五百五十三話 サイデイルからアルゼに向けて
2022/01/07 0:06 修正
ラファエルvsぷゆゆの戦いは……。
ぷゆゆのフットワークのよさにラファエルが翻弄されるという構図。
俺は隣でレネ&ソプラと話をしていたエヴァに視線を向ける。
「ん、混ざる?」
「いや、混ざらない」
と、天使の微笑を見て我慢した。
ラファエルは、屋根裏のほうに逃げたぷゆゆを追う。
「キャットウォークから足を踏み外しても知らないぞ」
「僕はこう見えても身軽なんだ!」
「そうかい」
「――あぁ!」
言っているそばから踏み外して落ちそうになっているし。
ラファエルは手で出っ張りを掴んでいた。
背中の猫じゃらし風の杖が揺れる。
「まぁ! お水をピュッピュして支えますか?」
「助けるか?」
「要らない。負けない! ボクの魂王が叫ぶんだ! あの毛むくじゃらを捕まえろと! 『プリソン』出番だよ!」
ラファエルは魂王の額縁から四角い頭部の小人を出現させた。
小柄獣人たちとハンカイが驚く。
「クナ、血ガホシイ」
「え、血の対価は何をくれるのかしら?」
単眼球体触手のガラサスは内側が凹むと、そこから骨が出た。
「……ホネ」
「わぁ、上と下で変なの出た」
「ガラサスも可笑しいけど、絵が動いてる~」
「はばき骸と、魂王の額縁が輝いたと思ったら、小人だと?」
ハンカイは上を見ているが、俺はガラサスを注視。
「済まない、馬鹿ガラサス。それはわたしの左腕の骨だろうが! この間からクナさんのことを気に入ったようで……」
「いいのよ。皆さんもご存じのように、わたしの分身体に邪神ヒュリオクスの眷属が取り憑いていたからね」
「ガラサスは、クシャナーンとしての魔族の血が好き?」
アリスがそう聞いている。
隣ではナナが肩から闇の液体が漂う狛犬を出現させていた。
「スキ、血とクナ」
「うふ、健気な告白ね。嬉しいわ! わたしは<星惑の魔眼>を持つし、仕方がない。ちゅっ」
クナはガラサスに投げキッスを繰り出す。
ガラサスの単眼球体ごと長い触手がぶるっと震える。
「オォォ」
単眼球体が放射状に分裂しながらエルザの左腕に戻った。
俺はエルザに、
「今のはエルザが?」
「そうだ。大概はコントロールできる。ただ、ガラサスも感情を持つから、なるべく自由にしているんだ」
アウトローマスクが似合うエルザがそう語る。
左腕を外套の中に隠すように仕舞った。
「そっか」
俺はラファエルたちに視線を移し、
「『プリソン』は面白い形だ」
「形だけではない。この『プリソン』は『フェルナンド』や『ピックピック』とはまた違う面白い能力がある!」
そのプリソンの小人は天井付近だ。天井に片手の掌を当てぶら下がる。
小さい掌はカエルか? 粘着性があるようだ。
そんなプリソンの四角い頭部の髪が柳の枝に生えた葉のように垂れてラファエルの体を絡め取る。プリソンは息を荒くしながら髪の毛を引っ張りラファエルを持ち上げた。
ラファエルはクレーンに運ばれるコンテナの如く天井付近に引っ張り上げられながら移動していた。
浮遊している魂王の額縁も一緒だ。
そのラファエルに付き従うような魂王の額縁が映す立体絵の変化が激しい。
立体的な舞台上で踊る『アルチンボルト』風の玩具たちの中では、ユーンが立って手を振っていた。
しかし、『アナモルフォーズ』のように歪を利用して動く背景だ。
前にも見たが……。
面白い絵の世界は、何度見ても飽きない。
立体的な絵のユーンが輝きを放ち笑っていた。
階段付近でそんなラファエルを見上げていたオフィーリアたちから拍手が起きている。
小人の髪から解放されたラファエルは母屋の木材に足をつけて、ぷゆゆを探していた。
オフィーリアたちは奇術師のようなラファエルから内装に視線を移していく。
階段付近の壁に手を当てていた。
内装に興味を抱いたようだ。
傍にエマサッドとダブルフェイスにヘルメとエヴァもいる。
レネとソプラさんは窓際から外の様子を見ていた。
一方、キサラとジュカさんの二人は、寝台付近の散らかったゴミを片付けてくれていた。
「キサラ、ありがとう」
「いえ、当然です。ここはわたしとシュウヤ様の……」
そうだったな……。
熱い日々を一緒に過ごした。
「キサラと……」
キサラの気持ちが分かったのか、ジュカさんは頬を赤くしていく。
そこに背後から、
「シュウヤさんは、大工さんの経験が?」
オフィーリアから質問を受けたから、振り向き、
「師匠から木工細工を少し習ったが、大工の経験はない」
と答えた。
するとダブルフェイスが壁を触り、
「これが邪界の木々か。しかし、どうやったら、こんな風に湾曲した樹の素材となるんだ?」
半月の形に湾曲をしながら天井に繋がっている壁を指摘してきた。
ところどころに硬貨のアクセントを生かしてある。
そして、拡張したときに、アルコーブ風のキャットウォークも少し付け足した結果、意外にいいデザインとなった。
「自分で言うのもアレだが、魔力が豊富にあるお陰だろう。試行錯誤をくり返すことができる」
「わたしたちの家も作ってくれるの?」
「おう、簡素となるが瞬時に作れるからな、ここの改装も可能だよ」
「凄い!」
興奮したエマサッド。
「ん、シュウヤは木工スキルがないのに、凄い家を作ることができる!」
エヴァが胸を張って両手を腰に添えながら自慢する姿がなんとも可愛い。
俺は照れながら……
「さ、一階に下りよう。風呂とか改築した部屋もあるが、今は一階にいるサナさんとヒナさんを紹介する」
「「はい」」
皆を連れて階段を下りた。
「――あ、シュウヤさんだ」
「子供と子犬ちゃんがいっぱい~」
リデルのリンゴパイを食べていたサナさん&ヒナさんだ。
ぞろぞろと階段を下りる小柄獣人たちを見て、驚いていた。
階段下のL字の壁の隅のスペースに駆け寄ってくる。
「前にも少し話をしたが、白色の貴婦人戦で助けることができた小柄獣人たちだ。オフィーリアのことはもう知っていると思う」
「こんにちは!」
「人族のお姉ちゃんたち~こんにちは!」
「ぼくの名はトルット。お目目が大きいお姉ちゃんの名前は~?」
小柄獣人たちが挨拶。
続いて、ダブルフェイスが、
「白色の紋章を胸に刻まれ洗脳を受けていたが、主に救われた者だ。名はダブルフェイス。実を言うと本名が別にあるが……ダブルフェイスが俺の新しい名だ。この名で主に命を預ける……<蝦蟇法>という特殊スキルを得意とし短剣を使う。よろしく頼むお嬢さん方」
エマサッドも、
「わたしは魔剣ギュンターと魔剣ソリュルレーを扱う絶剣流と飛剣流を得意とした二剣我流の使い手です。そして、ダブルフェイスと同様に新しい主様に忠誠を尽くす想いです。故郷は南のセブンフォリア。よろしくお願いします」
サナさん&ヒナさんは、こくこくと頷く。
続いて、レネ&ソプラ。
「わたしの名はソプラ。弓が得意、紅虎の嵐さんのベリーズさんにも負けないつもりよ」
「姉のレネです。遠距離狙撃が得意です」
二人の兎人の長耳を見たサナさんとヒナさんは驚く。
そして、
「俺はレイ・ジャック」
「怪しい魔女っ子クナです」
クナの冗句に、エヴァが転けそうになった。肩にいる黒猫は転けず、触手で俺の頬を優しく叩く。
そんな悪戯を払ってから王女セリスに、
「……闇のリストだったが仲間に入った。で、この方がローデリア王国の王女セリス様。皆と同じく、サイデイルに住むことになったから」
「はい、もう王女ではないつもりです! よろしくお願いします!」
きょとんしているサナさん&ヒナさんはとりあえず、頭を下げていた。
そして、二人は顔を見合わせて頷いてから、
「み、まあ、こ、こんちは!」
「みみなーん、こちにちは!」
と、たどたどしい言葉で挨拶。
まだ言葉を理解していない。
二人は翻訳とか成長を促すスキルがないから当然だな。
俺は皆に向けて、
「皆、サナさんとヒナさんはまだ共通語があまり理解できていない」
「承知……」
「遠い異国出身なのですね」
「似たようなもんだ」
サナさん&ヒナさんは、セリス王女とキサラとジュカさんにも挨拶。
キサラは黒魔女教団としてのジュカさんのことを、過去のゴルディクス大砂漠で起きた戦いで故郷を失ったことを交えながら説明していく。
キサラとサナさんとヒナさんは結構、仲がいい。
俺は小柄獣人たちを連れてリビングを案内。
エヴァとやや遅れて話をしながらキサラがお茶を用意してくれた。
サナさん&ヒナさんもお皿にお菓子を載せて、机に置いていく。
リビングで、くつろいでもらいつつ……。
黙っていたツアンと立ちながら魔煙草をふかす。
すると、
「シュウヤさん」
サナさんだ。
「ん?」
「白色の貴婦人の討伐、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「どうしたあらたまって」
「はい、わたしたちはシュウヤさんに救われているんです。衣食住といい、シュウヤさんがいなかったらわたしたちは樹海の地で死んでいたはず。感謝しています」
眼鏡が似合うヒナさんがそう語る。
「うん、力の使い方を知っている聖人です。凄く立派だと思う」
「はい、十二名家に力を持つ魔術師は多いですが、自分たちの欲望のためにしか動かない者が大半ですから」
「そう持ち上げるなって、これは自然の流れ。二人だって俺と同じ立場なら今回のように白色の貴婦人に対して、なんとかしようと動くだろう?」
頭を振る二人。
「……逃げるかもしれない。相手は生命、そのモノを紋章と化してしまうような大魔術が使える危険な相手と聞きましたし」
「はい、戦いで触れば即、死に繋がる相手……リスクがありすぎる……」
「うん」
「セナ様を連れて、何もせず、逃げていたはず……死にたくないですから」
二人は目を合わせて頷き合う。
「二人とも正直だな。だが、二人とも大切な者たちがそばにいたら立ち向かうと思うぞ。どちらかが白色の貴婦人と戦うはめになったら、逃げずに戦うだろう?」
「確かに、ヒナを助けます」
「わたしもサナ様を救いに動きます」
「それと同じことさ」
俺がそう語ると二人は微笑む。
「……飾らない人なのですね」
サナさんの純粋な目だ。
闇を持つ俺には眩しすぎる。
話を切り替える。
「……最近は勉強以外に模擬戦に参加しているようだが、他には?」
「キゼレグさんが、逸品居で作った料理をここまで運んでくれるようになりました」
「傍にいる小さい妖精さんが、そんなキゼレグさんのことを怒っていましたが……」
料理をか。
もしかして、サナさんとヒナさんの転移の経緯を聞いたか。
亜神夫婦なりの謝罪かな……。
「そっか。二人は挨拶の言葉は覚えたようだが……」
「そうですね。まだまだ日常的に会話をするのは難しいです……」
「シュウヤさんのような翻訳スキルがほしい……なにげに、その翻訳スキルって、超がつくほど重要ではないですか?」
ヒナさんが眼鏡を触りながら語る。
<翻訳即是>は最初に選んだ。
ステータスでは……。
※翻訳即是※
※思考能力がアップ。言語や文字の理が感覚で理解できるようになる※
※絶対ではないが翻訳できるものはある程度理解し、書けて、声帯が合えば話せるだろう※
と、あったからな。
思考能力のアップは色々な面で感じる。
<脳魔脊髄革命>も……。
※脳魔脊髄革命※
※第一、第二だけではない臨界期を無限に引き起こす※
※思考力と判断力を大幅に引き上げ、自律神経系、交感神経、副交感神経などの運動生理機能を良い方向へ異常発達させる※
※その恩恵により運動系スキル全般に多重補正が掛かり、体へと吸収される魔素の転換率を飛躍的に上昇させる※
※恒久スキルに<天賦の魔才>が自動追加されるだろう※
があるからこそ、俺がある。
地下生活のサバイバルとローゼスとの出会い。
勿論、ヴァンパイア系の種があったからもあると思うが……なんとか地下を生き抜き相棒のロロディーヌの誕生からアキレス師匠たちとの出会い。
生きる術生きる方針の槍武術を学ぶことができた。
まさにラ・ケラーダ!
と思いながら、
「確かに重要だ。しかし、このスキルも完璧ではない。ぷゆゆ言語も分からないし」
「はは、そうなんですね」
「でも、不思議とぷゆゆちゃんの言葉というか、あの可愛いダンスのような態度で、何を語りたいのか分かる時があるのよね」
「……でも、祈祷と儀式は正直……」
「うん……何かが蘇ってきそう。ペットセメタリーは止めてほしいな。怖いし」
懐かしい映画だ。
ヒナさんの出身の異世界地球でも同じような映画があったようだ。
「ぷゆゆちゃんではないですが、羊の毛の体毛を持つ子犬ちゃんたちがたくさんいますね」
「可愛いです……」
「分かる。小柄獣人たちの見た目は可愛いよなぁ」
オフィーリアは可愛いってより美形が少し入っているが。
「はい、子犬ちゃんを救えてよかった」
そうして屋根のほうで騒いでいるラファエルとぷゆゆの声が聞こえる中……。
日本語で、救出劇からセーフハウスの一件のことを掻い摘まんで二人に説明した。
しかし、可愛い小柄獣人たちの話題へとすぐに移る。
こればかりは仕方ない。
戦争の激しい異世界地球出身だが心は荒んでいないし、女子高生の年代だ。
更に、一階のリビングは動物園を超えた天然のモコモコ祭り状態で楽しげだ。
黒猫もサザーの近くでお腹を見せて戯れているし。あんな光景を見たら我慢できなくなるのは当然だ。
あの渋いダブルフェイスでさえ、破顔して、子供のノイルランナーに誘われるままカードゲームに混ざっている。
クナはエルザとアリスとナナと一緒に椅子に座って紅茶とお菓子を口に含んで楽しんでいた。
途中、リデルが笑顔満面で家にきた。
ニコニコ顔で皆に挨拶をしながら……。
「新しい方々がいらっしゃると聞きましたので……」
巨大なトートバッグに入った野菜と果物を配っていく。
俺も、
「ありがと、リデル」
「いえいえ」
ナシとキウイフルーツと似た果物をたくさん受け取る。
そのナシを食べようとしたら、リデルがじっと俺を見てきた。
「どうした?」
「いえ、お髭が珍しく生えているので」
「あぁ、顎髭か」
「シュウヤ様、あとで剃り剃りしますか?」
「いや、キサラの気持ちは嬉しいが、さすがに自分で剃るよ」
と、ナシのようなフルーツを食べながらツアンにもナシを渡していく。
「旦那、キッシュさんのところに案内しないんですか?」
「いいじゃないか。後で皆を連れていく、そこからクナのセーフハウスに戻りアルゼだ」
こういう時間が意外に大切なんだよ。
――な?
と、机の上でゴロゴロと喉を鳴らす黒猫を見る。
相棒はすぐに俺の視線に気付くと瞼をゆっくりと閉じて開くをくり返してくれた。
俺も親愛を込めて、瞼コミュニケーションを取る。
そうして、まったりと会話が続く。
「さすがにサナさんたちの地球に小柄獣人のような生命体はいないか、異星人の存在とか」
と、質問。
「はい、さすがに小柄獣人のような生命体はいません」
「異星人といえば、地球類似性指標を満たした岩石惑星から知的生命体が発したとされる亜空間暗号信号をとらえたと、その解析が進んで、知的生命体とコンタクトが取れたビッグニュースがあったことは覚えています」
「へぇ、ファーストコンタクトって奴か。そちらの地球でも変化が起きただろう」
フェルミのパラドックスの一つの答えかな。
俺の知るドレイクの方程式もあながち間違いではないのかもしれない。
「はい。真や偽の論理式で有名な不完全性定理は……喩えが悪いですが、タルムードの原理主義的な宗教観が崩れましたからね……しかし、そうした宗教観が崩れることを恐れた方々の暴走が始まりました。一部の国では情報規制が入り……権力者に反抗するジャーナリストを大使館内で捕らえ拷問抹殺……。または放射性物質を使った〝静かなる暗殺〟まで横行していましたから」
「無実の方を巻き込むテロ。極左も極右も裏に回って金を回す金持ち連中が幅を利かせる、くだらない宗教戦争。知的生命体という存在が明らかになっても、人類の一部は、中世の頃から変わらず宗教、金、権力の名の下で、資源の奪い合いの戦争は続いていました」
「〝欲に塗れた賢者〟たちとは、よく言ったものです」
彼女たちの知る地球も凄まじい歴史を辿っていそうだ。
俺の地球も似たようなところは多い。
そして、資本主義とは相反した世界を描く『美しき緑の星』って映画を思い出す。
「そうなると、高度な知的生命体の場合、そんな星で暮らす者たちと接触は取りたくないな」
うん、俺だったらスルーする。
いや、<無影歩>で見学かな。
「そういった意見もありましたから更なる混乱を呼びましたよ。知的生命体とコンタクトを取ることは、逆に危険だという意見も強かったです」
俺の知る有名なホーキング博士もそんな話をしていた。
「植民地化の可能性か。宇宙にある高度文明もそれぞれ違うだろうし、アイムフレンドリーな知的生命体ばかりではないと予想する者もいるだろう」
「はい、十二名家たちもその戦争に参加しました。暗殺一家のマクファデーたちも」
どこの世界も同じか。
「この異世界宇宙の惑星セラも戦争が各地であると聞きました」
「そうだよ。だが、仕方がないという言葉しか出てこない……」
「諦めの境地ですか?」
「似たような感覚かな。どんな愚かな行為でも、人の価値観とは主観の相違で変わるのが常だ」
暫し、間が空く。
隣でカードゲームに興じている小柄獣人たちの楽しそうな声がいいBGMとなった。
「……深い言葉です。シュウヤさんの知る地球でも争いが?」
「勿論あった。あ、俺は戦争は体験していない。平和な国で過ごしていた一般人でしかなかった。だが、千差万別に尽きるかな。屑はどこにでもいるが、いい人もどこでにもいる。その判断の見極めは凄く難しい」
皆が、皆、嘘のつけない世の中になれば、幸せになるとは思うが。
「千差万別、確かにその言葉に集約できますね。わたしたちが暮らす地球に比べたら、この惑星セラも平和なのかもしれない」
それは……。
まぁ、違うとは言い切れないな。
だが、俺の知る地球なら……。
「……セナさんの地球よりは、俺の知る地球は平和だったのかもしれない。一概には比べられないか。悲惨な戦争は昔からあった。そして、セナさんたちの地球にイラクやシリアという国があるか分からないが、中東の一部の国と、俺の知る日本を比べたら平和だった。世界大戦で核を落とされた結果という皮肉だが……その核も怪しい話が多い。嘘と真実がごっちゃになった世界でもある。そして、国連の石油食料交換プログラムの不正とか、無線技術の発展で色々と発展してこともあるんだけど、CERNでテロやら爆発事故やらと、人が行方不明になる事件が頻繁に起きていた。俺はあまり興味もなく、ただ、平和を甘受しながら爺ちゃんと家族が残した遺産で生きていた。あ、幼い頃両親は事故で死んでいるんだ。車の事故でね。目の前で死んだことはトラウマだな。で、爺ちゃんが亡くなってからはずっと一人だったな」
「……」
「……」
サナさんとヒナさんは沈黙してしまった。
やべぇ顔に出ていたか。
ヘルメにクナたちは日本語が理解できないから無言が多い。
そのヘルメは瞑想タイムと化している。
「旦那、哀愁を醸し出していますが、なんの話を?」
「前世のことだ。気にするな、話題を変えよう」
そこから俺たちの会話を聞いていないカードゲームに夢中な小柄獣人の話題に移る。
「あの可愛い体毛は羊の毛なのでしょうか?」
「羊かアルパカのような体毛の子犬ちゃんたち……もこもこ……と、愛が溢れています……ぐふふふ」
隣の席でカードゲームに興じている小柄獣人たちを見たヒナさんは興奮している。
ハンカイとダブルフェイスもゲームに参加しているが、あの二人に興奮はしないだろう。
「ヒナ、気持ちは分かりますが……でも、可愛いわね……」
サナさん&ヒナさんは、鼻息が荒い。
小柄獣人を見て目がハートだ。
彼女たちは猫の人形を持っていたから気持ちは分かる。
サナさんは又兵衛を出していないが……。
今にも十二名家としての魔術師の能力を発動しそうな勢いがあった。
ヒナさんのほうは爪が煌めく。
「……『トレビアン・ヌコ』よりも可愛い!」
「はい!」
「にゃ」
猫人形で黒猫も反応。
ツブツブとアラハにサザーが、
「――言葉が分からないけど、サナとヒナのお姉さんたちも一緒にゲームして遊ぶ?」
「お姉さんたちの言葉は分からないから、説明も難しいわ――」
と、小柄獣人が札を出す。
「あ、ムンムン、ずるい! その札、隠していたでしょ!」
小柄獣人たちがカードで遊ぶ中、オフィーリアが立ち上がると、サナさんとヒナさんに近寄り、
「サナさんとヒナさん、一緒に遊びましょう」
「あ、はい」
「よろしく!」
二人の手を握るとオフィーリアは自分が座っていた椅子に二人を座らせる。
札の意味をゆっくりとジャスチャーを交えてサナさんとヒナさんに教えてあげていた。
優しいなオフィーリア。
「ん、楽しそう」
「エヴァはやらないのか?」
「ん、いい」
「にゃおお~」
「あぅぁ!」
サザーが黒猫の触手に絡まれていた。
机の周りを走って逃げるサザーを追う黒猫。
小柄獣人たちとの遊びは暫く続く。
キサラはジュカさんに内装の一部を説明していた。
「キサラ。ロターゼは?」
「たぶん警邏中のはず」
そんなこんなの団欒が落ち着いたところで皆に、
「んじゃ、キッシュのところに向かう」
「はーい」
「行きましょう」
「俺もいこう」
と、皆を連れて外の訓練場に向かった。
前と同じく訓練中のムーとソロボ&クエマと遭遇。
アッリとタークの姿はない。
ムーはクエマの木槍を糸で絡めていた。
ムーは前進。武器を封じたクエマの足を引っ掛け横に倒すと地面に放った糸で小さい体を支えながら横にいたソロボに<刺突>を繰り出す。
「おぉ! 主人の風槍流そっくりだ!」
ソロボは魔笠ガラササを斜めに出しムーの<刺突>を魔笠で防ぐ。
ソロボは、にやりと笑い、口牙を鳴らす。
「フン!」
と、気合い声を発したソロボ。
全身の筋肉に<血魔力>を込めたソロボはムーとの間合いを瞬く間に詰める。
そして、両手ごと突き入れるような中段突きをムーの胸元に繰り出した。
「……っ」
ムーはさっと半身を横にずらす。
ソロボの迅速な中段の突きを避けた。
やるな、あの避け方も俺の真似だ。
成長しているし、風槍流を受け継いでくれていることに感動を覚える。ムーめ、胸が熱くなった。
そのムーは樹槍を斜めに振るうかと、思ったところで、俺たちを見て動きを止めた。
「――っ」
俺とエヴァの姿を見てにっこりと微笑むムー。
あ、ソロボに肩タックルを喰らう。
ムーは転倒。
紋章樹から出た血が滴る枝クッションと衝突する。
どうやら天然のクッション機能があるようだ。
紋章樹はいつの間にあんなことができるようになったんだ。
傍でムーたちを応援していたルッシー効果かな。
枝クッションから飛び出たムー。
義腕から糸を出しつつ体操でも行うように両手を広げて笑顔を見せる。
そのまま、ソロボではなくエヴァに向けて突進していた。
「――ん」
「……っ」
金属足で立つエヴァの胸元に抱きつくムー。
ぎゅっと抱き合う。
微笑ましいシーンだ。
だが、そんな絵になるシーンを……。
邪魔するようにぷゆゆに追い掛けられて逃げてきたラファエルの姿が視界に入った。
横切る。しかも、尻が……
「あぁぁ、見てないで、たすけてくれ! 噛まれたんだぁ」
「ぷゆゆの技を喰らったのか」
ラファエルの尻に小さい恐竜のようなモノが付いている。
腰に差してあるトルーマンは足が生えて一緒に走って逃げていた。
「あーあれは……わたしの胸を……」
と、キサラは恥ずかしい思い出を思い出す。
俺はバッチリと覚えている。
櫨豆と似た乳首さんも!
ラファエルの傍には魂王の額縁と、はばき骸の印籠も浮いていた。
その浮き方は悲しげに見える。
そのままムーを追い越したラファエル。
妖精ルッシーを見てピタリと両足を止めた。
金色の前髪をかき上げる仕草はさまになるが……。
尻を小さい恐竜に噛まれているシュールな絵だ。
ヘルメを含めてオフィーリアたちも笑っていく。
「精霊様、水が冷たい~」
「けど、気持ちいい~」
「ひんやり~」
「おいしい~」
と、笑っていたヘルメは水を放射状にばら撒く。
小柄獣人たちは楽しげに、その水を受けていた。
一方で、ラファエルは、ソロボとクエマに介抱を受けている。
「金髪の方、待たれよ!」
「オーク語!? 言葉は分からないよ!」
「ぷゆゆの悪戯モンスター! 今、外してあげますから、そのままジッと……」
ラファエルの尻に噛み付いた小さい恐竜は、クエマとソロボが外していた。
「ぷゆ~」
ぷゆゆはラファエルを懲らしめたと思ったように喋る。
そのぷゆゆ、俺を見て『ニカッ』と微笑む。
俺の足下に走り寄ってきた。
くりくりした目を、クナ、キサラ、ジュカさん、ハンカイ、ダブルフェイス、レイ、王女セリスに向けていく。
わしゃわしゃとした頭部を揺らし、また、真っ白い歯でニカッと笑うと……。
ぷゆゆは身構えた。
「ぷゆ! ぷゆん――ぷゆぅ、ぷゆー!」
ぷゆゆは、杖を使って地面に文字を作り出す。
その文字を踏めとダブルフェイスに身振り手振りで、指示を出す。
渋い表情が取り柄のダブルフェイス。
が、破顔していた。
そして、助けを求めるように、
「……主……」
「そのまま踏んでやれ、儀式の一環なのかもしれない」
「はい……」
静かな口調でダブルフェイスは足下の文字を踏む。
「ぷゆぷゆ、ぷゆーん」
合格という意味がありそうなぷゆゆ語だ。
すると、
「ムーちゃん、槍の技術が上がった?」
「……ッ!」
ムーの僅かな荒い息とエヴァの楽しげな母性ある声が聞こえた。
ぷゆゆは放っておいて、エヴァとムーを見る。
模擬戦とはいかないが、新しいヌベファのトンファーを使ってムーの樹槍を指導しているところだった。
そんなこんなで俺たちは……。
ムーとエヴァの楽しい訓練を見学。
俺も混ざろうかと体を動かしたところで――。
キサラとヘルメに止められた。
そうだな。
アルゼの街の聖ギルド連盟に届け物がある。
「エヴァ、キッシュのところにいこうか」
と呼ぶ。
エヴァはムーの手を触りながら、
「ん、ムーちゃんまたね、シュウヤは忙しい。ごめんね」
「……」
ムーはショックを受けたような表情を浮かべて、不機嫌顔を作る。
俺を睨んできた。
「ムー、なんで俺を睨む」
「ッ」
そっぽを向くムー。
ソロボのほうに走っていった。
「嫌われたようだ」
「ふふ、ムーちゃんは閣下と一緒に訓練がしたかったんですよ」
「ん」
エヴァは頷く。
ヘルメに同意していた。
ムーの心を読んだんだろう。
だが、前と同じくそのムーの心の内容は語らない。
本当にムーのことを考えている優しいエヴァ先生だ。
そんなエヴァと手を繋ぐと、微笑んでくれた。
「シュウヤ様……」
と、キサラも傍に来る。
皆を連れて高台から下りた。
俺は段差のない空き地で足を止める。
「どうせなら、この空き地に家を作ろうと思うが、どう思う?」
「主が決めてください」
「はい」
「僕はシュウヤの家の二階か三階がいいかな。改築が可能なんだろう?」
「あ、なら、わたしも。シュウヤさんと一緒がいい……メイドの経験を生かせます」
エマサッドの熱い眼差しは嬉しい。
「二階か三階もできる」
「なら、僕はシュウヤの二階に住む」
「わたしもお願いします」
「あの、できれば、わたしも……」
セリス王女もか、改築しないとな。
「なら、俺もそこがいい」
レイもか。
「分かった」
「……シュウヤ様。わたしも一緒の家がいいです」
「クナはそう言うだろうと思ってた」
「はい♪ それと、モガさんの家は……」
「まずはキッシュと会ってからだ。モガの家は、左の下辺りかな。後で聞けばいい」
「はい」
オフィーリアたちに視線を移して、
「んじゃ、ツラヌキ団&ノイルランナーたちの家に、ダブルフェイス、エルザ&アリス&ナナの家を作ろうか」
「わーい!」
「主、俺の家を! ありがとう」
「わたしはアリスと一緒に住めるの?」
「うん、よかったね。ノイルランナーたち蝦蟇剣法のダブルフェイスさんも、皆一緒!」
「うん!」
アリスとナナは小柄獣人の子供たちを見て笑顔を浮かべていた。
エルザもアウトローマスク越しだが微笑んでいた。
俺に向けて頭を下げてくる。
二人だけではないと安心感を得ているんだろう。
ずっと逃げていた二人だ。
追跡者の件はずっとついて回ると思うが、少しは安心して過ごしてほしい。
「ひゃい!」
「はいー!」
「わ~」
「いつできあがるの~?」
そんなこんなの刹那。
――<邪王の樹>を発動。
瞬く間に5DK風の住宅を作り上げる。
近くに2DKと1Kの家を作った。
――ふぅ……。
それなりに魔力を消費した。
「「おおお」」
「あっという間!」
「――玄関が樹製!」
「皆、見学は後にしろ。キッシュの家に向かう」
そうして、モニュメントを背景に、クナと語りながらキッシュたちの屋敷に入った。
部屋の中に紅虎の嵐たちの姿はなかった。
キッシュは立ち上がって俺を見る。
エブエはいない。
ドミドーン博士もミエさんも外のようだ。
デルハウトとシュヘリアは振り向くと、迅速に片膝で床を突く。
俺は苦笑しながら、
「自由にしてくれ」
と、発言しながら近寄っていった。
「「はっ」」
二人はそう返事をしながらも頭を下げたまま。
忠誠としての気持ちは嬉しいが、俺としては友のような感覚でいてほしい……。
が、これは俺の我が儘か……。
「ンン、にゃ」
相棒はシュヘリアの下に素早く向かう。
頭を下げていたシュヘリアは黒猫から鼻キスを頬に受けて、一気に微笑んでいた。
少し羨ましい。
黒猫はデルハウトの片膝に尻尾を当てていた。
デルハウトの目尻と顎骨の溝から耳と肩を越えて背中側に伸びた一対の触角器官。
その海老が持つような触角器官の先端は点滅している。
「ただいま、キッシュ。新しい仲間たちを連れてきた」
「うん、お帰り」
「仕事が忙しいと思うが……あ、もうツラヌキ団たちとダブルフェイスにエルザ&アリス&ナナの家は作った」
「感謝だ……シュウヤ……」
キッシュは友としての笑みを見せる。
愛のある微笑みを浮かべて……女の顔を出す。
が、頭を振って、
「……いや、そうだな。分かった。さぁ皆さん、こっちにきてください」
司令長官としての表情を取り戻す。
オフィーリアたちを机の傍に呼ぶ。
ツラヌキ団たちの前にいたレイ・ジャックがキッシュに頭を垂れた。
「初めまして、女王キッシュ様」
「女王とは精霊様に悪影響を受けたのか?」
「ふふ、気にしちゃいけませんよ。キッシュ」
ヘルメが涼しげな表情を浮かべながら語る。
「……まぁいい。話は血文字で聞いている。名もなき町に銀船を置いてきて大丈夫なのか?」
「はい、隠れた入り江の、かくかくしかじか……」
レイは【銀の不死鳥】の仕事ぶりと、セリス王女の件を説明。
続いて、ラファエル、エマサッド、ダブルフェイスも自己紹介していった。
「僕の『ゼットン』があれば、たぶんネームスさんていう巨人さんと同じことはできると思うよ!」
「それは素晴らしい。魔物使いラファエルさん。わたしも友と呼んでいいかな」
「だめかな。友はシュウヤだけなんだ」
「……そ、そうか」
「ラファエル、キッシュがせっかく……」
「だって、まだ初対面。そして、命を救ってくれたのはシュウヤだ。僕が命を預けられるのもシュウヤだけ、友でもある忠誠を誓う相手もシュウヤだけだよ」
「……分かったから、近付いて、真面目に言うな」
「僕は君に救われた。『タータン』と『ゼットン』までね。だから本当に心から感謝しているんだ。そして、僕と友となってくれた。だから君のために、サイデイルでの仕事にも尽くすし、カルードさんの闇ギルドの創設に協力してもいい。と思っているんだ……メルさんの仕事もね。ただ、救えるモンスターがいた場合、僕に話をさせてほしい」
「その救えるモンスターの見分けは俺にはできないぞ。ラファエルが近くにいれば、その判断を聞くが、それだけでいいかな」
「それでいいよ。ありがとう」
「ラファエル、本気なのね」
と、エマサッドが呟く。
「あぁ、僕は本気だよ」
「ん、ラファエル格好いい」
「ありがとうエヴァっ子! ――あぅ」
黒猫から太い触手のツッコミがラファエルの尻にクリーンヒット。
そして、撫で撫でとされている。
「ふふふ」
エヴァは笑っていた。
というか俺も笑う。
「お尻ちゃんが撫でられています!」
「神獣ロロちゃん様! 僕にラブリーしちゃったんだね!」
「にゃご!」
黒猫は悲鳴のような声を上げて、俺の背後に逃げてきた。
皆が笑って和やかになったところで、アリスとナナにエルザとガラサスを紹介。
「蟲か……」
と、ガラサスの部分で、キッシュは嫌悪感をはっきりと出すが、受け入れていた。
ハンカイとデルハウトは借りがどうとか話をしている。
レネとソプラはシュヘリアから城下街にできた逸品居の件から……。
このサイデイルと争っているオーク帝国と樹怪王軍団と旧神勢力のことを聞いていた。
シュヘリアは歩兵集団とかち合ったようだ。
ソロボとクエマの情報から得られたオーク氏族たちが利用する穴だが、穴が増えたり減ったりと、事前の対策はほぼ不可能となったことも話していた。
クナはモガとネームスのことをキッシュに聞いていた。
「そうですか、警邏活動に逸品居にいることが多いのですね。では、わたしはここで、シュウヤ様、よろしくて?」
「シュウヤ、大丈夫なのか?」
クナとキッシュが俺に聞いてくる。
「クナのことが心配なら、だれか側につけとけばいい」
「ん、大丈夫」
「エヴァがそう言うなら大丈夫と分かるが」
「俺がつこう」
ハンカイが宣言した。
頬が少し赤いハンカイだ。
「ハンカイ、斧で鳩尾を突かないでよ?」
「ふん、お前次第だ」
「あら、わたしも近接戦闘が可能になるほど回復しているのを試すつもりかしら?」
「ほぅ……」
とか言い合いながら、玄関から仲良く外にでるクナとハンカイ。
いいコンビになるかもしれない。
「そういうことか」
ヘルメはハンカイとクナが消えた扉の先を見て、微笑むと目からハートが出るようなウィンク。
そのウィンクにやや遅れたタイミングで頷いたキッシュは両手の掌で机を強く叩く。
一気に雰囲気が変わった。
キッシュは皆を見据えて、
「――街の発展はこれからだ! 各自仕事についてもらうことになる。セリス王女もずっとここで暮らしてくれて構わない。勿論、エルザとアリスにナナもだ」
セリス王女は感動したような表情を浮かべてキッシュを見る。
エルザも、片膝で床を突くと、
「ありがとう、キッシュ様――わたしの剣とガラサス、いや、命で、この恩に報いよう」
床に頭をつける勢いだ。
「――うん、ありがとう。わたしたちを受け入れてくれたルシヴァルの女王様」
幼いアリスもエルザの真似をし、土下座をしてからすぐに立ち上がる。
スカートの両端を手で掴みながら、膝を少し曲げて頭を下げた。
可愛い令嬢の所作で挨拶をしてくれた。
「はい、司令長官様!」
「わたしもアリスを見ながらとなるが、防衛のために警邏活動に遵守しよう」
「わたし、がんばる!」
「ありがとう、キッシュ様! 受け入れてくれて! シュウヤ様も! わたしたちはここで暮らします」
オフィーリアは片手をあげて、選手宣誓をするように宣言。
「サイデイルのツラヌキ団!」
「愛のルシヴァル団でしょ!」
「隊長と司令長官様、よろしくー」
「どんな仕事がいいかな~樵さんをやってみたい」
「ポロン、斧なんて持てないでしょう、畑仕事よ! 水車もあるし」
「大隊長が話をしていた、マイ箸作りに挑戦!」
「ボクも残って、姉を手伝いたい!」
「サザーの自由にしたらいい」
もう奴隷ではないのだからな。
サザーたちが故郷で仲良く暮らしていた頃に戻ってくれたら、それでいいんだ。
そう発言してからキッシュとアイコンタクト。
翡翠の双眸は前にも増して輝いて見えた。
友なキッシュ。
本当に司令長官であり女王の風格を感じる。
その友のキッシュと視線が合うと、
「……シュウヤ。分かっていると思うが、アルゼはオセべリア領だ。穏便に頼む」
「おう。任せろと言いたいがまだ分からない。秩序の符牌があるから正々堂々と聖ギルド連盟の建物に入ったほうがいいかもとは思うが……」
「そうか。仮にオセべリアと戦うことになっても、わたしはシュウヤと共に歩むと決めている。だから、シュウヤの好きにしてくれていいぞ」
「分かってるよ、友だけに共だろう?」
「ふふ」
と、キッシュの駄洒落で笑った。
べつに笑わそうとは思ってはいなかったと思うが。
「どうした?」
「……いや、だじゃれを含めてエロでいつも自分を誤魔化そうとしているが、改めて、いい男だとな」
皆の前で大胆なキッシュだ。
というか、サザーとヘルメとキサラとエヴァが凄い勢いで頷いている。
隣にいるナナは指を口に咥えて、
「むずかしいこと、わかんないけど、わたしもここにいてもいいの?」
「いいんだよ」
「そうですよ。ナナちゃん」
「やったぁ。ネームスっておっきいの見たい! くじらおばけも見たい!」
「……ロターゼですね。感覚は近いです。わたしの感覚を得ているはずなので、もうじきここにくるはずですよ」
キサラが窓を見て語っていた。
すると、レイが、
「ではセリス王女、俺はここまでです」
「ありがとう! レイ・ジャック……このお礼は……」
「もう報酬は頂いていますから」
「……」
セリス王女は涙ぐむ。
オフィーリアがそんな王女の肩に身を寄せていた。
俺は皆に向け、
「……アルゼに向かおうか。レイとエヴァにヘルメ、外に出るぞ。キサラとジュカさんはどうする?」
「わたしたちはここで待機しています」
「わたしも」
「おう。で、ラファエルとエマサッドにダブルフェイスはどうする?」
「僕もここで休ませてもらう、キッシュさんと相談したい。紅虎の嵐さんたちにも挨拶をしたいし、エブエさんという黒豹さんも見たいんだ」
「わたしもサイデイルの地形を把握したいです。キサラさんと少しお話をしましたが、慣れておきたい」
「分かった。んじゃ、次俺がここに戻った時は地底神ロルガ討伐に向かうことになると思う。まだメンバーも決めてないが、それなりに準備をしといてくれ」
「了解」
「陛下、お任せを!」
「陛下! 待ってます!」
「「はい!」」
その瞬間、肩に戻ってきた相棒。
キッシュとキサラたちへと、交互に片足を上げて、
「にゃ、にゃ、にゃ~」
と、鳴いて挨拶をする。
「神獣様のダンス!」
「か、可愛い……」
「ふふ、神獣様、またお手手でタッチングをしてくださいね」
「ンン」
「ん、カルードさんのとこに戻ろう」
エヴァの言葉に頷く。
頷いて黒猫の小さい触手の柔らかさを首に感じながら踵を返した。
キッシュの屋敷を出る。
「ヘルメ、左目に戻れ――」
「はい」
液体ヘルメが左目に入りつつ<導想魔手>を発動。
「レイ、体を<鎖>で絡めるからな」
「あ、え?」
レイを<鎖>強引に絡めてから――。
発動させていた<導想魔手>前方に伸ばす。
「エヴァ、抱くぞ――」
「ん――」
紫魔力で宙に浮かぶエヴァを御姫様抱っこ――。
エヴァも嬉しそうに俺の首に両手を回しと俺の胸元に顔を預けてくれた。
愛しい表情のエヴァだ。
そうして、エヴァの息遣いを感じながら宙を駆けること十数秒。
幸せの気分で高台の自宅に戻る。
素早く部屋に鎮座するゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡をタッチ。
鏡に魔力を注いだ。
起動に俺の魔力が必須なだけなら、一緒に鏡移動も可能なはず。
「ん、いつものシュウヤの鏡と違う」
「はい、さっきはここの部屋の様子が見えましたが」
「大丈夫なはず」
エヴァとレイたちと一緒にゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡に潜る――。
クナのセーフハウスに転移。
一対のセットのみだが、ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡も便利。
エヴァもレイも隣だ。
肩の相棒は先に床に下りてユイたちの下に向かう。
と皆が駆け寄ってきた。
カルードとビアにマジマーンの一味に片腕の虎獣人の姿もあった。
ママニとフーにバーレンティンたちも。キースさんは最後尾で武器を抜いている。まだ、剣士の彼はマジマーンの一味を信用していないようだ。
キースは、ハイ・ゾンビ風の見た目で非常に渋い。
出糸突起と鋏角から出た蜘蛛糸にぶら下がる蜘蛛娘アキは、そのキースごとマジマーンたちの頭上を移動していく。
「マイロードお帰りなさいませ」
「ご主人様!」
「我の主だ!」
「お帰り~、早かったわね」
「うん、イチャイチャとか、やっているのかと」
レベッカとユイがそんなことを!
「心外だぁ! と、カリィとかラファエル風のリアクションを取るべきか?」
「ううん、ふふ。しなくていい」
「そのポーズだけでいいから、ラファエルはサイデイルに残ったのね」
「エマサッドもな。ラファエルも、なんだかんだいって明るく振る舞っていたが、かなり疲れているはず。キャットウォークで転けそうになっていたし」
「ん、シュウヤ、分かっていたのね」
「あぁ、友と呼んでくれたラファエル。なぜか分からないが、分かった。あいつとは不思議と気が合う……」
「明るくて面白いけど、時々すごく暗い顔色を浮かべてた」
「……ゼレナードの施設で、ずっと耐えていたと聞いたし、エマサッドさんとの会話を聞く限り、泣けて……きちゃうわよ」
「ユイ……」
「それは実際にエマサッドさんと対峙したわたしの言葉よ?」
「あ、それはそうね」
そうだな。
それを思うと、いや、前だけを見よう。
ビアの三つのおっぱいの形をした膨らみを見てから、
「……で、カルードの横の綺麗な女性がマジマーンさんか?」
「はい」
カルードは短く返事をしながら腕をマジマーンに向けた。
頭を下げたマジマーンが口を開く。
「はい。マジマーンです。【天凜の月】の盟主様……命を救っていただきありがたき幸せ」
長髪で雰囲気がある女性海賊か。
俺も頷きながら丁寧に、頭を下げて、頭部を上げる。
そして、笑顔を作りながら、
「こんにちは、マジマーンさん」
「にゃ」
黒猫と同時に挨拶をした。
俺の態度を見たマジマーンたちは面喰らったように驚いていた。
「カルード殿が話をされていたように、【天凜の月】の盟主様は随分と柔軟な方のようだ。肩の黒猫も可愛い」
ハンカイと互角に戦った虎獣人の言葉だ。
マジマーンは少し遅れて、俺を舐めるように見つめてくる。
「マイロードは優しい方だ。しかし、聖人の顔も三度までと言うように、怒らせると……」
「……わ、分かった」
虎獣人は動揺したのか、大柄の肩を震わせる。
隣のマジマーンさんは俺を見て、
「カルード殿以上の強者だな」
「姉御、正解ですね」
「マジマーンさんに任せてよかった……」
マジマーンの一味たちだ。
そのマジマーンは視線を仲間たちに向け『大丈夫よ』とでも言うようにゆっくりと頷いてから再び、俺に視線を寄越す。
そのマジマーンに、
「……で、一味はカルードの下に付くのか? メルの下には付かないのか?」
「わたしは副長殿の下につきたい。わたしたちの経験は、副長の船商会の力となれるはずだ」
マジマーンは胸を張りつつ、そう語る。
続けて、虎獣人に視線を向けて、
「貴方はどうする?」
「俺の名は隻腕ゾスファルト」
「隻眼のラドラスと関係は?」
「ない。俺は片腕、そいつは片眼ってだけだろう。そこのママニとも関係はない」
「分かった。親戚でもなんでもないんだな。同じ種族ってだけか」
「そうだ。虎獣人としての部族の名前を聞けば、知っている奴かもしれないが」
聞くところによると、狼月都市ハーレイア近辺のレシトラス遺跡探索とか死者の百迷宮とかで活躍した虎獣人の冒険者、隻眼のラドラスとゾスファルトは関係がないようだ。
隻眼のほうは、ハイグリアが追っているバーナンソー商会と通じているかもしれない相手。
ま、とりあえず、この方は強者だ。
ちゃんと礼をしとこう。
「その腕だけで、ハンカイと百手は打ち合ったとか。貴方のような強者が仲間になってくれて非常に嬉しく思います。今後ともカルードを支えてくれると嬉しい」
「と、とんでもない! こちらこそ、こころいる――」
片膝を床に突けたゾスファルト。
キースさん的な剣士だから所作がスムーズだった。
俺は恐縮する。
「いや、頭をあげてくれ――」
「あ、すみません、盟主様」
ゾスファルトの手を取って立ち上がらせる。
「盟主様を……マイロードと語るカルード殿の気持ちが理解できる……」
ゾスファルトは俺の双眸を凝視しながら語る。
虎獣人だけに肌の色は分かり難いが、焦げ茶色の毛毛たちが、赤くなったような気がした。
「マイロードに忠誠を誓うなら<従者長>も夢ではない。わたしでさえあっさりと許可してくださったのだからな」
「おう。まぁ、今は無理だ」
「はい、盟主様。聞いていると思うが、命を救ってくれたカルード殿の闇ギルド創設に協力したい。勿論、【天凜の月】の下部組織となることも承知済みだ」
「カルードの組織は別個のつもりだ。カルードの夢なのだからな」
「……マイロード……」
カルード、涙ぐむなよ……。
鴉さんとユイは微笑んでいた。
カルードに抱きつかれても困る。
黙って見ているマジマーンさんを見た。
すると、ユイが、
「マジマーンさんの船はまだアルゼに?」
「はい。そのはずですが……」
マジマーンは言葉を濁す。
俺はマジマーンを見て、
「話を蒸し返すようであれだが……あっさりと鞍替えしたように見える。レイ・ジャックを追う大海賊マジマーンとしての仕事はどうなるんだ?」
「レイを追う仕事を請けただけよ」
「仕事か」
「うん。鞍替えの理由は【天凜の月】の存在の大きさと、本来なら打ち捨てられる、わたしたちの命を救ってくれた恩を返したい」
「そうです、俺たちは海賊」
「普通は、敵に捕まれば拷問の末に殺されますから」
マジマーンの一味たちの発言を聞いたレイは、
「報酬はかなり大きかったはずだが、それを捨てるのか?」
「金か? 運び屋、元アズラ海賊団の六番隊隊長だった言葉とは思えんな。腑抜けたか?」
とマジマーンは何故か切れ気味に発言。
「なんだと?」
「命を救われたことにすべてが帰結する。失敗し捕まった時点で、わたしたちに選択肢はなかったのさ」
「あ、そういうことか。成功以外には、死を……」
「覚えていたか、海賊の掟を」
「……」
レイは顔色を悪くしながら頷く。
「アズラ海賊団とは金だけの繋がり。助けにこない理由だ」
「すると、アルゼの街に碇泊したマジマーン一味の船は、アズラ海賊団が拿捕した可能性が高い?」
「たぶんな。金もパーだ、いや。領主に拿捕されているかもしれない」
「いいのか?」
俺はそう尋ねる。
マジマーンは俺を凝視。
魔察眼か?
「金がすべてではない。輝くものすべてが金にあらずだよ」
マジマーンもまた大海賊と名乗るだけの経験はしているようだな。
「哲学を感じる言葉ね。だれの言葉かしら」
ユイの言葉に頷く。
『イソップ寓話』と『シェイクスピア』にも色々とある。
「ん、メルはペルネーテまで銀船を運んでほしいとか血文字で話をしていたけど」
「アルゼの街から支流を使いハイム川に出るから、多少は時間が掛かる」
「とりあえず、銀船の前まで行こうか」
「にゃ」
相棒を肩に乗せて銀船が停泊している場所に向かう。
「ミスティはまだ銀船だろ?」
と、皆に聞きながら廊下に出た。
ユイが、
「そう。未知の金属が多いとか。さすがに分解してしまうと壊してしまうから素材の抽出はしなかったようだけど」
「うん。金属知識が豊富なリサさんたちと仲良くなっていたわ」
「あ、でも、スタムさんとカフーさんはミスティが金属を溶かすと聞いて、大事な船を壊す気か? と、怒っていた」
「そっか、ミスティらしい」
「うん」
血文字でミスティにアルゼに向かうと告げながらその銀船の前に到着。
銀船の帆柱の天辺にはジョディがいた。
手を振っている。
デッキにミスティだ。
「マスターお帰り」
「おう、有意義な話を聞けたかな」
「うん、魔導船は面白いわ。魔導人形の技術と違うところも多いからあまりゼクスに流用はできないけど知識欲の刺激を受けた」
「それはよかった」
知を探求するミスティらしい表情だ。
「俺たちも俺たちなりに善く生きるとしようか。聖ギルド連盟にギルド秘鍵書を返しに向かおう」
「ん」
「了解、空旅? 銀船だと目立つわよね。それに、銀船はメルのもとに送っても問題ないんじゃ?」
「そうだな。じゃ、レイたちはペルネーテに向かってもらうか」
「なら、ペルネーテに戻るついでに、わたしも銀船に乗ろうかな」
ミスティはウィンク。
たぶん、レイたちだと逃げる可能性もあると思ったんだろう。
別に逃げてもいいんだが。
「分かりました。俺はそれで構いません。ミスティさん乗ってください――」
と、デッキに跳躍して飛び乗ったレイ。
そそくさとスタムさんとカフーさんとリサさんに指示を飛ばす。
「じゃ、船長の操縦も気になるけど、ふふ、銀船の機構をじっくりと!」
魔導船の機構が本命か。
ミスティも飛び乗った。
「ミスティさん、そこにいるのならデッキベルトに足先を引っ掛けて固定してください。運転する側としては、できれば船室のほうにいてくれたほうがありがたいのですが」
「分かった。船室にお邪魔するわ。魔高炉の技術を応用した未知の魔道具がどんな風に動くのか調べないと」
ミスティの姿が見えなくなった。
もう新型の魔導人形ゼクスは小さくしてしまっていたようだ。
「それじゃ、総長。メルさんの下に向かいます。また――」
銀船が輝きを発した瞬間。
入り江の間を直進――速い。
なるほど、遠洋航海もできるわけだ。
ただのボードじゃねぇ。
帆柱から離れて、宙を飛翔するジョディを肩にいる相棒が眺めていく。
「さて、マジマーンたち、空からアルゼの街に向かうが、それでいいか?」
「……えっと、そ、空ですか?」
「マジマーン様、この方々はいったい」
「空とか、塔烈都市の空戦魔導師の類いですか? 頭が混乱しやす」
「ハッカク、トウブ、お前らは黙れ」
そういえば黒猫の神獣の姿を見ていなかったか。
「相棒。頼む」
「ンン――」
銀船が消えた位置に跳躍する黒猫。
瞬時に巨大なドラゴン級の神獣姿に変身した。
「ひゃぁぁぁぁぁ」
「な、なんじゃこりゃぁぁ」
「……」
マジマーンさんは腰を抜かして倒れている。
一味たちは桟橋から転げて水面に落ちそうになっていた。
「ロロ、その大きさだと、さすがに入り江の崖の間を通り抜けることはできないだろう」
「にゃおおおおぉん」
と、ややグリフォンを巨大化したような大きさに縮小した。
「……」
マジマーン一味は絶句。
「ん、初めて見たらそうなる」
「ロロちゃん可愛いんだけど、巨大化はびっくりするわよね」
「ンン」
その間にもロロディーヌは全員の身体に触手を絡ませていく。
素早く黒毛に包まれた背中と後頭部に俺たちを運んでくれた。
「ひぃ! ってあれ、柔らかい……」
「ここは、背中の上なの!?」
「メイドさんがいる!?」
「金髪で、脚が……」
「ふふ、蜘蛛娘アキです♪」
背後のマジマーンたちは混乱中だ。
ま、触手が絡まったままだが……。
バーレンティンたちは静かだ。
なれたかな。
しかし、バーテンティンは手元が震えていた。
ヴィーネは落ち着いている。
ママニたち血獣隊は蜘蛛娘アキを凝視。
俺も触手手綱を掴みつつ、エヴァとレベッカを横に抱き寄せた。
「ん、空旅」
「どきどきする。ロロちゃんとの空旅」
『お空が――』
二人は嬉しそうだ。
ヘルメは平泳ぎ。
そう考えている間にも入り江の間を通り抜けて、空の上を出ていた。
肝心の目指すアルゼの街だが……。
どっちだ?
『ヘルメ、どっちだっけ』
『こっちだと思います』
と視界に浮かぶヘルメは平泳ぎしながら右側へ移動していく。
両手と両足を広げ閉じるの動きが魅力的で尚且つコミカルさあり、非常に面白い。
ロロディーヌは俺の気持ちをくみ取り右側に旋回――。
「きゃ」
ヴィーネの可愛い声が耳に届く。
続きは来週の予定です。
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小説版最新刊「槍使いと、黒猫。」11巻2020年6月22日に発売予定。
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