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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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五百七十九話 ダ・ゼ・ラボムとの激戦と自宅の匂い

 

 ヘルメの<精霊珠想>は動かない。

 手足の一部から<血鎖の饗宴>を出す。

 波頭の形となった血の鎖の群れは、灰色のオーラを飲み込み喰らう。


 瞬く間に灰色のオーラは蒸発。


「な!?」


 自慢の攻撃だったのか、灰色のオーラが消えたことに驚く蟻地獄の魔術師と大きな目。


 大きな目のほうの名前は、ハーム・レンギヌスか?

 そのまま<血鎖の饗宴>を操作――。


 血の鎖の群れを積層型魔法陣と繋がる大きな目(ハーム・レンギヌス)に突進させる。

 ハーム・レンギヌス(大きな目)は不気味に反応。

 蠢きつつ積層型魔法陣の内部へと、ぐにょりと、入り込む。


 そのハーム・レンギヌス(大きな目)と合体した積層型魔法陣はパンケーキのように分厚く変化――必殺技に近い<血鎖の饗宴>の群れの攻撃だ。

 そんなパンケーキ魔法陣なんて簡単に貫く――と考えたが甘かった。

 俺の血鎖を防ぐ。積層型魔法陣は蒸発しない。

 感触はコンニャク、すべすべしたモノ。

 血の鎖の群れは、ツルツルと滑って反り返る。


「コズミックウボゥがあっさりと消えたことには驚いたが、血の鎖は、我には効かん」


 自慢気だ、ならば――直に叩くか。

 すぐに体内の魔力の配分を細かく調整。


 ――<血鎖の饗宴>を解除。

 <魔闘術>も一旦、解いてから活性化。

 ――<魔闘術の心得>を生かす。

 キサラから習い途中の魔手太陰肺経も実行――。


 この丹田を軸とする魔力操作の神髄的なスキル化は、まだまだ遠いが……。


 丹田を中心に巡る魔力を自分なりに意識。

 修業は続ける! 押忍!

 の精神だ――と魔闘術を全身に纏い直す。


 王牌十字槍ヴェクサードを握る力を強める。


 この十字架の杭刃で新しい技を試すとしようか。

 あのハームなんたらという名の眼球を内包した積層型魔法陣と蟻地獄の魔術師(ダ・ゼ・ラボム)を突いてやろう。


 そう、零コンマ数秒も経たない魔力操作と思考を行いながら――。


 前傾姿勢で突貫――槍圏内に入った直後――。

 突くように出した左足のアーゼンのブーツの爪先から踵の底で、地面を踏み潰す。

 いや――地底を踏み噛む勢いを持って、<光穿>を発動――。

 光を帯びた王牌十字槍ヴェクサードを突き出した。


 穂先(<光穿>)の狙いは積層型魔法陣(大きな目)

 大きな目(ハーム・レンギヌス)を宿す魔法陣は反応!

 反撃に灰色の霧を出す。

 <光穿>の王牌十字槍ヴェクサードは、灰色の霧を霧散させる。


「またか!?」


 王牌十字槍ヴェクサードの杭が輝く。<光穿>は直進し、


「が、我の体は――」


 その喋りかけの大きな目(ハーム・レンギヌス)を貫通した王牌十字槍ヴェクサード。積層型魔法陣ごと大きな目(ハーム・レンギヌス)は悲鳴もなく消えた。しかし、物理属性もある魔法陣だったのか?

 <光穿>の勢いは止まってしまった。


狭間(ヴェイル)の干渉が少ないとはいえ、ここで大きな目(ハーム・レンギヌス)を貫くとは……」


 ダ・ゼ・ラボムは身を退く、刹那――。 

 ヴェクサードの幻影が王牌十字槍の真上に出現。

 ――胡坐の姿勢の怪人さんだ。


 同時に王牌十字槍ヴェクサードの握り手の部分から枝触手の群れが生えた。その枝触手が、俺の右手に突き刺さる――いてぇ。

 また血を吸う王牌十字槍ヴェクサード。激しい痛みを味わう。


 しかし、不思議な一体感を得た。


 輝く穂先を維持したまま王牌十字槍ヴェクサードの柄が膨れた。

 俺の血を栄養源としたのか王牌十字槍ヴェクサード。

 魔槍杖バルドークと似ているのか。

 その王牌十字槍ヴェクサードの穂の下の螻蛄(けら)首と、口金の辺りに、白銀色に輝く魔印が出現するや否や――。

 膨れた王牌十字槍ヴェクサードの柄から血塗れの剣刃が無数に生まれ出る。


 ふぐの針千本か? 槍剣バットの攻撃だ。

 そんな血塗れの剣刃の群れは、俺を避けながら――。


 四方八方へと突出する。その奇怪な攻撃に驚いたダ・ゼ・ラボムは、


「――槍から刃が生えるだと!?」


 と、叫ぶ。驚きつつもダ・ゼ・ラボムは、反撃。

 ゆらゆらと蜃気楼染みた銀色の魔法陣を出す。

 光り輝く血の剣刃の群れは、樹木的なジャングルジムでも作るように――。

 

 そのダ・ゼ・ラボムが反撃に出した揺れる銀色の魔法陣を貫き、破壊――。

 王牌十字槍ヴェクサードの針金バット、いや、槍剣バットの凄まじい群れの攻撃は光魔ルシヴァルの力を物語ような見た目と威力がある。


 そのまま王牌十字槍ヴェクサードから出た光り輝く血の剣刃の群れは、ダ・ゼ・ラボムに向かう。


 蟻地獄の魔術師(ダ・ゼ・ラボム)は紫色の巨大な魔剣を振るってきた。

 その魔剣を扱う技術は高い。ダ・ゼ・ラボムは魔剣師の能力も有しているようだ。

 王牌十字槍ヴェクサードの柄から出た光り輝く血の剣刃を、その紫色の巨大な魔剣で、弾き、折る――普通ではない強度の魔剣だ。

 針千本のようなジャングルジムを造るような血の剣刃を、根こそぎカットか。

 凄い相手に、


「お前は地底神なのか? 魔界の神か?」


 と思わず質問。


「ぬはは、魔界セブドラだと? 嗤わせる――狭間(ヴェイル)で弱まる雑魚神とは違うのだよ、雑魚神とはな!」 


 ダ・ゼ・ラボムは嗤いながら格闘戦を挑んでくる。

 肉触手の拳を繰り出す。続いて、紫色の魔剣で突いてきた。


 俺は左手で眼前に迫った肉触手の拳を弾く。

 更に、<槍組手>の肘の打撃を、肉触手に与えた。

 紫色の魔剣をヴェクサードで弾く。


 直後、ヴェクサードの幻影が俺を包む。


『聖戦士であり、狂戦士伝説を歩む者よ。この地底神の言葉を真に受けるな……地底神も同じ。魔界セブドラに渡ることはできん。魔界の神がセラ(地上)に易々と渡れないのと等しく次元の狭間(ヴェイル)が障壁となるだろう』


 と、ヴェクサードの幻影が語る。すると、彼の体術の感覚を得た。


 自然と動きが加速する――その独特な格闘技術を理解した。

 ダ・ゼ・ラボムの肉触手の一つを掴み、それを、ちぎり投げる。

 ひょろいダ・ゼ・ラボムの胴体に蹴りを加えた。


「な!? ぐぇぁぁ」


 追撃の前蹴りから、後ろ回転蹴りの連続蹴り――。

 流れる動作から王牌十字槍ヴェクサードの<刺突>――。

 ダ・ゼ・ラボムの胸元に決まる。

 王牌十字槍ヴェクサードから、ムカデのような蟲と植物の枝が飛び散った。


「ぐぁぁ」


 ※ピコーン※<怪蟲槍武術の心得>※恒久スキル獲得※


 おお、スキルを獲得した。

 風槍流を生かせる槍武術だ。

 ヴェクサードの幻影は消える。


「……我にダメージを……」


 回復の速いダ・ゼ・ラボム。

 魔剣を離さず身を翻しつつ語る。

 回転しながら紫色の魔剣を振り上げてきた。


「喰らえ――」


 ダ・ゼ・ラボムは紫色の魔剣を振り下げてくる。

 魔剣の根元の杖が神々しく輝いて眩しい。


 王牌十字槍ヴェクサードは対応。

 光り輝く血の剣刃が柄から突き出し――先ほどのお返しと言わんばかりに紫色の巨大な魔剣を貫く。

 そのまま光り輝く血の剣刃たちは、紫色の巨大な魔剣を生み出していた杖にダ・ゼ・ラボムの細長い腕にも蛇のように絡みつき、その腕を絞り破壊した。


 俺も追撃だ。


 ――《氷矢(フリーズアロー)》。

 ――《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》。


 を連続的に発射。

 しかし、ダ・ゼ・ラボムの蟻地獄の頭部たちは嗤いながら目を瞬く。


 魔法は一瞬で打ち消された。


 その間に光り輝く血の剣刃を格納した王牌十字槍ヴェクサードを引く。

 再び<光穿>を発動。


 そのまま王牌十字槍ヴェクサードの光る杭が、ダ・ゼ・ラボムの胸元に向かう。


 しかし、その瞬間――。


 ダ・ゼ・ラボムは瞳を輝かせる。

 魔眼の能力で、背後の空間を抉るように、背後に瞬間移動――。


 <光穿>を避けた。


「ぬははは、魔界の眷属か神界の眷属か不明だが、ロルガを屠るだけはある」

「動きも速いぞえ、我らの聖域でこれほどの動きを示す定命の存在は初めてだ」

「混沌の魔槍使いか……黒き環 (ザララープ)を渡るモノかもしれぬ」

「……どちらにせよ聖域が荒らされたのだ、他に示しがつかん!」

「そうだ。我らに手を出したことを後悔させてやる」


 蟻地獄の頭たちが喋る喋る。

 その喋る口と魔眼のダ・ゼ・ラボムは怖い、瞬間移動に時空属性は確実か。


 精神波の圧迫を受けた影響のまま様子を窺った。その蟻地獄の魔術師こと、ダ・ゼ・ラボムが縦方向に分裂。え?

 肩幅の一部を崩すダ・ゼ・ラボム。

 中央に一つの蟲型頭部を残して、二つの蟻地獄の頭は形を変えて胴体が縦に伸びた。体がズレて奇妙だ。

 

 二つの新たな上半身と頭部は、新しい胴体と防護服に触手が一体化していた。

 もう頭部は蟻地獄ではない。

 邪神の使徒パクスに近いのか?


 異常に長細い上半身。

 四つの腕もある。手には四本指だけ。

 その指も、また、異常に長い。エイリアンだ。新しい腕はひょろい魔術師らしい衣裳の胸元でクロスする。


 独特の構えを取りつつ長細い人差しのような指を二つ揃えて、掌をこちら側へと向けてくる。縦長のダ・ゼ・ラボム。


 あれが真の姿とか?

 ヘルメ立ちと似たポーズを取っている。

 ハンドマーク的な意味とかありそう。

 俺とヘルメに向けた掌の中心には、小さい口がある。口の中は、牙だらけ。

 三百六十度びっしりと生え揃った歯牙だ。


 長細い二つの胴体の下に残った蟻地獄の頭部は大きい。ひょっとして……。

 ひょろい体とあの残った頭部が本体なのか? 

 と、俺の左目から出ている<精霊珠想>のヘルメが反応した。

 ヘルメは上半身を美しく女体化させる。

 膨よかな胸元を揺らして、爪先に意識がいくバレリーナのように片手を悩ましく伸ばし、もう片方の手は額に当てての、アメイジングのポージング。


 衣の端から散る水飛沫は七色に輝く。

 ヘルメは神秘的で美しい。


 そのヘルメが散らす水飛沫の中では小さいヴェニューたちが泳いでいる。

 ヘルメの両手が輝いた。

 その輝きは<珠瑠の紐>ではない。

 真新しい短い魔槍が握られている。


 あの魔槍は……。

 鍛冶屋風のヴェニューたちが、レジーの魔槍を鍛え直していた短槍。

 完成したようだ。<精霊珠想>を解除。


「ヘルメ、外に出ていいぞ」


 瞬時に左目からヘルメの残りの液体が出る。上半身が美しいヘルメのもとに収斂。


 左目から出た水と上半身のヘルメは合体。


「閣下、一緒に戦います!」


 いつものヘルメの姿に戻った。

 その瞬間、対峙しているダ・ゼ・ラボムが、


「……獄界ゴドローンの礎、グンサファの滅烈を浴びよ」


 そう喋ったのは中央に残った蟻地獄の頭。ゴドローンの礎のグンサファとはなんだ? 魔法の名か?

 更にダ・ゼ・ラボムたちは、


「「うぬら、だれを相手に戦を仕掛けたか――身の程を知れ」」


 触手の頭たちと、蟻地獄の頭部が、ハモる。ダ・ゼ・ラボムは痩せた体から金色の牙を生やした触手の群れを生み出すが受けも躱しもしねぇ――。


「しらねぇよ」

「――知りません!」


 俺と気持ちを共有したように語気を荒くしたヘルメは二本の短い魔槍を振るうように左右の腕を振るった。その手から魔槍が離れる。

 <投擲>した一対の魔槍は直進し、二つの魔槍から赤黒い液体が迸った。赤黒い魔線群は四方八方へと螺旋の軌跡を生み出す。

 金色の牙を宿した触手群を貫くヘルメの二つの魔槍。


「「――ぬぁ? 魔界の力!?」

「「……魔界王子系の気配もあるが……得体の知れぬ攻撃ぞ」」


 そのままダ・ゼ・ラボムの体に突き刺さる。


「「ぎゃぁぁぁ」」


 ダ・ゼ・ラボムたちにも痛覚があるんだ。

 ヘルメは投擲した魔槍を手に引き戻した。常闇の水精霊ヘルメはくるっと回ってポージング。二振りの魔槍を扱う姿は格好いい。

 魔槍は点滅して消えかかっている。

 時間制限か、一回だけか。まぁ強烈だからな。


「ナイスだ――戻ってこい」

「はい~」


 ヘルメは魔槍を掌の孔の中に収納すると、女体を維持したまま綺麗な半透明の液体状に変化し迅速な勢いで、左目に突進してくる。

 飛び込み競技の選手を受け止める印象のまま液体ヘルメが、俺の左目に入水してきた。一流のノースプラッシュ。

 まさに、リップ・クリーン・エントリー! 少し左目は振動したが……目薬を受けつつマッサージを受けたような感触だった。


 左目が頗る気持ちいい。

 微笑みながら、右手の王牌十字槍ヴェクサードを構えた。


 再生しようとしている分裂したダ・ゼ・ラボムを見据える。

 ダ・ゼ・ラボムの痩せた体に赤い雷撃が走る。


 ヘルメの放った一対の短い魔槍は、赤色の雷撃効果を、与えられるようだ。


 ダ・ゼ・ラボムは痺れるような動作をくり返す。

 チャンス。

 手の一部と左足から<血鎖の饗宴>を実行。

 そして、右手の王牌十字槍ヴェクサードを離した。


 その王牌十字槍ヴェクサードの柄頭を蹴る――右手に魔槍杖バルドークを召喚。

 右肘のイモリザの第三の腕に聖槍アロステを召喚。


 痺れたダ・ゼ・ラボム。

 俺の魔闘術と<血液加速(ブラッディアクセル)>の速度に対応するような素振りはない。

 そして、蹴った王牌十字槍ヴェクサードが、ダ・ゼ・ラボムの下半身に突き刺さった。


 血鎖の群れは波頭のような形となってダ・ゼ・ラボムに襲いかかる。

 王牌十字槍ヴェクサードを壊さないように気を付けて血鎖たちを操作。


 ダ・ゼ・ラボムが持つ杖と、無数の多腕は、瞬く間に、血鎖に覆われて見えなくなる。


 しかし、ダ・ゼ・ラボムは、皮膚から小麦色の小さい三角魔法陣と紫色の魔印を無数に生み出す。

 血の鎖の群れに抵抗し、その血の鎖の群れを確実に消してくる。


 更に、ダ・ゼ・ラボムは――。

 半透明の巨大な魔印を体から出す。

 蛇のような触手も体内から吐き出すように出した。

 ――刹那。

 血の鎖は消えてしまった。

 しかし、ダ・ゼ・ラボムこと、蟻地獄の魔術師は弱っている。


 膨大な魔力が減退していた。

 血の鎖を対処するために、かなりの力を消費したようだ。


 動きは遅い。

 しかし、避けられ弾かれることはあったと思うが……。

 <血鎖の饗宴>が、ここまで完璧に消されたことは、初めてか?


 <血鎖の饗宴>――。

 ダ・ゼ・ラボムは血の鎖の免疫ができたように、血の鎖を簡単に弾く。

 やはり効かねぇか。


 <血鎖の饗宴>を収斂するように消失させる。


 その瞬間<血道第三・開門>――。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>を発動。

 速度を重ねるように血を纏う。

 前進し、右腕だけで<水雅・魔連穿>を発動――。


 魔槍杖バルドークと聖槍アロステのコラボ。


 俺の右手が持つ魔槍杖の嵐雲の矛――。

 イモリザの第三の腕が持つ聖槍アロステの十字矛――。


 二つの矛が蟻地獄の体を貪り喰う。


 嵐が吹き荒れ、聖槍が虹を作り世界を往なす。

 交互に魔槍と聖槍を突き出し続けた――。

 穂先から水飛沫が舞った。


 多段の突き技の勢いは凄まじい。

 ダ・ゼ・ラボムの触手で構成された頭部と長細い胴体を穿つ。


「ウガガガガガガ――」 


 肉腫が撓み奇声を発するダ・ゼ・ラボム。 

 血の鎖は対処されたが、加速の連撃に追いつけないダ・ゼ・ラボム。


 そして、まだ中央に残っていたダ・ゼ・ラボムの本体と目される蟻地獄の頭部も破壊。

 ダ・ゼ・ラボムの痩せた体を蜂の巣にしていく。


 が、


「ヌガァァ」


 と、まだ残っていた肉塊から声を振り絞るように出す。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>に対応してくるダ・ゼ・ラボムだった肉塊。


 纏わり付く声の質と雰囲気に、俺は退いた。

 ダ・ゼ・ラボムの肉塊は、再生するように膨れ上がる。

 足のようなモノを肉腫で作ると、蠢きながらその肉腫足で、前進。


 突き刺さったままの王牌十字槍ヴェクサードが揺らめく。

 そのダ・ゼ・ラボムの肉塊から出た不気味な音めいたモノが耳朶を響かせた。


 闇色の魔法陣が点滅しながらダ・ゼ・ラボムの背後に出現。

 強烈な臭気も漂った。


 強烈な精神波を出しているのか?

 目に見えない掌握察で捉えることのできない、何かの圧力(プレッシャー)も感じた。

 更に、その膨れたダ・ゼ・ラボムの肉塊は体を振動させていく。


「グアァァァラファ」


 叫ぶダ・ゼ・ラボムの肉塊。

 その体から金色の紋章を生み出した。


 紋章魔法?

 更に、肉塊の一部から紫色の波の形をした魔力を放出してくる。


 至近距離で飛び道具による連鎖攻撃か。

 が、紋章魔法には紋章魔法! 

 ――《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》、水の紋章魔法を金色の紋章魔法にぶつけた。


 相殺することに成功――。

 間を空けず――<血鎖の饗宴>を再び出した。

 ダ・ゼ・ラボムは血鎖の群れに対抗できる能力を獲得しているが、牽制だ。


 やはり、俺の血鎖の群れは通じなかった。

 紫の波はゴムか粘土か粘着性のある物質に変化して、グチャグチャと血鎖たちに絡まっていた。


 呪いか心の侵食を受けそうな気配だ。

 <血鎖の饗宴>を消去。


 その瞬間――左手を翳す。

 サラテンの説明はまだ聞いていないが――構わない。

 <シュレゴス・ロードの魔印>だ。

 左の掌を意識した刹那――。


 魔印から半透明でキラキラと輝く蛸足の群れが出た。

 その蛸足が、


『我が主――』


 と、俺に呼びかけてくる。


『主か。サラテンがお世話になったようだ。俺には、蛸足のシュレゴス・ロードさんという印象でしかないが、よろしく頼む』

『……我が主よ。我に頭を下げる必要はないぞ。我は使役を受ける身』

『そうか。直にシュレゴス・ロードのお前と対決したわけじゃないってのもある。ま、俺はこんな性格だ。理解してくれると助かる』

『承知した。礼儀正しい主よ。神剣とは違うのだな。我は安心したぞ』

『おう、攻撃を頼む』

『理解した。我は、まだまだ秘奥の一部しか力を出せないが、怖い神剣にぶっ殺された旧神の墓場の頃とは違うことを、生まれ変わった新しい力を、主に見せようぞ!』


 一瞬で念話は終了。

 シュレゴス・ロードの蛸足の群れは、ダ・ゼ・ラボムの出した紫色の波の魔力に突進していく。

 蛸足だが深海の未知の生物かクマムシを超えたエイリアン級の生命体にも見える。


 半透明の蛸足は、血鎖を止めた紫の波に触れた――。

 途端、その紫の波を、半透明の蛸足は体内に取り込む。

 瞬く間に半透明の中身が紫色に変化。


「うがぉ?」


 ダ・ゼ・ラボムは動きを止めている。


 シュレゴス・ロードは腹でも壊しそうだが……紫の魔力を内部で喰っているように蛸の足が撓む。

 その蛸足の一部が破裂してしまう。

 やはり、腹を下したか、吸い過ぎたのか?

 いや、相殺している蛸足もある。

 取り込むことに成功している蛸足も存在していた。


 その間に重ねて血の消費の激しい<血液加速(ブラッディアクセル)>を解除。


 紫色の波を吸収しきった強い蛸足だ。

 蛸足は進化した?

 色が変化し、吸盤と刺が新しくなって鱗の鎧を身に着けた蛸足が存在した。


 何か、蠱毒を生き抜いた蛇か蟲のようだな。

 強くなった蛸足の群れは、シュレゴス・ロードとしての力を示すように先端が鋭く尖る。尖った蛸足の群れは迅速に前進。

 動きを止めていたダ・ゼ・ラボムの塊に突き刺さっていく――。


 蛸足の矛のガトリングガン的な攻撃だ。

 しかし、ダ・ゼ・ラボムの肉塊は傷から銀色の血が噴き出すだけ。


 ダメージはあまりないようだ。

 突き刺さった状態の王牌十字槍ヴェクサードが揺れるのみ。


『シュレゴス・ロード。お前をまだ理解してないが、とりあえず紫の魔力攻撃は潰した。感謝だ』

『……主、照れる』


 蛸足は虹色に輝く。


『お、おう。今は消えてもらう』


 その瞬間、<シュレゴス・ロードの魔印>を意識、掌の魔印の中に収斂していく半透明の蛸足。


 その左手の掌に神槍ガンジスを召喚。

 続いて、右手の魔槍杖バルドークを消去。

 フリーハンドにした右手を前に出しながら、前進。

 ダ・ゼ・ラボムの肉塊に刺さった状態の王牌十字槍ヴェクサードを掴み直し手前に引いた。ダ・ゼ・ラボムの肉塊は仰け反って傷の孔を晒す。


 その孔から大量の銀色の血が迸った。


 その銀の血を吸い寄せながら――退く。 

 同時に王牌十字槍ヴェクサードを放りなげる――。

 攻撃ではない布石――真上に投げた王牌十字槍ヴェクサードを<導想魔手>で掴みながら、天を射すような右腕の掌に魔槍杖バルドークを召喚させた。切り札を使うタイミングか?

 さぁ、攻撃だ、と、その刹那――。

 点滅した半透明の魔法陣が出現した。

 その半透明の魔法陣は、銀色の血を垂れ流すダ・ゼ・ラボムの肉塊の前に出る。

 半透明の魔法陣は、金色に変化。

 先ほど放った紋章魔法陣の名残か?


 ダ・ゼ・ラボムの布石だったのか?

 周囲に引力のような力を放つ。

 俺の魔力と周囲の魔力を、金色の魔法陣は吸引していく。


 魔力を吸われる、うぐぇ――。

 魔竜王装備のハルホンクの防具を越えて、直にダメージがきた。


 更に、金色の魔法陣は、傷を受けたダ・ゼ・ラボムの肉塊をも吸い寄せる。

 と、黒々しい魔力に包まれる。刹那――。

 元蟻地獄の魔術師だった膨れたダ・ゼ・ラボムの肉塊は、黒々とした剛毛をごうごうと生やす。


 巨大な魔獣が持つような腕と化した。


 なんだあれは――。

 黒々しい豪毛を生やす歪で巨大な魔獣の腕となったダ・ゼ・ラボム。


 更に、ダ・ゼ・ラボムの拳から白銀色の爪が生える。

 古代狼族の類いではない。

 まさに地底神が一人に相応しい凶悪な魔獣系の拳と白銀の爪だ。


 俄に、足から<血鎖の饗宴>を出す。

 《氷矢(フリーズアロー)》と《氷弾(フリーズブレット)》を連続的に出す。


 通じないが、牽制にはなるだろう。

 俺の血鎖ごと魔法をあっさりと切断していく白銀色の爪。


 ダ・ゼ・ラボムの白銀色の爪は魔力波を出す。

 魔力波でも<血鎖の饗宴>を弾いていく。


 俺は横に移動した。


 魔力波は白銀色の爪が伸びた方向しか出せないようだ。

 巨大な魔獣腕は、血鎖の群れを潰しつつ加速。


 白銀色の爪で、俺を攻撃してきた。

 この形態はダ・ゼ・ラボム(こいつ)の切り札だろう。


 迅速な勢いで拳と白銀色の爪が迫る――。

 咄嗟に、アドゥムブラリの紅玉環を触り闇炎を放出。


「主~」


 指輪から小さいアドゥムブラリが応援してくれた。

 ダ・ゼ・ラボムを闇炎で焦がす。

 一瞬、ダ・ゼ・ラボムは動きを止めるが、闇炎を消すと、もう一度、俺に向かってきた。


 避けることのできない速度――。


 アドゥムブラリは逃げるように紅玉環に戻る。

 俺は右手の魔槍杖バルドークで白銀の爪の初撃を受けた――。

 続いて、肘から出ている第三の手が持つ聖槍アロステでも受ける。


 魔槍と聖槍で、白銀の爪と巨大な魔獣腕の攻撃を防ぐ、重い攻撃だ――。

 ダ・ゼ・ラボムの白銀の爪と巨大な魔獣腕の質量と合う。


 俺は踵が削れるように地面を抉りながら後退――衝撃を受け流すリコの技術を生かす――。

 無数の魔力を宿す火花が散る。

 白銀の爪が魔槍杖と聖槍の柄を流れていく。

 魔槍杖と聖槍で白銀の爪の攻撃を往なすことに成功。


 ――チャンスだ。

 <脳脊魔速(切り札)>を発動――。


 巨大な魔獣腕の背後へと緊急回避――。

 同時に左手の神槍ガンジスを意識。


 ――タフな野郎だ。

 ここで、巨大な魔獣腕と化した元蟻地獄の魔術師(ダ・ゼ・ラボム)を仕留める。


 その強者の怪物を倒す気持ちを、左手の神槍ガンジスと王牌十字槍ヴェクサードに乗せた。


 布石を実行。

 <導想魔手>が握る王牌十字槍ヴェクサードが急降下――。

 急降下爆撃の勢いで<血穿>を発動――。


 血を吸った王牌十字槍ヴェクサードの杭から大量の血が噴き出る。

 刹那、その噴き出る血が、血の刃と化した。


 歪で巨大な黒毛の獣拳(ダ・ゼ・ラボム)の上に、王牌十字槍ヴェクサードの杭と、その血の刃の群れが無数に乱雑に突き刺さっていく。


 血鎖には対応してきたが<血穿>は僅かに効いた。

 ダ・ゼ・ラボムの黒々しい巨大な魔獣腕は窪む。

 王牌十字槍ヴェクサードの物理属性が効いただけか?


 そのままダ・ゼ・ラボムの巨大魔獣腕を貫き、地面に突き刺さる王牌十字槍ヴェクサード。


 俺は槍圏内を維持したまま。

 右手から魔槍杖を消去。

 ダ・ゼ・ラボムに突き刺さっている王牌十字槍ヴェクサードを掴む。


 と、同時に巨大な魔獣腕を睨む。


「ダ・ゼ・ラボム! アディオスだ!」


 左手の神槍ガンジスで<光穿・雷不>を繰り出した――。


 突き出た<光穿>の方天戟。

 光を帯びた神槍ガンジスの方天戟の矛が、巨大なダ・ゼ・ラボムの腕に深々と突き刺さる。


 右手で王牌十字槍ヴェクサードを引いた瞬間――神槍ガンジスの真上の宙空から轟音が鳴り響く。


 同時に神々しい巨大な光雷の矛が、神槍ガンジスの背後に出現。


 空間を突き刺す八支刀のような光。

 それら八支刀の光を連れて纏う巨大な光雷の矛(光穿・雷不)――。

 これが雷不――。

 俺の真横から地下都市の一部に落雷の群れが襲い掛かってくるようにも見える。


 恐怖さえ感じる光雷の矛(雷不)

 唸るような音を発して空間を振動させていく。


 凄まじい轟音――。

 その余波でハルホンクの一部が焦げるように消失。

 <光穿・雷不>はそのまま巨大な魔獣腕のダ・ゼ・ラボムを貫く。


 一瞬で、その巨大な魔獣腕(ダ・ゼ・ラボム)は蒸発した。

 ダ・ゼ・ラボムを突き抜けた光雷の矛(<光穿・雷不>)

 魔壊槍のように……空間と地面をも抉る。

 凄まじい雷模様の余波的な衝撃波を生み出し石材の床を剥がし飛ばす。


 そして、周囲の風と魔力を吸引しつつ<光穿・雷不(光雷の矛)>は消失した。

 <脳脊魔速>は終了――。

 時間が俄に流れ出す。

 キィィィィンとした耳鳴り音が木霊する。

 ……耳がやられたか、血が流れたようだ。


『おおお、倒した! 閣下! 敵も強かったですが、新しい必殺技は素晴らしいです!』

『おう、上手くいった』


 と、広場の周囲を把握する。

 高台は消失していた。

 キュイズナーの死骸が山のように積み上がっている。

 ユイとミレイヴァルが大暴れしたようだ。


 手が大きいキュイズナーの片腕は珍しいアイテムでも嵌まっているのか、ユイが回収している。


 聖槍シャルマッハを片手で持ったミレイヴァル。

 その肩に救出したダークエルフを抱えていた。


 俺はすぐに武器を消去。

 イモリザを格納。

 二人に駆け寄っていく。


「よう、通りに撤退する必要もなかったようだな」

「うん。ミレイヴァルさんは強い。本当に生きている人に見えるけど、シュウヤがもう一人居るような感覚だった」

「ありがとう。ユイ様」

「肩のダークエルフは生きているよな?」

「はい、ダークエルフはまだ生きています」


 全裸のダークエルフは女性。

 急ぎ、アイテムボックスから革布を出し体にかぶせた。


「んじゃ、皆のとこに戻る」

「はい」

「分かりました」


 すると、通りのほうから皆の魔素を感じる。


「にゃおおお~」

「ニャァ」

「ニャオ」

「シュウヤ様!」

『――妾が一番じゃぁ』

「ん、シュウヤ――」


 皆が戻ってきた。

 神剣サラテンを手早く掌に収める。


 俺は素早く二十四面体(トラペゾヘドロン)を取る。


 視界に皆を追っている怪物たちの姿を把握。

 ネームスは紫魔力でエヴァが運んでいた。


 魔導車椅子はセグウェイタイプに変化している。

 素早い。


 そして、神殿の多い地域の外で、俺たちの戦いを見物していた魑魅魍魎たちの姿を把握。

 暗黒果樹の背後やら、建物の背後から、ちらほらと、興味深そうに俺たちを見据えている単眼の怪物と、二つの蛸頭に闇色の環を頭上に輝かせている非常に危ない雰囲気を醸し出すキュイズナーの剣士が居た。


 あのキュイズナーは……強いと分かる。


 金色のマントの内部に無数の眼球を宿す。

 足下に液体のようなものを垂れ流し、その液体から人のようなモノを召喚している。


 確実にヤヴァイ奴だ。


 正直、あんな怪物たちとの連戦はキツイ。

 地下の階段とか、気になるが、今は皆が居る。


 撤収だ。


「皆、集合!」

「はーい」

「戻る~」

「殿は任せろ!」

「ハンカイさん、足遅いんだから先に行って」

「わたしが残りましょう、先に」

「我が速度で負けるだと!」

「にゃお~~」

「ニャア」

「ニャオ」


 異獣ドミネーターを追い越したロロディーヌ。

 一番早く戻ってきた相棒だ。

 黄黒猫(アーレイ)白黒猫(ヒュレミ)も戻ってくる。


 三匹は俺の膝に頭を衝突させてくる。


「ロロ!」

「にゃ」


 膝に頬を擦ることに、夢中な相棒。

 俺の声を聞いて、耳をピクピクさせる。


 黒豹の頭部を上げて、俺を見つめてきた。


 紅色の虹彩と、つぶらな黒色の瞳。

 髭がピクピク動く。

 微笑んだように見えた。


「傷は大丈夫か?」

「ンン」


 その場で一回転して内腹を魅せる相棒。

 傷は消えているが、代わりに魔法陣のようなモノがある。


「おい、それは……」


 可憐に着地した相棒ロロディーヌ。

 首下から触手を伸ばしてきた。


『あそぶ』『あいぼう』『だいじょうぶ』『たおした』『にく』『たべた』『にく』『あめだま』『おいしい』『あそぶ』『これ』『あそぶ』『ひかり』『たのしい』


 俺の首につけた触手から、そのような気持ちを伝えてくれる。


 そして、すぐに蜂式ノ具を渡してきた。

 魔宝石を掴んでいる触手を寄越す。


「あめだまは、魔宝石じゃないよな?」

「にゃお」


 魔法陣が気になるが、まぁ大丈夫そうだ。

 が、あとでグルーミングを行いつつ体の確認だな。


 蜂式ノ具を内包している魔宝石を受け取った。


 神話(ミソロジー)級の秘宝。

 恐ろしいほどの膨大な魔力を感じたが……。

 暖かさもある。

 光のカーテンは小さくなっていたが、まだ魔宝石から出ている。


「ロロ、腹の魔法陣はあとで調べるぞ」

「にゃお~」


 元気よく、俺の周囲を回る。

 そのロロディーヌに続くように、俺の膝に頭部を寄せてくる黄黒猫(アーレイ)白黒猫(ヒュレミ)の二匹も元気がいい。


「アーレイもヒュレミもよく戦った。偉いぞ~」

「ニャアァ」

「ニャオォ」


 肩に乗ってくる二匹。

 俺の顎に頭部を寄せて転けそうになっている。

 その瞬間、二匹の猫は陶器製の猫人形と化して、自らポケットの中に潜り込んできた。


 悧巧な猫ちゃんズだ。


 相棒ロロディーヌは、下から、その猫たちのことを満足気に眺めている。

 そこに、エヴァたちが戻ってきた。

 沸騎士の姿がないところを見ると、やられて魔界に戻ったか。


「ん、戻るの?」

「わたしはネームス!」

「主、フー殿との連携が上手くできましたぞ、そして、獣神ライクラッシュ様の神殿があったのです」

「わたしは鬼神系の呪術笛で敵を阻害できた」

「帰還~。ソロボとクエマたちは元気よね」

「あぁ、ライヴァンの世? というオーク語を覚えるぐらいに五月蠅かった」

「蒼炎隊長、追ってきた怪物が広場に入ってきません!」

「あら? 本当ね、ここって何か神聖な場所なのかしら」


 皆に向けて、


「さぁな、地底神ロルガのような強かった相手は倒したが、ゲートを起動するぞ、皆、近くに来い」

「はい!」

「承知」

「シュウヤ様、沸騎士たちは魔界に帰還しました」

「そう、強い五つ目を持った怪物と対決して踏んづけられて消えちゃった」

「閣下ァァァって五月蠅かったけどね」

「はい、その分戦いが楽になり、ビアとママニにバーレンティンにトーリとキースさんも皆が活躍」

「わたし、は、ネームス」

「ん、ネームスさんもがんばった」

「我もがんばったが、苦戦した。蛸頭は強い奴と弱い奴が極端だ」

「あぁ、激戦だったな、ムカデ怪人は正直もう戦いたくない」

「ガハハッ、ルシヴァルの眷属たちがそう言うな、俺はもっと激しい戦いを望む。この金剛樹の斧は強者を求めているのだ!」


 ハンカイらしい。

 しかし、皆、傷だらけか。


「よく言うぜ、背後からの一撃をもらったときは、天蓋の上に光の幻影が見えたってな?」

「ぬぬ? そんなこともあったな」


 モガとハンカイは仲良く語る。

 そのモガとハンカイの傷は、やはり目立つ。


 二人は互いに酒でも飲むようにポーションをかけると、傷を癒やしていた。


「我も地上に……」

「そうだ、我もだ」


 異獣ドミネーターに語り掛けるビアの声を聞いて、思わず笑いながら、二十四面体(トラペゾヘドロン)を皆に見せる。


「帰還ですね」

「おう」


 サザーに答えつつ蜂式ノ具の魔法石をポケットにしまう。

 そして、二十四面体(トラペゾヘドロン)を出す。

 フリック操作をするように溝を指でなぞった。

 二十四面体(トラペゾヘドロン)が起動。

 

 サイデイルの鏡の先が映る。

 その前にミレイヴァルに視線を向ける。

 救出したダークエルフを見ていたエヴァとレベッカにヴィーネとバーレンティン。


「よし、ミレイヴァル、そのダークエルフは俺が持とう」

「はい」


 ダークエルフの女性を担ぐ。

 体重は軽い。

 片膝で地面を突くミレイヴァルに、


「アイテムに戻ってくれ」

「ハッ」


 ミレイヴァルは銀色のチェーンを持つ杭のアイテムに戻る。

 チェーン付きのボールペンと似た小さい杭は、俺の腰に絡みつく。


 ダークエルフを抱えた反対の肩に黒猫に戻ったロロディーヌが乗ってきた。

 黒猫(ロロ)は襟に足を引っ掛け、俺の首に尻尾を当てつつトコトコと歩く。

 ダークエルフの髪に鼻を寄せていた。


 鼻をくんくんと動かすと、クシャミ。

 すぐにフレーメン反応をしている。


「ん、ロロちゃん、髭の下の鼻の部分が膨らんでる!」

「にゃ!」


 何故か、俺の頬を肉球パンチしてくる黒猫(ロロ)


「あはは、帰還だ」


 そのまま、皆と繋がって一気に光り輝くゲートを潜る。

 寝室に戻った。


 人数が人数だけに少し心配したが、無事にゲートを潜れた。

 ふぅ……サイデイルの自宅の匂いだ。


 地下の陰鬱めいた匂いは皆無。

 よかった。寝台に助けたダークエルフをおろして寝かせてから、ヴィーネたちを見る。エヴァはぷゆゆを探すように天井を見ている。また小さいドアの開け閉めを繰り返す謎の遊びを実行しているぷゆゆがいるようだ。何してんだか……傍にいるヴィーネも微笑む、安心した表情だ。

 思わず抱きしめた。


「――あ、ご主人様?」


 うむ。バニラ系のいい匂いだ!

 蒼炎のハンマーが見えた気がしたが、気のせいだろう。

ノベル版、槍猫11巻、2020年6月22日に発売

コミック版、槍猫2巻、2020年6月27日に発売

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