五百二十五話 蒼炎の鎮魂歌
「ゼレナードは倒した」
「よくぞ倒してくれた。我を苦しみから解放してくれたのだな。高位魔力、いや、我が救世主……」
否定はしない。
彼女の身を思えば、な……。
そして、彼女に効くか不明だが……。
アイテムボックスから聖花の透水珠を取り出した。
「聖花の透水珠もあるが……」
「高位魔力層シュウヤよ。神聖回復薬であろうと無駄だ」
「そうなのか……神級の規模の回復薬なんだが……」
「使うのは自由だが、無駄だ。我の姿を見れば分かるだろう……」
すると、
「にゃおおおお~」
偽宝玉システマごと、俺たちの頭上を通り過ぎていく神獣ロロディーヌ。
そのまま明滅していた長方形の魔神具に向かう。
背後から現れた神獣の姿を確認したヴィーネとユイとジョディが手を振っていた。
リサナは俺の背後だ。
波群瓢箪をお立ち台に見立てて、見事な扇子のダンスを披露していた。
「おーい」
「ンン――」
俺の呼び声に喉声を発して応えると宙で反転するロロディーヌ。
「きゃぁぁ」
「ひぃぃぃ」
ロロディーヌに乗っていた血獣隊の面々から悲鳴が聞こえた。
彼女たちの体には触手と黒毛が絡まっているから大丈夫だが……。
皆、逆さまとなっていた。
墓掘り人たちは平気なようだ。
しかし、相棒よ。
皆を背に乗せたままの宙返りはさすがにやりすぎだ……。
ロロディーヌは両翼を畳みつつ低空飛行を行う――。
楽しそうに飛ぶ相棒は、偽宝玉システマのモニュメント群にぶつからないように――。
気を付けながらの、足先で、地面を掴むように着地を敢行――。
着地の際に衝撃波のような突風が駆け抜けていった。
勿論、転がっていた小さい恐竜や魔兵士たちの死体が吹き飛んでいく。
相棒は触手に絡んだ皆を下ろしていった。
その瞬間、上空のヘルメが、
「閣下、ここも戦場でしたか!」
と、叫ぶ。
群青色を基調としたコスチュームが似合う。
そのコスチュームが、更に冴えたようにも見えるぐらいに、水の羽衣は光を帯びている。
虹色の煌めきを放っていた。
そして、背中から水飛沫の翼を発生させている。
常闇の水精霊ヘルメらしい姿だ。
左右の手は蒼色の繭で包まれている。
片方は闇ではなかった。
両手の繭から『モジホコリ』の変形体風の霜が発生していた。
その粘菌風の霜たちは粘菌の輸送ネットワークが構築したような小道群にも見える。
<珠瑠の紐>の紐の力の一部も混ざっていそうだ。
瞬時に、その粘菌染みた知性を持つような霜の周囲に氷槍を無数に作るヘルメ。
それらの氷槍は一気呵成に下に向かう――。
氷槍の雨は小さい恐竜と魔兵士の残党を正確に打ち抜いていった。
「ヘルメ。そのまま宙からモンスターの掃討を頼む」
「お任せください!」
「シュウヤ様、わたしも周囲を警戒します」
「光と闇の運び手様! 十七高手の一人、ジュカの技を見てください――」
キサラとジュカさんは神獣の背中から跳躍し飛翔していた。
二人は一つの大きなモニュメントの近くに着地。
モニュメントの右から回り込んだキサラは小さい恐竜を攻撃――。
ダモアヌンの魔槍で小さい恐竜の頭蓋を突き刺していた。
左から回ったジュカさんもキサラのダモアヌンの魔槍で、頭蓋が消し飛んでいる小さい恐竜だったモノの下腹部を金属棒でぶち抜いている。
その可憐な二人の長柄武器が地面でクロス――。
「ふふ、ジュカ姉」
「キサラ、変わりませんね」
キサラは修道女風の衣裳に返り血を浴びながら笑っている。
ジュカさんも応えて微笑む。
そのキサラは唇付近の返り血を舌で悩ましく舐めてから――。
「当然です」
と、小さい恐竜の死体を蹴るようにダモアヌンの魔槍を引き抜く。
その引き抜いたダモアヌンの魔槍を縦回転させ自らも反転。
脇にダモアヌンの魔槍を抱える。
そして、地面を蹴って斜め前に駆けると、ジュカさんとアイコンタクト。
そのまま前傾姿勢で標的を探すキサラ。
走りながら黒色のアイマスクを鷲の嘴のような兜に変形させた。
額のサークレットを光らせたジュカさんも、そのキサラの槍機動に合わせるように駆けていく。
ボーイッシュな髪形が似合うジュカさんの武器は金属製の棍。
両手持ちスタイル。
下段に傾けた棍の先端をぐるぐると回し始めた。
次々と小さい恐竜たちを、その棍に衝突させつつ潰し倒していった。
更に、黒色の血飛沫を周囲に散らし弾き飛ばしていく。
あの棍さばきは黒魔女教団で育っただけはある。
中国武術の『瘋魔棍』の動作に少し似ていた。
髑髏と十字が絡み合うピアスから魔力が出ているし可憐だ。
四天魔女キサラは背中をジュカさんに預けていた。
二人の槍使いの挙動は俺の知らない歩法と武術が随所にあった。
デコルテの鎖骨が悩ましい。
が、双丘さんは、もっと悩ましい。
二人とも、芸術は爆発だ――の如く、見事に揺れている。
爆発しちゃ困るが。
華麗な黒魔女教団の槍武術……。
なんか、うずうずとしてくる。
嫉妬と似た感情だ。
二人の連係武術はそれほどに洗練されている。
黒魔女教団の武術か……偉大な武術と歴史を感じた。
いかん、『ラ・ケラーダ』を意識しなければ。
それにレベッカが蒼炎ハンマーを肩に用意しているし、気をつけないと。
「ひゅ~! これまた可憐ですげぇ槍使いの魔女さんたちだ。ここは素直に神獣様や眷属様たちと同じく精霊様と黒魔女教団にお任せしますか! 俺はラファエル殿が持つ額縁が気になる――」
ツアンだ。
ラファエルの近くで浮く魂王の額縁に近づいていく。
偽宝玉システマより、気になるようだ。
まぁ、当然か。
単眼種族のユーンも新たに加わっているし。
『アルチンボルド』風の果物や動物が合わさった玩具の立体絵だしな。
すると、
「ここがわたしの夢に登場してきた都市なの?」
と、神獣の後頭部から周囲を見ていたミスティが俺にそう聞きながら降り立った。
「たぶんな。偽宝玉システマは死にそうだから見てやってくれ」
金属が得意なら何か突破口があるかもしれない。
「うん――」
新型魔導人形のゼクスも浮いている。
ミスティは歩きながら、側に戻ってきたヴィーネとユイに視線を向けて「お待たせ」と軽く挨拶していた。
<筆頭従者長>同士、頷き合う。
ミスティは偽宝玉システマの下にすたすたと歩いていった。
「本当に頭部だけなのね……」
と、喋りながら頭部だけ出ているモニュメントの下へと向かうミスティ。
相棒は皆を下ろすと、黒猫の姿に変身。
俺の足下に駆け寄ってくる。
「え? 黒猫ちゃんに!?」
ラファエルが驚く。
野性味さえ感じる巨大な神獣から、いきなりの子猫だからな。
ギャップ萌えか。
ラファエルとダブルフェイスはもう自由の身だ。
すると、ママニとバーレンティンたちが、ダブルフェイスに会釈。
ラファエルにも挨拶していた。
そして、警邏活動に出たキサラとヘルメの行動に倣おうとした。
しかし、ママニが、
「ご主人様からの指示はない。まずは報告を優先する――」
と、血獣隊の隊長らしく渋く発言。
アシュラムを背中に装着し直し、素早く俺の下に駆け寄ってくる。
――片膝で地面を貫く。
ドッと地面から音が立った。
虎獣人としての気合いが感じられた。
血のオーラも彼女から出ているし、沸騎士たち以上の気合いだ。
ママニの行動を見た墓掘り人たちも頷き合う。
と、俺の側に走り寄ってきた。
皆、頭を下げてくる。
一方、黒猫に視線を向けていたラファエルはツアンの質問に答えながら……。
「円盤武器を扱う虎獣人の美人さんも部下なのか!」
と、発言。
続けて、バーレンティンたちを見て鼻息を荒くして、
「端正な顔立ちのダークエルフも居る! 腐肉剣士と屈強そうな顎髭怪人まで! アイシャドウと紺碧の睨みが美しい女性も小さい円盤武器を扱うんだ。こんな怖そうなメンバーを従えるシュウヤって、実はお偉い様なのか!」
ラファエルは興奮している。
「……主にふさわしいメンバーのようだ」
ダブルフェイスの方は『当然だろう』とニヒルに微笑む。
俺のことを値踏みするような面だ。
そのダブルフェイスは俺に頭を下げると、墓掘り人たちの行動と合わせるように片膝で地面を突いてくる。
ラファエルは盾のドザンをしまい、
「あ、なら僕も――」
と、片膝を地面に突けてきた。
「ラファエルとダブルフェイスはいちいち真似しなくていい。皆も楽にしてくれ、ここはまだ戦場だ」
「はいッ、では――」
と、ママニは立ち上がり、
「――ご主人様、すでに報告を受けていると思いますが、地上はほぼ制圧完了です」
「了解した。ママニ、戦場での的確な指示は見ていたぞ。立派だった。バーレンティンたちもがんばってくれたようだな」
バーレンティンたちも立ち上がる。
「数が数だけに結果を残せてよかった……」
ママニはそう発言しながら……。
氷の女王的な氷槍無双を起こしているヘルメを見て、「やはり精霊様と――」
バーレンティンを見て、
「このバーレンティン殿の活躍が目立っていました」
「当然のことをしたまで」
と、謙遜するバーレンティン。
「主! 見て、敵の中にこんな魔導書の紙片が重なった不思議な鎧を装備していた弓使いがいたの」
と、イセスが自慢げに鎧を見せてくる。
「防御力が不安そうだが、対魔法鎧ってところか」
「一見すると薄着だから、破れそうだけど、物理も魔法もかなり防いでいた優秀な装備品よ。バーレンティンの闇百弩系の力も通じなかったし」
「そりゃ凄いが、イセスが無事でなによりだ」
「ちょ、口説く気?」
「なぜそうなる。ま、今は地上戦の感想よりもミスティの様子を見ようか」
「はい」
「了解」
「はッ」
ロゼバトフさんとキースさんも頭を下げて返事を寄越す。
「これが……魔神具で塔」
ミスティではなくレベッカの声だ。
レベッカは蒼炎を身に纏いながらナナを胸元で抱き、巨大な魔神具を見上げていた。
ナナはじっと動かない。
ヴィーネとジョディとリサナは、そのレベッカに「塔ではないようです。魔神具の一部」と話をしていた。
彼女たちはここに来るまでの戦いをレベッカに話して、レベッカからは地上戦の様子を聞いて情報交換していく。
そして、戦っているキサラとジュカさんにも話しかけていく。
一方、肝心のミスティは、
「あなたがギュスターブ? 夢に出てきた魔導人形?」
と尋ねている。
ドキドキしていそうな、ゆっくりとした口調だった。
ところが、偽宝玉システマは近くに居るミスティと魔導人形のゼクスより……。
圧倒的な氷槍無双を起こしている精霊のヘルメの存在に驚愕していた。
「……夢? 今も寒さを感じる夢寐のような出来事だが……」
と、発言し……。
ミスティの頭部を凝視する偽宝玉システマ。
「ん? 汝の、その額の魔印! そうか、そこの未知の魔導人形は!」
驚く偽宝玉システマ。
「そう。わたしの名はミスティ、ミスティ・ギュスターブ。この新型魔導人形は、シュウヤとわたしと、皆の協力を得て、一から造り上げたんだ」
「高位魔力層シュウヤ! どういうことだ」
偽宝玉システマは嬉々とした大声をあげた。
「幻術じゃないから安心しろ」
俺の声を聞いた偽宝玉システマは、鼻と口から血を流しつつも力強く頷く。
そして、再び、ミスティを凝視する。
「……ギュスターブとしての魔印……一族は生きていたのか!」
皮肉にも、マグルを嫌っていたようだが……。
「総領主といっても、すべての民の行動を把握していたわけではないのだろう」
「確かに、その通りだが……死を前にしてなんという……」
「地上に出ていたギュスターブの血脈がいたってことだ」
「うん。あなたのような特別そうな魔眼と金属と、石と体に同一化を促すような能力はないけどね」
「……これはゼレナード&アドホックが改造したせいだ」
「あ、ごめんなさい」
「気にするな、同胞、いや子孫よ」
「はい、ご先祖様」
「ふふふ、しかし、ギュスターブとしての血は薄まっているようだな」
「地上で暮らしていましたから」
「マグルか。しかし、その魔印は確固たるギュスターブとしての証明……嬉しいぞ……機械仕掛けの神様と魔神ルクサード様よ……感謝」
血の涙を流す偽宝玉システマ。
しかし、彼女の頬の張りが徐々に失われて弛緩し衰えていく。
「ご先祖様に比べたら、血は薄いと思うけど……この額を刻む〝魔印〟の力は、しっかりと受け継いでいると思う」
「うむうむ。そこの魔導人形を見れば分かる。我らの力の一部を凝縮したような未知の魔導人形。善くぞ造れたものだ! あっぱれである……しかし、しかしだ!」
偽宝玉システマは嬉々とした感じだが……。
「はい?」
「生きていたことが重要だ。子孫よ、善くぞ生きていてくれた! 我の子孫……名は……」
「ミスティよ」
「そうか、ミスティ! フハハハハハッ!」
ミスティの名を叫んで、呵々大笑する偽宝玉システマ。
そして、血塗れの目をカッと見開く。
「――我、ここで死すとも、悔いは無し!」
その途端、モニュメントの右端に亀裂が走る。
すぐにミスティが右手を出して亀裂を塞ごうとした。
しかし、偽宝玉システマは頭部を左右に揺らして、
「否、子孫よ。金属を合わせたところで無駄だ」
と喋り、ミスティの行動を止める。
ミスティは泣きながら、
「え、でも……」
と呟くミスティ。
その間にも、頭部以外の偽宝玉システマの表面に亀裂が走る。
亀裂は裂け目に拡大すると、裂け目は溶けるように崩壊していく。
そうして……偽宝玉システマの頭部だけが、まるまる露出した。
だが、片方の眼が破裂するように禍々しい魔力を出すと、しゅうっと音を立てて腐ってしまう。
「そ、そんな……」
頭部の下は肋骨と脊髄の一部のみ。
浮いている。
「……魔導粘液が多少もったか。朽ちた体だが、この奇跡的に残った星魔樹稜骨とイシュラの魔眼の欠片、は、まだ使えるはず。下の星魔鋼と極大魔石の塊も使えるはずだ。その魔導人形に移植すればいい……」
そう語る偽宝玉システマ。
脊髄に枯れた枝のような血管が絡んでいる。
枯れた枝の群れと点滅をくり返す肋骨と大きな鋼の心臓があった。
肋骨と鋼の心臓付近に極大魔石が幾つか嵌まっている。
足はない。
しかし、
「だからか……」
と、聖花の透水珠を見ながら呟いた。
「そうだ。それをかけていたら、我はもっと早く死んでいたかもしれぬ。その逆もまた然り」
俺の聖花の透水珠を優しげに見ながら意味ありげに呟く偽宝玉システマ。
更に、
「シュウヤよ、その優しさは罪となる場合もあると知れ……」
そう語る偽宝玉システマ。
罪か。地獄の日々と語っていた。
それが答えか……深くは追及しまい。
彼女の下の塊がインゴット状態となった。
そのインゴットに水滴が垂れていく。
……ミスティの涙だ。
「うう」
「……泣くな、ゼレナードが死んだことで、我の死は確定していたのだ。もう昔の我には戻れない。長く生きすぎた、魔力も消費され、大半が朽ちているのだからな。手の施しようはないのだ……ミスティよ……」
「……ご先祖様……」
「泣くな! ミスティ・ギュスターブ!」
「だって、せっかく……」
偽宝玉システマは……微笑む。
「……ミスティよ、強くなれ。ギュスターブの一族は汝に掛かっているのだ。いや、もう高位魔力層シュウヤの種の範疇か。どちらにせよ僥倖だ……アマハークの魔印は永遠なり! ギュスターブは永遠なり!」
そう叫んだ直後――。
偽宝玉システマの美しい頭部が粘土状に変化し一気に萎れていく。
……頭部が半ミイラと化した。
その半ミイラ化した頭部も――魔眼の欠片を残し、砂粒となって消えた。
樹のような骨の一部と魔眼が落下する。
ミスティは嗚咽しながらも、俺と視線を合わせた。
……ミスティは微かに頭を振る。
「……マスター、ごめん……少し一人にさせて……」
「分かった」
「ンン」
ミスティの足に頭部を寄せていた黒猫。
ミスティはなにもしない。
「相棒」
と、呼んでから、俺は顎先で肩に来いと指示を出す。
悲しげな相棒はコクッと首を縦に動かす。
そして、俺の肩に戻ってくると、頬を舐めてくれた。
舌によっての頬の感触は冷たく感じる。
俺は皆を見て、
「ご主人様……」
黙って頷いた。
そのまま涙を流していたヴィーネを抱き寄せてから、一緒にユイとレベッカの下に歩いていく。
涙を流していたレベッカはナナを寝かしつけるように小声で子守歌を……。
そして、眩い蒼炎弾が鎮魂歌を奏でるように微かな音を立てていた。
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