五百六十七話 トーリの活躍と地下冒険
眼下に広がるは真っ赤に変色した洞窟の内部。
神獣ロロディーヌの紅蓮の息吹で熱した地底空間。
ロロディーヌの外の空中は蒸し風呂の中に入っているように温度が高まっているはず。
しかし、俺たちはあまり熱を感じない。
ロロディーヌから出た魔力の粒子が熱を防いでいるんだろう。
魂の黄金道をこのまま直進だ。
<無影歩>は使わない。
――相棒、いくぞ!
「にゃお~」
地底から噴出した魔力線。
魔力回復効果もあるのかロロディーヌの速度は増す。
闇が闇を支配する濃厚な地下世界。
魂の黄金道は暗闇の世界を斬る剣のように洞窟の奥へと続いている。
よし、カレウドスコープを起動しよう。
側頭部の十字手裏剣の形を指の腹で触る。
右目の網膜が変化すると同時に頬の金属素子の形が卍に変化した。
視界が鮮明に、解像力といった視力が上がる。
「右目が変化しました。観察ですね」
「おう」
ヴィーネの言葉に頷きながら下を見る。
地底のモンスターはホームズンたちと戦う魔獣たちが多い。
魔獣は蠍の尾を持った闇虎のようなタイプ。
岩陰にアービター系の魔獣は隠れている。
セレデルの配下と思うアンデッド系の魔獣死人は見えない。
そして、ここは空中。
そんな地底に居るモンスターばかりが地下世界ではない。
天井に四肢が貼り付いている大型のヤモリを視認。
鱗から魔術の紋様が真上に浮いている。
高等生物の可能性か。
――▽のカーソルを意識。
――――――――――――――――
???魔生命evo#efe#
脳波:異常
身体:異常
性別:??
総筋力値:257?
エレニウム総合値:832?
武器:あり
――――――――――――――――
筋力値とエレニウムやらバグっている。
まぁ、バグってより……。
無数の環境を受けた影響で値が常に変化している……。
と、認識したほうがよさそうだ。
他にも高い壁に棲む生物系モンスターは異常に多い。
ロロディーヌはそんな魑魅魍魎たちをできるだけスルーしながら巨大な空洞内部を突き進む。
「ん、蝙蝠蟻」
エヴァの視線の先は左。
本当だ。上半身が蝙蝠で下半身が蟻。
ペルネーテの迷宮以来か。
「シュウヤと初めて会った時にもいっぱい居た」
「銀ヴォルクと対決していたエヴァ」
「ん、その銀ヴォルクを倒してくれた」
と、エヴァが微笑みながら語る。
天使の微笑を見て微笑みを返す。
エヴァとの初邂逅かぁ。
銀ヴォルクと多数のモンスターと戦うところは圧倒された。
そんな感想を持ったところで……。
モンスターたちの出現は止まらない。
飛び道具で攻撃を仕掛けてくるモンスターが増えてきた。
「ん」
エヴァも首肯してから、魔素の反応が多い右側の天井と壁を見る。
肉腫と眼球が集結したアメーバのようなモンスターたちが蠢いていた。
体内にスライムのような核がある。
「右側の天井に凄い数!」
「スライム! ご主人様、仕掛けますか?」
「おう。しかし、そろそろスルーするのも難しくなってきたか」
「そうね、戦いを増やす?」
「あぁ、ま、移動中だ。できる範囲でいい」
「「はい」」
ママニがアシュラムを<投擲>。
ヴィーネ、レベッカ、エヴァも続いた。
俺も《氷矢》を無数に右側の壁に繰り出していく。
「あのスライム状のモンスターはグロームバブルという名前です」
スゥンが報告してくれた。
その眼球肉腫お化けを貼り付く岩ごと《氷矢》で潰していく。
「特定の魔力が濃い鉱脈層が好物らしく、鉱脈ハンターに人気のモンスターですね」
「レアなグロームバブルですと、高値で取り引きされます」
「捕まえること自体が難しいから、モンスターの競売で人気があるわね」
「見た目がアレでも人気か」
「そう、地底都市の衛生面も担っているグロームバブルだ」
へぇ。
地底は地底で発展する理由か。
もしかして地上の都市より衛生的だったりして。
「地底も地上の都市のように冒険者ギルドの存在はあるのか?」
モガが聞いていた。
「冒険者ギルドという名前はない。だが、どこの都市も似たような機関はある」
「わたしはネームス」
ネームスも聞いていたが、バーレンティンが不安そうな顔色を浮かべて俺を見る。
「わたしは、ネームスだ。気にするな」
と、無難に答えた。
「主……。わたしはネームスですね」
「ん、わたしはネームス」
「え? わ、わたしはネームスぅん」
「わたしはねーむす!」
と、ネームスの真似にする流れに発展したところで、ロゼバトフが咳払い。
そのロゼバトフが、
「グロームバブル系は姿が変化する亜種も居る。と、セーブロウの酒場で聞いたことがあるぜ」
「それって地下オークションにもあったヤーグ・ヴァイ人のように変身が可能?」
「そのヤーグとは知らないが、人系にも変身が可能のようだ」
「へぇ」
と、墓掘り人たちが情報を告げてくる。
俺もだが……皆、興味深そうにグロームバブルについて聞いていた。
グロームバブルという眼球肉腫おばけモンスターは、まだ大量に壁や天井に張り付いている。
しかし、相棒は速度を加速。
無数のグロームバブルを無視しながら奥に向かう。
天井と壁に棲むモンスターたちをスルーしていく。
天井が狭まった洞窟に入った。
相棒は「ンンン――」と鳴き声を出しながら、地底の魔獣たちを前足と触手たちで薙ぎ払いつつ、その狭い洞窟を飛翔していく。
上下の幅が狭いとさすがに飛びにくい。
そして、下の魂の黄金道が間近だ。
俺には、煌びやかな光源に感じる。
その魂の黄金道が絨毯が上下に撓むように揺らいでいく。
布が撓むような、襞があるような黄金道。
ハーデルレンデの魂たちの叫びが聞こえてくるような感じだ。
その魂の黄金道に着地するか?
と思ったところで崖のような場所に出た。
雪でも積もったらスキーでも行えそうな坂道となっている。
天井の高さも元通り。
しかし、その天井から、太い氷の片腕を持つ怪物が襲い掛かってきた。
天井は高くなったから、距離はあるが……。
怪物は太い氷柱の腕を切り離す。
――ぶっとい片腕を飛翔させてくる。
ロロディーヌの触手が打ち払った。
「氷腕デデ!」
と、叫ぶトーリ。
氷柱の腕を飛ばしてきた怪物の名は氷腕デデか。
その氷腕デデたちは太い氷柱の腕を飛ばしてきた。
――地対空ミサイルのような勢い。
「お任せを」
すぐにヴィーネが対抗。
翡翠の蛇弓から光線の矢を射出。
光線の矢は、太い氷柱の腕を正確無比に射貫く。
突き刺さった光線の矢から緑色の蛇たちが出現。
魔毒のミセアの力を宿す緑色の蛇たちは、氷柱の腕を外と内から破壊するように腕に侵入し、その氷柱の腕の外側にとぐろを捲いて絡みつく。
その瞬間、太い氷柱の腕は派手に爆発。
「ンン」
ロロディーヌも触手剣を繰り出す。
鞭の機動で蠢くロロディーヌの触手剣たちが、太い氷柱の腕たちを払うように破壊していった。
『閣下、出ます――』
『分かった』
液体ヘルメが左目からにゅるりと宙空に出た。
「主、わたしもよろしいか!」
トーリが叫ぶ。
「おう」
「はっ! 蒼氷魔宝書師の力を解放しよう。<血氷刃>」
トーリも加わる
ヴィーネは攻撃を止めて、違う方角を警戒。
レベッカとエヴァとユイは見学。
トーリは<血魔力>を解放。
手元に蒼色のキセルを出現させた。
飛翔しながらキセルを咥えて煙を吐く。
キセルの反対側から毛筆の束が出ると、口から離したそのキセルの筆を振るう。
煙りに蒼い魔法の字を書いていく。
《層層・速蒼術》
その魔法の字は点滅。
蒼い煙の中に吸収されるように消失すると、煙がトーリの身体に付着していく。
煙が防護服の一部を強化したようにも見えた。
《層層・速蒼術》の煙を纏ったトーリは動きが加速――。
そして、トーリが宙に放った血に輝く氷刃は、太い氷柱の腕を見事に貫いた。
キセルにも驚きだが、水属性のモンスターにも通じた?
血魔力も加わった結果かな。
ヘルメも全身から水飛沫を発生。
モデルのような足先から氷の結晶の魔法陣を発生させた。
その魔法陣を点々と蹴り消しながら――。
仙女が踊るような飛翔をくり返す。
「素敵です」
キサラが呟いたように素敵なヘルメだ。
そのヘルメは、トーリの姿と遠距離攻撃の<血氷刃>を見てから視線を寄越す。
微笑むヘルメは可憐だ。
そして、トーリに視線を移すヘルメ。
「いい腕です。しかし、閣下のお尻には指一本触れるべからず!」
冗談を放つヘルメ。
くるりと舞いながら、腕を伸ばしヘルメ立ち。
キューティクルな長い睫を揺らしながらの宣言――。
そのままステップを行うように飛翔しながら細長い腕を振るう。
振るった掌が蒼色に輝く。
掌を蒼色の魔力が包んでいた。
<珠瑠の花>は使わないようだ。
そして、身の回りに無数の氷槍を生み出して、太い氷柱の腕たちへと向かわせていく。
氷槍は太い氷柱の腕たちを捉え破壊。
そのまま氷槍は氷腕デデの身体を貫く――。
瞬く間に、氷腕デデの身体は凍り付いた。
凍り付いた氷腕デデたちは、氷人形と化して落下しながら散っていく。
常闇の水精霊ヘルメはさすがだ。
トーリも蒼色の煙に一風変わった文字魔術を埋め込み用いて魅せていく。
<血魔力>を使った血と氷の連続攻撃も見事だが……。
ヘルメの水系魔法と比べてしまうと、その強さの質が雲泥の差と分かる。
しかし、トーリも奮闘。
「層層・秘剣術――」
と、声が少し聞こえた直後――。
蒼色に輝くキセルから、氷剣を伸ばす。
その氷剣で袈裟斬りを氷腕デデに繰り出して両断。
トーリは回転しつつ、口に咥えたキセルから煙を出して、その秘剣の氷剣を消す。
流れるように、キセルを手に取ると、キセルの後端の筆を用いて――。
《層層・氷連》
と、煙に魔法の書術を実行。
煙に吸収される形で消えた文字の代わりに蒼い煙から氷礫が生まれ出る。
トーリはその旋回している氷礫で、太い氷柱の腕を攻撃していく。
《層層・氷連》の氷礫を喰らった氷腕デデたちは壊れるように地面に落下。
数は減ったが、まだ多い。
他の氷腕デデたちが、ミサイルのように撃ち放った氷柱の腕がトーリに迫る。
トーリは大蝙蝠に変身して対処。
口に咥えたキセルで身に迫った氷柱の腕たちを破壊。
その大蝙蝠の姿から、一瞬で、人形に戻る。
片手に持ったキセルから煙を出すと、
《層層・水流》
と、煙に魔法の字を描く。
その魔法の字を煙は吸収すると、水幕が足下に現れた。
トーリは両足の足裏で水のカーテンでも滑るように利用しながら、移動して跳躍を繰り返す。
《層層・氷天狗》
次は、点々と作り出した氷の丸盾を足場にして跳躍。
トーリは氷腕デデとの間合いを詰めて、キセルを振るった。
蒼く輝いたキセルの火口と雁首の部分で、氷腕デデの頭部を叩く。
氷腕デデの頭部は粉砕すると、黄土色の血が周囲に散る。
その散った黄土色の血を蜷局を巻くように、キセルの火口が吸い取っていく。
血を吸い取った武器のキセルは一段と輝きを強めた。
ミッドナイトブルーサファイアとブルーサファイアの色合いだ。
コントラストが美しい。
岩群青、濃群緑といった色合いのヘルメと合う。
「凄いキセルだ。色合いもいい」
「ん、強い、トーリ!」
「やるわねぇ」
「墓掘り人だ。当然、墓掘りだけじゃ生きていけないからな」
サルジンが呟く。
モッヒーで、ヒャッハーなサルジンだが、納得だ。
「トーリの持つキセルも貴重な武器です。名はブルーシャドウ。リザードマン勢力が強い【湖底魔群塔】の間に人知れず眠っていた古の地下墓ミトブルーにあった宝。東方の吸血鬼たちも狙っていた代物。トーリはジュエルマスターを持つからこそ、扱える宝石で作られたキセルです」
「へぇ、あの術も特別そうだ」
「戦書師の戦闘職業と聞きました」
と、バーレンティンが解説する。
トーリのことはスルー気味だったが、墓掘り人たちのメンバーであると、まざまざと見せつけられる実力だ。
そのトーリは大蝙蝠に変身して華麗に回転。
また、人に戻ると、煙を吐いて、筆を振るう。
蒼い墨のような魔法の文字の、
《層層・波愚》
が、煙に刻まれた。
その刹那、マントのような水の波が周囲に生まれた。
トーリは水の波を横回転させつつ、キセルを口に含み、また煙を吐く。
口から離したキセルを振るい、煙に向けて筆でまた、魔法の字を書いた。
《層層・円盤斬》
書術通り、そのまま円盤状の氷を眼前に作る。
円盤の形はエヴァやイセスが扱うチャクラムのようだ。
回転していく 《層層・円盤斬》。
その円盤状の 《層層・円盤斬》越しに、氷腕デデを睨むトーリの紺碧の視線は渋い。
その 《層層・円盤斬》を<投擲>。
氷腕デデに「避けろ! デデ」とは叫ばない。
円盤状の 《層層・円盤斬》は氷腕デデの胴体を両断していた。
そして、宙を舞うトーリはバーレンティンたちを合わせ頷き合う。
気持ちは通じているという奴だ。
彼も長年生き続けてきた地下の吸血鬼。
宙空にヘルメが作るような氷の幕を作る。
その氷の幕の上に足を乗せて、滑るような機動で移動していく。
華麗に舞いながら、キセルを振り回し、氷腕デデを屠っていた。
「精霊様、負けません」
「ふふ、負けてもいいですが、素晴らしい氷の戦闘術です」
同じ水属性持ちとして互いにライバル心を燃やしながら戦う。
二人の活躍が目立つ氷腕デデの出現エリアを通り過ぎると……。
暫し、平和となった。
ヘルメは左目に戻る。
トーリも帰還。
皆から質問攻めを受けて頬を朱に染めているトーリ。
ロロディーヌは魂の黄金道を追いかけるように飛翔を続けていく。
平和になったところで……皆は談笑タイム。
ロロディーヌの黒毛と触手たちの操縦席も下降する。
普通の頭部に戻ると、ヴィーネは翡翠の蛇弓を背中に預けて、相棒の背中のほうに向かう。 ヴィーネは団欒に参加するようだ。
「ヴィーネの矢って、鋭くて頼りになる」
と、レベッカが早速話しかけている。
俺も参加しようかな。
――操縦桿の触手から手を離す。
ロロディーヌに操縦を任せた。
小説版、槍猫11巻が2020年6月22日に発売。
漫画版、槍猫2巻が、2020年6月27日に発売。




