五十三話 サーディア荒野の魔女※
宿に戻り風呂へ入る。
体を洗っていると、黒猫も湯の中へ飛び込んできた。
その相棒の背中の黒毛を梳く。
黒毛を丁寧に伸ばしつつ地肌をマッサージ。
「ロロ、よく我慢しているな」
「ンン」
不満そうに喉声を発して体を少し震わせるが、大人しくしていた。
もみもみと、黒色の毛毛を指で摘まむように洗ってあげた。
そうして黒猫の体を一通り洗ってから――。
桶の縁に背中を預けた。
ゆったりと湯を感じながら……。
とりあえず、ステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:神獣を従エシ者
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:魔槍闇士:鎖使い
筋力19.2→19.3敏捷20.0→20.1体力18.2→18.3魔力23.2→23.3器用18.1→18.2精神23.7→23.8運11.0
状態:平穏
こんなもんか、少し成長している。
そこでステータスを消した。
目の前にあるパレデスの鏡……。
この鏡が世界の何処かに二十四個存在するのか。
少しずつ調べていこう。
しかし、ここは隅っこの奥の部屋。
扉もないから、いつかは他人に、この鏡から出入りしてるところを見られちゃうかもなぁ。
ま、いいか。ゲート魔法を試そう。
桶から出た。
皮布で濡れた体を拭く――。
衣服を着て準備を整えてから、右腕のアイテムボックスの表面の風防と太陽のプロミネンスのような飾りをチェック。
そのアイテムボックスから二十四面体を取り出した。
二十四面体を掌で転がしつつ――。
角度を変えて見ていく。
結構綺麗だ。
この二面か三面に彫られた記号をなぞるかな。
それとも、飛ばしに飛ばして、二十四面の記号をなぞるか。
物は試しだ。
一番最後の二十四面の記号をなぞろう。
記号を指でなぞり、赤から緑へ変化させた。
あれ? 記号の色が緑色に変化したのに、ゲート魔法が起動しない……。
試しに一面の赤い記号をなぞる。
一面の記号が緑色に変化。
すると、光を発した面体は折り畳まれ、ゲートが起動。
同時に目の前の鏡が光る。
ゲートには鏡から見える光景が映っていた。
つまり俺の姿だ。
試しにゲートを潜ると――。
部屋に出戻りで、目の前の寝台に着地。
前回と同じように、二十四面体が鏡の上の縁にある飾りに収まっている。それが自然に外れると、空中を漂いながら近付いてくる。
また頭の周囲をぐるぐると回転しながら回り始めた。
一面の記号は普通に使える。ということは……。
二十四個の鏡があるわけではない? それとも今は使えないとか?
鏡とこの球体がまだ何かしらの条件を満たしていないから使えないとか?
試しにもう一度、一の記号をなぞり、ゲートを起動させる。
ゲートが出現しても入らずに、五分、十分と放置。
光るゲートに手を伸ばす――。
鏡からは俺の手は出てこない。手だけが鏡からひょこっと出たら面白かったのに、次元殺法的な奇怪なことは出来ないらしい。
三十分ぐらい過ぎてもゲートは消えない。
これは途中でキャンセルできないのかな?
試しにゲートの光へ手を入れ、『ゲート魔法キャンセル』と念じてみる。
するとゲートが瞬時に消え、二十四面体が手の上に微回転しながら現れた。
へぇ、こうやってキャンセルするのか。
よし、次は二の記号をなぞろう。
おぉ、あっさりとゲートが起動。
光に縁取られたゲートから見える光景は……。
こりゃ、うん……。
水の底だな。海の底か?
海底らしい砂に魚が……。
だがそんなに深くはないようだな。太陽光が見える。
ここは後回しだ。手を突っ込み……キャンセルっと。
手の上で微回転している二十四面体を掴み、次は三の面にある記号をなぞる。
三の面も無事に起動。
と、ゲート先に見える光景に驚き、暫し……見つめてしまった。
女性が、ブロンドの長髪の女性が着替え中で、裸だったのだ。
その女性は鏡の光に気付いたのか、体を隠すように灰色のボロ服を胸に当て、怯えながらも光っているだろう鏡を触りだしてしまった。
……こりゃあ出られない。
その女性は今度はなぜか、鏡に向かい両手を組み、神に祈るポーズで口を動かしていた。
完全にどっかの神様と勘違いしてるな。
でも、この子が胸の前に持っている服、所々破れているぞ……。
すると、女性は誰かに呼ばれたのか、鏡から離れ、貧相な服をちゃんと着てから部屋を出ていった。
見えている範囲だと狭そうな部屋。
寝台が右手前にあり、右奥には女性が外へ出ていった木製扉がある。
左隅には洋服箪笥と小さい机。
机の上には作りかけの花輪があり、小さな本棚もある。
質素で慎ましい生活をしているイメージが浮かぶ。
さて、このゲートの先は時間を置いて、また今度調べるか……。
キャンセルしよ。
次は四面の記号をなぞる。
今度のゲート先はさっきとは違う。
茶色掛かった地面に岩肌が見える外の光景だった。
しかも、地面には武具の残骸や宝飾品が無数に散らばっている。
太陽光が宝飾品をきらびやかに照らしていて、落ちている品々が素晴らしい宝物に見えた。
何かの戦場跡にも見えるし、宝の山にも見える。
この不自然な物の山はなんだろ。
すると、それが突如振動して一気に吹き飛ぶ――。
うひょっ、びっくり。
そしてそこから、いきなり大きい瞳の色彩がゲートから見える光景全部を占めた。
うはぁ、でかっ、両生類の眼だ。
竜、ドラゴンの眼か? 眼の周りの肉が赤黒いし、瞬き一つも大きい……。
瞬きが終わると、鏡から距離を取ったのか、ドラゴンの頭が見えたと思ったら、今度は大きな口を広がり、伸びてきた真っ赤な舌がゲートから見える光景になった。
鏡を舐めてるのか?
露みたいな液体がついていた……。
ドラゴンは舐めるのに飽きたのか、一瞬で消えるようにいなくなる。
しかしその代わり、今度は凛々しい女性、いや、老婆が目の前に出現していた。
――こちらを見つめている。
老婆は特殊な兜を装着していた。
眉間部分に赤い菱形の宝石があり、それを守るように竜の装飾が施されている。その宝石と連なるような額当ての両端は尖り、カチューシャのように髪の一部を隠していた。
額当ては赤い冠のようにも見えるな。
髪は赤み掛かった黒色だ。
黒と赤のコントラストが映え、背中に流れた髪が風で揺れている。
胸から足先まで続く全身鎧は赤い艶やかな色を魅せる装飾が目立ち、スウェットスーツ、コスチューム系の鎧にも見えた。
しかも、括れもあり、女性らしいシルエットを体現させているので、体のラインが丸分かりだ。
そんな若そうな体だが、顔は皺だらけで豊麗線が目立つ老婆という……アンバランス。
そんなゲートの向こう側に映る老婆の情報は、一方的にこちらが覗いている状況だから得られたもの。
魔素や気配は微塵も感じられない。
気になる。このゲートを潜り、この不思議な老婆、竜婆に会いたい。
一応投げナイフや細かな武具を確認。
「ロロ、今見えているところに行こうと思うんだが」
「にゃっ」
黒猫は片足でぽんっと俺の肩を軽く叩く。了解の合図だ。
俺は微笑んで頷くと、黒槍を右手に出現させゲートを潜った。
「おや、まぁ……吃驚だね」
ゲートを潜った瞬間、老婆は年季を感じさせる透き通った声で反応してきた。
「どうも……驚かせましたか?」
「あぁ、吃驚さ、わたしゃあ何千年と生きているが、この魔法の鏡が光ったのは初めてなんだよ。あんたも突然現れるし、いったいあんたは何者なんだい?」
「いや、何者と言われましても……しがない槍使いで冒険者ですよ」
俺はそんな軽い口調で様子を窺いながら、この老婆を察眼で観察していた。
全身から強烈な眩しいぐらいの魔素を発している。
<魔闘術>か分からないが、体内で魔素が目まぐるしく循環しているのは分かった。
「ほぅ……その目でそれを言うのかい? ひゃひゃひゃ」
老婆は俺の魔力が目に留まってることを暗に示すと、老婆の瞳も縦割れの瞳から変化した。
虹彩が赤黒く縁取られ、三角やら魔法陣やらの不思議な紋様が出現した。
この老婆って、やはりさっきのドラゴンなのだろうか……。
「あなたも不思議な目ですね。あなたはドラゴンですか?」
「あぁ、そうさね。だが普通の竜ではないな。高・古代竜。これが正式な種族名だ。近隣の国々からは【サーディア荒野の魔女】と云われて久しいね」
サーディア荒野の魔女?
荒野の魔女ねぇ……初耳だ。
「まずは名乗らせてもらいます。俺の名はシュウヤ・カガリ。この肩に乗っている黒猫がロロディーヌ」
「そうかい。不思議な組み合わせだねぇ。その見た目が猫の獣も、シュウヤカガリと同じで普通ではないね?」
「にゃっ」
――判断力がすごい。
いや、あの目で見透したのかな?
そんな会話中に、二十四面体が鏡から外れ、宙を漂い戻ってくる。いつも通りに俺の頭の周囲を回り出した。
その面体を無造作に掴み、胸のポケットに入れる。
「……ほぅ、また不思議な術か魔道具だねぇ……」
「失礼ですが、お名前はありますか?」
「あ、そうそう、わたしも名乗っておこうか。サジハリだ。魔女サジハリという古き名がある」
「そうですか。サジハリさんですね」
軽く会釈して返した。
「ひゃひゃひゃ、あんた面白いねぇ。その反応だと、やはり近隣の【エイハーン国】や【ゼルビア皇国】の人族ではないね。そこの者なら、わたしを見たら震え上がるはずだ」
サジハリさんは腕を組み、片手を唇へ伸ばしている。赤い流線が美しい爪の目立つ指先を綺麗な唇に当てながらにこやかに語っていた。
「えぇ、その通り。サーディア荒野がどこにあるか分からないですし、エイハーンやゼルビアという国も知りません。因みに、マハハイム山脈は聞いたことがありますか?」
「マハハイム山脈か。アルディットたちが住む地域だったはず。ずいぶんと遠方……南東にある山脈だねぇ、そこから転移してきたのかい?」
アルディット?
マハハイム山脈が遠い南東ということは、ヘカトレイルや【バルドーク山】の位置からだと、この【サーディア荒野】は、ずっと遠い遠い北西ということか?
「……えぇ、そうなりますね」
と答えると、サジハリさんは目付きが鋭くなる。
「ほぅ、時空属性持ちの魔法使いでもあるのか。それで、シュウヤカガリと言ったね。おまえも他の人族のように、わたしを狩りに来たのかい?」
サジハリさんは急に冷えるような口調で話してきた。
ニュアンス的に、遠い場所への転移は時空属性じゃないと無理?
しかし、狩りって。
「……いえいえ、違いますよ。狩りって、あなたは狙われる立場なんですか?」
俺の問いに魔女サジハリさんは眼を見開く。
鱗のような眉尻を動かして驚いていた。
「……長年生きてみるもんだねぇ。また吃驚だよ。説明しとくと、わたしゃあ狙われる立場どころか人族からは天敵の立場、不倶戴天の敵という奴さ。長らく竜の姿をしていたからね、エイハーンやゼルビアに狙われてるのさ。まぁ当然だがねぇ、辺り構わず荒らして、見境なくモンスターや人族を喰っているからねぇ」
うおっ、人型で話せるし理性的だと思っていたが、狂暴なのか。
魔竜王も同じなんだろうか。
「そういうことですか……」
「それで、わたしを狩らないのなら、お前はどういう理由でここへ来たんだい?」
「用があって来たわけではないんです。単純に興味があったから、それが理由ですね」
「そうかいそうかい、用もなくね……クククッ」
「どうかしましたか?」
「いや、な、わたしゃあお前のような奴と話すのは久々なのだよ。竜婆の姿を見ても臆することなく、こうも飄々とした態度で接してくるのが楽しくてな」
本当に楽しそうだ。それなら、気になることを質問したら答えてくれるかな。
「そうですか。では、楽しいついでに、質問をしていいですか?」
「ああ、良いぞ。気兼ねなく聞いてくるがいい」
「それじゃあ、古代竜と高・古代竜の違いはなんですか? あと、魔竜王という言葉を聞いたことはありますか?」
「それは簡単だ。古代竜とは、わたしたち高・古代竜を除いて、竜族の中では最強の部類に属する古きドラゴンたちの総称だな。性格は獰猛で、勇猛貪欲そのものだろう。そいつらは普通のドラゴンとは違い、思考力もそれなりに備わっているが、わたしのように人の姿には決して成れやしない。魔竜王という言葉は聞いたことがないね」
魔竜王を知らないのか……いや、知っていて話さない?
別にどっちでも良いか。
「……そうですか。古代竜とも、サジハリさんのようにコンタクトは取れるものなんですかね?」
「無理だろうねぇ、さっきも言ったが、狂暴さは普通ではない」
魔竜王とはコンタクトは取れそうもないな。
「そうですか。ハイ・エンシェントという言葉には何か意味があるんですか?」
「ハイ・エンシェントとは優れた古き者。古代竜の一部を除き、竜族の頂点に立つ者たちをそう呼ぶ。竜言語魔法を極めた者という意味もあるね」
竜言語魔法か。
また聞いたことのない魔法だ。
「その竜言語魔法って、俺でも使えます?」
「無理だな。――ファヅッロアガァァァァァァ」
突然、サジハリさんは口を広げ、喉を震わせるように言葉を放つ。
同時に――突如突風が生まれ、俺の背後へ流れていった。
「今のは竜言語魔法の一部だ。これは人族の喉では無理なのだ。発声器官がないのだよ」
こんな魔法があるとはな。
あっ、これも聞いておこう。
「なるほど、確かに無理ですね。それでは最後に、玄樹の光酒珠、智慧の方樹というアイテムの名を聞いたことはありますか?」
俺の言葉に魔女サジハリさんは今までとは違う反応を示した。
「……あるぞ。それをどこで聞いた?」
「神獣との契約時に聞きました」
「にゃっ」
黒猫も一鳴きした。
「……っ、そうかいそうかい……その肩にいる猫かい?」
と、少し間が空いた。
サジハリさんは、
「まぁ、答えないなら答えないでいいが、それは神々の黄昏、秘宝であり神遺物だよ。普通の人族には……ただのお伽噺としてしか存在は知られていないはずだがね?」
魔女サジハリさんは、黒猫を凝視して明らかに動揺していた。
「名前だけしか知らないんですが、それを探しているんです」
「ハハ、蜃気楼を探すというのか。神界セウロスに存在する神々は、定命の世界にはよほどのことがない限りちょっかいは出さないからねぇ。それでも、植物の神サデュラや植物系の精霊たちが直接因果をもたらす場所、大地の神ガイアの影響が強い地、森林などの魔素が濃い聖域が存在する地帯ならば……あるいは、何かしらの手がかりを掴めるかもしれないね」
おぉぉ、十分だ。さすが高・古代竜であり魔女。
重要な手がかりをゲット。
「ありがとう。覚えておきます」
「ふむ。――わたしゃあそろそろ離れる時間だ。シュウヤカガリ、少しの間だったが、楽しかったぞ」
サジハリさんは急に反対の方向へ振り向き、笑顔で語る。
「はい。またここに来てもいいですか?」
「……好きにしたらいい、わたしゃあ気紛れでねぇ、ここにはいない場合も多いからね。それじゃ、然らばだ――」
サジハリさんはそう言うと、目の前で赤い猛る竜へ変身。
咆哮して飛んでいってしまった。
ふぅ、威圧感というか、不思議な竜であり人だったな。
この際だ。この辺りを散策してから帰るとしますかね。
サジハリさんの住処である小さい山を出て辺りを見ながら歩いていく。
頭上では鴉のような鳥が飛んでいる。
もしかしたら、鷹や禿げ鷲かもな……。
それにしても、荒野が続く。
遠くに小さい丘や茶色の山肌が見えるだけ。
一木一草もない荒涼とした景色が見えるだけだった。
数時間そんな荒野を彷徨っていると、緑のお馴染みモンスターであるゴブリンたちに遭遇した。
――魔素も反応を示す。
早速<隠身>を発動。
隠れながらゴブリンたちへ近付いていく。
ゴブリンの大半はこん棒や木の棒を手に持ち、動物の皮などを利用した防具を身に着けていた。
その背後には弓を持つゴブリンたちもいるようだ。
気付かれていない、先に潰すか。
俺と黒猫は先制攻撃を仕掛けた。
投げナイフを<投擲>。ナイフはゴブリンの頭、胸に刺さり、コンマ数秒で二体を仕留めた。
黒猫も触手をゴブリンの頭部へ伸ばす。
触手の先端から象牙のような白い骨剣がにゅるりと伸びた。
その触手から出た触手骨剣の先端がゴブリンの頭部を穿つ。
次々とゴブリンを仕留めるロロディーヌ。
すると、離れた位置のゴブリンアーチャーが矢を放ってくる。
そんな反撃の矢だが、どれも狙いが甘い。
俺たちには当たらない。
そんなゴブリンアーチャーの更なる射撃を許すつもりはない。
俺は魔闘脚を用いて前進。
ゴブリンアーチャーとの間合いを素早く詰めた。
片手が握る黒槍を伸ばし、アーチャーの胴体を穿つ。
「ギャァ」
汚い臓物と一緒に黒槍を引き抜きながら――。
爪先を軸に横回転。
その回転を活かすように――。
左手に召喚した魔剣ビートゥで隣のゴブリンの肩口を斬り下げた。
「ギェ」
他のゴブリンたちは、仲間が倒されたのを見ると――。
ギャーギャー言いながら――必死に矢を放ち応戦してくる。
が、その都度倒したゴブリンを盾にしたり、黒槍で飛来する矢を叩き落としたりして防いでいった。
ゴブリンも必死だが、矢を放った後の隙はどうしようもない。
スキルや、一度に三発射てるとかならまだしも――<刺突>。
――途中から距離を詰めるのも面倒になった。
中距離で<鎖>を射出――。
連続的に<鎖>でゴブリンを簡単に倒していく。
最初から<鎖>を使えば楽だった。
と、毎度な展開だが、油断せずにゴブリンたちを屠る。
俺と黒猫の前では、数十体のゴブリンなど路傍の石。
障害物にすら成らず。
ゴブリンの屍が荒野に散らばった。
悠々自適に飛ぶ鳥たちへ餌を提供だ。
ゴブリンがこんなにいるなら……。
巣が近くにありそうだが……。
種族によっては、放浪しているゴブリンとかもいるのか?
それとも、荒野の窪んだ地形の下に、地下に続く穴でもあるのか?
と、周囲を見ながら歩く毎に、ゴブリンを見掛ける頻度が高くなった。
現れるゴブリンを屠りながら北へ進む。
一向にゴブリンの巣や人が住む街らしきものは見えてこない。
しまいには日が陰って夜になってしまった。
どうせなら、サジハリさんに近くに人族の街があるかどうか聞いておけば良かった。
一旦帰るとするか。
「ロロ、帰るぞ」
「にゃお」
相棒は俺の肩に戻ってくる。
その場で二十四面体をポケットから取り出した。
パパッと宿屋にあるパレデスの鏡の記号を指でなぞる。
ゲートを起動させた。
ゲートは無事に出現。
俺はゲートを潜り、ヘカトレイルの宿屋へ戻ることができた。




