五百六十五話 魔獣死人との戦い
俺の家から地続きに登った先が『蜂たちの黄昏岩場』。
無数の岩が散乱し穴が複数ある。
その穴という穴に魂の黄金道が続いていた。
この穴から向かうとして、
「あるじ~あそぶ~?」
「いや、これから地下に向かう。この穴はルッシーも利用した?」
「うん~遊んだ~」
「この穴の下はどこまで続いている?」
「キゼッちとゴルッちの美味しい野菜ばたけの奥につづいてるー」
ルッシーはキゼレグとゴルゴンチュラと仲がよくなったらしい。
見た目的に妖精の姿のゴルッちとルッシーだ。
友だちになりそうな感じは分かる。
その件は告げずに、
「ここから距離的に近い果樹園の奥か。ならナズ・オンが攻めてきた地下深い場所まで、この穴は続いているんだな」
「なず・おん? 穴は深い~! るしう゛ぁるの力はとどかない」
「分かった。サイデイルを頼むぞルッシー」
「だいじょうぶーわたしけっかいぬし~。変な女王の樹はちかよってこない~」
女王サーダインか。
「その近寄ってこない女王とは、地下から根を使ってサイデイルを侵食しようとした女王サーダインのことだよな」
「うん~他の樹海に逃げたかも~」
「樹海は十二個ありますからね、樹海に転移が可能なのでしょう」
と、キサラが教えてくれた。
そういえば、水神様もそんなことを喋っていた。
◇◇◇◇
『安心しろ。かつて十二樹海の結界主を巡って争っていた神々の一人亜神ゴルゴンチュラを滅したことは事実。黒き環がある迷宮ならば話が違うが、このセラに封じていた亜神を倒したのはソナタだ」
『おお』
『だが、浮かれるのは早い。神は神。弱っても神は神。光の十字森の丘を生み出し、樹海に領域を構えた独自の時空属性系能力を持つ亜神ゴルゴンチュラ。階梯を幾つも隔てた先にある存在が神なのだから』
『……はい』
『セラで身を滅し神格落ちは確実だとしても、その精神の源は、何処かで生き永らえている可能性が高い。精神の源は冥界の底なし沼に囚われておるか、あるいは魔界セブドラの最奥地、十層地獄の底に落ちたか、または……獄界ゴドローンか。ここには神々の骸が集積した場所があると聞いたことがある……』
十層地獄の名なら知っている。
やはり、そういうモノか。
『しかし、何度も言うが、このセラにおいて亜神ゴルゴンチュラを滅した。その神性の一部が入った卵石以外は、僅かに眷属が残っているだけだろう』
『この卵石を起因に復活は可能ですか?』
『可能だ』
『キゼレグとやらが、望みそうですね……』
『どちらも解放すれば、の話だ。解放するのか? 我ならばしない』
◇◇◇◇
といった水神アクレシス様と会話をした。
ヘルメを助けた時だな。
俺は皆に向けて、
「この穴から下りるとしよう」
「了解」
「ん、狭そう」
「はい、滑り台ですね」
「地下かぁ、わくわくする」
キサラはロターゼに向けて、
「ロターゼ~。サイデイルの空は任せたからね」
と、叫ぶ。
「おうよ、任されよう。地底神だが、なんだが知らねぇが救世主の主に敵対する奴らなら、額に風穴をあけてこい! 四天魔女キサラの魔槍ダモアヌンでな!」
「ふふ」
ダモアヌンの魔槍を掲げながら頷く。
「それじゃ一番手はわたし! 先に下りつつ蒼炎で一応の視界を確保するから」
「おう」
レベッカが先に、幅の狭い穴に足を駆けて滑り下りた。
「相棒、肩か頭巾の中で待機」
「にゃ~」
俺と相棒も穴に入った――。
いきなりの滑り台。
「滑る~」
と、先を下るレベッカの声が木霊した。
俺も下っていく。
坂に生活魔法の水を流すか――。
下る勢いを助長していった。
よし。
『ヘルメ、<精霊珠想>だ』
『はい~』
左目から出た<精霊珠想>のヘルメは上半身だけ女性の姿に変身する。
下半身は半液体か固体でゆらゆらと揺れていた。
<精霊珠想>の半液体のような神秘世界は美しい。
不思議な魔力層が俺の半身と尻を包む。
俺に続いて滑り下りてくるヴィーネからイセスを包んでいった。
勢いよく滑っている最中だが――。
ヴィーネとイセスが蒼い神秘世界と重なっていくところは確認できた。
「――うふふふーん」
「――きゃぁぁぁ」
「にゃお~」
「――ちょっと、アキちゃん、パンツが!」
「――お尻がこすれて痛い~」
「――すまん、ユイの部分に水が届いていなかった」
「――あぁ~」
「シュウヤ様~」
キサラの巨乳さんと衝突した。
嬉しいから暫くこのままだ――。
「ふふ、わたしも嬉しいです」
心を読んだようにキサラは発言。
キサラは白絹のような髪を揺らしつつ俺の額にキスしてくれた。
が、そんな俺にツッコミの勢いで、スカートのサイズを変えたアキと衝突。
俺は加速しながら、キサラと離れた。
先に滑り下りていく。
「ご主人様~ぶつかりそうです!」
天井にぶつかっているママニ。
「ひぃ~」
「――主、これは競争ですか?」
「――いや、競争ならレベッカとハンカイが勝ちそうだ」
「――わ、たし――は――ネーーームス!」
「ヌォォァァ」
ハンカイの悲鳴のような気合い声が下から轟いた。
「――声が響く~」
「――穴を進むとは聞いていたがぁぁぁ」
またハンカイだ。
珍しい。
「――ん、アキちゃん、蜘蛛脚を生やしちゃだめ」
「はい~」
「――バーレンティン――お前の股間が頭に当たっているんだが?」
「――偉大なモッヒーの髪型を崩してしまい済まん」
「ご主人様、ここに入らしてください――」
滑らかな岩の坂に水を流しているからウォータースライダーってぐらいに勢いが出ている。
または、ウィンタースポーツのボブスレーで競技か。
――名作映画の『クール・ランニング』を思い出す。
皆は喧噪だが、俺は楽しみながら、ジャマイカ代表にでもなったようにレゲエを口ずさむ。
ぎゅんぎゅんと勢いよく下降していく――。
俺の生活魔法の水とヘルメの<精霊珠想>の力も相まって滑る滑る。
トーリの氷の力もあるから勢いがヤヴァイ。
しかし――天井は綺麗だ。
レベッカの操る蒼炎が低い天井を雲のように這う――。
棚引く雲のような蒼炎。
滑り台のような狭い坂の穴を蒼く、蒼く、照らしていく。
が、速度が速いから――。
元々ある穴の天井模様も重なって、煌びやかな蒼い星雲の中を突き抜けていく気分となった。
これはこれでありだ。
天然のプラネタリウムとアトラクションが合体したような新しい遊び感覚だろうか――。
専用のソリはない。
だが、カプセルホテルの寝台並に狭いことが没入感を高めている。
坂は石と言うより鉛のような柔らかさだ。
と、ただでさえ狭い穴の幅は狭まってきた。
「――ちょ!?」
「あぅ――」
「ぐあぁ」
その狭まった穴にネームスとロゼバトフとビアに蜘蛛娘アキが挟まってしまった――。
皆が、俺もだが、そのネームスたちに衝突した――。
「あぅん、ネームスの肩に挟まって……」
ユイだ。
ネームスの背中にぶつかってから肩に浣腸されたような状態となっていた。
「わたしは!? ネームス!!」
ネームスの声の後、傍に居たモガとそのトーリも衝突。
「――てやんでぇ、名はトーリだったか? こんな時に氷を出すな、寒い」
「すまない、衝撃でつい」
両腕から氷を穴に展開させて滑りをよくしていたトーリ。
モガはペンギンのような体毛が生えているから寒さに強そうに見えるが関係ないらしい。
俺はヴィーネの胸とイセスの胸とキサラの胸でトリプルサンドイッチ状態。
うむ。やっこい。やっこい祭りだ。
鼻血が出たかもしれない。
「うふ、主……わたしの血を飲む?」
イセスちゃん。間近でそんなことを……。
ヴィーネはイセスから俺を奪うように、俺の手を握って胸元に引き寄せてくれた。
わざと自身の胸に俺の顔を押しつけてくる。
いい女だ――。
小さい幸せを得られた。
その直後、
「あれ? 皆~?」
「上のほうで悲鳴と変な声が聞こえたぞ」
先を下りていたレベッカとハンカイの声が響く。
「大丈夫。大柄のメンバーが狭い場所に詰まっただけ」
「ん、えっちぃなシュウヤだから大丈夫」
「そう、本当に、大丈夫なのね?」
「ん、本当に、えっちぃ」
エヴァが笑いながら語る。
「もう! 先に行くから」
「レベッカ、下りよう」
「うん」
「二人とも、敵がどこから出るか分からないから気をつけろよ」
「おうよ、この坂にも慣れたところだ、先にいく」
先を滑り下りていくレベッカとハンカイ。
ハンカイは地下の戦いを経験済みだからな。
ロゼバトフとネームスとビアは互いに身体をずらして、狭いなりに空間を空けた。
「数人ずつ、ゆっくりと下りていこう」
「了解」
「はい」
「ビアに抱えてもらいます」
「我に任せろ」
「俺とロロは先にいく。ヘルメの防御も必要ないだろうから一旦仕舞うぞ」
「ンン」
<精霊珠想>を解除。
液体のヘルメを左目に格納していく。
「んじゃ、お先に――」
その後は障害という障害はなく。
スムーズに滑り台で遊ぶように下っていくと――。
前方を明るく照らしていたレベッカの蒼炎の光源が急になくなった。
――出口か。
そんな暗い丸穴が見えた直後。
凄まじい数の魔素たちの反応と剣戟音が響く。
「ヌゴォォォ」
「早速かぁぁぁ」
ハンカイの気合い声が響く。
戦いが始まっているようだ。
足下に気をつけながら着地――。
吹き抜けのような巨大地底ゾーンだった。
俺が転生して放浪した場所と少しだけ似ている。
あの時は地面が骨の海だったが、ここは固い石の地面だ。
そして、暗いが<夜目>でしっかりと見える。
モンスターは数が多い。
血と蒼炎を身に纏うレベッカが躍動していた。
戦場と化した地下で一人気を吐くようにジャハールを繰り出し、蒼炎弾を飛ばしていく。
蒼炎弾が四方八方に飛ぶ光景は凄まじい。
ハンカイも金剛樹の斧を振ってモンスターを倒している。
そして、レベッカの蒼炎が至るところに飛翔しているから明るかった。
蒼炎弾が弾ける音のたびに――眩い閃光が戦場を彩る。
俺はハンカイとレベッカのフォロー。
<鎖>を放った――。
<鎖型・滅印>の力を内包した<鎖>だ。
魔獣と死人のようなモンスターの頭蓋骨をあっさりと貫く――。
骨が多いが薄皮に肉もある胴体は力なく崩れていった。
背後のモンスターも<鎖>は貫く。
一度に複数のモンスターを倒した。
背後からすぐにヴィーネが着地。
手首から伸びた<鎖>を消去すると、
「――ご主人様、アンデッド系のモンスター。あれは地底神セレデルを信奉する兵士かと」
ヴィーネが素早く報告してくる。
「ンン――」
肩から跳躍した相棒が地面に着地。
先のほうで戦うレベッカたちの下に駆けていく。
俺は魔槍杖を右手に召喚――。
一瞬、腰の閃光のミレイヴァルか沸騎士を召喚しようか迷ったが――。
「ヴィーネ、いきなりの戦場だ。俺たちも混ざるぞ」
「はい、フォローに徹します」
翡翠の蛇弓を構えるヴィーネは光線の矢を放つ。
宙を突き進む光線の矢の軌跡を自然と追っていた。
――モンスターの頭蓋骨を射貫く。
さすがヴィーネ。正確にヘッドショット。
俺は前進しながら、
「レベッカ、前に出る」
「うん」
レベッカの前に出た。
胃が捻れる感覚を覚悟――。
最初は防御優先だ。
『――ヘルメ<仙丹法・鯰想>』
『はい』
左目からヘルメを出す。
同時に魔槍杖で、右手前のモンスターの胴体を突く。
嵐雲の矛の<刺突>が骨を砕き臓物をかき消すように燃やしていくのを視認しながら、その魔槍杖を手前に引き、貫いた穂先に引っ掛かったモンスターの頭蓋骨を回し蹴る――
頭蓋骨を破壊。
乾いた臓物と腰骨もすべてがばらばらに散った。
続いて奥のモンスターを視認。
<光条の鎖槍>を飛ばす。
が――右から無数の針の攻撃が身に迫る。
その飛来してきた無数の針たちを打ち砕く<光条の鎖槍>は右側へと直進していく。
しかし――針の数は多い。
片手の魔槍杖を風車のように回転させた。
俺に迫った針の攻撃を――宙に円を描くような魔槍杖で防ぐ。
針を弾くたびに硬質な金属音が響いていった。
同時に展開した<仙丹法・鯰想>が視界に入る。
常闇の水精霊ヘルメだが、姿は巨大ナマズだ。
魔力の層が重なった神秘的な色合い。
<仙丹法・鯰想>の巨大ナマズのヘルメちゃん。
宙を泳ぎながら左から迫った大量の針攻撃を、その大きな口を広げたナマズが魔力の層を生かすように、針を飲み込みながら宙を泳ぐ姿は雄大かつ壮大な生き物を感じさせた。
ナマズの中身は神秘世界。
七福神の格好をしたヴェニューたちが踊り踊る。
レジーの魔槍を魔改造した短槍を投げているヴェニューも居る。
そんな神秘世界の内臓を持つ巨大なナマズは<光条の鎖槍>を追うように右に向かいつつ大きな口で魔獣と死人のモンスターを飲み込んでいく。
飲み込んだモンスターは溶けるように消えていくが、内部のヴェニューたちにボコボコに殴られて突かれていた。
先を行く<光条の鎖槍>も、数体のモンスターたちを突き抜けていく。
貫かれたモンスターは身体から青白い閃光を発し分裂。
モンスターは四肢が爆発し散った。
「見た目通り、弱点は光属性だ!」
そう叫びながら第二、第三の<光条の鎖槍>を撃つ。
左手から<鎖>と<導想魔手>を出した。
<鎖>は四角い盾。
梵字に輝く<鎖>。
これも<鎖型・滅印>の力が内包している。
<導想魔手>はパー。
レベッカとハンカイの側に<鎖>の四角い盾を置く。
すると、その<鎖>の盾の間から、頭部だけを、ひょっこりと前に出した黒豹ロロディーヌ。
正面から写真撮影したい姿の、口を広げた相棒は、
「にゃごあ」
と、火炎を吐く。
――扇状に展開した紅蓮の炎。
左側のモンスターたちを一掃。
まだ残っていたモンスターの頭蓋骨に光線の矢が幾つも突き刺さる。
頭蓋骨が爆発して散った。
緑色の蛇たちが強烈に飛び散っていく模様から、魔毒の女神ミセアの力を感じる。
「――レベッカ、右は任せろ、ハンカイも前に出すぎるな」
「了解した。針の遠距離攻撃があるぞ」
「うん。フォローありがと。ヴィーネも」
ヴィーネは俺の<導想魔手>のパーの盾を利用して、皆のフォローに回った。
「はい――」
ヴィーネの返事の声を背後で感じながら、俺と相棒は前衛のポジションを確保。
ハンカイとレベッカは少し下がったままだ。
改めて、俺は、まだ残っている正面と右側のモンスターを凝視していく。
魔獣と人族の死人が合わさったようなモンスターだ。
四角系の頭部は、頬が痩けて頭蓋骨を露出させている。
黒毛と灰色の体毛も生えていた。
名付けるなら魔獣死人だろうか。
魔獣死人の頭蓋骨にヴィーネの繰り出した光線の矢が突き刺さる。
刺さった光線の矢から頭蓋骨の内部へと緑色の蛇たちが侵食していく。
頭蓋骨から蛇の紋様が浮かぶと頭蓋骨は急激に膨れ上がって爆発。
さっきも見たが、光線の矢を喰らった敵の爆発が激しい。
ここは地下だ、魔毒の女神ミセアの影響を受けて翡翠の蛇弓の威力が増している?
その魔獣死人の四角い頭蓋骨を纏う肉の表面は薄い。
しかし、眼窩は凄く深いアンデッド系。
眼窩の奥は淡い黄色の炎を宿していた。
鼻穴もある、広げた口は臭そうだ。
ボロボロの乱杭歯。
蛸の吸盤がついた複数の舌。
ぶらぶらと揺れた卑猥な形の喉ちんこ。
腐ったような歯肉だらけ。
蠅のような蟲たちが飛んでいる。
上半身の色合いは黒色で肋骨が多い。
腐ったような内臓群を覗かせている。
そして、両足は逆で緑の肌を露出しつつ筋肉質で太かった。
後方の魔獣死人は、俺たちごと前に居る仲間たちにも針の攻撃を繰り出している。
知能はあまりなさそうだ。
本能が優るタイプかもしれない。
そんな魔獣死人は臭そうな口から、黄色の炎を生み出す。
と、その口周りに飛んでいた蠅が腐ったように一瞬で萎れて消えた。
毒の息吹か、腐食性のある火炎を吐くつもりか?
だが、そんな頭蓋骨を持つ口ごと相棒の火炎息吹が捉えた。
口から出した黄色の炎を汚物のごとく浄化させていく。
――神獣の紅蓮の炎は強烈だ。
ヴィーネの光線の矢も次々と刺さり爆発するように散っていく。
右側に残っていた魔獣死人の数は減ったが、まだ多い。
その魔獣死人が頭蓋骨を揺らして、
「――ヌゴォォォ」
魔獣死人は腐食性のある黄色の炎を少し吐いているが、俺たちに吹かない。
その代わり毛皮を持つ骨の両腕を左右に広げていた。
飛翔ができそうなぐらいに長い腕だ。
あの毛皮から攻撃か?
ハンカイたちが喰らっていた針の遠距離攻撃だろう。
脇から手首に掛けてマントのように広げた毛皮から体毛の針を無数に生み出す。
――その針たちを撃ち放ってきた。
<鎖>の盾と<仙丹法・鯰想>のヘルメが、その針攻撃の大半を防ぐ。
「導想魔手は消すぞ、ヴィーネ」
「はい――」
ヴィーネは走って場所を変えている。
近づく敵に翡翠の蛇弓を振るい処理。
なるべく敵から離れて距離を保つように走りながら光線の矢を放つ。
常に動き回っているから――。
盾として発動していた<導想魔手>の話をしても意味はない。
が、一応は、俺も走りながら伝えた。
俺は右に走りつつ観察を強める。
皆の攻撃とフォローで余裕となったハンカイとレベッカ。
二人は身体中に針を喰らっていたのか、その針を身体から抜いている。
毒はなさそうだ。
針の攻撃を防ぎつつ、ハンカイの近くに移動。
「ハンカイ、回復ポーションは要るか?」
と、聞くと、
「いや、俺の身体は普通じゃない。すぐに回復する」
ハンカイは腹と両腕に嵌まっている大地の魔宝石を活性化。
すべての針を身体から抜いたハンカイ。
双眸をギラリと輝かせて「神獣よ、殲滅戦に加勢だ!」と叫ぶ。
ハンカイは炎を吐かず四肢と触手で戦っている相棒ロロディーヌの傍に駆け寄っていく。
ハンカイは前転を数回行いつつ両腕を振るう。
太い下半身の魔獣死人の足を切断。
ハンカイは睨みを強めながら次の標的目掛けて跳躍すると、海老反り状態から金剛樹の斧を振り下げて魔獣死人の肩を斬る。
斬られ怯んだ魔獣死人にそのまま着地の勢いを乗せた頭突きを喰らわせ吹き飛ばした。
その吹き飛ばした魔獣死人に向けて金剛樹の斧を<投擲>――。
投げられた金剛樹の斧から黄色い魔線がハンカイの右手と繋がる。
魔獣死人の頭蓋骨に<投擲>された金剛樹の斧が突き刺さっていた。
その金剛樹の斧はブルッと震えて――横に回転しているハンカイの右手に飛翔しながら戻っていく。
ハンカイは回転しながら左手を振るって金剛樹の斧で魔獣死人を斬っていた。
右手に戻ってきた金剛樹の斧を掴む。
そのまま身体を駒のように回転させて二振りの金剛樹の斧を振るい回していく。
<双豪閃>系の技だろう。
ハンカイは金剛樹の斧を振り回しながら魔獣死人のモンスターたちを倒しまくる。
跳躍して振り下ろす金剛樹の斧技を繰り出した。
魔獣死人の頭蓋骨を、かち割って、着地すると、
「ウゴォァァァッ! 我は、元羅将ハンカイだッ! かかってごいやァッゴラァァァァッ!」
吼えたハンカイ、物凄い恫喝。
耳がツィーンとなるが、なんか懐かしいぞ。
挑発の前の技が気になった。
『山颪』の技かな。
「ちょっと、耳が痛いんだけど――」
レベッカは文句を言いつつも、蒼炎の塊を盾の形に変化。
その蒼炎の盾をハンカイの背後に回す。
普段ツンなことが多いレベッカだが、彼女なりの優しさを持つのがレベッカだ。
そして、蒼炎の自由度はかなり臨機応変だ。
邪界導師と戦った時もそうだったが、レベッカも着実に成長している。
ということは、エマサッドってめちゃくちゃ強い?
そのレベッカが、
「わたしも出る」
「おう」
レベッカは俺が作った<鎖>の大盾を利用しながら前に出る。
ジャハールに宿した蒼炎で迫り来る針を突いて、突いて、燃やしていく。
ハンカイの右側の魔獣死人たちを倒していく。
大量の魔獣死人を飲み込むように倒した<仙丹法・鯰想>のヘルメが戻ってきた。
大きな鯰は神秘的な光を放っている。
「ヘルメ、左目に戻ってこい」
その大きなナマズと化しているヘルメを左目に格納しつつ俺も前進――。
レベッカは拳を突き出すようにジャハールを向ける。
彼女のクルブル流の歩法と合わせるように魔槍杖の<刺突>を突き出した。
隣のレベッカからイイ匂いを感じつつ魔獣死人の喉元を嵐雲の紅矛が捉えていた。
魔獣死人の首を穿つ――。
衝撃で、魔獣死人の頭蓋骨が宙に飛んだ。
魔獣死人は見た目通り不死属性もあるのか、宙に浮いた魔獣死人の頭蓋骨はカツカツと歯肉ごと歯を震わせている。
首無し胴体のほうは壊れた人形のように倒れていく。
「あれはわたしが――」
隣合わせのレベッカが叫ぶ。
俺の突き出した魔槍杖を持つ右手と合わせるように左手を真っ直ぐ伸ばす。
その細い色白な左手の隣に――。
レベッカの細い腕に、沿うように、蒼炎の形をした蒼炎槍が並ぶ。
その一瞬で、宙空へと突出していく蒼炎の槍。
「く、レベッカとお揃いだと!」
ヴィーネが嫉妬していた。
レベッカの扱う蒼炎の槍は、嗤うように震えていた頭蓋骨を打ち抜いた。
蒼炎の槍は、そのまま急降下し、違う魔獣死人に襲い掛かっていく。
「ふふ、お揃い?」
ヴィーネの嫉妬が心地よかったのか、頭部を傾けてわざとらしく聞いてくるレベッカ。
プラチナブロンドが似合う彼女の笑みを見て一瞬ドキッとしてしまう。
蒼炎の槍を巧みに操作しつつ俺に向けてくる笑顔は素直に美しかった。
俺も笑いながら、
「はは、槍使いレベッカか?」
と、前進しながら言葉を発して――。
嵐雲の矛を横に寝かした魔槍杖を振るう。
「ふん」
ヴィーネの不満そうな声が響く。
構わず魔獣死人の胴体を嵐雲の矛がぶち抜く――。
ダルマ崩しを行うように魔獣死人の胴体を壊すように、力で薙ぐ。
魔獣死人の胴体を横に両断した。
やや輪切りに近い状態でぶった切った魔獣死人の肉塊が倒れゆく先から、また違う魔獣死人が、俺に迫ってくる――。
俺に対して臆せず。
正面から迫ってくる魔獣死人は口から黄色い炎を生み出そうとしていた。
「大丈夫と思うけど、正面から」
「――おう」
レベッカを左手で制止した俺。
振るった魔槍杖を逆手に移行。
同時に、右足を前に出し、半身の姿勢を、逆に変える。
風槍流『枝崩れ』だ――逆手に持ちに移行した魔槍杖を前方に伸ばす。
嵐雲の矛はレベッカ側に向いている。
前方に向けたのは竜魔石だ。
「伝搬している魔力。氷の爪って奴ね」
レベッカが背後で語った瞬間――。
「そうだ」
蒼い水晶の塊の内部から放射光のような眩い偏光が発生。
その魔力が伝わった竜魔石の石突を、正面から迫った魔獣死人の頭蓋骨の口に向かわせた。
蒼い竜魔石から伸びた氷の両手剣が黄色い炎を宿す口蓋ごと頭蓋骨をぶち抜いた。
隠し剣が決まる。
前進し、レベッカから離れた。
その間にヴィーネの光線の矢が俺の肩口から連続して通り抜けていく。
隠し剣が消えてヒンヤリしたわけじゃない。
一瞬、背筋が凍るぐらいの速さの光線の矢。
嫉妬していたヴィーネが放った矢なだけに、少し動揺したのは内緒だ。
ヴィーネの弓術が高い証拠だが、さすがに少し恐怖を感じた。
光線の矢は左右から迫った魔獣死人の頭蓋に刺さる。
俺は視界の端のヴィーネを見てアイコンタクト。
微笑むヴィーネを確認してから右側に『風読み』からステップを踏む。
俺は地面を蹴り跳躍――状況を把握。
レベッカ、ハンカイ、ロロディーヌは余裕。
光線の矢を放って隙があるヴィーネに迫ろうとしていた魔獣死人たちを発見。
フォローに徹したヴィーネを守る。
<光条の鎖槍>は使わない。
手前の魔獣死人に向けて<鎖>を放つ。
<鎖>は魔獣死人の胴体を貫き地面に刺さった。
光線の矢によって爆発した音が全身に響くのを感じながら<鎖>を手首の因子マークに収斂。
そして、スパイダーマンのごとく――。
瞬く間に<鎖>から胴体を引き離そうとしている魔獣死人と間合いを詰めた。
同時に<血魔力>を展開――大量の輝く血を操作。
魔獣死人を飲み込むルシヴァルの輝く血――。
魔獣死人は輝く血に触れた途端、蒸発――。
「ザッジャ、アゼラバァァ!」
「ザッジャーーー!!」
奇妙な声だ。
エクストラスキルの<翻訳即是>が機能しない。
仲間があっさり血の海に消えたのを見た警戒染みた言語を放つ魔獣死人たちは、まだ右に居る。
針攻撃を飛ばしてきた――。
左手首から伸びた<鎖>で円を描く。
とぐろを巻く血という血で網を形成し、針の攻撃を消し飛ばしていく。
――<鎖>を消去。
この網のような血の<血魔力>を生かすとしよう。
魔獣死人たちに向けて風槍流『片折り棒』の前進歩法を実行。
血を、身に纏いつつ手前の魔獣死人に向け、右手が握る魔槍杖を突き出す――。
<血穿・炎狼牙>を繰り出した。
身に纏った血が、うねり、せり上がる。
狼のような咆哮を轟かせながら狼の姿に変身。
血の炎を纏う狼は魔槍杖と一体化――。
狼の頭部と重なった魔槍杖の嵐雲の紅矛が魔獣死人を捉え胴体を穿つ。
血の炎を纏う狼は魔槍杖の穂先から突出――。
魔獣死人を喰らうと魔獣死人は一瞬で消し飛んだ。
血の炎を身に纏う大きな狼は勢いが止まらない。
多数の魔獣死人を飲み込むように喰らう。
まさに、天地を喰らう。
すると、本当に地面を喰らうと止まった。
血の狼は輝く血霧となって消えていく。
「……素晴らしい技。血の狼……」
「あぁ、まだちゃんと説明してなかったな」
「わたしも初めて見る」
「古代狼族と関係がありそうな血技か。赫赫たる武の極みを感じる。凄まじい――」
そういうハンカイも斧で魔獣死人を両断している。
「ンン――」
俺は相棒の喉声に釣られた。
まだ足下に残っていた血を全身に吸収させつつ、黒豹の相棒が躍動する姿を注視。
視線を受けたことが分かったのかロロディーヌは尻尾を振るって耳をピンと立てた。
可愛い、と思った直後――ロロディーヌは後脚で地面を蹴り高く跳躍した。
腹を見せて、低空を飛翔する。
前のめりになったと思ったら前転――。
一瞬、後脚と両前足を広げた。ムササビかい!
とツッコミを入れようかと思ったが、回転の勢いを乗せたロロディーヌは後脚から爪を伸ばす。
両足を揃えたドロップキック機動に変えていた。
ジョディの影響を受けたか、俺の真似か分からないが、突きのような蹴りを魔獣死人の胴体に喰らわせる。
魔獣死人をロロディーヌの後脚が貫くと、魔獣死人を吹き飛ばす。
さらにハンカイが、
「神獣ロロディーヌ! やるな! 次は俺がもらう!」
「にゃお」
と鳴いたロロディーヌ。
ハンカイのほうに頭部を向けながら、前足の爪で地面を削りつつ転けそうになりながら、下半身を滑らせて着地。
土煙を触手で払ってハンカイの動きに対応していく。
尻尾と複数の触手を伸ばして、魔獣死人の身体を押さえつけていた。
その直後ハンカイが「フハハ、素晴らしいぞ! 相棒!」と短く太い左手を下から振るう。
ロロは俺の相棒だ!
だめだ!
と、言おうとしたが、ハンカイは見事な下手投げを繰り出す。
思わず魅了される。
洗練した投げ方だった。
ボーリング場でやったら、多分ストライクは確実な下手投げ。
その投げ方で放られた金剛樹の斧は『高速ナブラ』といったようにブーメラン軌道を宙に描く。
金剛樹の斧は、魔獣死人の下腹部と衝突。
ズゥンと重低音を響かせながら捉えていた。
そのまま腹を豪快に突き破った金剛樹の斧は地面に突き刺さる。
直ぐにハンカイは振るった左手を眼前に翳す。
ミスティから新しい装備を得ているガントレット系の拳防具が輝く。
その瞬間、地面に刺さった金剛樹の斧は、迅速な勢いでハンカイの左手に戻ってきた。
正確に金剛樹の斧を掴むハンカイ。
斧が頭部に突き刺さって落ち武者と似た姿にならない。
素直に格好いい。
そうして、俺たちは無双していく。
大半の魔獣死人を倒した。
逃げていく魔獣死人たち。
「うぉぉぉぉ!」
「勝った~」
「にゃおおお」
「時間にしたら短いですが、はい!」
皆の発言に納得。
モンスター軍団と鉢合わせたが、幸先よい地底の冒険の始まりだ。
『ヘルメ、視界を貸せ』
『はい』
サーモグラフィーで周囲をチェック。
勝利の余韻に浸る皆に、
「――警戒を怠るな!」
と、強く発言。
「ンン」
「そ、そうね……」
「おう、しかし、皆、穴から出てくるのが遅いな」
「確かに、また詰まったんだろう」
と、俺はハンカイに返事をした。
そして、ヴィーネに向けて、
「地底らしいところだ。熱気はないが、地底神セレデルの兵士が居るということは……」
「はい、地底神ロルガの勢力も近い証拠かと」
「そのアンデッド系の兵士たちは逃げていくけど、追わないの?」
「いい。眷属と仲間がまだ穴から出てきてない。今は、周囲を把握しよう」
「それもそうね。でも、ここ広くて暗くて怖い――」
レベッカは蒼炎弾を幾つか空に放つ。
蒼炎の弾たちは照明弾となって暗闇の中空を照らしながら進む。
黒豹の相棒も輝く蒼炎の輝きを追うように頭部を動かして、
「ンンン」
喉声を鳴らす。
黒豹は興奮したようだ。
瞳孔を散大させて輝きが遠のくと瞳を収縮させていく。
「ロロ、追い掛けてもいいぞ?」
と聞いたら、俺の足下に駆け寄ってきたロロディーヌ。
急いで、魔槍杖を仕舞う。
「はは、指を舐めるな。しかし、さっきの炎と蹴りの活躍は凄かったな」
よしよし~と。
足下に来た相棒の頭部から耳と後頭部をマッサージしてあげた。
そして、アイテムボックスからお手製の肉詰め料理をプレゼント。
「ご褒美だ。たんと食え」
「にゃおおお~」
と双眸を輝かせて喜んでくれたロロディーヌは餌を食べていく。
必死にガツガツと食べる相棒を見ていると幸せな気分となる。
笑みを意識しながら、先を歩くレベッカを視界に入れつつ周囲の観察を続けた。
瓦礫が散乱。
天井から落ちた岩と、地面の岩が何万回とくり返してできたであろう地下らしい地形だ。
キストリン爺の紙片を見ていく。
まだ、周囲の地形と、この地図の絵が合うのか分からない。
こりゃ、この地図の絵から、この場所を探るのはむちゃくちゃ大変だろう。
だが、魂の黄金道は左の方向だ。
左にいけば、おのずと、キストリン爺の痕跡も見つかるだろう。
ま、見つからなくても魂の黄金道をいくことに変わりない……。
と――風も感じた。
魔風のようなモノがある。
匂いはあまりない。
紙片をポケットにしまう。
昔の感覚が蘇る……。
探索スイッチがオン状態となった。
すると、もう食べ終わった相棒が、
「ンン」
と鳴いて、俺の膝に頭部を寄せてきた。
相棒も同じく、探索スイッチが入ったのか、そのまま俺の足に尻尾を絡めてから、先を歩いていく。
ロロディーヌはレベッカの足下に向かった。
いや、探索スイッチってより、遊びたいだけだった。
レベッカの膝裏に尻尾アタックを喰らわせた相棒だ。
「にゃ~」
「あぅ、ロロちゃん!」
膝かっくんとなるレベッカは急ぎ振り向く。
と、足下に居た頭部を傾けていた黒豹に向けて指を出した。
鼻先に細い人差し指を当てるように伸ばす。
その光景を、俺の隣で見ていたヴィーネが、ふふと笑い、
「神獣様も楽しんでますね」
「あぁ」
ヴィーネと共に笑う。
ポケットから二匹の魔造虎を出して、参加させたくなったが、止めといた。
「もう、可愛い顔! でも、びっくりさせないで!」
そんなレベッカの人差し指に向け、相棒は鼻を付けた。
「あう」
ロロディーヌの鼻ツンを受けたレベッカは微笑む。
相棒は、頭部を横にずらし、自身の頬と髭にそのレベッカの細い指で当て擦る。
頭部を前後させて、頬を擦り始めていく。
「――ふふ、可愛いんだから!」
黒豹のロロディーヌはレベッカに抱きしめられていた。
と言ってもレベッカは小柄だから、逆にロロディーヌに抱きしめられている構図でしかない。
「きゃ」
と、倒されたレベッカは顔をペロペロとロロディーヌに舐められていく。
「あはは、面白い」
その間に、ヘルメの精霊としての視界を解除。
すると、背後から、
「わたしはネームス!」
「また、詰まった時はどうしようかと思ったけど、無事についたようね」
「ここが魔界か!」
「ついたかぁ」
「ふぅ、地下世界……でも、ネームスさん大きすぎます」
と、ネームスとユイとモガにトーリとキサラが着地。
キサラがネームスに文句を言うが、
「わたしは、ネームス……」
クリスタルの双眸をゆっくりと瞑りながら返事を送っているだけだ。
しかし、まだ落ちてこない仲間は何してんだ。
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