五百六十三話 Adversity makes a man wise
船尾楼の上に着地。
ヘルメもベニーを縛った状態で着地した。
「ンンン、にゃお~」
相棒が跳躍して肩に乗ってくるや、頬に頭部を当ててきた。そのまま顎を、ペロペロと舐めてきたから、お返しに、喉を人差し指で撫でて、喉の毛を整えてあげた。
そして、皆を確認。
ジョディの銀糸に絡まった七戒のメンバーは五名。
「お帰り」
「おう」
ユイは神鬼・霊風を鞘に仕舞った。
下の甲板から、
「ご主人様!」
「お帰り~ベニーをボコったのね!」
「主だ!」
「おお、あのベニーは強そうだったが、やはり主だな」
「我の主だ! 当然である。種族が違えど、蛇人族の頭領になれるだろう」
ママニたちだ。ゾスファルトも傍に居る。
口に咥えたロープを片腕で引っ張り、折れた金具棒を結んで修理を手伝っている。
片腕だけなのに器用だ。後々、義手が居るかどうか聞いてみるか。
だが、聞くところによると、片腕だからこそ可能な剣術と武術を使うようだから要らないかもな。
その甲板で、マジマーンに頭部を叩かれているチップの姿もあった。
魚人のハッカクも胸に風穴が空いて水を吐いているがなぜか生きている。
チップもずぶ濡れだ。
あれ? 特徴的な額の形が兜系に変わっている。
あ、すぐに金玉に変形した。
「きゃぁぁ」
近くにいたレベッカが悲鳴を上げる。
蒼炎を身に纏いながらチップから逃げていく。
チップは不思議そうな表情でレベッカを見ていた。
マジマーンは〝気にするな〟とチップの肩を叩いて快活に笑う。
なるほど、あれで杭の魔弾を防いだのか。
海神様の加護は強烈だ。
「ご主人様、お帰りなさいませ」
ヴィーネだ。
翡翠の蛇弓は仕舞っている。
「シュウヤ様と精霊様! 七戒討伐です!」
アキは敬礼。
「あなた様! ご覧の通り、生きている七戒たちは縛り上げてます」
「マイロード、七戒はこの五名のみ。他は死にました」
「ん、ベニーはメルに?」
「そうだ。マジマーンを追った理由はもっともだが、背後関係やら理由はあるだろうからな」
と、語りつつ銀糸に縛られている七戒のメンバーの表情を覗くように姿勢を屈めながら見ていく。
「金髪の女性が七戒の副長か」
「はい」
プラチナブロンドの髪。
女性のトオは気を失っているベニーを見て、口を開けて驚いていた。
「マジマーンの四島にあるミホザの騎士団の古代神殿の場所を知りたがっていたようです」
「ん、ベニーの強さを信じていた。けど、シュウヤが倒したと聞いても信じていなかったから、今は凄くショックを受けている」
尋問していたヴィーネとエヴァが語る。
確かにベニーは強かった。
仕事をし損じることは今まで一つもなかったんだろう。
倒されたことが信じられないのも分かる。
その俯いたトオの表情を確認するように、
「よう、俺の名はシュウヤだ。で、この状況は理解できるな?」
「……はい」
彼女を支えていた何かが崩れていくような表情を浮かべながら静かに応答する。
ま、美人さんだが……。
エヴァたちに刃を向けたことに変わりない。
メルに託すとして闇社会のルールは俺のように甘くはない。そしてこの勢力が入り乱れた状況だからこそ……今、ベニーと共に自分の命があるということは彼女も十分に認識していることだろう。
「皆、さっきも血文字で伝えたが、ベニーたちをカルードとメルに託そうと思うが、どう思う?」
すると、ヴィーネが、
「この場で処刑しても、わたしたちに不都合はないかと思いますが情報次第ですね。やはり、メル副長とカルードに任せましょう」
ヴィーネがそう告げてきた。
「ベニーは有能な暗殺者。わたしたちの役に立ってくれるかもしれない」
ユイが発言。
「わたしが食べてもいいですよ!」
アキが蜘蛛脚を展開させながら発言。
トオを見ると、
「ぅぅ……」
怯えていた。
瞳孔が散大し収縮する。
「ん、わたしたちを襲った敵。トウブさんと、助かったけどハッカクは傷を負った。仲間のマジマーンの一味は死んだ人もいる。許せない」
優しいエヴァは怒っている。
「処断するならアキの力になる吸収に賛成です」
「ふふ、ジョディお姉ちゃん好き!」
アキは喜ぶがヘルメは無言だ。
厳しい表情を浮かべて頷く。
だがしかし片方の腕はベニーに向いて……。
細い指先から水がピュッと出し掛けていた。
その効果か不明だが、ベニーの尻が輝いていた。
ヘルメはヘルメか。
皆の意見を聞いたところでカルードに視線を向ける。
マジマーンやらゾスファルトのように優秀な人材として、ベニーたちを使えるかもしれない。
と、考えていたら、
「マイロード。ベニーは素直に従うとは思えませんから首を刎ねることも一理あるかと」
「そっか」
止むなしか。
「しかし、まだ不明な点も多い。七戒はセブンフォリア王家とも何かあるようですから」
トオを見て語るカルード。
「ラファエルとエマサッドからも情報は聞けるだろう」
「はい。実力と知識は役に立つはず。ですので、マイロードと皆さん、ベニーの身柄と七戒のメンバーたちは、暫くわたしに預けてくださいませんか?」
カルードの言葉に迷いはない。
闇のギルドマスターとなる男の判断だ。
しかし、ギルド員としてベニーを採用できるのか?
戦った感想だと自分の仕事を貫く男に思える。
ベニーは死ぬほうを選ぶかもな。
だが、愚直ってわけではないか。
そして、暗殺チームが待ち受けるは酸いも甘いも経験しているメルの尋問だ。
ベニーとトオと五名たちが素直に死ねる環境に身を置けるほど甘くないだろう。
闇ギルドの元マスターのメルの判断ならカルードの参考になるはずだ。
当初の判断通りカルードに託す。
よし、と、俺は強く頷いた。
「……分かった。任せよう」
「ん、シュウヤが言うなら信じる。けど、仲間になるなら、マジマーンの仲間たちに謝らなきゃだめ」
「それはもっともだが、エヴァ、ありがとう俺だけでなくカルードを信じてくれて」
「ん」
エヴァは納得してくれたと思う。
カルードは頭を下げていた。
「ヘルメ、カルードに渡してくれ」
「はい」
ヘルメは<珠瑠の紐>で縛るベニーをカルードの足下に運ぶ。
そこで輝いていい匂いを放つ<珠瑠の紐>を解除。
紐でベニーの頭部を撫でてから解放していた。
「ではジョディさん、こいつらを縛りますので」
「了解しました。<光魔の銀糸>――」
ジョディもヘルメと同じくトオたちを縛っていた銀糸を解放していく。
カルードは七戒のメンバーたちの身柄を枷で拘束した。
そのタイミングで船尾楼の端に移動。
下の穴は塞いだほうがいいだろう。
<邪王の樹>を発動。
――潜水艦のハッチをイメージ。
――マンホールを船尾楼の天辺に作る。
模様は黒猫。
ちゃんとした蓋となったか穴を踏んで確認。
硬く頑丈だ。
黒猫海賊団らしい船尾楼となったところで、甲板で作業しているマジマーンに向け、
「マジマーン! 天井の穴は塞いだが、船は大丈夫なんだな?」
と、大声で話をした。
「大丈夫さ! え? 塞いだ? あ、ありがとう! というか総長は樹木の力もあるし神獣様の力がなくても空を飛べるんだねぇ! なんて男なんだい!」
実際は飛んでないんだが、まぁそうだな。
「たまたまだ。で、聖櫃のことだが……」
「さっきベニーが語った通りの品だよ。それ以外は海図のような役割がある。操舵室にあった地図と合わせれば、古代の……と、あまりおおっぴらに言えることじゃない」
トオは情報を得ようと耳を立てている。
聖櫃についての詳細は後だ。
血文字経由で皆にも伝わるだろう。
「……ある種のミホザの騎士団の海図ってことかな。七戒は、それが狙いでもあるってことか……」
と、喋りながらトオを見る。
頷くトオ。
「はい、海図もミホザの聖櫃の力の一部です。他にもミホザの騎士団の専用船や……『俺たちが使用している〝セヴェレルス〟がある』と『七戒のブファスたちが奪う前に俺たちが頂く』とも……『すべての秘宝を得られれば、セブンフォリア王家に一矢報いることができる』と……ベニー隊長は語ってました」
トオは語尾のタイミングで俯きながら、大切なことを喋っていた。
ブファスってのは七戒の幹部か。
しかし、セブンフォリア王家に一矢報いる?
ただの飼い犬ではなく、ベニーの暗殺チームは猟犬だったということか。
七戒という組織はおいとくとして、尋問のやり方によっては……案外、ベニーとトオたちは俺たちの仲間になる可能性も出てきたな。
ベニーが起きたら、この副長トオと喧嘩をするかもしれない……。
あ、トオは俺に魅了されたか?
俺の双眸は、魅了の魔眼を内包している。
精神耐性が高くないと抗うのは厳しいだろう。
そして、吸血を実行したら洗脳効果で鞍替えするかもだが……ま、それは止めとこう。
カルードが欲している人材だ。
エヴァはトオを触ると頷く。
本当のことらしい。
心を読む力が通じなかったマジマーンの力はトオにないだろう。
俺はトオを見る。
紺碧な瞳は震えている。
余計な世話と思うが……。
「お前たちにも信条と戦いはあるんだろう。それを否定する気はない。ただ、生きたいなら、強情にならず、素直に情報を言うんだぞ?」
「……」
トオは沈黙。
俺はカルードに視線を向けて、
「……カルード。さっきと同じだが、闇ギルドマスターの道をいくなら彼らを説得してみせろ」
敢えての難問だ。
ルリゼゼと同じように、山中鹿之助の『我に七難八苦を与えたまえ』や『艱難辛苦を玉にす』という言葉が似合うカルード。
逆境が人を作り賢明にするを進むカルードだからな……。
英語ならAdversity makes a man wiseだ。
「ふっ、了解しました」
渋い笑みが似合うカルードさんだ。
「んじゃ、サイデイルに帰るとして、甲板からだ」
「はい」
「父さん。鴉さんとメルにもよろしく」
「うむ。マイロードを支えるのだぞ」
ふふと笑ったユイ。
「逆よ。わたしが、彼の笑顔で癒やされて支えられているんだから」
ユイは熱い眼差しで俺を見てくる。
微笑んでくれた。
が、微妙に照れる。
カルードも娘を思う父として表情だ。
そして、鴉さんを見てから、俺を見て頷いてくれた。
「……マイロード。毎度ですが娘を頼みます」
「分かりました。義父さん」
と、普通に挨拶してしまった。
「な、ま、マイロード!」
と、少し動揺するカルードが可愛く見えた。
皆が笑う。
「よし、ヘルメ、左目に」
「はい」
左目にヘルメを戻しながら甲板に降りた。
船尾楼の上に乗っていた皆も続く。
帆柱付近に居たバーレンティンとママニたちも近寄ってきた。
ビアの胴体にぶつかったロゼバトフがイラッとしていたが、指摘はしない。
バーレンティンが、
「主、ペルネーテには?」
「カルードたちだけだ。俺たちはサイデイルに戻る」
「承知、地下の仕事ですな」
スゥンさんは片目付近に手を当てながら、眼光だけでなく額を輝かせている。
「俺たちの出番だ」
「ふふ、この船旅もいいもんだと思ってたとこだけど」
イセスが語った。
いずれは彼女の水着姿とか期待ができる。
「主と精霊様と同じ氷で貢献する」
「そうだな、大蝙蝠剣術も披露できる――」
トーリの言葉に反応したキース。
大きな蝙蝠に変身した。
翼の形がこれまた骨を生かした鋼鉄ゾンビ風。
口に魔刀を咥えた大きな蝙蝠。
マジマーンが腰を抜かしている。
ハッカクも仰天。
チップは金玉を……。
すぐに大柄のビアが前に出たから、事なきを得た。
「我も行きたいぞ!」
ビアの迫力を受けて、思わず速攻で頷く。
「ご主人様、魔石をアイテムボックスに納めないのですか?」
ママニが聞いてくる。
大魔石があったな。
「ナパームの装備も気になるが、後だ」
チップから逃げていたレベッカが、
「わたしも地下に行くから」
「いいのか?」
「うん。ベティさんとクルブル流のサーニャさん、屋敷のイザベル、ミミたち、訓練相手のアジュールに何も話をしてないけど。地下に行く」
「ん、わたしもシュウヤと行く。キストリン爺、幽霊のキッシュの妹、魂の黄金道!」
「キッシュのご先祖様たちの聖域」
「そう。あの小山から地下に続く道」
「キッシュのためにがんばるって言うから正直嫉妬しちゃうけど、オフィーリアさんたちとサイデイルの方々を見ていると心が癒やされたし、間違っていないと思わせてくれる……だからわたしもがんばりたい」
「ユイに同意です。わたしにもやりたいこと好きなことがあります。しかし、ご主人様が助けた人々、見捨てることができなかった人々たちの笑顔を見て気付かされました。あの本当の幸せと喜びを得たような笑顔を見ると……」
「そうそう。小さなジャスティスン? だっけ」
「いや、ジャスティスだ」
「ンン、にゃお」
と、鳴いた相棒もレベッカにツッコミを入れた。
甲板に下りた相棒はレベッカの足下に突進。
「――そう、それよ。そのことを言いたいんでしょ? ヴィーネ」
足下に来たロロディーヌの頭を撫でながらヴィーネに振るレベッカ。
「はい。ご主人様が無償で行動する理由……だから、わたしは、その手助けをしたい!」
「ん、ヴィーネが真面目な言葉で熱く語る。珍しい」
「そういえば、そうね。いつもだと、ダークエルフの素の感情を出して、がんばるのだ。ご主人様の力になる! とか言うかと思ったけど」
「時々あるのだ……」
ヴィーネは恥ずかしそうに視線を逸らす。
素の感情を指摘されてモヤモヤしたんだろう。
「クナたちにも連絡しとくか、キッシュ経由だが」
「ん、クナとモガの交渉も気になる」
レベッカから離れた黒猫はそう語るエヴァの金属製の足に移動。
頭部を擦っていたが、あまり感触が好きじゃないのか、横腹を当てつつ尻尾を絡めてから、エヴァのことを下から見上げている。
エヴァは気付いていない。
俺の視線に相棒は「ンン」と鳴いてくれた。
エヴァはすぐに気が付いて相棒の頭部を撫でる。
「朱雀ノ星宿と交換してもいいとか、勝手に言ってたけど」
「極星大魔石を預けてくれないシュウヤ様のバカ。と、クナが喋っていたと、血文字でキッシュから聞いた」
甲板の上で、そういった皆が熱く語り合う……。
俺は二十四面体を取っていた。
その二十四面体をハンドスピナーのように掌の上で転がしていく。
すると、肩に戻ってきた相棒。
「ンン、にゃお」と鳴いて、掌で転がしている二十四面体に向け片足を伸ばしてきた。
が――触れさせない。
「ンン――」
黒猫は空かされたパンチのお返しに、俺の耳朶を叩いてきた。
「くすぐったい」
首にも、ポンポンといったような可愛い肉球のアタックがきたが放っておく。
そのまま、指でパレデスの鏡の十六面をなぞった。
いつもの寝台が映る。
ぷゆゆは珍しく居なかった。
ゲート越しに、皆に向けて、
「すぐにキッシュたちと話をして、地下に向かうことになる」
「「はい」」
ゲートを潜りサイデイルの家に帰還した。
寝台付近でいつも怪しい儀式をしているぷゆゆが見当たらない。
キャットウォークにもいないな……。
肩の相棒も、キョロキョロと頭部を動かす。
ぷゆゆを探していた。
そんな素振りをするから面白い。
「あれ、あの毛むくじゃらがいない!」
「ん、ぷゆゆちゃんと会いたかった」
二人は寂しげだ。
ユイは別段に気にしてない。
ヴィーネはママニの歩く姿を見る。
ママニとビアにフーは寝台の側を移動していく。
バーレンティンたちは沈黙。
俺は先に階段をおりると皆もついてきた。
一階で寛いでいたクエマ、ソロボ、ムー、リデル、マグリグに挨拶。
皆も挨拶しながら机を物色。
菓子とフルーツを摘みながら近況を語った。
キースとトーリが蝙蝠に変身。
リデルとマグリグを驚かせていく。
サナさんとヒナさんはドナガンたちに誘われて畑仕事らしい。
俺が作った鋤の農具で農地が増えたとか語っていたからな。
果樹園を管理している料理人と化した亜神夫婦とも仲がいいから新種の種を植えたりしているのかも。
ムーだが、少し風邪を引いたとかで、この間手に入れたミヴォルの薬を飲んでいるとも話をしてから、地下討伐の関する話に移る。
「クエマとソロボもキッシュたちのとこに行こうか」
「はい。主はついに?」
「そうだ。地底神ロルガ討伐に動くつもりだ。地底に詳しいバーレンティンたちも居るが、オーク帝国の仕組みと、地下の経路はお前たちの専門だからな」
「一応はキッシュ様に説明をしましたが、何分、広いうえに言語が……」
「そうなのだ。わたしたちはオーク語のみ。共通語も学んではいるがこればかりは頭が悪すぎて……主、すまない」
「んなことは気にするな。ルシヴァルの一員で、サイデイルを守りつつ、ムーの相手をしてくれているじゃないか。それに、二人も家族。笑顔を見るだけで嬉しいぞ」
すると、ムーが反応。
リデルの作ったシチュー系の料理を飲むように食べていたムーだ。
「……っ」
鼻息を荒くしながら、片手を上げて、こくこくと首を縦に振る。
そして、オークの二人は、
「……主」
「主!」
血魔力を全開に興奮してしまう。
間合いを詰めてハグしてきた。
クエマは美形だし素直に嬉しい。
が、ソロボは正直……。
マッチョマン過ぎてむさ苦しい。
しかし、まぁその気持ちは嬉しいから二人をハグする。
「ンン、にゃ、にゃ、にょおお」
と、変な声で鳴いているように、ソロボは相棒の触手アタックを受けていた。
主に強烈な口牙に。
黒猫的に、あのバビルサ風のイノシシ牙が気になるんだろう。
上顎と下顎から上に湾曲しながら生えている犬歯たち。
「……神獣様!」
「わたしにも、肉球をください!」
クエマは肉球アタックを望んでいるようだ。
「にゃ? にゃお~」
と、クエマの頬を肉球パンチする相棒。
頬をぶたれて、喜ぶクエマ。
少し違うような気がするが、まあいい。
キッシュが褒めていたことを告げるか。
「ある程度の大きな支族が利用する穴が分かっただけでも、対策が可能になったと喜んでいたぞ」
大支族がどこの穴から出てくることが多いことが分かっただけでも大きい。
「わたしは絵が描ける。地図とジェスチャーで、なんとか司令長官殿に情報は伝わったようだ」
「しかし、樹海は広いですからね。なかなかに……」
「支族も利用する道を変えますから、カイバチ氏、グング氏、等の大支族たち。幸い、ハーデルレンデの秘宝【蜂式ノ具】がここにないことが知れたのか、オークたちはこのサイデイルに興味をなくしたようですが」
地底神ロルガを倒し秘宝を奪取したとしても、まだまだ先がありそうだな。
が、できることをやるだけだ。
「んじゃ、キッシュのとこに向かう」
「はい」
◇◇◇◇
キッシュたちにマジマーンと七戒について報告。
そして、念願の地下に進出すると告げた。
デルハウトとハンカイにシュヘリアは頷く。
右の小さい机の周囲に座るのは、トン爺、バング婆、キサラ、ジュカ、エブエ、セリス王女。
バング婆からセリス王女は札をもらっていた。
タロット占いでもしているように机の上に札が並んでいる。
左の立ち椅子に渋く腰掛けているのはバーレンティンとスゥンとクナ。
足を悩ましく組んでいるクナ。
俺にウィンク。
嬉しそうな表情の通り、モガからアイテムを試す許可を得ていた。
俺の近くに立つのはママニとフーにダブルフェイスとレベッカにエヴァとヴィーネ。
右の壁際にラファエルとエマサッド。
左の壁に寄りかかっているのが、オフィーリアとサザー。
皆、聞いている。
他の墓掘り人とビアにモガ&ネームスは外だ。
といっても、木の窓からモガとネームスが覗いていたが。
近くにアッリとターク以外にも子供たちが居るのか、
「我をくすぐるな!」
「俺は置物じゃねぇ」
「髪を触るな、ガキ共! これは偉大なモッヒーなんだぞ」
「サルジン、うるせぇ」
「あはは、へんな髪~」
「こっちのあんちゃん、巨大な岩だぁ」
「まて、俺は岩じゃねぇ」
「わたしは、ネームス」
「ふふ」
「あ、ぷゆゆが来た!」
「え、あぁ、ほんだ」
「ねぇ、あのひょろい兄ちゃん怖い! 頬に骨がある!」
「氷のあんちゃんも目が怖いー」
「ぷゆゆ~?」
といったように、押すなくすぐるな、と騒ぎとなっていた。
逸品居で働く亜神夫婦とレネ&ソプラに<従者長>になった紅虎の嵐はいない。
紅虎の嵐たちは博士コンビを連れて、旧神のゴラード系のモンスターが湧く樹海地域に進出している。
レネとソプラはドナガンたちと一緒に新しい畑に向かっていた。
「承知した。メンバーは神獣様。ユイ、ヴィーネ、エヴァ、レベッカの<筆頭従者長>。と、四天魔女キサラ、血獣隊、墓掘り人、ソロボ&クエマ、アキ、ハンカイとモガ&ネームスで向かうんだな」
「おう、外にいるジョディもたぶんついてくる」
「ぷゆゆは連れていかないのか?」
と、冗談を飛ばしてくるキッシュ。
「ここのアイドルを奪うわけにはいかない」
俺の返しを聞いたキッシュ。
笑みを浮かべていたが、途中から視線を鋭くさせて蜂が漂う頭上を見ては、
「……家族と祖先たちの願いでもある、本来ならばわたしが行くべきところなのだが……」
ハーデルレンデか。
キッシュに見えていないはずのラシュさんがそこに居る。
妹のラシュさんは蜂を纏って浮いていた。
ラシュさんは微笑む。
俺は頷いてからキッシュを見て、
「いや、キッシュはここに居てくれないと困る。司令長官、いや、もうサイデイルの女王なんだ。デルハウトとシュヘリアも俺についてきたいが、キッシュを支えると発言してくれた」
「……うむ。いつも二人には感謝している。ありがとう」
「何を仰る。司令長官殿」
「そうですよ。陛下のご命令に従っているだけ」
「ふ、サイデイルに愛着がわいたと、この間語っていたが?」
「そういうデルハウトこそ、ハンカイ殿と共に地下へ行きたい。と、喚いていたではないか」
その瞬間、デルハウトの海老のような触角器官の先端が点滅をくり返していた。
「それはそれだ。陛下たちとサイデイルの状況を考えれば、俺とシュヘリアがここに残ることは必然。対オーク帝国と樹怪王の軍勢に旧神ゴ・ラードの蜻蛉軍団にも抵抗せねばならないのだからな」
「クイーン・グル・ドドンのオーク軍勢は厄介だ」
「ふむ、大概は樹怪王の兵士やらトロール共との争いに終始するが……」
「黒の貴公子もこの辺りに出現しないはしないが危険であることに変わりない。エヴァ様と互角に戦ったようだからな」
「見かけないのは、きっと神界勢力が盛り返している成果だろう。冒険者活動に紛れたスキル探索集団も居るからな」
そう発言してから、間をあけ、
「で、その旧神ゴ・ラードだが、今は紅虎の嵐がその領域に向かっていると聞いたんだが」
と、聞く。
「血文字で連絡は受けている。順調に正確な地図とルートを生成中だ」
キッシュがそう答えると、デルハウトが、
「はい、蜻蛉軍団は古代狼族が健闘している効果もあります」
シュヘリアがポニーテールを揺らし、手でジェスチャーを取りつつ、
「問題は樹怪王の軍勢です。槍部隊も兵士に蛞蝓系の兵士も多数居る。水晶池が占拠された事件は新しいだろう。そこでドワーフと獣人たちが殺されたばかりだ」
と、事件を語った。
デルハウトが怒りを露わにしながら、
「ふむ……足の速い斥候部隊も居るようだ」
と語る。
「ベンラックのほうにも進出しているようだが、このサイデイルの規模が大きくなったことが樹怪王側でも認識されたようだな……人族の国と思われているかもしれない」
サイデイルの将軍のような立場のデルハウトとシュヘリアが語り合う。
黒猫は大好きなシュヘリアのポニーテールに飛びつかず、がんばって話を聞いていた。
真面目だ。
肩でスフィンクススタイルで聞いてる。
目を細めて、サザーを見つめている。
『サザーを弄りたいにゃ』と思っているだけかもだが。
「だから二人は、ここで活躍してもらう。俺たちは地下だ。これもあるからなと――」
ポケットから紙片を出す。
「その地図と手紙は、黄金の魂道を辿れば聖域にと、叫んでいたというキストリン爺の?」
「そうだ」
皆に、紙片を改めて見てもらった。
地図が記されている手紙は俺が読む。
□■□■
……傷が広がった。
まさか、体を溶かす毒がここまで強力とは。
テンイシャのフブキから託されたソロモンの異獣ドミネーターの最後の一体が、今、ロルガの配下レドームに滅ぼされた。
預言者キストリンとして、イギルと繋がりのある支族から地底神ロルガ討伐を請け負ったが…………。
ここまでか。再生も追いつかない……痛みで、文字が、む、無念だ。イギルに顔向けできんな……。
この紙片に、残っていたスクロールの力を、愛の女神の力を託す……。
□■□■
「てんいしゃとは、ご主人様が語られていた転移者」
「そのフブキはわしも知っているのじゃ。名はスメラギ・フブキ。御守様を取り返すと語っていたのじゃが……果たして、取り返すことはできたのだろうか」
キッシュに助言を多く与えている軍師長老のようなトン爺が発言した。
今もどんぐりを宙に向けて撃っている。
「レドームってのはモンスターかな?」
ラファエルが指摘、
「一概に、モンスターってだけでくくれない。フェーン独立都市同盟の第六軍団を指揮していたナズ・オン将軍のような存在も居る」
「……臭い奴」
「八腕の奇妙な奴だった。果樹園の奥から攻めてきた軍団ね。シュウヤが倒した強敵」
「……魂の黄金道に、そういったモンスター軍団が住む地下都市があるかもってことか」
「そうだ。ま、これは実際に黄金道を進まないと分からないから、なんとも。ということで、出発はすぐだ。行くぞ」
装備を整えていたハンカイが斧を肩に置いて、
「分かった。シュウヤ隊長とでも呼べばいいか?」
と笑顔を浮かべながら発言。
「ツラヌキ団たちが呼ぶように大隊長?」
レベッカが聞いてくる。
俺はぼけるタイミングと判断。
「……皆、忘れていると思うが、地下では、世界屈指の【特殊探検団・陸奥五朗丸】という名があるのだ。ふははは」
「ちょっとこっちを見て、変な声で笑わないでよ。ツッコミを期待している顔だし、シュウヤはシュウヤよ! あ、エロ隊長?」
「ん、エロ大臣」
「なんでエロ大臣……そこは大蔵だろう。大蔵大臣!」
「いや、なんで、偉そうな口調でおおくらとなるの?」
レベッカの渋いツッコミだ。
水平チョップ的の快活なツッコミがほしかった。
「流れ的に……」
俺もボソッと呟いたところで、皆が微笑んだ。
よし、
「じゃ、行こうか」
「シュウヤ。頼んだぞ!」
「おう」
キッシュの言葉に声と背中で応える。
扉を開け外に出ると子供たちが集まってきた。
ノイルランナーたちもいる。
相棒が子供たちにダイブ。
「わあ〜神獣さまあ」
「大隊長! 神獣さまを抱いていいのですか!」
もう抱きしめてるじゃん。
とは言わず、笑いながら頷く。
マフラーのように長い尻尾が子供たちの首に巻き付いた。
「おチビな猫ちゃん大好き!」
黒猫は腹にぶぅ~と息を吹きつけられてにゃーと鳴いているが、なすがままわざと子供たちに好きなようにさせていた。
きゃっきゃっと浮かれ騒ぐ子供たち。
本当に楽し気だ。
サザーとオフィーリアも混ざる。
『……幸せな時間ですね』
『そうだな……』
大切な時間だ。
視界の端に浮かぶヘルメの言葉に同意しつつ魂の黄金道が続く小山を見上げる。
輝く血が滴るルシヴァルの紋章樹。
ルッシーが泳ぐと新しい枝ができて血の花を咲かす。血の軌跡が眩さを生む。
ジョディがそのできたばかり細い枝先にドリルの足先をつけ、額に手を当て空を見る。
振るったサージュが仕舞われる瞬間の空間が歪みながら消えるエフェクトは綺麗だった。
そして、輝く血を発するルシヴァルの紋章樹と似合うジョディの佇まいだ。
血が目映く美しい。
しかし、今回は、魂の黄金道を不気味に彩っていくようにも感じた。
続きは来週です。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」1巻から8巻まで発売中。
コミックスファイア様から「槍使いと、黒猫。」1巻が発売中です。




