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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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五百三十六話 幻狼たちの誘い


 俺の魔力を吸い取った月狼環ノ槍。

 反った穂先は三日月形の大刀。

 大刀の棟に並ぶ環の金属は、それぞれ意識があるようにブルブルガチガチと音を立てて振動している。

 

 そして、三日月の形の穂先に刻まれた吼えるような狼の波紋から、本当に、狼たちが浮かび上がり宙へと飛び出していく。


 その幻狼たちの姿は美しい。

 柄から出るルーン文字といい、非常に幻想的でカッコいい槍だ。

 柄から発生したルーン文字の点滅も激しくなった。


 階段の手前で振り返り、


「――ヒヨリミ様、ハイグリアと連絡が取れたらよろしくお願いします。では!」


 ヒヨリミ様は俺の月狼環ノ槍をチラッと見て考えるような素振りを見せてから、


「……はい! お元気で」


 笑顔で見送ってくれた。

 月狼環ノ槍から幻狼たちが発生しているから、ヒヨリミ様も気になっているはずだ。

 渋いキズユル爺さんは頷く。

 

 結構な能力を使って疲れているだろう爺豹獣人(セバーカ)の鑑定人さん。


 お世話になった。

 『また、どこかで!』とお辞儀をする。


 再び、踵を返した――。

 ハルホンクを調整しつつ<霊血装・ルシヴァル>を装着。

 

 俺は、月狼環ノ槍から発生する幻狼たちをチラッと見てから、相棒に向け、


「ロロ、この幻狼たちを追うぞ!」

「ンン、にゃ」

「待った」

「――にゃ!」


 肩から降りようとしたロロディーヌの尻尾を掴んで止める。

 相棒は、肉球パンチで俺の頬を叩こうとしたが、叩かなかった。


 <霊血装・ルシヴァル>が頬から首下を覆い中だからな。

 面頬のようなガスマスク。


 黒猫(ロロ)は気に食わないのか、尻尾で背中を叩くと後脚で爪を立ててきた。

 肩のハルホンクさんに黒猫(ロロ)の爪が食い込む。


「はは、そう怒るなって。ひさしぶりに路地裏散歩道の番組を再開しようじゃないか。幻狼たちを追うから路地裏ってことはないと思うがな」


 黒猫(ロロ)はパッと機嫌がよくなった。


「にゃ~」


 と、左手を伸ばし、ポーズを決めながら、


「よーし、まったり散歩だ」

「ンン」

 

 枯れ葉が落ちゆく狼月都市ハーレイアを進む。

 久しぶりの相棒を連れての、まったり散歩だ。


 振動する月狼環ノ槍から、幻狼たちが出続けているが気にしない。

 森屋敷を出て――。

 

 古代狼族たちの兵舎やら城壁の内側を見学。


「そこ! 訓練の動きを止めるな」

「はい!」

「いっち、に、さ」

「甘い! なんだその腕の角度は!! 爪式獣鎧がなければ死ぬぞ!」

「はい!!」

「もう一度だ!」

「いっち、に、さん、し、ご」

「こらぁ!」

「はいぃぃ、いっち、に、さっん、し、いっち」


 と、腕立てを何回も途中でやり直しをさせられている。


「まったくもって不甲斐ない! 狼将は一枠が空いたままなのだぞ!」

「仕方なかろう。〝万卒は得やすく一将は得難し〟だ」


 若い兵士を鍛えていた中年の古代狼族を、上官っぽい古代狼族の老兵がたしなめている。

 訓練は今のように腕立てを含めて、様々にあるようだが……。


 綺麗な女性は少ないので無視。

 

 幻狼たちが駆けている方向の正門から出た。

 早速、都市らしい喧噪が俺たちを出迎える。


 ブルームーンの宿の前を通る。

 通りを行き交う人々には、走る幻狼たちの姿が見えている方もいるから、それなりに目立つ。

 が、見えていない方もいた。


 気にせず、歩いていく。


 財布を出した鼬獣人(グリリ)とドワーフの冒険者を発見。

 あんな風に大きな財布を持って買い物していると、スラれそうな感じだが、大丈夫だった。

 古代狼族の露天商からタコ焼き風の卵料理を買っていた。


 青のりと鰹節のようなものがたっぷりと掛かってすこぶる美味しそう!

 

 そのタコ焼きを買った鼬獣人(グリリ)のおっさんの横を、テルポッドとソンゾルの見分けがつかない樹海獣人(ボルチッド)に似た釣り人たちが通っていく。

 見たことのない魚を棒に吊るして歩いていた。


 魚は長細い鰻系で鯉のようなザハとは似ていない。

 

 そして、斜め前方を歩く随分と身なりのいい虎獣人(ラゼール)の商人。

 その商人にぺこぺことお辞儀をしている古代狼族の冒険者。

 近くを鋭い目つきで睨む小柄な猫獣人(アンムル)


 あの辺りを見ると、人族の国とそう変わらないと分かる。


 反対側では大柄の豹獣人(セバーカ)の戦士と商人が歩く。

 正面には、四剣を腰に差して背中に弓を備えた猫獣人(アンムル)が練り歩きつつ視線を巡らせている。


 一発で、闇ギルド関係の仕事人と分かった猫獣人(アンムル)

 

 通りの端では、古代狼族の衛兵と一般住民が何か言い争って喧嘩になりそうだった。

 度量衡の違いか分からないが、金貨と銀貨の数え間違いのようだ。


 俺もよくある。


 隊商のエルフたちはそんな言い争う様子を笑いながら見ていた。

 頬には、ブーメランのようなマークがある。

 鳥かな?


 続いて通りを歩く傭兵っぽい集団が現れた。 

 ドレッドヘアのドワーフたちだ。

 

 イグを思い出す。

 そういえば、イグとアルベルトと似た者が馬車に乗っていたような覚えがあるが……。

 スコラのパーティーに入っているだろうし気のせいか。

 

 ドレッドヘアの集団は、何か依頼を失敗したのか、すごすごとした様子で、隅にある縦長の館に入っていく。


 そんな通りを抜け……。

 幻狼たちに誘われるまま移動した先は……。

 

 神獣ロロディーヌが道に掘った穴だった。

 

 埋め立てることは、まだできていない。

 縦穴は深いから当然か。

 手前には看板と柵が設置され、衛兵も立っている。

 そんな柵を通り抜けていく半透明な幻狼たち。


 月狼環ノ槍の穂先から出現が続く幻狼たちは穴に向けて一気呵成になだれ込んでいく――。


 喩えが悪いが地獄の亀裂に誘い込む亡者の腕にも見えた。

 頭を振る。


 すると、相棒が、黒猫から黒豹の姿へと変身した。


「ンン――」


 黒豹(ロロ)は幻狼の親子と遊びつつ、柵を見ると軽やかに跳躍し跳び越える。

 そして、縦穴の縁に前足から着地した。

 ロロディーヌは縁から穴を覗かずに膂力のある後脚の先で、穴の縁を蹴って高く跳躍――。

 

 宙空で身を捻りながら、穴の中へと頭部を差し向けて突入していく。

 一瞬で長い尻尾が見えなくなった。

 

 通りを行き交う人々から歓声がわく。

 ざわざわ……ざわざわ……。


 通りの方々には、ライオンが炎の輪を潜るようなサーカスにでも見えたんだろう。

 ま、騒ぎは衛兵たちに任せるとして……。

 紅玉環に魔力を通しアドゥムブラリの額にAを刻む。

 <ザイムの闇炎>を発生させながら、にこやかさを意識し衛兵に挨拶してから柵を乗り越えた。


 跳び箱を跳び越えたような着地! 

 そして、風槍流『片切り羽根』のステップから<刺突>!

 という意気込みの前進――左肩でショルダータックルでもするような構えから穴の縁の出っ張りを蹴って高く跳躍した。

 宙で<ザイムの闇炎>が全身を瞬く間に包む――。

 刹那、セーフハウスに居るジョディを意識した。


 彼女の蹴り技を参考に左足を斜め下に突き出す――。

 この蹴りに命名をするなら、ジョディ・キック!

 そのジョディ・キックの左足で、風を、空間を、突っ切るように落下した。


 突き出した左足へと闇炎を集結させていくと――。


 移り変わる視界は穴の内側と底となった。

 そのまま左足に纏う闇炎が穴の底に溜まった枯れ葉群を焦がしながら底を潰すように着地――。

 

 ドッとした鈍い衝撃音が響く――。

 俺を基点に闇炎を乗せた魔風が波を起こすように周囲に広がった――。

 枯れ葉たちが魔法陣の外枠を描くように焼失し、反響と共に枯れ葉たちは塵となる。

 

 ――これはこれで必殺技っぽい、なと……。

 周囲を見た……広さは前回と変わらない。

 

 ――少し湿った空気感。


「にゃ~」


 と鳴く相棒。

 切り裂いた渓谷のような場所に立つ黒豹姿のロロディーヌさんだ。

 前のように黒豹(ロロ)の鼻に枯れ葉はついていない。

 

 視線を上げて……崩れたような断層の鉱脈を見ていった。

 月の女神様たちの幻影は現れない。


 ウィンドウの四角い枠に変化したモノは不思議だった。

 ハイグリアは『方樹槍』と語っていたな。

 そのウィンドウの中に映った双月神ウラニリ様は……。

 傷が多く痛々しかった。

 だが、双月神ウリオウ様の小月の神様は綺麗だったなぁ。


 小月の女神様のおっぱい様は忘れない。

 ――南無。

 と、お祈りをしておこう。


 俺が両手を合わせて「なーむー」と祈っていると……。

 黒豹姿の相棒が黒豆のような触手で俺の鼻をツンツンと突いてくる。

 そんな黒豆型の触手を寄越した相棒と視線が合うと、


「ンン、にゃ」


 と鳴いてから頭部を洞穴に向けた。

 走リ続けている幻狼たちが気になるようだな。

 

 黒豹(ロロ)は追い掛けていった。

 あの長い尻尾を傘の柄のように立てた動きから楽しんでいると分かる。

 

 すると、


 紅玉環から小さい単眼の半分を出しているアドゥムブラリが、


「よぉ、主! 敵はどこだ?」


 と、聞いてきた。

 紅玉環が微妙に粘土のように変化して小さい口のように変化している。

 クレイアニメのような面白い造形の指環だ。

 

「いや、敵ではないから気にするな」


 小さいアドゥムにそう発言。

 アドゥムブラリは紅玉環の中に戻りながら闇炎を縺れさせるように収斂させていく――。


 俺は再び月狼環ノ槍を見る。

 依然として穂先から出現が続く幻狼たちに向け、『地下に誘うとかはないよな?』と心で語りかけるが……。


 勿論、幻狼たちは答えない。

 逆に月狼環ノ槍は振動が強まった。


 金属の環も揺れて共鳴するように「カッカラ、カッカラ」と金属音を打ち鳴らす。

 魔槍杖バルドークの不気味なカラカラとした嗤い声ではない。


 棟に並ぶ金属の環は揺れに揺れる。

 錫杖の頭部にある遊環が奏でる音と似ている?

 智慧を宿らせるような音にも感じた。

 

 胸元のホルカーの欠片よりも激しい揺れだ。


 この振動具合だと戦う時に苦労しそうだ。

 神槍ガンジスも直撃させた際に穂先が振動を起こしてアイテム破壊効果を生むが……。


 この月狼環ノ槍は全体だからな。


 地下を徘徊するモンスターたちと戦うことになったら……。

 魔槍杖か、神槍か、聖槍アロステを出すか?

 魔槍グドルルと雷式ラ・ドオラは控えだ。

 新しいコツェンツアの魔槍もあるが、魔印が何処に刻まれるのか分からないし痛みを味わうのもな。

 あそこに刻まれたらトラウマになるし。

 

 そして、俺には血魔剣も鋼の柄巻もある。


 ヤバイ相手ならヘルメの代わりに百目血鬼を出せばいい。

 槍と剣を組み合わせた独自の武術の実戦訓練もいいかもしれない。

 

 そんな考えのもと、幻狼たちに導かれるように走った――。

 が、あれ、相棒だ。

 俺もすぐに足を止めた。

 相棒は一生懸命に〝ここ掘れワンワン〟といったように爪研ぎを行っている。


 じゃりじゃりと激しい音を立てつつ壁を削る神獣(ロロ)の爪。

 足下に砂利が溜まっていく。


 そのうち、足下が滑りそうだな。


「転ぶなよ?」

「にゃごぉ」


 と、興奮している。

 

 そんな後脚で立つロロディーヌの姿は、ザ・黒豹という姿。

 後脚の筋肉はしなやかなと凜々しさを合わせ持つ。


 そして、背中の黒毛ちゃんには黒曜石のような光沢を持った美しさがある。

 だが、興奮しているように荒い息だし肉食獣の雰囲気だった。


 月狼環ノ槍から出現が続く幻狼たちは黒豹(ロロ)が削る壁の中に消えていく。

 

 ――そんな壁を凝視。

 砂利と大粒の石が混合した綺麗な断層模様……あ、ここは……。

 巨大銀狼と白狼たちの幻影が消えていった壁だ!


 あの時、月の女神様たちと違ってハイグリアを含めて皆が見えていなかった現象。


 壁は黒豹(ロロ)が削る以前に凹凸が激しい。

 表面が湿っているのも変わらない。


「相棒、ここは……」


 俺の声を聞いた黒豹(ロロ)は爪研ぎを止めた。

 前と同じく、ふがふがと、壁の匂いを嗅いでいく。


「……まさか」


 神獣の黒豹(ロロ)だ。

 前回といい、ゼレナード討伐といい、アルデルの聖杯伝説といい、すべてが繋がっている?

 今度こそ、鼻に、聖杯のような何かを付着させているのかもしれない。


 振り向く黒豹(ロロ)さん。


「にゃお?」


 淡い期待を持ったが、ドヤ顔気味の黒豹(ロロ)だった。

 前と同じく『この壁、土臭いにゃ~』という感じでもあるが。

 そして、濡れた鼻をピンク色の舌で舐めていた。

 

 紅色の虹彩とつぶらな黒色の瞳で俺を見つめてくる。

 くっ、可愛い。


「幻狼たちは壁の中に消えていくが、ロロは前と同じで鼻が濡れただけか?」


 と笑いながら相棒を見る。


「ンン、にゃ」


 と相棒の返事の鳴き声を聞いた直後――。

 月狼環ノ槍が自動的に俺から離れた――。


 幻狼たちが消えていく壁に、その大刀の穂先が向かう。

 巨大なケーキに入刀でもするかのように、壁に刺さり滑り込んだ。


 大刀の穂先が根元まで深く刺さった時、壁から重低音が響き渡り、縦に巨大な亀裂が走る。

 

 その亀裂から――まばゆい閃光が発生した。

 一瞬、俺は目を守ろうと――眼前に片手を上げる。


 すると、目の前の壁が半透明に変化し、青白い炎が壁を包んだ。

 その燃え上がる壁が溶け、シュァァと耳障りな蒸発めいた音が発生。


 続けて青白い炎が周囲の壁に燃え移る。

 いや、燃えるというより浸食か?

 ジュァァと変で不可解な音も立て続けに響く。


 青白い炎が浸食した壁に無数のひび割れが起こる。

 壁の層の一部が剥がれ落ちていくと、僅かに露出した神々しい鉱脈層が、波を起こすようにうねり上がった。刹那、何かの断末魔の悲鳴のような音が壁という壁から轟く。


 突き刺さった月狼環ノ槍が宙に残る形で青白い炎と共に壁は消えた。


 ――え?


 壁は完全に消えたが……。

 眼前に圧倒的に広い空間が出現していた。


 あらかじめ事前に壁の中に設置されていたかのような巨大な空間だ。

 

 奥行きもあるし……地底遺跡か?


 その奥の間で無数の幻狼たちが後脚を揃えた『エジプト座り』のような姿勢で俺たちを見据えている。

 並ぶ幻狼たちは、一匹一匹に個性があった。


 シベリアンハスキーにも似ている狼さんたちだ。

 神々しさを感じた。


 すると、ロロが黒豹から黒猫の姿に縮小させる。

 黒猫の姿に戻った相棒は、


「ンン、にゃおぉ~」


 と、幻狼たちに挨拶している。

 そのまま幻狼たちの下へとトコトコと歩いていった。


 俺は眼前に漂う月狼環ノ槍を右手で掴む。


 柄から出ている無数のルーン文字を確認……。

 文字の点滅が速まると片腕の皮膚を撫でるように、腕の表面を回り螺旋を描きながら上昇。


 それは蛇が樹を登るような滑らかな動き。

 瞬時に点滅したルーン文字は二の腕に巻き付く。

 文字の一つ一つは小さいし半透明だが……。

 その形は光輪防具(アーバー)のような盛り上がる防具にも見えた。


 そのままとぐろを巻きつつ肩から出るルーン文字。

 俺の右耳を撫でるように、前髪と横の髪を揺らして頭部を突き抜けた。

 少し、スカッとするような爽快感を得た。


 三日月の大刀の穂先からの幻狼たちの出現も続く。

 既に待っていた幻狼たちの横に並んではシュッと消えていく。 

 幻狼たちは延々と増え続けているわけじゃないようだ。


 風のようなルーン文字を発生させるし、振動するし、金属の環は音を鳴らすし、幻狼を出すし……。

 本当に不思議な月狼環ノ槍だ……。

 その槍を携えながら先をいく相棒を見た。

 黒猫(ロロ)も不思議そうに足を止めて周囲を見ている。

 

 俺も遺跡というか古代神殿の空間を見ながら……。

 

「お邪魔します……」


 と声を出しつつ空間に足を踏み入れた。

 その直後――。

 奥の間にスポットライトのような光が生まれた。

 天井は暗がりでよく見えないが……神々しい。

 同時に、高位な存在からの優しげな、ふんわりとしたほどよいプレッシャーを感じた。

 身が引き締まる思いを得た直後――。


 腰の奥義書でもある〝魔軍夜行ノ槍業〟が反応するように縮こまる。

 こことは相性が悪いようだな。

 血魔剣にはあまり変化はない。


 構わず進む。

 俺を待っていたように左右にずらりと並ぶ幻狼たちの間を通った……。


 俺が通ると幻狼たちの瞳が輝く。

 透き通るような声音の遠吠えだ。

 余韻が残り、心が洗われるような感覚を得た。

 同時にデボンチッチのような気配を感じる。

 俺の視界にはデボンチッチはいないが……。


 それに、この遠吠え……どっかで聞いた覚えがある。

 たまたまだと思うが最初のローゼスの精神世界だ。

 そんな昔の出来事を思い出しながら、奥の間のスポットライトの明かりに向けて歩く。

 短い距離だと思うが……。

 長く歩いたような感覚を得た末に辿り着いた神殿の奥の間には……。


 スポットライトを浴びていた半透明で全身から輝きを発している古代狼族の男性がいた。

 しかし、心臓と腹は輝いていない。

 

 毒々しい傷があるようだ。

 傷を負った古代狼族の幽霊さんか。

 やはり、この月狼環ノ槍と関係するアルデルさんだろうか。

 まずは普通に、

 

「……幽霊さんですか?」


 と、尋ねる。


「……月狼環ノ槍に選ばれし槍使いよ、こちらに来るのだ」


 古代狼族の男性はエコーの掛かった渋い声で俺を呼ぶ。

 ここで踵を返すとかやって無視して帰ったらどうなるんだろう。

 

 と、気まぐれを起こす。

 だがしかし、そんなことをしたら可哀想だ。


 我慢した。

 

 古代狼族の幽霊さんの下へと近づいていく。


 幽霊の古代狼族さんは厳つい表情だ。

 腹と心臓の傷が、リアルにどす黒く汚れていた。

 ハイグリアやヒヨリミ様は……『旧神ゴ・ラードや白色の貴婦人から小月ウリオウ様の聖杯を守るため、自らの身を犠牲とし、呪いの聖杯を逆に作ってしまったアルデル』と話を聞かせてくれた。


 その結果、ヒヨリミ様の扱う聖杯が呪われたとか。

 しかし、それ以外の衣裳は半透明だが普通にカッコイイ。

 

 高級将校と分かる。

 狼将専用の戦闘用の爪式獣鎧だろうな。


 ラ・ケラーダを心の中で思いながら、


「どうも初めまして……アルデルさんでしょうか」


 と、丁寧な態度を意識しながら聞いた。


「そうだ」


 渋い声音が耳朶を震わせる。

 俺は即座に半透明な古代狼族の男性ことアルデルさんに向けて地面に片膝を突いて丁寧に頭を下げた。


「にゃ」


 相棒も挨拶。

 俺の行動に合わせてスフィンクス座りを実行する相棒ちゃん。

 頭部を下げているようにも見える。


 珍しい、ゴロにゃんこはしない。

 

「槍使いと、黒猫よ。顔を見せるのだ」


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