五百八十七話 エヴァとクレイン先生
9巻発売記念のエヴァ視点です
ん、クレイン先生は縦に回転しながらトンファーを振るう。
――縦に迫るトンファーの軌道を一瞬で読む。
魔導車椅子を操作しつつ先生の横に移動――。
ん、車輪の一部から刃を出す――。
同時に、左右の手を突き出した。
その手が握るトンファーの杭刃が先生の胸元に向かう――。
クレイン先生は、一瞬、両手をクロスさせると、腕を迅速に振るった。
わたしのトンファーの突きを、金色のトンファーが弾く。
続けて、魔導車椅子の車輪から出した金属の刃も弾かれた!
トンファーの銀色と金色の軌跡を宙に幾つも生む軽棒術!
防御技術を扱うクレイン先生は凄い!
その先生は、軽やかなステップで、わたしのタイミングを外すと、体勢を前屈みに――。
ん、前傾姿勢で間合いを詰めてきた――。
金色のトンファーを持つ片手を伸ばしてくる。
ハーピーたちが好む霧を突き抜けるような鋭さで眼前に迫る杭刃――。
一つの槍のように扱う<刺突>系の技。
その金色のトンファーの切っ先を、先生の教え通り『十字受け』の技術で受けることに成功!
でも威力があるから、魔導車椅子が自然と後退した。
先生は、にっこり顔でわたしを見る。
「ひゅ~、エヴァ! いい防御だよ!」
と、口笛を吹いて、褒めると、バックステップで後退。
間合いを取った。
ポーズが格好いいクレイン先生は、トンファーをくるりと回す。
宙に円の軌跡を生みつつ、口を動かした。
「……わたしの軽棒術で防いでくれたとはいえ、わたしが出した技も、結構、自信がある基本技だったんだけどねぇ」
「ん、今の基本の<刺突>?」
「そうさね、わたしのフェンロン流は二本の棍棒術だけど、ね……色々とあるのさ」
ウィンクするクレイン先生。
でも、片手のみの突き技だった。
「一つの武器の突き技だった」
「そう、一刀流、一槍流に通じる基本。だけど奥が深い技でもある。この言葉を思い出す。『音を立てず魔力を広げず影の跡を残さずすべての動きは一に通じる』。『<刺突>に始まり<刺突>に終わる』ってのもある」
「ん……先生は、よく、その詩のような言葉で、技の意味を伝えようとする……」
「そうさね。昔戦ったことのある風槍流の使い手の影響もあるかな? 一の槍の教えって奴さ」
先生はエルフ。
人族よりも長生き。
だから、わたしの知らないことをいっぱい知ってる。
「ん、分かんない」
「ふふ、当時はわたしも分かんない。でも、今なら……」
クレイン先生は懐かしむような表情を浮かべていた。
「さぁ、師匠の立場を見せようか? <放風ノ体>――」
と、いきなり体がブレたと思ったら、前転――!?
前転からの踵落としが、目の前に迫る。
「んっ――」
息を発した、わたしは魔導車椅子ごと身を退く――。
先生は「いい判断と勘だ。けどねぇ――これはどうだい? <銀刺・金刺>――」
と楽し気な声を発しながら、左右の腕を交互に突き出すクレイン先生。
先生のトンファーの突きスキルは鋭い――。
けど、わたしも成長している!
左右のトンファーで、小さい円を宙に二つ描くように動かす!
クレイン先生の腕がぶれる速度で繰り出す連続的な突き技を往なす。
金色と銀色のトンファーの切っ先を弾くたびに、火花が散った。
金属音も鳴り響く。
訓練の服が焦げちゃった。
ん、でも攻める! 魔導車椅子ごと魔力を纏わせる――。
加速しつつ先生との間合いを詰め、右手のトンファーで胸を突く。
けど――。
あっさり往なされた。
魔導車椅子の加速した動きに対応してくる先生は凄い!
迷宮都市ペルネーテでは、六大トップクランに所属していた、と聞いたけど……。
この底の知れない実力は、それだけじゃない気もする。
胸が揺れるクレイン・フェンロン先生は、再び、間合いを取る。
すると、前傾姿勢のまま急激に近付いて、蹴りから「……<銀貫・脂抜き>」という打撃と刺突のコンビネーション技を繰り出してきた。
わたしも――。
身を反らし、蹴りと打撃に刺突を避け、躱して、受けた。
――金属の骨の足を、盾代わりに――。
先生が繰り出すコンビネーション技を防ぐ。
片手のトンファーを伸ばし、反撃――ん!?
避けられた。
ん、先生は踊り子のようなポーズ。
ゆらりとゆらりと、箱船に乗っているような所作を取りつつ後退する。
更に、足を交差させて動きを止めた。
クレイン先生はくびれた腰を生かすように、身を反らす。
柔軟性を生かすような仕草をくり返し、急反転――。
――今度は、刺突系の技を出してきた。
かと思いきや、トンファーを横にずらして、地面の枝を刈るような水面蹴り――。
――フェイント。
ん、――魔道車椅子の車輪を回して、その足下の蹴りを防ぐ――。
先生は素早く立ち上がりながら、
「はは、フェイントに掛からず、<天引き蹴刀>を防ぐとは、目というか、一流の霊感的な魔力本能の冴えか」
「ん――」
反撃にトンファーを先生の胸元に伸ばす。
金属音が鳴ったように、わたしのトンファーは、先生の銀色のトンファーで防がれた。
「――筋のいい突き技。けど、スキル化は、まだまだ遠いかな?」
「ん、しゅっしゅっと! がんばる――」
そう気合いを入れながら、先生を真似てフェイントしながら繰り出したわたしの蹴りは、あっさりと弾かれた。
「ははは、フェイントのつもりなのかい、エヴァっ子は正直過ぎる――」
陽気なクレイン先生は朱色の髪を揺らし横にステップして、横蹴り、避けた! 今度は銀トンファーを上に、金トンファーが下から来た! なんとか避けた――。
わたしを翻弄してくる。
クレイン先生は、魔闘術の配分を巧妙に変えた?
そして、エルフとしての力を証明するように、目元と頬を小さく朱色に輝かせる。
何かのマークが突然出現した。
「――エヴァ、軽棒術は中々さまになってきたね」
けど、一瞬、隙ができた。
そこを狙う。
「ん――」
紫魔力を宿す魔導車椅子を囮に!
分離は、かなりの魔力を消費する、ん、魔導車椅子を突進させた。
咄嗟に「チッ」と舌打ちしたクレイン先生。
魔導車椅子から逃げるように体勢を変えた先生は距離を取る。
その隙に、攻撃!
横から片方のトンファーの突きを出す。
先生は「フッ」と、嗤って対応してきた。
銀色と金色のトンファーを胸元でクロスさせる。
わたしのトンファーを、そのクロスした部分で受けて、魔力を背中から噴出しつつ後退した。
その噴出する魔力量と魔力の練り込まれた質に圧倒された。
思わず、動きを止めてしまう。
先生も動きを止めて、わたしを見た。
クロスしたトンファー越しの視線は厳しい。
けど、親しみを感じる。
「……やるねぇ、囮の魔導車椅子から刃も出すとは――」
褒められて嬉しい!
同時に威圧感が凄い。
でも、はねのける!
ん、一気に押し込む――。
左手のトンファーの突き!
避けられた! でも、矢継ぎ早に、右手のトンファーの切っ先を、クレイン先生の足下に出す――。
また、避けてきた!
金色と銀色の魔力を足下から出してステップをするクレイン先生は速い!
そして、片方の金色トンファーで、左に半円を描くと、わたしの下段のトンファー突きを弾いてきた。
でも――金属足の蹴りなら!
半歩下がった先生の胸元に金属の足の蹴りを繰り出す。
でも、クレイン先生は余裕――。
嗤いながら左にステップ。
わたしの足蹴りの機動を楽しみながら見るように、あっさりと避けた――。
先生の目は優し気、だけど、少し悔しい!
続けての左足の横回し蹴りも「甘い――」とトンファーを振り下ろして、わたしの金属の左足を叩き落としてきた。
体勢が崩れた、けど――まだ、これから!
鋼魔士としての成長をクレイン先生に見てもらう!
右手のトンファーの先を地面に刺し、そのトンファーで体を支えながら左足を突き上げる――。
――先生の顎を狙う連続蹴り。
その蹴り上げも余裕顔を浮かべた先生に避けられた。
わたしは隙を作らないように、背中を晒しながら回転機動に移っていた。
その回転機動で薙ぐ右手のトンファーを、クレイン先生の体に向かわせる。
頬と――目元が輝く先生。
わたしの横殴るトンファーを、あざ笑うように屈んで避けた。
構わない。
地面を突き刺していた右手のトンファーを上げ振るう。
え? 消えた。
――からぶった。
ううん、消えてない、先生は横に移動している。
「――うん、蹴りもいい、動きの質は冒険者としてかなりいい線だと思う」
また、褒めてくれた。
でも、まだ修業中!
息が苦しいけど――。
「ん――」
先生に向けて、金属足の前蹴りを出す。
片方のトンファーを斜めに動かして、一瞬だけ、魔力が活性化?
と、同時にわたしの金属足の裏を、金色のトンファーが突く。
「――え?」
足を突かれただけなのに、体が震えた。
――体勢を崩してしまう。
先生は目の前から消えた。
「あ……」
気付いたら首に刃の感触……。
先生は、背中に回って、トンファーの刃をわたしの首に当てていた。
完全に虚を突かれた。
ん、足の裏なんて、分からない……。
武器を仕舞う音が響く。
クレイン先生に振り向いた。
「……エヴァの軽棒術は、わたしがフェンロン流棒術を習い立ての頃よりも上だよ。かなり筋がいい。磨けばダイヤモンドの資質って奴さ。けど、金属足の蹴りの所作は、まだまだ隙が多いかな。それと、魔力を纏わせた魔導車椅子の分離も素晴らしい。発展の余地は多大にある。けれど……体力と魔力を多大に消費するから隙も生まれやすくなる。諸刃の剣、要注意だ」
「はい、ありがとうございます。でも、先生の最後の突き技は? 足裏から、全身が震えた」
「あれかぁ、ふふ、内緒って奴さ」
ん、先生はそう言って、過去をあまり話さないけど、フェンロン流の何かとは知ってる。
でも、あまり心が読めない。
……先生は何かある。
でも、綺麗でとても優しい人。
針でつついたような笑窪も好き。
大好きだから、そのことは言わず、
「……金属足はまだ分からない」
先生は頬をポリポリと掻きながら、
「足裏の感覚は生まれ持ってのモノだから、仕方がないさ、これからだよ」
ん……そう。
足の裏……元々ないから難しい。
「はい……」
「くよくよと、悲観はするなエヴァ」
「ん」
「紫魔力と魔導車椅子に<金属融解>を内包したエヴァの戦闘職業は、鋼魔士だったはずよね?」
「そう」
「前にも話をしたけど、その鋼魔士は<導魔術>系能力者、または、光斬糸の能力者に近い。けど、正直、どれにも当てはまらない。特異で傑出したパーフェクトオリジナルの戦闘職業さ。まさにエヴァ専用と言える。そして、その〝足〟という偉大な武器が、エヴァを照らし輝かせる日は、きっと来る……先が楽しみだねぇ……」
ん、強い先生に褒められると嬉しい。
でも、
「ん、わたし……」
自信がない。
「エヴァ。自信を持ちなさい」
「ん!」
「そうだ。その控えめだが、強さを秘めた笑顔は、男を虜にする。それに、内面から灯がともったような温かな表情は不思議と人を癒やす力がある。わたしが男だったらきっと気に入ったはずだよ」
男を虜……。
「……ん、先生。でも、わたし、好きな人できるかな、こんなわたしでも……」
ショーンお父様も、マリナお母様も、わたしを忌み嫌う。
醜い足を持つから……。
「何を言ってんのさ! エヴァは男爵家の令嬢様だろうに、男なんて選り取り見取り! 紫の瞳でイチコロさ」
「ん」
先生こそ、癒やしてくれる。
自信を持たせてくれる。
そして、気をつかって、足のことを言ってこない。
「先生、ありがとう」
「ほら、その笑顔は可愛いんだ」
すると、
「嬢様っ」
リリィが猛然と駆け寄ってきてくれた。
先生のことを睨むリリィは、わたしを守ろうと両手を広げていた。
ふふ、リリィ。
先生がわたしを虐めてると思ったのかな。
「ん、リリィ、大丈夫」
今日の午後にもSSを更新する予定です。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。11」最新刊が2020年6月22日に発売
コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。2」最新刊が2020年6月27日に発売。




