五百四十六話 相棒の腹枕※
眷属化した紅虎の嵐たちはキッシュの下に走る。
強くなった今なら博士たちの探索に大いに協力できると息巻いていた。
俺は、血気盛んな紅虎の嵐たちと別れて神獣ロロディーヌに乗る。
神獣ロロディーヌもサラに影響を受けたか分からないが――。
「にゃおぉ~」
と、鳴いて飛翔した。
瞬く間にサイデイルの上空だ。
ロロディーヌは旋回――。
俺は俯瞰――。
魂の黄金道のある小山と高台。
俺の家と訓練場にルシヴァルの紋章樹がある。
サイデイル城の天守閣付近と言える高台だ。
やや楕円形だろうか。
坂の下の周囲には<邪王の樹>で作った皆の家が建ち並ぶ。
キッシュたちの屋敷とモニュメントも確認。
あのモニュメントは、嘗てのサイデイル村だった中心だ。
今では、この城の中心地。
モニュメントの前方に、俺が崖と崖を利用するように作った要塞染みた門がある。
そのモニュメントと俺が建築した家を越えた右側は、天然の要害としての崖。
その崖には、キッシュたちと争っていたオークの死体が散乱していた。
左側を下降しながら森へと続く。
左の森は樹海と直に繋がっている。
エブエの家が、その左の森にあるが……。
実は一番危険な場所だ。
ハイグリアを追った古代狼族との争いの結果だが……。
樹怪王の軍勢は、あの左側から侵入してきたからな……。
そして、嘗ては、この崖と山の範囲だけがサイデイルの村だった。
今では、ここがサイデイルの山城。
サイデイルの中心地。
大門の先は崖を削った隘路がぐるぐると山を巻く道として存在している。
その隘路の下が樹海の地上だ。
神獣ロロディーヌと闇鯨ロターゼが巨体を活かして切り開いた樹海の地。
ネームスを中心として皆が協力しながら整備をがんばった結果、新しいサイデイルの街の土台ができあがった。
酒を楽しんだ逸品居も見える。
<邪王の樹>を用いた家は下にはない。
料理長の亜神キゼレグとお手伝いさんのゴルゴンチュラと、バング婆が協力して造り上げた家はしっかりと樹やら茨で骨組みがされていた。
しかし、他の建物はまだまだテントが多い。
「さて、ヒヨリミ様のところに戻ろうか。ロロ!」
「にゃ~」
と飛翔していくロロディーヌ。
◇◇◇◇
気持ちいい朝日だ。
樹のドームと呼ぶべき姿の狼月都市ハーレイアが見えてきた。
その樹の屋根の間から侵入だ。
零れ落ちた枯れ葉が出迎える。
その枯れ葉は橙色から紅色に移り変わりつつ三日月に変化――。
――前と変わらない。
微生物が密集したような不思議な見た目だ。
その三日月の枯れ葉は大気の中へと浸透するように消失。
俺とロロディーヌは双月神の加護が強い狼月都市ハーレイアの上空を進む。
街並みからアーバニズムは、あまり感じない。
しかしながら、水路と街路は比較的整った街並みだ。
通りを行き交う古代狼族と獣人たちは元気そう。
楽器を持つ獣人が多い。
それらを見ながら森屋敷を目指す。
小川に面した大通りの景色は綺麗だ。
レース会場と面した森屋敷を囲う外壁を確認。
森屋敷はあの外壁の向こう側だ。
「相棒、行こうか」
「にゃ~」
神獣ロロディーヌは翼を傾ける。
左に旋回するロロディーヌ。
――オフィーリアが優勝したレース会場が視界の端に映り消えた。
――背後から歓声が響く。
サッカーならアディショナルタイムにゴールを決めたような感じの歓声。
野球ならサヨナラホームランって感じか。
バスケならブザービーターだな。
アメフトなら……と思ったところで外壁を越えた――。
外壁を越えた真下は――。
古代狼族の将兵が暮らす建物。
沼と湖は少し右の奥――。
「ンン」
ロロディーヌは翼の角度を変化させた。
コンコルドのようなスタイル。
速度が俄に上がった、急角度で沼へと侵入――。
寺のような外観を把握。
俺は相棒の首下を撫でてから――。
『降りるぞ』と意思を込めてポンポンと相棒の首を叩く。
黒馬に近い姿のロロディーヌから飛び降りた――。
森屋敷の屋根に着地。
――ロロディーヌは止まらない。
鯉のような魚のザハに悪戯を仕掛けるように低空飛行を敢行。
――四肢の一部が水面に触れた。
一対の美しい水の流線が沼から迸る――。
相棒は、そのまま水浴びをするように、しなやかさを持った宙返りを実行。
漆黒のラプター。
幻の『YF-23』染みた戦闘機軌道を見せるロロディーヌ――。
器用にも、逆さまの状態を維持しながら――俺の下に飛んできた。
目の前に来ると一瞬で姿を小さくした相棒。
逆さまだったが、宙でムササビのように手足を開いて、俺の足下に着地した。
ネコ科として優れた三半規管があるからこその機動。
ゴロニャンコはしないが、ま、神獣だ。
その神獣猫ちゃんの相棒は俺を見て、
「ンン、にゃ~」
鳴いてから、先に走り出す。
「競争のつもりか!」
「ンン――」
揶揄うような喉声に誘われるまま黒猫に続く。
菊門ちゃんが小憎たらしい。
屋根の上を――軽快なリズムで走る――。
ヒヨリミ様たちが住まう場所に向かった。
屋根の下は渡り廊下や、沼に立つ古式然とした建物群だ。
その沼を這うように続く長い渡り廊下を行き交う古代狼族の方々は、軽功を扱うような走りを見せる俺と相棒の姿を見ても驚かない。
そうして、ランニングホームランの最後のようにベースというヒヨリミ様の建物に入り込んだ俺たち――。
息は荒くないが、そんな意気込みで――。
直接、ヒヨリミ様に銀色の毛を渡す。
胸元で、その銀色の毛を抱いたヒヨリミ様。
「……これは神狼ハーレイア様の……ありがとうございます……あ、あぁぁ……アルデルの匂い……」
ヒヨリミ様は泣き崩れる。
その瞬間、銀色の毛が――。
独りでに離れつつ宙に浮かんだ。
「え?」
泣いていたヒヨリミ様は驚く。
続けてヒヨリミ様の側に浮いていた呪いの聖杯こと、竹筒がピカッと光る。
そして、その銀色に輝く毛と重なり合体した。
ピカッた竹筒が銀色の毛を飲み込むようにも見えた。
その合体した竹筒からピカッとは違う眩い閃光が発生――。
更に、その竹筒から凜々しい神狼ハーレイア様の幻影が出現。
続けて、可憐な双月神たちの幻影も現れた。
が、神々の幻影は消えていく。
竹筒の聖杯の表面に魔法のルーン文字的な紋様が刻まれていった。
あれは月狼環ノ槍の柄にもあった文字だ!
「これは、神意たる現象です……」
ヒヨリミ様がそう発言すると、キコ&ジェスたちが一斉にどよめく。
刹那――。
竹筒の上部分から禍々しい血と魔力を備えた歪な文字が出る。
その歪な文字は、斑の模様を作りつつ宙にとぐろ巻いて天井に向かった。
天井に触れた歪な文字は、焼け焦げたような点滅をくり返す。
そして、歪な文字群を焦がした天井の樹木が何かの力を強めるように軟らかく撓みながら左右に分かれた。
その分かれた間から魔力が放電。
続いて間から陽が歪な文字群を射して、歪な文字群を焦がす。
歪な文字群は、たまらず、下の光を発した竹筒の近くに逃げていく。
下の竹筒こと聖杯は光り輝く。
刹那、歪な文字群は、ヒヨリミ様と俺の間の宙空の位置で静止。
小さい魔法陣を形成。
しかし、魔法の効力を失っているのか、魔法陣は塵となって消失した。
一方で、残った竹筒の聖杯は神秘的な輝きを放ち続けている。
更に、竹筒から青白く燃えた液体が溢れ出た。
メタンハイドレートのような液体?
神狼ハーレイア様の銀色の毛を取り込んだ効果か?
その液体は零れ落ちた。
が、不思議と、すぐに大気の中へと消えていく。
その消え方は、見えない指に攪拌でも受けているようにも見えた。
聖杯はそんな青白く燃える液体を垂らしつつヒヨリミ様の手元に戻った。
ヒヨリミ様は輝く竹筒から溢れるメタンハイドレートのような物質を見て、
「呪いが祓われた。〝聖杯ささえ星〟の復活です」
と微笑みながら発言。
竹筒こと聖杯の名前は〝聖杯ささえ星〟というアイテム名らしい。
「――月狼の滴」
とヒヨリミ様が発言すると――。
その溢れて出た液体の一部が、宙へと、うねり出ると、一瞬で、白色の小さい狼の姿となった。
その誕生したばかりの幼い狼は嬉しそうに咆哮を発し宙を駆けていく。
幼い狼は天井の分かれた箇所から外に出ていった。
「あの幼い狼はどこに……」
俺の問いを聞いたヒヨリミ様は『安心してください』と語るように顔を綻ばせる。
両手の指から銀色の爪を聖杯に伸ばした。
聖杯に伸びゆく銀色の爪は月狼環ノ槍の柄と同じルーン文字が記されてあった。
ヒヨリミ様は俺をチラッと見て、
「ハイグリアの下に向かったはず」
「幼い狼を得たハイグリアが強くなる?」
ヒヨリミ様は俺の言葉を聞いて頷く。
その間に、聖杯に巻き付いた銀色の爪はその聖杯と一瞬で融合した。
ヒヨリミ様は新しい爪鎧防具を纏う。
表面に月狼環ノ槍の柄と同じルーン文字を記す。
真新しい攻防一体型の武器と小型盾を備えた銀式爪鎧装備となった。
すぐにキコ&ジェスが笛を吹く。
優しげで繊細な旋律を奏でていった。
連動した樹の柱と天井の一部が剥がれると――。
ヴェール状のカーテンとなってヒヨリミ様の周囲に展開。
そのヴェールが包むヒヨリミ様は……。
俺を見て、
「シュウヤさん。月狼環ノ槍がありませんが……もしや」
神狼ハーレイア様の力が宿っていた月狼環ノ槍。
アルデル師匠とも繋がっていた月狼環ノ槍だ。
「はい、そういうことです」
今もあの地下にある神域の壁画があった場所に月狼環ノ槍は飾られているだろう。
嵌まった月狼環ノ槍を強引に外せるのかは分からない。
だが、武器を奪ったりはしない。
俺には無数の武器がある。
それに、あの月狼環ノ槍は別の意味があるんだろう。
……俺を導いたように。
後々、別の使い手が出現するかもな。
本来は古代狼族の武器だと思うし、だが、ホワインさんの目のようなこともある。
スキルも得たし、その関係上……俺が再び使うことになるのかもしれない……。
と、思考したところで、
「また、月狼環ノ槍は消えたのですね……」
ヒヨリミ様は新しい銀式爪鎧装備を触りつつ寂しそうに発言した。
アルデル師匠は……。
いや、その先を語る必要はないか。
「……それでは、俺も用事がありますから」
と、頭を下げて踵を返す。
「……シュウヤ様、敢えて聞きます……ハイグリアの帰還をここで待っていてくださらないのですか?」
俺は足を止めた。
ヒヨリミ様らしくない言葉だ。
いや、〝ハイグリアを優先してほしい〟
と、はっきりと言わないところがまたヒヨリミ様らしいか。
「……ハイグリアとは、どこかで会うはず――」
そう話をしながら片腕を泳がせつつ、
「なんせ、俺の番はハイグリアしかいないのですから」
照れながらそう発言。
すると、
「にゃお」
黒豹も鳴く。
その相棒にアイコンタクトすると、ヒヨリミ様が微かに笑う声が聞こえた。
「……分かりました。番という短い言葉の中に、色々な、深い縁と絆を感じました」
「受け取り方はご自由に」
「はい、自由に受け取りますとも! では英雄シュウヤ様、本当に……いえ、またの機会を楽しみにしていますよ」
ヒヨリミ様の感情が籠もった言葉の質に、後ろ髪がひかれる思いを少し得た。
だが、ヒヨリミ様たちへ向けて、
「はいっ――」
と、背中越しに、慈しむ思いを元気な声に込めてから自然と走り出す。
相棒も走ってついてくる。
森屋敷から外の沼へと再びダイブ――。
沼にドボンはしない。
そのまま水面ギリギリのタイミングで《水流操作》を実行――。
ブーツの裏に<血魔力>を纏わせつつの滑らかに水面を移動する水上スキー。
ヘルメの機動に勝るかも?
と調子に乗った俺だったが――。
そのままスピンはしない。
水面を滑りながら<導想魔手>を蹴る。
跳躍を繰り返す。
ホップ、ステップ、ハイジャンプ――。
大鷹のように、高く、高く、飛翔した。
――空を感じる。
狼月都市ハーレイアの壁に向かった。
樹の壁が見えた。
そのまま狼月都市ハーレイアを覆う樹の壁を這い上がるように天井へと向かう。
天井が迫った――。
<導想魔手>を蹴る。
体を翻す機動で、天上に背面飛び――。
ヒャハァ――天井手首から<鎖>を射出――。
屋根の一部に<鎖>が突き刺さる。
――垂直に伸びた<鎖>にぶら下がった。
額に手を当てつつ――。
ぶらりぶらりと振り子時計とか――。
金玉ではないが――。
そんな気分で眼下の広がる狼月都市ハーレイアを見学。
……狼月都市ハーレイアの全貌か。
枯れ葉が落ちゆく緑豊かな都市……。
こうして見ると……巨大な都市だ。
さすがにペルネーテまではいかないが……大きい。
そして、木漏れ日と風が気持ちいい。
ぴゅうとした風の音が心を切なくさせる。
風が前髪を揺らす。
「ンン、にゃお~」
黒豹もぶら下がっているから面白い。
俺の周囲を天然のメリーゴーランドのように回っていく黒豹さん。
一対の前足が宙を掻く。
後脚と長い尻尾がぶらぶらと揺れる。
滑稽でシュールで面白すぎる。
んだが、このままでは俺の身体に黒豹の触手が絡まってしまうがな――。
と、眼下に広がる絶景の光景を見るのを止めた。
左手を前方に上げつつ<鎖>を射出した。
左手首の<鎖の因子>から伸びた一条の<鎖>――<鎖の念導>の効果を生かす。
操作した<鎖>の先端は、宙に弧を描きつつ天井の屋根に突き刺さった。
<鎖>がアンカーとして機能するかどうか左手を少し引っ張り<鎖>の先端が外れないかを確認。
よし、外れない。
強度は十分――。
俺の周囲を回る黒豹に向け、
「相棒、競争だ――」
そう発言しつつ伸びた<鎖>を左手に収斂させた。
俺は引き込みつつある<鎖>に導かれるように黒豹の絡まる触手から抜け出した。
一気に体を前方に運ぶ。
「ンン――」
黒豹の声が背後から響く。
『待てにゃ~』といった感じだろう。
勿論、俺は相棒を待たない。
気にせず左右の腕から交互に<鎖>を撃つ。
<鎖>を収斂させず消去。
雲梯で遊ぶように樹製の屋根を移動する。
天井の樹木屋根に棲まうモンスターの魔素も感じるが無視だ。
遊びながら移動をくり返す。
「ハハハ――」
オランウータン機動を楽しむ。
楽しんだところで屋根に両足をつけて着地する。
黒豹も俺と同じように体から出した無数の触手を体内に収斂しつつ天井に四肢をつけて、着地していた。
重力で髪の毛がだらりと下がる。
黒豹も逆立ったように体毛たちが垂れていた。
「ロロ、樹木の雲梯も終了だ。あそこはもう端っこだし、外に出て、空旅を再開だ」
と、樹木の隙間に視線を向ける。
樹と樹、枝と枝が重なり合い網となっている先。
「にゃんお」
俺と相棒なら通り抜けられる隙間がたくさんあった。
刹那、相棒は黒猫の姿にチェンジ。
俺の首に小さい触手を引っ掛けて背中に移動してきた。
黒猫マフラーってか?
首下にある一対の黒触手たちが、くすぐったい。
我慢しつつ樹木の隙間近くへと<鎖>を撃ち込む。
<鎖>が刺さった樹は身が詰まって堅い。
そのまま木屑を撒き散らしながら<鎖>を収斂。
一瞬でその樹木に近づいて<鎖>を消す。
その樹木を蹴りつつ登って隙間から外に出た。
狼月都市ハーレイアの外側だ。
俺の肩に移ったロロディーヌ。
肩を蹴り跳び上がる。
宙の位置で、黒豹と馬に近い形に変身。
神獣らしい姿へと体を変化させた。
神獣ロロディーヌは触手を俺の腰に伸ばす。
俺の新しい黒ベルトでも作る勢いだ。
そのベルトで俺の腰を締め付けつつ背中に運んでくれた。
「――相棒、クナのセーフハウスにゆっくりと帰還だ」
「ンンン――」
素早く空を駆け抜ける――。
雲を突き抜け、ランナウェイだ――。
だが、すんなりと行かないのが、この世界。
途中、巨大な豚と遭遇。
いや豚の上半身に下半身が龍だ。
しかも、茸を全身にニョキッと生やしている。
俺は右手に魔槍杖を召喚。
だがしかし、俺には頼もしい相棒がいる!
神獣ロロディーヌは「ンンン」と、喉声を発してから、口を広げた。
触手手綱付近の鬣が赤く光りながら伸びた。
ロロディーヌはその瞬間――。
壮大な大火炎の息吹を吐く。
あっという間に巨大な豚龍モンスターを焼く。
続いてロロディーヌは無数の触手ミサイルを喰らわせる。次に真っ赤に燃えた豚龍モンスターを切断。
その肉を触手骨剣の群で貫く。
直ぐに、その触手骨剣を引いて口に運ぶ。
触手骨剣をフォークのように扱い丸焦げた豚龍の肉をむしゃむしゃと食べていく。
と、相棒は気を利かせて、その豚龍モンスターの肉の一部を俺に差し出してくれた。
肉の表面に茸のようなモノが……。
見事に、こんがりと焼けている。
茸の焼き具合も絶妙。
トッピングしてあるようにも見える。
茸は肉から元々生えているモノと推測。
いい匂いだし、食べてみるか……。
ロロディーヌの触手骨剣を噛まないように気を付けつつ……。
焼き鳥を噛む。
最初の肉には歯ごたえがあった。
んだが、サクッと前歯が肉を切り裂く。
おぉ、歯ごたえがあると思ったら軟らかい!
奥歯に肉を運びつつ食べていく。
え? 味がミント?
魔力もあるし、豚がミントという摩訶不思議さ。
どういうことだ。
仄かな焦げた松茸に近い香りもいい……。
噛めば噛むほどミント味の肉汁が溢れて口内を清々しくさせる。
いい、いい味だ。
茸は少し甘い、千切れた肉はすぐに消えていく。
魔力溢れる肉汁ミントが口内を満たしていった。
だが、ミントだ。
なんでミント?
神に対して――俺、肉を食べているんですよね。
チョコレートミントではないんですよね。
と、食の神様に助けを請う。
食の神様がいるのかいないのか不明だが神様は答えない。
もしかして、あの肉に生えた茸ってめちゃくちゃ高級品だったりして……とにかく……。
「ロロ、めちゃくちゃ美味かった」
「にゃおおおお~」
と、喜びの声を上げる神獣ロロディーヌ。
空で昼飯のバーベキュー気分を味わえるとは!
そんな空中バーベキューを楽しみながら――。
空旅を続けること数時間。
樹海で戦うモンスターの生存競争を神獣と高みの見物気分で眺めていった。
夜になったところで渓谷にあった急流に向かう。
急流に棲む光を帯びた川魚たちが美しい景観を作り上げていた。
蛍光色を発した魚だ。面白い。
だが、目立つと獺とか鳥に狙われると思うが……。
案の定、他の大きな魚に追われていく。
逃げていく蛍光色を発している川魚たち。
悪いが、川の中で必死に逃げていく光景も美しい。
ロロディーヌも前足で川を叩いて遊び始めてしまった。
しまいには、急流に飛び込み、泳ぎながら魚を追い回していく。
その間、セーフハウスの皆に向けて――。
血文字連絡を敢行。
今、サスベリ川に向かっているが……。
途中遊んでいく。
といった内容のメッセージを送った。
すぐに文句めいた血文字が帰ってきたが……。
ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡とミレイヴァルのことを報告すると、皆、納得。
「ロロ、もう夜だ。飯にしよう」
「ンン、にゃ~」
相棒を呼び寄せる。
岩場に腰掛けながら、お土産のザリガニをロロディーヌにあげた。
黒豹の姿に戻っていた黒豹は、触手骨剣で器用に殻を切り裂くと俺に白身を差し出してくれた。
お土産だから全部食べていいんだが……。
と、その白身をパクッと食べる。
おおぉ……。
これまた美味しい海老の食感だ。
黒豹も美味しいらしく、ザリガニの殻も食べ尽くす。
が、ザリガニの挟みにあった魚のほうは、匂いをふがふがと嗅いでから、何故か後脚を器用に使って――。
その魚ごと挟みを踏み潰していた。
毒か分からないが、好みに合わなかったようだ。
渓谷の岩場で食事を楽しんでから……。
夜空を見て……。
しばし、風の音と夜景を楽しみつつ静かな時間を堪能していく。
ふと、焚き火の代わりにと、アドゥムブラリを起動した。
「主~、俺を焚き火代わりに使うとは!」
「まぁいいじゃないか」
そんな不気味に光る闇炎を宿すアドゥムブラリを真ん中に置く。
俺と相棒は岩場で星々とアドゥムブラリを見ながらまったりと過ごす。
眠気はないが黒豹の腹に背中を預けた。
アドゥムブラリは急流を覗き込んでいる。
そのタイミングで正義のリュートを取り出した。
星々を見ながらギターの弦を爪弾く。
夜に似合うクラシック音楽を奏でていった。
「主……よい曲だ。昔を思い出す……<魔演奏師>や<宮廷魔奏者>とかの戦闘職業を得ていそうだな」
と、振り返ってきたアドゥムブラリ。
演奏を中断し、
「昔か」
「あぁ、遙か昔……俺様がまだ若造だったころだ。父様と母様に妃たちを集めた魔貴族たちの宴は華やかだったぞ……」
そのままアドゥムブラリは泣きそうな表情を単眼球で作る。
翼をパタパタと動かしながら近くを浮遊。
翼を畳んで黒豹の腹に寄っかかる。
瞼を閉じて眠り出していった。
クレイ人形のようなアドゥムブラリは意外に可愛いから困る。
黒豹はそんなアドゥムブラリごと、俺を抱くように長い尻尾をかぶせてくれた。
黒豹のお腹に埋没する。
未知の南の魔国で体感した猫魔獣のバスもよかったが……。
やはり、相棒のお腹が一番だ。
最高の柔らかさとモフモフ……。
尻尾の匂いを確認しながら……眠りを意識した。
その途端――、
『――愛しき槍使い、シュウヤ、聞こえるかえ?』
『悪夢の女神ヴァーミナ様か。やはり眠った瞬間に接触してきたか』
『……妾をだれと心得ている。異質な第二の称号を得ようとも、<夜王の瞳>を持つ愛しき槍使い! そのシュウヤは、妾の大のお気に入りなのだからな!! そして、そして、水と闇の大眷属もいない、今がチャンスであるのだ』
まぁいい。
俺も狙ったからな。
『それじゃ、助けた闇属性を宿すナナについての情報をください』
『善くぞ救ってくれた。まだ子供ながら我を信仰する悪夢教団ベラホズマの一派からは崇められているほどの存在ぞ』
『……ヴァーミナ様の眷属?』
『近いが、正確ではない。恐王ブリトラと妾の力を二分する、特異で貴重な幼子ぞ……』
『……そのナナを狙う相手が色々といるようですが』
『当然だろう。恐王ブリトラの眷属を体内に宿す子供でもあるのだからな……ブリトラの眷属を取り出し、使役できれば、計り知れない力となって本人を守るだろう。更に、妾の力も加わった闇が濃厚な血肉を飲み喰えば、さぞや至福を得られるであろうて……』
ラファエルも関係があると語っていたが……。
ペルネーテのメイドのミミを誘拐し喰おうとしていた連中に崇められているのかな、ナナは……。
そんな美人さんたちを食らう悪夢教団は、神が許しても、俺は許さない。他に食い物がなく生きるためなら、まぁ、理解はできる。
が、やはり、直に見ているだけにダメだな。
即浄化対象だ。
たとえ、神だろうと関係ねぇ。
いらついた。
『食人野郎共は見つけたら、ナロミヴァスと同様に、即、ぶち殺すつもりだが……そんな俺でも愛しき槍使いと呼ぶつもりか?』
『……ふふふ、構わぬ。血肉を喰らう者は多いが、大概は、箍が外れた魔人共だ』
いいのかよ。
『無数の魂を妾に捧げ、妾の魔界の領域を拡大、維持しようとする優秀で健気な彼奴らである。が、妾がどう思おうとも、槍使いが、気に食わぬのならば、妾の許可を得ずとも動くであろう』
『確かに』
『だからこそ、妾を救えるのだ』
魔界の争いか。
悪神デサロビアとかにも攻められているんだっけ。
ルシヴァルの紋章樹の前で、光魔騎士としてのシュヘリアを誕生させた時。
過去に『蒼炎の小娘、そう騒ぐな。それより……槍使いよ。早く魔界に来るのだ。そして、妾の夫となり、妾を魔公爵ゼンの魔の手から救い出しておくれ。そして、魔界騎士ホルレインの大軍勢から妾を守っておくれ……』
と、俺に対して、いや、皆に対して懇願するようなメッセージを寄越してきたからな。
次は恐王のことも聞いておこうか。
『恐王ブリトラとは、恐王ノクターの親戚か?』
『しれたこと、神々の一人である。地上に及ぶほどの力はない。しかし、ナナ以外にいないこともまた貴重である。どうして、ナナに力が宿ったのかは不明ぞ。妾の力が宿った理由なら説明できるが』
『どうしてだ』
『妾の力を宿す何かと触れた者の子孫だろう』
『そんな理由で力が宿るものなのか』
『眷属化の可能性はいくらでも潜んでおるぞ。妾は女神、定命の者が感知できないこともあるだろう』
『わかった。んじゃ、またな』
目を開けると、自然と首から血が流れた。
黒豹も、俺の首に気付く。
俺の首筋から垂れた血を触手で拭き取ってくれた。
「ロロ、さんきゅ」
寝ていたアドゥムブラリを起こして紅玉環に戻す。
さて、ステータスでも見とくか。
ステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:覇槍神魔ノ奇想:血魔道ノ理者
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:霊槍印瞑師:白炎の仙手使い:血外魔の魔導師:血獄道の魔術師
筋力28.0敏捷28.9→29.1体力26.9魔力31→29.5器用25.9→26精神32→30.5運11.4
状態:普通
覇槍神魔ノ奇想が取り込んだ……。
蜘蛛王ライオガと関係するだろうセンビカンセスの蜘蛛王位継承権とラメラカンセスの蜘蛛王位継承権が気になった。
覇槍神魔ノ奇想を連打しつつ蜘蛛王位継承権のことを強く考えた直後――。
※センビカンセスの蜘蛛王位継承権※
※蜘蛛王ライオガの微因子をエクストラスキル系<霊呪網鎖>が捕らえたことによる極めて希有な連鎖が起因※
※<魔蜘蛛煉獄者>と<蜘蛛王の微因子>が必須※
※八蜘蛛王の子孫の蜘蛛種センビカンセスの因子を得たモノが得られる極めて稀な称号※
ラメラカンセスの蜘蛛王位継承権はでない。
続いて、スキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>:<光条の鎖槍>:<豪閃>:<血液加速>:<始まりの夕闇>:<夕闇の杭>:<血鎖探訪>:<闇の次元血鎖>:<霊呪網鎖>:<水車剣>:<闇の千手掌>:<牙衝>:<精霊珠想>:<水穿>:<水月暗穿>:<仙丹法・鯰想>:<水雅・魔連穿>:<白炎仙手>:<紅蓮嵐穿>:<雷水豪閃>:<魔狂吼閃>:<血穿>:<魔連・神獣槍翔穿>:<ザイムの闇炎>:<霊血装・ルシヴァル>:<血外魔道・暁十字剣>:<血獄魔道・獄空蝉>:<血外魔道・石榴吹雪>:<十二鬼道召喚術>:<蓮茨・一式>:<双豪閃>:<無天・風雅槍>:<飛剣・柊返し>:<魔蜘蛛煉獄者>new:<蜘蛛王の微因子>new:<血穿・炎狼牙>new:<召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>new
恒久スキル:<天賦の魔才>:<吸魂>:<不死能力>:<血魔力>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<破邪霊樹ノ尾>:<夢闇祝>:<仙魔術・水黄綬の心得>:<封者刻印>:<超脳・朧水月>:<サラテンの秘術>:<武装魔霊・紅玉環>:<水神の呼び声>:<魔雄ノ飛動>:<光魔の王笏>:<血道第四・開門>:<霊血の泉>:<光魔ノ蓮華蝶>:<無影歩>:<ソレグレン派の系譜>:<吸血王サリナスの系譜>:<血の統率>:<血外魔・序>:<血獄道・序>:<月狼の刻印者>:<シュレゴス・ロードの魔印>:<神剣・三叉法具サラテン>:<魔朧ノ命>new:<鎖型・滅印>new:<霊珠魔印>new:<光神の導き>new
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>:<邪王の樹>
まずは<魔蜘蛛煉獄者>から。
※魔蜘蛛煉獄者※
※八蜘蛛王の子孫の使役を可能とする者※
次は<蜘蛛王の微因子>。
※蜘蛛王の微因子※
※八蜘蛛王の力を内包した者の証拠※
※意識すれば指定した身体の箇所に因子を刻む※
※魔力と血肉を消費して八蜘蛛王の子孫の一部を自身に取り込むことが可能。種と能力により使い手の見た目が変化する※
その次は<血穿・炎狼牙>。
※<血穿・炎狼牙>※
※血槍魔流技術系統:最上位亜種突き※
※水槍流技術系統:上位亜種突き※
※影狼流技術系統:亜種突き※
※ルシヴァルの魂を宿した力が、影狼流最後の弟子としての思いを経て、血の炎としての狼を体現化※
※<霊血の泉>と連動可能※
アルデル師匠の思いは得られた。
そのまた次は<召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>。
※召喚霊珠装・聖ミレイヴァル※
※取得条件に魔技三種が必須※
※古の英雄ミレイヴァルに<霊珠魔印>の力を作用させた装備を着用させる。それに伴い、ミレイヴァルの能力が飛躍的に向上する※
続いて<魔朧ノ命>。
※魔朧ノ命※
※呪力の源、人型限定で魔印を刻める。刻まれた相手は身体能力に魔力と精神が微かに上がる※
※八蜘蛛王の子孫アキの心臓部には予め特別な魔朧印が刻まれ成長とともに変化を遂げるだろう※
次はこれだ、<鎖型・滅印>。
※<鎖型・滅印>※
※高レベルな格闘戦闘能力と<因子彫増>が必須※
※鎖型独自格闘流技術系統:亜種※
ミレイヴァルと俺の腕に刻まれた<霊珠魔印>も気になる。
※霊珠魔印※
※光の精霊輝けるモノと精神感応に耐えられる高い精神力と時空属性にエクストラスキル<光の授印>と<ルシヴァルの紋章樹>と希有な魔法戦闘職業が必須※
ルナ・ディーバが語っていたことと、色々と重なる……。
高い精神力と時空属性があったから<精霊・空間想オラムガル>に干渉できたということか?
勿論、光属性と闇の血としてのルシヴァルの紋章樹が関係しているんだろう。
だから、アイテムというか、ミレイヴァルの精神世界に挑むことができたのかな。
最後は<光神の導き>か。
※光神の導き※
※<光の授印>と光神ルロディスの影響下にあるアメリの聖眼を見て、祝福を得て、祝福を与え、愛されていることが必須※
※迷いし光の魂たちを直接救う者が魔と縁深き者であることに光神ルロディスが強く興味を抱いた証明※
※光神ルロディスと光の精霊たちの誘いを受けやすくなる※
だからアメリが見えたのか。
確かにあの時、ペルネーテの自室でアメリの双眸を見た。
しかも、十字架をハッキリと……。
今、ペルネーテに神聖教会の司祭たちが訪問しているとヴェロニカは語っていたし。
アメリの傍で見守っているヴェロニカに、このことは伝えたほうがいいだろう。
すぐに血文字を操作。
『えぇ! アメリが見えたことも驚きだけど、神話級をあっさり扱える宗主様にも驚きよ! そして、ミレイヴァルという光属性の古の英雄を使役? まったく、吸血鬼の王になったと思ったら、今度は神界? 天使にでもなるつもりなの?』
『いや、天使にはならない。天使はエヴァがいい』
『……その辺りは変わらないから安心する』
と、少し馬鹿にされたような気がしたが、まぁいいさ。
『アメリに接触してきた教会の勢力はどうなんだ?』
『それがね、アメリちゃんは奉仕活動に夢中で、神聖教会の方々にあまり興味を示さないのよ。面子にこだわる神聖教会の司祭たちは、かなり苛ついたでしょうね。わたし的には溜飲が下がる思いだったりするけどね。問題は最近になって増えた護衛よ……司祭が雇ったか分からないけど……あれは、たぶん魔族殲滅機関のメンバーだと思う。追跡を受けたからすぐに逃げたけどね。狂騎士のことを思い出して、すごーく嫌な気分になった』
『我慢してよく逃げたな』
『うん。ぶっ殺してやってもよかったけど、相手は個人じゃないからね。アメリちゃんにも迷惑が掛かってしまうから逃げた』
『なるほど、組織対組織に発展する可能性か』
『そう、メルに注意を受けた』
『ルシヴァルとしての力が神聖教会に引っ掛かると、個人云々の問題ではなくなるからな。神聖教会は一組織に過ぎないが、メルは第二王子との関係性を強めたし、天凜の月としての動きに支障をきたすかもと、リスクを避けたようだな』
『……さすがは総長ね。メルと同じことを』
『んなことはいい。それよりも、ヴェロニカは大丈夫か? 強者からの追跡は』
『うふ、心配してくれるのね、ありがとう。でも、ここは幸い広いペルネーテ。邪神の使徒だっているし、ヴァルマスク家の縄張りだから、敵はわんさかいる。それに、メルのお父さんのザープと対決している奴らもこの都市に潜伏しているようだから』
『そういえばそうだった。光と闇に邪の戦いの最前線だからな。ヴァルマスク家も役に立つ』
『うん。でも、巧妙に隠れながらも、この都市のどこかで人族を襲っているはず』
『生きていくためのヴァンパイアの糧か。見たら、即、光槍を喰らわせるんだが……』
『……うん』
そこから血文字でクナのセーフハウスに向かうと告げて、血文字は終了。
樹海を南に向かうゆったり旅を再開した。
途中、古代狼族の警邏チームと遭遇。
その兵士たちと挨拶をした。
神姫隊が伝搬していたように、俺と相棒の存在は知れていたようだ。
カフェのような場所で会った老兵の古代狼族もいた。
その古代狼族の老兵さんから……。
樹鬼系。
白足大狐。
毒蝮大狐。
などのモンスターが比較的多く出没することを知る。
警邏チームと別れて、寄り道を減らすように高度を上げた。
空旅に移行する――。
「ロロ、速度を上げようか」
「にゃあ~」
俺を乗せたロロディーヌは宙空を迅速に進む――。
朝日が昇ると共にサスベリ川が見えてきた。
八支流の一つのシング川と同じく川幅は大きい。
灯台の明かりが川面を流離う霧を払う。
小舟たちが縦長の岩の隙間を縫って川を進む。
前にも見ているが……。
この辺りから人口が極端に増える。
灯台の下の高台にロロディーヌを向かわせた。
クナのセーフハウスが見えてくる。
「ロロ、先に下りる」
跨いでいた足を上げた。
ペガサスのような姿の相棒から離れる。
落下しつつ<導想魔手>を発動。
その歪な魔力の手を蹴って跳躍しつつ下降する。
落下傘はないがそんな気分で風を浴びていると、
「――閣下」
ジェット気流を起こすヘルメが近づいてきた。
凄まじく螺旋する水飛沫を、足下から引き起こしている。
一対の螺旋した水飛沫に太陽光が射し交わった。
ヘルメは後光を帯びたように虹の煌めきを幾つも宙空に生み出す。
光の精霊にも見えるぐらいの軌跡を残していた。
「ヘルメ!」
<導想魔手>を足場にしつつ突進するヘルメを抱く。
そのまま、ヘルメの背中を片手で支え抱きながら――。
横回転。
愛しいヘルメを抱きつつ一緒にダンスする気分で下降した。
ジョディも近づいてくる。
「あなた様~、お帰りなさい~」
「主様~」
最後の声はアキだ。
ジョディと宙空でハイタッチ。
共に螺旋回転して下降。
アキは、まだ下だ。
セーフハウスから少し離れた崖にある樹。
そこに、自らが作ったであろう蜘蛛の巣の上から、跳躍をくり返しつつ手を振っている。
あの蜘蛛の巣はトランポリンのように弾力性がある。
アキにメイド衣裳はよく似合う。
メイドキャップの帽子が可愛い。
俺はジョディを反対の手と脇腹で抱きしめながら崖の上に着地した。
アキは蜘蛛の巣をメイドスカートの内部に引き込む。
そのままシュタタタといったように巧みな蜘蛛の脚捌きを見せつけるように、近寄ってきた。
近くを飛んでいた金属製の鳥が素早くセーフハウスに戻っていく。
ヴィーネとミスティの合作作品は、ヴィーネと視野でも共有しているのか?
と、小さい鳥の姿が飛翔する姿を見てから、
「ただいま。皆が待つ部屋に向かおうか」
「はい」
「そうですね」
「了解です」
アキの手を見ると、血濡れた鰐の頭部たちを握っていた。
「アキ、その鰐の頭部はどうした?」
「サスベリ川に生息するモンスターです。冒険者たちが乗る小舟が転覆し、多数の被害が出ていたので救いに動きました」
「アキちゃんと協力して、狩りをしました」
と、ジョディが発言。
へぇ。
「ヘルメも?」
「わたしは参加してません。下の町の繁華街も気になりましたが、セーフハウスの直下、真下の水源が気になりましたので、そこを調べてから、この崖の近くに咲いている植物の花たちにお水を撒いていたのです。黄色と白色のお花たちを愛でてました」
なるほど、ヘルメらしい。
「地下の水源はどんな感じだったんだ?」
「毒はありません。ただ、水脈の近くに地下道があり、施設があるようでした」
「クナだからな。ま、直接、クナから後で聞くことにしよう」
「はい」
皆を連れてセーフハウスに入る。
明日も短いかもしれませんが、更新予定です。
HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。」11巻が2020年6月22日に発売。
コミックファイア様から「槍使いと、黒猫。」2巻が2020年6月27日に発売。




