五百二十二話 シュレゴス・ロードの魔印
「あなた様と皆様方は、休憩をしていてくださいね~」
「おう、無理するなよ。モニュメントは壊さないように」
「はい」
神獣からもらった焼き肉を咀嚼しながらジョディの戦いを見学していく。
そこに、
『ハハハッ、ハハハハッ! 血肉、血肉祭りぞ!』
〝ザ・ハイテンション・ガール・サラテン〟
という映画のタイトルがつくような思念をサラテンが飛ばしてくる。
虹色と墨色のオーラを纏う神剣サラテンはジョディをフォロー。
その際、小さい爪楊枝がジョディの近くに移動してジョディと挨拶。
白色の毛が可愛い鼬のイターシャだ。
神剣サラテンはジョディの背後に向かう。
ジョディを奇襲しようとした大柄の魔兵士たちの頭部ごと胴体を貫く。
『刺さってたまるか!』と、サラテンは叫ぶように思念を発して、地面に突き刺さらず反転し、再び、高く飛翔すると『ぬぬぬ』と唸った思念を飛ばした。
ぷるぷると震えてから『浮気者のイターシャ、戻るのじゃ!』と思念を飛ばす。
『ハイ!』
と、返事をしたイターシャは、白色の鼬の姿から爪楊枝風の虹色の小さい剣に体を戻しながら神剣サラテンの下に戻った。
神剣サラテンは随分と遠くまで進んでいたようだ。
血飛沫を周囲に散らしながら俺たちの下に飛翔してくる。
俺はそのサラテンに『戻ってこい』と思念を送ろうとしたが――。
淡い虹色と墨汁のような汁? 蛸の足の幻影?
神剣サラテンは何か得体の知れないモノを纏っている。
神剣サラテンの柄に小判鮫のように張り付いたイターシャではない。
一瞬、左手に納めて大丈夫か?
と、疑問に思ったが、無事に戻ってきたようだし、仕方がない。
蛍光と黒が交互に点滅をくり返している神剣サラテンに『――戻ってこい!』と強く念じながら左手を翳す――。
あれ、すんなりと、掌の中に納まる。
サラテンがよゐこ?
少し、混乱した俺だが、その瞬間――。
左手から魔力と血が全身に衝撃を伴うほどの勢いで、巡る。
『器よ。妾の今宵の成果を、とくと、堪能するがよいぞ――』
『サラテュンさまぁ、よからぬものをお漏らし!』
どくん、どくんと、心臓が強く高鳴った――。
こ、これ、サラテンが奪った魔力と血か?
――左手に強烈な痛みが走った。
前に掲げていた左の掌を返しながらサラテンが納まる瞼の傷を見る――。
仏の瞼のような傷の回りに……。
虹色の極めて、小さい蛸の足にも見えるマークが刻まれてあった。
虹色で極めて小さいが、濃密な魔力がマークに内包されている。
質量が詰まったブラックホールというような魔力。
――こりゃ、呪いか?
魔力は瞬時にマークの奥の奥に沈み込むような感覚を受けた。
マークの表面から魔力は失せる。
その瞬間――。
※ピコーン※称号:シュレゴスの支配者ヲ討伐セシ者※を獲得※
※称号:覇槍ノ魔雄※と※シュレゴスの支配者ヲ討伐セシ者※が統合サレ変化します※
※称号:覇槍神魔ノ奇想※を獲得。
※<シュレゴス・ロードの魔印>※恒久スキル獲得※
※<神剣・三叉法具サラテン>※恒久スキル獲得※
※<魔印使い>の条件が満たされました※
※<瞑水使い>の条件が満たされました※
※戦闘職業クラスアップ※
※<魔印使い>と<瞑水使い>が融合し<水瞑の魔印師>へとクラスアップ※
※戦闘職業クラスアップ※
※<霊槍血鎖師>と<水瞑の魔印師>が融合し<霊槍印瞑師>へとクラスアップ※
おお、称号が覇槍神魔ノ奇想に……。
恒久スキルも獲得し、戦闘職業も希少な<霊槍血鎖師>を超えるとは……。
新しい戦闘職業は<霊槍印瞑師>か。
近接の霊槍を軸としながらも、後衛としての魔術師系の能力が飛躍的に高まったから獲得できたのかもしれない。
恒久スキルとして獲得した<シュレゴス・ロードの魔印>と関係するとは思う……。
だとすると、左手の掌に新しくできた極めて小さいマークは<シュレゴス・ロードの魔印>か?
と思ったところで、左手の仏の目のような瞼が少しだけ開くと、震える。
『……ふ、器よ。少し疲れた。眠るぞえ』
微かに笑ったような儚い念話を寄越すサラテン。
『眠る?』
『……そうだ。今後とも、よしなに……じゃ。目が覚めたら沐浴しつつ特別な褥も用意してやろう……器的には、ちゅーじゃ……ありがたく思え……』
サラテン、急激にテンションが低くなっている。
『剣にちゅーはしない。あれ?』
サラテンの反応らしきものが消えた。
新しく獲得した<神剣・三叉法具サラテン>を意識しようとしてもできなかった。
『……大主さま! 本当にサラテュン様が、眠ってしまいまちゅた!』
『イターシャは平気なのか。サラテンはどうして眠った? スキル獲得の効果か』
『分かりまちゅん!』
『……そっか、ま、後で確認だ』
と、口に含んでいた焼き肉を咀嚼していく。
ユイとヴィーネに相棒が俺の姿を見て、
「一瞬だけ虹色と黒色が混じった魔力が左手から出てたけど、シュウヤも何か雰囲気が少し変わった?」
「濃密な魔力を一瞬で取り込んでいるように見えました。もしや成長を?」
「にゃ~」
ロロディーヌだ。
長い尻尾で俺の頭部を撫でてくる。
その尻尾を、指で引っ掛けながら払うと、可愛らしい日向の匂いがした。
ロロディーヌに向けて笑みを意識しながら、
「おう。成長した」
と、話をしてからヴィーネを見て、紫色の唇をチラッと見てから、
「大量の小さい恐竜と魔兵士に、ゼレナードを倒したこともあるとは思うが……大本は、サラテンが倒した小さい恐竜以外にも、何かの大物を倒して、その魔力と血を運んできたようだ」
と、掌にできた<シュレゴス・ロードの魔印>らしきモノを見ながら発言。
「だから、色合いも黒と虹が混じった不思議な色だったのね。地底の奥に棲んでいそうな大怪物を倒したのかな。神剣様は……」
ユイが左手を見ながら語る。
「神剣様も前線より遙か先を飛翔しておられていたようでしたが、ご活躍をなさったのですね」
「地下宮殿の心臓部は、ここだと思うが……奥は深いようだな」
「どちらにせよ。ご主人様の成長は嬉しく思います」
ガドリセスの能力を使用しているヴィーネ。
花嫁が身につけるヴェールのような赤い魔力を靡かせている。
そのヴィーネらしい美しい表情を見ながら頷いた。
そして、銀色の虹彩が薄い血で縁取られているのを確認。
頬の銀色の蝶々のマークも<血魔力>が縁取っていた。
「ヴィーネもスキルを得たのか」
「はい、戦いの途中でしたが」
「わたしもよ」
ユイもか。
さっき彼女の後ろ姿を見て、成長の兆しを感じとったが、やはり成長していたか。
「ンン、にゃ~」
と、鳴いた相棒ちゃん。
さっきから連続して俺の頭部を尻尾で撫でてくる。
尻尾を指で払うのをフェイントで避けると、触手を伸ばしてきた。
また、焼き肉か。
「ロロ、ありがと」
「にゃ~」
「――と、いきなりだな」
俺の鼻を突くように突き出した焼き肉。
鼻に鉄分と焼けた臭いがこびりついたが気にせず……。
がぶっと噛み付く。
味は下味があるわけじゃないし当たり前だが。
……まずい。
しかし、セリュの粉をかけたら、それなりに美味しく食べられるとは、思う。
――が、今はいいか。
と、少しでも力を得るつもりで、ふたたび、肉に噛み付く。
咀嚼していった。いや、これはこれでありか。
ヂヂを食べていた頃から比べたら、贅沢になったな……俺も。
「サラテン様は何を回収したのでしょうか」
と、肉を食べている俺の左手を見ながら聞いてきたのはリサナ。
彼女は波群瓢箪に下半身を納めた状態だ。
「シュレゴスの支配者を倒したようだ。証拠に、俺は<シュレゴス・ロードの魔印>を得た」
「まぁ! 聞いたことがありませんが、この地下空洞と繋がった場所を支配する強者を倒したのですね」
扇子で口元を揺らす。
おっぱいさんも揺れていた。
「そのようだ」
そう喋るリサナの格好を凝視。
坂の地面に突き刺さった波群瓢箪に生える姿。
不思議な三角帽子が似合う。
魔術師風でありながら胴体の半身が半透明。
「ま、今は、俺より戦っているジョディだ」
「はい」
ジョディの戦うところへ視線で、皆を誘導するように向けた。
一方、涙を流して圧倒されていたラファエルは神獣ロロディーヌを見続けている。
「うんうん」と一人満足そうに頷いていたが、そのラファエルにジョディは戦っているんだぞ、と目でアピール。
ラファエルは片方の眉を下げて、分かったような分かっていないような面を寄越す。
アイコンタクトは通じず。
ま、野郎だしな。
と、俺は魔煙草をふかす……体内魔力を活性化させていく。
すると、リサナが、
「ジョディお姉様も凄い! サージュを蹴って遠くに飛ばしたと思ったら、お姉様が消えて瞬時に敵の背後に出現しながら、蹴ったサージュを掴み敵に振り下ろしています」
リサナは興奮しながら解説した。
神獣からもらった焼き肉を食べていくと、ユイが、
「……シュウヤ、本当に、その肉をまた食べるとは思わなかった」
「まあな」
と、ユイの言葉に答えつつ相棒を見る。
ロロディーヌも肉を食べている。
触手の先から出た骨剣に刺さった焼き肉に前足を当てて頭部を横にずらす。
肉を引っ張りながら食べていた。
串に刺さった焼き鳥を食べているように見える。
ところが、前爪が焼き肉に引っかかりぶらりと肉の一部が垂れた焼き肉が、骨剣を軸に勢いよく回り始めた。
ぐるぐると回る焼き肉。
当然、ロロディーヌは目を見開く。
「にゃおお~」
と、鳴きながら、回り続けている焼き肉に向けて反対の前足を衝突させた。
叩かれた焼き肉は鉄棒で大車輪を行うように、骨剣の回りをぐるりぐるりと回る。
「ンン――」
と喉声を出して反応したロロディーヌ。
すぐに、その回った焼き肉を追うように自身の頭部をぐるぐると回し始めた。
――目を回す勢いだ。
そんな相棒の行動を助長させるように、ぐるりぐるりと骨剣の周りを勢いよく回っていく焼き肉君。
その回る焼き鳥を食べようと、口をぱくぱくと動かしながら頭部を回し、焼き肉を追うロロディーヌ――。
カチッと上下の歯牙と顎がぶつかる。
回る焼き肉を上手く食べられない。
「ガルルゥ」
――面白い。
自分で猫じゃらしの遊びをしながら、怒っている?
そんな遊びをする相棒の姿は巨大な神獣。
とはいっても、頭部の輪郭は、巨大な野性味溢れる黒豹に近い。
一対の長耳の裏側は桃色ちゃんだ。
後頭部から背中は、馬のような鬣も自由に生やすことが可能だ。
今の後頭部は短い毛、猫のような黒毛ちゃんたちかな。
俺たち多人数を乗せられるぐらいに相棒は巨大化しているから、ここからでは後頭部は見えない。
胸の正面は獅子かグリフォンかなぁ……。
横幅はグリフォンか、ドラゴン級。
脊椎動物らしい四肢は前にも増して獣らしい立派な筋だが足下に向かうに連れ馬や豹が持つようなシャープさを持つ。
長い尻尾もふさふさした黒毛ちゃんだ。
そして、あの胸元の防御層となる黒毛たちも、一見は筋肉風。
しかし、実は羽毛布団のように柔らかい。
今はそんな頭部をぐるぐると時計回りに回しているから、首筋の筋肉が、獅子風のマッチョマン的に見える。
全身から闇のオーラのように大量に発生させていた触手群は、もう体内に戻していた。
観察していると、結局、揺れた触手ごと、焼き肉を平らげた相棒。
焼き肉をむしゃむしゃと食べていた相棒に向けて、
「相棒の好意は素直に受けるさ、な?」
と、語りかけた。
巨大な相棒は俺の声を聞いて食べるのを止める。
喉をグリフォンのように膨らませながら、にわかに頭部を向けてきた。
――肉を飲み込み中らしい。
同時に、尻尾で筆でも扱うようにユイたちの頭部を撫でていく。
そんな相棒は俺を見続けてくる。
獣然とした無意識としての瞳ではない。
ロロディーヌとしての意思を宿した神獣の視線だ。
――巨大な瞼を閉じて、開く。
可愛らしいネコ科の親愛コミュニケーション。
「大量の敵を倒してくれてありがとうな」
コミュニケーションの仕草を寄越してきた相棒は、俺の言葉を聞いて、口を広げた。
「にゃお~」
ニカッとした表情にも見える。
上下の顎から生えている牙は鋭い。
続けて、相棒は、
「ンン、にゃ~」
と鳴きながら息を吐く――。
ぶぁっと臭い息が俺の前髪を撫でてきた。
うん、凄まじい肉と血が混じった臭いだが、喜んでくれていると分かる。
ユイとヴィーネは、その相棒からの焼き肉を受け取らず。
相棒に抱きついている。
相棒の胸元の毛はふさふさだからな。
ユイとヴィーネは、その柔らかい毛を全身で感じているように、抱きしめを強めている。
美人な二人が神獣を抱く。
絵になるな。
相棒こと、ロロディーヌも<筆頭従者長>たちの行動が嬉しいらしい。
喉元を振動させつつ野太い喉を鳴らして応えつつ……。
ユイとヴィーネの頭部を子供でもあやすように、尻尾を使い撫で撫でしていく。
親猫のような仕草だが、ネコ科らしい行動に変わりはないから、いちいち可愛い。
ラファエルも同じ気持ちらしく、微笑みながら、混ざりたそうに見つめていた。
俺も、あの毛の柔らかさと絹を超えた感触を頬に、いや、体に味わいたい。
が、今は残党狩りを健気に続けているジョディの様子を見学しよう――。
そうして、<光魔ノ蝶徒>に視線を向けた直後――。
ジョディは俺の視線を感じ取ったように動きを速めた。
小さい恐竜と繭と魔兵士を斬りながら前転するジョディ――。
巨大な鎌の棟を地面に衝突させ、その衝突した反動を利用し、身を捻りながら、片方の足を斜め前に出すと、低空を迅速に飛翔する。
それは「ライダーキック」のような蹴りの姿勢。
――和風衣裳が少し乱れているのが、また、カッコイイ。
ジョディの両足の先端はドリルのように尖っているから、あの蹴りを受ける相手は悲惨だな。
そう思った瞬間、その尖ったドリル足が魔兵士の肉鎧の鳩尾に吸い込まれた――。
突き刺さった、敵が吹き飛ぶか? ところが、ジョディの着ている和風衣裳が逆に散る。
え? 素っ裸となったジョディ。
いや、裸じゃないのか。
貝殻水着じゃないが、一瞬、小さい白蛾の下着が見えた。
グラビアアイドル風の格好で、白色の小さい蛾の群れを全身から放出したと思ったら、見事に体を捻り千切れながら螺旋回転しつつ巨大な鎌の刃を振るいまくる――。
大柄の魔兵士の体は一瞬で爆発したように散ったがジョディも悲惨な姿だ。
ところが、白色の蛾とジョディの体を構成していた血肉と骨たちが、一瞬で、逆再生の映像を見るように纏まった。
元の美しいジョディの姿を形成――。
しかし、なんつう技だよ。
姿を元に戻したジョディは、そのまま繭の側に突進する。
繭目掛けサージュを左上から右下へと斜めに振り下ろした。
繭は斜めに切断――。
その断面から、生成途中だった魔兵士の死骸が落ちていく。
どろりとした黒い粘液のようなモノも、ドバッと溢れ出た。
すると、他の魔兵士たちが、
「ヌゴオォ」
「白蛾ヲ、タオセ!」
と、発言しながら、繭の破壊を阻止しようとジョディに襲い掛かる。
「あなたさまに捧げます――♪」
歌のような鼻歌を奏でたジョディ。
低空を縫うように飛翔し、身に迫る剣腕の突きや払いといった斬撃を華麗にリズミカルに避けていく。
踊り歌いながら避けて――標的の魔兵士の懐に潜り込むとサージュを縦に振るう――。
魔兵士の肉鎧を、肩口から足先まで、鎌の刃が一直線に通り抜けていった。
その縦に振り抜いたサージュを素早く返し、大きな鎌刃を急回転させながら真横に振るう――。
やや斜めの十字に分断されていく魔兵士。
悲鳴をあげることなく瞬殺された。
「僕、あの美しく強い鎌使いに縛られて守られていたんだね……」
相棒の焼き肉を拒否していたラファエルだ。
怪しく目を光らせながらそう語る。
ラファエルはジョディの華麗な姿に魅了されたようだ。
男だからな。
あの強烈なダイナマイトボディを間近で見ていたし、仕方ない。
一方、ジョディの機動を見たダブルフェイスは、ユイとヴィーネの制止を振り切り、自らの意思で、小さい恐竜たちと戦うことを選択していた。
小さい恐竜を蹴り飛ばしたダブルフェイス。
俺たちを見て、やおらに、逆手に持った短剣を腰に差し戻すと……。
じりじりと遅れて俺たちの近くに来ると片膝で地面を突く。
「ちょっと、シュウヤならまだしも、わたしたちに頭を下げる必要はないわ」
「いや、帰する所は結局一つ」
「わたしたちにも従うってこと? ひょっとして、わたしに刃を向けたことを気にしているの?」
「そうだ」
「なら、もう気にしないで。わたしだって……お互い様」
ユイは黒い瞳を俺に向ける。
<ベイカラの瞳>を解除したユイの黒い瞳。
それは、悲しげに揺れていた。
何か気になることでもあったのか?
辛そうな表情を一瞬だけ見せる。
その言葉を聞いたダブルフェイスは……。
ユイに冷たい眼差しを向け「……そうだな。愚問だった」と発言。
胸元で両の手を組んで挨拶した。
そして、俺に向けて、
「シュウヤ殿にも深い感謝を。だからこそ、俺の胸に刻まれた白い紋章を取り除いてくれた信頼の証しを見せる――」
そのダブルフェイスは即座に魔闘術を身に纏う。
トンファー使いのデラースも魔力操作はスムーズだったが、彼も凄い。
特に上半身、頭部にかけてかなり繊細に魔力を扱うと、小さい恐竜に向けて魔短剣を<投擲>する――。
小さい恐竜の頭部に突き刺さった魔短剣は、エイリアン風の分厚い頭蓋を溶かすように破壊し貫く。
そのまま突き抜けた魔短剣を遠距離の位置から操作するダブルフェイス。
魔短剣を華麗に扱いながら、耳元からも見たことのない魔力の波動を発していた。
小さい恐竜を見据えながら歩く歩法は、オゼ・サリガン風――。
飛剣流だったかな、少し他の流派も混ざっている印象を受けた。
すると、耳元の魔力の波動と関係があるのか、頬が膨らみ萎む。
「――<蝦蟇法・鳶>」
と、スキルを発動したダブルフェイスは体勢を低くした。
蛙のように短剣を握った両手ごと地面を突くダブルフェイス。
顔の造形が少し変化した?
魔線が喉と首に渦を巻いている?
短剣を持つ両腕と連動しているように凄まじい勢いで、頬と首から魔力が行き交う。
瞬間的に速度が増したダブルフェイス。
短二刀流の機動と呼ぶべき両腕を眼前にクロスした動きから小さい恐竜たちを即座に細切れに処断した――。
浮遊した魔短剣も自身が持つ二つの魔短剣と交換するように連続的に行き交わせながら、他の小さい恐竜たちを切り刻む。
ダブルフェイスの魔線と繋がった周囲の魔短剣たち。
その浮いた魔短剣を蹴りながら飛翔させては、自身も両足を開脚して回転蹴り。
そして、飛翔させていたブーメラン軌道で戻ってくる魔短剣を膨らんだ首の魔力と繋げると、その魔短剣からシャワーのような魔力刃が雨のように小さい恐竜たちに降り注ぐ――。
奇術師が行うトリックを出すような特殊な短剣術を見ると……。
師匠の導魔術とカリィの導魔術を思い出す。
――導魔術系の技術と未知のスキルか。
かなり高レベルな短剣使いだ。
その戦う際の顔つきだが、やはり、少し変わった感じがする。
蛙の力か?
顎と頬と首下にかけてネオンのような光を帯びた魔力の筋が増えている。
カルードの<血相>系スキルだろうか。
見た目はかなりカッコイイ。
だが、ダブルフェイスには悪いが……。
やはりジョディかな――と、華麗なジョディに視線を移す。
飛翔していたジョディだったが、火炎ビームを喰らっていた。
え? さすがに強い奴が混じっていたか。
怒ったジョディが反撃に出た。
先端が尖る両足で空中回し蹴りを繰り出す。
弧を宙に描く軌道の蹴りを、その炎ビームを放った魔兵士に喰らわせて吹き飛ばした。
「にゃご!?」
見ていたロロディーヌも怒った。
焼き肉を食べては、ユイとヴィーネに巨大な頭部をこすりつけて甘えていた神獣ロロディーヌだったが――。
「にゃごぁ~」
と、鳴いてジョディの下に走っていく――。
友だちが攻撃を受けたと思ったようだ。
相棒とジョディは森屋敷の沼で、一緒に遊んでいたからな。
そうして、<光魔ノ蝶徒>と神獣のコラボが始まった。
強い魔兵士たちも抵抗を示すようにロロディーヌの触手の連撃を幾つか防いでいく。
が、さすがに神獣ロロディーヌの攻撃はそうそう簡単に防げるわけもなく……。
大柄魔兵士と中くらいの魔兵士に、細身の炎ビーム専門家のような触角を持つ宇宙人っぽい魔兵士たちは――。
――炎を浴び。
――肉球パンチを喰らい。
――尻尾の叩きを喰らい。
――無数の形を変えた触手ラケットから飛び出た骨剣ミサイルに身を貫かれて死んでいく。
すると、そんな圧倒的な光景に対抗を示すように、ぬっとした雰囲気を持つ新しい魔兵士が現れる。
額にΩのマークが浮いている。
「我の名はアマウフル! ゼレナード様の守り手なり! これ以上、偽宝玉システマの種人の破壊はさせぬ!」
新手が滑舌よく叫ぶ。
しかも共通語だ。
前傾姿勢で神獣ロロディーヌとジョディに向けて突貫していた。
一際、動きのいい魔兵士だ。
前進したアマウフルは、ジョディのサージュを手掴みで防ぐと、そのジョディを反対方向に投げ飛ばした。
――驚きだ、強い。
神獣ロロディーヌの繰り出す触手の連撃も避けていく。
「ジョディには悪いが、俺もいった方がいいかな」
「では、わたしも」
「わたしも参加」
「僕はいかない」
「シュウヤ様、波群瓢箪を投げますか?」
「――俺は戦っているから無理だ」
と、皆の意見が響く中「にゃおおお~」と鳴いたロロディーヌ。
後ろ脚付近の触手群が――伸びてきて、俺たちの手前に突き刺さってきた。
相棒が珍しい。
『友はわたしが守るにゃ』という意思だろうか。
「俺たちは必要ないということかな?」
「そうみたいね」
俺はユイに同意するように頷きながら、強い魔兵士ことアマウフルを注視。
ロロディーヌの触手群を避けているように、大柄のくせに素早い魔兵士だ――。
足に生えた大量の毛は、センシバルや古代狼族のように見えた。
獣人っぽい力を宿している?
その魔兵士は触角の額の位置にユニコーンのような長細い角を生やしていた。
ユニコーンの角に炎の魔力がまとわりつくように渦を巻く。
肩は厳つい形のポールショルダーを装備。
溝から魔力の光が漏れている。
沸騎士の脇腹と同じような溝の噴出口を備えた両肩だ。
一瞬、サビードを思い出す。
角持ちだし、今までの魔兵士より一ランク上かな。
「にゃ」
『遊びは止めたにゃ』という風に短く鳴いた相棒――。
後脚に力を入れて間合いを取ると、体勢を屈めた。
狩りの姿勢、その瞬間――爆発的な加速で走り出す相棒。
無数の土煙が発生し、俺たちの気勢を削ぐ。
ロロディーヌはそんなことは気にしない。
触手群の一部を地面に伸ばし、自身の足場に利用した。
その長細く伸びた触手たちを綱渡りではなく、バネ代わりに利用し、さらに一段階、加速する。
「ンン――」
尋常じゃない速度のロロディーヌは、アマウフルを捕らえた。
素早いアマウフルを巨大な前足で押し倒す――。
押し倒された大柄のアマウフルは苦しそうだ。
いや、俺的には幸せそうに見える。
肉球に包まれた状態だし。
「凄い速さだ!」
ラファエルが興奮しながら喋る。
魔眼の力を発動させていた。
「にゃ、にゃぁ、にゃ?」
相棒は、ラファエルの声に反応したわけじゃない。
踏みつけているアマウフルに向けた疑問の鳴き声だ。
そのアマウフルは、相棒の大きい前足の先っぽから、頭部だけが、ぴょこんと出ている。
鳴き声の意味は……。
たぶんだが、『この角、美味いにゃ?』という感じだろう。
相棒は、もがくアマウフルに頭部を寄せた。
ピンクが混じった色合いの鼻をクンクンと動かし匂いを嗅ぐ。
そして、細長い角をジッと見たロロディーヌ。
……無邪気だが、野獣系だ。
すると、そのままアマウフルの細長い角を「ポッキー」でも食べるようにぼりぼりと食べていった。
ロロディーヌは、
「ガルルルゥ」
と、野性味ある声をあげる。
餌というか角はだれも取らないが……。
たんに『この角、美味しいにゃ~』という意味が込められているだけかもしれないが。
そのままアイスのコーンでも食べるように大きいアマウフルの頭部に牙を立て、噛み付くと、その絶命したアマウフルの頭部を口に咥えたまま、勢いよく自身の頭部を上向かせた。
アマウフルの頭部を脊髄ごと引っこ抜く。
大柄のアマウフルの頭部から下は、血塗れで悲惨な姿だ。
背骨と脊髄に内臓が付着している。
ロロディーヌは、顎を突き出しながら首をぐわらりと動かす。
アマウフルの内臓が付着した脊髄と頭部を、真上に放り投げた――。
野性味溢れる相棒は、頭部を上向けたまま、口を開ける。
「にゃおおおおおー」
と、鳴くと、口の中に落ちてきた大柄魔兵士こと、アマウフルを食べていった。
もぐもぐと咀嚼していく神獣ロロディーヌ。
喉を膨らませて、そのまま、ごくんと音を響かせる。
「……凄まじい倒し方ね」
「あぁ」
「それで、ここでジョディさんとロロちゃんの狩り大会の見学?」
「ジョディも活躍したいらしいからな」
そのジョディは相棒の背後で違う魔兵士を斬る。
相棒の尻尾に支えられたジョディは不規則に動くが、楽しそうだ。
「凄い強い神獣様とジョディちゃん! 僕のゼットンとは大違いだ!」
ラファエルはジョディと相棒の活躍を見て大興奮。
動物好きでもあり、美人好きと判断。
俺と同じか。
まぁジョディと神獣ロロディーヌの活躍振りを見たら、自然とそうなるだろう。
「……今、神獣様がお倒しになった強い魔兵士アマウフルは、巨大な繭から生まれた魔兵士だろうか」
と、ヴィーネが指摘。
俺は立ち並ぶ不可解なモニュメントと、繭を見ながら、
「たぶんそうだろう。この辺りの巨大な繭からは、まだ魔兵士たちは生まれていないように見えるが……」
「でも、これだけの規模を整える白色の貴婦人って、どんだけよ。シュウヤ、よく倒せたわね?」
「皆のお陰だよ。<無影歩>もあったしな。しかし、正直、選択を一つでも間違えていたら、どんな悲惨なことになっていたのやら……」
正直に気持ちを告げると、ユイは<ベイカラの瞳>を強めた。
ぶるっと体を震わせるユイ。
怖がらせてしまったようだ。
「……怖いこと言わないでよ。で、あの巨大な塔に向かうの?」
ユイは鞘ごと神鬼・霊風を巨大な塔に差し向ける。
「向かおう。中に入れるのか疑問だが、気になる」
「大きい塔。放出している魔線の量は膨大。内部にある魔力の源が非常に気になります」
「噂で聞く魔神具って奴かな」
「可能性はあると思います。しかし、わたしの知る魔神具は英邁で誉れある高位魔導貴族の高位司祭たちが扱える物で小さい物ばかりです」
ヴィーネが厳しい表情を浮かべながら語る。
魔導貴族に誇りを持つことは十分に伝わった。
やはり、ダークエルフとしての心はまだあるんだな。
「魔神具。魂を納める器のタイプだと思うけど…………どの神々と繋がりがあるのやら」
闇のリストの一人ラファエルでさえ、塔のような魔神具は知らないようだ。
「魔神具だとして、クナは勿論だが、アドリアンヌも興味を持ちそうだな」
「うん。現に、神々と取り引きできそうな小さい魔神具は色々と持っていると思う。あの黄金仮面とかも、たぶん……」
「あの黄金仮面も魔神具か」
「違うかもだけど、仮面の名前も知らないし」
「アドリアンヌさんか……」
嫌そうな表情を浮かべているラファエル。
知っているようだ。
「俺にとっては初の魔神具?」
「え? そのシュウヤが身に着けている神話級のハルホンクも似たようなもんでしょう。とんでもない防具服。それに魔神具系なら、地下オークションにそれらしい物が出品されていたと思ったけど」
そうユイが指摘。
はは、言われてみたらたしかに。
このハルホンクは神話級だが、異質だ。
「あったっけか? あの時は目的の品に集中していたからな……」
「――では、ご主人様。このまま敵を蹴散らしつつ、あの塔の中を調べるおつもりで?」
ヴィーネが確認しながら発言。
「そうなる。秘宝は回収したんだろう?」
「はい。古代狼族から借りた秘宝が入った夢追い袋。そして、無数の怪しい秘宝も詰め込みました」
オフィーリアが演技をした時だな。
ロンハンが詰めていた袋か。
大切な秘宝類は、ヒヨリミ様に返さないと。
「縦縞模様の袋はそんなに大量に入るアイテムボックスなのか」
「そのようです。呪いの品のアイテム効果は下がると思いますが」
「べつにいいさ。ゼレナードが使わなかった部類とはいえ貴重なアイテムに変わりはないと思うし、それに、お宝目当てで動いたわけじゃない」
「はい。その秘宝の件で、また報告があります」
……顔色が少し悪いヴィーネ。
青白い肌だからってわけじゃないだろう。
呪われた品を思い出している?
「手短に頼む」
「ハッ、宝物の中に地下勢力側が持っていたと推測できるアイテムがありました」
地底神同士の争いか。
「ヴィーネは実際に地底神の勢力争いを見ているんだよな。だから、ゼレナードが消えたことで、その地底神側の勢力が、回収した秘宝を取り返そうと、ここに殴り込み?」
「可能性はあるかと」
「地震の件も関係があるかもな」
「はい。ですので、ヒヨリミ様に秘宝を預けた際、争いを誘導する結果になるかもと……」
ヴィーネの予感は正しいかもしれない。
「まぁ、どちらにせよ正確なアイテム分析の現状は、俺たちには……」
と、言葉を濁しつつラファエルを見る。
彼は俺の期待をする眼差しと、言葉の質を理解したのか、
「僕の魂王ファフニールの魔眼の解析は生物系だけだよ。それも完璧じゃないし、君たちの種族と神獣ちゃんは僕の想像を超えている!」
と、両手を広げたジェスチャーを取りながら語る。
なぜか、ラファエルは無駄に回転していた。
劇場で演技をするイケメン俳優にも見える。
まったく正反対だが、ぷゆゆのことを思い出した。
彼は小熊太郎を見たらどうなるだろう。
「ということで、取り戻した秘宝はハーレイアに戻ってヒヨリミ様に返す」
「ハッ」
「見せるだけ見せて預けず、問題がなければペルネーテのあの渋いアイテム鑑定屋に頼んでみるのもいいかもな」
「スロザですね……」
ラファエルが、スロザの名を聞いて、眉をピクリと動かして反応を示す。
やはり、共通項を持つか。
クナと知り合いのスロザだ。
コレクターにも通じているスロザの古魔術屋は古美術だけでなく、様々なアイテムが売られている。
魔法街にあるクリシュナ魔道具店と同様にペルネーテでも謎が多い店だ。
古美術連盟という組織もあるようだから、色々な繋がりはあるだろう。
あの禿げた渋い店主はブブバに呪われているし、裏側でも、陰の支配者と呼ばれているようだしな……。
フンピッピーと喋り方に特徴があったクリシュナ魔道具店の店主も怪しいが。
「狼月都市ハーレイアにも、優秀なアイテム鑑定人はいそうだけど」
ユイが指摘。
そういえば百迷宮とか、遺跡があるんだっけか。
「それもそうか。近くに迷宮があるんだから、当然いるか」
「わたしは森屋敷しか知らないから、たぶんよ? 都市の大きさは想像できたからね、あくまでもその範疇での話」
「トラさんの話も伺っていますから、ユイの指摘は当然かと」
「俺が助けた鼠男か。そして、百皇狐の皮裘のアイテムだったリンさんだな」
「はい。バーナンソー商会のような商会は他にもあるはず」
血文字を含めて実際にハーレイアで話をしていたからな。
ヴィーネの言葉に頷く。
「確かに、ヒヨリミ様の部下だってそうだ。古代狼族の狼将たちの一族の勢力の中にもいるかもしれない」
「うん。ま、どっちにしろ秘宝の鑑定は、いずれってことで……」
ユイが再び、塔のような建物を見る。
青白い光は不気味だ。
「あぁ、今は、あの巨大な塔を優先しようか……塔といえば、不屈獅子の塔を遠くから見たことがある」
と、俺は呟く。
すると、ラファエルが、
「レフテン王国の王都にある巨大な塔だね。昔から冒険者たちが活躍している場所として有名だ。でも、こんな地下で縦長の建物は初めて見るよ。この下に敷かれた魔法陣の魔線も見たことがない素材が使われているし」
ラファエルは靴の足先で、地面を突く。
地面の蔦のようなケーブルの破れた箇所から蛍光液のような漏れ出た液体を指摘した。
「確かに……あ、これは賢者の石の屑? ミスティが興味を抱きそうです。血文字で連絡します――」
ラファエルに指摘を受けたヴィーネが血文字でミスティに連絡。
ミスティがここに来るまで時間は掛かるし、上は上で戦いの行方もある。
今は素材の回収だけを行うか。
「ヴィーネ、素材の回収だけすると伝えておけ」
「はい」
素材を回収するヴィーネ。
その回収を終えた直後――。
まだ小さい恐竜が居たのか、俺たちに飛び掛かってきた。
ユイが反応を示すが「わたしが――」と、発言したヴィーネが、金属の鳥から刃を飛ばしつつ、ガドリセスの剣を振るい前進――。
小さい恐竜を真っ二つに処断した。
血文字を送り合っていた直後だったが、さすがはヴィーネ。
そのヴィーネの背後を守るように黒色の髪が揺れている背中を合わせていたユイが、
「――でもさ、奥の怪しい塔というか魔神具を無理に調べる必要はないわよね」
ジング川の村で売っていた仮面を触りながら語るユイ。
俺も買ったはずの仮面がないことに気付くと、睨む。
「それはそうだが、この場に来て正解な面もあるからな」
と、周囲に散乱した小さい恐竜と魔兵士の死体を見ながら、語った。
「……正解な面?」
「大量のモンスターですね」
ヴィーネが指摘。
「そうだ」
ユイも気付いたように、魔刀の柄を手で叩く。
「あ、そっか。わたしたちが、ここで、今、潰しておかなかった先のことを想定したのね」
「その通り。まだ残っているように、小さい恐竜たちの数は尋常じゃない。俺たちがここに来なかった場合、あの小さい恐竜たちが地上にあふれ出た可能性がある。震動していたように地下の〝何か〟に向かった可能性もあるがな」
「そうね。地上も樹海から出た場合は平気だけど、地下からの出入り口は、樹海以外にもあることを考えたら……」
「……危険の芽は、できる範囲、取り除いておくべきかと」
ユイとヴィーネは頷き合う。
髪の色は違うが、本当に姉妹に見える。
「そうさ! 僕を救った英雄の判断だ。シュウヤの正解が大正解ってことだよ」
「ふふ、ラファエルさんはシュウヤのことを気に入ってくれたようね」
ユイは嬉しそうだ。
「当然さ!」
「うん、それじゃ、やっぱり……あの塔も調べた方が正解ね――」
と、ユイは黒色の瞳をもう一度、塔に向けた。
俺が買ってあげた仮面をわざとらしくかぶる。
「……仮面か」
アドホックに投げちゃった。
「うん、シュウヤは、なくしたのね。せっかく買ってくれて、わたしとお揃いだったのに……」
少しいじける素振りで語るユイ。
「ごめん、アドホックが消える間際に投げちゃった」
「アドホック?」
「そう。ゼレナードと共生関係だった見た目は子供だが、かなりの強者。保護者とかガーディアンとか、グレイホーク家とか語っていた。最後、次元の裂け目のような場所に吸い込まれたが……生死不明」
「グレイホーク家? 子供?」
「ゼレナードにそんなモノが……」
ラファエルが顔色を悪くして呟く。
グレイホーク家について何か知っているような雰囲気はある……。
ま、黒幕の裏に黒幕だろう。
嫌な予感がする一族だから、その筋ではある程度知られているはず。
「んじゃ、向かうとして」
「ご主人様、塔のような物の先にも奥行きがありそうに見えますが」
青白く輝く塔をチラッと見てから、暴れているジョディとロロディーヌに向けて、
「ここは地底だからな。ま、今は向かうつもりはない。ジョディとロロ! 戻ってこい」
「はい!」
「ンン、にゃぁ――」
ラファエルとダブルフェイスに向けて、
「ジョディ、彼らをさっきのように守ってくれ」
「承知――<光魔の銀糸>」
ラファエルとダブルフェイスは、絡めやすいようにバンザイした。
ジョディの扱う銀糸に雁字搦めになっていく。
魂王の額縁と、はばき骸の魔眼はラファエルの近くで浮いている。
「リサナもジョディと連携して守り優先で前進してくれ」
「はい、お任せください♪」
戻ってきた相棒は姿を黒豹に縮小させながら、俺の足下で急ストップ。
膝頭に、その黒豹の頭部を寄せてから、
「にゃ」
と、挨拶してくれた。
俺は自然と、頭部を撫でて、可愛い長耳を引っ張る。
そして、
「――相棒、敵を蹴散らしながら奥に向かう」
と、一足先に駆け出していた。
「――にゃ~」
背後から相棒の声が耳朶を震わせる。
その時、左手に握る月狼環ノ槍が震えた。
ポケットの中にあるホルカーの欠片も振動しているのを感じながら走った――。
青白い閃光を発している塔の下に向かう。
明日も短いですが更新予定です。
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