を飛ばし、身に迫る触手を、それらの魔力の刃で見事に切断――見事な攻撃魔法と骨杖の扱いだ。魔力の制御も巧み。

 しかし、彼女たちに迫り来る触手の数は多い。

 翼を畳ませた魔女の一人は触手に囲まれてしまう。

 他の魔女たちも触手の遠距離攻撃の対処に追われて助けにいけない――が、触手に囲まれ危機に見えた魔女の一人は、翼を畳ませながら足下に魔法陣を生成――。

 その魔法陣を細い足先で蹴る。

 と両腕から巨大な魔力ブレードを出現させた。

 その巨大な魔力ブレードを振るって、触手の囲いを脱した。

 触手を繰り出したムカデは、フォローに回った魔女が出した魔力の刃を喰らい体が切断されて倒された。防御力は低いらしい。

 二つに分断されたムカデだった塊は落ちていく。

 幸い、魔女とムカデたちの背後にあった十字の裂け目は閉じた。

 モンスターの出現は止まる。閉じた裂け目の跡に、十字架風の淡い光が残っていた。

 空を旅した際にも、何度も見た。

 ルエルが見せてくれた【魔女ノ夜会集】の伝説にも記述があったように、奇怪共が現れた証拠か。とりあえず――。

 翼が綺麗な魔女たちと戦うモンスターを凝視。

 上部の口盤に蛇に近い触手を備えていた。

 中部に複数の眼球が密集している。下部には、発泡スチロールと岩石が合わさったような色合いの多脚があった。そのすべてに魔力を宿している。

 一人の魔女に向けて、ムカデは下部の富士壺のような部位から白い粒を放出。

 白い粒に触れた巨大な魔力ブレードは、瞬く間にセメントのように固まり割れた。

 触手の殆どを切った巨大な魔力ブレードだったが、あっけなく破壊される。そのまま白い粒に包まれる魔女の一人。刹那、白くなった魔女は戦闘機が追尾ミサイルから逃げる時に使うようなフレア的な攻撃魔法を全身から発動――。

 そのフレアと衝突したのか、白い粒は、内側から爆発したように膨れつつ燃焼し散った。

 マショマロが焼けて散るように見える。強力な光系の火炎魔法か。次々と一人の魔女の身に迫る触手の群れと白い粒を燃やしていく。

 しかし、ムカデの眼球が発した青白いビームを背中に喰らう魔女。

 魔女の全身から発したフレアのような魔法には防御能力はないようだ。

 仰け反った魔女は翼が欠損して魔術師ローブも破れる。

 破れた箇所から火傷のような生傷を覗かせた。すると、俺の掌が震える。

 そう、俺が握るフィナプルスの魔心臓だ。その魔心臓がドクン、ドクン、ドクン、ドクンと鼓動を始めると、表面に傷ができて傷から血が溢れた。


「……奇怪に追われている者たちと、その魔心臓は関係があるようですね。本契約とは、召喚と言う事でしょうか?」

「使者様、本契約は完了ですか?」


 ミレイヴァルとイモリザがそう聞いてきた。

 アルルカンの把神書を見ながら、


「はっきりとは分からない。この魔心臓が動いて、魔心臓から血が出たが……」


 とアルルカンの把神書に助言を求めるように聞く。


「魔心臓が動いたのなら、契約が始まった証拠。だが、まだユイの片腕に魔力は込めるなよ。正式に契約は成っていないのだからな。分かっているとは思うが……今、あのモンスターから逃げている存在が鍵だ」


 アルルカンの把神書がそう発言。


「ンン、にゃ」


 肩の相棒は、俺が手に持っている魔心臓に興味しんしん。

 前足を、おそるおそる前に伸ばす。

 血が溢れていく魔心臓を触ろうとして、触れない。

 ふるふると震える前足。傷つけないような気持ちか、びびっているのか、分からない。

 この辺りは、やはり猫だ。その相棒の耳と耳の間の頭部の薄い黒毛を撫でてから――。

 ピンクの小鼻ちゃんを、指の腹でツンツクと、突く。

 相棒は自身の頭を掻くように片足を動かした。

 『やめろにゃ』風に俺の左手の指を片足で叩く。

 逆にその小さい片足の上に指を乗せた。

「ンン」

 と鳴いた相棒。下になった片足を引いて俺の指の上に載せ返してくる。肉球の感触が面白い、切りがないから止めておいた。さて、結局空で戦うことになりそうだ。

「……ちゃちゃっと助けるとしよう。ロロ、変身を頼む。イモリザは腕にミレイヴァルはアイテムに戻れ」

「了解しました」

「は~い」

「にゃお~」

 ロロディーヌは、大型の黒豹と馬に近い姿に変身。

 その間にイモリザは黄金芋虫(ゴールドセキュリオン)に戻った。

「チュイチュイ♪」

 そう鳴いたイモリザは桃色の触手風の小さい角から金色の粉を出した。

 右腕の袖の中に入り、腕を伝って、肘にくっ付く。

 <召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>状態のミレイヴァルも、眩しく輝きを発しながら十字架と銀チェーンに繋がる小さい銀杭に戻る。

 ポケットに重いフィナプルスの魔心臓を戻し――黒豹と黒馬のような相棒の姿を見る。

 立派な黒色の鬣と黒毛に顔を寄せて、温もりを感じた。

 相棒の触手が俺の背中を叩く。その相棒に跨がった。

 ロロディーヌは馬というよりペガサスか。そんなロロディーヌの後頭部に生えている鬣を指で梳き、左手で黒毛と地肌をさする。同時に触手の手綱を右手で掴みながら――。

 相棒の横腹をちょんっと足で突く。一瞬、本当の馬が発するヒヒン系の魔息を吐いた。

 が、直ぐに「ンン」といつもの喉声を発した。そのまま空を直進――。


『かり』『かり』『におい』『におい』『にく』『たべる』


 相棒がそんな気持ちを寄越す。


「――ぬお、はぇぇんだよ」


 と背後からアルルカンの把神書の声が響く。左手をあげて返事――。


「たっく! 神獣には優しいくせに!」


 そう愚痴を言いながらも相棒の速度に付いてくる把神書様だ。

 一方、前方の魔女たちは、数体の小型ムカデを魔法で仕留めていた。

 が、中型のムカデから出た骨のミサイルを足に喰らい傷が増えた魔女がいた。

 片方の翼にダメージを負ったのか、速度が落ちる。

 その魔女は必死な表情だ。

 仲間の魔女が助けようとムカデに魔力の刃を喰らわせているが、数が多い。

 手前の傷が多い魔女の一人は、胸元に穴? 貫かれたのか?

 もしかして、元々穴が空いている?

 俺が持つ魔心臓を納めるってことかな。その胸元に穴がある魔女の一人は、きりもみ回転しながら、俺たちのほうに向かってくるが、背後のモンスターを大量に引き連れた状況だ。そのモンスターは羽虫のように見えた。

 手綱を放した――右手に魔槍杖バルドークを召喚。

 嵐雲の形をした穂先を、突き出し、右脇で柄を押さえる。 

 ランスチャージ状態に移行、が、まずは左手を翳す――。

 ――左手首の付け根をライフルのスコープに見立て<鎖>を射出――。

 ライフル弾のごとく梵字を宿した<鎖>は突き進む――。

 魔女の一対の翼を貫かないように気をつけた。

 その魔女を通り過ぎた<鎖>はムカデが出した触手ごと数体のムカデの上部を貫く。

 数十のムカデを串刺しにして団子の串のようになった<鎖>――。

 鯉のぼりのように死骸が連なった。その伸びに伸びた<鎖>を消去。

 続けて、<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を五発放つ――。

 腕先から、人を超える大きさの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が出現。

 直進した光槍は、ムカデが出した骨ミサイルと衝突。

 骨が連なった刃状の部位を、次々に破壊、潰しながら根元のムカデの胴体をも貫き直進する。数十のムカデを仕留めた<光条の鎖槍シャインチェーンランス>は爆発して散った。爆発音が打ち上げ花火のように轟くから、少しびびる。


『強烈な音だ』

『あぁ』


 サラテンの沙がそう念話を寄越す。


「ありがとうございます。わたしの失った魔心臓を取り戻してくれて――」


 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>の爆発を見ていた魔女がそう発言。

 心臓の位置に穴があるし、傷も多いが、そのまま宙空で反転――。

 反撃の魔力の刃を、ムカデに向けて放つと、その魔力の刃が見事にムカデを両断していた。


 その魔女に向けて、 


「これは貴女のだったのか」

「はい」

「奇怪フィナプルスとは」


 と、聞いたが、他のムカデから白い粒が飛来してくる。

 魔女は「わたしの奪われた魔心臓が巨大な奇怪となったのです――」と発言すると、白い粒を避けていく。


「とりあえず、俺たちも加勢するぞ――」


 離れていく魔女にそう発言した瞬間、俺を乗せた相棒が加速――。


「にゃご~」


 返事と攻撃を兼ねたロロディーヌ。

 直進しながら炎を右側へ向けて吐く――。

 

 白と蒼が混じる紅蓮の炎が扇状に広がった。

 その炎の中に煌びやかな神獣のマークが宿る。

 パワーアップした神獣の炎は、右側の九十度に群がるムカデ共を一掃した。


 炎の幅はあまりないが、空間さえも削るような熱の質。

 そして、相棒が宙を駆ける勢いを、右手が抱える魔槍杖に乗せて直進――。


 ランスチャージとしての<血穿>を発動――

 ムカデの上部が盾に変化したが構わない――。

 <血魔力>を纏う嵐雲の穂先は、触手の盾を突き抜け、ムカデの眼球ごと胴体の一部を破壊した。


 一部が破裂したムカデの下部に相棒が喰らいつく。

 白い血が相棒の口回りに付着した。


 このムカデの下部は白い血肉が豊富。

 相棒には期待通りの味か。


 富士壺のようなモノはホタテの貝柱のような味とか?

 だったら味見したい。わさび醤油がほしくなるかも……と、今は戦い。

 血のような液体を吸うだけにしよう。


 そのタイミングで、食べることに夢中となった相棒から離れて跳躍――。

 足下の<導想魔手>を蹴って跳躍。


 宙空で素早く身を捻り、移り変わる視界に映るムカデの位置を把握。

 まずは近くのムカデだ――。

 左手に神槍ガンジスを召喚。

 その神槍ガンジスを横に振るい、穂先の方天戟の片方でぶっ叩く。

 ムカデを輪切りに両断――。


 宙に噴出した鮮血が白色の桔梗の花弁を作る。


 即座に右手の魔槍杖バルドークも振るう。

 嵐雲の矛が、ムカデの下部を斜めにぶった切った。

 魔槍杖の穂先は、紅斧刃の形ではないが滑らかに湾曲しつつ螺旋する矛の刃で、どこでも切れ味があるだろう。

 その嵐雲の形をした穂先の魔槍杖を手元で回転させていく――。


 まだ残っていた上部のムカデから、しぶとく反撃の触手がきた。

 来るだろうと予感があった――。

 回転させた魔槍杖は使わず――。


 左手の神槍ガンジスの大刀打に備わる蒼い纓を展開させた。

 

 蒼い刃物の素麺――。

 もとい、フィラメント状の蒼い纓は、迫る触手とムカデの上部をバラバラにしていく。

 その直後、下から想定外の轟音が響く。


 ――なんだ?

 と見たら、開いたアルルカンの把神書だった。

 そこの頁から巨大な魚の頭部が飛び出ていた。

 巨大な魚の頭部はピラニアのような口を見せて「ウゴォォォォ」と咆哮。

 力強い顎の力で、ムカデをむしゃむしゃと咀嚼するように、喰らっていく。


 不思議な巨大魚は、ムカデを喰らうごとに体が再生。

 幻想的な骨と内臓に鱗を生やしていく。


 ムカデを捕まえて食べていたロロディーヌは動きを止めた。

 珍しく食べるのを中断するとは。


 体が再生する幻想的なマグロとピラニアが合体したような不思議な巨大魚を見れば、動きを止めるか。


「ンン、にゃ~」


 と、鳴く。

 不思議な巨大魚を出した、アルルカンの把神書を褒めている?

 相棒は食べかけのムカデを捨てて、そのアルルカンの把神書に近づいていく、


「うは、おぃ~神獣よ、舌を出すなぁ。うへぇ、ロルラードはお前の餌じゃねぇ! くるなぁぁぁぁぁ」


 アルルカンの把神書は召喚した不思議な巨大な魚を仕舞おうとするが、ロロディーヌに舐められて、失敗したようだ。奇天烈な悲鳴を上げて、相棒から逃げていく。

  幻想的で不思議な巨大な魚だが、魚だからな、ピラニアは分からないが、マグロの頭部は美味しい素材が多い。ネコ科として、神獣ロロディーヌが魚を食べてみたくなる気持ちは分かる。

 

 しかし、変な魔術書だ。表紙の猫の足跡のマークを輝かせているくせに。

 把神書と神獣は戦力外になった。

 仕方なし――と、俺にもムカデの攻撃が来る。

 頭部と足下に迫った骨のミサイルを魔槍杖バルドークの柄と竜魔石で破壊。

 蛇の触手も、俺の斜め下から迫ってくる。その数は大量だが、<血鎖の饗宴>で対処だ。足下に海を作るように血鎖を展開させた。

 血鎖の<血鎖の饗宴>で、蛇の触手を溶かすように倒しまくる。

 そこに、右から迫った蒼色のビーム――。

 嫌な予感がする遠距離攻撃を見ながら<導想魔手>を蹴って、その蒼色のビームのような遠距離攻撃を避けた。と、暗緑色のハルホンクが掠った、一部が削れて、凍てつく。

 耐久性はない奇怪モンスターだが、かなり強力な魔法攻撃だ。

 回避に専念した俺を追うように、蒼いビームのような遠距離攻撃を連続的に放ってくる。


 ムカデの中部に密集した眼球共は、ビーム砲台だな――。

 あの眼球共を潰すとしよう。

 ムカデの近くに跳んで、壁代わりに利用した仲間のムカデも、その蒼いビーム系魔法を喰らっていた。


 蒼いビームを喰らったムカデは、凍って固まると、海に落下していく。

 仲間意識はあまりないらしい。

 即座に<血液加速(ブラッディアクセル)>を発動。

 <導想魔手>を足場に、ホップ、ステップ、ジャンプ――。

 点々と生み出した<導想魔手>の足場を利用して、ムカデ野郎との間合いを迅速に詰めた――。

 槍圏内に入ったタイミングに合わせ――。

 左手の神槍ガンジスの<水穿>をムカデの上部に喰らわせる。

 その神槍を消去し、左手を脇に引く。

 更に、ムカデの中部に密集した眼球の一部を、アーゼンのブーツの踵で踏み潰す。


 足から<血鎖の饗宴>を発動。

 ムカデの中部を一気に血の鎖で磨り潰し、倒す。


 その反動で跳躍――。 

 左手に神槍ガンジスを再召喚。 


 数秒、間を空けた。

 その直後、俺に隙があると思ったのか。


 ムカデが、右と背後から蛇触手を伸ばしつつ白粒を出して近寄ってくる。

 白粒に生活魔法のただの水を当ててから《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を発動。

 

 白粒のすべてが一瞬で凍結しバラバラになった。

 俺は体幹の魔闘術を強めて、蛇触手を出すムカデに向けて――。

 左手と右手が握る神槍と魔槍杖の<双豪閃>を発動――。

 ユイの<舞斬>のごとく、急回転――。

 神槍の方天戟と魔槍杖の嵐雲矛が、ムカデを両断していく。


 <双豪閃>の回転終わりに、二槍を消去。

 そして、視界に入る、まだ残っているムカデ共に<鎖型・滅印>を実行――。

 

 左右の両手首から<鎖>の連続射出――。

 近いムカデたちには、拳と肘の連続的な打撃から蹴りのコンビネーションを当てつつ<鎖>で処分。

 右に吹っ飛んだムカデに、右手で拳を突き出すように<鎖>を伸ばし、<鎖>の先端をプレゼント。

 そのまま二丁拳銃を撃つように、<鎖>という<鎖>の刹那の連撃が決まる。

 左のムカデ、右のムカデ、下のムカデ、斜め上のムカデ、そのすべてのムカデの体を蜂の巣にしていく。


 無数のムカデを滅殺処分。

 しかし、魔素はまだある――。


 反応があるムカデたちの動きを追う――。

 それらのムカデは、無事な魔女たちが、魔力の刃を喰らわせて倒していた。


 一方、俺と話をした胸に穴がある魔女は……。

 傷を負った片方の翼を折れたように、縮ませていた。


 海に落下しそうだ。

 即座に向かう――。


「大丈夫か――」

「な、なんとか」


 魔女の肩を支えて抱く。

 羽の手触りはいい、相棒並みとは言わないが、ふさふさして、柔らかく温かい。


 他の魔女たちが集まってくる。


「フィナプルスの魔心臓を取り戻した霊槍使いか!」

「ありがとう」

「霊槍使い、ありがとう」



 と、魔女の方々は礼をしてきた。

 その一人が、俺が支えている魔女を見て、


「フィナプルスは大丈夫のようだな」


 と、発言。

 この彼女はフィナプルスか。


「奪われたフィナプルスの魔心臓も無事。新しい繋がりが、得られれば、我らも救われる」

「しかし、ソーサリティはどこだ。アニュイル人の巫女も見当たらぬが……」

「古代樹ソルフェノスもない」

「だが、魔女ノ夜会集の魔骨相秘術が成功したからこそ、の今ぞ……」


 天使のような翼を持つ魔女の方々がそう発言。


「皆様、こんにちは。とりあえず、あの崖で話をしましょうか。相棒とアルルカンも戻るぞ」

「にゃ」

「分かった」


 魔女を抱えて翻す。

 俺たちが立っていた断崖絶壁に着地。

 支えていた魔女も足をつけた。


「主……」


 と、片膝を突ける翼を持つ魔女。


「また、主か。とりあえず、立ってくれますか?」


 上向く魔女。

 左胸には、やはり穴がある。

 破れた魔術師ローブのせいもあるが、豊かな胸元が露出していた。

 芸術性が高い絹のようなブラジャーが悩ましい。


「はい」


 傷を負っていた翼から羽根が舞い落ちていく。

 だが、再生するように新しい羽根が生えてきた。

 左胸に穴が空いたままだが、不死身系なのか?

 傷の治りは遅い箇所もある。

 治っていない部位もあった。

 再生能力を有しているだけっぽい。


 相棒も着地。

 黒猫の姿に変身すると、足下に来る。

 アルルカンの把神書も俺の頭上に戻った。


 翼を持つ魔女たちも、崖の端に着地した。


 この立った魔女の名はフィナプルスと聞いたが……。

 ちゃんと、自己紹介するか。


「まずは名を教えてください。俺の名はシュウヤ」


 と、丁寧に頭を下げて挨拶した。

 助けた魔女は片手を胸元に当て、同じように礼をしてから、


「わたしは、魔女フィナプルス」


 と、名乗ってくれた。

 その名を聞いて、頷く。

 そして、集まった魔女たちに、


「あなた方は、天使か悪魔の種族ですか?」

「違う。【魔女ノ夜会集】。またの名を【理の古魔女会】。そして、わたしの名は魔女フューリー」

「同じく魔女カトロ」

「同じく魔女ナバ」

「同じく魔女クンサルヴァ」

「魔女ノ夜会集とは、魔術書以外にも組織としての名があったのですか。その、理の古魔女会とは、この世界を守る存在?」

「そうとも言えるが、違うとも言える。我らもまた理であり、触媒でもある。それぞれの魔女が、主に使役を受ける存在なのだ」


 抽象的で分からない。

 ま、さっさと帰るか。


 ポケットから魔心臓を取り出す……。

 魔女たちから、どよめきの声が上がった。


「――わたしの魔心臓に魔力を込めていただきありがとうございます」


 フィナプルスさんが恥ずかしそうな表情を浮かべて喋ってくる。

 黒色の細い眉毛。虹彩は黒。瞳に茶色も混ざる。

 鼻筋は高くない、頬に靨もあって唇は小さい。


 顎はなだらかな逆三角形のEライン。

 女性としての美を追究したかのような首筋と鎖骨は、実に美しい。


 そして、素直に可愛い。

 そのフィナプルスさんの表情をじっと見てから、皆に向けて宣言するように、


「この魔心臓を、フィナプルスさんの左の胸に納めると、どうなりますか?」

「……もう、繋がりはありますが、わたしと本契約が成立です……永らく封じられていた……わたし専用の主が、シュウヤ様ということになります」


 頬を赤らめるフィナプルス。

 その直後、変な口笛を吹くアルルカンの把神書、もとい、馬鹿ん書は、悲鳴をあげる。


 相棒に肉球アタックを受けたようだ。

 気にせず、


「主ですか? そもそもどうして魔心臓を失ったんですか?」


 その俺の問いに、


「それは……」


 とフィナプルスさんが答えようとしたが――。

 アルマニャックの色合いの髪を靡かせた魔女が細い腕と翼を前に出して静止させた。


「我が話をするが、いいか?」

「はい」


 ハスキーボイスの魔女さんも、また美しい。

 腰になぜか酒瓶をぶら下げている。


「……古い主たちのせいだ。魔女フィナプルスは、その古い主たちにより、魔心臓をくり抜かれた」

「古い主? このフィナプルスの夜会という名の魔術書には、他にも契約主が居ると?」

「そうだ。時と場合により魔界四九三書の名は様々だ。そして、新しい主を生み出さないために、古い主たちが、この魔界四九三書の循環を破壊する目的で、魔女フィナプルスの魔心臓をくり抜いた。間接的ではあるが、わたしを含めた魔女たちのせいでもある」

「その古い主とは?」

「魔界王子ハードソロウ、幻魔ライゼン、魔界奇人レドアイン、魔公爵ゼン。本来であれば、魔女フィナプルスが生まれし日に……新しい契約主の下で使われる魔術書であったのだ」

「だから、フィナプルスが主を得れば、その契約によって、今よりは、この世界の吉兆の魔力が強まる。調和が取り戻される」

「奇怪の出現も緩和される」

「世界に秩序が生まれやすくなるはずだ」


 魔女たちがそう発言。


「もう少し詳しく」


 フィナプルスさんは頷く。


「魔心臓を取り戻したわたしとシュウヤ様とが繋がることで、フィナプルスの夜会が成立。本来の【魔女ノ夜会集】の【理の古魔女会】としての魔女たちが活性化します。嘗ての古い主たちと本契約を結んだ影響の、魔十字の亀裂が薄れることになり、豊潤が世界を満たす。世界が安定に向かいます」

「安定? 亀裂が薄まって豊潤が満たすとは、奇怪モンスターが減る?」

「多少は減るだろう。だが、奇怪とまがい物の出現が絶えることは永遠にない」

「しかし、何度も言うが、フィナプルスの夜会が成立したのならば、シュウヤ様の影響で豊潤が世界を幸せに導くだろう」

「だからこそ、亀裂とは関係のない争いは減る。それにより奇怪もまがい物も減る」


 確実ではないにしろ、いい方向にむかうなら希望がある。

 魔十字の亀裂のことを聞くか。


「……魔十字の亀裂ですが、あの亀裂は、どこかと繋がっている?」

「その通り、魔十字の亀裂は、セブドラという異界に棲まう古い主たちと繋がっている。魔界四九三書としての力を使いすぎた結果だ」

「セブドラ……魔界ですか。貴女の主も?」

「そうだ。わたし魔女カトロと魔界王子ハードソロウとは繋がりがある。切っても切り離せない存在であり、理の一つ」


 ハードソロウは古い主の一人。魔女カトロさんと繋がる魔界王子か。

 その魔界王子は、魔界セブドラの諸侯の一人なのかな。

 

 角の形が少し違う碧眼の魔女カトロさんと、本契約をした存在。

 魔女たちを見れば、各々角の形が違う。

 そして、専門の飾りに衣装も違う、個性があった。


 アニュイル人と似た飾りを持つ魔女さんもいる。

 

 要するに、複数の魔女たちが管理するこの魔術書異世界が、この魔界四九三書の力なのか。

 そのことは聞かず、


「アニュイル人の奇病は、俺の血が効いたように見えましたが、奇病は止まりますか?」

「まずは、見ず知らずの我の輩でもあったアニュイル人を治療してくれたことに礼を言おう。優しき主よ」


 アニュイル人と似た飾りを額に持つ魔女さんがそう語る。

 名は魔女ナバさんか。

 一本角はないが、アニュイル人と繋がりがあるのか。


「できることをしたまで」

「そうか。フィナプルスが羨ましいぞ……」


 魔女ナバさんは、魔女フィナプルスさんを睨む。

 魔女カトロさんは微笑んでいた。


 俺はもう一度、


「それで、アニュイル人たちは大丈夫なのですか?」


 その魔女ナバさんは、俺の表情を見て、ははっと笑った。

 

「安心しろ。魔心臓を手にした時点でアニュイル人の奇病は止まる。悪化していたとしても自然治癒するであろう。混沌の世は、光魔の血に救われたことになる」


 大怪物の奇怪フィナプルスを倒したことで、アニュイル人たちの奇病は改善していたのか。

 リャイシャイの病変に、俺の血が特別作用していたようにも見えたが……。


 血を使わずとも、徐々に改善していたということになる。

 よかった……だとしたら、俺の血は余計だったな。

 

「安心しました。それでは、フィナプルスさんの胸に、魔心臓を納めたいと思いますが、よろしいですか?」

「勿論です」

「いいぞ」

「我らも新しい主を歓迎しよう」

「優しき主を得た魔界四九三書も変わるだろう」

「そうだ。フィナプルスよ、幸せになるのだ」

「我と交代してもいい」

「もう、ナバは子孫たちのことを考えなさい!」

「……」


 魔女たちは名残惜しそうな会話を続けていく。

 暫し、待ってから、フィナプルスさんのおっぱい、いや、胸の穴を見て、


「では失礼します」


 フィナプルスさんの胸元に、持っていた重い魔心臓を差し込む。

 フィナプルスさんの胸は自然に塞がってローブの傷も再生。


 その瞬間――。

 フィナプルスさんを含めた魔女たちの体が徐々に半透明になっていく。


「ありがとう、無事に本契約が完了です……新しい主様」


 フィナプルスさんが、そう色っぽく呟くと、世界の中に染み入るように魔女たちが消えた。

 そして、アルルカンの把神書が俺の前にきた。


 表面には片目が浮かぶ。


「シュウヤ! 今だ。理が誕生した今だ! すぐに、死神ベイカラの力が宿るユイの腕に魔力を送れ。今のタイミングを逃すと、一生この魔術書の世界に閉じ込められるぞ――」


 必死なアルルカンの把神書が叫ぶ。

 分かっている。肩に相棒を乗せたところで――。

 ユイの片腕に魔力を込めた。

 ユイの片腕から死神ベイカラの力のような白い靄が湧く。


 そして、掌が開くと、握っていたガルモデウスの書から皆の魔力が魔線と魔印となって四方に展開。小さいルシヴァルの紋章樹が現れる。 

 そのルシヴァルの紋章樹と絡む魔線は、瞬く間に、魔刀を象る。

 魔印のようなモノは、その魔刀の刀身に沈む。 

 魔印を宿す魔刀は、ユイの魔王級魔族の名のアゼロス&ヴァサージの片方、アゼロスと似ていた。サーマリア伝承の歴史のある魔刀か魔剣と似ているが……。

 その魔刀を握るユイの片腕から白い靄が止めどなくあふれ出ていく。

 ガルモデウスの書から出た魔線は、そんな白い靄を沸々と生むユイの片腕に絡むと、ユイの片腕は魔刀を縦に振るい――宙を斬った。

 否、世界を斬った直後――世界は震え――視界が、ぐわらりと揺れる。

 銀河団らしきモノが点在した不可思議な視界となった。

 古びた金属の独鈷に漆黒色の粘液に絡まっているのが見えた。

 が直ぐに、その漆黒色の粘液は散る――。

 

 ――『シュウヤさん――』『ありがとう――』


 と、声が響いた気がした。

 更に、背中から女性たちの手に押し出される感覚を得た刹那――。

 ――右腕のブレスレット(同極の心格子)が振動。

 目の前に、片腕から血を流し続けて苦しそうなユイ。

 クナと、皆もいる。


「成功! 維持していた漆黒の魔力層はフィナプルスの夜会が取り込んだようです。完全に収束です」

「うん!」


 ここは、サビード・ケンツィルの魔迷宮の中。

 フィナプルスの夜会を試すために、クナに案内された部屋だ。

 特別な魔法の実験場で魔結界主のミイラ化している我傍と融合している部屋。


「……クククッ フィナプルスの夜会から戻ったぞ! ルマルディ!」

 

 アルルカンの把神書が叫ぶ。


「シュウヤさん! アルルカンも随分な喜びようね?」

「然り、然り」

「……痩せた? さすがの把神書様も苦労したと分かるわ」

「ゼオナと別れたからな」

「え?」


 驚くルマルディの下に向かうアルルカンの把神書。

 

 俺の頭上に古びた金属の独鈷が浮かんでいた。

 我傍の下にあったアイテムか。

 王牌十字槍ヴェクサードは床に突き刺さったままだ。

 我傍のミイラも、そのまま。


「――ん、シュウヤ!」


 驚いているエヴァは全身から出していた紫魔力を消去。

 浮かんでいたが、着地際に骨足の生成に失敗して慌てていた。


「閣下!!」

「よかった、生きて、無事に、うぅぅ……」


 ユイは泣いていた。


「ごめん、心配かけたな」

「……うん」


 ユイは涙を拭うと微笑んでくれた。

 

 ヘルメは下半身が液体となって水蒸気を出しまくっていた。

 闇蒼霊手ヴェニュー軍団が踊る。


「ご主人様ぁぁぁぁ」


 ヴィーネ……。

 抱きついてくる。

 頬に流れた涙を親指で取ってあげた。


「シュウヤ様……」


 クナもがんばってくれたようだ。


「ん――」

「うぁぁぁ――シュ、シュウヤさまぁぁぁ」


 キサラも心配していたようだ。

 あまり見せない顔つきで、ヴィーネの横から遠慮がちに抱きついてくる。

 ヴィーネはキサラのために離れたが、そのキサラはヴィーネの手を握り、


「ふふ、ヴィーネ、優しいですね。でも、わたしのことは気にせず、一緒に……」


 と発言。

 ヴィーネは微笑んでから頷く。

 キサラと一緒に頬を寄せてくる。


 エヴァも、クナも、ユイも寄ってきた。


「にゃお~」

「「ロロちゃん!」」


 相棒も嬉しそうだ。

 皆に向け触手を伸ばしてから各自の肩に飛び移る。


「ふふ、くすぐったいです」


 と、キサラの首筋に尻尾を当てて、エヴァの頬をペロッと舐めている。


「ん、ざらざらしてる! わたしもお返し!」


 エヴァが黒猫(ロロ)の鼻先にキスしようと窄めた唇を向けるが、気まぐれの相棒は「ンン――」と鳴いて、エヴァの唇を避けつつエヴァの首筋に肉球タッチを実行。


 そのままエヴァの肩をトコトコと歩くと、ユイの肩へと移る。

 ユイの耳に相棒は鼻先を突けた。

 

「あう」


 と可愛い声を出して体を震わせるユイ。

 黒猫(ロロ)はそのユイから離れてクナの足下に移動して、片足を上げて「ンン、にゃ~」と挨拶。


「ふふ、お帰りなさい神獣様」


 クナの笑顔を見て安らいだのは初めてだ。

 ルマルディと真剣に何かを語らうアルルカンの把神書を見てから……。

 皆の感触を味わうように抱きしめを強くした、皆の温もりを得て帰ってこられたと強く実感できた。


「ん、シュウヤ、辛いことでもあった?」

「あぁ、詳しくは今度」


 心配してくれているエヴァの頬を撫でる。

 ……幻ではない、可愛いエヴァだ、良かった……。

 頭上に浮かんでいたフィナプルスの夜会が床に落ちる。

 表紙には魔心臓と槍を持った男の飾りが付いた半球水晶があった。前には無かった飾りだ。

 その半球水晶の中にあった細かな粒子がスノードームのように煌めく。

 そのフィナプルスの夜会こと魔女ノ夜会集でもある、その魔界四九三書の一つが自動的に開いた。

 捲れていく頁が風を受けたように自然と止まる。

 

 その止まった頁には、挿絵があった。


 挿絵は……立体的な油絵となる。

 笑顔で手を握り合う女性のドルライ人とアニュイル人。

 周囲は笑い合うドルライ人とアニュイル人たち。

 その中心で手を握り合う二人の女性が、ルエルとリャイシャイだと、すぐに分かった。

HJノベルス様から、最新刊、小説版「槍使いと、黒猫。」11巻が2020年6月22日に発売。

コミックファイア様から、最新刊、漫画版「槍使いと、黒猫。」2巻も2020年6月27日に発売。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼女たちのその後は、明白に示されたわけではないけど油絵の中に映る姿という仄めかされた情景は思い起こせるようでとても好きです。真面目にこの作品中で屈指の話の締め方に感じました。 [一言] フ…
[一言] シュウヤ。サブシナリオをRTAで見事ハッピーエンドに導く これ、ヘタしたら戻れなくなっていたのか。外の皆にも心配かけたし、今後怪しげなアイテムを使う時はもっと注意しないといけないな・・・ …
[一言] いろんな名前が出てきましたが、二人しかわからなかった。 幻魔ライゼンはアドゥムブラリがちょっと語ってましたね。 魔公爵ゼンは、悪夢の女神ヴァーミナを攻めている敵の一人だったかな。 フィナプル…
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