五百九十三話 魔術研究室
転移した場所は研究室?
天井に煌びやかな魔力の紋が浮かんでいる。
部屋の彼方此方から、出た魔力の波が、綺麗な色合いの粒になると、クナに向かう。
クナは気持ちよさそうに両手を広げていた。
部屋中から集まる魔力の粒を全身に浴びて、自身の魔力を回復させている。
そのクナは華麗に振り返った。
豊かな胸が揺れる。
その胸を触るブロンドの髪を、手の指で優しく退かしつつ……。
「皆さん、いらっしゃいませ。魔術研究室にようこそ♪ 好きな場所で寛いでください」
「……おう、散らかってるが……」
と、ルマルディさんを見る。
見知らぬ場所に転移している状況だし、客人だ。
「ルマルディさん、散らかってますが、とりあえず、避難は完了です」
「うん。驚いたけどありがとう。見ず知らずのわたしを助けてくれて」
「いえいえ、出会ったことが重要。ロロを気に入ってくれたことも好印象。ま、理由は知りませんが、追われていた状況のようですからね……アルルカンさんもどうですか?」
「……礼は言う。だが、ここは、ヘカトレイルではないのだろう。ルマルディ! 用心しろ」
「……声を荒らげないでアルルカン。大丈夫よ。それと、その魔力を外に出しちゃだめ。わたしの衣服を燃やす気?」
「これは俺の仕組みだ、我慢しろ」
アルルカンの把神書は炎の力もあるのか?
すると、クナが、
「……アルルカンの把神書さんの言うとおり。ここは魔迷宮の一室です」
「だろう……七魔将が支配する迷宮、ヘカトレイルに近い」
と、アルルカンの把神書は、威張るように風を発生させた。
そして、オレンジ色の炎で曼荼羅魔法陣を彩る。
綺麗だが……攻撃の能力はある。
「……なんの魔法か分からないが、半透明のオレンジ色に輝く魔炎か……アルルカンさんよ、暴れるなよ?」
と、ルマルディさんとアルルカンの把神書に注意。
俺は魔闘術を意識しながら圧力を強めた。
「シュウヤよ。俺は魔術書だ。気にするな、が――」
――いきなりか。
炎の一部を飛翔させてきた。
俺は、逆手に持った王牌十字槍ヴェクサードを振るう。
十字架の柄で、その炎をぶっ叩いて消失させた。
「――ひゅうぅ、その十字架の槍は聖槍か魔槍か……」
そう語るアルルカンの把神書。
ま、想像はつくが、あえて聞く。
「どういう了見だ?」
と、
「クククッ、いい面だなァ。分かってて聞いてくる心根もいい。男だな、お前は……そうだよ、俺なりの助けてくれた礼の挨拶だ。そして、今、纏った魔力の質と操作技術を見てナ……俺の心が滾った。シュウヤという魔槍使いの心意気を試させてもらったんだ」
アルルカンの把神書か。
渋い声音だし、男気を感じる口調だ。
ルマルディさんは理知的。
だが、このアルルカンは、魔法がメインの武闘派か。
「……そうかい、で、納得したか? それとも、王牌十字槍ヴェクサードの<刺突>を味わってみるか?」
「……俺のせいではあるが、そう迫力を出さないでくれや……」
「俺も滾ったといえばいいか?」
「……面白い男だ。俺を試すつもりか。それにしても、流れるような魔槍を扱う技術だったぞ。相当な修羅場を潜ってると認識した。武術連盟に所属した神王位クラスだろう。セナアプア闘議会トーナメントでも勝ち抜けるとも認識した」
アルルカンの把神書は、俺の挑発に乗らず、低音で喋る。
俺は構わず……。
<血魔力>と<血鎖の饗宴>を意識した。
アーゼンのブーツを壊さないように血鎖を足先から出していく。
そして、ルマルディさんをジロッと睨み、
「ルマルディさんも試すか?」
「ううん、うううん」
慌てたルマルディさん。
声が少女のように上ずっていた。
「……お、恩人に対してそんなことはできない。それに……」
あれ……。
なぜか、頬を斑に赤く染めている。
「シュウヤさん、空極の名にかけて、あなたたちと争わないと誓うわ。それと、これも預けておく……」
手首に嵌めていたブレスレットを俺に差し出してきた。
魔線が何十にも絡み合って、金属のブレスレットの模様を煌びやかな色合いに変えている。
中心に曼荼羅に囲まれた小さい心臓のような意匠があった。
魔力量といい高級品だと思うが……。
「空極の渾名が分からないが……そのブレスレットは?」
そう聞くと、ルマルディさんは気恥ずかしそうな表情を浮かべて……。
「同極の心格子」
と、ブレスレットの名を告げる。
視線を傾けて、俺をチラッと窺うとまた、視線を逸らすルマルディさん。
「おぃぃぃぃ、まじかよ。ルマルディ! それを手渡すとは……一瞬で、そこまで、なのか」
アルルカンの把神書から影のようなモノが堕ちたようにも見えた。
そのルマルディさんは、頷く。
と、うっとりしたような表情で俺を見る。
そして、
「……うん。これはアルルカンの把神書の能力を拡充する。わたしの能力も同時に引き上げて、アルルカンとわたしを繋ぐ大切な代物……あと、これがないとアルルカンの把神書は、その能力の半分も使うことができないんだ。わたしの命みたいなもの、ハートよ……弱点でもある――」
ルマルディさんは優しげな笑みを浮かべて、最後にウィンク。
魅力的な女性だ……。
「大切な物を……分かった。一時的に受け取る」
「……ありがとう」
俺がブレスレットを握ると、嬉しそうに微笑む。
ルマルディさんは、大人びた女性で素直に可愛い。
「あぁぁ、受け取ったか。受け取ってしまったのかぁぁ。ルマルディの告白を……シュウヤ。お前は【円風】のガイとリュウガに恨まれる。いや、確実に剣と魔刃で貫かれる。そして、セナアプアのすべての男たちから……恨まれる。隠れルマルディ親睦会と争うことになるのは必定……」
告白だと?
と、ルマルディさんの顔は斑どころか、真っ赤だ。
え、そういう意味だったのか。
周囲から、矢のような視線が……。
「へぇ」
「ん、もてる」
「でも、早すぎない?」
「瞳を凝視したし、血の力を見た。槍も見たし、ルシヴァルの宗主。仕方がない。それに、今の槍の動かし方はわたしもドキッとした。カッコよかった」
「あの血鎖を足下に出した構えは、確かに、迫力があったわね……」
「はい。しかし、しかしです、うぅぅ、苛ついてきました……<補陀落>の出番ですか? ヴィーネさん、許可を」
「……許可はしません」
「シュウヤ様の女が増えるのですね。やはり、精力が強いと頼もしい♪」
「閣下の新しい眷属候補でしょうか、いい判断です」
「ン、にゃ~」
皆の言葉には、あえて、反応しない。
「……円風? すべての男たちから恨まれるか」
と、発言。
「そうだ。しかし、空極のルマルディが、なぁ……初めての女の面だぞ?」
「……うるさいアルルカン、今なら折り曲げることもできちゃうぞ?」
アルルカンの把神書を細い両手で、折り曲げるように握るルマルディさん。
「……ははは、分かった分かった、から、手を、離そうな?」
「……」
「ルマルディ?」
アルルカンの把神書は渋い声だが、乾いた声になっていた。
そこで、手を離すルマルディさん。
そのルマルディさんは蒼い瞳で俺をジッと見て、
「シュウヤさん。このアルルカンが余計なことを言ったけど、事実だから……迷惑だったらごめんなさい。急だし……」
「謝る必要はないさ。好意は好意。そして、すぐに好意を伝えることができるルマルディさんは勇気ある素晴らしい女性だと思う。中々いない」
「……あ、ありがとう。素でそこまで褒めてくれた男性は初めて……」
と、ルマルディさんと見つめ合うと……。
「ここは二人だけの空間じゃないんだけど!」
「……<補陀落>を許可します」
「……この怪しい部屋ごと、ルマルディさんを、ぶっ壊す?」
「ぶっ壊す!」
「ンン、にゃぁ~」
「えっと……」
「な、眷属たちが! 俺が相手だ……」
ルマルディさんを守ろうとするアルルカンの把神書は頁が自然と開く。
そこから魔法の文字が自然と浮かんで、何かの人形を模る。
「待った、ここでおっぱじめるな」
「……」
「そう怒るなって……」
「ん、嫉妬した。けど、自然と見て、嬉しく感じた」
エヴァはそう語る。
「そう。何故か、率直なルマルディさんのことで嬉しく思えたし、でも、嫉妬して混乱しちゃう」
ユイ……。
俺はユイの乱れている髪を直してあげた。
ルマルディさんも、
「気を悪くしたのなら謝ります」
「……あ、ううん、尊敬できる部分を女として感じたから、少し声が大きくなった。わたしこそ、ごめん」
「ん、気持ちを伝えるって重要」
「はい、いつ何時何があるか分かりませんから、その点で、ユイとエヴァが、ルマルディという生意気な雌に共感を覚えた部分は当然ですよ」
と、鋭い目つきのヴィーネさんが語る。
転移する前はイチャイチャしていただけに、テンションが一番ヤヴァイのは彼女かもしれない……。
そっとしとこう。
キサラは、ダモアヌンの魔槍をアルルカンの把神書に向けている。
「うふ♪ 皆さん、研究室をぶっ壊す! のは駄目ですよ」
「うん、大丈夫」
そのクナから視線を外して部屋を観察。
右端に石机がある。
本棚もあるが……。
やはりクナはクナか。
彼女の店を物色していた頃を思い出す。
石机には、手紙やら書類やらがめちゃくちゃに乗っている。
そのほとんどが、闇ギルド&闇のリスト&地方の有力者宛てかな。
モンスターの販売リストとかもありそうだ。
俺が倒したが……幻獣ハンターの女性はどうなっただろう。
床にも色々なアイテムが散らかっていて足場に困る……。
書物は、素寒貧のトッド、猖獗たる隣人、ル・ジェンガ・ブーの一族の裏切り者、ベンラック闘鶏大会の秘密、闘鶏に強いトンラ鳥の育て方、伝説の十四階層踏破者たち【クラブ・アイス】の行方不明事件。
剣類は、グラディウス、ブロードソード、シミター、ファルカタ、ファルシオン、七支刀、ソードブレイカー、ショーテル、マインゴーシュ、パイルバンカー、宝蔵院胤栄が使いそうな十文字槍。
溝がV字型の剣は扱いやすそうだ。
他にも、杖、鎖鎌、骨のイヤリング、鉢、怪しい大人の玩具、埃及魔術教本、ガムテープ、北斎漫画風の絵が動く魔法書、接着剤、ターコイズブルーの魔宝石、壺、瓶、内臓が入った透明な硝子、分度器、鎖で結ばれた電子レンジ風の箱、熊の頭部、河童の皿? 人骨、巨大な樽椅子と繋がるヘッドホン的な拷問道具。
頭部に被るやつの内側に、ドリルが付いている……。
外側は、呪符が付いて、音響装置風の金属の耳当てと、万力のようなネジ回しがあった。
ドリルで頭を穿ったら大概は死ぬだろうに。
まぁ、魔人やら吸血鬼やらを想定した拷問器具か。
しかし、怖い拷問器具だ。
顔が異常に大きいフランス人形風のものもあった。
隣の人形は……片手に出刃包丁を持った人形。
この人形が動いたら……まさにリアル『チャイルド・プレイ』、ホラー映画も真っ青だ。
「ん、散らかってる」
「ごめんね、片付けられない女なの。これからは努力をするわ♪」
「うん」
「クナの魔力に反応している魔道具が多い」
ユイが、足下に転がる髑髏を神鬼・霊風の柄で突く。
「そうですよ。わたしの魔力に呼応する仕組みのアイテムが多いはず。分身体が変なことをしていない限りは……」
クナの言葉を耳にしながら……俺は土偶を注視。
四つの角を生やした頭部。
奇妙な形の腕を四つ持つ男性の土偶。
股間の位置にある松茸風の力強いチンコさんが、これでもか!
というように、青筋を立ててアピールしている。
戦車に乗ってはいないが……。
魔王マーラ様かよ。あ、どっかで見たような……。
この土偶、邪神か?
ペルネーテの五層と十五層と二十層に十個の邪神像たちが鎮座した寺院があった。
だとすると十天邪像の鍵?
俺が持っているアイテムボックスの中には、元々、十天邪像シテアトップがあった。
そして、俺の第三の腕と化しているイモリザの前身は、邪神ニクルスの第三使徒リリザだった。そのリリザが持っていたアイテム類の中に、十天邪像ニクルスもあった。
今もそのニクルスの鍵は持っている。
「……クナ、シテアトップの鍵は、元々、アイテムボックスの中に入っていたんだよな」
「はい、十天邪像の鍵。少し前にアイテムボックスに入っていたことを、シュウヤ様から聞いて知りました」
「分身体のクナは、太陽の腕輪と名付けていたアイテムボックス。操作しても、表示された文字が読めなかった。と、地下オークションでは秘宝だと聞いて、貯金をすべて使って買ったとも聞いたな」
あの時の語りようは……。
「はい。適当にアイテムを押しても、肝心のアイテムが出てこない時もあったんですよ。わたしの分身体も、太陽の腕輪を操作するときは同じだったはず」
「分身体のクナが、俺を魔迷宮の牢屋に入れた際の表情と態度を思い出す……」
「<吸魂>で倒した時ですね」
「そうだ」
「ぐふぅ♪」
「どうした? 急に、興奮して……」
「……シュウヤ様と一体化している、わたしの分身体のぐちゅぐちゅなエキスを想像したら」
「……おぃ、そんなことは想像するな……ゲル状の謎物体とかを想像しちゃったじゃないか」
すると、エヴァが、
「ん、シュウヤ。その土偶は……邪神?」
邪神シテアトップの名を出したからな。
「そうだ」
「覚えている。五層と二十層の古代寺院のような遺跡にあった像の中に、これと似た像があったわね。股間は除くけど」
ユイがそう指摘。
「はい。十天邪像の鍵で、その像の中にある秘密の空間に入ることができました」
「ん わたしたちイノセントアームズは、その邪神シテアトップの一部と戦った」
「ン、にゃ」
「邪神シテアトップ……思えば、五層のすべては……そのシテアトップが支配する領域でした」
ヴィーネの言葉に頷く皆。
「そう。五層も広い世界だったから、信じられないけど」
「二十層は更に広い世界、違う世界でした。そこを冒険しました」
ヴィーネがそう短く語る。
二十階層は、色々とあるな……。
デイダンの怪物とラグニ村とキレたちとの戦いに、白銀の宝箱を得た魔宝地図。
おっぱい教が揺らいだ守護者級との戦い……。
血獣隊と出かけた魔石狩り。
ムビルクの森と助けたムク。
トグマと戦った。
ルリゼゼは言わずもがな……。
イシテスさんは元気だろうか。
地形を変えることもしているが……。
「寺院の邪神像の奥の部屋にあった水晶の塊から二十階層の邪神像の中に転移した」
「そうして、わたしたちは前人未踏の二十階層に到達!」
ユイは神鬼・霊風の鍔の飾りを俺たちに見せるように持ち上げつつ語る。
レベッカがいたら、同じようなポーズを取ったはずだ。
そのユイが、
「結局、ペルネーテって、邪神たちの邪界ヘルローネと繋がっているってことでしょう?」
そう、皆に聞いてきた。
ヘルメも頷く。
「はい、千年ちゃんが変化した際に、邪神シテアトップも色々と語っていました」
「歌う植木かぁ」
演歌からブルースまで、多彩だった。
「千年の植物だな。思えばシテアトップから……樹木を操る力を授けてもらった」
「シュウヤが前に言ってたけど、ツンデレな虎邪神?」
「……そういうことになる。<破邪霊樹ノ尾>とエクストラスキルの<邪王の樹>を獲得できた」
「それはシュウヤが倒したからでしょう?」
ユイがそう聞いてくる。
「それはそうだ。俺たちは戦った。シテアトップを逆に吸収して倒しはした。だが、結局は最初に語っていたように邪神シテアトップが、己の能力を、俺に与えたことに変わりはない」
「……なるほど」
「まさに強烈なツン? 邪神シテアトップの一種の洗礼かな……」
「ん、光魔ルシヴァルが邪神シテアトップに利用されているとも言える?」
「そうかもしれない。この惑星セラがある世界に、俺と融合したシテアトップの力を、<邪王の樹>の邪界製の樹木をあちこちに出している状況ってことになる」
「そう考えると……邪神シテアトップの作戦にまんまと乗せられた形なの?」
「なんとも言えない。邪神シテアトップは鎖に繋がれていた」
「ん、シュウヤが解放してあげた」
その際にも、強烈なスキルを獲得した。
邪神ニクルスの第三使徒を引き抜くことに成功したスキル<霊呪網鎖>を獲得できた。
ホフマンにも通じることだが、遠回しに俺を援助したとも言えるか?
「そうだ。素直じゃない敵だらけの邪神シテアトップにとって、最初から自分が信用されないと分かっているから、わざと乱暴な口調で俺たちと戦うように仕向けて、俺たちが、自分の力を得る資格があるのか? と考えて試していたのかもしれない。或いは、俺が納得いくかたちで、俺の強化を促したのかもしれない。俺は、駒になるのは嫌だと言ったからな。更に、神だろうと我が道をいくって感じのニュアンスで、偉そうな啖呵を切った覚えがある」
「ん、わたしたちが死ねば、それだけの力しかない者で終わっていた。わたしたちが、邪神シテアトップの一部を倒せば、それだけの有能な者に力を託すことが可能……」
邪神シテアトップと戦った時、
『ヌハハハハハハハッ! 使徒の槍使いよ、求めよ、さらば与えられんっ、だがぁぁぁ、やっぱり簡単には、力を授けてはやらない……ンギャッハッ』
とか、喋っていた。
「身を犠牲にしてか。戦って父さんもわたしも傷を受けたけど……不思議と親近感を覚える。見た目も虎でロロちゃんに近いし」
「あの時はわたしたちも必死でしたからね」
「うん、パクスを倒して邪獣セギログンも倒したけど、あの時の経験があるから、今のわたしたちに繋がるし、感謝?」
「それはどうでしょう。邪神シテアトップにとって数千年ぶりの好都合な相手だっただけかもしれないです」
「どちらにせよ、色々と深いわね。<光邪ノ使徒>もあるし邪神ニクルス側が黙っているとは思えないわ」
「……」
『ふ、ユイの意見に賛成だ。貂も何か言いたげだが、妾しかここでは喋れない』
と、沙が念話してきた。
『何を言いたいんだ?』
『そのシテアトップは、尻尾が十本あったと聞く。しかも減って九本。その一本の尾はシュウヤの力になっている。そのことは他の邪神たちにも知られているはずだと』
『そうだろうな。そういえば、貂も尻尾がたくさんあったな』
『ふむ、邪界ヘルローネと神界セウロスは敵対しているが、ある種の繋がりは、あるのかもしれぬな……』
沙がそんな真面目なことを。
まぁ可能性は皆無ではないだろう。
「……尻尾の一つを失ったシテアトップはご主人様に接触してきましたし、試験か洗礼でしょう。邪神アザビュースという光を扱う邪神に負けて、囚われていましたし、その可能性が高いです」
「利用されるのは、気に食わないけど……」
「いまさらだな。ヒュリオクスよりはマシ。他の邪神の眷属たちも居るし、邪神シテアトップでよかったと思いたい」
俺がそう告げると、ヴィーネが、
「はい。ペルネーテは、横に倒れた黒き環に立つ都市ですから、遅かれ早かれ、あの都市で活動していたら、接触はあったでしょう」
と、発言。
「邪界ヘルローネとセラの境界が、迷宮都市ペルネーテ」
黒き環の縁の一部は、迷宮都市ペルネーテに入る時に見ている。
「ヴェロニカ先輩も話をしていたけど、教会勢力と戦う邪神系の使徒がいるようだし」
「ん、邪神の使徒……ヒュリオクスの使徒パクスと、わたしたちは戦った」
「うん、かなり強かった。シュウヤが傷だらけだったし。あ、蟲の使徒と言えば、フーもだけど、エルザの左腕のガラサスよね……」
「……あぁ……」
と、話を聞いていたクナが溜め息を吐く。
ガラサスが苦手らしい。
「クナのことが好きなガラサスね。あの変わった蟲ちゃんは、邪神ヒュリオクスから分離して離反したようだけど」
ガラサスは俺の血よりも、クナの血を欲していた。
俺的には、エルザのおっぱいを掴んだガラサスさんという印象が強いが。
「……なんとかの血脈の力。フランとか、大騎士レムロナと同じ一族?」
「タザカーフの血脈だろう。レムロナ&フランの姉妹と繋がるかは分からない。エルザは幽鬼族の亜種と語っていたし、融合したらしい」
「うん、ルシヴァルと同じような新種族かもしれないわね」
「たぶんな」
「どの魔界の神か不明だけど、魔界の眷属も、その教会勢力と邪神の使徒と争い始めたとか」
「その邪神の鍵を扱う不思議な子供の冒険者クランも居たわよね」
「Sランククラン【蒼海の氷廟】のアレンとアイナの双子」
肩の竜頭金属甲の頭部に備わる魔竜王の蒼眼の片方は、その双子が持つ。
「……ペルネーテも争いは絶えないわね」
闇ギルドの争いもある。
魔界なら宵闇の女王レブラの使徒シキ。
通称コレクターもいる。
混沌の夜の戦いの時に、俺たち側について戦い、接触をしてきた骸骨魔術師ハゼスも、その部下だ。
あの時は、ヴァルマスク家の<筆頭従者>のホフマンも俺の側だった。
時獏もいたな。
そして、大都市ならではの戦いはありまくりだろう。
エヴァ、ユイ、ヴィーネが土偶を凝視しながら語り合う。
キサラも、
「では、その土偶は、十天邪像の鍵ということでしょうか?」
「どうだろう。クナ、これは十天邪像の鍵か?」
とクナに向けて聞く。
すると、クナは妖艶な雰囲気を醸し出す。
なぜか、俺の股間を凝視。
「そういった代物ではないですよ……」
クナの唇がエロい。
「念のため、触るのは止すか。股間がリアルだし」
「ふふ、ペルネーテの魔法街〝トラチントラ〟の店で買いました。触っても平気な部類です。あそこを触れば、効能は魅力が上がり精力がつく? うふ♪ 大腰筋の筋肉が活性化する効能があるようですね♪」
……エロい口調で語る。
チンのところで、ニュアンスが変わっている。
クナらしい。
「そうなんだ、シュウヤ使う? 腕なら第三の腕もあるし」
ユイさんも釣られるな。
「ん、ちんちん触って、えっち大魔王がえっち大大魔王になっちゃう?」
エヴァも乗ってくるし、
「美人がちんちんと言わない」
「ん」
エヴァは舌をチョロッと出す。
「しかし、だいたいどうやって使うんだ」
「ふふ、腰にぶらさげて、アクセサリー?」
「はは、新しいアソコってか? おニューな、ファッション?」
と、腰を振る。
「閣下の新ポーズですか!」
ヘルメが大反応。
「ん、ふふ、レベッカがいたら、ツッコミが絶対にきた」
蒼炎ラケットのドライブスマッシュが、頭部に決まったか。
いや、股間に決まったかもしれない。
「ははは、確かに」
「にゃおぉ~」
相棒はゴロにゃんこ。
黒豹のゴロにゃんこだから、迫力がある。
俺は少し腰を振った。
あはは、と、皆も笑う。
さすがに、違うチンコさんを、腰にぶらさげて歩けない。
マーラ様は信仰していないし。
ゲストのルマルディさんも笑っていた。
沈黙しているアルルカンの把神書は微動だにしない。
「ははっ、話を切り替えるぞ。で、クナ。この部屋で気になるところはあるか? 分身体はここを使っていたんだろう?」
「はい……ありました」
と、笑顔から一転、自らの唇を噛むクナ。
唇から血が流れている。
そのクナが睨むアイテムがあった場所は、鏡台?
そのクナは睨みを強めて、鏡を凝視。
「……糞が、偽物め……わたしの大事なコレクションのアイテムを……シュウヤ様に見せようとしていたのに……」
月の意匠が施された魔道具。
鏡の部位と、植物の部位が、ひび割れて、大きく破損していた。
「――ん、クナ。その鏡は大切なアイテムだった?」
エヴァが大きな声で聞いていた。
クナも頷く。
「そうなの! 遠い異国の出来事を時間差なく、映すことができる鏡……月霊樹の大杖と連動した〝月霊鏡〟」
あ、そのアイテム。
アイテムボックスにあった。
と、素早くアイテムボックスを操作。
「――これか」
「はい! って――いいんですか!?」
と、月霊樹の大杖をクナに投げて渡した。
「いいんだよ。クナがいて善かった。それに愛用していた大杖だろう」
「嬉しい、シュウヤ様の匂いが付いた月霊樹の大杖…………とことん付いていきますから……お覚悟を……ぐふ♪」
「ん、最後の笑みは怖い。けど、よかった」
「はい!」
「その杖があると、どんなことが可能なの?」
と、ユイが聞くと、クナは、
「勿論、月霊樹の攻撃&防御の魔法ですが、こっちの月霊鏡に映像を出すキーにもなっていました。他にも効果はあります」
魔法の蘊蓄は長くなりそうだが、それなら、こっちが先だ。
「――このフィナプルスの夜会を試そうか」
「おぉぉ」
「それが、アルルカンが反応を示していた……」
「魔界の四九三書を、試すのね……これを使うべきとクナが言ってたけど」
ユイはガルモデウスの書を出していた。
「ん、ここ魔迷宮だけど、大丈夫?」
「あぁ、そうだった。魔将のサビード・ケンツィルがいきなり転移とか?」
「ん、魔将って、魔族の親分さん?」
「ううん、闇神リヴォグラフの眷属で、全部で七人居るとか」
「魔迷宮は各地域にあるようですね」
「一応、そのサビードと面識はある……」
「……あ、そうか。ハンカイさんを助けた際ね」
ユイの言葉に頷く。
アメフト選手風の肩防具。
モビルスーツに肩ミサイルポッドを備えた感じだった。
「シュウヤって色々と繋がりがある」
「ん、占い師カザネの言葉もあるけど、運命神アシュラーもびっくりしているはず」
「魔迷宮は確かにサビードが管理しています。しかし、そのサビードは、ここには一度も来たことがないです。外に出る場合も多かった」
「へぇ」
「勿論、冒険者相手に戦うことが仕事の大半。捕らえて生贄に。そして、血肉を直に喰らう。魂を奪う仕事が基本でしたが……不思議とわざと負けて自ら逃げたりすることもあったのです。人族と取り引きをする方でもありました」
ミスティの兄、ゾルか。
「サビード・ケンツィルと対峙した時はよく覚えている。見た目のゴツさからくる印象と喋ったあとの印象では、かなり違った印象を受けたな……理知的で冷静な強者の雰囲気があった」
「はい、闇神リヴォグラフ様に捧げる魂と魔素が足りていれば、無駄な争いはしないタイプでした」
と、クナが発言。
サビードの部下だったクナは、さすがによく知っている。
すると、相棒がクナの前に歩いていく。
「ンン、にゃぁ」
黒豹ロロディーヌの大きい肉球判子の挨拶だ。
「ふふ、握っていいのですか?」
「にゃお」
と、相棒は前足をクナに握られていた。
「んじゃ、このフィナプルスの夜会に魔力を込めるとして、クナ、注意事項は?」
「あぁ、こちらにきてくださいまし……」
そう言うと、クナは黒豹の頭部を撫でてから、立ち上がる。
月霊樹の大杖を壁に立てかけたクナ。
くるっと身を翻して、背中を見せたと思ったら、壁に手を当てる。
クナの手形の紋様が出現すると、壁が一瞬でぐにゃりと湾曲。
またもや、その壁が自動的に動いて、新しい奥行きのある空間が一瞬で誕生した。
運動場のような……。
空気と魔力の流れが少し違う。
異空間か?
「この広い空間は、魔法の実験に最適です。そして、この先で、オカオとヒョアンが待っています」
そうクナが喋った。
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