五百二十話 集団戦・連係無双
2021/07/29 22:07 修正
俺は視線を巡らせる。
皆の首が縦に動くのを視認するや否や――。
相棒に向けて、
「ロロ! 競争だ」
「ンン、にゃおぉ――」
鳴き声をあげた相棒は先に走る。
負けるかと地面を蹴った――。
相棒の末脚めいた威力のある後脚が地面を捉え抉る。
長いストライドだとはっきりと分かる地面に残る足跡を追い掛けながら地下宮殿の奥の間に向かった。
走りながら右手に握った月狼環ノ槍を左手に移す。
そして、ユイとヴィーネの魔力と血の匂いから位置は分かっているが、横をチラリと見た。
――ヴィーネとユイも視線を合わせてくれた。
さすがは俺の<筆頭従者長>たちだ。
俺と相棒の速度に付いてくる。
前傾姿勢のユイは前衛。
左手に魔刀アゼロス、右手に神鬼・霊風の太刀を持つ。
ヴィーネの位置は、そのユイのやや後方だ。
フォーメーション的に強襲前衛だな。
ガドリセスの剣を器用にも走りながら腰の鞘に収めると、肩口に左手を伸ばし、翡翠の蛇弓を取った。
同時にラシェーナの腕輪を使う。
腕輪に嵌まる闇の魔宝石の表面から闇の精霊たちを生み出した。
ヴィーネの青白い細腕に闇の精霊が連なる。
翡翠の蛇弓からも薄緑色の蛇のような魔力オーラが彼女の腕に展開している。
ヴィーネの走る後を追う闇と緑のコントラストの軌跡が美しい。
更に、前をゆくユイをフォローするためか、血を帯びた金属製の鳥を、ユイの頭上に飛翔させていた。
そんな走っている彼女たちを見ていると、体と心から暖かみを感じた。
それは魔闘術と血ではない。
――ルシヴァルとしての家族としての絆。
仲間が<筆頭従者長>たちが側にいると、やはり心強い。
そんな思いを胸に抱いて走り続けていく。
すると、俄に下へと傾斜した。
急に下? と思ったら今度は上に傾く――坂となった。
坂の表面は凹凸がある。
やや盛り上がった出っ張り石を、片足のアーゼンのブーツ底で捉え蹴って跳躍。
次の出っ張りに足を乗せる。
そのまま前のめりの体勢から、反対の足を突き出すように前進。
前にステップを行う要領で、次の出っ張り石に足裏を乗せて、再び、強く石を蹴る――。
両足を交互に突き出して階段を二段と三段とステップ、ホップ、ジャンプと上がるように――凹凸が多い坂を軽やかに上がっていく。
生活魔法の水も使う――。
水流操作を意識して、軽功を使う仙人も意識した。
「ンン――」
ロロディーヌに水飛沫が掛かって鳴き声を寄越した。
お返しに触手で俺の背中を突いてくる。
俺は笑み意識しながら上がっていく。
やけに長い坂だな――。
と、跳躍するように坂を上がりつつ……。
天井を見るように暗闇を見た。
青白い閃光が下から上へと無数に伸びていく。
地下宮殿の天井は真っ暗だ。
その天井の暗いキャンバスに青白い絵でも描くように下から射す閃光群の数は次々と増えていく。
暗闇を崩すような青白い明かりは次々と姿を変えていた。
その模様は蝙蝠にも見えた。「バットシグナル」じゃあるまいし。
しかし――反った坂の向こう側にサーチライトでもあるのか?
さっき話をしたように、やはり近衛兵が居るのか?
青白い光は、暗い天井ごと別世界に誘う光にも見えた。
そんなことを考えながら――。
坂というか壁のような、やや湾曲した長い坂を相棒と一緒に駆けていく――。
しかし、今走っている反った坂を見ていると、ここが本当に地下宮殿なのかと疑問に思ってくる。
坂の形は一種の防波堤って感じだ。
俯瞰から見れば隕石が墜落してできたクレーター。
そのクレーターの端が延々と続いているような坂。
ここは地下だから隕石ではなく魔法の力だろうけれど。
――それにしても長い坂だ。
かなり上ったが天井はまだ暗い。ここの地下空洞は巨大だな。
天井に向かって<鎖>でも伸ばすか?
天井に<鎖>をぶっ刺してぶら下がりながら……。
青白い光を放ち続けている向こう側の様子を遠くから把握するのもいいかと……。
思ったが――。
今は仲間が居る。
――<無影歩>中ではないからな。
ヘルメとイモリザがいないが、緊急ならリサナも居る。
何かと戦うことになったら、血魔剣から百目血鬼も召喚できる。
ということで、走り続けていく。
飛び込み台にあるような一際大きい出っ張り石を視認。
その飛び込み台のような石を蹴って跳躍しながら――。
やはりショートカットだっと気まぐれを起こした俺は<鎖>を前方に発射した。
――坂の一部に<鎖>の先端が突き刺さる。
このまま――先を駆ける相棒を抜かしてやろう。
アンカーとしての<鎖>。
惑星セラの地中を掘る!
というイメージで坂の下に潜らせた<鎖>を引っ張る。
強度は十分だ――先端を戻ってこないことを確認した。
――<鎖の因子>マークへと<鎖>を引き戻す。
そうして<鎖の因子>の中に戻る<鎖>の反動を利用。
左手首ごと体をターザンのように移動した。
坂の突き刺さった<鎖>の先端に両足で踏むように着地するや否や――。
下を見ながら、まだ手首から下に伸びている<鎖>を消去。
――え?
驚き、なんだこりゃ。
青白い光の正体はこれか……。
ロロディーヌも驚いていた。
幅の狭い縁に両前足を乗せて坂下に突っ伏すように、前のめりとなって、転げそうになっている。
「ンン――」
黒豹は、坂の縁に両前足の爪を食い込ませながら体勢を持ち直す。
そして、眼前の青白い異様な光景を見て「にゃお~」と鳴いた。
そう、俺も驚いたが、坂の下は……。
触手か蔓か血管のようなモノと繋がった巨大な卵と繭の群生地帯と化していた。
そんな卵と繭たちと繋がる触手網の中央に巨大な柱が聳え立つ。
柱、いや、縦長の巨大な塔か?
魔神具って奴だろうか。
その巨大な塔だが、巨大な魔神具だが、不明だが……。
ところどころにある窓のような凹凸から無数の魔線たちが、下の巨大な卵と繭に繋がっていた。
見えにくいが、巨大な魔法陣が敷かれているようだ。
どくどくと脈を打つ触手たちと連動しているように巨大な卵と繭は青白く不気味に輝きを放つ。
……この地下宮殿の奥の間は巨大な卵と繭たちを育てる場所だったのか。
【輪の真理】か【九紫院】に所属していた白色の貴婦人ことゼレナード。
九賢者、エルンストの八賢者という枠ではなかったにしろ……大魔術師で非常に強かったが……。
普通の人型から魔族兵士以外に、これだけの卵と繭を作り出せるとはな。
ゼレナードは自分が死んでも、この場所だけ維持できるように、なんらかのエネルギー源を別個に用意していた?
スタンドアローンの燃料電池的なものか、地熱エネルギーのようなモノを得ているシステムとか?
あの卵と繭に見えたモノは電源?
いや、休眠装置?
卵か繭の中で寝ている人族とか生物たちの中では、違う次元の異世界と繋がる?
脳が量子コンピュータとプラグに繋がった、もう一つの異世界が、あの塔か魔神具の中に構築されていたりして……。
ま、これはさすがに飛躍しすぎか
というか、ゼレナードはイカ脚だったな。
だから、同じような子供でも育てていたのか?
しかも、この凄まじい数……卵と繭の数は……。
数千は超えているかもしれない。
巨大な卵と繭と……葉脈めいた触手網と繋がる柱のような機械か魔道具。
卵と、繭と、触手か、蔦の隙間という隙間の間から眩い白銀色の輝きが、未だに漏れ続けている。
魔法陣と中央の巨大な塔を彷彿とする魔道具は機能している。
毎回、思うが……。
ゼレナードが、オセベリアという一大国家に喧嘩を売るわけだ……。
ま、今のオセベリア王国は、東のサーマリア王国と西側でラドフォード帝国と二つの国と戦争中。
このタイミングだからこそ、アルゼを狙ったのかもな。
そんな考えを持ったところで、背後から、
「――シュウヤ、どうしたの?」
「え?」
ユイとヴィーネも到着し、坂から下を見て唖然とした。
しかも、ユイとヴィーネの到着を待っていたように卵たちが次々と割れていく。
割れた卵の中から誕生したのは、勿論、可愛いヒヨコではない――。
意外に可愛かったら嬉しかったが……。
得体の知れないエイリアンのような生き物が誕生した。
つうか、その誕生したエイリアンたちが這い上がってきやがった――。
見た目は小さい恐竜か。
繭の方からも、繭を引き裂いて次々と大柄の魔兵士たちが生まれてきた。
大柄の魔兵士は、額の左右にお揃いの真っ赤な色合いの触角を生やしている。
腕は四本。
上側の腕は一対とも鋭い剣状。
下側の腕は人と同じような一対の腕。
魔族だと思うが、武器に死体をぶら下げていた魔族系とは少し違う。
「ここまで来る途中にもたくさん魔族系兵士が居たけど、見た目は違う」
「あの大柄の兵士は近衛兵でしょうか」
ユイとヴィーネが指摘。
「……どちらにせよ。戦うことになりそうだ。二人とも用意はいいな?」
「はい、お任せを」
「うん、数が多いから忙しくなりそう」
そう笑みを湛えたユイはヴィーネを見る。
両手に魔刀を構え、口に魔刀を咥えている。三刀流か。
翡翠の蛇弓から光線の矢を番えていたヴィーネを守ることを選んだようだ。
ヴィーネに近寄る小さい恐竜モンスターに備える動き。
その構えをとったユイの背後から、ヴィーネが視線で、俺に合図を求めた。
「いいぞ、やれ」
「はッ、では攻撃を開始します――」
ヴィーネが翡翠の蛇弓から光線矢を放つ。
複数の小さい恐竜モンスターの頭部を光線矢が捉えた直後――。
緑色の蛇たちが頭部に侵入し頭部は破裂するように爆発した。
ヴィーネの弓術は確実に腕を上げている。
一度に複数の光線矢を連続に射出した。
小さい恐竜たちを遠くから正確に倒していくさまは芸術的だ。
そして、下から俺たちに向かってくる小さい恐竜は素早いが、幸い坂の内側も俺たちが駆け上がった急な坂と同じく険しい。
だから小さい恐竜たちが縁に立つ俺たちの位置に到達するまで時間はいくらか掛かるだろう。
大柄の頭部に触角を持つ魔兵士も筋肉質だが二足歩行だから動きは遅そうだ。
ヴィーネから遠距離射撃を受けながらも、一生懸命に内側の反った坂を這い上がってくる小さい恐竜。
その小さい恐竜の見た目は……。
頭部から背中まで甲の殻を持つ。
漆黒色、やや黒光りしているかな。
漆黒色の頭部の甲殻は、ゼレナードが持っていた肉布団、もとい、外套膜のような表皮ではないが……。
足は軟体動物のイカが持つような多脚だ。
ゼレナードの子供説が強まったか。
あるいは、自分の遺伝子を生かし、魔神具を用いて異界の生命体を創造したか……。
あの中心に聳え立つ巨大な塔のような巨大魔道具を用いた、自分の命が絶たれた場合を想定した最終的な保険かもしれないな……。
ゼレナード戦を推測すると……。
あの小さい恐竜たちに光属性の槍はあまり通じないかもな。
ま、今、この瞬間に試せることだけ試す。
ヴィーネと同様に、放つだけ遠距離攻撃を放つとしよう――。
左手の月狼環ノ槍の穂先を下に差し向ける。
崖のような細い場所から下から上がってくる小さい恐竜を覗く。
「俺も撃つ」
と、宣言。
穂先の棟に並ぶ金属製の環たちが、奏でる不協和音が独特のリズム感を生む。
魔法を放つ際に流れるBGMのようにも感じた。
そして、大刀の穂先と揺れて音を奏でる金属の環たちを見て、一種の銃に備わるアイアンサイトに見えてきた。
弾丸は飛ばないが、幻狼を飛ばせるから本当にアイアンサイトか?
月狼環ノ槍に魔力を込めながら《氷竜列》を放つ。
月狼環ノ槍の穂先の先から一気に連続的に〝龍頭〟を象った列氷たちが生まれ出る。
周囲の気温が急激に下がると共に、龍頭は瞬く間に組み合わさる。
魔竜王の蒼眼の効果は出ていると思うが、ゼレナードに放った時とは、一回り小さい氷竜と成る。
更に、月狼環ノ槍からも、氷の鎧を纏った幻狼たちが出現した――。
咆哮音も北極狼のようなニュアンス――芸が細かい。
『ぐぬぬ、生意気な狼たちだ』
サラテンの声は無視。
特攻兵器と化して氷竜――。
凍てつく竜の悲鳴が氷の世界を左の方向に作り出すように、小さい恐竜たちごと坂の一部を凍らせて破壊。
魔法が直撃した小さい恐竜たちは瞬時に結氷化。
身体が崩れ氷晶となって大気に散っていく。
魔法の範囲にいる小さい恐竜たちも次々と凍り氷晶となって散った。
氷晶は、大気に溶け混むように消失しながらも雪化粧を坂の一部に作り上げた。
氷の鎧を身に纏う幻狼たちも、まだ生きている小さい恐竜たちと衝突していく。
俺たちが上ってきた坂の一部を凍らせて破壊したように威力は凄まじい――。
水神様の上乗せ効果はないが、今の光景を見ると、やはり烈級の魔法と分かる。
「威力の桁が違う魔法と、狼たち、特別な槍ね」
「――まだまだ数が多いです」
ヴィーネが光線の矢を放ち続けているように、雪景色を侵食する漆黒の群れだ。
小さい恐竜たちの数は多い。
凍り付いた坂に張り付くように無数の小さい恐竜たちが積み重なって群がってくる。
《氷竜列》で数百は屠ったと思うが――。
数が異常だ――と左手に握る月狼環ノ槍を右手に移し替える。
――無手の左手を眼前に翳す。
「掌にある傷というか閉じた瞼?」
「そうだ」
そう、ユイに答えながら、掌にある運命線のような傷の瞼を開ける。
出番を待ち望んでいるだろう<サラテンの秘術>を意識した。
『サラテン、出番だ――』
一瞬で左手から飛び出た神剣サラテン。
小さい恐竜に向かって一直線。
小さい恐竜たちを貫きながら坂の表面を這うように下っていく。
そして、ジェットコースターの曲線を描くように上向く台のような軌道を描きながら宙に出る。
その宙空で、反転し、坂に群がっていた小さい恐竜たちへと襲い掛かっていく。
小さい恐竜たちを三枚おろし、四枚おろし、と、縦横無尽に切り刻む。
『ヌハハハハハハ――』
血肉祭を開催しているように、テンションが高い。
ミルフィーユのように重なり四層の剣となった神剣サラテン。
虹色に光る爪楊枝も付着した変わった神剣だ。
ミニチュアの古い空母のようにも見える。
そんな神剣サラテンの刃の威力は凄まじい。
神々の残骸があるかもしれない坂に突き刺さらないように気を付けながら、小さい恐竜たちを屠りまくる。
そして、虹色に光る小さい剣は、剣精霊イターシャだろう。
そのミルフィーユ状の神剣サラテンは、返り血を浴びて真っ黒く変色したが、すぐに元の神々しい色合いに戻る。
剣の上に立つ仙女風の少女たちは、サーフィンでもするように構えだ。
そんな少女たちと遊ぶように白鼬のイターシャは踊る。
黒い血飛沫は各自で吸収したらしい。
その光景を見ながら、連続で五発の<光条の鎖槍>を放つ――。
『サラテン、敵の数は多い。ちゃんと指示に従えよ?』
『器よ! そのような戯れ言をいうでない。今宵の経験は至福ぞ。ソナタにちゅーの機会を授けてやってもよい!』
また、変なことを。
『大主さまぁ、サラテュンさまはちゅごい! アーゼン朝の力を使いこなしてまちゅ!』
爪楊枝だが、がんばれイターシャ。
リーンから得たアーゼン朝の力を宿したイターシャをサラテンは使えるようだ。
その直後――。
肝心の俺が放った<光条の鎖槍>が、小さい恐竜たちの頭部を捉えたことを視認した。
小さい恐竜の頭部は<光条の鎖槍>では貫けなかった。
やはり頭部は硬いか――。
光属性に耐久性があるようだ。
他の小さい恐竜たちの頭部にも<光条の鎖槍>が突き刺さっていく。
ま、硬いなりに意味はある。
突き刺さった<光条の鎖槍>の後部は、いつものようにイソギンチャクとなって、光の鎖から光の網へと変形を遂げる。
そして、五匹の小さい恐竜をその光の網が包むと――、
瞬く間に、光の編み目の模様が小さい恐竜たちを包む。
五匹の恐竜たちは完全に動きを止める。
だが、たった五匹だけ。この数では意味がない。
<光条の鎖槍>で動きを止めた小さい恐竜たちは、群がってくる小さい恐竜たちによって、黒く塗りつぶされたように見えなくなった。
続いてフリーハンドの右手から<鎖>を射出した。
無難に<鎖>かな――貫くし。
――《氷弾》。
――《連氷蛇矢》。
続けて無詠唱の魔法を繰り出す。
雪景色に群がる漆黒たちに雪弾と雪蛇の連なった矢のような群れが降り掛かる。
「……凄い魔法の連撃。凍てつく吹雪のよう」
「……はい、無詠唱と魔力量がなせる魔法技術」
ユイとヴィーネのそんな声が聞こえた。
が、構わず<夕闇の杭>を繰り出す――。
――凍った海世界を荒波ごとく<鎖>と闇の杭たちが荒れ狂う。
無数の<夕闇の杭>が小さい恐竜たちの身体を貫いていった。
猛威とも呼ぶべき小さい恐竜たちが吹き飛んでいく。
しかし、この数だ、乱戦となることは必定――。
だからできるだけ遠くから処分しよう――。
次々と魔法と<夕闇の杭>を撃ち放った。
小さい恐竜たちの死体が、坂の上に積み重なっていく。
塵も積もれば山となる。
そんな死体の山が転がって雪崩のように死体が転がっていく。
坂を上がってきた小さい恐竜たちにとっては悪夢。
その死体の雪崩に巻き込まれた。
一緒に坂を転げ落ちていく。
そこで、タイミングを見ていたであろうロロディーヌが、一歩、前に出た。
相棒は鋭い牙を露出させるように口を開けている。
「にゃごぁぁ――」
神獣ロロディーヌの紅蓮の炎が吐き出された。
俺が築き上げた死体の山ごと、百八十度の方向に紅蓮の炎は広がる。
右側の小さい恐竜たちは坂の一部ごと一気に焼却処分となった。
紅蓮の炎が坂の周囲を明るく照らすと、小さい恐竜たちが炎に照らされていく。
坂を埋め尽くす勢いで増え続けていく小さい恐竜。
――数千を超えている?
凄い数だ。その光景に思わず息を飲む。
ロロディーヌは炎を吐きながら右側の縁を駆けていく。
四肢の長いストライドを生かすような、神獣らしい速度の走りだ。
自身の炎で崩落させた坂の一部を跳躍し飛び越えて颯爽と走るロロディーヌ。
触手骨剣を繰り出しつつ走る相棒を小さい恐竜たちの一部が追い掛けていった。
「にゃごあぁぁぁ~」
船の汽笛じゃないが、相棒の気合いの叫びが反響して長く尾を引く。
相棒の後ろ姿と、その相棒を追う小さい恐竜たちか。
その光景は、黒い港を解纜する黒船のようにも見える。
相棒の炎でかなりの数を燃やしたが、小さい恐竜の数は、まだまだ多い。
そして、下には大柄の魔族兵士も居る。
右の恐竜モンスターどもは相棒に任せるか。
そんな思考の間にも、次々と俺たちに近寄ってくる小さい恐竜――。
左斜めと左後方から俺たちを喰おうと迫る小さい恐竜たちだ。
左右の両手首から<鎖>を射出。
続いて《氷弾》。
――<夕闇の杭>。
を連続で繰り出した。
数十の小さい恐竜の全身を氷の弾丸と闇の杭が捉えた瞬間――木っ端みじんに破壊し屠る。
<鎖>も射出と消去をくり返す。
<夕闇の杭>は物理属性を含むから銃撃の代わりだ。
連続射撃を受けた小さい恐竜は頭部ごと破壊。
脳漿と散らし肉塊となって散っていく。
だがしかし、その魔法とスキルの連撃で死んだ仲間の死体を潰すように、俺たちとの間合いを詰めてくる小さい恐竜。
右手の血魔剣から百目血鬼を呼ぶか迷ったが――。
もう、すぐ側まで小さい恐竜が迫った。
「フシャァァァ――」
酸のような液体を小さい裂けた口から出す小さい恐竜。
目の前に迫った口を開けている小さい恐竜は喉ちんこらしいモノを晒してきやがった。
即座に、その、口蓋めがけて――。
月狼環ノ槍の大刀を突き出す<闇穿>を繰り出した。
闇の魔力を纏う大刀穂先が、小さい恐竜の歯牙と下を破壊しながら口蓋ごと頭蓋を突き抜けた――。
突き抜けた月狼環ノ槍を少し引きながら大刀の刃の位置を小さい恐竜の首下に当たるように調整し、そのまま大刀の穂先を下ろした。
小さい恐竜の胸を強引に両断――。
酸のような液体と内臓群が飛び散った。
血飛沫は黒く、手に伝わる斬った感触は硬い。
だが、内部に独特の軟らかさと耐久性を感じた。
イカの脚だからか?
俺と同じように武器を振るっていたユイとヴィーネに向け、
「――足場に気を付けろ、前に出るぞ」
と、前傾姿勢で突出――。
左手ごと、一本の刀のごとく突き出した月狼環ノ槍の<刺突>で、小さい恐竜の胴体を穿つ――。
そして、素早く月狼環ノ槍を胸元に引く――。
この引き際が槍の秘奥でもある――。
大刀の穂先にこびりついた黒色の血肉が、宙に黒の軌跡を生んでいた。
「うん」
「はい――」
風槍流一の槍の<刺突>を見たユイとヴィーネが前進――。
坂を駆け下りながらユイは、左手の魔刀アゼロスで小さい恐竜の頭部を突く。
ヴィーネは、翡翠の蛇弓を横に振るう。
光線の弦が小さい恐竜の胴体を捉えると真っ二つに分断。
返り血がヴィーネの身体の一部に付着するが、すぐに血は吸収された。
ユイが左手の魔刀を突き上げている最中に――。
俺は初級:水属性の《氷刃》を振るいながら、ユイの右側をフォロー――。
同時に右手首から射出した<鎖>でヴィーネに迫る小さい恐竜たちを一度に屠る。
数十体の死体が連なった<鎖>をすぐに消す――。
その直後、目の前に迫った小さい恐竜。
さっきも見たが、上下に生えた歯牙は鋭そうだ――。
が、その牙ごと折るように前蹴りを繰り出した。
そして、折るどころか、その頭部ごと踏み潰す――。
足場として利用し、跳躍した――。
宙空に出た俺は、身を捻る――。
移り変わる視界の最中――。
魔力を込めた月狼環ノ槍を<投擲>――。
キサラ風とはいかない。
しかし、幻狼を纏った月狼環ノ槍は、次々と小さい恐竜群を捉えて潰し坂の一部を貫いて止まった。
その突き刺さった月狼環ノ槍に<鎖>を伸ばして、絡ませる。
月狼環ノ槍を引き戻している身を捻り回転――。
ヘルメの氷槍の攻撃を参考にイメージ。
――三百六十度の方向へ。
《氷矢》を展開――。
周囲に腕の大きさの《氷矢》たちが雨あられとなって小さい恐竜たちに降り注ぐ――。
《氷矢》は、小さい恐竜たちの体を捉え貫いていった。
ザ・集団戦・連携無双って感じだな。
ペルネーテの迷宮戦と古代狼族とサイデイルに襲撃をかけてきた樹怪王の軍勢との戦いを思い出す。
そのサイデイルでは臭い息を吐く八本腕の怪物将軍ナズ・オンとの戦いもあった。
――<鎖>で回収した月狼環ノ槍を握ると、ユイの行動が視界に入る。
<舞斬>らしき回転技を繰り出していた。
そのユイを逆に襲おうとしている小さい恐竜たち――。
ユイなら大丈夫と思うが、やらせるかよ。
即座に<導想魔手>の足場を蹴り――その小さい恐竜たち目掛けて宙から突進。
――途中で、体幹の筋肉を意識するように体を捻る。
月狼環ノ槍の<豪閃>を斜めから振り下ろし、三匹の胴体を一度に切断。
大刀の穂先は、小さい恐竜の血肉を振りまきながら、坂の一部と衝突した――。
そのまま坂の一部は衝撃波を伴う石の礫と化しながら周囲に散る中、着地した――。
石の礫が混じる衝撃波を喰らった小さい恐竜たちは吹き飛ぶ――。
<夕闇の杭>を用いて、ユイの機動を確保――。
すると、ヴィーネが、ガドリセスの剣を振るいながら、ガトリングガンを撃つように闇の杭を連射中の俺の横を駆け抜ける。
小さい恐竜の胴体から多脚のイカ足を切断したヴィーネの一閃だ。
金属製の鳥から刃が出てユイのフォローも行っていた。
俺をフォローしてくれたヴィーネ自身は、斜め前方に出る。
「さんきゅーヴィーネ」
彼女はモデルのような足の爪先を利用するように回転していく。
「〝いつものことだ〟ですね?」
と、冗談を放つヴィーネ。
華麗に、爪先を重点においたバレエのような機動をとる。
足を上げていないからビールマンスピンとは違うが、ヘルメに近いかな。
朱色の防護服が似合う身体を駒のように回しながら、片手のガドリセスの剣と、もう片方が握る翡翠の蛇弓を振るい、弓と剣の連撃を繰り出す。
翡翠の蛇弓の光る弦が光の軌跡を生む。
その光の軌跡と衝突した小さい恐竜は瞬く間に切断。
そして、ガドリセスの剣を用いた剣の舞も加わる。
無数の光の軌跡と血の軌跡を生み出していく。
小さい恐竜たちの血肉が蒸発しながら消えていくさまは、凄まじく芸術的で美しい。
一種の、新体操風、リボンを超えたネオン系の競技っぽい。
小さい恐竜たちを屠るヴィーネを見蕩れていると、
「ご主人様、足場を作ります――」
「了解」
ラシェーナの腕環の力を使いながら回転する動きを止めた。
――闇精霊たちが坂の一部に積み重なっていく。
簡易な小さい足場を敷く闇精霊。
続いて、小さい壁を作る小さいおっさん、もとい、闇精霊たちだ。
瞬く間に足場と壁を作ったヴィーネの闇精霊。
ユイが「いい判断! <銀靱・参>――」とヴィーネを褒めながら発言しスキルを発動――。
坂の上にできたばかりの足場を走るユイ――。
小さい恐竜の死体とヴィーネの扱う闇精霊たちが作った簡易の壁を利用する――。
ステップワークを見せながら、斜め下へと三角跳びを行うユイ。
坂に出る形となったが、振り下げた魔刀で、小さい恐竜を頭部から真っ二つに処する。
続いて、その足場の悪い坂を利用するように、半歩下がりながら腰を回転させたユイは背後から迫った小さい恐竜の噛み付きを器用に避けた。
そして、右手の魔刀を斜めに振るい上げ、避けたばかりの小さい恐竜を斜めにぶった斬る。
更に、右から牙でユイの肩を喰らおうと迫った小さい恐竜の胴体を左手の魔刀で斜めに切断――。
ユイは右肘が伸びきった右手を懐に引き戻しながら魔刀を最小の動作で回転させる。
続けて右から迫る小さい恐竜目掛け右肘を捻り魔刀をコンパクトに扱いつつの柄頭を突き出した――。
小さい恐竜の頭部に、その突き出した柄頭を当て突く――。
小さい恐竜は後退。
俺は<鎖>と<夕闇の杭>でフォロー。
一方、ユイは、その怯ませた恐竜の胴体を貫くような左足のトレースキックを喰らわせていた。
そして、ユイは見事な蹴りポーズ中。
ユイはミニスカート風の防護服だ。
太股の生足さんと一緒にパンティさんを露出した状態だった。
無論、そのユイの色っぽい黒パンティさんへと――。
敬礼、いや、挨拶するように、しっかりと、記憶した。
ユイはパンティを隠すように片足を軸に回転しながら、その勢いを魔刀に乗せて振るい抜く。
右から迫った、小さい恐竜の脇から胸元を切断する。
続いて、小さい恐竜の下半身に魔刀を差し込み、魔刀を真上に押し当ててから、一気に魔刀を振り下ろす――。
イカの多脚を強引に切断――。
<ベイカラの瞳>の力を生かした<銀靱・参>を俺に見せるユイ。
制動もなくユイは体がぶれるように動く。
三つの魔刀を華麗に用いた。
最初に正面から小さい恐竜の頭蓋を剣突で貫いて仕留める。
続いて、右手の太刀を真一文字のごとく振るい、小さい恐竜の胴体を二匹同時に分断どころでなく、小さい恐竜の体を細切れの肉片となるように分散させた。
右手の魔刀、太刀が神鬼・霊風かな。
剣先を読ませない技術もあるのか、ユイは魔刀の持ち手を変える場合があるから分かりにくい。
少し遅れてユイに迫る小さい恐竜が見えた。
そんな小さい恐竜の、イカの脚先に、左手の魔刀の切っ先を突き刺して、動きを止めると、流れるように前回転しながら、小さい恐竜の頭部に浴びせ蹴りを喰らわせる。
そのまま小さい恐竜の頭部を両足の底で踏みつけ、頭部を潰したユイは、その頭部だったモノを足場として短く跳躍――。
宙空でも姿勢を崩さないユイは左手の魔刀を水平軌道で振り抜く――。
右斜め前方の小さい恐竜たちの頭部を、シュパッと音がなるように一度に切断――。
小さい恐竜の頭部たちが、ずれ落ちる間もなく――。
ユイは着地するや否や、突進――。
血飛沫を吸い取りつつ前傾姿勢からの両手を伸ばす。
突剣の技を披露――。
四体の小さい恐竜の胴体を一度に貫く二本の魔刀――。
細い両手ごと刀と化したような、ダブルの<刺突>というイメージか。
ポーズがえらくカッコイイ。
その直後、両手を離して、二つ魔刀を手放した。
二つの魔刀は四体の小さい恐竜に突き刺さったままだ。
ユイは口に咥えた魔刀を左手で掬うように取る。
と、身を捻り小さい恐竜の噛み付きを紙一重で避けた。
そして、逆手に持ち替えていた左手の魔刀で、その小さい恐竜の横を薙ぐように斬りつつ移動――。
更に、逆手に持った魔刀の柄巻を持ち上げるように、その魔刀を投げて回転。
回転した柄巻を器用に口で咥えるユイ。
四体の小さい恐竜を串刺しにした二本の魔刀の柄巻の下へと突進した――。
そして、両手を前に伸ばして前転――。
その前に出た両手で、回転しながら二本の魔刀を握り引き抜きながら、坂を蹴り、また、前転――。
またもや、近づいていた、小さい恐竜の頭部を三つの魔刀を使い、斬り伏せた。
連続的に数体の小さい恐竜を屠り続けていく――。
すげぇ技術だ。
正直、パンティの記憶が飛ぶ。
銀魔力の軌跡を生む華麗な剣術スキルは、素晴らしい。
そして、小さい恐竜の幾つかは、やけに細かく切断されていた。
神鬼・霊風の魔刀の効果だろう。
俺は、ユイが活躍している合間合間に魔法と<鎖>を繰り出す。
ヴィーネをフォローし、アイテムボックスを操作――。
「ヴィーネ。ありがと助かった」
華麗な剣術で多数の小さい恐竜を仕留めたユイの声が聞こえた。
礼の意味はフォローだけではなく。
闇精霊たちが一瞬で築き上げた小さい床と壁のことだろう。
剣術を含めて接近戦の足場は重要だからな。
ヴィーネの返事の「はい」といった声を耳にしながら――。
波群瓢箪ことリサナを取り出していた。
その刹那――。
闇精霊たちの簡易な壁の横から溢れ出てくる小さい恐竜が視界に入る。
カタツムリたちが奏でるバロック風味の韻律が響く中、俺は、銃を撃つように手首をスナップさせて<鎖>を射出――。
右手首の<鎖>の因子から伸びた<鎖>越しにリサナに向けて、
「見ての通り、いきなり戦場だ――」
と、状況を語る。
数十といった小さい恐竜を一度に屠った血が滴る<鎖>を消去した。
明日も更新予定です。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」15巻が2021年8月に発売予定
コミックファイア様からコミック「槍使いと、黒猫。」1~2巻発売中。




